近年、日本ではトンネル天井板崩落、道路陥没、水道橋崩落といったショッキングな事故が相次いで起きています。
私たちは、当たり前のように日本のインフラによる恩恵を受けて安全で不自由ない生活を送ってきました。しかし、これらのインフラの多くは高度経済成長期に一斉に整備されたものであるため、今、インフラの老朽化が問題視されています。
もしこのまま十分な修繕がされなければ、人々の安全な生活はもちろん、経済にも悪影響を及ぼしかねません。インフラの老朽化は、官民が連携して取り組むべきで課題あり、AI解析やドローンなどの新技術を活用した保守点検が不可欠だと言われています。
SDGs目標9は、世界のすべての国や地域でインフラ整備が行われ、産業の成長や技術革新の基盤が整うことを目指しています。また、気候変動や自然災害に強い“強靭な”インフラの開発も目指してます。インフラの老朽化が進み、自然災害が多い日本にとって、非常に関連が深い目標だと言えるでしょう。
本稿では、まずSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の具体的な目標内容と国内外の課題をわかりやすく解説します。続いて、企業がSDGs目標9へ取り組む場合のアプローチ法、メリット、注意点を解説し、最後に日本企業・海外企業による取り組み事例をご紹介します。
これからSDGsの取り組みを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
「sdgs 9 取り組み 事例」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
⇒ダウンロードする
目次
1.SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」企業がまず知っておくべきこと
2030年までに世界全体で達成を目指すSDGs(持続可能な開発目標)は、環境や社会、経済などに関する17の目標で構成されています。
その9番目に掲げられている目標が「産業と技術革新の基盤をつくろう」です。まずは目標の内容や必要性を正しく理解しましょう。
1-1. SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の正式な目標とは
SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は、正式にはこのあとに「レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する」[1]という目標が続きます。
簡単に言うと、災害などの影響を受けにくい強靭な(レジリエントな)インフラを構築し、安定した産業化を図り、技術革新を進めようという目標です。
この目標が存在する理由は、多くの開発途上国で道路や電力網、上下水道、情報通信網、医療・衛生施設、教育施設といったインフラが未整備となっているからです。
インフラ整備を怠れば、衛生施設は不十分になり、医療や教育へのアクセスが妨げられてしまいます。
技術とイノベーションがなければ、産業化が進まず、経済の発展は実現しません。これらの理由から、SDGsに目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」が存在しています。[2]
SDGs目標9のキーワード解説
・レジリエントな(強靭な)インフラ
「英語の「レジリエント(resilient)」は「弾力があるさま・柔軟性があるさま」という意味の言葉です。レジリエントな(強靭な)インフラとは、災害に耐え被害を防ぐことのできる、もしくは、被害を受けてもしなやかに回復できるインフラを意味しています。[3]
つまりSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、自然災害や感染症などが発生した時に、素早く元の状態に復旧できる能力を持ったインフラ開発を目指しています。
この「レジリエントなインフラ」に関連する企業の取り組みには、例えば、災害時の人々の安全を確保するための防災インフラ開発や、老朽化したインフラの破壊を事前に防止するためのインフラ監視システムなどがあります。
・産業化
技術が進み、農産物を加工したり、工場で物を製造したりできるようになること。[4]
1-2. SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のターゲット内容
次に、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」をさらに深く理解するために、具体的な目標が示されている「ターゲット」(9.1~9.c)を一通り見てみましょう。
9.1
経済発展と人間の幸福をサポートするため、すべての人々が容易かつ公平に利用できることに重点を置きながら、地域内および国境を越えたインフラを含む、質が高く信頼性があり持続可能でレジリエントなインフラを開発する。
9.2
だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、2030年までに、各国の状況に応じて雇用やGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増やす。後発開発途上国ではその割合を倍にする。
9.3
より多くの小規模製造業やその他の企業が、特に開発途上国で、利用しやすい融資などの金融サービスを受けることができ、バリューチェーン(※)や市場に組み込まれるようにする。
9.4
2030年までに、インフラを改良し持続可能な産業につくり変える。そのために、すべての国々が自国の能力に応じた取り組みを行いながら、資源利用効率の向上とクリーンで環境に配慮した技術・産業プロセスの導入を拡大する。
9.5
2030年までに、開発途上国をはじめとするすべての国々で科学研究を強化し、産業セクターの技術能力を向上させる。そのために、イノベーションを促進し、100万人あたりの研究開発従事者の数を大幅に増やし、官民による研究開発費を増加する。
9.a
アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能でレジリエントなインフラ開発を促進する。
9.b
開発途上国の国内における技術開発、研究、イノベーションを、特に産業の多様化を促し商品の価値を高めるための政策環境を保障することなどによって支援する。
9.c
情報通信技術(ICT)へのアクセスを大幅に増やし、2020年までに、後発開発途上国でだれもが当たり前のようにインターネットを使えるようにする。
(※)バリューチェーン:企業活動における業務の流れを、調達、製造、販売、保守などと機能単位に分割してとらえ、各機能単位が生み出す価値を分析して最大化することを目指す考え方 。[5]
以上がSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のターゲットです。
SDGs目標9のターゲットを簡単にまとめると、経済活動を支える交通や情報通信といったインフラ開発を基本の課題としています。
また、開発途上国の特に製造業に関して、小規模の製造業の金融へのアクセス改善、バリューチェーンへの参加が求められています。さらに研究開発従事者数を指標としたイノベーションの促進、先進国による開発途上国の産業面での支援が示されています。
人事に関する注目トピックを毎週お届け!⇒メルマガ登録する
■SDGsが学べるライトワークスのeラーニング教材
サステナビリティ教育の導入に最適!基礎から具体事例まで学べるeラーニング教材⇒詳しく見る
2.SDGs目標9 世界と日本におけるインフラと産業の課題
では、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」での課題を国内外に分けて見てみましょう。
2-1. SDGs目標9 世界では「後発開発途上国の製造業の低迷」と「後発開発途上国でのネット普及率の低さ」が主な課題
世界における産業の課題の一つとして、後発開発途上国の製造業の低迷が挙げられます。
新型コロナウイルス感染拡大により、世界の製造業は経済的に大きなダメージ受けました。その後の回復は国によってばらつきがあり、先進国の製造業は回復している一方で、後発開発途上国(LDCs)の製造業は、世界的に不安定な需要、世界貿易の混乱、および国内経済政策の引き締めにより低迷しています。
図1)
製造業の成長、2006~2021年(%)
引用:国連統計局, Goal 9 – Industry, innovation and infrastructure, https://unstats.un.org/sdgs/report/2022/goal-09/(閲覧日:2023年4月3日)
もう一つの課題は、開発途上国でのインフラ未整備です。多くの開発途上国では依然として、輸送、通信、衛生施設、電力、水道といった基礎インフラが整備されていません。
たとえばインターネットに関しては、2022年には世界人口の66%が使用していると推定されていますが、後発開発途上国では人口の36%しか使用していません。また、後発開発途上国の人口の17%は固定またはモバイルの通信ネットワークにアクセスすることすらできないところに暮らしています[6]。
こうした格差は、「2020年までに、後発開発途上国でだれもが当たり前のようにインターネットを使えるようにする」という 先述のターゲット9.cが達成されていないことを意味します。
2-2. SDGs目標9 日本の主な課題は「インフラの老朽化」「デジタル競争力の低さ」
日本におけるインフラと産業の主な課題としては、インフラの老朽化が挙げられます。
道路やトンネル、河川管理施設など、日本のインフラの多くは、高度経済成長期以降に整備されているため老朽化が急速に進んでいます。
国土交通省による2020〜2040年の社会インフラの老朽化の推移の予測では、道路橋は約30%から約75%へ、トンネルは約22%から約53%、河川管理施設は約10%から約38%へと、今後、建設後50年以上経過する施設の割合が加速度的に高くなる見込みです。そのためメンテナンス・維持・更新コストの負担増大や、重大事故の発生リスクが懸念されています。
図2)
建設後50年以上経過する社会資本の割合
引用:国土交通省,国土交通白書 2022, 第II部 国土交通行政の動向,p.118,https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/pdf/kokudo.pdf(閲覧日:2023年4月3日)
もう一つ、産業の課題としては、デジタル化の遅れが挙げられます。
人口の高齢化や減少が進む日本が経済成長をするには、生産性の向上が不可欠です。そのためには、例えばデジタルトランスフォーメーション(DX)[7]などのデジタル技術を使ったイノベーションが最も重要だと言われています。
しかし日本のデジタル化は他の先進国と比較してまだまだ遅れており、変革が急務であることが明らかになっています。
スイスの国際経営開発研究所(IMD:International Institute for Management Development)が発表した世界デジタル競争力ランキング2022 [8]によると、日本は前年から一つ順位を下げ、過去最低の29位となりました。
総合ランキング上位の5カ国は、デンマーク、米国、スウェーデン、シンガポール、スイスです。東アジアの国・地域をみると、韓国が8位、台湾が11位、中国が17位となっています。
日本は「国際経験」(知識)と「ビッグデータ活用・分析」「ビジネス上の俊敏性」の項目で調査対象国・地域の中で最下位となっています[9]。
図3)
IMD世界デジタル競争力ランキング(2022年)
引用元)
IMD,World Digital Competitiveness Ranking 2022,IMD WORLDDIGITAL COMPETITIVENESS RANKING 2022, p.28-29, https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness-ranking/(閲覧日:2023年4月3日)。LightworksBLOG編集部にて和訳。
3.SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に企業が取り組むアプローチ法、メリット、注意点
国内外のこうした問題に対し、企業がどのようなアプローチで取り組みを行っているかを見てみましょう。また、企業がSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に取り組むメリットや注意点も理解しておきましょう。
3-1. SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に企業が取り組むアプローチ法
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に対して企業が行っているアプローチ法は、主に以下のようなものが挙げられます。
・途上国におけるインフラ開発およびその支援
・インフラ保全システムの開発
・小規模製造業の金融と市場へのアクセス改善
・イノベーションの促進や支援
途上国におけるインフラ開発およびその支援
開発途上国の特に農村部のような遠隔地では、鉄道や道路などの輸送インフラを整備することで地域の潜在的な能力向上や経済発展につながる可能性があります。整備においては、自然災害や気候変動に対応したレジリエントなインフラ整備であることも目指しています。
インフラ保全システムの開発
ICTやAI技術などを活用しインフラのモニタリングや劣化診断、故障予知などのシステムを開発する取り組みです。こうした事業は社会基盤の安全を守り、経済活動を継続させることに貢献できます。
小規模製造業の金融と市場へのアクセス改善
途上国には銀行から貸付を得ることができない小規模企業が存在します。こうした小規模事業者を対象に金融サービスを提供する取り組みを行い、事業の活性化と産業化の発展に貢献できます。
イノベーションの促進や支援
デジタル技術を活用するなどしてイノベーションを図り、各産業、主に製造業の効率化や、製品・サービスの高付加価値化を行う取り組みです。新たな価値を創出できれば、企業の成長だけでなく、経済発展につながる可能性が高まります。
以上がSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の実現を目指す企業の主なアプローチです。
3-2. SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に企業が取り組むメリット
SDGsに取り組む際、企業にとっていくつかのメリットがあります。SDGs目標9の課題に取り組む場合、以下のようなメリットが期待できます。
・企業のブランド価値の向上
・技術革新による業務の効率化
企業のブランド価値の向上
経済活動の基盤であるインフラに貢献する事業を行うことで、企業としてのブランド価値が向上します。さらに、途上国においてインフラを構築・改善する取り組みを行えば、グローバル市場におけるブランディングの確立にもつながります。
技術による業務の効率化
例えばデジタルテクノロジーなどを用いて業務の効率化を行うことで、事業の生産性や正確性が向上します。また、それにより企業の強みの強化にリソースを割くことが可能になり、企業の高付加価値化が図れます。
以上が、主なメリットです。
3-3. SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に企業が取り組む注意点
こうしたメリットがあり得る一方で、以下のような注意点もあるので事前に把握しておきましょう。
・コストがかかる
・途上国での取り組みでは、単独でのビジネス展開が難しい
コストがかかる
デジタル技術を活用したイノベーションなどを進める場合、システム構築やエンジニアに対する人件費などの初期費用や運用コストがかかります。また、利益を生み出すまでには、数年かかる場合もあります。
途上国での取り組みでは、単独でのビジネス展開が難しい
途上国のインフラ整備の課題を解決するには、現地の環境やコミュニティの生活事情などの徹底的な調査が重要となります。そうした情報収集は容易ではないため、自社だけでビジネスを展開するのは難しく、現場に密着している団体や機関、組織などとのパートナーシップが不可欠です。
以上が、取り組む上での注意点です。メリットと注意点を念頭に置いた上で、取り組みを進めましょう。
■SDGsが学べるライトワークスのeラーニング教材
サステナビリティ教育の導入に最適!基礎から具体事例まで学べるeラーニング教材⇒詳しく見る
4.SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」日本&海外企業の取り組み事例
それでは最後に、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に対する企業の取り組み事例を日本企業、海外企業に分けて紹介します。
4-1. SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」を目指す日本企業の取り組み事例
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に取り組む日本企業の事例を二つ紹介します。
ここで紹介する企業は、外務省サイト「JAPAN SDGs Action Platform」のジャパンSDGsアワード[10]の受賞企業、経団連SDGs特設サイト「Keidanren SDGs」の「Innovation for SDGs 事例集」から選出しています。
・株式会社HAKKI AFRICA(ハッキアフリカ)
・三井住友海上火災保険株式会社
株式会社HAKKI AFRICA(ハッキアフリカ)
ケニアで金融アクセス支援
アフリカでは、信用不足で資金調達の機会損失に悩まされる人々が多く存在しています。
HAKKI AFRICA(ハッキアフリカ)はそうした課題を解決すべく、ケニアのタクシードライバーが自らの車を持ち独立できるよう、中古車に特化したマイクロファイナンスサービスを展開しています。
同社は、モバイルマネーの利用履歴を自動解析する独自の信用スコアリングシステムを開発し、従来の信用情報を必要としない与信判断を可能にしました。さらに、モバイルマネー技術を用いて、返済を自動記帳・残高を管理することによって、ケニア国内で最も低い金利を実現しました。
この事業による取り組みは、信用不足で取り残されてきた人々や融資サービスで不利だった女性ドライバーに、低金利金融サービスを提供した点が評価され、第5回ジャパンSDGsアワード副本部長賞(外務大臣)を受賞しました。
三井住友海上火災保険株式会社
「ドラレコ・ロードマネージャー」で道路点検をサポート
三井住友海上火災保険株式会社は、AI画像分析技術を持つアーバンエックステクノロジーズ社と共に、AIなどのテクノロジーを活用した道路点検サポートサービスを開発しました。
これは、全国のドライブレコーダーから路面状態のデータを収集してAI分析し、道路の損傷個所を自動的に検出するものです。さらに地図上で可視化された検出結果は、クラウド上で一元管理ができるサービスです
道路損傷はこれまで、自治体や事業者による点検車両からの目視で発見されていましたが、このサービスにより道路巡回をしなくても路線評価ができるようになり、道路修繕事業者などへの連携も簡単に行えるため、道路の点検・管理業務の効率化が可能になりました。
この取り組みは第6回インフラメンテナンス大賞国土交通省優秀賞を受賞しています。
以上、日本企業による取り組み事例を紹介しました。
4-2. SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」を目指す海外企業の取り組み事例
続いて、SDGs目標9を目指す海外企業の取り組み事例を二つ見てみましょう。ここでは「2023 Global 100(2023年 世界で最も持続可能な100社)」[11]のランクイン企業と「SDG INDUSTRY MATRIX —産業別SDG手引き」に掲載されている企業から紹介します。
・Akzo Nobel社(オランダ)
・Merck社(ドイツ)
Akzo Nobel社(オランダ)
脱炭素に貢献する外壁塗装剤
Akzo Nobel(アクゾノーベル)社は、オランダに本社を置く塗料・コーティングのエキスパートです。現在世界150カ国以上で持続可能で耐久性の高い、革新的な塗料とコーティング剤を提供しています。
一例として、赤外線の反射率が高く熱の吸収を低減させる外壁塗装用塗料を開発しました。
インド政府機関のエネルギー研究センターが実施した試験では、赤外線反射率は同等の外装塗料を90%まで上回るという結果を得ました。独自の日射反射技術(Sunreflect Technology)を活用すると、住宅用建物の室内気温が顕著に低下し、エアコンでかなりの省電力が可能になるといいます。
インドのタール砂漠の端に位置している観光地、ジョードプルで行った「Let’s Colour」プロジェクトでは、100軒以上の家屋の屋根が同社の外壁塗装用塗料「Dulux Weathershield Protect」でコーティングされました。これにより、外壁塗装の色彩効果や保護効果だけでなく、独自のSunreflect Technologyが室内温度を最大5度下げるのに役立つとされています。
Merck社(ドイツ)
デジタル環境の格差を解消するアンテナ用液晶技術
Merck(メルク)社は最新のサイエンスとテクノロジーを有する医薬・化学品会社です。
同社は、SDGs目標9で目指している世界全体のインフラ構築には、隔地に住む人々もテクノロジーにアクセスしやすくなることが不可欠であるという認識の基、ワイヤレス通信の高信頼化、高速化、低価格化に取り組んでいます。
例えば、辺境地域でもインターネットにアクセスできるスマートアンテナ向けの液晶技術を開発し、2021年にlicriOn™の商用提供を開始しました。
licriOn™を基盤としたスマートアンテナは、新しい衛星技術“衛星コンステレーション[12]”を活用した通信ができるため、全世界のほぼどこでもアクセスが可能になるものです。これにより高速インターネット接続が未提供もしくは利用できない地域などでも、低コストかつ容易に接続可能になります。そのため、遠隔地や後開発地域の人々の教育、ビジネス、社会的交流などを促進させる可能性に期待が寄せられています。
以上、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」を目指す海外企業の取り組み事例を2件紹介しました。
こうした取り組みがビジネスモデルとなって、2030年に向け、さらに多くの企業がSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に取り組むことが期待されています。
本ブログではSDGsの17の目標について、それぞれ詳しく解説した記事を公開しています。
1. 貧困をなくそう | 2. 飢餓をゼロに | 3. 全ての人に健康と福祉を | 4. 質の高い教育をみんなに | 5. ジェンダー平等を実現しよう | 6. 安全な水とトイレを世界中に | 7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに | 8. 働きがいも経済成長も | 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう | 10. 人や国の不平等をなくそう | 11. 住み続けられるまちづくりを | 12. つくる責任 つかう責任 | 13. 気候変動に具体的な対策を | 14. 海の豊かさを守ろう | 15. 陸の豊かさも守ろう | 16. 平和と公正を全ての人に | 17. パートナーシップで目標を達成しよう
5.まとめ
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は、正式には「レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する」です。
簡単に言うと、「災害などの影響を受けにくい強靭な(レジリエントな)インフラを構築し、安定した産業化を図り、技術革新を進めよう」という目標です。
SDGsにおいて目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」が必要な理由は、多くの開発途上国で道路や電力網、上下水道、情報通信網、医療・衛生施設、教育施設といったインフラが未整備となっているからです。
インフラ整備を怠れば、衛生施設は不十分になり、医療や教育へのアクセスが妨げられ、技術とイノベーションがなければ産業化が進まず、経済の発展は実現しません。
そうした理由からSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」が存在しています。
インフラ、産業、イノベーションの実態を見ると、世界の場合は「後発開発途上国の製造業の低迷」と「後発開発途上国でのネット普及率の低さ」、日本の場合は「社会インフラの老朽化」「デジタル競争力の低さ」といった課題が挙げられます。
こうした課題解決に向けて、企業は以下のようなアプローチで取り組みを行っています。
・途上国におけるインフラ開発およびその支援
・インフラ保全システムの開発
・小規模製造業の金融と市場へのアクセス改善
・イノベーションの促進や支援
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に企業が取り組む際に期待できるメリットは以下が考えられます。
・企業のブランド価値の向上
・技術革新による業務の効率化
また、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に企業が取り組む際の注意点は、以下のようなものが挙げられます。
・コストがかかる
・途上国での取り組みでは、単独でのビジネス展開が難しい
実際にSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」を目指す日本企業の取り組みを、外務省「JAPAN SDGs Action Platform」、経団連「Keidanren SDGs」に掲載されている企業から二つ紹介しました。
・株式会社HAKKI AFRICA(ハッキアフリカ)
・三井住友海上火災保険株式会社
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に取り組む海外企業の事例を、「2023年Global 100」または「SDG INDUSTRY MATRIX —産業別SDG手引き」を基に二つ紹介しました。
・Akzo Nobel社(オランダ)
・Merck社(ドイツ)
こうした事例は、自社の本業を通してインフラやイノベーションの課題解決につなげている点や、他の企業や組織と共に取り組みを行っている点で高い評価を受けています。
今回ご紹介したような多種多様な企業の事例がビジネスモデルとして世界に広まり、2030年に向け、さらに多くの企業がSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に取り組むことが期待されています。
社員教育や人材開発を目的として、
・eラーニングを導入したいが、どう選んだらよいか分からない
・導入したeラーニングを上手く活用できていない
といった悩みを抱えていませんか?
本書は、弊社が20年で1,500社の教育課題に取り組み、
・eラーニングの運用を成功させる方法
・簡単に魅力的な教材を作る方法
・失敗しないベンダーの選び方
など、eラーニングを成功させるための具体的な方法や知識を
全70ページに渡って詳細に解説しているものです。
ぜひ、貴社の人材育成のためにご活用ください。
プライバシーポリシーをご確認いただき「個人情報の取り扱いについて」へご同意の上、「eBookをダウンロード」ボタンを押してください。
[1] 慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ,「SDGsとターゲット新訳 Ver.1.2(2021.3)」, https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_ver1.2.pdf(閲覧日:2023年4月3日)
[2] 国際連合広報センター, 9産業と技術革新の基盤をつくろう,https://www.unic.or.jp/files/Goal_09.pdf(閲覧日:2023年4月3日)
[3] 相模原市,撮って送ると道路が直る!?レジリエントなインフラ!【 SDGsゴール9 】https://sdgs.city.sagamihara.kanagawa.jp/resilient-sdgs9/(閲覧日:2023年4月3日)
[4] 日本ユニセフ協会,9.産業と技術革新の基盤を作ろう,https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/9-industry/(閲覧日:2023年4月3日)
[5] 慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ,「SDGsとターゲット新訳 Ver.1.2(2021.3)」, https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_ver1.2.pdf(閲覧日:2023年4月3日),太字は編集部による編集
[6] 国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union), Measuring digital development: Facts and Figures 2022, https://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Pages/facts/default.aspx (閲覧日:2023年4月3日)
[7] デジタルトランスフォーメーション:「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」経済産業省,デジタルガバナンス・コード2.0,p.1, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf(閲覧日:2023年4月3日)
[8] 63の国と地域を対象に、デジタル技術の利活用能力を、知識(Knowledge)、技術(Technology)、将来への備え(Future Readiness)から評価している。2022年で6年目を迎えた。IMD,World Digital Competitiveness Ranking 2022,https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness-ranking/(閲覧日:2023年4月3日)
[9] 日本貿易振興機構(JETRO),世界デジタル競争力ランキング、日本は29位に低下,https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/10/1128218948d5f5df.html(閲覧日:2023年4月3日)
[10] ジャパンSDGsアワードとは、SDGs達成に向けて優れた取り組みを行っている、企業や団体などをSDGs推進本部として表彰するもの。NGO・NPO、有識者、民間セクター、国際機関等の広範な関係者が集まるSDGs推進円卓会議構成員から成る選考委員会の意見を踏まえて決定される。
[11] 「Global 100」とは、カナダの出版・調査企業である「Corporate Knights」社により2005年にスタートしたSDGs達成に貢献している企業のランキング。「Global 100 Most Sustainable Corporations in the World (世界で最も持続可能な100社)」とも呼ばれ、世界経済フォーラム(WEF)がスイスのダボスで開催している年次総会(ダボス会議)で毎年発表され注目されています。
[12] 衛星コンステレーションとは、多数の小型の人工衛星を連携させ、一体的に運用する仕組みのこと。衛星コンステレーションの活用により、高速大容量のブロードバンド通信や地球観測データなどのサービスが、世界全域を対象として提供が可能になった。例えば、米国企業の SpaceX は、既に数千機の人工衛星を打ち上げて衛星コンステレーションを構築しており、地上の通信インフラが不十分な地域において通信サービスを拡大しようとしている。国会図書館デジタルコレクション,第3章 衛星コンステレーションの可能性と課題, p.44, https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info:ndljp/pid/12765464(閲覧日:2023年5月12日)
参考)
国連統計部(UNSD),The Sustainable Development Goals Report 2022, Goal 9 – Industry, innovation and infrastructure, https://unstats.un.org/sdgs/report/2022/goal-09/(閲覧日:2023年4月3日)
国連広報センター, 190218 WHY IT MATTERS_9_産業と技術革新の基盤をつくることはなぜ大切か, https://www.unic.or.jp/files/09_Rev1.pdf (閲覧日:2023年4月3日)
国連広報センター, 産業と技術革新の基盤をつくろう, https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/sustainable_development_goals/infrastructure_industrialization/ (閲覧日:2023年4月3日)
国土交通省,国土交通白書 2021第4節 デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れと成長の停滞,https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/html/n1242000.html (閲覧日:2023年4月3日)
日本貿易振興機構(JETRO),世界デジタル競争力ランキング、日本は29位に低下,https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/10/1128218948d5f5df.html(閲覧日:2023年4月3日)
日本貿易振興機構(JETRO), 2022年版の世界競争力ランキング、シンガポールが3位に上昇,https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/172870e672973d8c.html(閲覧日:2023年4月3日)
総務省,令和3年 情報通信白書, 国際指標におけるポジション,https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd103100.html(閲覧日:2023年4月3日)
外務省,第5回ジャパンSDGsアワード受賞団体, 副本部長賞(外務大臣)株式会社HAKKI AFRICA(東京都中央区日本橋),https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/award5_04_hakki-africa-limited.pdf(閲覧日:2023年4月3日)
三井住友海上火災保険株式会社,~官民連携DXで道路点検をサポート~ドラレコ・ロードマネージャーhttps://www.ms-ins.com/business/dr-roadmanager/(閲覧日:2023年4月3日)
三井住友海上火災保険株式会社,プレスリリース2021年10月27日,~官民連携DXで道路点検をサポート~ ドラレコ・ロードマネージャーの販売を開始,https://www.ms-ins.com/news/fy2021/pdf/1027_1.pdf(閲覧日:2023年4月3日)
経団連, keidanrensdgs, innovation for sdgs,当社のドラレコデータをAIが分析し、広域な路面状態をクラウド上で一元管理することで、道路の点検・管理業務を効率化するサービス,https://www.keidanrensdgs.com/data/627(閲覧日:2023年4月3日)
Corporate Knights, 100 most sustainable companies of 2023 still flourishing in tumultuous times, https://www.corporateknights.com/rankings/global-100-rankings/2023-global-100-rankings/2023-global-100-most-sustainable-companies/ (閲覧日:2023年4月3日)
AkzoNobel , Media release August 25, 2022,Sustainable solutions ,https://www.akzonobel.com/en/about-us/sustainability-/paint-/sustainable-solutions (閲覧日:2023年4月3日)
AkzoNobel , Media release August 25, 2022 , AkzoNobel gives Jodhpur a transformational dose of the blues, https://www.akzonobel.com/en/media/latest-news—media-releases-/akzoNobel-gives-jodhpur-a-transformational-dose-of-the-blues (閲覧日:2023年4月3日)
AkzoNobel ,Let’s Colour refreshes the iconic city of Jodhpur, India, https://letscolourproject.com/lets-colour-refreshes-the-iconic-city-of-jodhpur-india/ (閲覧日:2023年4月3日)
アクゾノーベル コーティング 株式会社,アクゾノーベル コーティング 株式会社, https://www.akzonobel.com/en/countries/japan(閲覧日:2023年4月3日)
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン, SDG INDUSTRY MATRIX日本語版:エネルギー・天然資源・化学産業,p.37, https://www.ungcjn.org/activities/topics/detail.php?id=204 (閲覧日:2023年4月3日)
Merck KGaA, 雑誌/スマートアンテナ/行方不明の学校,https://www.merckgroup.com/en/cr-report/2019/magazine/smart-antennas.html (閲覧日:2023年4月3日)
メルクエレクトロニクス株式会社,ニュースリリース2021年3月31日, メルク、液晶ベースのスマートアンテナ用ソリューションの商用提供を開始,https://www.merckgroup.com/jp-ja/press/electronics/2021-2022/210331_News_Release_LicriOn_JP.pdf (閲覧日:2023年4月3日)
Merck KGaA,企業紹介/ディスプレイ,https://www.merckgroup.com/jp-ja/expertise/displays.html (閲覧日:2023年4月3日
Merck KGaA, Sustainability Report2020, https://www.merckgroup.com/en/sustainability-report/2020/servicepages/downloads/files/entire-merck-sr20.pdf (閲覧日:2023年4月3日)
Merck KGaA,サスティナビリティ持続可能な開発目標,https://www.merckgroup.com/jp-ja/sustainability/sustainable-development-goals.html (閲覧日:2023年4月3日)
Merck KGaA,誰もがどこでも無制限にアクセス可能,https://www.merckgroup.com/jp-ja/expertise/displays/solutions/smart-antenna.html(閲覧日:2023年5月12日)