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SDGs 目標1「貧困をなくそう」企業の取り組み方と事例を6つ紹介

貧困問題と言われても、どうも実感が湧かない

「貧困」というと途上国が頭に浮かび、自社のSDGsの取り組みと結びつかない、というケースは多いかもしれません。

しかし、日本をはじめ先進国にとっても、貧困の問題は他国ごとではありません。例えば「日本の子どもの7人に1人は貧困」というデータも出ています。気付かないだけで、自分たちの近くにも貧困状態で暮らしている人がいるかもしれません。

各国政府は貧困に対しさまざまな支援策を施行していますが、日本でも、世界でも問題解決には至っておらず、企業による早急なアクションが強く求められています。

目標1「貧困をなくそう」は、課題がまだ数多く存在している上に、実態の認知度が低い分野であり、逆に言えばビジネスチャンスが多くある目標だと言えます。また、貧困を抱える “人”を支援する目標であるため、どの産業、どの業種にも関連する目標だと言うこともできます。

もし貧困の問題を「自社との関連性がない」「自社だけでは力不足だ」と感じて取り組みを検討していないのであれば、他の企業や団体などとパートナーシップを組んだり、すでに「貧困をなくそう」に取り組む企業を応援したりするという方法もあります。

自らができることに取り組んでいく。それがSDGsです。まずは貧困について知りましょう。

最初にSDGsの目標1「貧困をなくそう」が目指している具体的な内容を分かりやすくまとめます。続いて、現在抱えている日本と世界の貧困の実態を解説します。さらに、これから貧困への取り組みを始めようとしている企業への参考として、企業による貧困課題へのアプローチ法や取り組むメリット&注意点、最後に目標1「貧困をなくそう」への日本・海外企業の取り組み事例をご紹介します。

「貧困をなくそう」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
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1. SDGs目標1「貧困をなくそう」に企業が取り組む前に知っておきたいこと

2030年までに達成を目指すSDGs(持続可能な開発目標)は、環境社会、経済などの分野に関する17の目標で構成されています。その1番目に掲げられている目標が、今回取り上げる「貧困をなくそう」です。


企業がSDGsの目標1「貧困をなくそう」に取り組む前に、まずは目標で目指していること正しく共有しましょう。

1-1. SDGs目標1「貧困をなくそう」が目指すもの

SDGsの目標1「貧困をなくそう」は、正式にはこのあとに「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困を終わらせる」という目標が続きます。この目標1は、2030年までに世界中で極度の貧困にある人をゼロにすることと、さまざまな面で各国の貧困ラインを下回っている人の割合を半減させることを目指すものです。

世界で貧困をゼロにするなんて、大胆な目標に聞こえるかもしれません。しかし国連は、「経済学者ジェフリー・サックス氏の試算によれば、20年で全世界の極度の貧困に終止符を打つために必要な費用は、総額で年間1,750億ドル程度です。この額は 、世界で最も豊かな国々の総所得を合わせた額の1%にも及びません[1]」と、達成が不可能ではないことを伝えています。

ここで、この目標を正しく把握するために「貧困」とはどのような状態のことなのかを理解しておきましょう。

SDGsで解決を目指している「貧困」には、以下の2つの概念があります。

・絶対的貧困
・相対的貧困

絶対的貧困

SDGsでは、絶対的貧困とは、食料や住居など生きる上で必要最低限の生活水準が満たされていない状態を意味し、なかでも世界銀行によって定められた国際貧困ライン=1日1.25ドル[2]未満で生活する人々の状態を極度の貧困としています。

極度の貧困を抱えて生きている人は、生活に必要最低限な医療、教育、水、衛生などが提供されていない中で暮らしていて、世界銀行が2年に1度発行している「貧困と繁栄の共有レポート」によると、2017年時点において全世界で6億8900万人といわれています[3]

さらに、新型コロナウイルス感染症の世界的流行による混乱により、2020年は世界の極度の貧困層が1998年以降で初めて上昇しました。(図1)

図1)極度の貧困者数の年間推移
引用元)United Nations,『The-Sustainable-Development-Goals-Report-2021』, p.26, https://unstats.un.org/sdgs/report/2021/The-Sustainable-Development-Goals-Report-2021.pdf (閲覧日:2022年2月15日)

相対的貧困

相対的貧困とは、1日に使えるお金の低さにかかわらず、その国や地域の生活水準や経済環境と比較して大多数よりも貧しい状態のことです。例えば世帯の所得で見た場合、その国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のことです。2018年時点での日本の場合は124万円未満の可処分所得世帯が相対的貧困層に該当します。(表1)

表1)貧困率の年次推移

引用元)厚生労働省,『2019年 国民生活基礎調査の概況』「Ⅱ 各種世帯の所得等の状況」, p.14 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf(閲覧日:2022年2月2日)

相対的貧困率の高さは、その国の貧富の格差の大きさを表します。例えば日本の場合、相対的貧困率は2005年頃からOECD平均値を上回っていて、現在も貧富の格差が存在する状態が続いています[4]

絶対的貧困はアフリカをはじめとした開発途上国で、相対的貧困は日本をはじめ先進国で問題になっている貧困であると言えます。SDGsはこれら全ての貧困を撲滅させようとするものです。

1-2. SDGs目標1「貧困をなくそう」の7つのターゲット内容とは

次にSDGsに設定された目標1の示す7つの「ターゲット」(1.1~1.b)の内容を確認して、目標1「貧困をなくそう」の内容をさらに深く理解しましょう。

1.1
2030 年までに、現在のところ 1 日 1.25 ドル未満で生活する人々と定められている、極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。

1.2
2030 年までに、各国で定められたあらゆる面で貧困状態にある全年齢の男女・子どもの割合を少なくとも半減させる。

1.3
すべての人々に対し、最低限の生活水準の達成を含む適切な社会保護制度や対策を各国で実施し、2030 年までに貧困層や弱い立場にある人々に対し十分な保護を達成する。

1.4
2030 年までに、すべての男女、特に貧困層や弱い立場にある人々が、経済的資源に対する平等の権利がもてるようにするとともに、基礎的サービス、土地やその他の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適正な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスが利用できるようにする。

1.5
2030 年までに、貧困層や状況の変化の影響を受けやすい人々のレジリエンスを高め、極端な気候現象やその他の経済、社会、環境的な打撃や災難に見舞われたり被害を受けたりする危険度を小さくする。

1.a
あらゆる面での貧困を終わらせるための計画や政策の実施を目指して、開発途上国、特に後発開発途上国に対して適切で予測可能な手段を提供するため、開発協力の強化などを通じ、さまざまな供給源から相当量の資源を確実に動員する。

1.b
貧困をなくす取り組みへの投資拡大を支援するため、貧困層やジェンダーを十分勘案した開発戦略にもとづく適正な政策枠組みを、国、地域、国際レベルでつくりだす[5]

複雑で難解に感じますが、わかりやすくまとめると、極度の貧困にある人をゼロにし、さまざまな面で各国の貧困ラインを下回っている人の割合を半減させるということです。

そのために、
1)貧しい人々脆弱な立場の人々が、必要な支援保護制度などを受けられるようにする
2)災害社会情勢などによる被害の危険度を小さくする
3)経済的資源に対する権利を持てるようにする
などを目指す内容になっています。

1-3. SDGs目標1 なぜ持続可能な世界のために、貧困をなくさなければならないのか 

ところで、SDGsが目指す持続可能な世界をつくるために、貧困をなくさなければならないのはなぜなのでしょうか? 

その理由は、SDGsが地球上の「誰一人取り残さない」ことを基本理念にしているからです。

また、国連広報センターの「貧困をなくすことはなぜ大切か」には、次のように示されています。

簡単に言えば、人間として、私たちの福祉がお互いにつながっているからです。不平等が広がれば経済成長に悪影響が及び、社会的一体性が損なわれることで、政治や社会の緊張が高まり、場合によっては情勢不安や紛争の原因にもなりかねません[6]

貧困は現代社会が抱える問題の根本的な原因と考えられており、世界各国が協力して早急に解決を目指す必要があるのです。

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2. SDGs目標1 日本の貧困、海外の貧困―それぞれの実態は?

では、現在問題とされている貧困の実態はどうなっているのでしょうか。日本と世界に分けて見てみましょう。

2-1. SDGs目標1 日本の貧困は、「単身高齢者の貧困」と「子どもの貧困」が深刻

豊かな国とされている日本ですが、実は、貧困は日本においても深刻な問題です。

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2018年時点で日本の相対的貧困率は15.7%で、国民の7人に1人が相対的貧困の状態で暮らしています[7]

OECD対日経済審査報告書(2017年版)によると、日本の相対的貧困率は先進国35カ国中7番目に高く、G7中では米国に次いでワースト2位であることがわかっています[8]

日本が抱えている貧困は次のような実態があります。

一つは、日本の相対的貧困が65歳以上の高齢者の単身世帯とひとり親世帯に多いことです。実際に、2019年に生活保護を受けた世帯のうち54.1%が高齢者世帯で、うち49.5%が単身世帯でした [9]。また、ひとり親家庭のうち相対的貧困率は50.8%と高い水準になっていました[10]

もう一つは子どもの貧困です。子どもの貧困とは、経済的な困窮や生活に余裕のない家庭の状況などにより、子どもが本来得られるべき体験や機会が得られない状態にあることをいいます。

2018年の日本の子どもの貧困率(中間的な所得の半分に満たない家庭で暮らす17歳以下の割合)は14.0%でした(図2)。さらに日本のひとり親家庭の貧困率は、OECD平均を上回る48.3%で、以下の主要国の中でワースト1でした(表2)。

図2)日本の貧困率の年次推移

引用元)『2019年 国民生活基礎調査の概況』「Ⅱ 各種世帯の所得等の状況」, p.14,https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf (閲覧日:2022年2月19日)

表2)主要国におけるひとり親世帯の相対的貧困率比較

日本48.3%
アメリカ46.3%
イタリア37.0%
ドイツ29.6%
オランダ29.5%
フランス25.9%
イギリス23.2%
OECD平均32.5%

引用元)厚生労働省,「ひとり親家庭等の支援について」, p.5を元に作成https://www.mhlw.go.jp/content/000872124.pdf (閲覧日:2022年2月19日)

先進国の日本で、「子どもの貧困率が高い」と聞いて意外に思われる人もいるでしょう。しかし、給食でしか満足な食事ができない子どもや、費用の問題で進学を諦めている子どもなどが、7人に1人の割合で存在しているのが現在の日本の実態です。

そうした子どものほとんどは住居や衣服がないわけではないので、貧困であることが表面的にわかりづらく、支援の手を差し伸べにくいのが特徴です。

しかし少子化の時代に子どもの貧困を放置すると、社会や企業の資源である人材深刻な影響を与え、将来、大きな社会的損失となります。このような貧困を、私たちは自国の身近な問題として捉え、早急に対策をとっていく必要があります。

2-2. SDGs目標1 海外の貧困は、「極度の貧困」と「多次元貧困」が特定地域に集中

次に世界の貧困問題に目を向けてみましょう。現在、特に重大とされる貧困問題を2つ取り上げます。

一つ目は、極度の貧困の中で暮らす人々の約80%が、サハラ以南アフリカ南アジア地域に集中していることです[11]。これらの地域では、貧困の改善に大きな進捗がありません。その上、気候変動や新型コロナウイルスの感染拡大などが生じる中で、この割合は今後上昇するとも見られています。

極度の貧困は、安全な水、医療、食事が不足し、人の命にかかわるレベルの問題であり、貧困対策の中でも最も優先的に対応していかなければなりません。

もう一つは、多次元貧困層全体の85%を占める人々もサハラ以南アフリカと南アジアに集中していることです[12]

多次元貧困層とは、ただお金が足りない所得の問題だけでなく、健康、教育、生活水準のうち複数の種類の貧困に、同時に直面している人々のことです。

貧困の実態を把握するには、経済的な基準だけではなく、こうした他の要素が複雑に絡んでいることも考慮に入れる必要があります。


3. SDGs目標1 企業が貧困問題に取り組むアプローチ法、メリットと注意点とは?

貧困問題に対しては、政府開発援助(ODA)などがこれまでも支援対策を行っていますが、まだ解決には至っておらず、企業による一層の参入が強く求められています。

では企業は貧困に対して何ができるのでしょうか。企業がこの問題に取り組むアプローチ法を見てみましょう。また、企業が貧困問題に取り組むメリットや注意点も理解しておきましょう。

3-1. SDGs目標1企業が貧困問題に取り組むアプローチ法5つ

これまでに貧困に対して行われている企業の取り組みには、その業種、その企業ならではの強みを活かしたアプローチが見られます。ここでは参考として、貧困問題に対して企業が行っている代表的な5つのアプローチ方法をまとめました。

(1) フェアトレード(公正取引)
(2) 余剰品の活用
(3) マイクロクレジット(マイクロファイナンス)
(4) 雇用創出
(5) 教育の提供

(1) フェアトレード(公正取引)

フェアトレードとは、開発途上国の原料や製品を公正な価格継続的に購入することにより、特に開発途上国の小規模生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」です。企業がサプライチェーンの見直しなどでフェアトレードを選択することで、貧困の解決につながります。

フェアトレード認証を受けた製品に示されるラベルの一つとして、日本では「国際フェアトレード認証ラベル」がよく知られています。

参考)フェアトレードジャパン「認証ラベルについて」,https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_license.php (閲覧日:2022年3月2日)

(2) 余剰品の活用

食料や衣料などの余剰品を回収し、貧困状態の人々に提供することで、効果的に生活をサポートするという取り組みです。余剰品を活用することは、食品ロスや衣料ロスの問題に対するアプローチにもなります。

(3) マイクロクレジット(マイクロファイナンス)

貧困層や低所得者、失業者など銀行から融資を受けられない人に対し、無担保で小額の融資を行う貧困層向け金融サービスを「マイクロクレジット」と呼びます。

近年では、融資のみならず、貯蓄や保険など、広範な金融サービスも行われるようになってきたため、マイクロファイナンスと呼ばれるのが一般的です。先述の「ターゲット1.4」でもマイクロファイナンスが推奨されています。

(4) 雇用創出

貧困生活者や貧困地域に対して企業が雇用を創出することで、貧困状態で暮らす人々が持続的な収入を得られるようになり、彼らの経済的自立につながります。

(5) 教育の提供

貧困撲滅を目的として、学校施設の創設や改修、専門的技術人材育成e ラーニングなど、企業による教育関連の提供が行われています。貧困状態で暮らす人々にとって、教育を受けて知識やノウハウを習得することは、就労社会参加のチャンスを広げ、自立した生活のための手段となります。

ほかにも、前出のターゲット1.5に対応する取り組みとして、例えば防災インフラや設備、製品を開発、提供など、貧しい人々の環境や災害などに対する脆弱性を軽減することも貧困問題の解決策として行われています。

3-2. SDGs目標1 企業が貧困問題に取り組むメリット

企業がSDGsに取り組むメリットは、企業のイメージアップや、ESG投資の対象として資金調達が有利になることなどがあります。

目標1「貧困をなくそう」に取り組む場合、それに加え、貧困という課題ならではの以下のようなメリットがあります。

(1) ブランド価値の向上
(2) 新しいビジネスモデルの確立
(3) 先行者利益の獲得

(1) ブランド価値の向上

貧困課題という、社会的価値を創造する企業としてのブランド価値が向上します。さらに海外の貧困問題に取り組めば、グローバル市場におけるブランディングの確立にもつながります。

(2) 新しいビジネスモデルの確立

貧困を抱える人々に向けた、他とは大きく異なる市場で取り組むことになるので、革新的なアイデアや技術に基づく新しいビジネスモデルの開発につながります。

(3) 先行者利益の獲得

課題が多く存在する未開拓の市場に、早いうちから進出することにより、SDGsビジネスでの確固たるネットワーク地位などの先行者利益を得ることができます。

以上が、主なメリットです。

3-3. SDGs目標1 企業が貧困問題に取り組む際の注意点

こうしたメリットがあり得る一方で、以下のような注意点もあるので事前に把握しておきましょう。

(1) 中長期的な視点が不可欠
(2) 単独でのビジネス展開が難しい

(1) 中長期的な視点が不可欠

貧困課題で採算性を出せるまでには長い時間を必要とするため、中長期的な視点が不可欠です。企業としての忍耐力や、取り組みの継続のためのバックアップ体制を十分に整えておく必要があります。

(2) 単独でのビジネス展開が難しい

取り組みをスタートし継続させるためには、貧困を抱えている人々が住む現地・現場の特有の事情やニーズ、海外であれば法体制や慣習などの、徹底的な調査が重要な鍵となります。そうした情報収集は容易ではないため自社単独でビジネスを展開するのは難しく、現場に密着している団体や機関、組織などのパートナーとの協力が不可欠です。

以上が、取り組む上での注意点です。メリットと注意点をしっかり押さえた上で、取り組みを検討しましょう。

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4. SDGs目標1「貧困をなくそう」への日本&海外企業の取り組み事例6つ

それでは本記事の締めくくりとして、目標1「貧困をなくそう」への企業の取り組み事例を、日本企業、海外企業に分けて6つ紹介します。

4-1. SDGs目標1「貧困をなくそう」への取り組み事例【日本企業】

SDGsの目標1「貧困をなくそう」に対する日本企業の取り組みとして、外務省のウェブサイト「JAPAN SDGs Action Platform」の「取組事例」または「ジャパンSDGsアワード[13]」に掲載されている企業から3つご紹介します。

・UCC上島珈琲株式会社
・株式会社ジモティー
・株式会社ユーグレナ

UCC上島珈琲株式会社
コーヒー豆生産現場の雇用・就労を創出

コーヒーを中心とした飲料メーカー・UCCでは、コーヒーを通じてSDGsへのさまざまな取り組みを行っています。

一例として、高品質なコーヒーを生み出す名門農園「ブラジル ラゴア農園」では、季節労働になりがちな収穫に携わる労働者の通年雇用や、農園内における住宅の提供など、福利厚生のみならず、生活環境のサポートを行っています。持続可能な労働環境を実現することで、農園としては有能な人材の確保につながっています。

株式会社ジモティー 
ひとり親家庭優先に支援品受け渡し会を開催

ジモティーは、地域のあらゆる情報を都道府県別や市区町村別ごとに一覧化した情報サイト「地元の掲示板」を提供している企業です。

ユーザー調査より、このサイトのユーザーの約半分(約65万世帯)が日本のひとり親世帯であることが確認できたため、ひとり親支援の継続的な活動を実施。2018年には、企業から協賛を受けた支援物資をサイトに掲載し、ひとり親家庭に優先的に物品の受け渡し会を開催。ひとり親家庭の人々をサポートしています。

株式会社ユーグレナ 
バングラデシュの農家の生計を支援

2005年設立の東京大学発のバイオベンチャーである株式会社ユーグレナは、ミドリムシ由来のバイオ燃料や健康食品の研究開発を手がける企業です。

同企業は、バングラデシュの財団グラミングループとともに合弁会社をつくり、緑豆栽培事業「緑豆プロジェクト」を通じて、貧困農家に高品質な緑豆の栽培ノウハウを伝授。収穫した緑豆を市場価格より高い価格で農家から購入することで雇用創出と所得増に貢献しています。また、隣国ミャンマーからきたロヒンギャ難民への食料支援を行いました。

同社は2021年第5回ジャパンSDGsアワードの「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞しました。

4-2. SDGs目標1「貧困をなくそう」への取り組み事例【海外企業】

続いて海外企業の貧困への取り組み事例を見てみましょう。ここでは2022年1月19日に発表された「2022 Global 100(2022年 世界で最も持続可能な100社)[14]」に選ばれた企業から、貧困に対する取り組みを3つ紹介します。

・シスコシステムズ(米国)
・ユニリーバ(英国)  
・BNPパリバ(フランス)

シスコシステムズ (米国)
インドの農家の配送効率改善で収入をアップ

2022年「Global 100」 28位 
世界最大のコンピュータネットワーク機器開発会社シスコシステムズは、2016年にDigital Green とパートナーシップを組み、農家向け共同市場配送サービス「Loop」をサポートし、インド・ビハール州を始めとする農家の貧困課題に取り組んでいます。

このサービスにより、市場への配送効率とアクセスが向上して時間が短縮され、農家の収入13%拡大しました。Loopはインドからバングラデシュやエチオピアまで広がり、2万6000件を超える農家に利用され、1400 万米ドルの売上を上げています。

ユニリーバ (英国)  
開発途上国の生活改善や自立に貢献

2022年「Global 100」 78位 
食品・ヘアケアなどの家庭用品メーカーであるユニリーバは、インド、スリランカ、パキスタン、ナイジェリア、コロンビア、フィリピンにおいて小売流通業・小売店業向けのプログラムを実施。現地の人々(特に女性)に職業訓練を提供し、小規模事業主として商品を販売してもらうことで、彼女たちの世帯収入を増やし、経済的・社会的自立に貢献。これはユニリーバの販売ネットワークの拡大や売上増にもつながっています。

BNPパリバ(フランス)
30年以上続くマイクロファイナンスによる支援

2022年「Global 100」 76位 
EU圏を代表する金融機関の一つであるBNPパリバは、社会的弱者を含めた人々が金融及び銀行サービスにアクセスできるようにすることを目的とし、30年以上前にマイクロクレジットをスタートさせました。以来、グループのマイクロファイナンスの支援は33ヵ国・84のマイクロファイナンス機関(MFI)への融資を通して200万の人々に利益を与えてきました。

以上、日本企業と海外企業の取り組みを紹介しました。どの企業の事例も貧困を抱える人々や地域の事情やニーズに即しており、また、自社の事業貧困削減につなげている点で高い評価を受けています。

こうした貧困に対する取り組みがビジネスモデルとして世界に広まり、2030年に向けてより多くの取り組みが進むことが期待されています。

これから貧困課題に取り組もうとしている企業の方は、まずは貧困の現状や課題を知ることから始めてみましょう。そして、目標1「貧困をなくそう」に対して自社の商品・サービスなどがどのように働きかけることができるのか、ぜひこれらの事例を参考にしながら見出してみてください。

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5.まとめ

SDGsの目標1は「貧困をなくそう―あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困を終わらせる 」です。これは、2030年までに世界中で極度の貧困にある人をゼロにすることと、さまざまな面で各国の貧困ラインを下回っている人の割合を半減させることを目指すものです。

SDGsが意味する「貧困」は2つの概念があります。絶対的貧困相対的貧困です。SDGsが採択された2015年での国際貧困ライン(1日1.25ドル未満)で生活する人々の貧しさのことを絶対的貧困と言い、その国において生活水準が平均よりも低いことを相対的貧困と呼びます。

貧困をなくさなければならない理由は、SDGsが地球上の「誰一人取り残さない」ことを基本理念にしているからです。また、私たちの福祉が世界でお互いにつながっているからです。

貧困の状況において、日本の貧困問題は主に以下が挙げられます。
単身の高齢者世帯、ひとり親世帯相対的貧困が多い
ひとり親世帯の子どもの貧困率OECD平均より高い

海外の貧困問題は主に以下が挙げられます。
サハラ以南のアフリカ南アジアに「極度の貧困」が集中
複数の貧困を抱える「多次元貧困」サハラ以南アフリカ南アジアに多く存在

貧困撲滅のために、企業が行っている代表的なアプローチを5つ挙げます。

・フェアトレード(公正取引)
・余剰品の活用
・マイクロクレジット(マイクロファイナンス)
・雇用創出
・教育の提供

企業が目標1「貧困をなくそう」に取り組むメリットは以下が挙げられます。

・ブランド価値の向上
・新しいビジネスモデルの確立
・先行者利益の獲得

一方、企業が目標1「貧困をなくそう」に取り組む注意点は以下のようなことがあります。

・中長期的な視点が不可欠
・単独でのビジネス展開が難しい

実際に日本企業が行っている貧困への取り組みを、外務省のウェブサイト「JAPAN SDGs Action Platform」に掲載されている事例から3つ紹介しました。

・コーヒー豆生産現場の雇用・就労を創出:UCC上島珈琲株式会社
ひとり親家庭優先に支援品受け渡し会を開催:株式会社ジモティー 
・バングラデシュの農家の生計を支援:株式会社ユーグレナ 

海外企業の貧困に対する取り組み事例を、「2022年Global 100」に選ばれた企業の事例から3つ紹介しました。

インド農家の配送効率改善で収入をアップ:シスコシステムズ(米国)
原料生産地の人々の生活改善や自立に貢献:ユニリーバ(英国)
・30年以上続くマイクロファイナンスの支援:BNPパリバ(フランス)

どの企業の事例も貧困を抱える人々や地域の事情やニーズに即しており、自社の事業を通して貧困削減につなげている点で高い評価を受けています。こうした貧困に対する取り組みがビジネスモデルとして世界に広まり、2030年に向けてより多くの取り組みが進められることが求められています。

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[1] 国連広報センター,「貧困をなくすことはなぜ大切か」,https://www.unic.or.jp/files/01_Rev1.pdf(閲覧日:2022年2月20日)
[2] 2015年に1.25米ドル から1.90米ドルに変更
[3]世界銀行,「Poverty and Shared Prosperity 2020」,p32,https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/34496/9781464816024_Ch1.pdf (閲覧日:2022年2月2日)
[4]厚生労働省, 平成24年版厚生労働白書「第5章 国際比較からみた日本社会の特徴」, p.104,https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12/dl/1-05.pdf (閲覧日:2022年2月2日)
[5] 慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ,「SDGsとターゲット新訳 Ver.1.2(2021.3)」, https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_ver1.2.pdf(閲覧日:2022年2月2日)
[6]国連広報センター,「貧困をなくすことはなぜ大切か」,https://www.unic.or.jp/files/01_Rev1.pdf(閲覧日:2022年2月2日)
[7] 厚生労働省,「2019年国民生活基礎調査の概況II各種世帯の所得等の状況」, p.14,https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf (閲覧日:2022年2月2日)
[8] OECD,「OECD対日経済審査報告書 2017年版」, p.22
https://www.oecd.org/economy/surveys/Japan-2017-OECD-economic-survey-overview-japanese.pdf(閲覧日:2022年2月2日)
[9] 厚生労働省, プレスリリース, 2019年5月8日, p.1,https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hihogosya/m2019/dl/02-01.pdf (閲覧日:2022年2月2日)
[10] 厚生労働省,「ひとり親家庭の現状と支援施策の課題について」, p.16 , https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000336oi-att/2r985200000338ck.pdf (閲覧日:2022年2月2日)
[11] 国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所,「持続可能な開発目標 目標1: 貧困をなくそう」,https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals/goal-1-no-poverty.html (閲覧日:2022年2月19日)
[12]  国連開発計画(UNDP)/オックスフォード貧困・人間開発イニシアティブ(OPHI),「Global Multidimensional Poverty Index 2021」, http://hdr.undp.org/sites/default/files/2021_mpi_report_en.pdf  p.4(閲覧日:2022年2月19日)
[13] SDGs達成に向けて優れた取り組みを行っている、企業や団体などを表彰するもの。NGO・NPO、有識者、民間セクター、国際機関等の広範な関係者が集まるSDGs推進円卓会議構成員から成る選考委員会の意見を踏まえて決定される。2021年にはその第5回が行われた。
[14] 「Global 100」とは、カナダの出版・調査企業である「Corporate Knights」社により2005年にスタートしたSDGs達成に貢献している企業のランキング。「Global 100 Most Sustainable Corporations in the World (世界で最も持続可能な100社)」とも呼ばれている。
Corporate Knights、「2022 Global 100」,https://www.corporateknights.com/rankings/global-100-rankings/2022-global-100-rankings/100-most-sustainable-corporations-of-2022/ (閲覧日:2022年2月2日)

参考)
慶應義塾大学SFC研究所 xSDG・ラボ, 「SDGsとターゲット新訳 Ver.1.2(2021.3)」,https://xsdg.jp/shinyaku_release.html(閲覧日:2022年1月25日)
国連広報センター, 2021年07月22日「『持続可能な開発目標(SDGs)報告2021』発表に関するプレスリリース(日本語訳)」, https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/42423/(閲覧日:2022年1月25日)
フェアトレード・ラベル・ジャパン,「フェアトレードとサステナビリティ」,https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/sus.php(閲覧日:2022年1月25日)
国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン,「後発開発途上国の貧困削減をするために行われていること」,https://www.worldvision.jp/children/poverty_05.html(閲覧日:2022年1月25日)
国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所, 2021年10月7日プレスリリース「貧困指数、民族集団間の厳しい格差を明らかに」 ,https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/presscenter/pressreleases/2021/mpi2021.html(閲覧日:2022年1月25日)
持続可能な開発のための経済人会議(BCSD),「SDG Essentials for Business」,『SDG Essentials for Business』,https://sdgessentials.org/ja/what-the-sdgs-mean-for-business.html(閲覧日:2022年1月25日)
厚生労働省,「国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問」,『国民生活基礎調査』,
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21a-01.pdf (閲覧日:2022年2月15日)
岩坂 健志,「BOPビジネスの成功事例にみるリスクマネジメント:成功要因の開発経済学的視点からの分析と特徴」, 危険と管理,41 巻 (2010), p. 104-116 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jarms/41/0/41_104/_pdf/-char/ja(閲覧日:2022年2月18日)
独立行政法人国際協力機構,「本邦企業の BOP ビジネスとODA 連携に係る調査研究報告書 平成 22 年 1 月」,https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/11996709.pdf (閲覧日:2022年2月18日)
外務省,「取り組み事例」,『JAPAN SDGs Action Platform』,https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/case/goal1.html(閲覧日:2022年1月25日)
UCC上島珈琲株式会社, 2021年3月1日プレスリリース,https://www.ucc.co.jp/company/news/2021/tunf6p000000e61q-att/news210301.pdf(閲覧日:2022年2月15日)
外務省,「第5回ジャパンSDGsアワード受賞団体」,『JAPAN SDGs Action Platform』,
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/award5_00_sougouban.pdf(閲覧日:2022年2月15日)
シスコシステムズ合同会社,「テクノロジーは、小規模農家にチャンスをもたらすかけ橋」,
https://www.cisco.com/c/ja_jp/about/csr/community/partners/digital-green.html(閲覧日:2022年1月25日)
ユニリーバ・ジャパン,「国連の持続可能な開発目標(SDGs)」, https://www.unilever.co.jp/planet-and-society/sdgs/(閲覧日:2022年1月25日)
BNPパリバ, 2020年9月14日プレスリリース ,https://www.bnpparibas.jp/jp/2020/09/14/2020-euromoney-global-awards/(閲覧日:2022年1月25日)

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