マインドセット(mindset)は、心理学用語の1つです。無意識の思い込みや思考のクセのことで、一人一人の思考や行動に大きな影響を与える重要な概念です。
例えば、社内研修への取り組み方において、新しい知識やスキルを学ぶことに対して積極的な人もいれば、消極的な人もいます。これは個人のマインドセットの違いが要因の1つと考えられます。
また、個人のマインドセットだけでなく「組織のマインドセット」という概念もあり、ビジネスシーンでも注目されています。
本記事では、マインドセットの基本的な意味や種類、企業における活用法、企業の成功事例などを解説します。マインドセットを活用した人材育成や組織開発の推進にお役立てください。
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目次
マインドセットとは?基本的な意味と重要性
マインドセットとは、一言でいうと「物事に対する無意識の思い込みや思考のクセ」のことです。個人のマインドセットは、過去の経験や学習、育った環境など、さまざまな要因が影響して形成されます。
マインドセットは個人だけでなく、組織にも存在します。例えば、企業のマインドセットは、経営戦略や扱う製品・サービス、過去の組織的な成功・失敗体験などが複雑に絡み合って形成されます。まずは、マインドセットの基本的な意味と重要性を見ていきましょう。
マインドセットの定義:思考パターンや信念体系
マインドセットは、個々が持つ思考パターンや信念体系そのものです。例えば、新しい仕事に挑戦するとき、「きっとうまくできる」と考える人もいれば、「自分には無理かもしれない」と考える人もいます。これは、一人一人のマインドセットが異なることが影響していると考えられます。
企業のマインドセットの場合も同様です。企業のマインドセットによって、「顧客第一主義」や「イノベーションの重視」「従業員の成長を促す」といった企業の価値観や行動規範などが変わってきます。
なぜマインドセットが重要なのか?:行動や成果への影響
マインドセットが重要な理由は、個々の行動や成果を大きく左右するからです。
ポジティブなマインドセットを持つ人は、困難な状況にも挑戦し、失敗から学び、成長しようとする傾向があります。その結果、成果を上げやすくなるでしょう。
一方、ネガティブなマインドセットを持つ人は、失敗を恐れ、挑戦を避ける傾向があります。そのため、成長の機会を逃し、潜在能力を十分に発揮できない可能性があります。
企業の場合は、企業の成長や競争力を左右する重要な要素となり得るでしょう。
マインドセットがもたらす影響:自己成長、人間関係、目標達成など
マインドセットは、自己成長や人間関係の構築、目標の達成などに影響を与えます。
ポジティブなマインドセットを持つ人は、困難を成長の機会と捉えることが多く、積極的に行動し、能力を伸ばします。努力を継続することで、目標達成の可能性も高まります。また、他者と協力し合ったり、積極的にコミュニケーションを取ろうとしたりするため、良好な関係を築きやすいでしょう。
逆に、ネガティブなマインドセットを持つ人は、成長の機会を自ら遠ざけてしまったり、アドバイスやフィードバックを受け入れることができなかったりする場合があります。これらは自己成長や目標の達成を妨げるだけでなく、人間関係にも悪影響を及ぼす可能性があるでしょう。
このように、マインドセットは日常生活やビジネスシーンなど、幅広い場面で影響をもたらします。自身のマインドセットを理解し、より良い方向へ変化させる努力が大切です。企業においても、人材育成や組織開発への活用を検討すべき重要な要素といえるでしょう。
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マインドセットの種類:成長マインドセットと固定マインドセット
マインドセットは大きく分けて、ポジティブな思考を特徴とする「成長マインドセット」とネガティブな思考を特徴とする「固定マインドセット」の2つがあります。
成長マインドセットの特徴:努力や学習によって能力は伸ばせると考える
成長マインドセットとは、能力は努力や学習によって後天的に伸ばすことができるという考え方です。このマインドセットを持つ人は、積極的に挑戦し、努力を継続する傾向があります。その中でたとえ失敗しても、その経験からさらに学ぼうとするのです。
成長マインドセットが企業全体に根付くことで、従業員一人一人が積極的にチャレンジし、学び続けるようになります。結果、企業としても変化の激しい時代に柔軟に対応し、成長を続けることができるでしょう。
固定マインドセットの特徴:能力は生まれつき決まっていると考える
固定マインドセットとは、人の能力は生まれつき決まっており、努力や学習などで変えることは難しいという考え方です。
このマインドセットを持つ人は、失敗を恐れ、挑戦を避ける傾向があります。なぜなら、失敗は自分の能力の限界を示すものと捉える場合が多いからです。
企業におけるマインドセットの活用メリット
企業全体に成長マインドセットが浸透することで、ポジティブな効果が期待できます。ここでは、企業においてマインドセットを活用するメリットを見ていきます。
企業における重要性:企業文化、従業員エンゲージメントへの影響
成長マインドセットが根付いた企業では、従業員は挑戦と学習を奨励され、オープンなコミュニケーションを通じて互いを高めることができます。
このような環境下では、従業員は高い目標に挑戦し、積極的に業務に取り組むようになり、企業への帰属意識やエンゲージメントも高まります。結果として、企業全体の活性化や生産性の向上につながります。
一方、固定マインドセットが蔓延する企業では、従業員は失敗を恐れ、変化を嫌う傾向が強くなります。現状維持を好み、新しい知識やスキルの習得に消極的になるでしょう。従業員のエンゲージメントやモチベーション低下、離職率の増加につながる可能性も懸念されます。
企業が成長し続けるためには、固定マインドセットが蔓延する状況を回避し、成長マインドセットが根付いた企業文化を築くことが非常に重要となります。
人材育成:成長を促進するマインドセットの形成
人材育成においては、従業員一人一人が能力を最大限に発揮するために成長マインドセットの形成を促すことが重要です。
固定マインドセットを持つ従業員に対して頭ごなしに否定するのではなく、まずは耳を傾け、共感する姿勢を持ちましょう。その上で、小さな成功体験を積み重ねる機会を与えたり、プロセスを褒めたりすることで、徐々にマインドセットの変化を促していきます。
従業員に成長マインドセットの形成を促すには、リーダーのマインドセットも大きく影響します。リーダーが成長マインドセットを持ち、失敗を恐れず挑戦する姿勢を見せたり、適切なフィードバックを行い、プロセスを評価したりすれば、周囲の「成長しよう」という意識を高めることができます。
成長マインドセットを持ちロールモデルとなるリーダーを育成することで、従業員一人一人に成長マインドセットが根付きやすくなり、企業の成長へとつながるでしょう。
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人事施策におけるマインドセットの活用場面
人事施策において、マインドセットはさまざまな場面で活用できます。特に、採用、育成、評価など、従業員の成長や組織の発展に直結する場面で重要な役割を果たします。
採用活動
採用活動において、応募者がどのようなマインドセットを持っているか把握することは、自社が求める人材であるかを判断する材料となります。企業のビジョンや価値観に共感し、成長意欲の高い人材を採用できれば、早期戦力化と継続的な活躍が期待できます。
さらに、ポジティブな思考が既存従業員に伝播していくことで、職場の活性化や企業の成長にもつながるでしょう。
応募者のマインドセットの傾向をつかむには、面接や適性検査を通じて思考パターンや行動特性を見極める必要があります。
具体的には、「困難な状況に直面したときにどのように乗り越えるか」「失敗から学び、次に生かそうとしているか」といった質問を通して、応募者がポジティブ思考や挑戦心を持ち合わせているかを判断します。
これらの要素を見極めることで、企業は成長を牽引する優秀な人材を獲得できる可能性を高められるでしょう。
オンボーディング
新入社員が早期に職場環境になじみ、活躍できるよう支援するためには、オンボーディングで成長マインドセットの形成を促すことが有効です。
具体的には、上司との1on1やメンター制度などを活用し、新入社員に対して具体的な改善点や成長ポイントをフィードバックすると、新入社員は努力の先にある成長を実感しやすくなります。業務の進め方だけでなく、マインドセットについて話す機会を定期的に用意することもよいでしょう。
また、新しい業務に挑戦する機会を積極的に与え、プロセスや意欲を評価するなど、失敗を恐れずに挑戦できる環境づくりも重要です。
人材育成・研修
従業員の成長にはそれぞれが持つマインドセットが重要なポイントとなります。そのため成長マインドセットの形成促進を目的とした「マインドセット研修」を実施することで、従業員の成長を後押しできます。
研修は、グループワークやワークショップなど受講者が参加・体験する形式が効果的です。例えば、ケーススタディで具体的なビジネス事例を学び、事例を基にロールプレイングをした後、グループディスカッションを行って行動の振り返りや意見交換をするといった流れが考えられます。
研修を通して「自身が持つマインドセットの傾向」「現在のマインドセットと成長マインドセットとのギャップ」を認識してもらうことで、成長マインドセットの形成を促します。
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評価制度
結果に注目しがちな従来の評価制度では、従業員が「努力すれば能力は成長する」と考えて行動しても評価につながらない可能性があります。従業員の成長と企業の長期的な発展のために従業員に成長マインドセットの形成を求めるなら、プロセスや意欲、努力なども評価することが重要です。
マインドセットを意識した評価では、売り上げや目標達成率といった結果だけではなく、プロセスや挑戦・学習する意欲、努力にも焦点を当てます。具体的な評価項目としては、「困難な課題にも積極的に取り組む」「失敗から学び、次に生かそうとする」「粘り強く努力する」などが考えられます。
このように、評価制度にマインドセットの観点を組み込むことで、従業員は自身の成長をより意識し、主体的に行動するようになります。その結果、自身の潜在能力を引き出すことができ、パフォーマンスの向上につながるでしょう。
キャリア開発
キャリア開発は、従業員一人一人が理想的なキャリアを形成できるよう、企業が学びの機会提供や人事制度の整備などの支援をすることです。従業員が自律的にキャリア形成に取り組むためには、自身の可能性を広げようとする成長マインドセットが重要な役割を果たします。
企業は、マインドセット研修を含めた各種研修の充実やジョブローテーションの導入など、従業員に学習・成長の機会を提供し、成長マインドセットの形成やキャリア自律を促すことが大切です。
このように、採用から育成、評価、キャリア開発まで、人事施策のさまざまな場面でマインドセットを意識することで、従業員の能力を最大限に引き出し、企業全体の成長へとつなげることができるでしょう。
マインドセット変革の成功事例
ここでは、マインドセット変革に取り組む企業の事例を紹介します。
三井化学株式会社:「根も葉もあるプロフェッショナル」を育成
三井化学株式会社では、マインドセットを「根」、経験を「幹」、スキルセットを「葉」と位置付けて「根も葉もあるプロ」を育成しています。マインドセットでは成長マインドセットとメタ認知を重視し、ディスカバリー研修やセルフ・リーダーシップ研修、LDP研修などの他、全従業員が共通の理解・認識を持てるよう全社的な研修も実施しています。
加えて、従業員の育成において重要となる経験については、公平に機会が提供されるよう育成の仕組みが設計されています。経験を活用できるかは個人の心構えや捉え方にもよるため、振り返りの機会を提供するなどして従業員の成長を支援しています。
スキルセットに関してはそれぞれの従業員が必要なスキルを獲得できるよう、自己研さんの機会提供や学習費用のサポートを行い、「自律的に学ぶ」環境を整えています。
同社では「従業員が自分でキャリアを考え、学ぶ」ことを目指しており、一人一人が自分らしいキャリア形成をできるよう、今後もキャリア自律を支援していくようです。
ロート製薬株式会社:多様性、プロフェッショナルであることを重視
ロート製薬株式会社では、従業員に「プロフェッショナルであること」を求めており、「自分の仕事を創出・設定できること」「やりがいをもって取り組めること」「学びを続けること」など、仕事への姿勢やマインドセットを経営層が従業員に随時発信しています。
同社では価値を創出するには学び続けることが必須であると考え、従業員の学びを支援しています。例えば、オンライン活用プラットフォーム「ロートアカデミー」を学びの場として提供しています。どのような研修や講座を受講するかは、従業員が主体的に判断します。
加えて、幅広い学びを支援するため、社内起業家支援プロジェクト「明日ニハ」、社外チャレンジワーク(複業)、社内ダブルジョブ(兼務)なども設けています。
このような取り組みから、「自分で決める」「自分は何をしたいのか、どうすべきか」といった従業員の自律につながるマインドセットが、日々のコミュニケーションや業務の中で浸透しています。
まとめ
マインドセットは物事に対する無意識の思い込みや思考のクセのことで、個々が持つ思考パターンや信念体系そのものです。過去の経験や学習、育った環境など、さまざまな要因が影響して形成され、一人一人異なったマインドセットを持ちます。
マインドセットは個人だけでなく組織にも存在します。企業の場合、マインドセットによって価値観や行動規範などが変わってきます。
マインドセットは個々の行動や成果を大きく左右するため、企業にとっては自社の成長や競争力を左右する重要な要素といえるでしょう。
ポジティブなマインドセットは良好な人間関係を築き、自己成長や目標達成の可能性を高めるカギとなります。従業員のマインドセットを理解し、より良い方向に導くことは、企業にとって大きな力になるでしょう。
マインドセットの種類は大きく分けて、成長マインドセットと固定マインドセットの2つがあります。
成長マインドセット:能力は努力や学習によって後天的に伸ばすことができるという考え方
固定マインドセット:人の能力は生まれつき決まっており、変えることは難しいという考え方
成長マインドセットを持つ人は困難を成長の機会と捉え、積極的に学ぶ傾向があります。成長マインドセットが根付く企業では、従業員が積極的に挑戦し学び続けるため、変化の激しい時代に柔軟に対応できるでしょう。
企業にとって成長マインドセットの浸透は、挑戦と学習が奨励され、オープンなコミュニケーションを通じて互いを高める企業文化の醸成や、従業員エンゲージメントの向上につながります。
また、人材育成において従業員に成長マインドセットの形成を促すことで、従業員一人一人が能力を最大限に発揮できるよう後押しすることができます。
人事施策において、マインドセットはさまざまな場面で活用できます。主な例は下記の通りです。
- 採用活動
- オンボーディング
- 人材育成・研修
- 評価制度
- キャリア開発
採用から育成、評価、キャリア開発まで、人事施策のさまざまな場面でマインドセットを意識することで、従業員一人一人の能力を引き出し、企業の成長につなげることができるでしょう。
マインドセット変革に取り組む企業事例として、三井化学株式会社とロート製薬株式会社を紹介しました。
三井化学株式会社は、マインドセットを「根」、経験を「幹」、スキルセットを「葉」と位置付けて「根も葉もあるプロ」を育成しています。ディスカバリー研修やセルフ・リーダーシップ研修、LDP研修などの他、従業員が共通の認識を持てるよう全社的な研修も実施しています。
ロート製薬株式会社では、従業員に「プロフェッショナルであること」を求め、仕事への姿勢やマインドセットを経営層が従業員に随時発信しています。
また、オンライン活用プラットフォーム「ロートアカデミー」の提供、社内起業家支援プロジェクト「明日ニハ」、社外チャレンジワーク(複業)、社内ダブルジョブ(兼務)などにより、従業員の学びを支援しています。
企業全体に成長マインドセットが浸透すれば、生産性の向上だけでなく、企業の持続的な成長にもつながります。人材育成や組織開発などにマインドセットの観点を取り入れてみてはいかがでしょうか。
参考)
厚生労働省「実践事例 変化する時代のキャリア開発の取組み」,https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001085730.pdf(閲覧日:2024年10月24日)