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SDGs16「平和と公正をすべての人に」現状や取り組み事例を解説

日本で、暴力事案が増加していることを知っていますか?

「日本は平和な国じゃないの?」と意外に思った方も多いかもしれません。

「平和と公正を目指す」というと、多くの人が、世界の紛争地帯や法の支配が及ばない地域への支援をイメージするでしょう。20233月現在、世界では数々の紛争が継続中であり、企業は既にさまざまな形で支援を行っています。

一方、日本にはしっかりとした政治機構やコーポレートガバナンスがあり、紛争や児童労働などの問題に直面することは少ないでしょう。日本国内において、平和や公正への取り組みを行う必要性は低いと考える人もいるかもしれません。

しかし実際には、DVや虐待といった暴力事案は増加傾向にあり、差別・偏見によって公正な扱いを受けられない人もいます。また、若い世代の選挙の投票率の低さは、さまざまな立場の人が政治に参加するためにも、改善する余地があるでしょう。このような国内の課題の解決にも、企業の支援が求められているのです。

本稿では、SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の具体的な目標内容や課題を国内外に分けて解説します。

さらに、企業が目標16「平和と公正をすべての人に」に取り組むためのアプローチ法や、国内外の企業の取り組み事例をご紹介します。

SDGsの理念である「誰一人取り残さない」を実現するため、平和で公正な世界を目指す目標16について理解を深め、今後の取り組み内容を考える参考となれば幸いです。

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1.SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」企業が知っておきたいこと

SDGs(持続可能な開発目標)は、20159月の国連サミットで採択された、2030年までに達成を目指す世界全体の目標です。環境や社会、経済などについての17の目標で構成されています。

その16番目の目標として掲げられているのが「平和と公正をすべての人に」です。まずは目標の内容や必要性を正しく理解しましょう。

1-1. SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」とは

SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」は、正式にはこのあとに「持続可能な開発のための平和でだれをも受け入れる社会を促進し、すべての人々が司法を利用できるようにし、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任がありだれも排除しないしくみを構築する」という目標が続きます。

つまり、誰もが紛争や犯罪のない平和な世界で、法律や制度に守られ安全に暮らせる仕組みを作ろうということです。

1-2. SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」のターゲット内容

目標16「平和と公正をすべての人に」には、具体的な内容が示されている12個の「ターゲット」16.116.10,16.a,16.b[1]があります。理解を深めるために、詳しく見ていきましょう。

16.1
すべての場所で、あらゆる形態の暴力と暴力関連の死亡率を大幅に減らす

16.2
子どもに対する虐待、搾取、人身売買、あらゆる形態の暴力、そして子どもの拷問をなくす。

16.3
国および国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々が平等に司法を利用できるようにする。

16.4
2030年までに、違法な資金の流れや武器の流通を大幅に減らし、奪われた財産の回収や返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。

16.5
あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減らす。

16.6
あらゆるレベルにおいて、効果的で説明責任があり透明性の高いしくみを構築する。

16.7
あらゆるレベルにおいて、対応が迅速で、だれも排除しない、参加型・代議制の意思決定を保障する。

16.8
グローバル・ガバナンスのしくみへの開発途上国の参加を拡大・強化する。

16.9
2030年までに、出生登録を含む法的な身分証明をすべての人々に提供する。

16.10
国内法規や国際協定に従い、だれもが情報を利用できるようにし、基本的自由を保護する。

16.a
暴力を防ぎ、テロリズムや犯罪に立ち向かうために、特に開発途上国で、あらゆるレベルでの能力向上のため、国際協力などを通じて関連する国家機関を強化する。

16.b
持続可能な開発のための差別的でない法律や政策を推進し施行する。

ターゲットを簡単にまとめると、主に以下のようなことを目指す内容となっています。

・紛争や子どもへの虐待などあらゆる暴力や組織犯罪の根絶

・平等な司法へのアクセス

・汚職や贈賄の大幅削減

・出生登録を含む法的な身分証明の提供

・差別の撤廃

以上が目標16のターゲット内容です。

1-3. SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」がSDGsに必要な理由

では、SDGsにおいてなぜ目標16「平和と公正をすべての人に」が必要なのでしょうか。

国連は、SDGsを達成するためには「平和で公正かつ包摂的な社会が必要」[2]としています。

「包摂」とは、一定の範囲内に包み込むことを意味します。SDGsにおいては、その理念である「誰一人取り残さない」を示すと解釈してよいでしょう。

しかし現状では、紛争やDV、虐待などの暴力によって、多くの人が傷つき命を落としています。

また、出生登録がなく公的サービスを受けられなかったり、人身売買の被害に遭い、強制労働をさせられたりする子どもが存在します。さらに、政治・ビジネスの腐敗や犯罪により安心して暮らせない人々も少なくありません。

このような状況を改善し、地球上の誰もが平和と公正を享受することを目指して目標16が設定されています。

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2.世界と日本におけるSDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の現状と課題

 まず、世界と日本の目標16「平和と公正をすべての人に」の現状を見てみましょう。

 2-1. 世界では「紛争・難民」、「子どもへの暴力・搾取」、「児童労働」、「汚職や贈賄」などが課題

 世界では、以下のような課題の解決が急がれています。

・紛争・難民

・子どもへの暴力・搾取

・児童労働

・汚職や贈賄

紛争・難民

 紛争は、とりわけ大きな課題です。

国連が公表しているレポート「The Sustainable Development Goals Report 2022[3]によれば、2020年末には、世界の人口の4分の1が紛争の影響を受けた国に住んでおり、1946年以来最も多くの暴力的な紛争が起こったとされています。

さらに、20225月時点では、紛争や迫害により過去最高となる1億人が世界各地で故郷を追われました。

また、紛争は直接的に生命を脅かすだけでなく、世界の食料生産や供給網、貿易、金融などにも影響を与え、直接紛争に関わらない人々にとっても脅威となっています。

子どもへの暴力・搾取

子どもたちを暴力から守る体制も十分ではありません。家庭での子どもへの体罰や暴力が法律によって全面的に禁止されている国は、2022年時点で65カ国のみです[4]

 また、ユニセフが2019年に発行した報告書によると、5歳未満の子どもたちの4人に一人(16600万人)は出生登録がされず、法的には存在していません[5]。出生登録がないと、学校に入学できない、病院にかかれない、人身売買の被害に遭っても元の国に戻れないなどさまざまな問題が起こります。

2018年に摘発された人身売買事件では、被害者の6割以上が女性と女の子でした。性的な搾取を受けたのはほとんどが女性である一方、強制労働させられていた人の半分以上は男性だったということです5

児童労働

カカオ農園やコバルト鉱山などにおける児童労働も、大きな問題となっています。

2021年6月に公表されたILO(国際労働機関)とユニセフの共同報告書「児童労働:2020年の世界推計〜傾向と今後の課題〜」では、世界の児童労働者(517歳)は16000万人(男の子9700万人、女の子6300万人)と推計されています[6]

この結果は、世界の子ども(517歳)のうち、約10人に1が児童労働をしていることを表します。

汚職や贈賄

汚職や贈賄といった腐敗もSDGsの達成を妨げています。

前出の国連公表のレポート「The Sustainable Development Goals Report 2022」では、世界の企業のほぼ6社に一社が、公務員から賄賂を要求されたことがあるとされています。

以上のように、紛争をなくす、将来を担う子どもたちを暴力から守り、安全な環境で育てる、透明性の高いビジネスや政治を行うための支援が求められています。

2-2. 日本では「子どもや配偶者への暴力」、「政治参加」、「差別や偏見」などが課題

 平和に見える日本にも、以下のような課題が存在しています。

・子どもや配偶者への暴力

・政治参加

・差別や偏見

子どもや配偶者への暴力

家庭での子どもへの体罰や暴力が全面的に禁止されている国は、2022年時点で65カ国であることは前述しましたが、日本は、2020年に世界で59番目の体罰全面禁止国となっています[7]

しかし、令和3年度における児童虐待相談対応件数は207660件で、過去最高となりました。虐待によって亡くなった事例は年間50件を超えており、1週間に一人の子どもが命を落としている計算です[8]

DV(ドメスティック・バイオレンス:配偶者や恋人である・あった人から受ける暴力)については、令和3年度の相談件数は122478件で、前年度からは約7000件減少したものの、直近の8年度連続で10万件を超えています[9]

政治参加

日本では投票率が低く、特に若者は選挙への関心が低いというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

そのイメージはおおむね正しく、令和3年の衆議院議員総選挙の場合、60歳代の投票率が71.43%と最も高く、20歳代は36.50%で最も低い結果となりました。20歳代の投票率は、昭和の時代から最下位が続いています。

このような若い世代の投票率が低い現状において、投票率の高い高齢者優先の政治が行われる「シルバー民主主義」が問題視されています。

【図:衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移】

(引用:総務省「衆議院議員総選挙における年代別投票率(抽出)の推移」を一部編集, https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/ (閲覧日:2023228日))

差別や偏見

世界経済フォーラム(World Economic ForumWEF)が20227月に公表した「The Global Gender Gap Report 2022」では、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中116[10]と、先進国の中では最低レベルです。

ジェンダーギャップ指数は、経済、政治、教育、健康の四つの分野における男女の格差を数値化したものです。日本は、教育と健康についてはトップクラスであるものの、経済と政治の数値が特に低く評価されています。

内閣府は、今後、男女間の賃金格差や、政治分野におけるハラスメント、国会議員や大臣に占める女性の割合などの課題に重点的に取り組むとしています。

また、現在、外国人労働者が増えつつあり、彼らに対する意識・無意識的な差別や偏見も問題になっています。

以上のような課題について、政府は既に法整備や相談窓口の設置、啓発運動などのさまざまな施策を実施しています。しかし、効果は十分とは言えず、企業の取り組みによる支援が求められています。


3.SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」に企業が取り組むアプローチ法とメリット、注意点

ここでは、2章で挙げた課題に対して、企業はどのようにアプローチできるのか見ていきましょう。また、企業が目標16に取り組むメリットや注意点も併せて確認します。

3-1. SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」に企業が取り組むアプローチ法

目標16「平和と公正をすべての人に」に取り組むには、以下のようなアプローチ法があります。

・難民への支援

・政治参加への支援

・子どもへの支援

・ダイバーシティ&インクルージョンの推進

・海外調達先の選定

・コーポレートガバナンスの強化

 難民への支援

企業が行う難民支援には、世界各地の難民キャンプでの支援活動、難民支援団体などへの寄付、食料や衣類など生活必需品の寄贈自社の製品・サービスの提供などがあります。

最近では、日本国内の難民への住居の提供、生活のサポート、自社での就労機会の提供といった支援も注目されています。

このほか、マッチングギフト制度(従業員から寄付や義援金を募る際、企業側が寄せられた金額に対して一定比率を上乗せして寄付する制度)の導入など、自社の従業員を通して行う支援や、ポイント還元制度によって、顧客が貯まったポイントを寄付できる仕組みを構築するといった支援もあります。

政治参加への支援

政治参加への支援には、特に若い世代の投票率を上げるため、従業員に投票を促したり、顧客を対象としたキャンペーンを行ったりする方法があります。

例えば、アウトドア用品などの販売を手掛けるパタゴニア日本支社は、従業員が家族や友人と投票に行けるよう、第25回参議院議員通常選挙の投開票日であった2019721日、全直営店を閉店しました[11]

そのほか、飲食店や専門店で、顧客が投票証明書や投票所の看板との自撮りを提示すれば、割引などのサービスを行うといった取り組みが実際に行われています。

子どもへの支援

子どもへの支援は、世界各地での出生登録の支援や、児童労働撲滅のためのフェアトレード商品の開発などがあります。

日本国内においては、オレンジリボン運動への参加も挙げられます。

オレンジリボン運動とは、認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワークが行う、子ども虐待防止のシンボルマークとしてオレンジリボンを広め、虐待をなくそうという市民運動のことです。

自社の従業員への啓発、事業に関連するチャリティイベントの開催、オレンジリボンマークを使用した商品のタイアップなどによって子どもを支援することができます。

ダイバーシティ&インクルージョンの推進

自社におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進が、差別や偏見のない世界を作ることにつながります。

具体的な施策としては、女性活躍の推進や、高齢者・障害者・外国人・LGBTQの人達の採用・定着への取り組みなどが考えられます。

海外調達先の選定

世界の紛争地域においては、武装勢力による暴力行為や強制労働などの人権侵害が行われています。子どもの教育や健康に有害な児童労働も大きな問題です。

企業は、これらの行為に加担することのないよう慎重に海外調達先を選定しなければなりません。

そのためには、自社のサプライチェーンを精査し、事業に関わるすべての取引先に対して人権報告書の公表を求めるなど、人権デューディリジェンス、つまり人権リスクを抑える取り組みを強化することが重要です。その上で、もし被害者が出た場合には救済措置を施す必要があります。

コーポレートガバナンスの強化

近年、投資家や株主は、企業の持続的成長や中長期的な価値向上を評価するポイントとして、ESG(環境・社会・企業統治)を重視しています。

つまり、企業には、自社の価値観やビジネスモデル、リスク、経営戦略などについて、ESGの要素を踏まえて世の中に示すことが求められているのです。

また、企業価値の向上を図るには、競争力の強化とともに贈収賄・腐敗行為の防止対策も重要です。

企業は、これらの土台となるコーポレートガバナンスのあり方を改めて検討する必要があるでしょう。

以上が、主なアプローチ方法です。

3-2. SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」に企業が取り組むメリット

企業が目標16「平和と公正をすべての人に」に取り組んだ場合、以下のようなメリットがあります。

・ブランド価値の向上

・新たな市場の開拓ができる

・人権侵害を回避できる

ブランド価値の向上

企業が平和や公正のための取り組みを行うことで、ブランド価値の向上が期待できます。

積極的に社会貢献を行っている、あるいは透明性の高いビジネスを推進する企業であることをステークホルダーに印象付け、今後のビジネスに好影響を与えます。

新たな市場の開拓ができる

目標16への取り組みは、新たな市場を開拓できる可能性があります。

例えば、今まで高齢者向けのサービスを中心に展開していた企業が、若い世代の投票率を上げる取り組みを行うことで、若い世代に自社に関心を持ってもらうきっかけになります。

人権侵害を回避できる

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」[12]が示すとおり、企業には人権を尊重する責任があります。

目標16を意識し、紛争や強制労働、児童労働に加担しないように調達先を選定することで、人権侵害を回避できます。

人権侵害の回避によって、人権侵害を理由とした不買運動や投資候補からの除外といった経営リスクを抑制できるほか、ブランドイメージの向上や投資先としての評価アップ、優秀な人材の獲得などにつながるというメリットもあります。

以上が、企業が目標16「平和と公正をすべての人に」に取り組む主なメリットです。

3-3. SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」に企業が取り組む際の注意点

企業が目標16に取り組む際は、以下のような点に注意しましょう。

・人権尊重の取り組みは取引先などと協力する

・紛争地帯では事前に撤退計画を検討する

 人権尊重の取り組みは取引先などと協力する

目標16に取り組むアプローチ法を実践するには、人権尊重の視点が必要です。

自社が人権尊重の取り組みを行う際、取引先にも人権尊重の取り組みを求めることが想定されます。その際は相手企業に全て任せるのではなく、協力して取り組むことが重要です。

具体的には、以下のような例が考えられます。

・人権尊重の取り組みの勉強会に取引先を招待する

・取引先と人権課題について意見交換会を開催して共通理解を形成し、それぞれの企業の取り組みに生かす

・自社に国際スタンダードに基づいた人権尊重の取り組みの実績がある場合は、充分に取り組みを行えていない取引先に、取り組み方法や事例を紹介する

なお、契約において有利な立場にある企業が、取引先に対して一方的に大きな負担をかける形で人権尊重の取り組みを要求した場合、下請法や独占禁止法に抵触する可能性があるため注意が必要です[13]

紛争地帯では事前に撤退計画を検討する

 紛争地帯で事業や支援活動を行う場合、事前に撤退計画を検討しておくことが大切です。

現地の情勢が急激に悪化し、突然撤退せざるを得なくなった場合、撤退する自社の代わりとなる企業が現れない可能性があります。すると、現地の消費者が生活必需品を手に入れられなくなったり、解雇された労働者の仕事がなくなってしまったりという事態が起こり得ます。

撤退によってステークホルダーへ与える負の影響を最小限に抑え責任ある撤退をするために、準備はしっかりとしておきましょう。

以上が、目標16に取り組む際の注意点です。

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 4.SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」への企業の取り組み事例五つ

最後に、目標16「平和と公正をすべての人に」に対する企業の取り組み事例を日本企業、海外企業に分けてご紹介します。

4-1. 日本企業の取り組み事例

目標16「平和と公正をすべての人に」に取り組む日本企業の事例を三つ紹介します。

ここで紹介する企業は、KPMG Internationalと国連グローバル・コンパクト(UNGC)が作成した「SDG Industry Matrix(産業別SDG手引き)」の日本語版[14]、外務省サイト「JAPAN SDGs Action Platform[15]のジャパンSDGsアワードの受賞団体、経団連SDGs特設サイト「Keidanren SDGs[16]の「Innovation for SDGs 事例集」から選出しています。

・武田薬品工業株式会社

・エリクソン・ジャパン株式会社

・一般社団法人男女共同参画地域みらいねっと

武田薬品工業株式会社

製薬会社である武田薬品工業株式会社では、2016年から3年間、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンと協力して、ケニアの出生登録率が低い地域において、デジタルでの出生登録を支援していました。

このプログラムは、保健教育省が推進する政府の「ケニア住民登録局戦略的枠組み2013-2017に対応し、それを支援するものです。25000人の子どものデジタル出生登録を対象とし、対象地域で23カ月未満の子どもの100%に予防接種を行うことを目標としました。

子どもたちの基本的人権を保護するとともに、ワクチン接種などの医療サービスを受ける仕組みを整備し、医療へのアクセスに貢献した事例です。

エリクソン・ジャパン株式会社

通信インフラ事業を行うエリクソン・ジャパン株式会社では、2021年にインテグリティ(組織マネジメントにおける誠実さや真摯さ)をコアバリューに引き上げ、ビジネスに企業責任を根付かせることに取り組んでいます。

強固な倫理・コンプライアンスプログラムの導入をはじめ、従業員の教育に力を入れており、リーダーを対象とした倫理的な対応に焦点を当てたトレーニングや、管理職や社外関係者との接点の多い職務に就く従業員を対象とした贈収賄・汚職防止(ABC)トレーニングを実施しています。

さらに、オンラインでのABCトレーニングの受講を、全従業員に義務付けています。

一般社団法人男女共同参画地域みらいねっと

「フェアネス(公平性)の高い社会づくり」を目指す一般社団法人 男女共同参画地域みらいねっとは、中学生を対象に「ジェンダー視点を取り入れた防災教育」を展開しています。

次世代の災害時における実践力をつけるとともに、災害時だけでなく、平時におけるジェンダー平等や多様性配慮についても学んでもらうことが狙いです。

この取り組みは学内にとどまらず、地域住民、自治体、教育委員会、女性消防団、防災士等が参加しており、多様な人々の参画の可能性を喚起しています。

企業にとってこの事例は、自社の防災訓練を行う際の参考にできるでしょう。多様性に配慮した避難の仕方・避難所の運営の検討や、オフィス近隣住民の訓練への参加などが考えられます。

以上、国内企業の事例を3社ご紹介しました。

4-2. 海外企業の取り組み事例

続いて、海外企業の取り組み事例を二つご紹介します。ここでは2023年の「Global 100」(世界で最も持続可能な100社)ランクイン企業[17]、前出の「SDG Industry Matrix(産業別SDG手引き)」日本語版の掲載企業から紹介します。 

・オーステッド(デンマーク)

・ネスレ(スイス)

オーステッド(デンマーク)

オーステッド(Ørsted)社はデンマークに本社を置く電力会社です。風力や太陽光、水素などの再生可能エネルギー事業を行っています。2023年の「Global 100」(世界で最も持続可能な100社)において、13位にランクインしました。

同社は、人権への取り組みを強化し、外部の専門コンサルタントの協力を得て、全社的な人権影響評価を開始しました。具体的には、以下の2点です。

  • バリューチェーン全体における重大な人権リスクの特定
    労働基準や労働安全衛生、救済措置、先住民を含む地域社会の権利などに対するリスクを含む。
  • 人権デューディリジェンスの観点から見た主要なビジネスプロセスの定性的評価
    人権への影響を管理する強力なシステムは既にあるが、地域社会に結びついたシステムへと拡大する必要がある。

同社は2023年に影響評価の詳細な結果を公表する予定です。その結果に基づき、全体的な人権行動計画を策定する予定としています。

ネスレ(スイス)

ネスレはスイスに本社を置く世界最大の食品・飲料メーカーです。

同社がカカオセクターで初めて導入した児童労働監視改善システム(CLMRSは、現在では多くの企業が、児童労働リスクに取り組むための有力なツールとして導入しています。

CLMRSでは、学校の建設・改修、出生証明書の確保、所得多様化プログラムや農村部の貧困解消への取り組みといった、教育へのアクセスを優先しています。

このシステムの運用は、訪問調査によるリスクのある子どもたちの特定、アドバイスやサポートの実施、定期的なフォローアップ訪問という手順で行われます。これにより、何人の子どもが児童労働に就くことを防いだか、危険な労働をやめたかを測定し、2回連続で「もう危険はない」と報告した人数を記録しています。

2021年、直近の2回の訪問でリスクがなくなったと報告した子どもの数は、コートジボワールで6307人、ガーナで738としています。

以上、海外企業の取り組み事例を2件紹介しました。

目標16では、比較的幅広い課題へのアプローチが可能です。目標16への取り組みを検討している企業は、ぜひこれらの事例を参考にしてみてください。

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5.まとめ

SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」は、正式にはこのあとに「持続可能な開発のための平和でだれをも受け入れる社会を促進し、すべての人々が司法を利用できるようにし、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任がありだれも排除しないしくみを構築する」という目標が続きます。

簡単にまとめると、誰もが紛争や犯罪のない平和な世界で、法律や制度に守られ安全に暮らせる仕組みを作ろうという目標です。

SDGsを達成するために、国連は「平和で公正かつ包摂的な社会が必要」としています。

しかし実際には、紛争やDV、虐待などの暴力や子どもの人身売買被害、強制労働といった問題が存在します。さらに、政治・ビジネスの腐敗や犯罪により安心して暮らせない人々も少なくありません。

このような状況を改善し、地球上の誰もが平和と公正を享受することを目指して目標16が設定されています。

目標16について、世界では「紛争」、「難民」、「子どもへの暴力・搾取」、「児童労働」、「汚職や贈賄」などが、日本では「子どもや配偶者への暴力」、「政治参加」、「差別や偏見」などが課題となっています。

こうした目標16「平和と公正をすべての人に」の課題に対して企業が行うアプローチ方法として、以下のようなものがあります。

・難民への支援

・政治参加への支援

・子どもへの支援

・ダイバーシティ&インクルージョンの推進

・海外調達先の選定

・コーポレートガバナンスの強化

目標16「平和と公正をすべての人に」に企業が取り組むメリットとして、以下の三つが挙げられます。

・ブランド価値の向上

・新たな市場の開拓ができる

・人権侵害を回避できる

企業が目標16に取り組む際は、以下の二つに注意しましょう。

・人権尊重の取り組みは取引先等と協力する

・紛争地帯では事前に撤退計画を検討する

SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」への日本企業の取り組み事例として、KPMG Internationalと国連グローバル・コンパクト(UNGC)が作成した「SDG Industry Matrix(産業別SDG手引き)」の日本語版 、外務省サイト「JAPAN SDGs Action Platform」 のジャパンSDGsアワードの受賞団体、経団連SDGs特設サイト「Keidanren SDGs」 の「Innovation for SDGs 事例集」から、三つ紹介しました。

・武田薬品工業株式会社

・エリクソン・ジャパン株式会社

・一般社団法人男女共同参画地域みらいねっと

海外企業の事例として、2023年の「Global 100」(世界で最も持続可能な100社)ランクイン企業、「SDG Industry Matrix(産業別SDG手引き)」の日本語版から、二つご紹介しました。

・オーステッド(デンマーク)

・ネスレ(スイス)

この記事が、目標16「平和と公正をすべての人に」について理解を深め、貴社の取り組みの参考になれば幸いです。

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[1] 「SDGs とターゲット新訳」制作委員会「SDGsとターゲット新訳 ―17目標と169ターゲット―Ver.1.2(2021.3)」, https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_ver1.2.pdf  (閲覧日:2023年2月27日)太字は編集部による編集
[2] 国連広報センター「平和、正義と充実した制度機構はなぜ大切か」, https://www.unic.or.jp/files/16_Rev1.pdf (閲覧日:2023年2月27日)
[3] United Nations「The Sustainable Development Goals Report 2022」, https://unstats.un.org/sdgs/report/2022/ (閲覧日:2023年1月12日)国連広報センター「持続可能な開発目標(SDGs)報告2022」, https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_report/ (閲覧日:2023年2月27日)
[4] セーブ・ザ・チルドレン「5.世界では、どうなっているのでしょう?」, https://www.savechildren.or.jp/lp/banningphp5/ (閲覧日:2023年2月28日)
[5] 公益財団法人 日本ユニセフ協会「SDGs CLUB」, https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/16-peace/ (閲覧日:2023年2月28日)
[6] 児童労働ネットワーク「児童労働データ」, https://cl-net.org/child-labour/data.html (閲覧日:2023年3月27日)
[7] セーブ・ザ・チルドレン「共同声明 日本が世界で59番目の体罰全面禁止国へ 虐待や体罰等の子どもに対する暴力のない社会を実現するために」, 2020年3月2日, https://www.savechildren.or.jp/scjcms/press.php?d=3168 (閲覧日:2023年2月28日)
[8] 子ども虐待防止 オレンジリボン運動「統計データ」, https://www.orangeribbon.jp/about/child/data.php (閲覧日:2023年2月28日)
[9] 内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等(令和3年度分)」, 令和4年11月8日, https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/data/pdf/2021soudan.pdf (閲覧日:2023年2月28日)
[10] 内閣府 男女共同参画局「トピックス3 世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表」, https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/202208_07.html (閲覧日:2023年3月2日)
[11] パタゴニア日本支社「7月21日(日)閉店:私たちの地球のために投票します。」, https://www.patagonia.jp/stories/vote-our-planet-july-2019/story-109543.html (閲覧日:2023年3月28日)
[12] 国連広報センター「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(A/HRC/17/31)」, 2011年3月21日, https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/ (閲覧日:2023年3月23日)
[13] ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議「2.2.5 各企業は協力して人権尊重に取り組むことが重要である」,『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』, 令和4年9月, https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003-a.pdf (閲覧日:2023年3月22日)
[14] KPMG International、国連グローバル・コンパクト(UNGC)「INDUSTRY MATRIX—産業別SDG手引き—」, https://kpmg.com/jp/ja/home/about/sus/sdg-industry-matrix.html (閲覧日:2023年3月27日)
[15] 外務省「JAPAN SDGs Action Platform」,https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html (閲覧日:2023年3月27日)
[16] 経団連「Keidanren SDGs」, https://www.keidanrensdgs.com/home (閲覧日:2023年3月27日)
[17] Corporate Knights「100 most sustainable companies of 2023 still flourishing in tumultuous times」, https://www.corporateknights.com/rankings/global-100-rankings/2023-global-100-rankings/2023-global-100-most-sustainable-companies/ (閲覧日:2023年3月27日)

参考)
警察庁「令和4年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」, https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/stalker/R4_STDVRPCAkouhousiryou.pdf (閲覧日:2023年5月8日)
厚生労働省「児童虐待防止対策」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/index.html (閲覧日:2023年2月28日)
Spaceship Earth「ジェンダーギャップ指数とは?日本が低い理由から知る課題と問題点【2023年最新】」, https://spaceshipearth.jp/gendergap/ (閲覧日:2023年3月2日)
高松 奈々、大淵 光彦「会社を休んで、選挙に行け!」,『NHK政治マガジン』, 2019年7月17日, https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/20067.html (閲覧日:2023年3月6日)
難民支援協会「支援の方法」, https://www.refugee.or.jp/support/company/ (閲覧日:2023年3月7日)
株式会社ファーストリテイリング「難民支援」, https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/community/refugees.html (閲覧日:2023年3月7日)
dmenuマネー「ウクライナ難民支援の動き、日本企業でも広がる ドンキ親会社、APAMAN、ZOZOほか」,2022年5月3日, https://money.smt.docomo.ne.jp/column-detail/309267.html?ref=article_infinity_read (閲覧日:2023年3月7日)
田中(坂部)有佳子・川口智恵 編「【報告4】紛争影響地域におけるビジネスと人権~SDGs の達成を企業の人権尊重責任から考察する~菅原絵美 大阪経済法科大学国際学部 准教授」,『平和構築研究におけるイノベーション:SDGs 16 とフィールドの視点の架橋報告書』, 2020年3月, https://ac.cdn-aoyamagakuin.com/wp-content/uploads/2020/10/rs_200325_peacebuilding_report.pdf (閲覧日:2023年3月7日)
日本経済新聞社「海外取引先で人権侵害発覚、企業の訴訟費補償」,2022年7月18日, https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62701470Y2A710C2MM8000/ (閲覧日:2023年3月7日)
公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本「子どもの権利」, https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/child_rights/ (閲覧日:2023年3月27日)
ACE「ビジネスを通じた連携」, https://acejapan.org/activity/partnership/business (閲覧日:2023年3月27日)
オレンジリボン運動「企業の特性を活かした活動メニュー」, https://www.orangeribbon.jp/enterprise/activity.php (閲覧日:2023年3月17日)
農林水産省「17の目標と食品産業とのつながり:目標16に対する取組」, https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/goal_16.html (閲覧日:2023年3月20日)
SDGsジャーナル「SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|誰一人取り残さない」, 2022年8月30日, https://sdgs-support.or.jp/journal/goal_16/#1759 (閲覧日:2023年3月20日)
ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」, 令和4年9月, https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003-a.pdf (閲覧日:2023年3月22日)
KPMG International、国連グローバル・コンパクト(UNGC)「ヘルスケア・ライフサイエンス産業」、『INDUSTRY MATRIX—産業別SDG手引き—』, https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-sdg-industry-matrix-06.pdf (閲覧日:2023年3月27日)
武田薬品工業株式会社「デジタル出生登録プログラムをケニアで支援」, https://www.takeda.com/jp/corporate-responsibility/programs-in-action/digital-birth-program (閲覧日:2023年3月27日)
経団連「企業倫理と腐敗防止 エリクソン・ジャパン(株)」,『Keidanren SDGs』, https://www.keidanrensdgs.com/home (閲覧日:2023年3月23日)
外務省「特別賞 一般社団法人男女共同参画地域みらいねっと(青森県青森市)」,『第5回ジャパンSDGsアワード受賞団体』, https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/award5_00_sougouban.pdf (閲覧日:2023年3月24日)
Ørsted「sustainability report 2022」,p31, https://orsted.com/en/sustainability/sustainability-report (閲覧日:2023年3月27日)
KPMG International、国連グローバル・コンパクト(UNGC)「食品・飲料・消費財産業」、『INDUSTRY MATRIX—産業別SDG手引き—』, https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-sdg-industry-matrix-01.pdf (閲覧日:2023年3月27日)
nestle「Creating Shared Value and Sustainability Report 2021」, https://www.nestle.com/sites/default/files/2022-03/creating-shared-value-sustainability-report-2021-en.pdf (閲覧日:2023年3月27日)

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