「生産性向上には、人間関係も影響するらしい」
近年、コロナ禍ではテレワーク、状況が落ち着いてからはテレワークと出社のハイブリッド勤務と、今までにない働き方が採用されています。
変化する環境の中で、企業は生産性の維持・向上のため、様々な施策を行う必要があります。例えば、離れた場所にいる人同士が円滑に業務を進めるには、良好な社内コミュニケーションの構築が重要でしょう。
しかし、社内コミュニケーションに課題を感じている企業は少なくないようです。
HR総研が2023年3月に公表した「社内コミュニケーションに関するアンケート」によると、自社において「社内コミュニケーションに課題があると思う」と回答した人事責任者・担当者は69%、「社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になると思う」との回答も94%と高い割合を示しています[1]。
社内コミュニケーションの課題は早急に解決すべきです。なぜなら、94%の回答者が考えたとおり、コミュニケーション状況などを含む人間関係は仕事の質に大いに影響するからです。
仕事の質、すなわち生産性に人間関係が影響するという事実は、100年ほど前にアメリカで行われたホーソン実験で証明されています。
本稿では、ホーソン実験が実施された時代背景や四つの実験内容の結果と結論、そしてそれを現代に生かす具体的な施策を紹介します。
また、Googleが行った「生産性が高いチームと心理的安全性に関する調査」についても解説するので、貴社の生産性向上施策の参考としていただければ幸いです。
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目次
1. ホーソン実験とは?実施された時代背景も解説
まずは、ホーソン実験の概要と実験が行われた時代背景について解説します。
1-1.ホーソン実験の内容と結論
ホーソン実験は、1924年から1932年の間にアメリカのウェスタン・エレクトリック社が保有するホーソン工場にて、生産性を向上させる要素を探る目的で行われました。
当初は、ウェスタン・エレクトリック社と国立科学アカデミー全国学術研究協議会によって実施されていました。
その後、ハーバード大学のエルトン・メイヨーとその弟子のフリッツ・レスリスバーガーら、そして財政的援助をしたロックフェラー財団が実験に加わり、大規模調査団となりました。
実験の結果、生産性の向上には従業員の感情、特に社内で自然に発生する友好関係が大きく影響すると判明しました。
1-2.ホーソン実験が行われた理由
ホーソン実験が行われた1920年代のアメリカは、「狂乱の20年代」と呼ばれる第一次世界大戦後の好景気下にあり、人々の大量消費に応えるための大量生産が行われていました。
大量生産を行うには、コストを抑えて生産性を高める必要があります。そのための経営手法として、技術者・経営学者であるフレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法(テイラーシステム)」が主流となっていました。
科学的管理法とは、作業をマニュアル化することでベルトコンベア式流れ作業などによる大量生産を実現する手法です。主に工場内の作業をシステム化する手段として活用され、現代の大量生産方式の礎となったと言われています。
しかし、当時、科学的管理法には次のような問題がありました。
- 単調な作業を強制され従業員の疲労感が増大し、生産性が低下した
- 企業側が従業員と機械を同一視するようになり、人間性の軽視と批判された
- 設備の大型化で企業合同や合弁が進み、組織が階層化して意思疎通が希薄化した
- ホワイトカラーとブルーカラーの対立が起こった
このように、生産性低下や従業員の孤立・協働意欲の喪失といった問題が生じたため、その解決策になり得る「労働環境と生産性の関係」を調べる目的で、ホーソン実験が行われました。
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2.ホーソン実験で行われた四つの実験と結果
ホーソン実験では、四つの実験が行われました。この章では、実験の具体的な内容とその目的、そして結果について解説します。
- 照明実験
- 継電器組み立て実験と雲母剥取作業実験
- 面接実験
- バンク配線作業実験
照明実験
照明実験では「明るい照明の環境下では、疲労感が減り生産性を高める」という仮説のもと、徐々に明るくなる環境と、暗くなる環境でそれぞれの生産性の変化を計測しました。
実験の結果、明るい/暗いどちらの環境下でも生産高が増大したため、照明の明るさは生産性にとって重要ではないとわかりました。
継電器組み立て実験と雲母剥取作業実験
これらの実験では、休憩や作業時間といった労働条件と賃金(経済的要因)が生産性にどのように関係するのかを明らかにする目的で行われました。
実験を経て、次の点が判明しています。
- 労働条件と賃金(経済的要因)の良し悪しは必ずしも生産性には影響しない
- 従業員同士の横のつながりができていた
- 従業員は、この実験に協力しているという誇りを持って取り組めていた
- 協力を促す監督者と従業員との間で、良好な縦の人間関係が形成されていた
つまり、従業員の効率や生産性は、縦横の人間関係や心理的な要因によって変化すると判明しました。
面接実験
面接実験は、「労働条件よりも管理体制が生産性に影響する」という仮説のもと、管理体制を強化する目的で行われました。
実験内容は、職場における不満などを明らかにするため、2万1126人の従業員に面接を行うというものでした。
調査の結果、従業員が特定の条件について共通して不平や不満を感じているという事実は確認できませんでした。同じ条件でも満足している人と不満を持つ人がいたのです。
このことから、従業員のモチベーションは、客観的な労働条件よりも本人の主観的な好みや感情によって変化すると判明しました。
バンク配線作業実験
最後の実験では、これまでの実験から「現場の小さなグループが社会統制機能を果たしている」という仮説が立てられ、職場の人間関係と生産性の関係について調査されました。
職種ごとにグループ分けを行い作業の成果を調べた結果、次の点がわかりました。
- 総生産高に応じて給与を割増する制度を導入しても、従業員は総生産高を一定に保とうとして労働量を調整した。
- 職場にインフォーマル・グループ(非公式組織)が発生した。しかも、上司と部下という立場、担当作業における関わりの有無に関係なく発生した。
- 上司と従業員に友好関係があるほうがミスが少ない
つまり、職場でのインフォーマル・グループの存在が生産性に大きく影響すると判明しました。インフォーマル・グループについては次の章で詳しく説明します。
このように、四つの実験では仮説や予測と反する結果が見られ、生産性には従業員の感情や人間関係が深く関わっているとわかりました。
その理由と実験から導かれた結論について、次の章で解説していきます。
3.ホーソン実験から得られた四つの結論
四つの実験から、次の結論が導き出されました。
3-1.ホーソン実験の結論1:インフォーマル・グループが重要
インフォーマル・グループ(非公式組織)とは、部署や役職といった企業に決められたフォーマルなグループではなく、自然に発生した人間関係を指します。
継電器組み立て実験と雲母剥取作業実験で、労働条件の良し悪しが生産性に影響しなかった理由として、従業員同士が一緒に作業をするうちに仲間意識が生まれ、労働意欲が保たれたからだろうと推測されました。
よって、インフォーマル・グループのように自然と従業員同士が仲良くなる環境を作ると従業員のモチベーション向上につながり、生産性を高められるという結論が得られました。
3-2.ホーソン実験の結論2:個人の感情も働きぶりに影響する
面接実験では、従業員のモチベーションは労働条件や待遇よりも個人の感情に左右されるという事実が判明しました。
生産性を高めるには、従業員同士の相互関係や職場でのポジションだけでなく、個人の感情や欲求を考慮して満足度を測り、モチベーションを高める取り組みを行う必要があると言えます。
3-3.ホーソン実験の結論3:人間関係が生産性や品質に影響する
バンク配線作業実験では、従業員は状況に応じて働きすぎ、または怠けすぎないよう業務量を調整していました。
そうしないと仕事を増やされすぎたり、賃金を下げられたりして、仲間に迷惑がかかるからです。
つまり、仲間の存在や関係性が、生産性や製品の品質に影響を与えることが判明しました。
また、上司と友好関係があるほうがミスが少ないこともわかっています。
よって、生産性を高めるには、インフォーマル・グループの存在を理解し、従業員が心理的安全性や帰属意識を感じられるようにする必要があると言えます。
3-4.ホーソン実験の結論4:注目されることで「ホーソン効果」が得られる
継電器組み立て実験と雲母剥取作業実験では、生産性向上につながった一因として、従業員が実験内容を知った上で協力し、問題解決への期待を背負って仕事をしたことがあります。
この「注目され、期待されていると感じると、モチベーションが向上する」現象は、「ホーソン効果」と言われています。
このように、生産性を高めるには外部環境や労働条件よりも、仲間との友好関係や、その中で注目され、期待されることが重要だという結論が、四つの実験によって得られました。
「ピグマリオン効果」との違いとは?
「ホーソン効果」とよく似たものに「ピグマリオン効果」があります。ピグマリオン効果とは、上司や教師など上の立場の人間から期待されると良い効果を得られることを指します。
どちらも「人間関係が生産性に影響を与える」という点は共通していますが、以下の点が異なります。
- ホーソン効果:他者(立場の上下は問わない)から注目され、期待されることで成果を上げようとする
- ピグマリオン効果:教師や上司など目上の人から注目され、期待されることで成果を上げようとする
4.ホーソン実験の結論を生かす五つの施策
ホーソン実験で得られた結論を現代の職場で生かすには、どのような施策が考えられるでしょうか。
この章では、ホーソン実験で得られた結論をもとに、従業員同士が良好な人間関係を構築し、生産性を高める施策を以下に紹介します。
- 複数の相談先を用意する
- 職場でコミュニケーションの場を設置する
- 社外活動でインフォーマルな活動を企画する
- 社内表彰制度を活用する
- リーダーを育成する
複数の相談先を用意する
仕事に行き詰った際は上司に相談するケースが多いかもしれませんが、上司との関係性に悩んだときなど、他の人に相談したいというケースもあるでしょう。
そういった場合に備えて、チーム内で相談しやすい雰囲気を作ったり、第三者に相談できる窓口を設置したりする取り組みが有効です。
「いざという時は、相談を受けて止めてくれる人がいる」という事実は安心感につながり、従業員が働きやすい組織にすることができるでしょう。
職場でコミュニケーションの場を設置する
業務に必要な情報を円滑にやりとりするためには、良好な人間関係のもと適切にコミュニケーションが取れる環境の構築が必要です。
それにより、従業員は互いの業務を助け合ったり、役立つ知識を共有し合ったりする習慣ができ、新しいアイデアを生む機会が増えていくでしょう。
インフォーマル・グループのような自然発生的な人間関係を生むには、例えば趣味や世間話、業務でのちょっとした悩みを会話するチャットルームを設置すると効果的です。
あるいは、部署を横断してメンバーを何人かピックアップし、ランチ会を開催するといった取り組みも新たな交流のきっかけになるでしょう。
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社外活動でインフォーマルな活動を企画する
インフォーマルな活動を通し、従業員同士の交流機会を増やす取り組みも有効です。
例えば、カラオケ大会やスイーツ食べ歩きのような気軽に参加できる活動を企画すると、共通の趣味を持つ人同士でつながりを持てます。
そのほか、街の清掃活動やボランティアなど、企業の経営理念に沿った社会貢献活動を企画するのも有効です。
社内表彰制度を活用する
従業員の成果を認め合い、コミュニケーションを活性化する手段として社内表彰制度も活用できます。
社内表彰制度に関連した「レコグニション」の導入も進んでいます。レコグニションとは、従業員の活躍や成果を積極的に称える文化を言います。
例えば、称賛の気持ちをポイントにしてプレゼントする「ピアボーナス制度」や、感謝の気持ちをカードに記して伝える「サンクスカード」などがあります。
社内で利用しているチャットツールと連携できるものやSNSに投稿するものなどさまざまな種類があるので、ぜひチェックしてみてください。
リーダーを育成する
生産性の高いチームを作るには、優秀なリーダーの存在も不可欠です。
リーダーの役割は「他のメンバーに指示や命令、監督をする」だけではありません。
メンバーの頑張りを称えたり、チームの雰囲気を良くして心理的安全性を高めたりする役割も担えるリーダーが必要です。
また、熱意や想いを共有するにはメンバーとの信頼関係が重要です。
メンバーと信頼関係を築くには、メンバーがチームで発言しやすい環境を構築し、定期的に面談や交流の機会を設けると良いでしょう。
以上のように、職場でコミュニケーションの機会を増やし、従業員同士の人間関係を良好にする取り組みが生産性向上に役立つでしょう。
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5. Googleも実施!生産性向上に関する調査
近年も、生産性向上に関する調査が行われています。
Googleは2012年、優れた成果を挙げるチームの条件を定義する目的で「プロジェクトアリストテレス」という企業向け調査を行いました。
調査の結果、優れたチームの条件は「優秀なメンバーがいること」よりも、「メンバー同士が協力し合えていること」であると判明しました。
そして、Googleは「効率的なチーム」を構成する五つの要素を挙げ、その中でも特に重要な要素に「心理的安全性」を挙げています。
心理的安全性を高めると情報交換が活発になってイノベーションが生まれやすくなり、問題の早期発見・解決にもつながります。また、人材の定着率が高まるといった効果も期待できます。
Googleの調査結果は、職場の人間関係が生産性に影響を及ぼすというホーソン実験の結論とも通ずるものがあるでしょう。
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6.まとめ
本稿では、ホーソン実験の内容と四つの結論、そして従業員の生産性を高める具体的施策について解説しました。
ホーソン実験は、1920年代のアメリカで主流となっていた「科学的管理法」の問題の解決策になり得る「労働環境と生産性の関係」を調べる目的で行われました。
ホーソン実験では、次の四つの実験が行われました。
- 照明実験
- 継電器組み立て実験と雲母剥取作業実験
- 面接実験
- バンク配線作業実験
そして、実験の結果、次のような結論が導き出されました。
- インフォーマル・グループが重要
- 個人の感情も働きぶりに影響する
- 人間関係が生産性や品質に影響する
- 注目されることで「ホーソン効果」が得られる
ホーソン実験の結論を生かした施策として、次のようなものがあります。
- 複数の相談先を用意する
- 職場でコミュニケーションの場を設置する
- 社外活動でインフォーマルな活動を企画する
- 社内表彰制度を活用する
- リーダーを育成する
インフォーマル・グループのような良好な人間関係における承認や注目が従業員のモチベーションを高め、生産性向上につながります。
まずは取り入れやすい施策から実践し、社内コミュニケーションの活性化、そして生産性向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。
ホーソン実験とはどのようなものですか?
ホーソン実験とは、第一次世界大戦後の好景気下にあるアメリカで行われた、生産性を向上させる要素を探ることを目的とした実験です。当時主流だった「科学的管理法(コストを抑えて生産性を高める手法)」で生じた問題の解決策を探るため、労働環境と生産性の関係を明らかにす四つの実験が行われました。
ホーソン工場実験の結果は?
ホーソン実験によって次の結論が導き出されました。
・インフォーマル・グループが重要
・個人の感情も働きぶりに影響する
・人間関係が生産性や品質に影響する
・注目されると「ホーソン効果」が得られる
そして、グループ内での人間関係や業務への意欲が生産性に結びついているということがわかりました。
ホーソン実験から作業能率は何に影響される?
実験が行われた当初は、労働条件や待遇が生産性に大きく影響すると予測されていましたが、実際は生産性に変化は見られませんでした。グループ内で自然発生的に生まれた良好な人間関係が労働意欲につながり、そこで注目され、期待されることが作業能率に好影響を及ぼすとわかりました。
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[1] HR総研「HR総研:社内コミュニケーションに関するアンケート 結果報告」,『HRプロ』,https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=357(閲覧日2023年5月5日)
参考)
岡田 行正「人間関係管理の生成と展開」,『北海学園学術情報リポジトリ』, http://hokuga.hgu.jp/dspace/bitstream/123456789/379/1/KEIEI-1-3-4.pdf(閲覧日2023年5月5日)
Job総研「Job総研 「2023年 リモートマネジメント実態調査」を実施」,https://job-q.me/articles/14782(閲覧日2023年5月5日)
Google合同会社「「効果的なチームとは何か」を知る」,『Google re:work』,https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/(閲覧日2023年5月5日)
あしたの人事「ホーソン実験とは?わかりやすく解説|ピグマリオン効果との違いや実務での活用法ついて」, https://www.ashita-team.com/jinji-online/development/9698(閲覧日2023年5月5日)
あしたの人事「プロジェクトアリストテレスとは?Googleが導いたチーム生産性向上の5つの柱」, https://www.ashita-team.com/jinji-online/organization/10813(閲覧日2023年5月5日)
グローバル採用ナビ「科学的管理法とは?できた背景・メリットは?【導入事例や注意点を解説】」, https://global-saiyou.com/column/view/Scientific_management (閲覧日:2023年6月19日)
PERSOL「ピグマリオン効果とは?効果を最大限引き上げるためのポイント」,2021年5月12日, https://www.persol-group.co.jp/service/business/article/327/ (閲覧日:2023年6月19日)
MarkeTRUNK「ホーソン効果とは?ピグマリオン効果やプラセボ効果との違い、事例を解説」,2022年6月17日 , https://www.profuture.co.jp/mk/recruit/management/37751 (閲覧日:2023年6月19日)