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エンゲージメントサーベイとは?質問項目やメリット・注意点【事例あり】

エンゲージメントサーベイとは?質問項目やメリット・注意点【事例あり】

離職率が問題だ。自社の課題を把握するために、自社に対する従業員の評価を知りたい」

多くの企業が人的資本経営に取り組む現在、自社の価値を向上させる要素の一つとして、従業員エンゲージメント(会社への愛着や働きがい)が注目されています。

この従業員エンゲージメントを把握するための調査が「エンゲージメントサーベイ」です。

株式会社HRビジョンが2019年に発表した調査結果[1]によると、エンゲージメントサーベイを行っている企業は約4割です。サーベイを実施した企業では、7割以上がその効果を実感しています。

実際に、三井化学株式会社やSOMPOホールディングス株式会社といった有名企業もエンゲージメントサーベイを実施しており、エンゲージメント向上に役立てています。

本稿ではエンゲージメントサーベイが求められている背景、導入のメリット・注意点、実施の流れ、企業事例などを解説します。

離職率や生産性など職場の課題を解決し、エンゲージメント向上を実現したい方はぜひ参考にしてください。

「エンゲージメントサーベイ」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。


目次

1. エンゲージメントサーベイとは

エンゲージメントサーベイとは、従業員エンゲージメント(会社への愛着や働きがい)を測定するための調査のことです。エンゲージメントが高い企業は生産性が高く、離職率が低い傾向にあることがさまざまな調査でわかっています。

1-1. 従業員エンゲージメントとは

ビジネスシーンにおける「従業員エンゲージメント」とは、企業と従業員の信頼関係や積極的な結び付きを指します。そもそもエンゲージメント(engagement)とは「婚約」や「契約」を意味する言葉で、そこから「つながり」や「関係性」といった意味でも使われるようになりました。

この従業員エンゲージメントを把握するための調査がエンゲージメントサーベイです。目には見えにくい「仕事への熱意」や「責任感」を数値化し、組織の状態を把握するのに用いられます。

定期的にエンゲージメントサーベイを実施することで、その結果を基に的確なエンゲージメント向上施策を行えます。

1-2. エンゲージメントサーベイの目的

エンゲージメントサーベイは、主に以下のような三つの目的で実施されます。

  • 経営課題の整理
  • 離職防止
  • 人事業務への活用

経営課題の整理

従業員エンゲージメントの状態とその要因が把握できれば、取り組むべき経営課題が可視化されます。

さらに、至急取り組むべきなのが組織体制の見直しなのか、あるいは管理職のマネジメント力強化なのかというように、課題に優先順位をつけて整理するためにもエンゲージメントサーベイが必要です。

経営戦略力について知識を深めるには弊社のビジネスパーソンなら知っておきたい「経営戦略力」養成コースをご活用ください。

離職防止

従業員エンゲージメント向上への取り組みは、そのまま離職防止対策につながります。経済産業省が2019年に公表した報告書[2]によると、従業員エンゲージメントの高い企業は、離職率が低い傾向にあります。

企業がサーベイの結果を反映して、組織体制や職場環境を改善すれば、従業員から「ここでずっと働きたい」という気持ちを引き出し、離職を未然に防ぐことが可能です。

人事業務への活用

人事業務を効率的に進めるためにも、エンゲージメントサーベイの導入は有効です。現在の人材育成や評価制度で改善すべき点を明らかにし、より優れた方法やシステムを考案します。

例えばサーベイの結果から、「実績重視の人事評価制度によって、従業員の意欲が低下している」という問題点が見つかれば、仕事に取り組む姿勢やプロセスも考慮する新しい評価制度を設計します。

1-3. エンゲージメントサーベイの質問項目例

エンゲージメントサーベイでは、どのような質問で従業員のエンゲージメントを測るのでしょうか?

質問項目の内容には特に決まったルールはありませんが、以下のポイントを押さえて作成することが重要です。

1)人によって解釈が分かれない内容にする
2)組織課題の発見のため、内容に偏りがないようにする
3)記述式ではなく段階評価で定量的なデータを得る

例えば、「目標が共有されていると感じるか」という質問の場合、全社目標なのか、チームまたは個人の目標なのか、人によって解釈が分かれてしまいます。企業側が意図する回答を得られる質問となるようにしましょう。

そして質問は、個人の業務や経営理念、組織風土、評価制度など、職場のあらゆる要素から多面的に設定することで、組織の状態を網羅的に把握できます。また、回答は15などの段階評価とし、会社への愛着や貢献しようという気持ち、信頼関係といった把握しにくい要素について定量的なデータを得るようにします。

以下に、代表的な三つの質問項目例を紹介します。これらの例では、仕事で自己が承認されていると感じられるか、活躍や成長の機会があるか、といった質問が中心となっています。

  • Q12(キュートゥエルブ)
  • ワーク・エンゲージメント尺度(UWES
  • 一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES

Q12(キュートゥエルブ)

以下は、米国の調査会社ギャラップ社が開発したQ12(キュートゥウェルブ」」で、代表的なエンゲージメントサーベイとして知られています。12の質問項目に対し、「完全に当てはまらない」から「完全に当てはまる」までの5段階評価でエンゲージメントを測ります。

Q01. 職場で何が期待されているか分かっている。
Q02. 仕事を正確に行うために必要な材料や設備が揃っている。
Q03. 職場では、毎日自分の最も得意なことをする機会がある。
Q04. この1週間で、良い仕事をしたと認められたり、褒められたりした。
Q05. 上司や職場の誰かが、私を一人の人間として気にかけてくれているようだ。
Q06. 職場に私の成長を促してくれる人がいる。
Q07. 職場では、私の意見が大切にされているようだ。
Q08. 会社の使命や目的から、自分の仕事が重要だと感じる。
Q09. 私の仲間や同僚は、質の高い仕事をすることに全力を尽くしている。
Q10. 職場に親友がいる。
Q11. この半年の間で、職場の誰かが私の進歩について話してくれた。
Q12. この1年間、私は職場で学び、成長する機会に恵まれた。

なお、「Q12」は権利保護の観点から自由に実施することはできません。ギャラップ社が有料で提供しています。

引用:GALLUP「Gallup’s Employee Engagement Survey: Ask the Right Questions With the Q12® Survey」を当社翻訳, https://www.gallup.com/q12/(閲覧日:2024年3月4日)

ワーク・エンゲージメント尺度(UWES

ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(UWESは、Q12と同様、質問に対する従業員の回答を数値化し、仕事への「熱意」「没頭」「活力」をスコアとして測定する方法です。

UWESの質問は、17項目、9項目(短縮版)、3項目(超短縮版)の三つの種類があり、回答者は0「全くない」から6「いつも感じる」までの6段階評価で自身の状態に当てはまるものを選びます。

UWESの質問項目例には以下のようなものがあります。

  • 仕事をしていると活力がみなぎるように感じる
  • 仕事をしていると時間がたつのが速い
  • 朝起きると仕事に行きたくなる
  • 私の仕事はやりがいがある
  • うまくいっていないときでも、常に仕事を諦めずにやり通す

引用:Wilmar Schaufeli, Arnold Bakker「UWES UTRECHT WORK ENGAGEMENT SCALE Preliminary Manual [Version 1.1, December 2004]」, P48から一部引用、当社翻訳, https://www.wilmarschaufeli.nl/publications/Schaufeli/Test%20Manuals/Test_manual_UWES_English.pdf(閲覧日:2024年3月4日)

一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES

一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSESは、質問によって従業員のセルフ・エフィカシー(自己効力感)を測定する方法です。自己効力感とは「自分ならできる」という認知をいいます。GSESでは16の質問項目にYesNo2で回答し自己効力感のレベルを測定します。

GSESの質問項目例には以下のようなものがあります。

  • 何か仕事をするときは、自信を持ってやるほうである。
  • 何かをするとき、うまくゆかないのではと不安になることが多い。
  • 友人より優れた能力がある。
  • 仕事を終えた後、失敗したと感じることのほうが多い。
  • 世の中に貢献できる力があると思う。

引用:坂野 雄二,東條 光彦「一般性セルフ・エフィカシー尺度作成の試み」,『行動療法研究』,第12巻,第1号,1986,P82から一部引用

1-4. エンゲージメントサーベイと従業員満足度調査との違い

エンゲージメントサーベイとよく似た調査に、従業員満足度調査があります。従業員満足度調査とは、業務や給与、待遇、人間関係などに対する従業員の満足度を測定する調査です。

両者の違いは、以下のとおりです。

  • エンゲージメントサーベイ:「従業員が会社にどれだけ貢献し、仲間と共に成長したいと思っているか」を測る
  • 従業員満足度調査:「会社から与えられるものに従業員がどれだけ満足しているか」を測る

従業員満足度調査の結果は、会社の業績や人事配置などによって簡単に変動します。そのため離職防止や生産性向上の長期的な戦略を練るには、エンゲージメントサーベイの数値を参考にする方がよいでしょう。

1-5. エンゲージメントサーベイ以外のサーベイ

企業が実施するサーベイには、エンゲージメントサーベイ以外にも以下のようなものがあります。

  • 組織サーベイ
  • パルスサーベイ
  • 従業員サーベイ
  • モラールサーベイ

組織サーベイ

組織サーベイとは、企業が組織の状態を把握するために実施する調査全般を指します。調査の結果は、企業の課題解決の取り組みで活用されます。

エンゲージメントサーベイの他、この後に紹介するパルスサーベイ、従業員サーベイ、モラールサーベイなども、全て組織サーベイの一種です。

パルスサーベイ

パルスサーベイは「仕事に満足しているか」「待遇に満足しているか」といった単純な質問項目で、主に従業員の満足度を測定するものです。

パルスサーベイの特徴は、「pulse(脈拍)」という名称が表すように、定期的かつ頻繁に調査を実施するスタイルです。週1回の実施もあれば、毎日パルスサーベイに取り組むケースもあります。組織の状態をリアルタイムで把握できるのがメリットです。

従業員サーベイ

従業員サーベイとは、企業が従業員を対象として実施する意識調査です。人事部が特定のテーマについて実態を把握するために実施することが多く、その結果は評価制度や社内規則を改定する際などの根拠として活用されます。

モラールサーベイ

モラールサーベイは元々第二次大戦中にアメリカ軍の士気高揚を目的として考えられたものです。「モラール」とはフランス語で「士気」「意欲」を意味します。

モラールサーベイも従業員の意識調査の一種ですが、調査するのは「組織として目標を達成する意欲」です。仕事内容や待遇、職場の人間関係に関する質問項目を設定し、従業員がどれほど経営に参画する意識を持って業務に取り組んでいるかを測定します。

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2. エンゲージメントサーベイが求められている背景

次に、現在多くの企業がエンゲージメントサーベイに注目している背景について見ていきましょう。

2-1. エンゲージメントの業績や労働意欲への影響

特に注目されているのが、従業員エンゲージメントと企業の業績や労働意欲の関係です。

厚生労働省が公表した調査資料[3]によると、勤務先について「働きがいがある」、「働きやすい」と回答した群では、「働きがいがない」、「働きやすくない」と回答した群よりも、従業員の仕事に対する意欲が高く、今の会社で働き続けたいと考える傾向がありました。

また、「働きがいがある」、「働きやすい」と回答した群の方が、勤務先の業績が上がっていると回答する傾向が強いという結果になりました。

「働きがい」や「働きやすさ」、つまりエンゲージメントのレベルは、従業員の意欲や定着率、さらには会社の業績にも影響することが知られるようになり、多くの企業が自社のエンゲージメントレベルを把握しようとしたのです。

日本企業の従業員は総じてエンゲージメントが低い傾向にあります。米ギャラップ社が公表した調査報告書「State of the Global Workplace 2023」でも、エンゲージメントが高い従業員の割合は、グローバル平均が23%だったのに対して日本は5と、過去最低の数値となっています[4]

かつて高度経済成長期には、日本のビジネスパーソンは企業への貢献意識の高さで知られていました。終身雇用や年功序列といったシステムによって従業員は「会社から守られている」と感じることができ、おのずと愛社精神が育まれたためです。

しかし、近年の企業の成長低迷や転職によるキャリアアップの一般化なども影響し、エンゲージメントは低下しています。こうした現状への危機感も、国内企業がエンゲージメントサーベイを活用しようとする理由の一つです。

2-2. 人的資本経営への注目

人的資本経営とは、人材育成にかかる費用をコストと見なさず資本として捉え、投資によって価値を今以上に高めようとする考え方をいいます。

人的資本経営において、従業員エンゲージメントの向上は不可欠です。「この会社に貢献したい」という従業員の意識が個々のパフォーマンスを高め、企業価値の向上につながるためです。

経産省が公表した、人的資本経営についての重要な資料「人材版伊藤レポート2.0」[5]においても、従業員エンゲージメントは人材戦略に求められる重要な要素の一つとされています。加えて、サーベイ等によるエンゲージメントレベルの把握は、エンゲージメント向上策の一つとして紹介されています。

2-3. 組織開発への注目

組織開発の取り組みの一環としてエンゲージメントサーベイを実施する企業も増えています。組織開発とは、従業員が「貢献したい」と思えるような魅力ある組織をつくることです。

近年、人材の流動化は進む一方で、せっかく人材を育成しても、より給与や待遇の良い企業に転職されてしまうケースが少なくありません。そこで給与や待遇にも増して魅力のある「働きがい」、つまりはエンゲージメントを高めることで、人材を定着させようとする動きが広がっています。

2-4. テレワークの普及

 テレワークの普及により、従業員の状態が把握しにくくなったことも、エンゲージメントサーベイが求められる理由です。

以前であれば上司も部下も同じ空間にいて、部下の働いている様子から意欲低下の予兆を、いち早くキャッチしフォローすることもできました。しかし、現在では月の大半が在宅勤務という従業員もいて、管理職がマネジメントの難しさを感じるケースもあるようです。

そこで、エンゲージメントサーベイを実施して従業員の心理状態を把握しようとする企業が増えているのです。

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3. エンゲージメントサーベイで得られるメリット

エンゲージメントサーベイを実施すると、具体的にどのような効果を得られるのでしょうか。ここでは四つのメリットを解説します。

3-1.  生産性向上のための戦略が立てられる

エンゲージメントサーベイの調査結果を分析すれば、生産性を向上するためには具体的に何をすればよいかが明確になります。

例えば調査結果から「売上の目標数字に追われて、従業員が仕事の意義を感じられていない」ことが課題だと判断すれば、売上という結果よりもプロセスを重視する人事評価制度に切り替えてもよいでしょう。厳しいノルマを課すだけでは生産性が向上しなかった組織に対して、新しいアプローチを試みることができます。

また全国展開する企業では、エンゲージメントの課題は拠点によって異なる可能性もあります。調査結果も拠点ごとに分析すれば、それぞれに最適な戦略を練ることも可能です。

3-2. 従業員の離職を防いで定着率アップ

エンゲージメントという言葉が「婚約」を意味するように、従業員エンゲージメントは、企業と従業員の間の強い結びつきを表します。

エンゲージメントサーベイを実施して従業員の不満や職場の課題を早期に発見、常にエンゲージメントの数値が一定以上になるよう施策を打っていれば、従業員は「ずっとこの会社で働きたい」と思うようになり、離職防止と定着率アップが期待できます。

3-3. リファラル採用やアルムナイ採用による人材確保

エンゲージメントサーベイの結果を受け、適切なエンゲージメント向上施策を行うことで、リファラル採用やアルムナイ採用の成功率を高めます。

リファラル採用とは従業員からの紹介によって人材を採用する方法で、アルムナイ採用は退職した元従業員を再雇用する制度です。エンゲージメントの高い従業員は、知人にも自信を持って自社の仕事を薦めます。また家庭の事情や職場の人間関係を理由に一度退職しても、状況が変化すれば「またあの会社に戻りたい」と考えるでしょう。

3-4. 一般消費者や顧客、投資家から信頼が得られる

エンゲージメントサーベイを定期的に実施し、従業員の働きがい向上の施策への取り組みを開示すれば、安定した事業運営への信頼が得られます。

従業員エンゲージメントが生産性に影響することから、現在は従業員の幸福度を企業業績の先行指標とする動きも広まっています。日本では20233月期から上場企業に対して人的資本の情報開示が義務付けられました。20228月に公表された「人的資本可視化指針」[6]では、従業員エンゲージメントも開示事項例の一つとして紹介されています。

従業員エンゲージメントや幸福度は、ESGEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治))投資においても、企業の継続性や優秀な人材の集まりやすさという観点から、非常に重要視されている指標です。

今後は、従業員の働きがいや幸福度を高める施策を行っているということが、一般消費者や顧客、投資家が企業を選ぶときの一つのポイントになるでしょう。


4. エンゲージメントサーベイを実施するときの注意点

エンゲージメントサーベイを実施するときには、以下の四つの点に気を付けましょう。

4-1. 従業員の不満や不安を解消する

まずは調査を受ける従業員の視点に立って考えてみましょう。

従業員は「会社への忠誠心が低いと判断されたら、評価や待遇に影響するのでは」と不安になり、無難な回答を選ぶかもしれません。あるいは実施後に「何の意味があったのかわからない」と感じ、次のサーベイに真剣に取り組まない可能性もあります。

サーベイは個人の評価のためではなく組織全体の改善のためであると事前に説明し、調査結果と改善策を全社に共有して、実施の意義に理解を得ておくことが大切です。

4-2. 業務に支障が出ない範囲で実施する

エンゲージメントサーベイを導入する前に、実施頻度や1回あたりの所要時間などを確認しておきましょう。あくまでも業務に支障が出ない範囲で実施することがポイントです。

あまり頻繁に実施したり、質問項目が多く回答が大変なサーベイを導入したりしてしまうと、従業員に負担がかかり反発を招きます。回答にかける時間が多すぎれば、かえって生産性を下げる恐れもあります。

エンゲージメントサーベイの種類によっては、1回の質問項目を最小限に抑えたものもあります。実施の効果と手軽さのバランスを考え、自社に最適なツールを選びましょう。

4-3. 関連データも参照する

エンゲージメントサーベイの結果を活用する際は、関連するデータも参照して施策を決定することが大切です。

例えば、給与の低さが理由でエンゲージメントが低いという結果が出た場合、より的確な解決策を見つけるためには、業界の給与水準などのデータを参照して、多角的に分析する必要があります。

サーベイの結果のみを分析しても、課題全体の一部しか見えていない可能性があるということを認識しておきましょう。

4-4. フィードバックを必ず行う

実施後に忘れてはならないのが、従業員へのフィードバックです。

企業が組織調査を実施し、その結果について従業員と対話することで組織を改善する、「サーベイフィードバック」という考え方があります。エンゲージメントサーベイにおいても、可視化されたエンゲージメントを示して従業員から本音を引き出すことにより、より実態に即した効果的な施策を打てるようになります。


5. エンゲージメントサーベイ実施の流れ

ここではエンゲージメントサーベイ実施の流れを解説します。それぞれのステップでのポイントを理解しておきましょう。

5-1. 実施の目的を明確にする

エンゲージメントサーベイの結果を何に生かしたいのかは企業によって異なります。まずは、エンゲージメントサーベイの結果をもって何を解決あるいは実現するのか、実施の目的を明確にしましょう。

この後のステップである「サーベイの設計またはツールの選定」や「結果の分析」、「次回のアクション」にどう取り組むかは、全て最初に定めた目的に沿って考えていきます。

5-2. 日時や担当者を決定する

目的が決まれば、次はサーベイ実施を主導していく担当者と、実施の日時を設定します。回答期間は繁忙期に重ならないように、業務にゆとりのある時期のスケジュールを早めに押さえておきましょう。

5-3. サーベイの設計またはツールの選定

次はいよいよサーベイの設計です。自社が解決したい課題に沿って、質問項目を考えていきます。

自社で設計するのが難しい、コストをかけても分析の手間をなくしたいという場合は、調査会社などが提供している既成のツールを利用するという選択肢もあります。その際は以下の四つのポイントを比較してツールを選んでいきましょう。

  • 操作性が高いか
  • 自社の目的に沿っているか
  • 信頼性・再現性があるか
  • レポート作成機能があるか

操作性が高いか

エンゲージメントサーベイツールの操作性の高さは重要です。ITツールに慣れていない従業員でも直感的に扱えるような、操作性の高いツールを選びましょう。

自社の目的に沿っているか

「どのような状態か」という結果だけでなく、「なぜその状態になったか」という要因分析にも注目します。要因をどこから探るか、例えば、職場環境、評価等の社内制度、社内コミュニケーションなど、アプローチはツールによって異なるため、自社の目的に沿ったものを選ぶのがポイントです。

信頼性・再現性があるか

豊富な実績があり、データベースが充実したツールは、分析の結果にも信頼が置けます。

自社と同じ業界、同程度の企業規模で十分な導入実績があるかも、あらかじめ確認しておきましょう。自社に近い事例のデータが多いほど、自社での再現性も高くなります。

レポート作成機能があるか

レポート作成が可能なツールを選べば、担当者の負担を大幅に減らすことができます。忘れずにチェックしておきましょう。

5-4. 従業員に説明を行う

エンゲージメントサーベイの実施前には、従業員の不安を解消するために丁寧な説明を行いましょう。

すでに述べたとおり、サーベイの回答内容によって不利益を被るかもしれないという不安は、正確な調査の妨げになります。誰もがより働きがいを感じられる組織へと改善するための施策であること、回答内容は評価に影響しないことを周知し、従業員に前向きな気持ちで臨んでもらうことが大切です。

5-5. 結果を分析して次のアクションを決める

エンゲージメントサーベイを実施し、エンゲージメントの状態とその要因が明らかになったら、次はその結果を組織開発にどう活用するかを考えます。

人事評価制度の見直しや労働環境の改善など、自社のサーベイの目的に沿って調査結果を具体的なアクションに落とし込んでいきましょう。エンゲージメントの数値が十分に高かった場合はその理由も分析して、今後も維持するための施策に活かします。

5-6. 従業員にフィードバックを行う

改善策など次のアクションが決まった段階で、必ず従業員にフィードバックを行いましょう。調査結果をオープンにして、具体的にどう改善していくかが明示されれば、従業員にもエンゲージメントサーベイの実施意義が伝わります。

次回のサーベイでも従業員の協力が得やすくなるでしょう。

5-7. 継続して実施する

エンゲージメントサーベイは継続して実施することに意味があります。

サーベイで明らかになった課題の解決に取り組み、次のサーベイでその成果を確認し、不十分な場合はまた要因を分析する。このPDCAサイクルによって着実に組織開発を進めていくのです。

従業員のエンゲージメントは状況により変化していきます。定期的なサーベイの実施で、自社の状態をリアルタイムで正しく把握することが重要です。


6. 国内企業の導入事例

最後に、実際にエンゲージメントサーベイを実施している国内企業の事例を見ていきましょう。ここでは三井化学株式会社SOMPOホールディングス株式会社の二つの事例を紹介します。

6-1. 三井化学株式会社

三井化学株式会社は、2030年までに従業員エンゲージメントスコア50という目標を掲げています。

同社は2018年度に最初のエンゲージメントサーベイを実施しました。グローバルに展開するグループ企業の従業員に対して全11カ国語による調査を行い、約9割の従業員から回答を得ています。このときのエンゲージメントスコアは31%で、「学習および自己啓発」や「経営陣との対話」において改善すべき点が見られた一方、「安全文化」や「自律性の尊重」という同社の個性や強みも明らかになりました。

その後、自己学習に取り組むためのシステム導入や、社長と従業員がフラットに話し合うための「社長ラウンドテーブル」といった改善施策を行い、2回目となる2021年度の調査ではスコアを3%向上させてエンゲージメントスコア34%という結果を得ています。

同社では、エンゲージメントサーベイの結果を経営層にもしっかりと共有し、経営層が自ら課題意識を持つよう促しています。

6-2. SOMPOホールディングス株式会社

 SOMPOホールディングス株式会社は、生産性を高める原動力になるようにと、従業員一人一人の「やりがい」と「幸福度」向上を掲げてエンゲージメントサーベイを実施しています。

同社ではエンゲージメントサーベイの手法として米ギャラップ社のQ121-3.参照)を導入しており、2018年度の第1回の調査では国内グループの平均エンゲージメントスコアは、5点満点中3.29ポイントという結果でした。

その結果を踏まえて職場単位で振り返りと改善を行い2021年度には健康経営の観点からウェルビーイングに関する設問も追加して平均3.46ポイントとスコアを伸ばしました。

同社の「サステナビリティレポート2022[7]によると、75%のグループ会社でスコアの上昇が見られ、同社の施策が効果を表していることが示されています。


7. まとめ

エンゲージメントサーベイとは、従業員がどのくらい会社への愛着や仕事へのやりがいを持っているかを把握するための調査です。経営課題の整理や離職防止、人事業務の効率化などを目的として実施されます。

エンゲージメントサーベイの質問項目の内容に特に決まったルールはありませんが、以下のポイントを押さえて作成することが重要です。

  • 人によって解釈が分かれない内容にする
  • 組織課題の発見のため、内容に偏りがないようにする
  • 記述式でなく段階評価で定量的なデータを得る

代表的な質問項目例として以下の三つをご紹介しました。

  • Q12(キュートゥエルブ)
  • ワーク・エンゲージメント尺度(UWES
  • 一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES

エンゲージメントサーベイ以外に、企業が実施するサーベイには以下のようなものがあります。

  • 組織サーベイ
  • パルスサーベイ
  • 従業員サーベイ
  • モラールサーベイ

現在エンゲージメントサーベイが注目されている理由としては、主に以下の四つが挙げられます。

  • エンゲージメントの業績や労働意欲への影響
  • 人的資本経営への注目
  • 組織開発への注目
  • テレワークの普及

エンゲージメントサーベイを実施すると、具体的に以下のようなメリットが得られます。

  • 生産性向上のための戦略が立てられる
  • 従業員の離職を防いで定着率アップ
  • リファラル採用やアルムナイ採用による人材確保
  • 一般消費者や顧客から信頼を得られる

ただしエンゲージメントサーベイの実施に際しては以下の4点に注意が必要です。

  • 従業員の不満や不安を解消する
  • 業務に支障が出ない範囲で実施する
  • 関連データも参照する
  • フィードバックを必ず行う

エンゲージメントサーベイは、以下の手順で実施します。

  1. 実施の目的を明確にする
  2. 日時や担当者を決定する
  3. サーベイの設計またはツールの選定
  4. 従業員に説明を行う
  5. 結果を分析して次のアクションを決める
  6. 従業員にフィードバックを行う
  7. 継続して実施する

ツールの選定を行う際は、以下の四つのポイントを比較しましょう。

  • 操作性が高いか
  • 自社の目的に沿っているか
  • 信頼性・再現性があるか
  • レポート作成機能があるか

最後に事例をご紹介しました。

  • 三井化学株式会社
  • SOMPOホールディングス株式会社

エンゲージメントサーベイは、企業と従業員との信頼関係に基づいた強い組織づくりの第一歩です。まずは現在のエンゲージメントの状態とその要因を把握し、より働きがいのある組織にするために必要な施策は何かを考えていきましょう。

 

エンゲージメントとはどういう意味ですか?

エンゲージメントは英語で「婚約」「約束」「契約」を意味する言葉で、より広く「関係性」や「つながり」といった使われ方をします。ビジネスにおけるエンゲージメントは「従業員が企業に対して抱く愛着や共感」ひいては「その企業で働くことのやりがい」を指します。

従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイの違いは何ですか?

両者の違いは、以下のとおりです。

・従業員満足度調査:「会社から与えられるものに従業員がどれだけ満足しているか」を測る

・エンゲージメントサーベイ:「従業員が会社にどれだけ貢献し、仲間と共に成長したいと思っているか」を測る

[1] 株式会社HRビジョン「エンゲージメントサーベイを『行っている』企業は約4割、『行っていない』企業は約6割」,『日本の人事部』, https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/2244/(閲覧日:2024年3月7日)
[2] 経済産業省「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査(経営力強化に向けた人材マネジメントに関する提言および先進企業事例)【報告書】」,2019年3月29日公表,P39, https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/20190329_02.pdf(閲覧日:2024年3月7日)
[3] 厚生労働省職業安定局 雇用開発部雇用開発企画課「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」,2014年5月公表,P122-132,  https://www.mhlw.go.jp/chushoukigyou_kaizen/investigation/report.pdf(閲覧日:2024年3月25日)
[4] Gallup 「State of the Global Workplace 2023」,  https://www.gallup.com/workplace/349484/state-of-the-global-workplace.aspx(閲覧日:2024年3月25日)
[5] 経済産業省「人的資本経営実現に向けた検討会 報告書 人材版伊藤レポート2.0」,2022年5月公表,P65, https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf(閲覧日:2024年3月8日)
[6] 内閣官房 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」,P21, https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf(閲覧日:2024年3月8日)
[7] SOMPOホールディングス株式会社「SOMPOホールディングス サステナビリティレポート2022」, https://finance.stockweather.co.jp/contents/dispPDF.aspx?disclosure=20230316531631(閲覧日:2024年3月11日)

参考)
株式会社リンクアンドモチベーション「エンゲージメントサーベイとは?実施する目的やメリット、具体的な質問事項を解説」,『モチベーションクラウド』, https://www.motivation-cloud.com/hr2048/37386(閲覧日:2024年2月25日)
株式会社HRBrain「エンゲージメントサーベイとは?質問項目や実施する目的と必要性について解説」, 『HR大学』, https://www.hrbrain.jp/media/human-resources-management/engagesurvey(閲覧日:2024年2月25日)
株式会社マイナビ「エンゲージメント・サーベイとは?具体的な質問例や導入事例も」 ,『 HR Trend Lab』 , https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/engagement/1197/(閲覧日:2024年2月25日)
株式会社スタメン「エンゲージメントサーベイの活用事例!おすすめの質問項目例やツールを比較 」,『TUNAG』, https://biz.tunag.jp/article/6326(閲覧日:2024年2月25日)
株式会社マイナビ「解説!エンゲージメント・サーベイを選ぶ4つのポイント」,『 HR Trend Lab』, https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/engagement/1354/(閲覧日:2024年2月25日)
経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集」, https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf(閲覧日:2024年3月11日)
三井化学株式会社 「人材マネジメント」, https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/society/employee/development/index.htm(閲覧日:2024年2月25日)
三井化学株式会社「人材戦略トークセッション」, https://jp.mitsuichemicals.com/jp/special/ar2022/foundation/hr_talk_session.htm(閲覧日:2024年2月25日)
健康長寿産業連合会「SOMPOホールディングス株式会社」,『2023 健康経営 先進企業事例集』, https://www.well-being100.jp/wp/wp-content/uploads/2023/12/%E5%85%A8%E4%BD%93%E7%89%88_2023%E5%81%A5%E5%BA%B7%E7%B5%8C%E5%96%B6%E5%AE%9F%E8%B7%B5%E4%BC%81%E6%A5%AD%E7%B4%B9%E4%BB%8B_1220.pdf(閲覧日:2024年3月11日)

 

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