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「学ぶ」を組織文化に!ラーニングカルチャー醸成の秘訣と事例

ラーニングカルチャー

「うちの従業員は、学ぶことに消極的だ」
「研修をしても、なかなかスキルアップにつながらない

このような悩みを抱えていませんか?

現代のビジネス環境は変化が激しく、企業が成長し続けるには、従業員一人一人が常に学び続ける姿勢が不可欠です。

ところが、パーソル総合研究所が2023年に行った調査[1]によると、「業務外の学習時間なし」が全体の56.1%、「研修なし(過去3年間)かつ学習なし」が全体の48.5%と、多くの就業者が学びを習慣化していません。

一方で、無学習者と比べ、週1時間以上学習している人は、働くことを通じて幸せを感じている実感が20.3%高く、ワーク・エンゲイジメントも17.3%高いことが分かっています。

加えて、学びの「活用文化」「共有文化」「奨励文化」が高い組織は、従業員の学習意欲が高く、学びの共有が進んでいることも明らかになりました。

そこで注目されているのが「ラーニングカルチャー」です。従業員が自ら学び、成長することを組織文化として根付かせることで、従業員のスキルやエンゲージメントの向上、企業の競争力強化につながります。

この記事では、ラーニングカルチャー醸成のメリット・デメリット、成功事例、具体的な導入ステップを分かりやすく解説します。ぜひ、自社の組織づくりにお役立てください。

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1. ラーニングカルチャーとは?:成長を加速させる組織の土壌

ラーニングカルチャーとは、「学習する姿勢」が深く根付いている組織文化のことです。従業員一人一人が、常に新しい知識やスキルを学び続ける意欲を持ち、教え合い、成長できる環境が組織全体に広がっている状態を指します。

従来、企業における学習は、教育担当者や講師が主体となって業務に必要な知識や情報を画一的に教える形が一般的でした。

従業員に必要な知識や情報を教え込むことに重点が置かれるため、従業員は受動的な学習が中心となりがちです。これは「トレーニングカルチャー」といえるでしょう。

しかし、変化の激しい現代社会においては、従業員一人一人の自律的学びと、それによる知識技術の向上やイノベーションのが、企業の持続的な成長には不可欠です。

ラーニングカルチャーが根付くことで、組織はより柔軟かつ迅速に変化に対応できるようになり、競争力の強化につながります。

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2. ラーニングカルチャー醸成のメリット・デメリット

ラーニングカルチャーの醸成には、多くの利点がある一方で課題も存在します。ここでは、メリットとデメリットをそれぞれ見ていきましょう。

2-1. メリット

ラーニングカルチャー醸成のメリットは以下が挙げられます。

従業員のモチベーション・エンゲージメント向上

ラーニングカルチャーが根付くと、従業員は自己成長や自己実現の機会をより多く得ることができます。

例えば、キャリアプラン実現のための勉強や新しいことへの積極的な挑戦などです。これらは従業員のモチベーション向上につながります。

また、企業が従業員の多様な学びを支援すれば、従業員の企業への愛着や思い入れの気持ちが深まり、エンゲージメントの向上が期待できます。

従業員のスキル・能力向上

ラーニングカルチャーを前向きに捉える従業員は、より良いパフォーマンスの発揮や自己成長につながる学習に注力する傾向があります。

結果、新しいスキルや知識の習得はもちろん、さまざまな学習を通して視野が広がることで変化に柔軟に対応する力も養われるでしょう。

イノベーションの創出

イノベーションの創出には、多様なアイデアを生み出すことが重要です。

ラーニングカルチャーが醸成されると、従業員はさまざまな学習を行ったり、積極的に新しいことに挑戦したりする中で物事を多角的に捉えられるようになります。それにより、斬新なアイデアを生み出しやすくなり、イノベーションの創出につながります。

企業の競争力強化

ラーニングカルチャーによって従業員のスキルや能力が底上げされれば、生産性や顧客満足度の向上が期待できます。

また、イノベーションが起こりやすくなることで、顧客ニーズに対応した新しい製品・サービスの開発や新規事業の立ち上げなども促進されるしょう。

このように、ラーニングカルチャーの醸成は企業にとっても従業員にとってもメリットがあり、双方の持続的な成長を促します。

2-2. デメリット

ラーニングカルチャーを醸成する際のデメリットは以下の通りです。

短期的な成果が見えにくい

ラーニングカルチャー醸成を成功させるには、継続的に取り組む必要があります。短期間で実現し、成果を上げようとすると、従業員の理解や納得が得られずに失敗する可能性が高まるでしょう。

醸成のためのリソースが必要

ラーニングカルチャーの醸成において、企業には学習環境を整備し、従業員一人一人のニーズやレベルに合わせて学習機会を提供することが求められます。これを実現するには費用や労力が必要です。

具体的には、学習コンテンツの開発・購入、学習管理システム(LMS)の導入、セミナーや研修の開催などが挙げられます。

新しい仕組み・環境づくりが必要

従業員の学習や挑戦に対して、プロセスや努力を反映する評価制度やフィードバック体制の構築、間違いや失敗を恐れずに挑戦できる環境づくりなど、ラーニングカルチャーの醸成を促す新しい仕組みや環境づくりが必要です。

ラーニングカルチャーの醸成は、短期的な施策ではなく長期的な投資として捉え、組織全体で「学習」の価値を共有し、仕組みや環境を整えことが重要です。


3. ラーニングカルチャーを組織に根付かせる5ステップ

ラーニングカルチャーは、一朝一夕に醸成できるものではありません。組織に深く根付かせるためには、段階的なアプローチが必要です。ここでは、5つのステップに整理して解説します。

3-1. ステップ1:現状分析

従業員へ学習に関するアンケートやヒアリングを行い、現状を把握します。

【現状把握のポイント】

  • 従業員の学習意欲はどれくらいか?
  • どのような学習ニーズがあるのか?
  • どのような学習機会が提供されているのか?
  • 学習を阻害する要因は何か?

現状を分析し、課題や改善点を整理しましょう。

3-2. ステップ2:目的・ビジョンの明確化

ラーニングカルチャーを醸成する目的や、目指すべきラーニングカルチャーを具体的に設定します。これらは、経営戦略や事業戦略とひも付けて考えることが重要です。

3-3. ステップ3:学習機会の提供

研修やセミナー、eラーニングなど、多様な学習方法を設け、従業員のニーズに合った学習機会を提供します。例えば、eラーニングなら時間や場所を選ばずに学習できるため、隙間時間にスマホで学ぶことも可能です。

従業員が積極的に学習に取り組めるよう、魅力的な学習機会を提供しましょう。

関連記事(弊社eラーニングサービスサイトに遷移します)
eラーニングで企業の社員教育はここまでできる!研修マップ付きで活用法を解説

3-4. ステップ4:心理的安全性の確保

心理的安全性とは、「チームメンバーに非難される不安を感じることなく、安心して自身の意見を伝えることができる状態」を指します。心理的安全性を確保するには、以下のような取り組みが有効です。

  • オープンなコミュニケーション促進
  • 失敗に対して建設的なフィードバックを行うなど、失敗から学べる環境をつくる
  • 教え合い、助け合関係性を築く

心理的安全性が確保された環境であれば、従業員は安心して学習に取り組むことができます。

3-5. ステップ5:評価・改善

導入した施策の効果を定期的に評価し、必要に応じて改善をします。評価と改善を繰り返すことで、ラーニングカルチャーをより良いものへと進化させていきます。

これらのステップを着実に実行することで、ラーニングカルチャーは組織に深く根付き、企業と従業員の成長を力強く後押しするでしょう。


4. ラーニングカルチャー定着のための注意点

ラーニングカルチャーを醸成するには、従業員一人一人の自発的な学習意欲の向上が重要です。そのため、従業員が安心して学べる環境づくりが欠かせません。以下の点に注意しながら、環境を整えましょう。

4-1. 学習の強制は避ける

強制的な学習は、学習意欲を低下させる可能性があります。従業員が学ぶことの意義を感じ、意欲的に取り組めるよう制度・環境づくりを行いましょう。

例えば、スキルアップがキャリアアップにつながる制度や、成功失敗を問わず学習を終えた人やイノベーションを生み出した人へのインセンティブ制度などの導入が挙げられます。社内報で学習成果を共有したり、スキルレベルを可視化する「スキルマップ」を取り入れたりすることも有効です。

関連記事(弊社コーポレートサイトに遷移します)
スキルマップとは?導入のコツと作成手順、企業事例を紹介

その他、自らテーマを選べる講座の提供、社内勉強会の開催なども、主体的な学習意欲を高める効果が期待できます。

4-2. 失敗を許容する文化を育む

失敗を恐れて挑戦することをためらっては、成長の機会を逃してしまいます。そのため、年齢や役職に関係なく、誰でも自由に意見やアイデアを伝えられるオープンなコミュニケーションを促進することが必要不可欠です。

評価の際は失敗を責めるのではなく、次に生かせるよう具体的にフィードバックすることで、失敗からの学びを促しましょう。1on1ミーティングなどを活用し、個別に相談しやすい環境をつくることも求められます。

4-3. 多様な学習スタイルに対応する

学習スタイルやペースは従業員によって異なります。多様な方法で学習できるようにすれば、一人一人の学習効果を高めることができます。

例えば、eラーニングを活用すれば、場所や時間に縛られずに自分のペースで学習することができます。また、動画教材、音声教材、テキスト教材など、さまざまな形式の学習コンテンツを提供したり、集合研修やOJTといった対面型の学習を取り入れたりすることも有効です。


5. ラーニングカルチャー醸成の成功事例

多くの企業が、試行錯誤しながらラーニングカルチャーの醸成に取り組んでいます。ここでは、業種が異なる2社の成功事例を見ていきましょう。

5-1. 事例1:SCSK株式会社(ITサービス)

SCSK株式会社は、従業員一人一人のキャリア形成意識を高め、持続的成長とそれによる事業貢献の促進を目的として、独自のラーニングカルチャーを醸成しています。

具体的な取り組みには、以下が挙げられます。

  • 専門性認定制度:営業職、技術職で必要となるスキルを可視化し、従業員のスキルアップを促進しています。認定保有者には、手当や一時金を支給することで学習意欲の向上を図っています。
  • CDP制度:年1回の上司との面談により、従業員一人一人のキャリア開発をサポートする制度です。キャリアパス(キャリア目標達成への道筋)を明確にすることで、従業員の自律的なキャリア形成を促します。
  • SCSK i-University:全従業員に継続的な学びと成長の機会を提供するために設定された人材育成体系です。200種類以上の研修プログラムが提供され、指名または本人の申し込みによって受講します。
  • 自己研さん推進施策「コツ活」:従業員が業務時間外に取り組んだ自己研さん活動の実績を登録することで、一定のインセンティブが支給される制度です。従業員の自主的な学習を促進しています。
  • 学び手当:毎月支給される学び支援の手当です。 書籍購入や外部セミナー受講など、従業員の主体的な学習を金銭面でサポートします。

5-2. 事例2:株式会社ヤマハミュージックジャパン(楽器・音響機器販売、教室事業)

株式会社ヤマハミュージックジャパンは、2つ以上の専門知識を有するΠ(パイ)型人材を育成するため、企業内大学「ヤマハミュージックアカデミー」を設立しました。

「ヤマハミュージックアカデミー」の特徴は以下が挙げられます。

  • 講座の内製化:100人弱の従業員が学部・学科メンバーとなり、それぞれの専門知識や経験を生かした講座を開講しています。
  • スモールスタート:コンテンツの形式や質にこだわり過ぎず、気軽に講座制作に挑戦できる環境をつくることで、従業員の参加意欲を高めています。
  • ワークショップ型の運営:効率重視のファクトリー型ではなく、対話重視のワークショップ型で学科運営をすることで、メンバーが自ら考えて行動し学ぶ環境をつくっています。
  • 称賛文化:2カ月に1回行われる推進会議で講座制作が進んでいる学科を称賛するなど、称賛文化を醸成することで、従業員のモチベーション向上を図っています。
  • ナレッジ共有の場:従来は属人的になりがちだったナレッジをオンライン上で共有・蓄積することで、従業員全体のスキルアップにつなげています。

これらの事例は、企業規模や業種にかかわらず、ラーニングカルチャーを醸成できることを示唆しています。

関連記事(弊社コーポレートサイトに遷移します)
〔株式会社ヤマハミュージックジャパン・前編〕 組織開発の手段として企業内大学を活用。従業員が自走する組織を目指す


6. まとめ

ラーニングカルチャーは「学習する姿勢」が深く根付いている組織文化を指し、変化の激しい現代において企業の持続的な成長に不可欠なものです。ラーニングカルチャーが根付いている企業は、高い競争力と柔軟性を持ちます。

ラーニングカルチャーを醸成するメリットは以下の通りです。

  • 従業員のモチベーション・エンゲージメント向上
  • 従業員のスキル・能力向上
  • イノベーションの創出
  • 企業の競争力強化

多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。

  • 短期的な成果が見えにくい
  • 導入のためのリソースが必要
  • 新しい仕組み・環境づくりが必要

ラーニングカルチャーの醸成には、以下の5ステップで段階的にアプローチすることが有効です。

ステップ1:現状分析
ステップ2:目的・ビジョンの明確化
ステップ3:学習機会の提供
ステップ4:心理的安全性の確保
ステップ5:評価・改善

従業員一人一人の学習意欲を高めるために、以下の点に注意しながら従業員が安心して学べる環境を整えましょう。

  • 学習の強制は避ける
  • 失敗を許容する文化を育む
  • 多様な学習スタイルに対応する

ラーニングカルチャー醸成の成功事例として、以下の2社を紹介しました。

  • SCSK株式会社
  • 株式会社ヤマハミュージックジャパン

ラーニングカルチャーの醸成は、従業員一人一人の成長を促進し、企業の競争力を高めます。ビジネス環境の変化に柔軟に対応し、持続的成長する企業となるための施策として、ラーニングカルチャーの醸成を検討してみてはいかがでしょうか。

[1] 株式会社パーソル総合研究所「学び合う組織に関する定量調査 調査結果」, (閲覧日:2023年7月30日)

参考)
経済産業省「イノベーション創出のためのリカレント教育事例集 企業編」,2022年2月,https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/houkokusho/reiwa3_company_case_studies.pdf(閲覧日:2024年7月9日)
厚生労働省「グッドキャリア企業アワード2019 好事例集」,https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000584179.pdf (閲覧日:2024年7月9日)
株式会社パーソル総合研究所「大人が学び続ける組織文化(ラーニング・カルチャー)をいかに醸成するか ~ミドル・シニア就業者の学び直しの実態調査より~」, https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/202403210001.html(閲覧日:2023年7月30日)
SCSK株式会社「人材育成」,『SCSK』, https://www.scsk.jp/corp/csr/professionals/training.html(閲覧日:2023年7月30日)

 

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