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パルスサーベイとは?質問設計のポイントや実施手順を解説【事例あり】

パルスサーベイとは?質問設計のポイントや実施手順を解説【事例あり】

「自社でエンゲージメントサーベイを行っているが、結果分析や改善施策に時間がかかっている」

年に1度程度の頻度で行われるエンゲージメントサーベイや従業員満足度調査は、質問項目が多く、多様なテーマについての組織状態を深く分析できるというメリットがあります。

しかし、従業員を取り巻くビジネスや職場の環境は、日々目まぐるしく変化しています。従業員の意欲低下やメンタルヘルスの不調などをリアルタイムでキャッチするためには、より頻度の高い調査(サーベイ)も必要です。

そこで多くの企業に注目されているのが、パルスサーベイです。

株式会社HRビジョンが、国内企業3091社を対象として2021年に実施した調査[1]によると、パルスサーベイを実施している企業の割合18.9%でした。ただし従業員5001人以上の大企業に限定すると、その割合は36.8%と4割近くがすでに実施していることが分かります。

実際に日本電信電話株式会社(NTT)やPayPay株式会社では、パルスサーベイを活用した取り組みが従業員のメンタルヘルス改善などの成果に結び付いています。

本稿ではパルスサーベイの特徴とメリット、実施の流れ、注意点、さらに企業の成功事例を紹介しています。

従業員の健康状態や心理状態をリアルタイムで把握し、効果的な組織運営を実現したい方はぜひ参考にしてください。

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1. パルスサーベイとは

パルスサーベイとは、企業が従業員を対象として行う意識調査の手法を指します。高頻度で繰り返し実施される点が特徴です。

実施の目的は、従業員の満足度エンゲージメント(働きがい、企業への愛着)の確認、メンタルヘルスチェックなど企業によってさまざまです。

1-1. パルスサーベイの定義と特徴

「Pulse(パルス)」は英語で「脈拍」を意味します。パルスサーベイは、まるで脈を打つように、質問項目の少ない調査を頻回に実施する点が特徴です。

一般的なサーベイが質問項目を50問以上必要とするケースが多いのに対して、パルスサーベイの1回当たりの質問項目は10~15問程度で、数分で回答できるケースが多く見られます。

また、1回の所要時間が短い代わりに実施の回数は週1~月1回と、年に1回程度の実施が一般的な従業員満足度調査などに比べてかなりの高頻度で行われます。

これだけ頻繁に実施するのは、従業員の意識や健康状態などをリアルタイムで把握し、問題点を早期に発見するためです。パルスサーベイを実施すれば、従業員の悩みや不満をいち早くキャッチし、すぐに改善の手だてを打つことができます。

1-2. パルスサーベイの質問項目例

パルスサーベイの質問項目は、多くても15問程度と数が限られています。そのため、求める情報を収集できるよう、しっかりと考慮して質問内容を決めなくてはなりません。

パルスサーベイの質問項目を作成するとき意識するべきなのは、データの変動を捉えやすい内容になっているかどうかです。組織や従業員にどのような変化が起きているかは、データの変動から分析していきます。そのため、前回と今回で回答にほとんど変化がないと予想される質問は望ましくありません。

データの変動を観察するためには、以下の点に注意して質問を設計する必要があります。

  • 時期を限定する文言を入れる
  • 測定したいテーマについて複数の質問項目を設ける
  • 測定したいテーマについて質問内容をレベル分けする

時期を限定する文言を入れる

「現在」や「この1週間に」といった質問の対象時期を限定する文言を入れることで、時期ごとの状況の変化が明確になります。また、従業員も「いつの時点での状態について回答すればよいのだろう」と迷わずに済みます。

例)

  • この1カ月の間に、業務を通して自身の成長を実感する機会があった(エンゲージメントの測定)
  • この1週間で、よく眠れないと感じたり食欲がなかったりした日があった(メンタルヘルスチェック)

測定したいテーマについて、複数の質問項目を設ける

測定したいテーマについて、複数の異なる視点から質問項目を作成します。

例えば、社内コミュニケーションについての状況を把握したい場合、「職場のコミュニケーションは良好だと思う」という質問1つのみにすると、多くの従業員が差し障りのない回答を選ぶと予想されます。

そこで、「悩みや不満を相談できる相手がいる」「上司にプライベートな相談ができる」といった質問を加えることで回答に変化が生まれ、より正確な測定ができます。

例)

  • 当社の経営理念を理解している(経営理念の浸透の測定 1/3)
  • 経営陣の意思決定は、経営理念に基づいていると思う(経営理念の浸透の測定 2/3)
  • 自分の業務は組織の目標に貢献していると思う(経営理念の浸透の測定 3/3)

測定したいテーマについて、質問内容をレベル分けする

データの変動を捉えるためには、1つのテーマでレベル別の質問をするのも効果的です。

例えば、従業員満足度に関する質問であれば、以下のような形です。

レベル1:最低限満足していなければ「はい」と回答できない質問
レベル2:ある程度満足していなければ「はい」と回答できない質問
レベル3:相当満足していなければ「はい」と回答できない質問

仮に、前回と今回のサーベイ結果を比べ、レベル1・3の質問に対する「はい」の回答数はキープしつつ、レベル2の質問に対する「はい」の回答数が増加したとします。その結果からは、従業員満足度が向上したことが読み取れます

このように、質問が1つだけの場合よりも3段階や5段階などレベル別の質問を複数投げかけることで、従業員や組織の状態がどのように変動しているかが測定しやすくなります。

例)

  • 業務内容や待遇に、大きな不満はない(従業員満足度 レベル1)
  • 現在の自身の業務内容や役職、待遇に満足している(従業員満足度 レベル2)
  • 業務内容や待遇に満足していて、ずっとこの企業で働きたいと思う(従業員満足度 レベル3)

1-3. パルスサーベイの活用シーン

パルスサーベイの目的は特に限られておらず、事業運営のさまざまな場面で活用が可能です。ここでは代表的な3つの活用シーンを紹介します。

  • 新メンバーのオンボーディング
  • 人事施策の効果検証
  • メンタルヘルスチェック

新メンバーのオンボーディング

パルスサーベイを、新入社員や異動後の従業員のオンボーディングに活用するケースがあります。オンボーディングとは、新メンバーが組織にスムーズになじめるようにサポートすることを指し、新メンバーに早く力を発揮してもらう狙いがあります。

月に1回程度のパルスサーベイで、対象となる従業員が新しい環境になじめているか、配属先でストレスを感じていないかなどをこまめにチェックし、問題があればすぐに対処します。

人事施策の効果検証

パルスサーベイは、新しい人事施策を導入したときの効果検証に適しています。施策の導入前と導入後に複数回にわたって実施することで、新しい施策が組織に及ぼした変化を測定できます。

また、パルスサーベイは新しい施策に対する従業員の反応を確認するためにも役立ちます。パルスサーベイの結果から明らかになった現場の声を反映して、施策をブラッシュアップしていきましょう。

メンタルヘルスチェック

パルスサーベイは、従業員のメンタルヘルスチェックにも活用できます。短期間で繰り返し実施するパルスサーベイであれば、従業員の不調を早期発見し、深刻化する前に対処することが可能です。

もともと、企業には労働安全衛生法によって従業員のストレスチェックが義務付けられていますが、実施頻度は年1回です(従業員が常時50人未満の企業は努力義務)[2]従業員のコンディションを常に把握しておくには、上記に加えて週1~月1回程度のパルスサーベイの実施をおすすめします。

1-4. パルスサーベイと他のサーベイとの違い

企業が従業員を対象にして実施するサーベイには、いくつかの種類があります。ここでは、以下の3つのサーベイの特徴とパルスサーベイとの違いについて解説します。

  • エンゲージメントサーベイ
  • モラールサーベイ
  • 組織サーベイ

エンゲージメントサーベイ

エンゲージメントサーベイとは、従業員の仕事に対する熱意・責任感や企業への愛着、働きがいなどを把握するための意識調査です。エンゲージメントが従業員の定着率や組織全体の生産性を左右するといわれる現在、ニーズが高まっています。

エンゲージメントサーベイは調査の目的・内容を表した言葉であるのに対して、パルスサーベイは高頻度で調査を繰り返す手法を表した言葉であるという違いがあります。

一般的なエンゲージメントサーベイの質問項目は50問を超え、回答者にとっての負担も大きいため年1回程度の実施が目安です。そこで、月1回、週1回など高頻度で、質問項目を15問程度に抑えたエンゲージメントサーベイを実施することで、エンゲージメントを調査するパルスサーベイの実施が可能になります。

モラールサーベイ

モラールサーベイは、「従業員が組織として目標を達成する意欲をどの程度持っているか」を把握するための意識調査です。「モラール」とはフランス語で「士気」を意味し、第二次大戦中にアメリカ軍の士気高揚のために考案されました。質問項目は、業務内容や待遇、職場の人間関係に関するものが主です。

モラールサーベイもエンゲージメントサーベイと同様、調査する目的・内容を表す言葉です。質問項目数を抑えて高頻度で実施すれば、業務への意欲や意義(モラール)を調査するパルスサーベイとなります。

組織サーベイ

組織サーベイは、企業が自社の課題解決のために組織の状態を把握する目的で実施する調査の総称です。パルスサーベイをはじめ、エンゲージメントサーベイ、モラールサーベイもこの中に含まれます。

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2. パルスサーベイが注目される背景

ここでは、多くの企業がパルスサーベイに注目する背景について見ていきましょう。

2-1. 健康経営への取り組み

パルスサーベイが注目される理由の1つは、健康経営の実践に有効な手段であることです。

健康経営とは、企業が主体となって従業員の健康を維持・増進し、生産性の向上を目指す経営手法を指します。少子高齢化によって人材確保が多くの企業の課題となっている現在、既存の従業員に心身共に健康な状態で、長く活躍してもらうことが重要です。

短いスパンで定期的に従業員のコンディションを調査するパルスサーベイは、健康経営の基本となる従業員の健康状態の把握において効力を発揮します。経済産業省によって健康経営優良法人に認定された、びわ貨物運送株式会社も月に1度のアンケートを実施している企業の1つです[3]

びわ貨物運送株式会社では毎月のアンケートのレポートを従業員にも共有するようにしたところ、社内の飲酒・喫煙者の割合が減ったという結果が出ています。

このことから、パルスサーベイが経営戦略の立案に役立つだけでなく、従業員の意識改革も促し、自発的な改善アクションへとつながる効果があることが分かります。

2-2. 人的資本経営への取り組み

健康経営と同じく、従業員のパフォーマンスを最大化することを狙いとした、最近注目の経営手法が人的資本経営です。人的資本経営では人材を消費する資源ではなく、投資によって価値を最大化するべき資本と考えます。

従業員に能力を最大限発揮してもらうためには、エンゲージメント向上が鍵となります。従業員のエンゲージメントを高めることで、組織に貢献したいという自発的な気持ちが生まれ、より良いパフォーマンスが期待できるためです。

人的資本経営を実践するには、まず従業員のエンゲージメントの状態を把握し、エンゲージメントを低下させる要因を追究しなくてはなりません。

パルスサーベイを実施すれば、従業員のエンゲージメントをリアルタイムで測定し、スピード感を持ってエンゲージメント向上の施策を取ることができます。


3. パルスサーベイのメリット

パルスサーベイのメリットについて、具体的に解説していきます。企業が得られるメリットは、主に以下の4つです。

3-1. 組織状態をリアルタイムで把握できる

パルスサーベイなら、まさに「今この時点」での組織の状態を可視化できます。

従業員の意欲や健康状態、あるいは組織に対する考えなどは日々変化しています。数カ月に1度や年に1度のサーベイでは、組織の状態をリアルタイムで把握することは難しいでしょう。

特にメンタルヘルスの不調は、家庭の事情など業務外の要因で突然起こるケースもあるため、こまめなサーベイで従業員の心理状態を把握しておくことが重要です。

3-2. PDCAサイクルが速い

パルスサーベイを導入することで、課題解決に向けたPDCAサイクルも速くなります。

通常のサーベイであれば質問数が多いために結果分析に時間がかかり、改善のアクションをリアルタイムで行うのは難しいでしょう。この点、パルスサーベイは質問項目が少ないため、結果の分析から改善策の立案、現場へのアプローチまでをスピーディーに行うことが可能です。

さらに改善策の実施後も、短いスパンで継続的に組織状態の変化を確認できます。その結果を分析して、さらに効果的な施策を講じることも可能です。

3-3. 運用の負担が少なく内製もできる

質問項目が少ないことは、運営側の業務負担を軽くするという意味でもメリットがあります。

質問項目が数十問以上のサーベイは、質問項目の設計から集計、分析の手間もそれだけ多くなります。そのため外注する企業もありますが、手間が減る分コストが増えることがデメリットです。

一方、パルスサーベイは10問前後の質問項目のため、ポイントを押さえれば自社で設計ができます。集計や分析の手間も少なく、運用を担当する部門の負担を最小限にしてサーベイを導入できることが魅力です。

3-4. 経営課題を従業員に共有できる

パルスサーベイには、経営層が重視している課題を現場に浸透させる効果もあります。

パルスサーベイは、主に従業員側の状態や意見をデータとして収集する手段ですが、経営層が組織運営においてどのような課題を感じているかをメッセージとして伝える手段とすることも可能です。

例えば「企業への愛着」や「働きがい」に関する質問項目が多ければ、従業員にも経営層が現在エンゲージメントを重視している状況が伝わるでしょう。

週に1度や月に1度のパルスサーベイで繰り返し質問に回答することで、従業員は自ずとそのテーマにおける自身の状態を意識します。実施後に適切なフィードバックを行えば、改善に向けた従業員の自発的な行動も期待できるでしょう。


4. パルスサーベイの実施の流れ

ここでは、パルスサーベイを実施する手順について解説します。

4-1. 経営課題と実施目的の明確化

パルスサーベイは漫然と導入するのではなく、自社の経営課題を解決するという明確な目的を持って行わなくてはなりません。

企業が抱える課題はそれぞれ異なります。「生産性の向上」が最優先の企業もあれば、「健康経営の実践」を掲げている企業もあるでしょう。まずは自社が今取り組むべき課題に基づき、パルスサーベイによってどのようなデータを収集したいのかを整理する必要があります。

4-2. 質問項目の設計(ツールの選定)

次は実施目的に沿って、質問項目を設計していきます。パルスサーベイは、直感的に答えられる5段階評価式やYes/No選択式にするのがおすすめです。実施回数が多いパルスサーベイは、いかに回答や結果分析の手間を抑えるかが重要です。そのためには記述式よりも選択式が望ましいでしょう。

自社で設計することが難しい場合には、既成のツールを活用するという選択肢もあります。既成のツールによっては自由に質問項目を作成できないことがあるため、自社の実施目的を達成できるツールであるかを十分に確認してから導入しましょう。

4-3. サーベイの実施

質問項目が完成したら、実施の準備に移ります。

事前に、メールやチャットツールによって実施の目的や回答期間、所要時間などを対象者に周知しておきましょう。

パルスサーベイの1回当たりの所要時間は多くの場合5分程度ですが、できるだけ業務にゆとりのあるタイミングで実施するとよいでしょう。より正確に従業員の状態を把握するためには、回答に集中できる環境を整えることが大切です。

4-4. 結果の分析と改善の施策

実施後はすぐに結果の分析を行います。高頻度のパルスサーベイでは、実施から結果分析、改善のアクションまでのスピードが重要です。

特に重視すべきは、前回のサーベイ結果から変動している数値です。前回よりも意欲の低下やストレス状態の悪化、仕事や職場環境への不満の増加などの変化が見られた場合は、迅速に対処しなくてはなりません。

すぐに改善の施策を打ち、次回のサーベイで数値が改善されるか注視しましょう。

4-5. 従業員へのフィードバック

最後に、パルスサーベイの結果について従業員にフィードバックを行います。

結果が良くなかった点について今後の改善方針を示すことはもちろん、良かった結果についても従業員としっかりと共有しましょう。自社の組織としての強みを共有すれば、その一員でいることに誇りが持てるようになり、エンゲージメントの向上が期待できます。


5. パルスサーベイ実施の注意点

ここでは、パルスサーベイの効果を十分に高めるために、実施に際して注意しておきたいポイントを解説します。

5-1. 質問項目を10~15問程度にする

パルスサーベイの質問項目は10問前後が理想的です。

実施頻度の高いパルスサーベイは、1回当たりの質問項目が多いと回答する従業員の負担が増加します。それにより、パルスサーベイの実施がかえって業務の生産性を低下させてしまったり、従業員に不満を抱かせて真剣に回答してもらえなかったりするリスクが生じます。

質問項目はできるだけ無駄を省き、多くとも15問程度に収めるとよいでしょう。

5-2. 実施の目的と活用方法を事前に周知する

パルスサーベイを実施する前に、従業員に実施目的と、結果をどのように活用するかを伝えておきましょう。

パルスサーベイの質問項目には、仕事への意欲や待遇への不満、メンタルの状態について問うものも含まれます。そのため「ひょっとして人事評価につながるのかもしれない」という懸念があると、従業員が正直に回答しにくくなる可能性があります。

組織としての課題解決のための調査であることを伝え、それでも従業員側に不安が残る場合には匿名での実施にしてもよいでしょう。

5-3. 従業員へのフィードバックを充実させる

実施前の説明と同じく、パルスサーベイ実施後の従業員へのフィードバックも重要です。

企業側が一方的にパルスサーベイを現場に導入して、その結果や改善策を共有しなければ、従業員は「意味がないことに時間や労力を費やしている」と不満を感じるでしょう。

サーベイで収集した現場の声に基づいた改善策を周知すれば、従業員は自分の意見が施策に反映されていると実感できます。企業から必要とされているという満足感が得られ、エンゲージメントの向上も期待できます。

5-4. 質問項目はこまめに見直す

パルスサーベイの質問項目は1度設計して終わりではなく、実施の度に見直しが必要です。

従業員の状態だけでなく、企業が抱える課題も時間とともに変化していきます。常に同じ質問項目でサーベイを実施しても、タイムリーな経営課題に対して有益な結果を得ることはできません。

また従業員にとっても、頻度の高いパルスサーベイで同じ質問を繰り返されると回答がルーチン化してしまい、おざなりになる可能性があります。

実施時点での最も優先するべき経営課題を明確にし、それに基づいて質問項目の見直しを行いましょう。


6. パルスサーベイを実施している企業事例

最後に、実際にパルスサーベイを導入して組織運営で成果を上げている2つの企業事例を紹介します。

6-1. 日本電信電話株式会社(NTT)

NTTでは健康経営推進の一環として、2020年からパルスサーベイを導入しました。

同社のパルスサーベイの特徴は、セルフケアに加えて上長とのコミュニケーション(ラインケア)を促していることです。従業員に常に自身の状態を意識させてメンタルヘルスの管理を促すとともに、不調を感じている従業員に組織としていち早くアプローチする仕組みを構築しています。

その結果として、2018年度には0.83%だったメンタルヘルス休職者の発生割合を、2021年度に0.4%まで低下させることができました[4]

なお、この数値の改善は、パルスサーベイだけでなく、健康管理システムや遺伝子検査の導入など、さまざまな施策の成果であると考えられています。

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6-2. PayPay株式会社

PayPay株式会社では、新型コロナウイルスの感染防止を契機として、従業員の働き方をフルリモートに切り替えました。離れた場所にいて顔が見えない従業員のコンディションをリアルタイムで把握する手段として活用されたのが、パルスサーベイです。

同社では毎月2回、従業員に所要時間1分程度のアンケートが配信されます。その回答を人事部が確認し、従業員のコンディションの分析が行われます。

人事部には過去2年分のサーベイの分析結果が蓄積されているため、それらに照合することで従業員の状態が明らかになる仕組みです。この結果を基に、マネジメント施策や人材配置など組織全体へのアプローチと、個人へのアプローチを行います。

具体的な個人へのアプローチとしては、人事担当者が面談を行ったり、産業医との面談を促したり、社内外の健康相談窓口につなげたりするケースなどがあります。

事業スピードが速く、変化が激しい同社の環境は、従業員にとってやりがいのある一方、チームの中で心身の不調を言い出しづらいと感じさせる可能性もあります。従業員の心身の健康の維持と事業成長の両立を実現するべく、健康状態の改善や不調の予防を重視する姿勢を大切にしています。


7. まとめ

パルスサーベイは、従業員意識調査の手法の1つです。週1回や月1回といった高頻度で、10~15問前後のアンケートを繰り返し実施します。

質問項目が少ないため、質問を設計する際はデータの変動を観察できるよう以下の点に注意が必要です。

  • 時期を限定する文言を入れる
  • 測定したいテーマについて複数の質問項目を設ける
  • 測定したいテーマについて質問内容をレベル分けする 

企業が従業員を対象に実施するサーベイには、エンゲージメントサーベイ、モラールサーベイ、組織サーベイなどがあります。

エンゲージメントサーベイやモラールサーベイは調査の目的・内容を表した言葉で、パルスサーベイは手法を表した言葉である点が異なります。組織サーベイは組織の状態を把握する目的で実施する調査の総称で、パルスサーベイもその中に含まれます。

パルスサーベイの代表的な活用シーンは以下の3つです。

  • 新メンバーのオンボーディング
  • 人事施策の効果検証
  • メンタルヘルスチェック

また、現在パルスサーベイが多くの企業から注目される背景としては、以下の2つが挙げられます。

  • 健康経営への取り組み
  • 人的資本経営への取り組み

パルスサーベイを導入することで、企業は主に以下の4つのメリットが得られます。

  • 組織状態をリアルタイムで把握できる
  • PDCAサイクルが速い
  • 運用の負担が少なく内製もできる
  • 経営課題を従業員に共有できる

パルスサーベイを実施する際の手順は、以下の通りです。

  1. 経営課題と実施目的の明確化
  2. 質問項目の設計(ツールの選定)
  3. サーベイの実施
  4. 結果の分析と改善の施策
  5. 従業員へのフィードバック

また、パルスサーベイの実施に際しては、以下の点に注意する必要があります。

  • 質問項目は10~15問程度にする
  • 実施の目的と活用方法を事前に周知する
  • 従業員へのフィードバックを充実させる
  • 質問項目はこまめに見直す

最後に、パルスサーベイを実際に導入している企業事例をご紹介しました。

  • 日本電信電話株式会社(NTT)
  • PayPay株式会社

パルスサーベイを活用することで、実際に経営課題の解決に成功した企業もあります。定期的に実施し、組織状態の可視化と改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

パルスサーベイとエンゲージメントサーベイの違いはなんですか?

パルスサーベイとは、10~15問程度の質問項目で構成された調査を、高頻度で繰り返し実施する手法を指します。一方エンゲージメントサーベイとは、従業員の仕事への熱意・責任感や企業への愛着、働きがいなどを把握するための意識調査です。

パルスサーベイの頻度はどのくらいですか?

企業やツールによってさまざまですが、一般的には週1~月1回の短いスパンで実施されます。

パルスサーベイは匿名ですか?

パルスサーベイには実名か匿名かという決まりはありません。従業員に「人事評価に影響するかもしれない」という不安を抱かせないため、匿名で実施する企業もあります。

[1] 株式会社HRビジョン「パルスサーベイを「行っている」企業は約2割。調査の目的は「従業員エンゲージメントの調査」が約8割」,『日本の人事部』,https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/2670/(閲覧日:2024年4月16日)
[2] 厚生労働省労働基準局安全衛生部 労働衛生課産業保健支援室「労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル」,P4.29,https://www.mhlw.go.jp/content/000533925.pdf(閲覧日:2024年5月1日)
[3] 全国健康保険協会滋賀支部「令和3年度健康経営事例集」,P10,https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shiga/kenkou/r3kenkoukeiei.pdf(閲覧日:2024年4月20日)
[4] 健康長寿産業連合会「健康経営取り組み事例 日本電信電話 株式会社」,https://www.well-being100.jp/wp/wp-content/uploads/2023/03/230316_011_日本電信電話株式会社.pdf(閲覧日:2024年4月19日)

参考)
株式会社リンクアンドモチベーション「パルスサーベイとは?実施する意味やメリット・具体的な事例まで徹底解説!」,『MOTIVATION CLOUD』,https://www.motivation-cloud.com/hr2048/c233(閲覧日:2024年4月18日)
パーソルホールディングス株式会社「パルスサーベイとは?活用シーン例・導入メリット・実施の流れを解説」,『MITERAS』,https://www.persol-pt.co.jp/miteras/column/pulsesurvey/(閲覧日:2024年4月18日)
株式会社HRBrain「パルスサーベイとは?意味や目的と質問項目を解説」,『HRBrain』, https://www.hrbrain.jp/media/human-resources-management/pulse-survey(閲覧日:2024年4月18日)
株式会社ビジネスリサーチラボ「パルスサーベイの科学:高頻度アンケートの分析、限界、対策(セミナーレポート)」,『BUSINESS RESEARCH LAB』,https://www.business-research-lab.com/220725-2/(閲覧日:2024年4月25日)
日本経済新聞「高ストレス社員比率、最悪 NTTは定期調査で状態確認」, 2023年9月12日,https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0768S0X00C23A7000000/(閲覧日:2024年4月19日)
西日本電信電話株式会社「新しい働き方・職場づくり」,『NTT西日本』,https://www.ntt-west.co.jp/sustainability/wellbeing/health/(閲覧日:2024年4月19日)
東日本電信電話株式会社「健康経営の推進」,『NTT東日本』,https://www.ntt-east.co.jp/sustainability/activities/diversity/remote-work/health-management/index.html(閲覧日:2024年4月19日)
PayPay株式会社「リモートワーク下での社員コンディションを可視化する」,『PayPay Inside-Out』,https://insideout.paypay.ne.jp/2021/08/24/close-up_vol1-jp/(閲覧日:2024年4月19日)

 

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