「××部はいつも自分たちの都合を押し付けてくる。調整が負担になっている」
こんな不満を社内で耳にすることはありませんか?
もしかすると、企業内の「対立」が大きくなっているのかもしれません。
対立と聞くと「できれば避けて済ませたい」「人間関係に悪影響が出る」といったネガティブなイメージを抱きがちです。
しかし企業内の対立は、うまく活用することで組織を成長させることにつながります。対立している双方が冷静に話し合い、お互いに納得できる解決策を妥協せずに探る手法が「コンフリクト マネジメント」です。
この記事では、コンフリクト マネジメントの概要やコンフリクト マネジメントを行うメリットと注意点、コンフリクト マネジメントの進め方、導入で求められるスキルを詳しく解説します。また企業の取り組み事例を紹介します。
ぜひ、組織内の対立を調整する際の参考にしてください。
「コンフリクト マネジメント」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。
目次
1. コンフリクト マネジメントとは?
コンフリクト マネジメントとは、企業内の対立をうまく活用し、組織の成長につなげる手法のことです。本章では、そもそもコンフリクトとは何か、コンフリクトが生じる要因は何か、コンフリクトに対する人の対応にはどのようなものがあるのかも併せ、コンフリクト マネジメントの概要を詳しく解説していきます。
1-1. コンフリクトとは
コンフリクト(conflict)は、主張や考えの「対立、衝突」という意味の言葉です。
ビジネスシーンでは、何かを議論したり変化に向き合ったりする場面などでコンフリクトが発生しやすくなります。
例えば、製品の製造体制を見直す検討において、「生産性を重視したい」経営チームと「品質にこだわりたい」製造チームの間で生じる考え方の対立が挙げられます。
このように、コンフリクトは特別なことではなく、組織があるところには必ず発生するものといえるでしょう。
1-2. コンフリクト マネジメントとは
コンフリクト マネジメントとは、組織間、従業員間のコンフリクトを「企業の活性化の機会」とポジティブに捉え、対立している当事者同士が傾聴し合い、双方が納得できるような着地点を見出していく手法です。
対立と聞くと、「職場内の人間関係を損ねてしまう」「業務が滞ってしまう」などネガティブな印象を抱きがちです。
しかし、コンフリクトを活用してうまくマネジメントすれば、プラスの結果を得ることができます。意見交換を活発に行うことで新しいアイデアが生まれたり、人間関係が強固になったりする可能性があります。その結果、対立した両者の利益になる解決策が見つかるだけでなく、組織全体の成長にも役立つでしょう。
1-3. コンフリクトを生み出す三つの要素
コンフリクト マネジメントを行うためには、コンフリクトがどのような背景で起きるのかを知る必要があります。コンフリクトを生み出す要素は以下の三つだといわれています。
- 条件の対立
- 認知の対立
- 感情の対立
条件の対立
立場や役割の違いによって起こる目的や条件の対立のことです。例えば「経営側のコスト重視VS製造側の品質重視」のような対立は、それぞれの部門の役割などの条件の違いが要因であることが多くあります。
認知の対立
思考や価値観の違いによる対立のことです。同じ事象であっても、人の考え方はさまざまなため、その違いから対立が生じます。認知の対立の例としては、技術や品質を追求したいエンジニアチームとコストや納期を重視する営業チームにおける「理想追求VS現実路線」の対立などがあります。
感情の対立
双方が抱く感情の違いによって生じます。この対立は人間の心情が根底にあるため解決が難しい傾向にあります。例えば「希望VS不安」「優越感VS劣等感」といった反対の感情を持っている場合に対立が発生します。
コンフリクト マネジメントでは、このうちのどの要素で対立が生じたかを分析し、解決策を考えていく必要があります。
1-4. コンフリクトに対する五つの対応パターン
コンフリクトが生じると、人は通常どのような対応をとるのでしょうか。コンフリクト研究における「二重関心モデル」では、コンフリクトに対して五つの対応パターンがあるといわれています[1]。
- 強制
- 受容(服従)
- 回避
- 妥協
- 協力(協調)
強制
相手を説得したり強制的に従わせたりして、相手の犠牲の下、自分のニーズのみを満たそうとする対応です。従った側には不満や不信など、否定的な感情が生まれやすくなります。
受容(服従)
自分の意見を抑え、相手の意見を受け入れる対応のことです。相手の利益・要求を優先させるため、受け入れつつも自分の要求は満たされず、不満や無力感が残りやすくなります。
回避
対立している問題に対して、双方が意見や交渉を避ける対応のことです。問題が解決しないまま先送りになり、業務が滞りやすくなります。
妥協
お互いに条件を譲り合うことで妥協点を探そうとする解決法です。双方ともに十分に満足できる着地点ではなく、早期に解決を図ろうとするケースに多い対応です。
協力(協調)
話し合いにより、お互いの意見を否定せずそれぞれのニーズを理解し合った上で、双方が納得できる解決方法を見つけ出そうとする対応です。
以上がコンフリクトに対する五つの対応です。コンフリクト マネジメントでは、五つ目の「協力(協調)」を目指します。
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2. コンフリクト マネジメントを行うメリットと注意点
対立する相手の意見を受け入れ、双方が納得できる着地点を模索するというコンフリクト マネジメントを行う場合、どのようなメリットや注意点があるのかを理解しておきましょう。
2-1. コンフリクト マネジメントのメリット
コンフリクト マネジメントを導入することで、以下の四つのようなメリットがあります。
- 建設的な問題解決ができる
- 組織が活性化する
- より良い関係性を築ける
- 従業員のモチベーションを上げることができる
建設的な問題解決ができる
コンフリクト マネジメントでは、双方が対立の要因やお互いの要求を冷静に深堀りした上で、お互いにメリットがある解決策を模索していくため、双方にとっても組織にとっても建設的な問題解決ができます。
組織が活性化する
双方が意見を発言し合うことで新たな気付きやアイデアが生まれ、組織が活性化します。
より良い関係性を築ける
話し合いの過程でお互いについて理解できるため、対立する前よりも人間関係が円滑になったり、より深い信頼関係を築けたりする可能性があります。
従業員のモチベーションを上げることができる
「対立していた相手と深く話し合えた」「自分(達)の意見も取り入れてもらえた」という満足感を得ることができるため、従業員、組織のモチベーションの向上につながります。
以上がコンフリクト マネジメントの主なメリットです。
2-2. コンフリクト マネジメントでの注意点
コンフリクト マネジメントを成功させるには注意点もあります。主な四つを以下に解説します。
- マネジメントのメリットを全員で共有する必要がある
- 相手の意見を否定しない
- 問題の本質的な部分に焦点を当てる
- 十分な話し合いの上でWin-Winな解決策を目指す
マネジメントのメリットを全員で共有する必要がある
コンフリクト マネジメントを行う際は、当事者全員がマネジメントのメリットや意義を理解し、前向きな解決を目指していく必要があります。「対立は決してネガティブなことではない」「うまく活用すれば双方かつ組織にとってプラスになる」といったポジティブな認識を全員で共有した上で取り組むことが重要です。
相手の意見を否定しない
コンフリクト マネジメントを成功させるためには、相手の意見を尊重し、受け入れようとする「協調」の姿勢が重要です。正論で「強制的」に論破したり、十分に話し合わずに「妥協」したりするなどは避けるようにしましょう。
問題の本質的な部分に焦点を当てる
コンフリクトが発生した際には、「誰の意見が正しいのか」ではなく、双方にとって「何が最適か」を見出すようにしましょう。
十分な話し合いの上でWin-Winな解決策を目指す
コンフリクト マネジメントでは、双方が意見を出し切った上で、どのようにすればお互いが納得のいく解決策になるのかを、根気よく探っていくことが重要です。
以上がコンフリクト マネジメントを行う際の注意点です。
3. コンフリクト マネジメントの進め方―五つのステップ
コンフリクトの解決を成功に導くためには、段階を踏んで進めていくことが大切です。以下に、五つのステップを紹介します。
ステップ1. 話し合いで「一致点」「相違点」「対立の原因」を明確にする
ステップ2. 問題を捉え直し目標を再設定する
ステップ3. 考え得る全ての解決案から着地点を選ぶ
ステップ4. メリットを双方で共有し、協力して取り組む
ステップ5. 解決後のフォローアップを行う
ステップ1. 話し合いで「一致点」「相違点」「対立の原因」を明確にする
前章の注意点で述べた、「コンフリクト マネジメントのメリットの認識共有」ができたら、いよいよ実際に話し合いをします。場合によっては仲介者が介入したり、対立している当事者の心理的安全を担保したりした上でコミュニケーションを取ります。
話し合いでは、双方の不満や懸念、要望にフォーカスして傾聴を行い、その中で考え方や意見の相違点と一致点を探し整理していきます。
相違点や一致点を明らかにした後は、コンフリクトが発生している原因は何か、1章で紹介したコンフリクトを生み出す三つの要素のうち、どれに当てはまるのかを探っていきながら明確にしていきます。
これらの作業を通じて、対立を解決するための方向性をつかんでいきます。
ステップ2. 問題を捉え直し目標を再設定する
次に、双方のニーズに焦点を当て、双方の要望や懸案解決がかなうような視点で問題を捉え直します。さらにその問題に対し、改めて課題あるいは目標を設定します。
双方が課題や目標を共有できれば、その後のマネジメントはスムーズに進む可能性が高まります。
ステップ3. 考え得る全ての解決案から着地点を選ぶ
再設定した目標に対し、双方が納得できる具体的な解決策を考え合います。この時、双方ができるだけ多くの案を出していきます。
お互いが案を出し切ったら、考え出された策の中から実現可能性の高いものを選んだり、似た案を集約したりします。
そして最終的に、お互いにメリットがあり合意できる着地点を一つ選びます。
ステップ4. メリットを双方で共有し、協力して取り組む
着地点が導き出せたら、決定した解決策やお互いのメリットを共有します。そして解決策に協力して取り組み始めます。
ステップ5. 解決後のフォローアップを行う
コンフリクトの解決後もフォローアップは重要です。取り組み状況や両者の関係性を把握し改善を行うことで、コンフリクトの再発を予防し、より良い協力関係を継続させることができます。
以上が、コンフリクト マネジメントの五つのステップです。
4. コンフリクト マネジメントに必要なスキルとは
コンフリクト マネジメントでは、前章で述べた通り、双方の意見や意向を深く読み取り、背景の問題点を明確化させ、お互いが納得のいく着地点を根気強く考えていくことが必要になります。
したがって、コンフリクト マネジメントを遂行させる上では、特に以下のような二つのスキルが求められます。
- 傾聴力
- ファシリテーション力
傾聴力
相手の意見や要望、時にはネガティブな感情でも、冷静に聞き取ることが必要です。傾聴の態度を持ち対話を進めることで、各当事者の意図や要求、背後にある問題の本質が明確になり、より適切な解決策を見つけることができます。
ファシリテーション力
対立を解決するための話し合いで仲介を行うには、第三者的な立場で当事者間の相互理解を促し、建設的な解決策を導かなければなりません。そのため、進行役としての高いファシリテーション力が求められます。
以上がコンフリクト マネジメントに必要な主なスキルです。
「対立」という人事課題を、当事者だけでなく企業にとってもメリットがあるように解決していく策として、ぜひ参考にしてみてください。
次章は、企業が実際に行っているコンフリクト マネジメントへの取り組み事例を取り上げます。
5. コンフリクト マネジメントに関する企業事例
最後に、コンフリクト マネジメントを行っている企業の取り組み事例を見てみましょう。以下に二つ紹介します。
5-1. 一般社団法人 大阪ファルマプラン
大阪ファルマプランは、薬局チェーンや介護保険事業を展開している団体です。医療関連の現場では、医療従事者と患者、その家族など、さまざまな立場の人が関与するため、考えや価値観の相違によるコンフリクトが多く起こります。
そのため医療分野では、対話により患者や家族の主張や不安を聞きつつ、現実を正しく理解してもらい支援するというコンフリクト マネジメントが広く行われています。
大阪ファルマプランでは、医療コンフリクト マネジメントの知識と技術を習得するために、社内でコンフリクト マネジメントについての講義を行いました。また、実際の症例を基に事例検討のグループディスカッションを行いました。ディスカッションでは、事例ごとに何が原因だったのか、患者と従業員間のコミュニケーションはどうだったのか、業務改善にどうつなげていくのかを話し合いました。
こうした取り組みにより、認識のズレやコミュニケーションを見直し、サービスの改善に努めています。
5-2. 株式会社ZOZOテクノロジーズ(現:株式会社ZOZO NEXT)
ZOZOテクノロジーズ(現:株式会社ZOZO NEXT)は、ファッション通販サイトを運営する株式会社ZOZOグループ内の7社が合併してできた会社です。このため、さまざまな文化が混ざり合った環境が特徴です。一方で、それぞれの会社で大切にしていた価値観が時にぶつかり合うことや、企業の文化が新しく生まれる変化の速さに追い付けない従業員が出てきたといいます。
そこで、組織内で共通の価値観を醸成するとともに、同じ目標に向かっていけるよう目標管理制度を導入しました。また、個別の組織課題についても組織開発チームとして支援をする体制を整えました。こうした取り組みによりコンフリクトへの対策を行い、組織の活性化につなげています。
これら事例には、企業におけるコンフリクト マネジメントの必要性や可能性が示されているといえるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
6. まとめ
コンフリクト(conflict)は、主張や考えの「対立、衝突」という意味の言葉です。
コンフリクト マネジメントとは、組織間、従業員間で生じるコンフリクトを「企業の活性化の機会」とポジティブに捉え、双方が納得できるような着地点を見出していく手法です。
コンフリクト マネジメントでは、対立している当事者同士がお互いに傾聴し合うことでWin–Winな解決策を導き出し、最終的に組織の成長につながるように解決を図ります。
コンフリクト マネジメントでは、対立が以下の三つのうちどの要素で生じたかを分析し、解決策を考えていくことが不可欠です。
- 立場や役割の違いによって生じる目的や「条件」の対立
- 思考や価値観など「認知」の違いによって生じる対立
- 双方が抱く「感情」の違いによって生じる対立
コンフリクト マネジメントでは、コンフリクトに対して人が取る五つの対応パターン「強制」「受容(服従)」「回避」「妥協」「協力(協調)」のうち、「協力(協調)」を目指します。
「協力(協調)」は、話し合いにより、お互いの意見を否定せずそれぞれのニーズを理解し合った上で、双方が納得できる解決策を見つけ出そうとする対応です。
コンフリクト マネジメントを導入することで、以下の四つのようなメリットがあります。
- 建設的な問題解決ができる
- 組織が活性化する
- より良い関係性を築ける
- 従業員のモチベーションを上げることができる
コンフリクト マネジメントを成功させるには、以下の四つのような注意点があります。
- マネジメントのメリットや意義を全員で共有する必要がある
- 相手の意見を否定しない
- 問題の本質的な部分に焦点を当てる
- 十分な話し合いの上でWin-Winな解決策を目指す
コンフリクトの解決を成功に導くためには、以下のようなステップを踏んで進めていくことが大切です。
ステップ1. 話し合いで「一致点」「相違点」「対立の原因」を明確化する
ステップ2. 問題を捉え直し目標を再設定する
ステップ3. 考え得る全ての解決案から着地点を選ぶ
ステップ4. メリットを双方で共有し、協力して取り組む
ステップ5. 解決後のフォローアップを行う
コンフリクト マネジメントを遂行するためには、以下のようなスキルが求められます。
- 傾聴力
- ファシリテーション力
最後に、コンフリクト マネジメントを行っている企業の取り組み事例を二つ紹介しました。
- 一般社団法人 大阪ファルマプラン
- 株式会社ZOZOテクノロジーズ(現:株式会社ZOZO NEXT)
コンフリクト マネジメントを導入する際に、ぜひ参考にしてください。
コンフリクト マネジメントとは?
コンフリクト マネジメントとは、組織間、従業員間の対立=コンフリクトを「企業の活性化の機会」とポジティブに捉え、双方が納得できるような着地点を見出していく手法です。当事者同士が傾聴し合い、最終的に組織の成長につながるように解決を図ります。
コンフリクト マネジメントのメリットは?
コンフリクト マネジメントの導入により、以下のようなメリットを得られる可能性があります。
- 建設的な問題解決ができる
- 組織が活性化する
- より良い関係性を築ける
- 従業員のモチベーションを上げることができる
コンフリクト マネジメントの方法は?
コンフリクト マネジメントは、以下のような方法で進めていきます。
話し合いによる「一致点」「相違点」「対立の原因」の明確化→目標の再設定→考え得る解決案を創出し一つを選出→お互いのメリットを共有し新たな解決案に向け取り組み開始→解決後のフォローアップ
[1] コンフリクト研究を行った心理学者ケネス・W・トーマスとラルフ・H・キルマンが、コンフリクト対応として選択される解決行動を整理したモデル。
参考)
経済産業省,中小企業庁,「ふるさとデザインアカデミーichi基礎研究III デザインプロデュース実践のための基礎スキル」, P26, https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200420004/20200420004-4.pdf(閲覧日:2023年12月13日)
丸山大輝,岩村光貴,石田秀一郎,大槻亮輔,三好きよみ,「多様性の高いメンバーによるプロジェクトにおけるコンフリクトの特徴分析―オープンイノベーションの遂行のためのコンフリクトマネジメント手法の提案に向けて―」, 『経営情報学会 全国研究発表大会要旨集』,2022年全国研究発表大会,P29-32.
各務晶久,『職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント』,朝日新聞出版,2019.
一般社団法人 大阪ファルマプラン,「【学習会】CS委員会 事例検討会を開催しました」,http://www.faruma.co.jp/blog/dekigoto/3264.html(閲覧日:2023年12月13日)
ZOZO TECH BLOG,「『挑戦させすぎ?」マネジメント勉強会で分かった組織課題とその解決策」,https://techblog.zozo.com/entry/organization-management-solution(閲覧日:2023年12月13日)
ZOZO,「ZOZOとZOZOテクノロジーズ 10月1日付けで組織再編」,https://corp.zozo.com/news/20210813-15063/(閲覧日:2024年1月4日)
ZOZO,「ZOZO グループ会社一覧」https://corp.zozo.com/about/group/(閲覧日:2024年1月4日)