「我が社でも研修をオンライン化していく必要がある。eラーニングももっとうまく活用し、全体の効果を落とさずに必要な研修を進めていく良い方法はないだろうか?」
新年度を迎える4月からは、新入社員研修をはじめ多くの研修が実施される時期です。しかし、近年は新型コロナウイルスの影響により、従来通りの研修を行うことが難しくなりました。これまでの研修をどのように構成し直したらよいのか、お悩みの教育管理者の方も多いのではないでしょうか。
多くの企業で教育を提供する手段として活用できるのは、eラーニングでしょう。eラーニングなら、集合研修の実施が難しい状況でも教育を提供し続けることができます。また、SCORMという規格に準拠していれば、自社のLMSに別のベンダーが作った教材コンテンツを登録・配信することもできます。
株式会社日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が2018年に発表した調査結果[1] によると、企業におけるeラーニングの実施率は79.1%と、高い割合で導入されていることが分かります。
また、同調査では、学習時の使用機器は「職場のPC」が90.6%と圧倒的ですが、「個人のスマホ、タブレット」(56.8%)、「職場のスマホ、タブレット」(21.8%)が2015年の調査時より7~8ポイント増加しており、職場以外での学習も定着しつつあることがうかがえます。
知識を習得するタイプの学習は、積極的にeラーニングに置き換えていくとよいでしょう。加えて、集合研修とeラーニングそれぞれの長所を最大限に活用し、かつ互いの欠点を補うプログラムを作れれば、相乗効果も期待できます。これが、今回ご紹介するブレンディッドラーニングです。
ブレンディッドラーニングは、集合研修とeラーニング(オンライン研修含む)を組み合わせ、それぞれのメリットは生かしたまま、弱点をカバーできる学習方法です。
本稿では、ブレンディッドラーニングの特長、研修に取り入れるメリット、ブレンドのパターン例、実施のポイントをご紹介します。
「ブレンディッドラーニング」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
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目次
1. 「良いとこ取り」が可能なブレンディッドラーニング
ブレンディッドラーニングは、集合研修とeラーニングを組み合わせることにより、それぞれのメリットを生かしたまま弱点をカバーし、研修の効果を高める学習方法です。
代表的なブレンディッドラーニングのパターンでは、事前にeラーニングで基礎知識を習得しておきます。これにより、集合研修の学習内容は集合研修でしかできないものに集約され、学習全体の効果や質が向上します。
さらに、eラーニングで復習を行うことにより、集合研修での学びをしっかりと定着させることができます。
日本の教育シーンにブレンディッドラーニングが本格的に取り入れられるきっかけとなったのは、アメリカの教育界でベストセラーとなった書籍「ブレンディッド・ラーニングの衝撃」(原題:Blended)です。著者のマイケル・B・ホーンは、この学習スタイルを「教育界の破壊的イノベーション」と評価しています。
関連記事:集合研修のメリットとは?オンライン研修とのブレンドが効果的な人材育成のカギ
関連記事:eラーニングとは?システムやメリット、導入事例、費用について解説
1-1. ブレンディッドラーニングが注目される背景
ブレンディッドラーニングは、インターネットやデジタル機器の発達とともに2000年代からアメリカの学校教育で急速に広まっていきました。
日本では、教師のe ラーニングに対する理解不足や、授業での活用方法が定着していないことから事例はまだ少ないようですが、語学の授業などに取り入れられています。
一方企業の人材育成シーンでは、eラーニングの普及とともにブレンディッドラーニングが実施される機会が増えてきました。最近のeラーニングは、スマホやタブレットで学習できるのが当たり前になってきています。
個別学習の機会が充実し、動画などの活用によりeラーニングで学べる内容も多様化したことから、「集合研修でしかできない」領域が以前より縮小し、その分、明確になってきました。ブレンディッドラーニングは、教育のICT化とともに真価を発揮しつつある教育手法といえます。
1-2. 2つの学習方法を組み合わせてデメリットをなくす
集合研修とeラーニングのメリットとデメリットを整理すると、以下のようになります。
| 集合研修 | eラーニング |
メリット |
|
|
デメリット |
|
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上記を見ると、どちらにも多くのデメリットがありますが、ほとんどを互いのメリットでカバーできることが分かります。
ブレンディッドラーニングは、双方のメリットを「良いとこ取り」しつつ、デメリットを解消することが可能な、画期的な教育手法というわけです。
なお、eラーニングと集合研修、両方を同時に運用することについて、管理業務が煩雑になるのではとの懸念を持つ方もいるかもしれません。
しかし、最近のLMS(Learning Management System:学習管理システム)には集合研修管理機能を搭載しているものも多いので、プログラムと実施履歴の一元管理が可能になり、管理面での手間を軽減することができます。
例えば、まずeラーニングで事前アセスメントを実施、弱点分野を把握した上で必要な集合研修に参加してもらい、事後アセスメントを行って理解度を測る、この一連の流れをLMS上で実現することができます。
集合研修の予約や受講申請、出欠の履歴や成績の管理などもLMSで可能ですし、これらをeラーニングの学習履歴と突き合わせて分析を行うといった施策も可能です。
さらに、講師に事前アセスメントの実施データを把握してもらい、集合研修の内容をより受講者にフィットしたものに調整する、といった工夫をすることも考えられます。
LMSを活用すれば、管理業務などの負担を軽減しながら、学習の質も高められるわけです。
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関連記事:LMS(学習管理システム)とは?専業ベンダーが基礎から選定ポイントまで徹底解説
2. 企業研修にブレンディッドラーニングを取り入れるメリット
企業研修にブレンディッドラーニングを取り入れると、研修の効果を高めたり、運営を効率化できたりします。具体的なメリットを、以下で見ていきましょう。
学習効果が高まる
ブレンディッドラーニングの代表的なパターンとして、「eラーニングで予習 → 集合研修で実践 → eラーニングで復習」というスタイルがあります(詳しくは3章(1)参照)。
予習で受講者の知識レベルを一定にそろえて集合研修の下地をつくり、集合研修で実践、各自で理解が足りない部分などを復習、という一連のプロセスによって、単発の集合研修よりも学習内容の理解が深まり、確実な知識の定着を促します。
チーム学習と個人学習の相乗効果が得られる
昨今、アクティブラーニングをはじめとするチーム学習が、問題解決力や創造力、コミュニケーション力を高められるとして注目されています。これはeラーニング単独では難しい学習スタイルです。一方で、eラーニングには個人のペースで学習を進められるというメリットがあります。
ブレンディッドラーニングでは、eラーニングによる個人で進める学習と、チームによるワーク中心の研修プログラムを組み合わせることで、相乗効果を得ることが可能です。
手間やコストを抑えられる
集合研修では、一回ごとに講師や会場の手配、受講者のスケジュール調整などさまざまな手配業務が必要になります。また、講師の外注費やアテンドの人件費、会場の使用料や移動費などがかかり、コストも高くなりがちです。
研修プログラムを部分的にeラーニングに置き換えることで、事務作業量やコストを抑えることができます。
3. ブレンドのパターン例
ここでは、実際にどのようなブレンドの仕方があるのか、パターン例をご紹介します。その前に、集合研修とeラーニングにはどのような学習形態があるのか、整理しておきましょう。
集合研修 | eラーニング |
|
|
上記の学習形態の組み合わせ例として、以下のようなパターンが考えられます。
(1) 集合研修の前後にeラーニングを実施するパターン
幅広いテーマに活用できる、ブレンディッドラーニングの代表的なパターンといえます。基本的な知識は事前にeラーニングで学習しておくため、集合研修ではすぐに実践的な内容に入ることができます。事後に実践を踏まえた復習をすることで、学習効果をさらに高められます。
(2) OJTを挟み、実技面のスキルアップを図るパターン
事前にeラーニングで基礎知識を、集合研修で技能を学び、その内容を基にOJTを行うパターンです。OJTの段階で前提知識を説明する必要がないので、トレーナーの負担が減ります。
OJTの後は、eラーニングで復習を行う他、SNS機能を使って講師やアドバイザーからの評価・フィードバックをもらい、スキルの定着や改善につなげます。接客のスキルや調理、製造ラインなど、実技を伴う業務の習得に向いています。
(3) 事後のeラーニングで発展学習を行うパターン
先に集合研修を実施するパターンでは、事後のeラーニングにおいて、復習だけでなく、集合研修で得た知識を使った発展的な内容の学習や課題と組み合わせる場合があります。
例えば、チームで店舗や工場などの現場を体験した後、改善点の提案レポートを提出する、集合研修でその時点での業務に関するトレンドを学び、その後の知識の更新はeラーニングで随時していく、などが考えられます。
(4) 新入社員研修のパターン
事前に集合研修として顔合わせや学習のガイダンスをしておくことで、eラーニングを進めるに当たってのモチベーションアップが期待できます。特に新入社員など、受講者同士の面識が薄い場合、ネットワーキングに役立ちます。
その後、個人でeラーニングによる学習を進め、集合研修で質疑応答やグループワークなどを行って実践的に学びます。
(5) ディスカッションを中心とするパターン
個人で予習をした後、集合研修の前にチームメンバーでテーマについてディスカッション(疑問点の整理など)をしておくパターンです。ディスカッションは、LMSに搭載されているSNS機能などで行います。
チームメンバーが1カ所に集合できる回数が限られている、移動時間が取れないなどの場合に有効です。オンライン議論が中身のあるものになるかどうかは、個人の予習がしっかりできているかが鍵となります。
自社で実施する研修の目的と内容、かけられるコストや時間などを考慮し、上記を参考に最適なパターンを検討してみてください。
コラム:反転授業について
反転授業とは、授業と宿題の役割を反転させたものです。授業に先立って知識を習得し、習得した知識を授業で使います。インプットとアウトプットの場を逆転させた学習方法で、ブレンディッドラーニングの実践方法の1つとして知られています。
知識を習得するだけでなく、使って学ぶことに重点が置かれているため、実務で活躍できる人材の育成にも効果が高い手法です。3章のパターン(1)のように、反転授業の後にeラーニングでの復習をプラスすれば、知識の定着がより確かなものになるでしょう。
4. 効果的なブレンディッドラーニングを実施するポイント
ブレンディッドラーニングは、単にeラーニングと集合研修を実施すればよいわけではありません。以下で、最大限に効果を高めるためのポイントをご紹介します。
何をどの方法で学ぶのか、よく検討する
例えば、外国語の実践的な会話はeラーニングへの置き換えが難しい分野です。一方、単語や文法などの反復学習にはeラーニングが有効です。十分なインプットが、実践的な学習をより有意義なものにするでしょう。
研修の設計段階で全体の目的や学習内容をきちんと整理し、それぞれの単元について、集合研修とeラーニングのどちらで、どのタイミングで実施するべきか、よく検討しておくことが大切です。
スケジュール管理を厳格にする
eラーニングで基礎知識を習得し、集合研修で応用知識を学び実践する、というのはブレンディッドラーニングによくある流れです。この場合、集合研修の実施までに受講者がeラーニングのプログラムを修了していることが大前提となります。
基礎知識が足りない受講者がいると、集合研修における本人の学習効果が落ちることはもちろん、全体の知識レベルにばらつきが出てしまい、スムーズな授業ができなくなってしまうからです。
そのため、eラーニングの修了期限は厳格に管理する必要があります。LMSに研修をセットする際、eラーニングプログラム未修了者に定期的にリマインドメールが配信されるようにしておくとよいでしょう。
講師の役割と授業への関わり方に注意する
ブレンディッドラーニングでは、eラーニングを使った個人学習が重要になります。
個人学習は、自由なペースで進められるというメリットがある一方、個人のモチベーションや自主性によって、進度やレベルに差が出ることがあります。そのため、講師には、受講者のeラーニングの進捗・理解度を把握し、目標レベルに到達できるよう学習をサポートする役割も求められます。
また、集合研修では知識の習得よりもグループワークやディスカッションなど、アクティブラーニングのような実践型の授業の割合が多くなります。そのため、適切なタイミングで討議に介入するファシリテーターとしての役割も求められます。
ブレンディッドラーニングを実施する際は、上記のような点に配慮しながら、事前に綿密なプログラムを設計することが必要不可欠となります。
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5. まとめ
ブレンディッドラーニングは、集合研修とeラーニングを組み合わせることにより、それぞれのメリットを生かしたまま弱点をカバーし、研修の効果を高める学習方法です。
ブレンディッドラーニングは、インターネットやデジタル機器の発達とともに2000年代からアメリカの学校教育で急速に広まっていきました。
日本の企業におけるブレンディッドラーニングは、eラーニングの普及とともに研修で実施される機会が増加してきました。最近ではスマホやタブレットで学習が可能な場合も多くなり、以前より個別学習で賄える内容が幅広くなったことも、ブレンディッドラーニングが注目される理由の1つといえます。
集合研修とeラーニングには、どちらにもデメリットがありますが、ほとんどを互いのメリットでカバーできます。
ブレンディッドラーニングは、双方のメリットをそのまま「良いとこ取り」しつつ、デメリットの解消が可能な、画期的な教育手法です。
企業研修にブレンディッドラーニングを取り入れると、以下のようなメリットがあります。
・学習効果が高まる
・チーム学習と個人学習の相乗効果が得られる
・手間やコストを抑えられる
集合研修とeラーニングのブレンドの例として、以下のようなパターンが考えられます。
(1) 集合研修の前後にeラーニングを実施するパターン
eラーニング(個人で予習)→集合研修(講義、チーム学習、技能の学習)→eラーニング(個人で復習)
(2) OJTを挟み、実技面のスキルアップを図るパターン
eラーニング(個人で予習)→集合研修(講義、チーム学習、技能の学習)→OJT(仕事で実践)→eラーニング(個人で復習、講師やアドバイザーが評価・フィードバック)
(3) 事後のeラーニングで発展学習を行うパターン
集合研修(講義、チーム学習、技能の学習)→eラーニング(個人で復習+発展的な内容の学習)
(4) 新入社員研修のパターン
集合研修(学習の前段階)→eラーニング(個人で学習) →集合研修(講義、チーム学習、技能の学習)
(5) ディスカッションを中心とするパターン
eラーニング(個人で予習)→eラーニング(チームでオンライン議論)→集合研修(チーム学習、技能の学習)
ブレンディッドラーニングで最大限に効果を高めるポイントとして、以下のようなものがあります。
・何をどの方法で学ぶのか、よく検討する
・スケジュール管理を厳格にする
・講師の役割と授業への関わり方に注意する
受講者同士の交流やリアルタイムで質疑応答ができる集合研修は、今後も企業研修に欠かせないものです。しかし、世の中の状況やコスト面など、思うように実施できない場合もあります。
このような状況のときこそeラーニングをプラスして双方のメリットをフル活用し、必要な教育を従業員に提供し続けられるよう、研修プログラムの改善を検討してみてはいかがでしょうか。
関連記事:ブレンディッド・ラーニングとは 研修とeラーニングのうまい組合せ方
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[1] プラップノード株式会社「日本能率協会マネジメントセンター、eラーニング活用に関する調査を実施」,『Digital PR Platform』, https://digitalpr.jp/r/25561
(参考)
ブレンディッドラーニングがもたらす職場での行動変容
https://alue.sg/jp/blended-learning-hr-development/
ブレンディッドラーニングによる授業実践とその効果―外国語学習におけるeラーニングの活用―
http://www.edu-ctr.pref.okayama.jp/chousa/kiyou/h21/09-05.pdf
複数の学習形態を合体!? 「ブレンディッドラーニング」の概要
https://gentosha-go.com/articles/-/11087
定義からみる日本におけるブレンディッドラーニングの概要
https://mu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=893&item_no=1&page_id=13&block_id=21
EdTech 基礎Ⅰ
http://www.dcc-a.com/h30edtechhp/pdf/pdf9.pdf
ブレンディッドラーニングとは?どういう場面で活用できるの?特徴・効果は?
https://edtech-media.com/archives/19523