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勤務間インターバル制度とは 4月から努力義務化 導入企業には助成金も

勤務間インターバル制度とは 4月から努力義務化 導入企業には助成金も

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後、一定の休息時間を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保する制度です。

「24時間戦えますか」

かつて、社会現象にもなった栄養ドリンクCMのフレーズです。あれから30年、長時間労働による健康被害や労働力人口の減少が社会問題となり、働き方は「モーレツ」から「効率」へと大きく変化しました。

企業は、RPA(定型業務の自動化)やクラウドなどを活用して労働時間を抑制し、1人当たりの生産性を高める工夫を実施しています。

健康経営や生産性向上の観点から、勤務間インターバル制度を導入する企業は微増しています。

しかし、厚生労働省の「就労条件総合調査」[1]によると、2023年1月時点での導入率は6.0%でした。導入の予定がなく、検討もしていない企業の割合は81.5%で、そのうち23.5%が制度自体を知らなかったと回答しているように、まだまだ認知度が低いのが現状です。

「勤務間インターバルとは何か?」「導入したら効果はあるのか?」

このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。本稿では、勤務間インターバルについて、導入によって期待される効果や導入時の留意点、導入企業の事例などを解説します。

「勤務間インターバル制度」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
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1. 勤務間インターバル制度とは何か

勤務間インターバル制度とは、終業時刻から翌日の始業時刻の間に、一定時間の休息(インターバル)を設ける制度です。

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)に基づいて規定され、2019年4月から導入が努力義務となりました。努力義務のため、現段階では導入していない企業に対する罰則規定はありません。

勤務間インターバル制度の導入により、従業員の健康を確保することが生産性の向上につながるという認識が広まることが期待されています。

勤務間インターバル制度を導入した働き方のイメージは、下図の通りです。

勤務間インターバル制度を導入した働き方のイメージ
出典:厚生労働省「勤務間インターバル制度とは」,『働き方・休み方改善ポータルサイト』, https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/

例えば、インターバルを11時間に設定した場合、終業時刻が23時になった日は、翌日の始業時刻は11時間後の10時になります。

例:11時間の休息時間を確保するために始業時刻を後ろ倒しにする場合

出典:厚生労働省「「勤務間インターバル制度普及促進のため の有識者検討会」報告書」2018年12月公表,P18,https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000462016.pdf

上図にあるように、終業時刻を繰り下げるか否かは各企業に委ねられています。厚生労働省では詳細なガイドラインを定めていないため、各企業が就業規則や労使協定で定めて運用しています(4章で後述します)。

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2. 勤務間インターバル制度が生まれた背景

日本の労働時間は減少傾向にあるものの、長時間労働が常態化している企業や業界は珍しくなく、過労死問題にもつながっています。長時間労働は、集中力の欠如、脳・心臓疾患や精神疾患の発症につながるなど、さまざまなリスクがあることが報告されています。

そこで、長時間労働がもたらす健康被害を防ぐ対策の1つとして、働き方改革関連法の中で勤務間インターバル制度が規定されました。

なお、EU では1993年に制定された「EU労働時間指令」により、加盟国に共通する労働基準として「勤務終了後に最低でも連続11時間の休息期間を確保することが義務付けられています。

労働者が健康的に働き続ける環境を整える狙いがあり、日本の勤務間インターバル制度においても、各企業で制度を設計する際の参考情報として紹介されています。


3. 勤務間インターバル制度の効果

勤務間インターバル制度が企業に導入されることで、以下のような効果が期待できます。

  • 健康管理の意識向上
  • 人材の確保・定着
  • 労働生産性の向上

健康管理の意識向上

厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査報告」[2]によると、1日の睡眠時間が6時間未満の割合は 39.1%です。年代別では40 歳代で47.7%、50歳代で51.3%に上り、十分な休養が取れていないことが分かります。

勤務間インターバル制度により、企業が従業員に「十分な休養を取らせること」がルールとして周知されることで、企業の健康経営への意識向上が期待できます。

人材の確保・定着

従業員の健康に配慮した働きやすい環境を整えることは、企業のイメージアップにつながります。優秀な人材の確保・定着に有効です。

労働生産性の向上

労働時間が減ると利益率が下がるのではないかという懸念もあるようですが、厚生労働省の導入事例集に、労働時間の減少は利益率の低下につながらないことが示唆されています。

時間の制約があることで、情報共有、仕事の段取りなどを計画的に進めるようになることから、結果として労働生産性が向上すると考えられます。

また、従業員にとっては、休養時間が増えることで、家族や友人との充実した時間や自己啓発・地域活動のための時間などを持つことができるでしょう。ワーク・ライフ・バランスが整った、豊かな生活が実現しやすくなります。


4. 勤務間インターバル制度導入時の留意点

現在、勤務間インターバル制度の詳細なガイドラインは定められておらず、企業ごとにルールを決めて運用しています。導入時には、以下の点に留意しましょう。

  • 休息時間の定義
  • 就業規則の整備
  • 労働時間の管理

休息時間の定義

最低限確保すべき休息時間を定める必要があります。目安となるのはEU加盟国の「11時間」ですが、労働者の勤務形態や通勤時間など勤務実態を考慮し「十分な休息が確保できるか」という観点で検討することが重要です。

全ての従業員に対して一律の休息時間を設定する他、「望ましい水準:〇時間、最低限確保してほしい水準:〇時間」のように段階的に設定する、職種ごとに異なる時間数を設定するなどが考えられます。

就業規則の整備

適応除外を設けるかどうかなど、さまざまなケースを想定し、就業規則を整備する必要があります。特に重要なのは終業時刻の扱いです。始業時間を繰り下げた日の終業時刻をどうするかについて、自社の実態に照らし合わせ、十分に検討することが大切です。

始業時間を繰り下げた日の終業時刻について、主な選択肢は以下の通りです。

(1)終業時刻は繰り下げない
 実質、短時間勤務となります。短縮された時間を出勤したものと見なします。

(2)終業時刻も繰り下げる
 時差出勤扱いになります。1日の所定労働時間は変わりません。

このように、繰り下げるか否かで労働時間が変わります。厚生労働省がそれぞれのケースにおける就業規則規定例を紹介しているので、参考にしてみてください。

参照)厚生労働省「就業規則規定例」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000162467.pdf

労働時間の管理

勤務間インターバル制度の導入には、始業時刻と終業時刻を適正に把握することが重要です。勤怠管理システムにアラート機能を追加すれば、休息時間が設定値を下回った場合にアラートが表示され管理しやすくなるので、この機会に勤怠管理システムを見直してもよいでしょう。

勤務間インターバル制度を導入する際は、労使間で十分に話し合い、実態を把握した上で制度設計をすることが重要です。


5. 企業の勤務間インターバル制度導入例

実際に制度を導入する企業では、どのような効果や課題が生じているのでしょうか。今回は4つの企業を紹介します。

企業名

内容

導入効果

課題

株式会社岩田屋三越

11時間

 

平均労働時間が7.45時間から6.65時間へ短縮(2017年度)

繁忙期に守れないことが課題のため、長時間労働を続けると人材流出になることを、管理する側に意識してもらうことが必要

株式会社ニトリホールディングス

10時間

 

インターバル時間の不足は導入前と比べて3分の1まで減少

インターバルの時間を11時間に延長したいと考えており、今後はIT技術を使って組織全体の業務改善を図りながら、働きやすい環境を整える予定

株式会社東邦銀行

11時間

 

・時間外・休日労働時間が52%減少
・余暇を自己啓発や勉強に活用する従業員が増加

今後は「場所」に縛られない働き方の導入を目指し、「在宅勤務」や「テレワーク」といった働き方についても検討している

森永乳業株式会社

事業所に応じて8~10時間

他の取り組みも併せて実施し、年次有給休暇取得率が55%から65%へ向上

天災地変や大規模なトラブルにより、インターバル時間をコントロールできない場合があるなど、制度の実行力という意味ではまだまだ改善の余地ありと感じている

突発的なトラブルにより十分なインターバル時間が確保できないなど課題は残るものの、全体として導入効果は大きいことが分かります。休養時間を十分に確保することは、健康増進だけでなく、時間管理の意識向上にも有効なようです。


6. 勤務間インターバル制度導入に活用できる助成金

厚生労働省は「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を創設し、勤務間インターバル制度の導入を支援しています。中小企業の事業主は、一定の条件を満たせば助成金を申請することが可能です。

なお、この助成金の場合、中小企業とは下表のA・B、いずれかを満たす企業を指します。

業種

A:資本または出資額

B:常時雇用する労働者

小売業(飲食店を含む)

5千万円以下

50人以下

サービス業

5千万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他の業種

3億円以下

300人以下

◇対象の事業主

・以下のいずれにも該当する中小企業事業主

(1) 労働者災害補償保険の適用事業主であること
(2) 交付申請および支給申請時点で、全ての対象事業場において36協定が締結・届出されていること
(3) 全ての対象事業場で、原則、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態があること
(4) 交付申請時点で、全ての対象事業場において年5日の年次有給休暇取得に向けて就業規則などを整備していること
(5) 以下のア~ウのいずれかに該当する事業場の事業主であること
ア:勤務間インターバル制度を導入していない
イ:既に休息時間が9時間以上の勤務間インターバル制度を導入しており、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下
ウ:既に休息時間が9時間未満の勤務間インターバル制度を導入している

◇対象となる取り組み

(1) 労務管理担当者に対する研修
(2) 労働者に対する研修、周知・啓発
(3) 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)によるコンサルティング
(4) 就業規則・労使協定などの作成・変更
(5) 人材確保に向けた取り組み
(6) 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
(7) 労務管理用機器の導入・更新
(8) デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
(9) 労働能率の増進に資する設備・機器などの導入・更新
※(1)の研修には、勤務間インターバル制度に関する研修および業務研修を含む
※原則、パソコン・タブレット・スマートフォンは対象外

◇支給額

対象経費の合計額に補助率3/4(※)を乗じた額(上限あり)を助成
※常時使用する労働者が30人以下、かつ支給対象の取り組み(6)~(9)を実施する場合、その所要額が30万円を超える際の補助率は4/5

<上限額>

休息時間数(※)

「新規導入」に該当する取り組みがある

「新規導入」に該当する取り組みがなく、「適用範囲の拡大」または「時間延長」に該当する取り組みがある

9時間以上11時間未満

80万円

40万円

11時間以上

100万円

50万円

※事業実施計画で指定した事業場に導入する勤務間インターバルの休息時間のうち、最も短いもの

参考)厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html
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7. まとめ

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後、一定時間の休息を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保する制度です。

勤務間インターバル制度を導入することで、企業には以下のような効果が期待できます。

・健康管理の意識向上
・人材の確保・定着
・労働生産性の向上

一方、ワーク・ライフ・バランスの実現という点で従業員にとっても効果のある制度といえるでしょう。

勤務間インターバル制度の導入に際しては、以下のような点に留意する必要があります。

・休息時間の定義
・就業規則の整備
・労働時間の管理

実際に勤務間インターバル制度を導入している企業を4つ紹介しました。突発的なトラブルにより十分なインターバル時間が確保できないなどの課題は残るものの、労働時間の短縮や有休休暇取得率の増加など、全体として導入効果は大きいことが分かります。

厚生労働省は「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を創設し、勤務間インターバル制度の導入を支援しています。中小企業の事業主は、一定の条件を満たせば助成金を申請することが可能です。

勤務間インターバル制度によって、従業員は十分な休息を取りワーク・ライフ・バランスを保ちながら働くことができ、生産性の向上も期待できます。働き方改革に関連する他の取り組みと併せて実施することで、一層効果が上がると考えられます。

努力義務化されたこの機会に、勤務間インターバル制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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[1] 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」,2023年10月31日公表,P10, https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/dl/gaikyou.pdf
[2] 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」,2020年12月公表,P185, https://www.mhlw.go.jp/content/001066903.pdf

参考)
・厚生労働省 勤務間インターバル制度
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/interval/
・厚生労働省 勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_444910.html
・FNN PRIME  4月から始まる「勤務間インターバル制度」をご存知?でも“努力義務”だと…厚労省に聞いた
https://www.fnn.jp/posts/00439561HDK

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