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睡眠不足が引き起こすパフォーマンス低下と恐ろしい事故例

睡眠不足が引き起こすパフォーマンス低下と恐ろしい事故例

平日の午後、快適な職場のデスクの前、パソコンを入力しているのに何度となく入力間違いをしてしまうことはありませんか。会議中にうっかり寝落ちしそうになったり、相手の話をどうも理解できず、機嫌を損なわせてしまったりした経験はどうでしょうか。

働いていると、眠くてうっかりミスを起こしてしまうのは誰にでも一度は経験があるでしょう。ただ、その程度のこと(本人の立場や心理的プレッシャーは分かりませんが)は、入力ミスを丁寧に修正したり、誰かに少し怒られたりすれば済む問題です。

しかし、運転中の居眠り運転による事故で、物損事故だけならまだしも人身事故を起こしてしまったとなったら、ドライバーは法律で裁かれることになります。

社用車での事故ならば、企業にも捜査や労働状況の確認などが行われ、迷惑をかけてしまうことにもなりかねません(もちろん、そのおかげでブラック企業だと発覚した例もありますが)。

さらに、それがもっと大きな事故だとしたらどうでしょうか。

少し前のレポートですが、ミシガン州立大学の研究者キンバリー・フェンは、2018年に『Journal of Experimental Psychology: General』において、睡眠不足に関する過去最大規模の研究結果を報告しました。

もちろん日常の些細な事故も含まれているものの、驚くべきはスリーマイル島原子力発電所事故(1979年)やチェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)、スペースシャトル「チャレンジャー号」爆発事故(1986年)など、世界に衝撃を与えた事故についても、研究者や作業者の睡眠不足によるミスが原因となったということを指摘した点でした。

しっかりと睡眠をとっていれば、作業の中断があっても脱線せずに作業を再開できたのに、業務に追われて睡眠不足に陥り、重大なミスをしてしまった結果だったというのです。

外科医が患者の体内から器具やガーゼなどを取り忘れた、というミスも散見されますが、これも同様の原因から発生したミスだと述べています。

睡眠不足、すなわち長時間労働は、作業効率を悪化させ、ひいては重大なミスや事故までを引き起こし、取り返しのつかない問題に至ってしまう可能性があるのです。今回はこのテーマに対する原因と対処方法について考えてみましょう。

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1. 長時間働いても、睡眠不足だとパフォーマンスは上がらない

ここでは、日本人がどのくらい睡眠時間をとっているのか、現状を世界と比較し、睡眠時間の長さによってパフォーマンスにどのような影響が現れるかについて解説します。

1-1. 働き過ぎ日本人の睡眠時間は世界でも最下位

日本人は働き過ぎだとよく世界から言われます。それを実際にデータにしたのが、ポラール・エレクトロ・ジャパンという企業です。同社は2018年に、人間の体の健康から製品を開発する研究の一環として、主要28カ国を対象に「世界の睡眠時間調査」を行いました。その結果が以下の図です。

各国の平均入眠、起床、睡眠時間(男女別)

出典)
PR TIMES 睡眠データ分析で日本の睡眠時間は主要28カ国中最短 ポラール・エレクトロ・ジャパン株式会社 2018年4月9日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000015404.html

世界平均は男性で7.07時間、女性が7.28時間です。1位は男女ともにフィンランド(女性についてはベルギーと同時間1位)で、以下、男性だけでみればエストニア、フランス、オーストラリアと続きます。欧州の産業を支えるドイツは10位で男女ともに7時間を超えています。

では、日本はどうでしょうか。この調べによると、男性は6.30時間、女性が6.40時間と、男女ともに最下位です。

日本人の睡眠時間調査としては、NHK放送文化研究所が5年ごとに「国民生活時間調査」を行っています。こちらの2015年の表では、平日の睡眠時間は7.15時間となり、「安全圏内」に入っているように見えますが、調査の方法、年度、調査対象の世代など、条件に違いがあるため、前述の調査結果と単純には比較できません。

しかし、一つ分かるのは、1970年代には平均的な日本国民は8時間程度は睡眠をとっていたことです。それが右肩下がりで減少する傾向にあることが、確実に読み取れます。

睡眠時間の時系列変化

出典)NHK放送文化研究(世論調査部) 2015年国民生活時間調査報告書 2016年2月
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf

7時間眠っているのだから大丈夫ではないかとも考えられますが、これは平均の数字です。例えば、大企業の従業員は平均時間ほど睡眠をとれていないと予想されます。

実際の企業に関わる医師の「荷重労働面談」によると、ある大企業では9割の従業員の睡眠時間が連日5時間を切っていると述べています。また、2015年の電通社員の自殺事件はショッキングな出来事でしたが、彼女も常に「眠い」と記録していました。それでも眠ることを許されず、残念な結果となったのです。

1-2. 多少の睡眠不足ならパフォーマンスの低下を実感できない

ペンシルベニア大学とワシントン大学において行われた睡眠制限実験(2003年発表)では、被験者を4つのグループに分け、睡眠時間に差をつけて2週間過ごしてもらいました。

その結果、6時間しか眠らせなかった人は、2日間の徹夜をした人とほぼ同じ程度にまでパフォーマンスが低下してしまったそうです。しかもその被験者たちは口々に、「睡眠不足を自覚できていなかった」「パフォーマンスの低下をした実感がなかった」というような回答をしました。

一般的に8時間程度眠ることが人体には大切、といわれていますが、平日6時間睡眠、つまりマイナス2時間の睡眠不足が続けば、想像以上に集中力や作業能力が低下し、結果ミスにつながるということになります。

平日に十分な睡眠時間を確保できない場合、週末に「寝だめ」をする人も多いようですが、寝だめは睡眠不足を補う方法にはならないことが、近年よく話題となる「睡眠負債」の問題で取り上げられています。

さらに、睡眠不足によって、産業事故のリスクが約8倍高まるという調査報告もあります。公益財団法人日本生産性本部の2018年の調査において、日本の時間当たり労働生産性は世界36カ国中20位です。G7(世界主要7カ国)においては、47年間最下位という結果が出ています。

眠らず長時間労働をし続けていても、労働生産性は世界と比べて低水準というのは、業務効率の悪さだけでなく、長く働いても結果は出ないことを暗に示しているのかもしれません。

労働生産性の国際比較(2018)

出典)公益財団法人日本生産性本部「日本生産性本部、「労働生産性の国際比較 2018」を公表」
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/R17attached.pdf

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2. 週末の寝だめでは解決しない睡眠負債

ここでは、睡眠負債の概要と、週末の寝だめで睡眠負債が解消されない理由について説明します。

2-1. あらためて知る「睡眠負債」とは?

睡眠負債は、2017年の「新語流行語大賞」に選ばれ、もはや一般的に健康問題として取り上げられています。知っている人も多いと思いますが、簡単におさらいしておきましょう。

では、そもそも睡眠負債とは何なのでしょうか。

睡眠負債は、睡眠不足が慢性化し、蓄積された状態を指します。睡眠負債を抱えるケースとしては、例えば、長時間勤務が常習的に続いて毎晩帰宅が遅くなり、食事や入浴など自分や家族のことなどをしているうちに、ただでさえ短いオフの時間を削り、結果的に睡眠時間が減少してしまうなどが考えられるでしょう。

日中に脳内で生成される特殊な「睡眠物質」が脳に影響して睡眠を呼ぶのですが、これはある程度の睡眠時間をとらないと分解されません。それがおよそ7~8時間なのです。

ところが、睡眠物質がきれいに分解されないまま起床時間になると、脳内に睡眠物質が少しだけ残ったままの状態で、翌日の生活をすることになります。すると、また新しく睡眠物質が同量生成され、不足する睡眠で少量残る、この繰り返しで、少量ずつ毎日残った睡眠物質が積もり積もっていくことが、睡眠負債の仕組みです。

月曜日に睡眠負債を2時間分つくると、その週の金曜日の朝には、木曜日までの8時間の睡眠不足が蓄積されています。8時間といえば、一般的な睡眠時間と同程度です。金曜日も同様に睡眠物質は生成されるため、つまり金曜の夜には2日徹夜した程度の睡眠不足が体内に生じていることになるわけです。

人の目覚めは体に備わる「体内時計(サーカディアン・リズム=概日リズム)」によってコントロールされていますが、これは不思議なことに25時間サイクルとなっています。それを調整するために、人体は太陽や強い光を浴びて体内時計をリセットし、またゼロから体をスタートさせています。

余談ですが、人は「起きている時間と同じだけ眠りたい」という欲求があることが近年報告されました。ここが人体の未知の部分で、一日の半分眠っていたい欲求があるまま、体内時計がその欲求を抑制し、新しい一日を始める仕組みになっているのです。

2-2. 週末の寝だめに睡眠負債解消の効果なし!

平日に十分寝られないとすると、楽しみになるのが休日です。あなたは眠くて仕方がありません。睡眠負債を背負っていると、とてつもない眠さが休日に襲ってくるのです。「週末は一日寝て過ごした」などという人も多いでしょう。

しかし、いくらカーテンを閉めているからといっても、漏れ入ってくる光や生活音、その他が体内時計に働きかけ、明るくなると体は勝手に起床モードに入ってしまいます。

その状態で無理やり寝ていても、浅い睡眠しかとることができません。当然睡眠の質は悪くなり、休日が終わっても何か眠り足りないダルさが残ることになります。つまり、寝だめでは睡眠負債を解消する効果が弱いのです。

そして何割かの睡眠負債を抱えたまま、翌週が始まります。同じリズムで生活したとしたら、金曜日の夜には徹夜何日分の負債がたまっているのか分かりません。

多数の死傷者を出した深夜バスの転落事故の原因が、ドライバーの超過勤務による疲労と睡眠不足とされたケースがあります。さらに、睡眠不足に由来するヒューマンエラーを原因とする事故は、日本だけの問題ではありません。

原子力発電所の事故(チェルノブイリ、スリーマイル島原発事故)、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故なども、その原因は睡眠不足によるミスとされています。大変な作業と緊張感の中、神経は高ぶり、寝ても深い睡眠をとることはできなかったのではないでしょうか。


3. 睡眠時間を確保するためには 仕事だけでなく生活習慣の効率化も必要

先述の通り、少しずつ蓄積される睡眠負債は寝だめでは解消できません。では、どう解消していけばよいのでしょうか。それは、少しずつたまる負債なら、少しずつ「返済」していけばよいという、実に単純な話です。

長時間労働が続いて遅く帰宅した後、家での生活時間に無駄はないでしょうか。食事は外で済ませたということなら、家では入浴して寝ればいいわけです。

もちろん、日常的な家事などやることはたくさんあるかと思います。しかし、それらを済ませたとしても、例えばテレビをダラダラと見ていたり、スマホをいじっていたり、ゲームをしたりといったことに時間を使っていませんか。

資格を取得する勉強をしなければならない、といった必要に迫られている場合は仕方がありませんが、「別に、今やらなくてもよいこと」「ボーッと過ごしている時間」などのせいで睡眠時間を削っていないか、見直してみましょう。

また、「いつも深夜1時に寝ているから、それまでは好きなことをしよう」といった、なんとなく自分の中で決めているタイムスケジュールはありませんか。

習慣付いたものは簡単には修正できないかもしれませんが、「1時に寝ているけれど、これからは0時半に寝よう」と30分早めるだけで、睡眠負債は30分減らすことができるのです。もちろん、ぼんやりとテレビを見ていたり、遊んでいたりした時間も、バッサリ削ればそれだけ眠る時間が増えます。

好きなことは週末に徹底的に楽しもうと、発想を転換すれば、平日の生活習慣を大きく変えることもできるでしょう。こうしたほんのわずかな早寝が睡眠負債を徐々に減らしていくわけです。


4. まとめ

日本では「長時間労働が当たり前」といった認識が長年定着していました。その時代にフルに活躍していた人々が、今は企業のトップや管理職についています。歴史ある企業ほど、古い習慣を変え改めていくことは難しいでしょう。特に高度成長期に対する思い入れは、年長者に根強く染み込んでいます。

しかし、その結果、時間当たり労働生産性が、世界で見て低水準、G7では最下位の国になってしまいました。またこの記事では触れませんでしたが、国民の平均収入の伸び率、GDP(国内総生産)の低調振りは、メディアでも頻繁に語られていることです。

一日は24時間しかありません。長時間労働で心身をすり減らしていれば、家ではゆっくりしたくなるのも分かりますが、それで睡眠時間を削ると、睡眠負債がどんどん膨らんでしまいます。

週末の寝だめでは解消しきれない眠気と疲労が、ミスを引き起こし、もしかしたら取り返しのつかない大きな事故につながってしまうかもしれないのです。

睡眠時間の確保には、仕事の効率化による残業の削減はもちろんですが、家に帰ってからの生活の効率化やタイムスケジュールの見直しも検討してみましょう。

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参考)
ForbesJapan 重大事故の背景に「睡眠不足」 研究で明らかに
https://forbesjapan.com/articles/detail/23389
東洋経済オンラインONLINE 寝不足時の運転があまりにヤバい科学的根拠
https://toyokeizai.net/articles/-/242506
Healthy Japan 睡眠不足が招くリスク
https://www.philips.co.jp/a-w/healthyjapan/sleep/risk-sleep-deprived.html
Nikkei Style 長時間労働はなぜ悪い? 医師が明かす睡眠不足の怖さ
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO13270410T20C17A2000000?channel=DF140920160927
パーソル総合研究所 パーソル総合研究所、日本の「はたらく意識」の特徴を国際比較調査で明らかに
https://rc.persol-group.co.jp/news/201908270001.html
BBC NEWS JAPAN 睡眠不足は脳にどう影響する
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-40517239
DIAMOND ONLINE 自覚なき「かくれ不眠」が仕事のミスを激増させる
https://diamond.jp/articles/-/137413
IT media NEWS 日本人の睡眠時間、主要28カ国で最短
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/09/news097.html
DIAMOND ONLINE 「日本の生産性は先進国で最下位」を素直に受け止めない人が多いのはなぜか
https://diamond.jp/articles/-/189729
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https://www.e-kango.net/selfcare/aroma/sleep/vol9.html

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