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雇用シェアが今注目される理由とは 柔軟な雇用体制で強い会社を作る

雇用シェアが今注目される理由とは 柔軟な雇用体制で強い会社を作る

「新型コロナウイルス禍で注目された“雇用シェア”。大切な従業員の雇用を守るために詳しく知っておきたい」

新型コロナウイルスの感染拡大は、個人の生活だけでなく、ビジネスにも大きな影響をもたらし続けています。経営状況が悪化し、従業員の雇用を維持できなくなる企業も増えているようです。厚生労働省の調査でも新型コロナウイルスの影響による解雇・雇い止めの人数が累計7万9522人となったことが分かりました(2020年12月25日時点)[1]

人事担当としては、自社の厳しい経営状況は理解していても、やはり今まで大切に育成してきた従業員の雇用を守りたいという方が多いのではないでしょうか。

そんな中で、「雇用シェア」という新しいキーワードが浮上してきました。雇用が社会全体の大きな課題となった今、この新しい雇用スタイルについて理解し、選択肢の一つとして検討するための判断材料として、本稿をお役立てください。

「雇用シェア」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
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1. 雇用シェアとは

雇用シェアとは、従業員シェアとも言われ、人材余剰が生じた企業から人材不足が生じた企業へ従業員を一時的に送ること、企業間で人材をシェアすることを言います。昨今の新型コロナウイルス禍で雇用の維持に課題が出た企業が多くある中で、一時的な人手不足に陥っている企業もあり、このバランスを調整するために雇用シェアが活用され話題となりました。

人材をシェアするというと、ワークシェアリングが思い浮かぶかもしれませんが、両者は考え方が異なります。雇用シェアは、働く人材を複数の企業でシェアし、ワークシェアリングは、限られた業務を何人かの従業員でシェアすることを意味します。

図:雇用シェアとワークシェアリングの違い
雇用シェアとワークシェアリングの違い

次章から詳しく見ていきましょう。

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2. 雇用シェアの目的とは

まずは雇用シェアの目的について、従業員を出向させる企業側と、彼らを受け入れる企業側の双方を解説します。

2-1. 雇用シェアで従業員を出向させる場合:雇用の維持

雇用シェアは基本的には在籍出向という形式を採ります。どの企業も、今まで一緒に頑張ってきた従業員をそう簡単に解雇したくはないはずです。また、大切に育成してきた従業員のスキルは企業にとって重要な財産でもあり、解雇してしまうと状況が回復した時に再び手に入れることは簡単なことではありません。雇用シェアを活用することにより、業績不振であっても従業員の雇用・大切な財産を維持することができます。

2-2. 雇用シェアで他社の従業員を受け入れる場合:一時的な人材不足の解消

同じ状況下でも、人材が不足する企業もあります。今回の新型コロナウイルス禍を例に挙げると、まず医療機関で人材が不足しました。また、オンライン化が急速に進んだため、多くのIT・通信会社の求人が増えました。外出自粛期間中の巣ごもり需要の影響は、物流業界にも影響を与えました。

今回のように、一時的な需要が急増しても、人材獲得にかけられるコストと時間には限界があります。獲得できたとして適切な教育を十分に施す余裕はないでしょう。このような場合に、必要なスキルをもつ別会社の従業員がヘルプに来てくれるのは非常に有益です。また、永続的に人材不足に悩まされている例えば第三次産業などでも、一時的に人材を賄うことができます。


3. 雇用シェアのメリット

雇用シェアのメリットをまとめると、以下のようなことが挙げられます。

・従業員を出向させる企業:雇用継続と人件費削減
・他社の従業員を受け入れる企業:継続雇用のリスクを伴わずに必要な人材が得られる
・出向する従業員:継続雇用が守られる

従業員を出向させる企業:雇用継続と人件費削減

雇用シェアで従業員を出向させた場合、人件費の負担は出向先となります。雇用を継続させながらもコストを抑えられることは出向させる企業側のメリットです。

他社の従業員を受け入れる企業:継続雇用のリスクを伴わずに必要な人材が得られる

他社の従業員を受け入れる企業側にとっては、必要なスキルを持った人材を一時的に得られること、さらには一時的であるために継続雇用のリスクを伴わないことがメリットとして挙げられます。

出向する従業員:継続雇用が守られる

出向することになった従業員にとっても、継続雇用が困難かもしれない状況において、自分のスキルを必要とする場所でバリューを発揮できることは前向きに捉えるべきことでしょう。例え希望していなくても、解雇されるよりは一時的に出向を選択することが最善策である可能性があります。

このように、雇用シェアは「雇用を守る」という観点で企業にとっても従業員にとっても、さらにはその先のサービス利用者・消費者にもメリットのある、まさに“四方良し”の仕組みと言えるでしょう。


4. 雇用シェアのデメリット・注意点

一方で、雇用シェアを活用する上で注意が必要な点もあります。

・労務関係等、細かい調整が必要
・出向する従業員のメンタルを含めたフォローが必要
・優秀な人材を手放す可能性もある

労務関係等、細かい調整が必要

出向は労働基準法などで定義があるわけではありません。そのため賃金や保険料、労災保険はどちらが加入するかなど、企業間で話し合って決めることになります。これらの労務関係の取り決めを丁寧に行い、本人が納得して出向できるように整える必要があります。

出向する従業員のメンタルを含めたフォローが必要

出向する従業員は次のような状況になると考えられます。

  • 給与が下がる可能性が高い
  • 慣れない職場環境、業務内容である
  • 労働時間や勤務先などの条件が変わる
  • 出向先でのトラブルが発生した時など、責任の所在が曖昧になる恐れがある
  • これまでの経験が活かせる保証がない

これらの負担を強いるかもしれないということを心に留めておくことも、従業員を守る会社の役目です。

優秀な人材を手放す可能性もある

従業員を出向させる側の企業にとっては、優秀な従業員が出向を希望し、認めざるを得ないような状況も考えられます。雇用シェアによる出向はすべてがネガティブなものであるとは限りません。出向を新しいチャンス、チャレンジと捉え、自分の価値を高めたいと考える従業員もいるでしょう。そのような場合においては、出向させることがデメリットになり得てしまいます。しかし、雇用シェアでスキルが磨かれ、パワーアップした従業員が戻ってきてくれれば、企業側にとってこれほど喜ばしいことはありません。つなぎ止めるのか背中を押すのか、判断が難しいところでもあります。

このように、雇用シェアは一時的であるため、双方の企業にとって大きなデメリットはそれほどないと言えます。注意するべきは、対象となる従業員のフォローということに尽きるでしょう。

雇用を継続させるために必要な手段とはいえ、従業員に少なからず不安を与えてしまうことになります。「解雇よりはマシだろう」という気持ちで送り出すことはせず、出向先との細かい業務調整や待遇面の交渉など、できる限り丁寧に対応することが大切です。


5. 雇用シェアに関する様々な支援制度

従業員の雇用維持を支援するため、政府などによる雇用シェアに関する取り組みが広がっています。ここでは、その一部をご紹介します。

5-1. 「産業雇用安定助成金(仮称)」

2020年12月、厚生労働省は「産業雇用安定助成金(仮称)」の創設を発表しました。

“新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、出向により労働者の雇用を維持する場合、出向元と出向先の双方の事業主に対して助成する「産業雇用安定助成金(仮称)」[2]を創設する”

同年4月、新型コロナウイルス感染症にかかる特例措置として雇用調整助成金の特例措置の拡大を実施した後、さらに雇用シェアを支援する目的で創設が決まったものです。政府による全面的な後押しを受け、今後雇用シェアという働き方は徐々に社会に浸透していくと考えられます。

「産業雇用安定助成金(仮称)」の内容は以下のとおりです[3]

名称:「産業雇用安定助成金(仮称)」
内容
 (1)出向運営経費として出向元および出向先事業主に対して出向中に要する経費の一部を助成する。
 (2)出向初期経費として出向元および出向先事業主に対して就業規則や出向契約書の整備費用、出向に際して出向元であらかじめ行う教育訓練及び出向先が出向者を受け入れるために用意する機器や備品等、出向に要する初期経費を助成する。
対象:雇用調整を目的とする出向(新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向)
前提:雇用維持を図るための助成のため、出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことが前提

その他の要件として、出向元と出向先が、親子・グループ関係にないことや、出向元で代わりに労働者を雇い入れる、出向先で別の人を出向させたり離職させるなど、玉突き雇用・出向を行っていないことなどが盛り込まれています。

5-2.各自治体による支援の取り組み例

政府の動きを受けて、各自治体でも積極的に雇用シェアの後押しを行っています。ここではその事例をご紹介します。

各自治体による支援の取り組み例
(1)北海道の取り組み
新型コロナウイルスの影響による観光客の激減で事業の継続や従業員の雇用維持に苦慮している観光関連の産業から、これから農繁期を迎える北海道の基幹産業の農業などへ、人材マッチングサイト「北海道短期おしごと情報サイト[4]」を提供。マッチング実績は14社126名(2020/12/3時点)。

(2)宮城県石巻市の取り組み
新型コロナウイルスの影響で一時的に余剰となる従業員を、外国人材が確保できないことで一時的に人材不足となる漁業・水産業者が補助労働力として受け入れ。石巻市が雇用シェアのマッチング窓口[5]となっている。

(3)富山県の取り組み
人材の受け入れが可能な企業と人材余剰のある企業の情報を収集・管理。雇用シェアの窓口として人事交流を支援[6]、社会保険労務士による相談窓口も設置している。マッチングが成功した場合、奨励金(10万円/件)を支給。

これらの自治体の他にも、支援の動きは拡大しています。また、民間企業[7]でも雇用シェアマッチングに乗り出しています。現時点では新型コロナウイルスの影響であることが条件ですが、今後も起こりうる有事に備えブラッシュアップされていくことでしょう。


6. 雇用シェアの活用事例

次は実際に雇用シェアを行なった企業の事例をご紹介します。

(1)航空会社各社×家電量販店ノジマ
JALグループ、ANAグループなどの航空各社の職員は徹底した人材教育を受けており、そのホスピタリティや接客スキルは超一流と言われています。昨今では教育現場への派遣ニーズもあるように、他業界・他業種でも通用するスキルを一時的にシェアする取り組みが話題となりました。

送り出し企業:JALグループ、ANAグループなど
新型コロナウイルスの影響で旅客需要が減少。人件費削減のためノジマなど一般企業、自治体や教育機関などに向け客室乗務員や空港スタッフなどを出向させた。JALの場合、会社の指示に同意した空港勤務の職員を対象とし、出向前の給与を全額保証。

受け入れ企業:ノジマ
JALグループ、ANAグループから2021年春までに300人を受け入れ予定。約1週間の研修を行い販売部門やコールセンターの業務で受け入れを行う。

(2)居酒屋チェーン×イオングループ

居酒屋で働く従業員の接客・調理スキルに大手スーパーが着目しました。イオングループでは、雇用シェアによる出向者の中から希望者を転籍させるなど、新たな採用機会を作りました。一時的な出向であるはずの雇用シェアから一歩進んだ事例として話題となりました。

送り出し企業:「さかなや道場」など展開する居酒屋大手チムニー、「塚田農場」などを展開するAPホールディングス
新型コロナウイルス禍で業績不振が続いた居酒屋各社。従業員出向先として挙がったのはスーパーなどの小売業。居酒屋での接客・調理スキルが即戦力として期待された。

受け入れ企業:イオングループ(イオンリテール)
スーパーでの急激な人材不足に対応するため雇用シェアを活用。居酒屋各社からの出向者がその接客・調理スキルを活かし、鮮魚売り場を担当した。居酒屋大手のチムニーからは45人を受け入れ、うち10人を転籍させた。


7. まとめ

新型コロナウイルス禍で、「雇用シェア」という新しいキーワードが浮上しました。雇用が社会全体の大きな課題となった今、この新しい雇用スタイルについて理解しておくことは企業と従業員を守ることにつながります。

雇用シェアとは、人材余剰が生じた企業から人材不足が生じた企業へ従業員を一時的に送ること、企業間で人材をシェアすることをいいます。昨今の新型コロナウイルス禍で雇用のバランスを調整するために活用され、話題となりました。

雇用シェアのメリットとして以下の3つを取り上げました。

・従業員を出向させる企業:雇用継続と人件費削減
・他社の従業員を受け入れる企業:継続雇用のリスクを伴わずに必要な人材が得られる
・出向する従業員:継続雇用が守られる

一方で、雇用シェアのデメリット・注意点もあります。特に注意することとして以下の3点を挙げました。

・労務関係等、細かい調整が必要
・出向する従業員のメンタルを含めたフォローが必要
・優秀な人材を手放す可能性もある

雇用シェアは一時的であるため、送り出す企業、受け入れる企業双方にとって大きなデメリットはありませんが、対象となる従業員のフォローに尽力することが大切です。

政府や自治体などによる雇用シェアに関する支援についてもご紹介しました。

(1)「産業雇用安定助成金(仮称)」
新型コロナウイルスの影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、出向により労働者の雇用を維持する場合、出向元と出向先の双方の事業主に「産業雇用安定助成金(仮称)」として出向運営経費や出向初期経費が助成されます。

(2)各自治体による支援の取り組み
政府の動きを受けて、各自治体でも積極的に雇用シェアの後押しを行なっています。北海道では観光関連の産業から基幹産業の農業などへ、石巻市では一時的に余剰となる市内事業者の従業員を、外国人人材が確保できないことで人材不足となる漁業・水産業者へ、雇用シェアの提案・マッチング・情報提供などが行われています。

最後に、実際に雇用シェアを行った企業の事例をご紹介しました。

(1)航空会社各社×家電量販店ノジマ
JALグループ、ANAグループなどの航空各社の職員が、ノジマの販売部門やコールセンターの業務で活躍。自治体や教育機関でも受け入れが行われる。

(2)居酒屋チェーン×イオングループ
居酒屋大手チムニー、APホールディングスの従業員がスーパー・イオンの鮮魚売り場で活躍。希望者を転籍させるなど、一時的な出向である雇用シェアから一歩進んだ事例として話題となった。

雇用シェアには企業側にとっては大きなデメリットはありません。むしろ、今後インフラも整備され、人材が企業間をフレキシブルに動けるという点でスタンダードになっていくことも予想されます。働き方の多様性はどんどん進化します。雇用シェアもその中の一つの選択肢と言えるでしょう。

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[1] 「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」,『厚生労働省』,2020年12月28日,https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000712213.pdf(閲覧日:2021年1月21日)
[2] 「「産業雇用安定助成金(仮称)」について」,『厚生労働省』https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000712906.pdf(閲覧日:2021年1月20日)
[3] 脚注2の資料を基に編集
[4]「北海道短期おしごと情報サイト」,『北海道』http://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/jzi/oshigoto.htm(閲覧日:2021年1月12日)
[5]「水産業の雇用支援(水産業人材マッチング事業)」,『宮城県石巻市』https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10453000/http___webmail.city.ishinomaki.lg.pdf(閲覧日:2021年1月12日)
[6]「雇用維持・継続のための人事交流・人材派遣支援」,『とやま移住・就職総合支援ポータルサイト』https://toyama-lifework.jp/_wp/wp-content/uploads/2020/06/32df15d507c0c2e4a464e66e71e96a93.pdf(閲覧日:2021年1月12日)
[7] 一般社団法人 災害時緊急支援プラットフォーム「雇用シェアプロジェクト」https://www.pead.jp/sharing?lang=ja(閲覧日:2021年1月12日)

参考
「「産業雇用安定助成金(仮称)」について」,『厚生労働省』
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000712906.pdf(閲覧日:2021年1月20日)
「従業員シェアで雇用維持」,『日経電子版』, 2020年12月1日
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66803280Q0A131C2MM8000(閲覧日:2021年1月20日)

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