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【事例あり】人事評価制度とは?評価基準や方法、導入ステップを解説

【事例あり】人事評価制度とは?評価基準や方法、導入ステップを解説

「人事評価に不満がある人は多いらしい。うちは大丈夫だろうか?」

実際に、人事評価に不満がある人は多いようです。

Job総研が公表した「2023年 人事評価の実態調査」[1]では、企業の評価に不満を感じたことがある人の割合は、2050代の男女758人のうち75.2%となっています。

さらに、評価によって転職を考えたことがある人の割合は71.8%、実際に転職したという人も48.9%となり、人事評価は従業員エンゲージメントを大きく左右することが分かりました。

従業員が評価に納得し、次の目標に向かって意欲的に業務に取り組むには、透明性が高く、公平・公正で、かつ、モチベーションが向上するような人事評価制度が必要です。

本稿では、人事評価制度の概要やメリット・デメリット、制度導入までの流れ、制度導入時のポイントなどを解説します。また、優れた人事評価制度を導入している企業の事例も紹介します。

人事評価制度について理解を深め、貴社の人事評価を見直すヒントになれば幸いです。

「人事評価制度」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。


1. 人事評価制度の概要

初めに、人事評価制度の目的や評価の基準などを確認しましょう。

1-1. 人事評価制度とは?

人事評価制度とは、従業員の仕事における取り組みや成果を、企業が設定した基準に沿って適正に評価し、給与や昇進・昇級に反映する仕組みのことです。

人事評価制度は、以下の3つの制度で構成され、連動して機能しています。

・評価制度
企業が設定した指標を基に、従業員の能力や貢献度を評価するものです。等級や給与といった企業内での待遇に反映されます。

・等級制度
役割や能力、職務などにより従業員をランク付けするものです。業務の難易度や権限・責任によって等級が決まり、評価基準の内容や給与などの待遇に反映されます。

・報酬制度
評価や等級を根拠として給与や賞与、退職金などを決定します。金銭以外にもセミナー参加など学習機会の提供や、功績に対する社内表彰などもあり、従業員のモチベーションアップに大きく貢献します。

3つの制度の関係図】

3つの制度の関係図

なお、人事評価は人事考課と呼ばれることもあります。使い分けるケースもありますが、両者に明確な違いはなく、多くの場合ほぼ同義と捉えられています。

1-2. 人事評価制度が導入される背景

長年、日本では年功序列終身雇用を前提に、年齢や勤続年数に応じて給与や役職が上がっていくスタイルを取っていました。

しかしその後、雇用情勢の変化や不景気、グローバル化などを経て、多くの人の「働き方」に対する考え方に変化が生じます。年功序列、終身雇用という日本企業の慣行は徐々に衰退していきました。

代わりに主流となったのが、年齢や勤続年数ではなく企業への貢献度や業績、能力などの評価により給与や役職を決める、現在の人事評価制度です。

人事評価制度は、従業員一人一人の成果を正しく理解し待遇の根拠とすることや、モチベーションアップために欠かせないものとなっています。

1-3. 人事評価制度の目的

人事評価制度を導入する目的として、以下の4つが挙げられます。

  • 企業理念やビジョンの浸透
  • 適切な待遇の決定
  • 最適な人材配置
  • 人材育成の促進

企業理念やビジョンの浸透

評価項目を企業理念やビジョンとリンクした内容にすると、従業員が個々の目標を設定し達成する過程で、企業理念やビジョンが自然に浸透していきます。従業員のエンゲージメントやパフォーマンスが向上し、企業と従業員が共に成長できるでしょう。

適切な待遇の決定

給与や役職の設定には、客観的かつ正しい評価が必要です。勤続年数や現状の地位にかかわらず、従業員の努力や成果に見合った待遇を決定します。

最適な人材配置

従業員に能力を最大限に発揮してもらうには、その人の得意・不得意や希望するキャリアなども勘案し、ベストな業務やポジションを与える必要があります。

人事評価の結果を基に担当業務や人事配置を見直し、より良い成果を得ることが可能です。

関連記事:タレントマネジメントとは 能力の見える化で適材適所への人材配置を

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人材育成の促進

評価基準が明確で透明性がある人事評価制度は従業員の納得を得やすく、エンゲージメントが高まります。また、成果が待遇に反映されることが分かれば、従業員は目標達成のために努力し成長しようとするため、人材育成が促進されます。

1-4. 人事評価制度の3つの基準

人事評価制度の評価基準は大きく以下の3つに分かれます。

  • 能力評価
  • 業績評価
  • 情意評価

能力評価 

能力評価は、業務をこなす上で必要な知識やスキルによって従業員を評価するものです。業種・職種や業務内容によって求められる能力は異なるため、各社共通の評価基準はなく、企業が独自に定めます。

例えば、問題解決のための解決策を提案する「企画力」や、業務を遂行する「実行力」、状況を理解して適切に対応する「判断力」などが評価対象となります。管理職やリーダーの場合、後輩や部下に正しく指導を行う「指導力」も重要です。

業績評価

業績評価は、一定の期間において従業員の能力や成果を評価するものです。目標をどの程度達成できたか、どういった成果を上げられたかを数値化します。

例えば、営業部門の場合は売り上げや成約率、企画部門の場合はKPI[2]の達成率といった具体的な数値で評価します。

事務部門のように数値化が難しい業務の場合、従業員の上司や部下、同僚などからヒアリングを行い、成果を数値化するケースもあります。

情意評価

情意評価は、従業員の勤務態度や業務への姿勢を評価するものです。例えば、以下のような点が評価対象となります。

  • 業務に対して意欲的に取り組んでいるか
  • 積極的に学ぼうとしているか
  • 与えられた役割を責任を持って全うしているか
  • チームの一員として協力的な行動を取っているか
  • 部下や後輩、同僚のフォローをしているか

情意評価は定量的な評価ができないため、評価者の主観に左右されないよう注意が必要です。

なお、日本経済団体連合会の「人材育成に関するアンケート調査結果」[3]によると、従業員の「学ぶ姿勢」と「部下・後輩の育成」の双方を同様に評価し、処遇に反映する仕組みがあると回答した企業は全体の56.3、今後、「学ぶ姿勢」と「部下・後輩の育成」ともに処遇への反映を強めていきたいと回答した企業は49.0でした。

能力レベルや目に見える成果だけでなく、意欲的な姿勢周囲との連携も重視する企業は少なくないことが分かります。

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2. 人事評価制度における評価方法の種類

人事評価を行うにはさまざまな方法がありますが、ここではメジャーな評価方法である以下の5つをご紹介します。

  • 目標管理制度(MBO
  • コンピテンシー評価
  • 360度評価(多面評価)
  • OKRObjectives and Key Results
  • バリュー評価

目標管理制度(MBO) 

目標管理制度(MBO)は、従業員が自分で目標を設定し、上司とコミュニケーションを取りながら達成までの過程を管理する制度です。目標の達成度を評価に反映します。

MBOのポイントとして、高過ぎず低過ぎないレベルの目標設定具体的な数値や期限の設定企業と個人の目標が同じ方向性であることなどが挙げられます。

コンピテンシー評価

コンピテンシー」は「高い成果を上げている従業員に共通する行動特性」を指す言葉です。これを分析、モデル化して評価基準とします。

従業員が持つ知識やスキルそのものではなく、成果を挙げた過程や、なぜそのような行動を取ったかという部分に注目して評価を行います。実際に活躍している従業員の行動を分析することで目標達成に必要な要素が明らかになるため、人材育成にも有効です。

360度評価(多面評価)

人事評価は一般的に上司が行いますが、360度評価では上司だけでなく部下や同僚、他部署の従業員など複数人が1人の従業員の評価を行います。評価内容の客観性が高く、評価を受ける側も納得しやすいのがメリットです。

また、上司が把握していなかった被評価者の長所・短所なども分かるため、人材育成にも有効です。

OKRObjectives and Key Results

目標と成果指標」を意味するOKRでは、13カ月程度の短い期間に1つ、目標管理制度(MBO)より高い、簡単には達成できない目標を設定します。企業全体の目標を基に従業員が個々の目標1つ決め、それに対し複数の成果指標を設定します。

OKRの目的の1つは、高い目標を達成しようとする従業員の努力・成長を促すことであるため、生産性向上人材育成にも役立ちます。

バリュー評価

仕事で成果を得るまでの過程、日常業務における、企業のバリュー(企業の価値観を反映した行動規範)への理解や実践度を評価します。

先行き不透明なビジネス環境で、バリューを体現する自律型人材の育成が急務とされる中、人事評価の有効な方法の1つです。

関連記事:自律型人材とは?企業の事例や育成のための4つのポイントも解説


3. 「ノーレイティング」を採用する企業も

日本では年功序列制度に代わり人事評価制度が主流となっていますが、近年、従来型の人事評価制度を廃止し「ノーレイティング」を採用する企業が現れています。

ノーレイティングとは、従業員をランク付けせず、上司との1on1 ミーティング(部下のモチベーション向上や育成のために、上司と実施する個人面談)で目標設定成果のフィードバックなどを行いながら評価する、新しい評価方法です。

ノーレイティングが注目される社会的な背景として、モノやサービスの消費スピードが速まり、ビジネスサイクルが短期化したことがあります。企業ではより多くの意見や発想が必要になり、さまざまなコラボレーションが求められるようになりました。

このような時代の変化に対応するべく、柔軟かつタイムリーな評価が可能なノーレイティングが徐々に浸透しているのです。

ノーレイティングを導入した企業として、Google LLCGAP Inc.アクセンチュア PLCMicrosoft Corporationなどがあります。国内企業では、カルビー株式会社などが導入しています。


4. 人事評価制度のメリットとデメリット

人事評価制度の導入・運用前に、評価者(上司や企業側)と被評価者(部下)、双方のメリット・デメリットを理解しておきましょう。

4-1. 評価者(上司や企業側)のメリット・デメリット

評価者のメリットとして、人事評価制度を通して以下のような施策を推進できる点が挙げられます(1-3.参照)。

  • 企業理念やビジョンの浸透
  • 適切な待遇の決定
  • 最適な人材配置
  • 人材育成の促進

その他にも、以下のようなメリットが考えられます。

  • モチベーションアップや生産性向上による競争力強化
  • スキルの把握・管理

モチベーションや生産性の向上による競争力強化

公平で透明性が高い評価制度は従業員の納得感を高めます。さらに、評価者から直接フィードバックをもらうことで、自信を付けたり、改善に取り組んだりできます。その結果、モチベーションアップ生産性向上が期待でき、企業の競争力強化につながるでしょう。

スキルの把握・管理

評価者は、評価の材料として従業員のスキルや成果に関するデータを収集する必要があります。集まったデータは、人材育成人材配置の検討など、幅広く活用できます。

以上のようなメリットを得られる人事評価制度ですが、評価者は以下のデメリットに注意する必要があります。

  • 評価外の業務がおろそかになりがち
  • 人事評価担当者の負担が増える
  • 評価のスキルが求められる
  • 評価によっては従業員のモチベーションが低下する

評価外の業務がおろそかになりがち

従業員が、人事評価に影響しない業務をおろそかにしてしまう可能性があります。

能力を発揮しても評価項目に含まれない分野であるため評価されない、ということがないよう、定期的に評価方法を見直す社内表彰やレコグニションを活用するなどの対策をしましょう。

 

人事評価担当者の負担が増える

人事評価制度は、制度設計、社内への周知、導入・運用といった多くのプロセスをこなすことになり、担当者の大きな負担となるケースがあります。

人事評価システムLMS(学習管理システム)を導入し、従業員の研修・学習履歴やスキルを管理するなど、担当者の負担を軽減する仕組みが必要です。

ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」のスキル管理機能⇒詳しく見る

評価のスキルが求められる

評価者には、主観を反映しない、公平・公正な評価をすることが求められます。さらに、従業員との面談では傾聴力やコミュニケーション力、従業員の目標達成に向けて適切なサポートをするマネジメントスキルも欠かせません。

評価に必要なスキルは、研修eラーニングなどで習得する必要があります。人事評価制度導入前には、評価者研修を必ず行いましょう。

評価によっては従業員のモチベーションが低下する

従業員が評価に納得しない場合、モチベーションやエンゲージメントが低下する可能性があります。フィードバックを丁寧にするなど、従業員の納得感を高める工夫が必要です。

また、人事評価制度の基準や指標が不透明・不公平な場合も、従業員の不満が大きくなってしまいます。制度の改善仕組みをオープンにするといった対策を行い、制度の透明性・公平性を保ちましょう。

4-2. 被評価者(部下)のメリット・デメリット

評価される従業員にとってのメリットとして、自身の貢献度や日々の努力、実績を適切に評価されるため業務へのモチベーションアップにつながることがあります。

さらに、自身のスキルや適性が明確になり、実力を最大限に発揮できる部署や業務にチャレンジできる機会も得られます。

一方、デメリットとして、評価が良くなかった場合に企業に不満を抱いたり、落ち込んだりするかもしれないことが挙げられます。そのようなときは、信頼できる上司に相談する、スキルアップを目指しセミナーに参加するなど、モチベーションを落とさないように意識しましょう。

 


5. 人事評価制度導入の手順と人事評価シートの作り方

ここでは、人事評価制度をスムーズに導入するための8つのプロセスと、人事評価制度に欠かせない人事評価シートの作成ポイントを確認しましょう。

5-1. 人事評価制度導入までの流れ

人事評価制度導入には、以下の8つのプロセスが必要です。

  1. 現状の分析
  2. 評価目的・基準の設定
  3. 評価項目作成
  4. 評価方法の決定
  5. 導入・運用スケジュール作成
  6. 評価シミュレーション
  7. 人事評価制度の運用開始
  8. 評価内容のフィードバック

1.現状の分析

自社の現状を分析して理想の状態とのギャップを把握し、課題を明確にします。まず企業が抱える大まかな課題を挙げてから、解決のために何が必要か細かな分析を行いましょう。

例えば、「業績が思わしくない」という課題に対しては、自社と同業他社の売り上げなどの数値を比較する定量分析を行えば、自社の状況を客観的に見ることができます。

「従業員に意欲的な姿勢が見られない」のであれば、現場の従業員の様子を観察したりアンケートを取ったりして定性分析を行うとよいでしょう。数値に表れない現状を把握できます。

2.評価目的・基準の設定

分析により明確になった課題を解決するため、従業員にどうなってほしいのか考え、人事評価をする目的を設定します。

例えば、「業績アップのための全体的なスキルの底上げ」、「従業員のモチベーションアップ」といった形です。

同時に評価基準も設定します。知識やスキル、学習意欲などの評価基準は役職だけでなく、職種や部署によっても異なります。それぞれの立場や役割に合わせた基準を設定しましょう。

3.評価項目作成

評価の目的や基準を決めたら、具体的な評価項目を作成していきます。

評価項目は、前述の能力評価、業績評価、情意評価の3つに基づく以下のような項目に、職種や部署に合わせた項目を加えるのが一般的です。

【具体的な評価項目の例】

具体的な評価項目の例 

4.評価方法の決定

決定した項目についてどのように評価するのかを決めます。

一般的なのは5段階評価ですが、3段階、7段階で評価するケースもあるようです。しかし、奇数では「どちらともいえない」という中間の評価ができてしまうため、4段階、6段階での評価を採用する動きもあります。

同時に、評価を給与や昇進などにどのように反映するのかも決めておきましょう。

5.導入・運用スケジュール作成

人事評価制度の基礎が固まったら、導入・運用スケジュールを作成します。

従業員の納得の上で人事評価制度をスタートできるよう、余裕を持って計画的に、制度の周知評価者研修を行うようにしましょう。

6.評価シミュレーション

実際に人事評価制度を導入する前に評価シミュレーションを実施しておくと、運用がよりスムーズになります。

例えば、評価のために必要なミーティングや人事評価の結果に基づいた給与・役職の決定などをシミュレーションすると、評価項目の妥当性評価方法の公正性を判断できます。

必要に応じて内容を変更し、実装に向けた改善が可能です。

7.人事評価制度の運用開始

準備が全て整ったら、人事評価制度の運用を開始します。

8.評価内容のフィードバック

評価をしたら終わりではなく、従業員に結果をフィードバックすることも運用プロセスの一環です。評価が良かった従業員にはその根拠に加え、さらに成長するための課題を伝えると本人のモチベーションアップにつながります。

評価が振るわなかった従業員には、なぜそのような評価になったのかという理由を分かりやすく説明するとともに、アフターフォローも実施します。

低評価が従業員のモチベーションダウンや企業側への不満につながらないよう、上司は一緒に次の目標達成に向けた行動を検討しましょう。

5-2. 人事評価シート作成時のポイント

公平・公正な人事評価の実施には、従業員の目標や成果など評価に必要な情報を管理する人事評価シートの活用が有効です。

人事評価シートの作成時に気を付けたいポイントには、以下のようなものがあります。

  • 職種、業務内容によって最適な評価項目になっているか
  • 公平性が保たれているか
  • フィードバックを行いやすい内容になっているか

職種、業務内容によって最適な評価項目になっているか

評価項目で重視されるものは、職種や業務内容によって異なります。例えば、営業部門は売り上げや成約率など数値目標が多いため、業績評価が重視されるでしょう。一方、事務部門のように数値で評価しにくい職種の場合は、能力評価情意評価のウエートが大きくなる傾向があります。

公平性が保たれているか

公平・公正な評価を行うには、明確な評価項目・基準の他、評価者の主観が入り込まないことが重要です。曖昧さや不公平な要素は従業員の不満のもととなり、モチベーションやエンゲージメント低下を招きます。

公平・公正な評価ができるシートになっているか、よく確認しましょう。

フィードバックを行いやすい内容になっているか

評価を従業員の成長につなげるには、丁寧なフィードバックが重要です。人事評価シートには、評価者がフィードバックしやすいよう、具体的な成果はもちろん、評価の理由や良かった点、改善点などを盛り込みましょう。

以上、人事評価シートの作成ポイントを紹介しました。

なお、厚生労働省では「職業能力評価シート」を公表しています。このシートは、さまざまな職種の各レベルに求められる職務遂行のための基準を整理したものです。

職業能力評価シートを活用することで、従業員の現在のレベルや、従業員が次のレベルに上がるには何が足りないのかをチェックできます。以下のリンクから無料でダウンロードできますので、参考にしてみるとよいでしょう。

厚生労働省「職業能力評価シートについて」, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08021.html (閲覧日:20231212日)

6. より良い人事評価制度導入のためのポイントと注意点

従業員が納得できる人事評価制度を導入するための、ポイントと注意点を確認しましょう。

6-1. 人事評価制度の円滑な導入のためのポイント

人事評価制度をスムーズに運用するためのポイントには、以下のようなものがあります。

  • 評価基準や給与との関連性を明確にする
  • 絶対評価の採用を検討する
  • フィードバックをしっかり行う
  • 従業員と企業の成長を意識する

評価基準や給与との関連性を明確にする

人事評価は給与や昇進に関わるため、従業員にとっては非常に重要なものです。成果に見合った待遇が与えられなかったために、モチベーションが下がったという従業員も少なくありません。

そのため、あらかじめ評価基準と給与や昇進などの関連性を明確にしておくことが大切です。

例えば給与であれば、同じ職種、同じ等級でも評価によって増減するということを人事評価制度の導入前に周知しておけば、従業員が不満や疑問を持つ可能性は低くなるでしょう。

絶対評価の採用を検討する

評価の方式は大きく分けて2種類あります。「全体の中での順位」を見る相対評価と、「個人の能力そのもの」を見る絶対評価です。

どちらにもメリット・デメリットがありますが、近年の人事評価制度は絶対評価が主流といわれています。

絶対評価は相対評価と異なり、同程度の評価の人が何人いても、無理に順位を付ける必要がありません。一定の基準や目標をクリアしているかどうかで評価するため、透明性が高い点が特徴です。

フィードバックをしっかり行う

自分がされた評価の理由が気になる従業員は多いため、フィードバックを丁寧に行うことが重要です。

従業員に評価の根拠を丁寧に説明し、クリアすべき課題の解決や、今後の目標設定についてサポートしましょう。

従業員と企業の成長を意識する

人事評価制度は、従業員の成果や、そこから見える適性などに対してベストな待遇や配置を決定するものですが、人材育成にも役立ちます。

人事評価制度を設計する際は、現状を把握し「どのような人材を育成したいか」「どのような企業文化を醸成したいか」など、企業の理想を明確にすることが重要です。ビジョンを意識した人事評価制度の活用は、従業員と企業、双方の成長につながるでしょう。

6-2. 円滑な運用のための注意点

人事評価制度の運用では、以下の3点に注意する必要があります。

  • 人事評価エラーに気を付ける
  • 評価者の負担とならない制度設計をする
  • 定期的に見直しを行う

人事評価エラーに気を付ける

人事評価エラーとは、評価者の主観や感情が影響し、正しい評価ができないことです。人事評価エラーは作為的に行われるケースもありますが、無意識で発生する方が多く、評価者がエラーに気付かないケースも少なくありません。

以下のようなよくあるエラーは、事前に評価者に共有しておきましょう。

【よくある人事評価エラー7つ】

  よくある人事評価エラー7つ

評価者の負担とならない制度設計をする

評価内容や項目が細か過ぎたり多過ぎたりすると、評価者の負担が大きくなり過ぎてしまいます。

人事評価制度の運用に手間や時間がかかり過ぎる場合は、評価方法の見直しも検討しましょう。導入後にこうしたトラブルが発生しないようにするためにも、シミュレーションは欠かせません。

定期的に見直しを行う

人事評価制度は一度策定した内容で運用を続けるのではなく、定期的に内容の見直しを行うことが重要です。評価者だけでなく評価を受ける従業員にもアンケート調査などを行い、より良い評価方法を検討しましょう。


7. 人事評価制度の企業事例

最後に、3つの企業の人事評価制度を紹介します。ぜひ自社の制度を検討する際の参考にしてください。

7-1. ライフネット生命保険株式会社

ライフネット生命保険株式会社の人事評価は、「業績貢献度」「成長度」2点を軸に実施されます。同社の特長である「成長度評価」では、従業員は年度初めに目標を自身で設定、年度末に達成度や目標に向けてどの程度成長できたかを上司も交えて自己評価し、成績に反映させています。

これは自己成長と挑戦を促す取り組みですが、自律的に動かなければいけないため、ある意味厳しい制度でもあります。この制度の導入によって、従業員は仕事に当事者意識を持って取り組むようになったということです。

また、同社に定年はなく、自分で進退を判断します。人事評価も年齢に関係なく役職に応じた基準を適用するなど、従業員の成長やモチベーションアップを図る制度が充実しています。

7-2. TIS株式会社

ITサービス事業を展開するTIS株式会社では、基本給の最大17%アップを含む報酬・評価・等級などの新人事評価制度を、20234月から導入しました。

改定された人事評価制度では、個人業績評価と、グループ基本理念OUR PHILOSOPHYOP)」に基づく従業員に期待する行動を評価項目に設定したOPコンピテンシー評価」2つが軸となっています。

個人業績評価では、Must(期待役割)/Will(キャリア志向)/Can(強み・課題)を半期ごとに上長と擦り合わせて目標設定を実施し、達成度を評価します。また、評価項目をプロセスと成果で分けて設定し、成功せずとも挑戦の過程を評価して挑戦を後押しします。

OPコンピテンシー評価では、従業員のグレードごとに期待する行動をOPコンピテンシー評価項目」として設定し、行動を評価します。

なお、一人一人のパフォーマンスに応える評価と処遇を実現するため、全て絶対評価で行われています。

7-3. ケイアイスター不動産株式会社

ケイアイスター不動産株式会社は20229月、クラフトマン(建築現場に従事する社員職人)の早期育成や、多様な人材が正当な評価を受け活躍することを目的として、「マイスター制度」という人事評価制度を策定しました。

同社は、国籍や性別にかかわらず正当な評価を受けられる環境づくりに取り組んできました。以前から試験的に運用していた技術テストなどの評価制度によって技術力は向上し、20228月末時点でクラフトマン全体の約 41%が役職に就くという成果を上げています。

同社では、一定の技術を認められたクラフトマンは技能試験に挑戦でき、合格すると「技術主任」に昇格します。

技術主任は、これまで構築した評価基準を基に策定したマイスター制度へのチャレンジが可能です。個々の技術や管理能力に応じて「マイスター」「マイスターS」「マイスターGに昇格できます。


8. まとめ

人事評価制度とは、従業員の仕事における取り組みや成果を、企業が設定した評価基準に沿って適正に評価し、給与や昇進・昇級に反映する仕組みのことです。年功序列・終身雇用といった慣行が衰退したことで主流となりました。

人事評価制度は、以下の3つの制度で構成され、連動して機能しています。

  • 評価制度
  • 等級制度
  • 報酬制度

人事評価制度を導入する目的として、以下の4つが挙げられます。

  • 企業理念やビジョンの浸透
  • 適切な待遇の決定
  • 最適な人材配置
  • 人材育成の促進

人事評価制度における評価基準は、大きく以下の3つに分かれます。

  • 能力評価
  • 業績評価
  • 情意評価

人事評価制度におけるメジャーな評価方法として、以下の5つが挙げられます。

  • 目標管理制度(MBO
  • コンピテンシー評価
  • 360度評価(多面評価)
  • OKRObjectives and Key Results
  • バリュー評価

なお、近年、従来型の人事評価制度を廃止し、従業員をランク付けせず上司と部下が1on1 MTGを行いながら評価を決定するノーレイティングを採用する企業もあります。

人事評価制度の導入によって、評価者(上司や企業側)には以下のようなメリット・デメリットがあります。

メリット

  • 人事評価制度を通して企業理念の浸透、人材育成の促進などさまざまな施策を推進できる
  • モチベーションアップや生産性向上による競争力強化
  • スキルの把握・管理

デメリット

  • 評価外の業務がおろそかになりがち
  • 人事評価担当者の負担が増える
  • 評価のスキルが求められる
  • 評価によっては従業員のモチベーションが低下する

被評価者(部下)のメリット・デメリットは以下の通りです。

メリット

  • 自身の成果が適切に評価されるためモチベーションアップにつながる
  • 自身のスキルや適性が明確になり、それを生かすチャレンジの機会が生まれる

デメリット

  • 評価が良くなかった場合に企業に不満を抱いたり、落ち込んだりする可能性がある

人事評価制度導入のプロセスは以下の通りです。

  1. 現状の分析
  2. 評価目的・基準の設定
  3. 評価項目作成
  4. 評価方法の決定
  5. 導入・運用スケジュール作成
  6. 評価シミュレーション
  7. 人事評価制度の運用開始
  8. 評価内容のフィードバック

人事評価シートの作成時に気を付けたいポイントとして、以下のようなものがあります。

  • 職種、業務内容によって最適な評価項目になっているか
  • 公平性が保たれているか
  • フィードバックを行いやすい内容になっているか

人事評価制度をスムーズに運用するためのポイントとして、以下のようなものがあります。

  • 評価基準や給与との関連性を明確にする
  • 絶対評価の採用を検討する
  • フィードバックをしっかり行う
  • 従業員と企業の成長を意識する

人事評価制度の運用では、以下の3点に注意する必要があります。

  • 人事評価エラーに気を付ける
  • 評価者の負担とならない制度設計をする
  • 定期的に見直しを行う

最後に、企業の事例を3つご紹介しました。

  • ライフネット生命保険株式会社
  • TIS株式会社
  • ケイアイスター不動産株式会社

公平で透明性の高い人事評価制度はモチベーションやエンゲージメント向上につながり、企業と従業員を成長させます。貴社の人事評価制度の運用において、この記事を役立てていただければ幸いです。

 

人事評価制度の欠点は何ですか?

制度運用に関する負担が増える他、従業員が評価外の業務をおろそかにしてしまう可能性があります。また、従業員が悪い評価を受け取った場合、企業に不満を抱いたり、モチベーションが下がったりする場合があります。

人事評価 誰がやる?

人事評価は一般的に上司が行いますが、部下が自己評価を行う場合もあります。360度評価(多面評価)では、同僚や部下、他部署の従業員なども評価を行います。

人事評価 何を評価するのか?

能力評価、業績評価、情意評価の3つの観点から、総合的な評価を行います。能力評価は企画力や実行力など、業績評価は売上高や商談数など、情意評価は責任感や協調性、積極性などを評価します。

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[1] 株式会社ライボ「Job総研「2023年 人事評価の実態調査」」,『JobQ Town』,https://job-q.me/articles/15313(閲覧日:2023年12月15日)
[2] 「Key Performance Indicator」の略語。日本語では「重要達成度指標」「重要業績評価指標」と呼ばれる。目標を達成するまでの各過程において、達成度合いを観測するための定量的な指標。

参考)
一般社団法人 日本経済団体連合会「人材育成に関するアンケート調査結果」,2020年121日公表,https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/008.pdf(閲覧日:2023123日)
厚生労働省「職業能力評価シートについて」,https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08021.html(閲覧日:2023年12月3日)
厚生労働省「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/0000093584.html(閲覧日:2023年12月3日)
厚生労働省「ライフネット生命保険株式会社」,『働き方改革特設サイト CASE STUDY 中小企業の取り組み事例』,https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/casestudy/file049/(閲覧日:2023年12月4日)
池田正史「成長を生んだ、起業家精神の復活『個と徹底的に向き合った』理由」,『Forbes JAPAN』,https://forbesjapan.com/articles/detail/42354/page2(閲覧日:2023年12月4日)
TIS株式会社「エンゲージメント戦略」,https://www.tis.co.jp/group/sustainability/social/rewarding/(閲覧日:2023124日)
株式会社PR TIMESTIS、新人事制度を20234月より導入」,PR TIMES,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001285.000011650.html(閲覧日:2023124日)
ケイアイスター不動産株式会社「ケイアイスター不動産グループ、社員職人の早期育成を目指し新たな評価制度「マイスター制度」を策定」,https://ki-group.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/2022.09.12_meister-system.pdf(閲覧日:2023年12月4日)

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