「1on1ミーティング(1on1 MTG)、うちの会社でもやっていますよ」
筆者の身の回りで、こうした声が徐々に増えてきました。
その具体的なやり方を尋ねてみると、会社によって、あるいは1つの会社の中でも、ばらつきがあるようです。1on1 MTGの狙いや頻度・所要時間などの目安については、人事部から指針が出ているものの、実際の運営はマネージャーに委ねられていることも少なくありません。
さまざまな人事制度と同様に、1on1 MTGにも「これが正解」というやり方があるわけではなく、それぞれの会社の文化やビジネス環境、社員の特徴に合わせて、最適なやり方を編み出していくことが求められます。
本稿では、1on1 MTGの進め方の一例として、「GROWモデル」をベースにした基本プロセスとキーポイントをご紹介したいと思います。これは、エグゼクティブコーチとして名高いジョン・ウィットモア氏が提唱したというコーチングメソッドのことで、2章以降で詳しく触れていきます。
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目次
1. 1on1 MTGを始める前の確認事項
1on1 MTGを始めるにあたり、その目的と基本的な定義について確認しておきましょう。
1-1. 1on1 MTGの目的と定義
1on1 MTGは、「会社の持続的成長のために、部下のやる気を引き出して成長を促す」ことを目的として、上司と部下が定期的に行う1対1の対面による対話のことです。
会社は、それぞれ達成すべき具体的な目的に向けて持続的に成長することを至上命題としています。そうした会社の目的を実現する人材を育成することは、マネージャーの最重要任務の一つです。
部下に対して具体的な業務をアサインして、達成すべき目標を設定し、その達成に向けてサポートし、成果に対してフィードバックを行い、さらなる目標に向かって成長を促す。
それがマネージャーが行うべき部下育成のプロセスです。
育成にあたっては、部下が1日も早く独り立ちして自発的に行動できるよう留意することが肝要です。新卒社員のように真っ白な状態の部下に対しては、まずは手取り足取り丁寧に教える必要があります。そのような丁寧な指導を上司に期待する若者も、年々増えているようです。しかし、一人前の人材として活躍していくには、いちいち他人から指示されなくても能動的に判断して行動し、自発的に成長し続ける姿勢を身につけなければなりません。
人が一番やる気になるのは、他人に言われなくても、自分から自発的にやりたい、と思ったときですから、そういう気持ちの癖をつけさせることが、1on1 MTGにおける部下育成の肝とも言えます。
1on1 MTGの具体的な頻度や所要時間については、ここでは限定しませんが、あらかじめ決められた頻度で定期的に行い、また1回あたりの時間の目安も決めておくことが理想です。一例ですが、1on1 MTGの草分けであるヤフーでは、週1回30分です。
1-2. 1on1 MTGの位置づけと準備
1on1 MTGは、上述の人材育成のプロセスを効果的、効率的に進めるための手段です。
従って、1on1 MTGを始めるにあたっては、上司と部下の間で、その部下が担うべき業務内容、一定の期間内(通常は1年単位)に達成すべき目標、目標がどの程度達成されたかを測る指標を、明確にし、合意しておくことが大前提となります。ほとんどの会社では、正式な人事制度の中に、こうした目標設定および評価の仕組みが設定されているはずです。
1on1 MTGは、目標達成までの期間の中で、部下が方向を見失うことなく着実に成長を遂げられるよう、よりリアルタイムに上司が部下をサポートする場です。言い換えれば、1on1 MTGの主役は、上司ではなく部下なのです。
また、サポートを通じて、上司と部下との間で強固な信頼関係を築く絶好の場でもあります。1on1 MTGが、いわゆる「会議のための会議」にならないよう十分注意しましょう。
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2. 1on1 MTGの基本プロセスとキーポイント
1on1 MTGの進め方を簡単にまとめると、次の3つのプロセスになります。
① テーマの設定
② 目標・現状・選択肢の検討
③ 行動計画の策定
それぞれのプロセスとキーポイントについて見ていきましょう。
2-1. ① テーマの設定
1on1 MTGで取り上げるテーマは、基本的に、「部下が話したいこと」です。従って、事前に部下に「何を話したいか」を考えてきてもらいます。1章に記したように、1on1 MTGの主役である部下が、自発的に動くのを促すという狙いもあります。
1on1 MTGの目的に沿ったことであれば、どんな内容でも構いません。
現在取り組んでいる特定のプロジェクトの進め方、といった具体的な業務課題から、将来のキャリアアップのイメージまで、部下によって時間軸や具体性のレベルがまちまちでしょう。あるいは、子どもの就学や親の介護など、仕事に影響のありそうな家庭の事情についての相談もありうるでしょう。
「会社の持続的成長のために、部下のやる気を引き出して成長を促す」という目的に照らして、一見関係なさそうなテーマを部下が持ってきたとしても、言下に否定したりせず、まずは受け止めましょう。そうすることにより、部下の中で「1on1 MTGでは何を話してもいいんだ」という安心感と、何でも受け止めてくれる上司への信頼感が芽生えます。その上で、部下が話したい内容が、1on1 MTGの目的にどう結びつくのか、具体的に何を改善していけばいいのか、質問を投げかけながら明確にしていきます。
例えば、IT企業に勤めている部下が、「実は、5年後には独立して、飲食店を経営したいんです」と言い出したとしましょう。
本人の成長には確かに関わるけれども、当社の持続的成長には結びつかないような話に聞こえます。しかし、「飲食店経営の、どんなところに魅力を感じるのですか?」という質問によって、その人が仕事の中で大切にしたい価値観についてのテーマを引き出せます。あるいは「独立を視野に入れると、今この会社でどんなスキルを身につけたいですか?」と尋ねることで、現在の業務のスキルアップの検討というテーマにつなげることも可能です。
重要なポイントは、部下が「話したいこと」に対して質問を投げかけながら、相手が抱えている本質的な課題を掘り下げ、彼/彼女の成長の方向性を明確にすることです。これが、1on1 MTGでの「テーマ」となります。
この時、本人自身の成長が会社の成長にどう役立つのか、両者をつなげて考えられるよう、うまく導くのも、上司の役割です。飲食店経営希望の部下の例で言えば、「企業経営に不可欠な経営管理スキルを習得するため、今のポジションでどんな業務を追加で担当するか」をテーマとして導くことが考えられます。
上司から部下に話したいことがある、という場合も少なくないでしょう。1on1 MTGではそれを禁ずるわけではありませんが、部下の自発性を促すため、あくまで部下に主導権を委ねるほうが理想的です。
つまり、部下に話したいことが特にないことを確認した上で、「じゃあ今日は私からテーマを出してもいいかな」と許可を仰ぐのです。上司にそう言われて「ノー」と答える部下はいないと思います。ただし、「イエス」と了承された場合でも、いきなり指示命令モードになるのではなく、質問形式で始めるとよいでしょう。例えば、「〇〇プロジェクトの進捗、遅すぎるんじゃないか」ではなく、「〇〇プロジェクトの進捗について、どう思う?」というのが、望ましいアプローチです。
2-2. ② 目標・現状・選択肢の検討
テーマが設定されたら、①具体的な目標を描き、②その目標と比べて現状がどうなのかを把握し、③目標を実現するためにはどんな行動をとるべきかの選択肢を検討する、という3つのステップを進めていきます。
ここから、冒頭で紹介した「GROWモデル」をベースに進めることになります。コーチングメソッドであるGROWモデルを簡単に説明すると、
・Goal――目標、理想の姿の明確化
・Reality――現状の把握
・Option――選択肢の検討
・Will――目標達成の意思
というステップを、さまざまな質問を投げかけながら進めていき、相手が自分で考え、自身の潜在力を解き放つのを促す方法です。1on1 MTGにどう応用されるのか見ていきましょう。
目標の明確化(Goal)
まず、設定されたテーマに関して、目標(Goal)、すなわち具体的にどうなりたいのかという理想の姿をイメージしてもらいます。理想の姿を思い描くことで、部下は前向きな気持ちになり、その目標を自分が決めたのだという自己コントロール感を持つことができます。
現状の把握(Reality)
次に、そのテーマにまつわる部下の状況や周辺環境についての現状(Reality)認識を上司と部下が共有します。現状を確認することで、目標に向けた出発点がどこなのか、上司と部下が共通認識を持つことができます。
選択肢の検討(Option)
その上で、現状と目標とのギャップを明確にして、そのギャップを埋めるにはどうすればよいのか、取り得る行動の選択肢(Option)を検討していきます。選択肢は1つだけでなく、複数出してみることが重要です。一般的に、いくつかの選択肢から選んで決めるほうが、決めたことを容易に諦めずにやり遂げる成功確率が高いためです。
これらG-R-Oのステップは、上述のように順番に進むとは限りません。現状確認をした上で目標を定めたり、現状の話をしていたら、すぐに取るべき行動の選択肢がわかったり、あるいは、一旦決めた目標を、現実に照らして修正するなど、3つの間を行ったり来たりすることは大いにありえます。
また、テーマによっては、「理想の姿」まで描くことをせず、当面クリアすべき目標について具体的アクションを検討したり、上司からやるべきことを提示したりするケースもあります。
この過程で重要なポイントは、部下自身が、目標・現状・選択肢について自分の頭でしっかりと考え、その中身について十分に腹落ちするようサポートすることです。
そのために、上司は、テーマや部下の経験・スキル・能力等のレベルに応じて、部下に教える「ティーチング」型のアプローチと、部下から引き出す「コーチング」型のアプローチをうまく使い分けることがカギになります(ティーチングとコーチングについては、稿を改めて詳しく説明します)。
特に「選択肢の検討」については、「何をすればいいと思う?」と漠然と尋ねても、部下からすんなり答えが出てくるとは限りません。それが出来るなら、部下はわざわざ1on1 MTGで話す必要はないのですから。だからと言って、上司がストレートに教えてしまったら、部下は自分で考えることをせず、上司の提案に従ってしまいます。これでは、成長の機会を逸してしまいかねません。
そこで、部下が、課題解決に利用できるどんなリソース(Resource※)があるのかに気づき、選択肢を思いつきやすくなるよう、2つのヒントを与えます。
1つめは、「内的リソース」です。自分自身が持っている能力やスキル、知識、以前成功したときに使った方法や失敗からの学びといった過去の経験など、今の課題の解決や目標達成のために役立ちそうなリソースに目を向けさせます。気づきを促すため、以下のような質問をしてみましょう。
「これまでの自分の経験の中で、今回活かせそうなことは何ですか?」
「難題にぶつかったとき、自分がよく使う手段(強み、武器)は何ですか?」
2つめは、「外的リソース」です。助けてくれそうな他者、社内外から得られる情報はもちろん、「時間」や「お金」も自分を助けてくれる外的なリソースとなります。こちらについては、次のような質問が考えられます。
「このプロジェクトを前に進めるために、頼れそうな人は誰ですか?」
「あとどれだけ時間があればできそうですか? その時間をどこから捻出しますか?」
こうした投げかけに答えていくことで、部下は、徒手空拳で課題に取り組むわけではないことに気づき、「どんなものを使ってどうしていけばいいのか」という具体的な選択肢を自分で考え出すことが容易になるでしょう。
※リソース(Resource)を現状(Reality)と合わせ、GROWモデルの「R」として位置付ける考え方もあります。
2-3. ③ 行動計画の策定
目標達成の意思(Will)
最終プロセスとして、見出した選択肢の中から、実際に行う行動計画を作り、それを実行する意思(Will)確認を行います。1on1 MTGをただの話し合いに終わらせず、部下の成長につながる実のあるものにするには、このプロセスが不可欠です。
行動計画は、今からすぐ始められる具体的かつ現実的なものでなくてはなりません。ここでも質問を繰り返すことが大切です。
「最も効果がありそうな方法は、どれだと思いますか?」
「どの選択肢が一番役立ちそうですか? 一番しっくりきますか?」
などと問いかけ、複数の選択肢の中から部下が自ら選択し、決断するよう促します。
計画策定に際しては、2番目のプロセスで設定した目標はもちろん、
・何のためにやるのか(Why)
・何をするのか(What)
・どのようにするのか(How)
・いつまでにやり遂げるのか(When)
・1人でやるのか他のメンバーを巻き込むのか(Who)
といった点も明確にしていきます。
1on1 MTGの時間が足りなければ、「いつまでに行動計画を作るか」を決めて、期日までにメールなどで提出する、というかたちでもよいでしょう。
さらに、計画の進捗状況をチェックするタイミングや方法も決めておきます。
例えば重要顧客向け提案書のドラフト作成など、締切日になって実は「できませんでした」では済まない業務の場合は、途中でチェックポイントを設けて、進み具合や中身の出来具合を確かめ、軌道修正の余地を確保しましょう。
新たなスキルや知識の習得など、少し時間がかかる計画の場合も、途中で息切れしたりやる気を失ったり、忙しさにかまけて優先順位が下がったりしないよう、あらかじめ進捗確認のタイミングを決めることが大切です。もちろん、1on1 MTGの場で確認するのも結構です。
このプロセスでは、キーポイントが2つあります。
①行動計画の実行が部下自身の責任と選択であることを確認すべく、彼/彼女にしっかりとコミットメントを表明してもらうこと
計画の骨子をその場で書く、もう一度口で復唱する、といった直接的なやり方もあれば、以下のような質問をすることで、改めて覚悟のほどやコミットメント度合を確認する方法もあります。
「この計画を実行したいと、本当に思っていますか?」
「やり切る自信は、0から10点満点のうち、何点くらいですか?」
②行動計画実行にあたり、上司にどんなサポートをしてもらいたいか質問すること
部下が自らの行動計画を実行すると意思表明したら、改めて上司から「あなたが着実に計画を実行できるよう、私にどんなサポートをしてほしい?」と尋ねてみましょう。
組織心理学の研究によれば、従業員のエンゲージメントアップに最も有効なのは、上司からのサポートだそうです。行動するのは部下自身ですが、上司のサポートがあれば、なお心強いのはもちろん、サポートしてくれる人の期待に応えなくては、という責任感も生まれます。
たとえ具体的にサポートしてもらいたいことがなかったとしても、上司が手を差し伸べてくれた、いざとなったら上司が助けてくれる、と思えて、部下は安心して行動することができます。もちろん、上司に対する信頼感も上がるに違いありません。
3. まとめ
1on1 MTGは、「会社の持続的成長のために、部下のやる気を引き出して成長を促す」ことを目的として、上司と部下が定期的に行う1対1の対面による対話のことです。
1on1 MTGを進める際は、部下の自発性を尊重し、促進することが非常に重要です。
その基本的なプロセスは、大きく3つあります。
第1に、テーマの設定です。
1on1 MTGで話したいことは、基本的に、部下に考えてきてもらいます。それに対して質問を投げかけることで、相手が抱えている本質的な課題を掘り下げ、彼/彼女がどんな成長を遂げたいのかを知り、テーマを明確化していきます。
第2に、目標・現状・選択肢の検討です。
①具体的な目標を描き、②その目標と比べて現状がどうなのかを把握し、③目標を実現するためにとるべき行動の選択肢を検討する、という3つのステップを踏みます。だたし順番に進む必要はありません。質問をすることによって臨機応変に行き来しながら具体化していきます。
上司は、ティーチング(答を教える)とコーチング(答を引き出す)の手法を使い分けながら、部下自身が、自分の頭でしっかりと考え、その中身について十分に腹落ちし、自分が持っている内的・外的リソースを活用して複数の選択肢を考え出せるようサポートします。
最後に、先ほど出した選択肢の中から実際に行う行動計画を作り、それを実行する意思確認を行います。
行動計画の実行が部下自身の責任と選択であることを確認すべく、彼/彼女にしっかりとコミットメントを表明してもらうこと、そして行動計画実行にあたり、上司にどんなサポートをしてもらいたいかを考えてもらうことがキーポイントです。
こうした1on1 MTGのプロセスを進める際は、1on1 MTGが上司と部下の間の信頼関係を強め、部下の自主性を育むための手段であることを、お互いに認識しておくことが大切です。
上述のプロセスをただなぞればいいだけではありません。この時間は部下の成長を促す貴重な場であり、主役はあくまでも部下。上司は部下のサポート役に徹することを心掛けましょう。
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<参考文献>
・「ヤフーの1on1」本間浩輔 ダイヤモンド社 2017年
・「心理学」 無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治 有斐閣 2004年
・「動機づけ面接法 基礎・実践編」ウィリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック 星和書店 2007年
・「2018年新入社員調査より-今年の新入社員は何を求めているのか」リクルートマネジメントソリューションズ 2018年6月18日
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000671/
・「Managers Account for 70% of Variance in Employee Engagement」Randall Beck & Jim Harter, Gallup Business Journal, 2015年4月21日
https://news.gallup.com/businessjournal/182792/managers-account-variance-employee-engagement.aspx