おすすめ記事

人材育成の効率的な進め方 企業に役立つ手法,プログラム,ツール紹介

1on1ミーティングの進め方(2) 部下を成長させる3つの対話スキル

1on1ミーティングの進め方(2) 部下を成長させる3つの対話スキル

「1on1 ミーティング(MTG)で部下にいろいろとアドバイスしているが、うまく伝わっていない気がする。どうも成長の兆しが見えてこない」

そんな悩みを持つマネージャーは、もしかしたら「(一方的に教える)ティーチング」のスキルに頼りすぎているせいかもしれません。部下を効果的に育成するには、1on1 MTGのプロセスの中で、ティーチングコーチングフィードバックの3つのスキルをうまく使い分けることが大切です。

本稿では、これらの3つのスキルと、1on1 MTGで特に重要なコーチングアプローチによる具体的な質問例を丁寧に解説していきます。

これから説明する内容を一つひとつ読むと、一体どれだけ時間がかかるのか、部下一人ひとりに行うのは手間ではないか、と思われるかもしれません。しかし、基本的な考え方さえしっかり押さえておけば、あとはケースバイケースです。慣れてくれば、全部のプロセスを30分程度で済ますことは十分可能です。

皆さんを取り巻く環境や業務内容に応じて、部下にとって最適なアプローチを編み出す上での参考にしていただければと思います。

■人材育成計画の方法から効果的な教育手法までこれ1冊で解説!
「人材育成大百科」の無料ダウンロードはこちらから


1. 1on1 MTGの全体の流れ

1on1MTGの基本的な進め方は、次の3つのプロセスからなります。

①部下の成長を促すためのテーマの設定
②目指したい目標と現状の明確化とそのギャップをどう埋めるかの選択肢の検討
③具体的な行動計画の策定

本稿では、②「目標・現状・選択肢の検討」のプロセスに焦点を当てますが、ここは3つのプロセスの中でも最も時間がかかる部分です。
このプロセスをできるだけ効率よく、かつ効果的に行うには、1on1 MTGの目的、大前提やキーポイントを、上司から部下にあらかじめ丁寧に説明し、理解を共有しておくことが重要です。

そうした下地を整えた上で、本稿で具体的に紹介する3つのスキル(ティーチング、コーチング、フィードバック)が役立ちます。

そこで、具体的なスキルについて解説する前に、まずこれまで触れてきた1on1 MTGの重要ポイントを復習しておきましょう。

すでにご存じの方は、2章へとお進みください。

1-1. 1on1 MTGに先立って確認しておくべきこと

1on1 MTGとは、「会社の持続的成長のために、部下のやる気を引き出して成長を促す」ことを目的として、上司と部下が定期的に行う1対1の対面による対話のことです。

成長の目安となる目標は、通常は正式な人事評価制度に基づいて実施される面談で設定されますが、部下がそれをしっかり達成し、独り立ちして自発的に行動できるよう、リアルタイムで上司が部下をサポートする場が、1on1 MTGです。従って、そうした目標が上司と部下の間で合意されていることが、1on1 MTGの大前提となります。

1-2. 1on1 MTGの3つの基本プロセスとその概要

1on1 MTGの各プロセスについてもう少し詳しく確認しておきましょう。このプロセスは、「GROWモデル」というコーチングメソッドをベースとしています。その流れは、以下のようなものです。

テーマの設定
その日の1on1 MTGで取り上げる成長課題を決める。部下の自発性を促し、自分の頭で考えてもらうために、事前に部下に「何を話したいか」考えてきてもらうことが基本。

目標・現状・選択肢の検討
目標(Goal)の明確化:設定されたテーマに関して、目標、すなわち具体的にどうなりたいのかという理想の姿を描く。
現状(Reality)の把握:テーマにまつわる部下の状況や周辺環境などの現状を確認し、目標とのギャップを明確にする。
リソース(Resource)の発見:目標を達成するために利用できそうな内的リソース(自分自身が持つ能力やスキル、知識、過去の成功体験や失敗からの学びなど)、外的リソース(助けてくれそうな他者、情報、時間、お金など)を洗い出す。
選択肢(Option)の検討:リソースを活用しながら、現状と目標とのギャップを埋めるにはどうすればよいのか、行動の選択肢を複数検討する。

行動計画の策定
選択肢の中から具体的な行動計画を作り、実行する意思(Will)確認を行う。

ここでの上司の役割は、本人の意志で目標への行動計画を作れるように促すことです。

1-3. 1on1 MTGに大切な2つの考え方

1on1 MTGを行うにあたっては、次の2つの考え方を念頭に置くことが大切です。

・成長マインドセット:部下の「成長したい」という(潜在的な)思いを信じて、それをサポートする。
・感情・思考・行動のABCDEモデル:自分自身の「思考のワナ」(誤った思い込み)に気づき、1on1 MTGの場に相応しい適切な言動をとる。

特に「感情、思考、行動のABCDEモデル」は、目標・現状・選択肢の検討のプロセスを進める上で、部下がより適切な行動をとれるよう導く際に役立つのはもちろんのこと、上司自身が部下への接し方を考える上でも非常に有用です。

下の表は「思考のワナ」の典型的な例を一覧化したものです。

思考のワナの例
2章以降では、随所に「思考のワナ」の具体例を示しておきますので、参考にしてください。

人事に関する注目トピックを毎週お届け!⇒メルマガ登録する



2. 「目標・現状・選択肢の検討」のプロセスで活用する3つのスキル

「目標・現状・選択肢の検討」のプロセスはもちろん、1on1 MTGのプロセス全体を通じて活用するのは、

① ティーチング(上司が部下に教えること)
② コーチング(答えを部下から引き出すこと)
③ フィードバック(部下の行動に対して上司が意見を伝えること)

この3つのスキルです。

これらを、取り組む課題や部下の経験値、スキルレベルなどに応じて意識的にうまく使い分けていくことが、1on1 MTGを効果的に進めるためのキーポイントです。

2-1. ティーチング

ティーチング(Teaching)とは、簡単に言えば、課題に対する答えを、上司が部下に教えることです。

教えるべき項目の代表例は、
・ 会社の理念や目的
・ 社内外のビジネスルールや各種情報
・ 業務遂行に必要な具体的スキル(PCスキル、プレゼンスキルなど)や行動面の一般的スキル(コミュニケーションスキル、報連相など)
です。これらはいずれも、最初は上司が手取り足取り丁寧に教えるしかありません。

2-1-1. ティーチングで上司が囚われる「思考のワナ」

ティーチングの具体的なポイントについてお伝えする前に、上司の側が陥りがちな「思考のワナ」をいくつかお伝えしたいと思います。上司自身の「思い込み」をあらかじめ認識しておけば、それに気付きやすくなり、より効果的なティーチングが可能となります。

まず、わざわざ教えなくても部下は自分で学ぶべき、というべき論に囚われぬよう留意しましょう。ひと昔前までは、「俺の背中を見て盗め」「わからないことは自分から訊け」などと言われ、「ティーチング」と大上段に構えなくても必要なことを習得していったものです。しかし、時代の変化に伴い、こうしたアプローチはだんだん通用しなくなってきています。だからこそ、必要なことをしっかり「ティーチング」するための場として、1on1 MTGを設定するのです。

一方で、教えたくても忙しくて時間がない、というプレイングマネージャーも多くいらっしゃると思います。しかし、自分の忙しさを減らすためには、一日も早く部下を一人前にしなくてはならず、そのためには部下育成の優先順位を上げるしかありません。「何でも自分が教えなくては」といった「個人化」の思い込みを捨てて、中堅の部下に教えさせる、というやり方もできるはずです。

また、「この程度のことは常識としてわかっているだろう」「前に一度伝えたのだから、繰り返さなくても覚えているだろう」といったマインドリーディングも、結構やってしまいがちです。しかし、特にダイバーシティの進む職場では、こうした思い込みは禁物です。一人ひとりの理解度は異なりますし、一度言われただけで完璧に理解して行動できるような部下はまれです。上司は、部下の理解度に応じて、教えるべきことを適切に教えなければなりません。

2-1-2. ティーチングの3つのコツ

では次に、ティーチングのコツを3つ紹介しましょう。

第1のコツは、単刀直入に「わかっていますか?」と部下に尋ねることです。

そう訊かれると、部下はたいてい「はい」と答えます。そうしたら、すかさず「じゃあ、私が新人だと思って、具体的に教えてくれますか?」と尋ねるのです。

頭ではわかっていても、言葉で説明するのはなかなか難しいものです。自分で口に出してみることで、部下自身が自分のわかっていない点に気づき、もっとちゃんと理解せねば、という気持ちになるでしょう。そうすれば、その後の上司からの教えも前向きに吸収することができます。

第2のコツは、「伝えて」「やってみせて」「やらせて」「振り返る」ことです。
太平洋戦争時の連合艦隊司令長官だった山本五十六氏の「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」という名言の意味するところと同じですね。特に最後の「振り返り」は、後述のフィードバックのスキルも動員して、「自分の経験を次に活かす」習慣を、部下につけさせましょう。

一方、部下の自立と自発性を養うという観点からは、教え過ぎにも注意しなくてはなりません。

そこで、第3のコツとして、自分で考えられるよう、段階的に促していくことです。
手順としては、How(どのようにやるか、仕事のやり方)、What(何をやるか、仕事の成果物)、Why(なぜやるか、仕事の目的)の順に部下に任せ、「教える」かわりに「考えさせる」、つまりコーチングに移行していくのです。

「教え過ぎ」の典型は、Howを事細かに指示してしまうことです。部下がある程度業務に慣れてきたら、Whatだけを提示して、Howは思い切って任せましょう。

現場に精通し、最適なHowを熟知しているプレイングマネージャーほど、部下も自分と同じやり方でやるのが一番、という考えが視野狭窄につながる恐れがあります。部下の創造性を潰さぬよう、ちがうやり方でも同じ成果を出せればよしとする寛容さを持つことが大切です。

2-2. コーチング

コーチング(Coaching)とは、課題に対する答えを、上司が部下に考えさせ、部下から引き出す手法です。これは、部下の自発性を促すのに非常に有用なスキルであり、またじっくり話を聴くことで上司に対する部下の信頼感を醸成するのにも大いに役立ちます。

2-2-1. コーチングで上司が囚われる「思考のワナ」

ここでも、具体的なコーチングのポイントをお伝えする前に、上司自身が陥りがちな「思考のワナ」について触れておきましょう。

具体的なコーチングスキルについては、プロのビジネスコーチを養成するプログラムも数多く、またマネージャーの必須スキルの1つとして社内外の様々な研修で扱われる機会も多いため、基本的な考え方をご存じの方も少なくないと思います。
例えば、
・『正解』はクライアント(部下)の中にある
・開かれた質問を活用して相手の考えを引き出す
・聴く力=傾聴が何より大切
などです。

ただ実際のところ、上司という立場でコーチングを行う場合、大きな障害があります。
それは、養成プログラムなどが前提としている“コーチとクライアントとの関係”とは異なり、上司と部下は“明確な上下関係”にあるため、上司も部下も暗黙のうちに「『正解』を知っているのは上司である(べき)」「上の言うことに、下の人間は従う(べき)」という「べき論」に縛られがちなことです。
しかし、部下の自発性を培う、つまり自分の頭で考え、自ら行動するよう促すには、上司の皆さんは「上司として」あるいは「上司たる者」といった考え方を一旦脇に置いて、「コーチ」の役割に徹する必要があります。

それでも、せっかく「開かれた質問」(=自由に考えて答えてもらう質問)をしているのに、部下がなかなか答えず黙ってしまったり、あるいは的外れな答えを口にしたりすることもあるでしょう。それに対して、イラっとしたり、ついこちらが先に答えを言ってしまったりするとき、あなたは次のような「思考のワナ」に囚われている可能性があります。

「やっぱりこの部下は能動性に欠ける」=ラベリング
「この質問に即座に答えられなければ、昇進は無理だな」=All or nothing
「結局、正しい答えを知っているのは自分だ」=感情的決めつけ

部下が答えるのを辛抱強く待ち、話をしっかり傾聴するのが難しいときには、自分がこうした「思考のワナ」に囚われていないか、ぜひ振り返ってみてください。それに気づくだけで、先入観にとらわれず、より客観的に部下の話を聴くことができるはずです。

2-2-2. コーチングに必要なマインド

傾聴の仕方をはじめとする具体的なコーチングスキルについては、稿を改めて詳しく解説したいと思います。ここでは、キーワードを1つご紹介します。

それは、「好奇心を全開にする」ということです。

部下を「部下」としてではなく、自分とは異なる一人の人間として、その人となりに好奇心を持ってみるのです。
「この人は一体何を考えているのだろう」
「どんなことにモチベーションを奮い立たせるのだろう」
「仕事の喜びをどこに見出しているのだろう」
そんな素朴な疑問を胸に1on1 MTGに臨めば、それこそ好奇心満々で彼/彼女の発言に耳を傾けたくなるでしょう。

「動機付け面接法」という手法を開発した米国の心理学者、ウィリアム・R・ミラー博士によると、カウンセリングの最中にクライアントが頑固に様々な抵抗を示すのは、カウンセラーが「私が一番よく知っています。私の言うことを聞きなさい」という態度をとっているときだそうです。

部下の行動変容を促し、成長を手助けするには、まさにこのような態度は封印して、部下に対する好奇心を全開にすることが、コーチングスキルでうまく部下の考えを引き出すコツです。

2-3. フィードバック

フィードバック(Feed back、FB)とは、部下の行動に対して、上司の意見を伝えることです。もう少し具体的に説明すると、以下のようなものです。

Why(なぜやるか、FBの目的)
 部下のやる気を引き出し、成長を促すため(=1on1 MTGの目的そのもの)
What(何を伝えるか)
 部下の具体的な言動に対して、その言動がもたらした結果とともに、上司の意見
How(どのように伝えるか)
 できるだけ迅速に、事実に基づいて簡潔な言葉で伝えること。

その上で、行動を改善し、さらによい成果を上げるにはどうしたらよいか、教える(ティーチング)もしくは考えさせる(コーチング)ステップにつなげます。

なお、FBの手法については、詳細を具体的に解説した記事がありますので、ご参照ください。

2-3-1. 部下の行動と結果を明確にし、意見を伝える

1on1 MTGにおけるFBは、部下が立てた行動計画の実施状況に対して、あるいは通常業務の遂行状況に対して行うものです。何がうまくいったか、何がうまくいかなかったか、何をどう改善したらよいか、といった意見を、上司から部下に伝えます。それによって、部下が自分の経験を振り返り、次に活かせる学びを見つける手助けになります。

従って、FBは、初回の1on1 MTGではなく、2回目、3回目のMTGで部下の行動を振り返る際に行うことになります。

また、FBは本来その行動の直後に伝えるのが理想なので、次の1on1 MTGまで待たずにその場で行うほうが望ましい、ということも念頭に置いておいてください。

2-3-2. フィードバックの例

では、具体例をあげながらFBの仕方を見ていきましょう。
通常業務の中でこんな事件が起こったとします。

部下が、A社宛の請求書を間違えてB社に送付してしまいました。B社から上司への連絡でミスが発覚し、上司はA社とB社の双方に謝罪に出向きました。

A社・B社の往訪から帰ってきたら、上司はすぐに部下を呼んで、以下のことを伝えます。

・「A社宛の請求書を、B社に送ってしまいましたね。」(=部下の具体的な行動)
・「その結果、A社との取引内容がB社に漏洩し、A社とわが社の双方に損害を与えました。」(=部下の行動がもたらした結果)
・「私は、これはわが社の信用問題に関わることだと思います。会社の信用は何よりも大事だと思っています。」(=上司の意見)

このあと、同様のミスが今後起こらないようにするにはどうしたらよいか、具体的な改善策を検討するステップに入ります。ティーチングで行うか、コーチングにするかは、その時の状況や部下の経験・スキルレベルに応じて判断しましょう。

<ティーチングの場合>
「宛名と内容を3回見直すように」「書類を封筒に入れる前に、主任にダブルチェックしてもらうように」といった指示を上司が出します。

<コーチングの場合>
「こうしたミスを防ぐには、今後はどういうアクションをとればいいと思いますか?」という開かれた質問をし、部下に考えてもらいます。

2-3-3. フィードバックに必要な3つのポイント

ここで1on1 MTGの中でFBを行う際の留意点を、3つ挙げておきます。

・「事実」と「意見」を厳密に分けて話す
・まずポジティブFBから始める
・ネガティブFBの際は「なぜ」は禁物

一つひとつ見ていきましょう。

◆第1に、「事実」と「意見」を厳密に分けて話すことです。

上述の出来事に対して、もしも「こんな恥ずかしいミスをして、困るじゃないか」といった感情的なFBをしたらどうでしょうか。

部下は、自分の行動のどこが具体的に悪かったのか、間違いをしたことなのか、上司に恥ずかしい思いをさせたことなのか、よくわかりません。また、自分の行動が誰に対してどのような結果を招いたのか、「困る」のは上司かわが社かA社か、といった点も不明です。
部下が、起こった事実とそのインパクトを理解し、何をどう改善すべきかしっかり学べるよう、事実関係から順を追って淡々と伝えることが重要です。

◆第2は、1on1 MTGでのFBは、まずポジティブFBから始める、ということです。

ポジティブFBとは、部下の良い点を伝えることです。部下のモチベーションを上げ、望ましい行動の反復とさらなる改善を促すことが目的です。この場合も、第1のポイントと同じように、良かったのは具体的に部下のどの行動かという事実を明確にし、それに対して上司がどう思ったのかを伝えることが不可欠です。

部下の行動を見ていると、うまくできていないことのほうに目が行き、MTGもついその指摘から始めてしまいがちです。けれども、人間は悪いことより良いことを言われるほうが気分がよいに決まっています。部下のやる気を引き出すには、まずうまくできていることを褒めて、前向きな気持ちにさせることが肝要です。

なお、最近は自分より年上の部下を持つことも珍しくなくなってきました。年長者を「褒める」という行為に対して、おこがましさを感じ、ためらってしまう上司も少なくないようです。そういう場合は、「褒める」のではなく「賞賛する」と置き換えるとよいでしょう。
大上段に構えず、まずは「すごいですね」「すばらしいですね」「さすがですね」といった一言だけでも、十分ポジティブFBになります。

◆第3は、ネガティブFBの際に「なぜ」は禁物、ということです。

何かよくないことが起こると、人間はその原因を追求したくてつい「なぜやったのか」と問い詰めてしまいがちです。しかし「なぜ」と問われると、失敗した側は責められているように感じ、反射的に防衛態勢に入ります。むやみに言い訳をしたり、心のシャッターを閉ざして聞く耳を持たなくなったり、いずれにしても率直な対話は困難になります。
原因を明らかにしなくてはならない場合は、「なぜ」ではなく「何が」という言葉を活用しましょう。

「何が障害だったのですか?」
「うまくやることの妨げとなったのはどんなことですか?」
このような開かれた質問をすることで、部下はそのときの自分の周りの状況にまで視野を広げて原因を考え、より客観的な見地から改善策を検討することができるようになります。

2-4. 成長に必要なのはスキルかマインドセットかを探る

ここまで、ティーチング、コーチング、フィードバックについて説明してきました。
実際の場面でこれらのスキルを活用する際、難しいのがティーチングとコーチングの使い分け方です。これに関連して、役立つ視点をご紹介しておきましょう。

それは、部下の成長に必要なのは、「スキル」の習得なのか「マインドセット(ものの考え方、思考様式、一種の信念)」の変革なのか、という視点を持つことです。

例えば、部下が「顧客の前でうまくプレゼンテーションができない」という課題を抱えていたとします。彼/彼女に必要なのは、何らかの「スキル」なのか、「マインドセット」変革か、どちらでしょうか。

もしもうまくできない理由が「プレゼン資料の中身に自信がない」「質問されたらと思うと不安」といったことであれば、「スキル」の問題です。スキルは、基本的に教えてやらせて身につけさせる、つまり「ティーチング」するしかありません。効果的で的を射た資料の作り方を教える、想定問答集を一緒に作るなど、部下のスキルアップをサポートすることになります。

一方、「そもそも人前で話すのが嫌」という理由だとしたら、マインドセットを変えなければなりません。こちらは「コーチング」のアプローチが必要です。

ここで、感情・思考・行動のABCDEモデルが役に立ちます。
「嫌」という感情の裏にはどんな思考があるのか、何らかの「思考のワナ」、例えば「自分は完璧にやるべき=べき論」や「プレゼンがへたな人間は営業失格=拡大化」に陥っていないか。

上司が開かれた質問を投げかけて、部下を自分自身と向き合わせ、考えさせ、気づかせるわけです。その上で「多少失敗しても大丈夫、それを次に生かせばいい」と反論し、「やってみよう」と効果的な行動への切り替えを促すことが、マインドセットの本当の改善につながるのです。

大切なのは、上司が単純なアプローチをしないことです。スキル不足の問題であるにも関わらず、「気合が足りない」とマインドセットの問題にすり替えたり、マインドセット変革と言いながら、部下が何に囚われているのか探りもせずに「根性で頑張れ!」といったりするような対応をしないことが重要です。


3. コーチングアプローチ ―ステップ別の質問例

それでは、具体的な進め方の例を紹介しましょう。
部下から「仕事がなかなか定時で終わらず、残業が月間の上限を超えてしまう」という課題が提示され、「残業をなくすにはどうしたらよいか」というテーマを設定したとしましょう。

1on1 MTGの基本プロセスに従い、
・目標の明確化(実現可能な目標を設定する)
・現状把握(現状のどこに問題があるのか気づかせる)
・リソースの発見(解決に役立つスキル、人脈などを探る)
・選択肢の検討(具体的な解決策を探る)
という流れに沿って、コーチングアプローチによる具体的な質問例とポイントをご紹介していきます。

1on1 MTGのテーマ:
「残業をなくすにはどうしたらよいか」

3-1. 目標の明確化

目標を明確化するためには、どのような質問をするのがよいでしょうか。まず前提となる基礎知識について確認してみましょう。

質問例A:
「そもそも、残業を減らすのは何のためですか?」
「働き方改革の本来の目的は、何だと思いますか?」
「残業は最悪何時間までやっていいのですか?」

ポイント:
このテーマの場合、就業規則や36協定(労働基準法36条に基づく労使協定書。時間外労働、休日勤務等について、労使間で締結する)など、会社として遵守しなければならない基本的な規程や長時間労働是正の目的など、基本的なことを部下がどこまで理解しているかをまず確認します。
これを正しく理解していない場合は、「正解」をティーチングします。

また、次のような質問で、本人にとっての理想をイメージさせます。

質問例B:
「月の残業時間は何時間くらいが理想ですか?」
「現実的には、どのような状態が妥当だと思いますか?」
「いつまでに、どのくらいの状況になればよしとしますか?」

ポイント:
理想的な状態を本人にイメージさせるところから始めます。
理想と現実のギャップを明確にすることで、改善の重要性を強く認識させます。非現実的な目標では設定する意味がないので、実現可能な妥当なレベルの目標を設定できるよう、質問を工夫します。

3-2. 現状把握

続いて、現状把握を促します。次のような質問を投げかけてみるとよいでしょう。

質問例A:
「残業の原因となるのは、主にどの業務ですか?」
「残業するかしないかは、誰がいつどのように決めていますか?」
「何時間くらい残業するか、どうやって決めるのですか?」

ポイント:
事実確認のために質問するとともに、残業を自分で意識的にコントロールしているかどうか、自身の自主性についての気づきを促します。

質問例B:
「理想の状態を100点とすると、今は何点くらいですか?」
「足りない点数を埋めるのに、一番の障害となっていることは何ですか?」
「改善が必要な点を3つ挙げるとしたら、どんなことですか?」

ポイント:
現状の問題点に目を向けさせる質問です。具体的な問題ではなく、なんとなく付き合い残業していそうであれば、「残業しないといけないと思わせているものは、何ですか?」といった「思い込み」に切り込む質問も考えられます。

3-3. リソースの発見

課題解決のためのリソースには、「内的リソース(自分のスキル、能力、知識など)」と、「外的リソース(他社、時間、お金、情報など)」があります。次のような質問を投げかけ、部下に気づきを促します。

質問例A(内的リソース):
「これまでに、残業を減らすためにどんなことをトライしてみましたか?」
「残業せずにうまく仕事が終わる日は、どんな行動をとったときですか?」
「あなたの強みは何ですか?」
「難題にぶつかったとき、自分がよく使う強み(武器、アプローチ)は何ですか?」

ポイント:
課題の解決に活かせそうな自分の武器(スキル、能力、知識)は何か、気づきを促すため、いろいろな角度から質問します。今の課題と直接関係なくても、何らかの過去の成功体験を思い出し、そこで使った武器を振り返るのも、選択肢の幅を広げるヒントになります。

質問例B)(外的リソース):
「課題解決に協力してくれそうな人は誰ですか? その人に何をしてもらいたいですか?」
「身の回りで、うまく時間をコントロールして成果を上げているのは誰ですか?」
「人以外に活用できそうなツールはどんなものが考えられますか?」

ポイント:
外的リソースの代表は他者ですが、それ以外にも一般的には時間やお金、情報などが考えられます。視野を広げて改善策を考えるきっかけを作ります。

なお、リソース発見のステップでは、開かれた質問によるコーチングアプローチだけでなく、ティーチングのスキルを使って、上司の目から見た部下の強み、活用できそうな情報や頼れそうな人のる候補などをぜひ提供してください。そのためには、普段から部下をよく観察して、閻魔帳ならぬ強み帳を作っておくことをお勧めします(1on1 MTGの際に活用できるこの手のツールは、稿を改めてご紹介します)。

コーチングやティーチングを通じて、自分の持つさまざまなリソースに気づけば、部下は徒手空拳で課題に取り組むわけではないのだと自信を持つことができ、次のステップの「選択肢の検討」も容易になるでしょう。

3-4. 選択肢の検討

最後に、選択肢を検討させるための問いかけをします。

質問例:
「問題解決のために何ができそうですか?」
「今までやったことのない新しい方法として、何が考えられますか?」
「他に、もっとしっくりくるやり方はありませんか?」

ポイント:
ブレーンストーミングのように、できるだけいろいろな選択肢を考えてもらうことが大切です。

この場合、上司から意識的に視点を変える質問をするのも効果的です。例えば、部下が尊敬する先輩やロールモデルがいれば、「〇〇さんならどう考えると思いますか?」といった質問をします。
1、2個で出尽くしたと言われても、「他にありませんか?」と尋ねます。無理やり3つくらいひねり出すうち、最後に名案が飛び出すことがあるものです。

3-5. コーチングアプローチの進め方のポイント

3-1から3-4までのステップは、順番通りに進むとは限りません。現状確認をした上で目標を定めたり、現状の話をしていたら、すぐに取るべき行動の選択肢がわかったり、あるいは、一旦決めた目標を、現実に照らして修正するなど、「目標の明確化」、「現状把握」、「選択肢の検討」の3つの間を行ったり来たりすることも大いにありえます。

また、テーマによっては、目標が「理想の姿」といったものではなく、「期日までに提案書を作成する」という具体的アクションだったり、上司がやるべきことを提示したりするケースもあります。

いずれにしても、重要なポイントは、部下自身が、目標・現状・選択肢について自分の頭でしっかりと考え、十分に腹落ちするようサポートすることです。


4. まとめ

1on1ミーティング(MTG)の基本的な進め方の2番目にあたる「目標・現状・選択肢の検討」プロセスでは、ティーチング・コーチング・フィードバック(FB)の3つのスキルを活用します。

上司が部下に答を教える「ティーチング」では、部下の理解度を確認した上で、「伝えて」「やってみせて」「やらせて」「振り返る」というステップを踏みます。

最初は手取り足取り丁寧に教えますが、部下のレベルに応じて、How(どのようにやるか、仕事のやり方)、What(何をやるか、仕事の成果物)、Why(なぜやるのか、仕事の目的)の順に部下に任せ、コーチングに移行していくことが、部下の自主性を促すコツです。

「開かれた質問」をうまく使いながら部下に考えさせ、気づかせる「コーチング」は、部下の自発性を促すのに非常に有用なスキルです。上司と部下という上下関係がある中では、上司自身が自分の「思考のワナ」に注意して、好奇心を全開にして、先入観にとらわれず、より客観的に部下の話を傾聴することを心掛けましょう。

FBとは、部下の具体的な言動に対して、その言動がもたらした結果と上司の意見を、できるだけ迅速に、事実に基づいて、簡潔な言葉で伝えることです。その上で、どのように行動を改善するといいのか、次に活かせる学びを引き出していきます。

FBのコツとして、
①「事実」と「意見」を厳密に分けて話す
②「うまくいったこと」を賞賛するポジティブFBから行って部下の前向きな気持ちを促す
③ネガティブFBの際は部下が防衛的になって聞く耳を塞いでしまわないよう「なぜ」という言葉は避ける
といった点をご紹介しました。

これらのスキルを柔軟に使い分けながら、部下自身が、目標・現状・選択肢について自分の頭でしっかりと考え、十分に腹落ちするようサポートすることが大切です。

無料eBook「eラーニング大百科」

社員教育や人材開発を目的として、
・eラーニングを導入したいが、どう選んだらよいか分からない
・導入したeラーニングを上手く活用できていない
といった悩みを抱えていませんか?

本書は、弊社が20年で1,500社の教育課題に取り組み、

・eラーニングの運用を成功させる方法
・簡単に魅力的な教材を作る方法
・失敗しないベンダーの選び方

など、eラーニングを成功させるための具体的な方法や知識を
全70ページに渡って詳細に解説しているものです。

ぜひ、貴社の人材育成のためにご活用ください。

プライバシーポリシーをご確認いただき「個人情報の取り扱いについて」へご同意の上、「eBookをダウンロード」ボタンを押してください。


<参考文献>
・「ヤフーの1on1」本間浩輔 ダイヤモンド社 2017年
・「心理学」無藤隆他 有斐閣 2004年
・「動機づけ面接法 基礎・実践編」ウィリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック 星和書店 2007年
・「Setting Expectations & Assessing Performance Issues」The University of California, Coursera, 2018年

無料eBook「人材育成大百科」

人材育成の基本から、計画の立て方、効果的な教育手法、そして学習管理システム(LMS)の最新活用法までをコンパクトに解説。

人材育成に関する悩みや課題を解決するための完全ガイドです。

【資料内容】
人材育成の基本の説明/人材育成計画のたて方/育成計画表のサンプルと作成方法ガイド/効果的な育成手法の紹介/人材育成を効率化するLMSのご紹介

プライバシーポリシーをご確認いただき「個人情報の取り扱いについて」へご同意の上、「eBookをダウンロード」ボタンを押してください。