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サバティカル休暇とは?似た制度との違い、必要な準備と事例を解説

サバティカル休暇とは?似た制度との違い、必要な準備と事例を解説

「優秀な人材を獲得するために福利厚生に力を入れたいが、有効な施策があるだろうか」
「人材の流出を抑えたいが、社員満足度の高い制度はなんだろう?」

採用活動でアピールできる制度や、既存社員とのエンゲージメント向上に役立つ制度を考えたとき、近年注目を集めているサバティカル休暇を検討してみてはいかがでしょうか。

サバティカル休暇は、一定の勤続年数を重ねた従業員に対して、企業から長期休暇を付与する制度です。ワークライフバランスを大切にする企業姿勢のアピールとなるうえ、休暇中に従業員が新たなスキルや知見を身につけられるなど、従業員本人と組織全体の成長にも資するものです。

日本におけるサバティカル休暇の先駆者は、2014年にサバティカル休暇を導入したヤフー株式会社ですが、近年では大企業だけでなく中堅企業がサバティカル休暇を導入し、一定の成果を挙げている事例も増えてきました。

本記事では、サバティカル休暇の概要とメリット・デメリット、導入に必要な準備と、サバティカル休暇を活用している企業の事例を紹介します。自社の人材確保に課題を感じている方はぜひ参考にしてください。

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1.サバティカル休暇とは?

サバティカル休暇は、一定の勤続年数を重ねた従業員に、長期休暇を与える制度のことです。

1880年に米ハーバード大学で大学教員に導入された研究のための長期休暇が起源とされ、「サバティカル」は「安息日」という意味のラテン語 sabbaticus が由来の言葉です。

欧米では、1990年代にワークライフバランスを大切にする価値観が広まった結果、企業が人材流出対策の一環としてサバティカル休暇制度を取り入れ、各国に定着しています。

一方、日本国内でサバティカル休暇を取り入れている企業はまだ少数です。しかし、人材戦略の観点から、サバティカル休暇の導入を進める企業は今後増加すると考えられます。

1-1.サバティカル休暇が注目されている理由

日本でサバティカル休暇が注目され始めたのは2018年ごろからです。主な理由は2つあります。

・ワークライフバランスを大事にする価値観
・人材獲得と人材流出防止

ワークライフバランスを大事にする価値観

欧米の事例と同様に、サバティカル休暇はワークライフバランスを大事にする価値観の広まりと関係しています。また、日本における働き方改革の流れも影響しています。

企業において、従業員から「個人の自己研さんや家族との時間を確保したい」という要望が高まり、サバティカル休暇を整備する企業が増加しました。

人材獲得と人材流出防止

長引く人手不足のなか、サバティカル休暇は企業における福利厚生を充実させる施策としても注目されています。

より良い人材を獲得するため、自社の人材流出を防止するために、サバティカル休暇の導入に至る企業も少なくありません。

1-2.キャリア開発におけるサバティカル休暇の必要性

近年の働き方改革の流れもあり、自身のライフプランに沿った働き方をかなえたいという人は増えています。会社任せではなく、より主体的に自分のキャリアプランを考える「キャリア自律」という考え方も広まってきました。

ただし、従業員自身が自律的なキャリア開発に取り組むためには、仕事とは別の学びの時間が必要になってくるでしょう。

経済産業省は、2018年に公表した「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」[1]の報告書において、社会人の学び直しであるリカレント教育を推進するため、企業によるサバティカル休暇の整備に言及しています。

また、経済産業省が2022年5月に公表した「人材版伊藤レポート2.0」[2]においても、人的資本経営の考えに基づき、社外での学習機会の戦略的提供の手段としてサバティカル休暇が挙げられています。

つまり、従業員個人がキャリアの自律を目指すためにも、まとまった学習・経験の機会となるサバティカル休暇が求められているのです。

1-3.サバティカル休暇とリフレッシュ休暇・永年勤続休暇の違い

サバティカル休暇とリフレッシュ休暇・永年勤続休暇は、一定の勤続年数を経過すると会社から付与される休暇である点が共通しています。似たような休暇制度ですが、具体的な違いをまとめました。

休暇の種類必要な勤続年数休暇の期間主な目的
サバティカル休暇比較的長い1カ月〜1年程度リスキリング、新たな経験
リフレッシュ休暇比較的短い数日〜数カ月程度プライベートの充実
永年勤続休暇長い数日〜数週間程度勤続年数に対する慰労

サバティカル休暇

従業員の自発的な探求を主な目的とした休暇です。資格取得や大学院進学などのリスキリング(学び直し)や、副業への注力、家族と関わる時間など、休暇中に「やること」を明確にして休暇を取得するケースが一般的です。

休暇期間は企業によって幅があり、休暇中に定期連絡を求めていたり、復帰後に「サバティカル休暇中に学んだこと」をレポートなどで社内に共有したりする場合もあります。

リフレッシュ休暇

従業員のリフレッシュが目的の休暇です。休暇中の過ごし方は基本的に自由で、会社に休暇の目的などを申告しないケースが多いでしょう。

サバティカル休暇や永年勤続休暇に比べ、取得に必要な勤続年数が比較的短く、企業によっては勤続1年以上で5日付与といった運用も見られます。

会社によっては、サバティカル休暇に相当する制度の名称を「リフレッシュ休暇」にしているため、一見しただけではサバティカル休暇との区別がわかりにくいケースもあります。

永年勤続休暇

従業員の「勤続〇〇周年」をねぎらう休暇です。福利厚生制度の一環として、永年勤続表彰制度とセットになっている場合が多いでしょう。

勤続年数に対する慰労の意味があるため、休暇中の過ごし方は自由です。休暇取得に必要な勤続年数が比較的長く、勤続10年目から10年ごとに休暇が付与される運用が多く見られます。

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2.サバティカル休暇のメリット

サバティカル休暇を整備することで、どのようなメリットがあるでしょうか。企業側、従業員側それぞれの観点から確認してみましょう。

2-1.会社側のメリット

サバティカル休暇による会社側のメリットは大きく2つあります。

・従業員エンゲージメントの向上と離職率の低下
・優秀な人材の確保

従業員エンゲージメントの向上と離職率の低下

サバティカル休暇は一定の勤続年数をクリアした従業員に付与される仕組みです。これにより従業員の勤続モチベーションが向上するでしょう。

また、サバティカル休暇の導入は、経営者層が「福利厚生に力を入れている」というメッセージとなり、従業員エンゲージメントが深まります。結果的に離職率も低下するでしょう。

優秀な人材の確保

サバティカル休暇は多くの企業でまだ整備されていない制度です。法定休暇とは異なり、サバティカル休暇を整備するかは各企業の裁量によります。

そのため、サバティカル休暇を設けている企業は「従業員の福利厚生に力を入れている」「長期休暇を出せる仕組み化や企業体力がある」と判断され、人材確保において他社よりも優位に立てるでしょう。

2-2.従業員側のメリット

サバティカル休暇による従業員側のメリットは大きく2つあります。

・リスキリングによる新たなスキルの獲得
・ワークライフバランスの向上

リスキリングによる新たなスキルの獲得

サバティカル休暇は従業員の自己啓発を目的とした休暇です。仕事とは別に、新たな学びに取り組む時間を確保できるのは、自律的なキャリアを築くうえで大きなメリットとなるでしょう。

リスキリングで獲得した新たなスキルや知見を復帰後の仕事に役立てることで、より会社にも貢献できます。

ワークライフバランスの向上

サバティカル休暇は、会社によっては副業や家族と関わる時間に使っても良い場合があります。

現在のポジションでは経験できない仕事に副業で取り組んだり、家族の介護・育児に時間を使ったりすることは、ワークライフバランスを向上させ、人生において有益な経験となるでしょう。


3.サバティカル休暇のデメリット

サバティカル休暇には、従業員が長期間業務から離れることに起因するデメリットがあります。

3-1.会社側のデメリット

サバティカル休暇による会社側のデメリットは大きく2つあります。

・休暇取得に伴う現場の混乱・負担の増大
・休暇取得後の離職リスク

休暇取得に伴う現場の混乱・負担の増大

サバティカル休暇の取得対象は勤続年数が長い従業員であり、チームの中心的な役割を担っていることがほとんどです。

該当者が受け持っていた業務をどうカバーするかで、チーム内に混乱が起こる場合もあるでしょう。代替要員を確保しない場合、残った人員の負担の増大にも気をつけなくてはなりません。

これらを回避するには、普段から業務の属人性を避ける仕組みづくりが有効です。

休暇取得後の離職リスク

サバティカル休暇の間にMBAなどの資格を取得したり、副業で別のスキルを伸ばしたりした結果、従業員が休暇明けとともに離職するケースもゼロではありません。

休暇前に復帰後のキャリアプランについて話し合う、休暇中に起きた社内の出来事を情報共有するなど、従業員と自社とのエンゲージメントを保つ仕組みを考えましょう。

3-2.従業員側のデメリット

サバティカル休暇の取得に伴う従業員のデメリットは以下の2つです。

・休暇中の収入低下
・復帰後のプランに対する不安

休暇中の収入低下

サバティカル休暇の期間中は、無収入となるケースがほとんどです。支援金としてまとまった金額を支給するケースもありますが、多くの企業で給与の支給がストップします。

休暇前から学費や生活費などを計画的に貯蓄して、休暇を有効に使えるよう準備しておきましょう。

復帰後のプランに対する不安

サバティカル休暇は長期間業務から離れるため、復帰時に「元のポジションに戻れるのだろうか」「休暇を取得したことで査定が下がるのではないか」と不安に思う人もいるでしょう。

サバティカル休暇に入る前から、会社側と復帰後のプランを話し合っておくことが大切です。


4.サバティカル休暇の導入に必要な準備とは

サバティカル休暇は法定休暇ではないため、企業が自由に休暇期間を決められます。また、育児休業とは異なり、社会保険料の免除制度などもありません。

サバティカル休暇の導入にあたって必要な準備を、4項目にまとめました。

4-1.サバティカル休暇前の引き継ぎ・代替要員

サバティカル休暇は、勤続年数の長いベテラン従業員が長期離脱する制度とも言えます。

残った人員に過度の負担がかかることのないよう、業務の引き継ぎや代替要員の確保に配慮が必要です。管理職権限の委譲も含めたルールを設けておきましょう。

4-2.サバティカル休暇中の給与と社会保険の取り扱い

サバティカル休暇は法定休暇ではないため、有給休暇とする必要はありません。

勤続年数に対する慰労金や休暇中の支援金という名目でまとまった金額を支給する企業もありますが、多くは無給です。

社会保険料・労働保険料の自己負担分の取り扱いについても各社で対応が分かれており、会社側が本人負担分を肩代わりするか、休暇中の保険料は本人に別途請求するか、自社のルールを決める必要があります。

4-3.サバティカル休暇明けの離職を防ぐ制度設計

サバティカル休暇中に仕事とは異なる経験を積んだことで、仕事に対する興味が移ったり、人生観が変わったりして、休暇から復帰せず離職してしまうケースもないとは言えません。

休暇に入る前から復帰後のキャリアについて話し合い、復帰後にサバティカル休暇中の経験を発表する機会を設けるなどして、「新たな経験・知見を本業にフィードバックする」という意識を持たせる制度設計を行いましょう。

4-4.サバティカル休暇から復帰した後のキャッチアップ

サバティカル休暇は数カ月〜1年程度の空白期間が発生するため、復帰後にスムーズに業務に戻れるかは、本人も会社側も不安に思うところです。

休暇中に組織改変があったり、業界内で新しい動きがあったりした場合、復帰後に素早く情報をキャッチアップする必要があるでしょう。

このようなキャッチアップ研修には、スキル管理を行うシステムを活用すると良いでしょう。例えば当社製のLMS「CAREERSHIP®」では、学習の管理と同時に、スキルの登録と習得状況の見える化が可能です。

CAREERSHIP®スキル管理機能の3つの特徴
 ・従業員に必要なスキルを可視化して管理し、戦略的な人材開発を実現
 ・スキル獲得に必要な学習をひもづけて、自発的な学習を促す仕組みづくりが可能
 ・他社のキャリアを含めてマッピングできるため、自律的なキャリア構築を推進

5.サバティカル休暇を導入した企業の事例を紹介

ここからは、すでにサバティカル休暇を導入している日本企業の事例を紹介します。自社の仕組みづくりの参考にしてみてはいかがでしょうか。

5-1.伊藤忠テクノソリューションズ株式会社

伊藤忠テクノソリューションズは、2022年4月からテレワークの拡大や副業認可とともに長期休業制度(サバティカル休暇)を整備しました。

これは勤続3年以上の社員に対し、原則1年以内の長期休暇を認める制度です。学び直し(リスキリング)や、ボランティア、家族の看護など幅広い利用を想定しています。

5-2.ソニーグループ

ソニーグループは、2015年に「フレキシブルキャリア休職制度」を導入しました。

2年以上勤務している従業員を対象に、配偶者の海外赴任や留学に同行するために最長5年の休職を認める制度と、専門性を深化・拡大させる私費修学のための最長2年の休職を認める制度があります。

修学にかかる初期費用を会社が最大50万円まで負担したり、社会保険料の本人負担分を会社が支給していたりと、手厚い内容となっています。

5-3.株式会社アトラエ

アトラエは、2018年に「サバティカル3」という休暇制度を導入しました。これは、勤続3年ごとに連続して約1カ月(20日間)の長期休暇を有給で取得できる制度です。

休暇中は、残ったメンバーが部門を超えて助け合う仕組みがあり、休暇取得者は復帰後の全社ミーティングで「サバティカル3」の期間中に行ったことを自発的に報告するなど、従業員エンゲージメントの向上に役立っています。


6.まとめ

サバティカル休暇は、一定期間勤続した従業員に、リスキリングなどのために使える長期休暇を付与する制度です。人材戦略上の必要性から、サバティカル休暇の導入を検討する企業は増えていくでしょう。

サバティカル休暇は、会社側、従業員側それぞれに次のようなメリットがあります。

会社側
・従業員エンゲージメントの向上と離職率の低下
・優秀な人材の確保

従業員側
・リスキリングによる新たなスキルの獲得
・ワークライフバランスの向上

サバティカル休暇の導入に必要な準備として、以下の4つが挙げられます。

・サバティカル休暇前の引き継ぎ・代替要員
休暇取得者の業務の引き継ぎや、代替要員の確保に配慮が必要です。管理職権限の委譲も含めたルールを設けておきましょう。

・サバティカル休暇中の給与と社会保険の取り扱い
サバティカル休暇は法定休暇ではないため、給与・社会保険の取り扱いが各社で異なります。自社のルールを決める必要があります。

・サバティカル休暇明けの離職を防ぐ制度設計
サバティカル休暇明けの離職を防ぐために、休暇に入る前から復帰後のキャリアプランについて話し合う機会を設けましょう。

・サバティカル休暇から復帰した後のキャッチアップ
復帰後にスムーズに業務に戻れるよう、休暇中の情報をキャッチアップする仕組みを作っておきましょう。

最後に、サバティカル休暇を導入した日本企業の事例をご紹介しました。

・テレワークの拡大や副業認可とともに長期休業制度(サバティカル休暇)を整備した伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
・配偶者の海外赴任や私費修学のためのフレキシブルキャリア休職制度を導入したソニーグループ
・休暇制度の導入によってチームワークや従業員エンゲージメントが向上した株式会社アトラエ

サバティカル休暇の導入は、人材採用におけるアピールポイントとなるだけでなく、ワークライフバランスを向上させ新たなスキルや知見を獲得できるなど、既存の従業員とのエンゲージメントの向上にもつながります。

人材確保の難しさを感じている企業は、サバティカル休暇を検討してみてはいかがでしょうか。

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[1] 経済産業省 中小企業庁「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(人材力研究会)報告書」,https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180319001_1.pdf(閲覧日:2022年11月10日)
[2] 経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」,https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf(閲覧日:20221110日)

参考)
厚生労働省「特別休暇制度導入事例集2020」,https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category4/20210312_1.pdf(閲覧日:2022年11月10日)
内閣府 経済財政諮問会議 第2回平成29年3月13日 資料「サバティカル、教育訓練休暇について(ヤフー株式会社)」,https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg7/290313/shiryou3.pdf(閲覧日:2022年11月10日)
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社「新たな働き方「Upgrade the CTC Workstyle」を4月から開始」,https://www.ctc-g.co.jp/cms/contents/data/23/1416/PDF_FILE_1416.pdf(閲覧日:2022年11月10日)
ソニーグループ「多様性を推進する取り組み」,『SONY』,
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/Jobs/recruit/system/div.html(閲覧日:2022年11月10日)

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