インセンティブとは、組織や個人の意欲を引き出すために外から与える刺激のことです。企業では、従業員の意欲向上や目標達成のための施策の1つとして用いられます。
インセンティブというと業績が基準を超えた従業員に対し、給与に追加して支払われるものと思う方も多いでしょう。
しかし、成果のみを評価する金銭的報奨は業績の低い従業員との間に優劣が生じたり、また成果で測れない職種の従業員にとっては不公平感のもとになってしまったりするなど、組織全体として従業員満足度の低下や離職率の増加につながる可能性があります。
このような逆効果を生まないためには、どのようなインセンティブ制度を整備すればよいのでしょうか。
本稿では、インセンティブとは何か、制度として導入する場合のメリット・デメリットなどを解説します。
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目次
1. インセンティブとは
組織や個人の意欲を引き出すための考え方として、内側から自発的に意欲を高めるモチベーション(内発的動機付け)と、外側からの働き掛けにより意欲を高めるインセンティブ(外発的動機付け)があります。
インセンティブには、金銭的なもの、評価や地位の向上、自己実現のサポートなどがあります。例えば、目標を達成した個人やチームへの特別報奨金やストックオプションの付与、企業内表彰、昇進、研修への参加などが挙げられます。
また、企業によっては、「インセンティブ・ポイント制度」を導入し、基準を達成するとポイントを付与、従業員はそのポイントを使って好きなものと交換できるという仕組みを作り、効果を上げている例もあります。
報奨金は額が少ないと不満を生みますが、多ければ多いほど良いわけではなく、ある水準を超えるとかえって効果が薄れるといわれています。また、自己の成果が職場内で高い評価を受けることによって、チームや企業への帰属意識や従業員エンゲージメントを高める効果が期待できます。
企業は、金銭的、社会的インセンティブを上手に組み合わせたり、使い分けたりする工夫が必要です。
なお、成果のみを評価するインセンティブ制度では、対象にしにくい職種も生じます。その結果、従業員間に意欲の差が生じることもあり得るでしょう。
経理や総務などの事務職には成果よりもプロセスを評価するようなインセンティブ制度を設けるなど、どの従業員もインセンティブを受けられる機会をつくることが重要です。
1-1. ボーナスとの違い
ボーナスは毎年決まった時期に支払われるのが一般的で、企業の業績を反映して金額が決まります。
一方インセンティブは、ある期間の個人やチームの業績に対して、企業が決めた基準(目標)を超えた場合に支払われるものです。インセンティブが発生するか否か、どのくらいの金額になるかは、企業が決めた基準と個人やチームの業績次第です。
1-2. 歩合制との違い
インセンティブも歩合制も、個人の業績に応じて支払われるという点では共通しています。ただし、以下の点で異なります。
【歩合制】
・「1件、成約したら〇〇円」のように1件ごとに設定される
・成果報酬は金銭に限られる
【インセンティブ】
・一定期間の業績が目標を達成した場合に支払われる
・特別報奨金といった金銭の他、表彰や昇進なども含まれる
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2. インセンティブ制度のメリット
ここでは、インセンティブ制度の導入によるメリットを企業と従業員、それぞれの立場ごとに紹介します。
2-1. 企業のメリット
企業がインセンティブ制度を導入するメリットとして、以下のようなことが挙げられます。
- 優秀な人材の確保
- 従業員の定着率の向上
- 企業の業績向上
優秀な人材の確保
インセンティブ制度を導入している企業という点がアピールポイントになり、能力や意欲の高い人材が集まることが期待できます。
従業員の定着率の向上
インセンティブ制度が従業員を正当に評価するものであれば、従業員がその企業で長く勤めたいと考える動機の1つになるでしょう。実際、インセンティブ・ポイントの付与やそれに伴う評価制度により、離職者数と入職者数が同等だった状況から入職者数の方が上回る状況にシフトした例があります。
企業の業績向上
従業員が目標達成に向けて意欲的に業務に取り組むようになれば、結果として企業の業績を押し上げることにつながります。
2-2. 従業員のメリット
インセンティブ制度を導入した場合、従業員には以下のメリットが考えられます。
- 実力が正当に評価される
- 年齢や入社年次に関係なく、高額な収入を目指せる
実力が正当に評価される
業績や成果が企業の基準で評価されるため「実力があって結果も出しているのに、上司との関係が悪くて認めてもらえない」といった、主観的・感情的な要因で成果が評価されない事態を防げます。
年齢や入社年次に関係なく、高額な収入を目指せる
インセンティブ制度に報奨金などの金銭を設定している企業であれば、実力次第で年齢に関係なく高額な収入を得ることも可能です。
インセンティブ制度は、適切に設定すれば、従業員のやる気や仕事へのやりがいを向上させ、職場の活性化や業績向上につながる有効な施策となるでしょう。
3. インセンティブ制度のデメリット
インセンティブ制度導入には、デメリットもあります。メリットと同様、企業と従業員に分けて見ていきましょう。
3-1. 企業のデメリット
インセンティブ制度導入による企業のデメリットとして、以下のようなことが懸念されます。
- 従業員間に意欲の差を生む可能性がある
- 職場環境に悪影響を及ぼしかねない
従業員間に意欲の差を生む可能性がある
意欲の高い従業員にとってインセンティブは効果的ですが、従業員によってはインセンティブが響かないこともあります。また、努力しても成果が出ない場合、インセンティブによって不公平感が生まれることになりかねません。
それにより、意欲だけでなく、生産性や効率といった面も従業員間で差が生じやすくなる可能性が考えられます。
職場環境に悪影響を及ぼしかねない
インセンティブの内容によっては、従業員同士の競争を激化させ、それが要因で職場環境が悪化することもあり得ます。個人同士の競争に走り過ぎ、組織としての結束が脆弱化してしまうような結果になっては本末転倒です。
3-2. 従業員のデメリット
従業員は、インセンティブ制度の導入によって以下のようなデメリットを被る可能性があります。
- 逆効果になる場合もある
- 給与が一定ではない
逆効果になる場合もある
意欲を引き出すためのインセンティブ制度ですが、従業員によってはプレッシャーになったり、従業員間に付く優劣に悩んだりすることもあるでしょう。そのような場合では、かえって意欲が低下してしまうこともあり得ます。企業は職場の声を反映できるような制度設計が大切です。
給与が一定ではない
インセンティブ制度では、多くの場合金銭的インセンティブが含まれ、成果の有無や度合いによって給与に変動が生じます。景気の変動など、社会情勢によって成果にも影響が出ることは大いにあります。
金銭的インセンティブを当てにして生活設計をすると、金額が減少したり、金銭的インセンティブを得られなくなったりした場合に生活が厳しくなりかねません。
最近では、1つの職場において働き方も従業員の経歴もさまざまということは珍しくありません。各々の従業員に適したインセンティブ制度を整備するためには、職場の実情を把握し、課題を明確にした上で自社に合った制度を設計することが大切です。
4. インセンティブ・ポイント制度の実例
インセンティブ・ポイント制度を導入し、業績向上につながった例や課題の解決に結び付いた例を紹介します。
損害保険ジャパン株式会社
もともと表彰制度はありましたが、営業部門のトップセールス層にしかスポットライトが当たりませんでした。そのため、他の従業員の士気向上を目的にインセンティブ・ポイント制度を導入し、独自の「SHSポイント」を活用しています。
この制度では、トップセールス層以外の従業員の頑張りを評価するために、目標を達成した全員にポイントが還元されます。その結果、営業稼働率が前年対比約2倍に上がり、モチベーションの維持と向上が業績向上につながると実感できたとのことです。
株式会社タカキュー
アルバイト・パート従業員が半年~1年程度で辞めてしまうという定着率の低さが問題視されていました。そこで、インセンティブ・ポイント制度を導入し、ポイント付与時にどの部分を評価しているのか細かく記載したり、利用客からの「お褒めの言葉」を社内報で公表したりしました。
これまで離職者数と入職者数は同程度でしたが、導入半年で離職者数より入職者数の方が上回るという結果につながりました。
株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングス
人手不足により新規採用が難しく、さらにアルバイト従業員の定着率の低さも課題となっていました。これに対し、現場のニーズに合った行動基準を設け、スキル評価×行動評価の2軸で評価するインセンティブ・ポイント制度を導入しました。
その結果、現場でのコミュニケーションが生まれ、モチベーション向上につながった他、採用のフックとしての効果も実感されています。
5. まとめ
インセンティブとは、組織や個人の意欲を引き出すために外から与える刺激のことです。金銭的インセンティブ、社会的インセンティブなどがあり、具体的には、目標を達成した場合に特別報奨金を与えたり、企業内で表彰したり、昇進を認めたりするといったことが挙げられます。
インセンティブ制度を導入するメリットは、企業・従業員、それぞれ以下のようなことが挙げられます。
◆企業
・優秀な人材の確保
・従業員の定着率の向上
・企業の業績向上
◆従業員
・実力が正当に評価される
・年齢や入社年次に関係なく、高額な収入を目指せる
一方、デメリットとしては以下のことが考えられます。
◆企業
・従業員間に意欲の差を生む可能性がある
・職場環境に悪影響を及ぼしかねない
◆従業員
・逆効果になる場合もある
・給与が一定ではない
インセンティブ制度は、適切に設定すれば従業員やチームの意欲を向上させる有効な施策となります。しかし、働き方が多様化し、さまざまな経歴を持つ従業員が1つの職場にいることが珍しくない現在、仕事に対する考え方や価値観も人によってさまざまです。
このような環境において、インセンティブ制度を整備するためには、職場の実情を把握し、課題を明確にした上で自社に合った制度を設計することが大切です。
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参考)
BOWGL「現金報酬だけじゃない!企業のインセンティブ制度事例10選」
https://bowgl.com/2018/05/28/incentivepoint-case/