フレックスタイム制とは、従業員が自分の働く時間帯を自由に配置・決定できる制度のことです。
繁忙期の残業時間が多い、休日出勤が頻繁に発生する、など従業員の就労状況の問題に悩んでいる企業も少なくないでしょう。働き方改革などが重視される昨今において、適切な労働時間制度の構築と運用は企業にとって重要な課題です。
本稿では、その課題解決に貢献するフレックスタイム制のメリットとデメリットを説明するとともに、適切な運用に必要な注意点を紹介します。従業員の働き方の改善にご活用ください。
※働き方改革関連法による労働基準法の改正に合わせて内容の一部を修正しました。
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1. フレックスタイム制とは
冒頭で述べた通り、フレックスタイム制では従業員が自分の働く時間帯を自由に配置・決定できますが、無制限に自由というわけではありません。
労使間で事前に定めた一定期間(清算期間)における労働時間の合計(総労働時間)の範囲内で、従業員が各日の始業および終業の時刻を自ら決定し、勤務するという形を取ります。
清算期間は、以前は1カ月以内とされていましたが、法改正により最長3カ月まで延長されました。より長い期間の中で労働時間の調整ができるようになったといえます。
清算期間を3カ月とした場合、労働時間調整のイメージは以下のようになります。
参考)
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」,P6,https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf
フレックスタイム制は、労働基準法第32条の3に規定されており、1日や1週間の法定労働時間に代わり清算期間内の総労働時間で時間外労働の適用が判断されます。つまり、清算期間の範囲なら1日や1週間の法定労働時間を超えて労働してもよいのです。
ただし、清算期間が1カ月を超える場合、以下のどちらか一方でも超えると超過分が時間外労働と見なされ、割増賃金の支払いが必要になります。
(1)清算期間全体(労使協定で定められる最長3カ月)の労働時間が週平均40時間
(2)月ごとの労働時間が週平均50時間
参考)
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」, P6-7,13-16,https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf
労働時間について、完全週休2日制の場合には特例があります。労使協定により「清算期間内の所定労働日数×8時間」を労働時間の限度とすることができるのです。これにより、残業のない働き方をしているのに曜日の巡りによって想定外の時間外労働が発生する、という問題が解消されます。
具体的には、以下の例のようになります。
(例)
清算期間は1カ月、土・日が休日で、1日の労働時間を7時間45分とするフレックスタイム制を導入
この例の場合、通常の計算をすると「総労働時間>法定労働時間」となり、完全週休2日制で残業のない働き方をしたにもかかわらず、時間外労働が発生してしまいます。
そこで特例を適用すると、「総労働時間<法定労働時間」となり、時間外労働が発生しません。
参考)
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」,P8,https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf
通常のフレックスタイム制では、1日の労働時間帯は必ず勤務すべき時間帯のコアタイムと、出社または退社が可能な時間帯のフレキシブルタイムに分けられます。なお、コアタイムの設定は必須ではないので、全部をフレキシブルタイムとすることも可能です。
例えば、以下のような設定が考えられます。
コアタイム 10:00~15:00(昼食休憩1時間)
フレキシブルタイム 6:00~10:00と15:00~19:00
なお、フレックスタイム制を導入する場合、労使協定の締結と就業規則にその内容を記載しておくことが必要です。加えて、清算期間が1カ月を超える場合は、労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出ることが義務付けられており、違反すると罰則の対象となることがあります。
労働時間を調整できる制度としては、フレックスタイム制の他、変形労働時間制というものもあります。変形労働時間制は、1カ月や1年単位の期間で変則的な労働時間を定める方法です。業務の繁閑がはっきり分かれていて、通常の時間通りの勤務が非効率である場合に有効です。
変形労働時間制では企業側が労働時間を定めるのに対して、フレックスタイム制では出退勤時間について従業員個人に委ねられる部分が大きく、従業員の立場ではフレックスタイム制の方がメリットを感じやすいでしょう。
変形労働時間制については、関連記事をご参照ください。
厚生労働省による2023年の就労条件総合調査[1]を見ると、フレックスタイム制を採用する企業(種類別採用企業)の割合は6.8%です。
この値は2022年(8.2%)と比べて減少していますが、フレックスタイム制に関する法改正が行われた2019年は5.0%[2]でした。それを鑑みると、多様な働き方を選択できるようにするための手段の一つとして広まっているといえるでしょう。
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2. フレックスタイム制のメリットとデメリット
フレックスタイム制のメリットとデメリットを確認しましょう。
2-1. メリット
フレックスタイム制では、以下のようなメリットが期待できます。
- ワークライフバランスの促進
- 労働時間を調整しやすい
- 人材の確保に有効
- 残業時間の削減と労働負担の軽減
ワークライフバランスの促進
フレックスタイム制では労働時間を柔軟に設定できるようになるため、仕事とプライベートとの両立が実現しやすくなります。
「9時~18時」など、勤務時間帯が固定されていると、子どもの世話や通院などと仕事を両立するのは困難なケースが少なくありません。その点、フレックスタイム制であれば両立が可能となり、個人の暮らしがより快適になることで、仕事へのモチベーションやエンゲージメントの向上が期待できます。
労働時間を調整しやすい
法改正により清算期間が最長3カ月までとされたため、「繁忙月と閑散月がある」、「この月は資格試験の勉強のために早く帰りたい」など、自身の都合に合わせて労働時間の調整がしやすくなりました。
厚生労働省の解説では、6~8月の3カ月が清算期間である場合、共働きの小学生の親が、小学校が夏休み中の8月に労働時間が短くなるよう調整し、子どもと過ごす時間を長く取るという例を紹介しています。
人材の確保に有効
フレックスタイム制は従業員の採用や離職防止に役立つため、人材確保にも有効です。定型的な勤務形態では結婚や子育て、病気、介護などで離職に至る場合でも、フレックスタイム制なら勤務を継続しやすいため、離職の防止につながります。
また、フレックスタイム制を導入していることで、ワークライフバランスの促進に取り組む企業としてイメージアップになり、優秀な人材を採用しやすくなることも考えられます。
残業時間の削減と労働負担の軽減
通常の勤務形態では回避できない残業時間や休日出勤も、フレックスタイム制なら削減することが可能です。
業務状況に対応した適切な勤務時間が設定されると、不要な残業時間を削減できる他、従業員の心身の疲労を軽減できます。それにより、仕事のミスの削減や効率化も期待できるでしょう。
2-2. デメリット
一方で、以下のようなデメリットもあります。
- 出退勤の時刻設定を誤ると業務に悪影響
- ルーズな時間管理の助長
- 光熱費などで余分な経費が増大
出退勤の時刻設定を誤ると業務に悪影響
フレックスタイム制で出退勤の時刻設定が業務の状況に適さないと、重大な問題が生じかねません。
例えば、顧客や取引先が連絡しやすい時間帯と従業員の出退勤の時間帯とにずれが生じると、商談に関するコミュニケーション効率が下がる可能性があります。また、同じ企業でも、部署や部門間における出退勤時刻のずれにより、連携に支障が出て余計なトラブルを招くケースも考えられます。
ルーズな時間管理の助長
フレックスタイム制で時間管理がルーズになると、業務に計画性がなくなり、効率が悪くなったり業績が低下したりする可能性が増します。時間にルーズな従業員にとっては、フレックスタイム制がマイナスに働いてしまうかもしれません。そのため、上司などにはより適切な管理・指導が求められます。
また、清算期間が3カ月の場合、長期間で適切な業務計画を立てる必要があります。1カ月ごとに業務の進捗を確認するなど、業務が滞らないような仕組みづくりが重要です。
光熱費などで余分な経費が増大
フレックスタイム制で労働者の出退勤時刻の範囲が広がると、各職場を利用する時間が長くなるため光熱費などが増大する可能性があります。たった1人でも、朝早く、または夜遅くに部屋・施設を利用すると照明や空調などの費用がかかり、その分経費が多くなるわけです。
3. フレックスタイム制の注意点
フレックスタイム制の導入や運用に当たり、以下の点で注意が必要です。
- 導入意義の説明と従業員の理解
- 適用する職務の選定
- 職場内のコミュニケーションの悪化防止
導入意義の説明と従業員の理解
何のためにフレックスタイム制を導入するのか、その意義を従業員に説明しておく必要があります。単に出退勤が楽になる、便利になるというだけではルーズな時間管理を助長しかねないため、導入目的や導入後の働き方などを従業員にしっかりと説明し、理解を得ましょう。
適用する職務の選定
職務によっては、フレックスタイム制が必ずしもプラスの効果をもたらすとは限りません。従来の画一的な勤務形態よりもフレックスタイム制の方が従業員の個性や能力が生かされ、成果拡大や効率化に結び付くといえるのか、職務ごとに適用を検討することが求められます。
職場内のコミュニケーションの悪化防止
職場で直接会って会話する機会が減ると、協調性の低下や疎外感の助長など、チームワークに悪影響を及ぼす可能性があります。また、上司などが部下の問題や悩みに気付く機会が減ることにもつながるので注意が必要です。
コミュニケーションの減少を防ぎ、業務効率の向上や知識・ノウハウの共有を促進させるため、全員がそろう時間帯や機会を適切に設定することが求められます。
4. まとめ
フレックスタイム制とは3カ月以内の清算期間の総労働時間を事前に定め、従業員はその範囲内で各日の始業および終業の時刻を自ら決定して勤務する制度です。清算期間の範囲なら1日や1週間の法定労働時間を超えた労働ができます。
フレックスタイム制には、以下のようなメリットが期待できます。
・ワークライフバランスの促進
・労働時間を調整しやすい
・人材の確保に有効
・残業時間の削減と労働負担の軽減
一方で、以下のようなデメリットが生じる場合もあります。
・出退勤の不適切な時刻設定による業務への悪影響
・ルーズな時間管理の助長
・光熱費などの増大
なお、フレックスタイム制の導入や運用では以下の点で注意が必要です。
・導入意義の説明と従業員の理解
・適用する職務の選定
・職場内のコミュニケーションの悪化防止
フレックスタイム制の清算期間が最長3カ月となり、ますます柔軟な働き方が可能になりました。人手不足で、人材確保が難しい今日では、フレックスタイム制のような弾力的労働時間制の採用が一層重要になると想定されます。この機会に、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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[1] 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査概況 結果の概要」,P8, https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/dl/gaiyou01.pdf
[2] 厚生労働省「平成31年就労条件総合調査概況 結果の概要」,P5, https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/19/dl/gaiyou01.pdf