おすすめ記事

人材育成の効率的な進め方 企業に役立つ手法,プログラム,ツール紹介

「変形労働時間制」とは 上限を1年・1カ月単位で定めるメリット・デメリット

「変形労働時間制」とは 上限を1年・1カ月単位で定めるメリット・デメリット

変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて労働時間を柔軟に運用できるようにした制度です。

「うちの業界は月末がものすごく残業が多いのだけど、月初はものすごく暇だな」
「年末から3月にかけてはものすごく忙しいけれど、4月から7月くらいにかけてはあまり仕事がないな」

このような経験はありませんか?繁閑がはっきりと分かれている業界にとって、通常の法定労働時間通りに業務をすることが企業、従業員双方にとって非効率な場合があります。そのような悩みを解消する制度の一つが変形労働時間制です。

本稿では変形労働時間制を導入する場合、企業としてのメリットやデメリット、導入の手続きについてご説明します。

「変形労働時間制」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
⇒ダウンロードする


1. 変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、企業の業務の繁閑に応じて労働時間を柔軟に運用できるようにした制度です。厚生労働省の就労条件総合調査(2022年)[1]によると、変形労働時間制を採用している企業の割合は64.0%という結果が出ています。

変形労働時間制には、1カ月を期間としたものと、1年を期間としたものがあり、それぞれ導入する場合の手続きが異なります。次章で見ていきましょう。

人事に関する注目トピックを毎週お届け!⇒メルマガ登録する


2. 1カ月単位の変形労働時間制とは

1カ月単位の変形労働時間制は、1カ月以内の一定の期間、1週間当たりの労働時間が平均40時間(特例事業の場合は44時間)を超えなければ、1日8時間もしくは1週間40時間の法定労働時間を超える労働が可能になる制度です。

例えば、月の前半が忙しく後半にはゆとりがある状況であれば、前半の就業時間を午前8時から午後7時(休憩1時間を除く10時間)、後半を午前9時から午後4時(同6時間)などと、変則的な労働時間を定めることができます。

もしくは、忙しいときは長めの労働時間を設定し、それ以外のときは休日を増やす、という方法もあります。

この制度の場合、1日の労働時間の上限はありません。変形期間は「1カ月以内」なので、2週間単位、4週間単位でも設定できます。

1カ月単位の変形労働制導入の手続き

この制度を導入するためには、労使協定の定め、または就業規則の定め(これに準ずるもの)が必要となります。具体的な手続きは下記の通りです。

(1) 変形期間の所定労働時間
変形期間内の法定労働時間の総枠を超えてはならない旨を明確に規定します。

(2) 対象となる労働者の範囲
範囲について制限はありませんが、明確に定めなければなりません。

(3) 変形期間と変形期間の起算日
変形期間は1カ月以内、始期を明確にする必要があります。

(4) 変形期間中の労働日および各労働日の労働時間
変形期間の各日、各週の労働時間だけでなく、労働日と始業、終業の時刻を具体的に記載し、労働者に周知することが必要です。

労使協定では上記に加えて、協定の有効期間を記載します。また、協定は1カ月単位の変形労働時間制を採用するための要件を満たすに過ぎないため、この制度の下での労働を従業員に義務付けるためには、就業規則などにも定める必要があります

つまり、「労使協定と就業規則で定める」「就業規則のみで定める」のいずれかを選択することになります。その上で、労使協定や就業規則を所轄労働基準監督署長へ提出します。

1カ月単位の変形労働制は労使協定を締結する必要はなく、就業規則で定めればよいため、1年単位の変形労働時間制に比べて比較的簡単に導入可能です。


3. 1年単位の変形労働制とは

期間を1年とした変形労働時間制は、1カ月を超え1年以内の期間、1週間当たりの労働時間が平均40時間を超えなければ、1日当たり、1週間当たりの法定労働時間を超える労働が可能になる制度です。

例えば、4~6月は所定労働時間を8時間30分、7~12月は7時間30分とするなど、忙しい時期に応じて所定労働時間を変えることができます。変形する期間は1カ月超1年以内なので、3カ月や5カ月でも問題ありません。なお、1年単位の場合、労働時間の特例である週44時間は適用されません

3-1. 1年単位の変形労働制導入の手続き

1年単位の変形労働制を導入するに当たって、1カ月単位の変形労働制の手続きと大きく異なる点は「必ず労使協定を結ばなければならないこと」です。その際は、下記内容を書面に記載して締結する必要があります。

(1) 対象労働者の範囲
中途採用者・中途退職者などを含め、対象となる範囲を明確に定めなければなりません。

(2) 対象期間および起算日
1カ月を超え、1年以内に限られます。

(3) 特定期間
対象期間中に特に業務が繁忙となる期間を記載します。

(4) 労働日および労働日ごとの労働時間
規定の時間を超えないよう設定します。

(5) 労使協定の有効期間
 基本的に対象期間より長く設定すればよいとされますが、適切な運営のためには1年が理想的です。

労使協定を締結できたら、書面を所轄労働基準監督署長に提出します。

補足として、(4)については対象期間を1カ月以上の期間に区分した場合最初の期間(例えば1カ月など)において、労働日およびその労働日ごとの労働時間を労使協定に定めなければならないとなっています。

その後の各期間については、いったん各期間における労働日数と総労働時間の総枠を定めておくことで事足ります。

その後、各期間が始まる最低30日前に、各事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合の、ない場合は過半数の労働者を代表する者同意を得て、労働日と労働日ごとの労働時間を書面で定めていきます。

3-2. 1年単位の変形労働時間制の注意点

1カ月単位の変形労働制と比較して、1年単位の変形労働時間制にはいくつか注意すべき点があります。

    • 1日の労働時間の限度が10時間
    • 1週の労働時間の限度が52時間

さらに、対象期間が3カ月を超える場合、次の点も気を付けなければなりません。

    • 労働時間が48時間を超える週は連続3週以下にすること
    • 対象期間を3カ月ごとに区分した各期間において、労働時間が48時間を超える週は週の初日で数えて3回以下であること

期間が長くなる分、労働者に長時間労働を必要以上に強いることがないよう、こういった取り決めがされています。


4. 変形労働時間制のメリット、デメリット

変形労働時間制を導入するメリットには、どのようなことがあるでしょうか。

業務の繁閑に合わせた時間の配分が可能

従業員は業務の繁閑に合わせ、実情にあった働き方ができます。「仕事がないのに就業時間内なので帰れない」という時間や労力の無駄をなくせます。

企業側は、残業代の削減ができます。通常は、法定労働時間を超過すれば残業代の支払いが発生しますが、この制度を採用することで、法定労働時間を超えても所定時間内であれば残業代の支払いが発生しません。

ワークライフバランスの実現

繁忙期はたくさん働き、そうではないときは早めに業務を終了できるメリハリのある働き方は従業員のワークライフバランスの実現につながります。本来であれば就業していた時間を使って、自身のスキルアップや休息に充てるなど時間の有効活用ができると心身の健康にも効果的でしょう。

一方で、以下のようなデメリットもあります。

事務手続きが煩雑

変形労働時間制では、事前に具体的な労働日や労働時間を定め、提示する必要があります。担当者は毎回、スケジュールを作成したり、労働時間を算定したりするなどの煩雑な手続きをしなければなりません。

労働日や労働時間を変更できない

事前に労働日や労働時間を提示し、それに従った働き方をすることを前提とした制度のため、急な業務依頼に即応できない不便さがあります。

通常であれば所定時間内ですぐに対応できることも、場合によっては所定時間外で対応できる人員がいなかったり、時間外労働として予想外の残業代が発生したりする可能性があります。

業務内容を整理し、この制度に合っている業務内容または職場なのかを見極めた上で導入の可否を検討するとよいでしょう。


5. まとめ

変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて労働時間を柔軟に運用できるようにした制度です。法定労働時間を1日で捉えるのではなく、1カ月、1年という期間の中で「平均すれば法定労働時間内」なら労働可能となるため、職場の実情に合った働き方を選択することができます

メリット、デメリットとして以下のようなことがあります。

メリット

  • 業務の繁閑に合わせた時間の配分が可能
  • ワークライフバランスの実現

デメリット

  • 事務手続きが煩雑
  • 労働日や労働時間を変更できない

繁忙期は長時間、業務に従事できる一方で、そうでない時期は業務時間を短縮できる仕組みは、従業員にとってはメリハリのある働き方が可能、企業にとっては残業代の削減と、両者にとってメリットのある制度といえるでしょう。

ただし、導入や運用上の事務手続きは煩雑になるため、担当者の負担も考慮する必要があります。「残業代を削減できるから」という安易な考えでの導入は、結果的に従業員に長時間労働を強いることにもなりかねません。

自社の業務は変形労働時間制に適しているかどうかを見極めた上で、導入を検討する必要があるでしょう。

無料eBook「eラーニング大百科」

社員教育や人材開発を目的として、
・eラーニングを導入したいが、どう選んだらよいか分からない
・導入したeラーニングを上手く活用できていない
といった悩みを抱えていませんか?

本書は、弊社が20年で1,500社の教育課題に取り組み、

・eラーニングの運用を成功させる方法
・簡単に魅力的な教材を作る方法
・失敗しないベンダーの選び方

など、eラーニングを成功させるための具体的な方法や知識を
全70ページに渡って詳細に解説しているものです。

ぜひ、貴社の人材育成のためにご活用ください。

プライバシーポリシーをご確認いただき「個人情報の取り扱いについて」へご同意の上、「eBookをダウンロード」ボタンを押してください。

[1] 厚生労働省「令和4年就労条件総合調査の概況」,2022年10月28日公表,p8, https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/22/dl/gaikyou.pdf

(参考)
・「図解でハッキリわかる労働時間休日・休暇の実務」佐藤 広一 日本実業出版社(2009)
・「みんなが欲しかった!社労士の教科書 2018年度版」TAC社会保険労務士講座、河野 八海山 TAC出版(2017)
・厚生労働省 1年単位の変形労働時間制導入の手引き
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/1nen.pdf
・厚生労働省「1カ月単位の労働時間制」導入の手引き
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/ikkagetutani.pdf
・厚生労働省「1年単位の変形労働時間制」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-6a.pdf

無料eBook「人事用語事典」

ライトワークスブログに掲載された記事からピックアップした企業の人事に関連する163の用語が収録されています。

以下6つのカテゴリに用語を分類し、検索しやすいようまとめています。

  • 教育・育成 …ARCSモデル、アクションラーニング など
  • 教育テーマ …アンコンシャスバイアス、サーバントリーダーシップ など
  • 採用・雇用 …インフルエンサー採用、エンプロイアビリティ など
  • 人事企画 …健康経営、従業員エンゲージメント など
  • 制度・環境の整備 …インクルージョン、ピアボーナス など
  • 労務管理 …がんサバイバー、36協定 など

ぜひ様々なシーンでお役立てください。

プライバシーポリシーをご確認いただき「個人情報の取り扱いについて」へご同意の上、「eBookをダウンロード」ボタンを押してください。