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ストップ介護離職!(2)最良の対策は「自分で介護しない体制づくり」

ストップ介護離職!(2)最良の対策は「自分で介護しない体制づくり」

前回の「ストップ介護離職!(1) 仕事を辞めて初めてわかる大問題」では、「もし介護離職をしたら?」という場合に起きかねない、代表的な問題点を提示しました。

あらためて並べてみると、

・収入が不安定、または金銭的な貧困、自己破産の可能性
・介護の終わりが見えないため、介護者が精神的に追い詰められる
・被介護者が親だったとき、兄弟の誰が面倒を見、死後の財産分与をどうするか
・情報がなく、何から手を付ければいいのか、出だしからのつまずき
・生活場所を移して同居するか、別居のまま介護するか

主にこのような問題点を挙げました。
今回はその解決編となるのですが、もうここで結論を申し上げましょう。

「介護離職をしてはいけません!!」

確かにケース・バイ・ケースのため、「絶対」ということではないのですが、平均的なビジネスパーソンでそこそこの貯金がある、という程度だったら、介護離職をしては後が続きません。あらためて、その理由とともに、どうすれば介護離職をしないで済むかという点について、ご説明しましょう。

「介護離職」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。


1. まずは要介護認定の調査から

初期の認知症などの場合、意識のはっきりしている状態が長いので「自分は認知症じゃない」「介護保険をもらうなんて恥ずかしい」など、高齢者特有の「プライド」が邪魔をして、自分の状態を認めたがらない場合が少なくありません。しかし、そのままにしておくと、認知症はどんどん進み、介護者の負担が大きくなっていきます。

ここは、何としても説得し(場合によっては健康診断などと称して)、市町村の福祉課に連絡し、調査員に来てもらいます。当然ですが、こちらから連絡しないと、自治体は一切見向きもしてくれないので、介護者が自ら動かなければなりません。また、調査の際は付き添うことが大事です。本人だけだと、たいていの場合「自分は大丈夫」と調査をはね除けてしまいます。

ちなみに、厚生労働省が定める介護支援認定の基準は次のとおりです。介護にかかる時間「要介護認定等基準時間」に認知症の進行具合なども加味して認定されます。

要支援1要介護認定等基準時間が25分以上32分未満、またはこれに相当すると認められる状態
要支援2要介護認定等基準時間が32分以上50分未満、またはこれに相当すると認められる状態
要介護1要介護認定等基準時間が32分以上50分未満、またはこれに相当すると認められる状態
(※心身状態の分類で違いが出る)
要介護2要介護認定等基準時間が50分以上70分未満、またはこれに相当すると認められる状態
要介護3要介護認定等基準時間が70分以上90分未満、またはこれに相当すると認められる状態
要介護4要介護認定等基準時間が90分以上110分未満、またはこれに相当すると認められる状態
要介護5要介護認定等基準時間が110分以上、またはこれに相当すると認められる状態

介護認定されて、介護保険をもらえるようになると、自治体からの各種サービスを受けられます。たとえば歩行器や椅子、車椅子、ベッドなど必要な物品を安価でレンタルできるうえ、紙おむつなどの介護用品の無料支給が受けられることもあります。こうしたサービスや金額は各自治体によって異なるので、地域にサービス内容を確認してください。

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2. 優れたケアマネージャーを見つける

次に必要なことは、どのように介護をしていくか。その際に力になってくれるのが、ケアマネージャー(ケアマネ)です。被介護者の状態や介護者の環境などを含めて、介護サービス計画(ケアプラン)の作成やサービス提供の調整や連絡、サービスのモニタリングなどをしてくれます。これも、前述の調査員が来たからといって必ずしも情報をもらえるとは限らないので、介護者が地域包括支援センターや介護施設、NPO法人事務所などに連絡し、ケアマネに来てもらうことをお願いします。また先にケアマネを決めているなら、調査員が来たときに同席してもらうこともできます。

ちなみに、介護サービスについてわからないことがあれば、自治体の福祉課などに問い合わせてアドバイスを受けてください。また、地域の回覧板などに介護関連の情報や相談窓口などが掲載されていることが多いので、ぜひとも見逃さないようにしましょう。

またケアマネにも個人差や専門の違い(看護出身、介護出身、理学療法士出身など)による多少の知識や技術の差、またケアマネ本人の性格や人間性などもあります。どうもコミュニケーションがうまくいかないとか、放っておかれがちなど、不満がある場合には、ケアマネの変更も可能です。事務所などに相談しましょう。


3. 「自分でやらない介護」を目指す

ここまでは離職する/しないに関わらず、最低限必要な準備を簡単にまとめました。ほかにも、かかりつけのお医者さんを持って訪問看護をしてもらう、ヘルパーさんに来てもらう、利用するデイサービス施設を決めるなど、できればやっておきたいことがいろいろとあります。

それはそれとして、今回のテーマは「介護離職をしない」ということ。つまり、働きながら介護をし、収入を得続けることが目的です。その理由は、前回の問題点でも紹介しましたが、
・いつまで続くかわからない
・貯蓄や年金を食いつぶして貧困に陥る可能性が高い
・一度辞めると再就職が困難
という点です。高齢の親を高齢になった子供が面倒を見る「老老介護」も増えつつありますが、困窮した末に不幸に至る例も実際に発生しています。

仕事を続けながら介護をするために大切なことは、
・職場にカミングアウトする
・自分の手ではなるべく介護をしない
・介護の人脈や駆け込み先を確保する
です。

これについて一つひとつ説明していきます。

3-1. 職場にカミングアウトする

これは、自分が置かれている立場を職場の上司や同僚に理解してもらうことです。近年では育児などだけでなく介護の対策を導入している企業が増えています。関係部署に尋ねれば、介護休暇、時短勤務などの仕組みや手続きを教えてくれるはずです。さらに周りの仲間にも理解を得たうえで働けるようになるので、気持ちも楽になるでしょう。制度については会社によって異なり一概に語ることはできませんので、遠慮せずに会社に問い合わせてください。

3-2. 自分の手ではなるべく介護をしない

まず、介護は子供の義務ではありません。「これまで面倒を見てくれたのだからその恩返しに」という考え方は美しいですが、それを「宿命」として若いうちから背負っていては、いつかつぶれてしまいます。良いケアマネを見つけることができれば、その人の人脈やアドバイスで、好条件のデイサービスやショートステイ、ホームヘルパーの確保などが可能となります。

同様に、「自分の家で世話をしなければならない」という義務もありません。国が社会保障費を削減したことなどによって条件が悪くなりつつありますが、現時点で「要介護3」から特別養護老人ホーム(特養)の入居が可能です。ただ公的施設で入居費が安いため、数百人、数千人待ちというのが現状です。2017年現在、特養の待機人数や約40万人とも言われていますが、しかし、自分の住んでいる地域だけではなく、全国どこの地域にでも申し込むことができるうえ、実は意外と身近に空きがあるなど、探してみるといろいろと思いがけないことがあるようです。また、空き待ちではあっても、被介護者の程度により、施設長やケアマネらとの会議によって、待ちを飛び越えて優先的に入れてくれる場合があります。最初から無理と思わず、申し込んでみたほうがいいでしょう。

似たようなサービスで「介護老人保健施設(老健)」というものがあります。ただし、これは3カ月で退去しなければならないため、老健の「流浪の民」もいると聞きます。その点、特養は「終の棲家」とすることができるので、入ることができれば心配ありません。あとは、家から離れたくないという被介護者を説得することだけです。いくつも申し込むのは自由ですから、早めに応募しておきましょう。

【コラム1】
被介護者がいる家庭の現実 介護離職したA子さんの場合

 

神奈川県在住のA子さんは、大手企業子会社の営業部門に長く勤めてきた独身女性です。同居する92歳のお母様は怪我をして以来、歩行に支障を来し、さらに軽度の認知症を発症しました。

 

もともと早期退職を考えていたA子さんは、お母様の世話をするために50代半ばで退職に踏み切りました。母娘の二人暮らしですが、近所に妹夫婦が住んでいるため、一切を自分で世話しなければならないわけではないという状況です。

 

お母様は区役所による調査の結果、「要介護3」の介護認定を受けました。お母様は、週3回デイサービス (食事付き)に通い、それとは別に週2回の介護予防(歩行トレーニングなど)のデイサービスを受けています。また、月のうち5日間連続のショートステイに行っているため、24時間×5日間は、介護者にとって自由時間が確保できます。

 

参考までに紹介しますが、A子さんの介護関連の出費は以下のとおりです(概算)。

週3回デイサービス (食事付き) 約2万円
週2回デイサービス (介護予防) 約6000円
5日間ショートステイ 約2万3000円(介護保険一部負担 約7000円)
ショートステイの食費、宿泊費は実費 約2万4000円

 

金銭的な面でいえば、自宅のローンはなく、お父様の遺族年金のほか、叔父様から多少の遺産が入ったので、金銭的に大きな問題はありません。またお母様もかろうじて自分でトイレや入浴はできるそうなので、世話の面でも大きな苦労はないそうです。

 

A子さんは、もともと早期退職を検討していたことから、預貯金とは別の資金計画として、退職前から逆算して「50カ月計画」を実施していました。これは、月々必ず4万円を貯蓄するというものです。つまり、退職月までに確実に200万円を積み立てて準備をしておきました。

 

また、親戚にファイナンシャルプランナーがいたことから、20年後までの生活プランを設計してもらいました。それらを踏まえ、お母様がデイサービスやショートステイに出ている間、週3回アルバイトに出ています。

 

「私は恵まれているので」と話していましたが、

・退職前からの「50カ月計画」(介護離職用資金計画)
・ファイナンシャルプランナーによる今後の生活設計

もし介護離職をするなら、この2つはぜひお勧めしたいと力強く語っていました。言い換えれば、生活設計の見通しが立たなければ、離職してはいけないということにつながります。

3-3. マネジメント強者が介護には有利

結局のところ、働きながら介護を考えるということは、複数のことを戦略的に検討し、実行することを意味します。いわば仕事で培った「マネジメント力」がここでも生きてくるのです。自分が司令塔となり、ケアマネやヘルパー、かかりつけの医師や看護師、デイサービスなど介護施設の職員らに協力と支援を得て、「介護」というプロジェクトを達成させることなのです。そういった意味では、むしろ会社でプロジェクト・マネジャーなどの経験がある人のほうが、仕事と介護の両立に長けていると考えられているようです。

また、自分の家で面倒を見るとなると、入浴や下の世話など、肉体的にも精神的にもストレスが募ってきます。特に男性は、お母さまの世話についてお互いに気まずさが生まれます(コラム2参照)。こうした悩みや介護自体のアドバイスをもらえる「相談会」が地域や社会福祉法人などの主催で行われています。ほかに、「家族会」など、介護者として日々を過ごす人たちが集まり、互いに相談し合ったり、アドバイスをもらえたりする会が地域で定期的に開かれていることもあります。ストレスを溜め込まず、このような場所で告白し、悩みを分かち合うことができれば、新たな気持ちでこれからの介護に臨むことができるでしょう。こうした会は、回覧板や自治体・介護施設への相談、インターネットの検索などで見つけることができます。

【コラム2】
被介護者がいる家庭の現実 介護離職をしなかったB子さんの場合

 

千葉県在住のB子さんは、都内の会社に勤務しています。お母様は91歳。70代半ばで物忘れが増えてきて、6年前から認知症が顕著となって徘徊をするようになりました。その頃はまだご主人がご存命でしたが、間もなくご主人は他界し、そこからさらに認知症が進行し、「小学生の頃の自分」に退行してしまったそうです。介護レベルは「要介護5」になりました。

 

B子さんは3人姉弟の2番目です。3姉弟がみな独身だったことから、3人でお母様の面倒を見ようと決めました。ここで重要視したのが役割分担です。

 

B子さんのお姉さまは元家庭科教諭で栄養士の資格も持っています。学校を退職して、地元の学童支援員となったので勤務は午後。土日は着付けの先生もされています。

 

弟さんは、介護をするために昼間の仕事を辞め、夜勤の仕事へと転職しました。B子さんはそれまでどおり、通常の会社勤務です。これにより、朝から昼は主にお姉さん、午後は弟さん、夜と土日はB子さんが中心となり、姉弟3人で365日24時間誰かがそばについていられる体制を組みました。

 

住んでいる自治体では介護保険によって、椅子やベッドのレンタルができ、紙おむつなどいくつかの介護用品は全額支給されます。食事はほぼすべて栄養士であるお姉さまが作ります。デイサービスには月~金の5日間通っていますが、幼児退行しているので「○○(自分の名)ちゃん、今日は学校に行きたくない」とダダをこねることも。ただ、デイサービスで週3回入浴させてもらえるので、助かっているそうです。

 

ただし、下の世話については、女性の恥じらいがあるため、弟さん(つまり息子)が世話をしようとすると嫌がり、これは女性の担当となっているとのことです。寝たきりではないので、リハビリを目的に手伝いながら歩かせ、あえてバリアフリーにはしていません。

 

姉弟全員でシフトを組んで面倒を見ているため、B子さんは介護離職をしないで済んでおり、弟さんとともに一家の収入面を担っています。

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4. まとめ

少子高齢化社会が顕著になった今、介護は誰もが避けては通れない身近な問題です。一人っ子も増えていることから、夫婦でそれぞれの親の面倒をみなければならない、というケースも多くなっています。

だからといって、子供が必ずしも自分の残りの人生をかけて、恩返しとして親の面倒を直接見なければならないという「義務」はありません。むしろ、面と向かって介護をしようとすると、被介護者も介護者も共倒れになってしまう場合もあるのです。

もし不動産収入など、労せずして入ってくるお金や資産がない限り、介護が必要ならなおさら、仕事を辞めてはいけません。自治体や会社などのサービス、国の保険など、使えるものは何でも利用し、それをまかなうために収入を得て、介護に当てるのです。人生を犠牲にせず、「お金で解決する」道を選択したほうが懸命です。

その際に大切なのは、信頼できるプロのアドバイザーを見つけ、適切なケアプランを作成してもらうことです。なるべく自分の手を下すことを減らし収入を適切に配分し、「介護」という一大プロジェクトを達成すること。そのプランニングこそが、これからの介護には一番大切なことなのです。

参考文献)
・「介護離職しない、させない」 和氣美枝 毎日新聞出版 2016年
・「その介護離職、おまちなさい」 樋口恵子 潮新書 2017年
・「ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由」酒井穣 ディスカヴァー・トゥエンティーワン 2018年
・「鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ」 鳥居りんこ ダイヤモンド社 2015年
・「親の介護で自滅しない選択」 太田差惠子 2017年
・「制度改悪に備える家族の介護」 週刊ダイヤモンド 2017/08/12・19合併特大号
・平成27年度版高齢社会白書 概要版(内閣府)
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/index.html
・世帯主の年齢階級別家計支出(二人以上の世帯)-2016年-(総務省)
http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/pdf/gk02.pdf
・今後の高齢者人口の見通しについて(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-1.pdf
・要介護認定はどのように行われるか(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo2.html
・仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/index.html
・「介護離職ゼロ」をめざして-2016-(明治安田生活福祉研究所)
http://www.myilw.co.jp/publication/myilw/pdf/myilw_no92_feature_4.pdf
・増えている介護離職の実態と、介護と仕事を両立するためにすべきこと(イリーゼ)
https://www.irs.jp/article/?p=524
・介護離職の増加 理由と対策(みんなの介護)
https://www.minnanokaigo.com/guide/care-trouble/leave-job/
・40~50代に多い介護離職を避けるための知恵(東洋経済オンライン)
http://toyokeizai.net/articles/-/145930
・来年(=18年)8月から「介護離職」が急増するワケ(プレジデント・オンライン)
http://president.jp/articles/-/23776
・介護離職は危険すぎ? 辞める前に考えておきたいこと(AERA.dot)
https://dot.asahi.com/wa/2018012500054.html
・「介護離職」から「下流老人」とならないために! 知っておきたい3つの制度(AERA.dot)
https://dot.asahi.com/dot/2017040500059.html?page=1
・介護離職(BizHint)
https://bizhint.jp/keyword/17472
・介護離職しないために!専門家が教える仕事と介護を両立する3つのコツ(介護ポストセブン)
https://kaigo.news-postseven.com/3871
・老人ホーム・介護施設の種類と特徴(LIFULL)
https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list

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