「人材流出や生産性低迷が続いている。もっと抜本的な経営改革が必要だ」
国内の企業の多くは、今大きな壁に直面しています。転職者の増加や生産性の低迷が課題となっている現状は、利益優先を当然とする企業の経営姿勢にその要因があるのかもしれません。
2019年8月には、米国のトップ企業が名を連ねる財界ロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、これまでの株主至上主義から脱却して、従業員や顧客、地域社会にどのような価値を提供できるかを重視すべきという声明を発表しました[1]。
これは株主のための利益追求という従来の経営から、従業員を含む関係者全員の幸福を追求するという経営の在り方への転換を意味します。この新しい時代の経営手法が「ウェルビーイング経営」です。
この記事ではウェルビーイング経営の概要とそのメリット、経営に取り入れるためのステップについて解説します。
実際にウェルビーイング経営を実践している企業の事例も紹介しているので、人材確保や生産性向上といった経営課題の解決方法にご興味をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
1. ウェルビーイング経営とは?
ウェルビーイング経営とは、従業員・顧客・サプライヤー・株主・地域社会など、全てのステークホルダー(関係者)の幸福を追求する経営手法です。
ウェルビーイング経営の実践においては、特に従業員の心身の健康や働きがい向上などに取り組む企業が多く、狭義におけるウェルビーイング経営は従業員の幸福追求とする場合もあります。
ここではウェルビーイング経営の概要と、よく似た用語である「健康経営」との違いについても解説していきます。
1-1. ウェルビーイング経営の概要
ウェルビーイング経営では、従業員の心身の健康の維持・向上をサポートし、従業員がやりがいを持って前向きに仕事に取り組むために必要な職場環境を整えます。
ただしウェルビーイング経営が目指すゴールは、ただ従業員が幸福な状態にあることではなく、その結果として生産性が向上、企業が発展することでさらに従業員の働きやすい職場環境になる、という好循環を生み出すことです。
実際に、アステリア株式会社が2023年に実施した「ウェルビーイング活動と企業業績に関する実態調査」によると、ウェルビーイング経営に積極的に取り組んでいる企業は、3年前と比較して営業利益が平均約13%、売上高が約11%上昇していることがわかりました。これはウェルビーイング経営に積極的でない企業と比較して約2倍の差となっています[2]。
ウェルビーイング経営においては、従業員の幸福追求が企業のPURPOSE(理念や存在意義)の実現につながり、それによって顧客も取引先企業も株主も、さらには社会全体に利益がもたらされることになります。
1-2. ウェルビーイング経営と健康経営の違い
ウェルビーイング経営同様に、従業員の心身の健康維持・向上を目指す経営手法が「健康経営」です。
従業員が充足した状態になることで生産性が向上するという点では、健康経営とウェルビーイング経営の考え方は一致しています。しかし健康経営で重視するのが主に従業員の「メンタル」と「身体」の状態であるのに対し、ウェルビーイング経営では「社会的」な充足も重視します。
そもそもウェルビーイング(well-being)の概念は、1948年発効のWHO憲章で掲げられている「健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉(physical, mental and social well-being)の状態であり、單(ひとえ)に疾病又は病弱の存在しないことではない。」という一文に基づいています[3]。この場合の「社会的福祉」とは、周囲の人々との関係やキャリアなどの面において満たされていることを意味するのです。
つまり、ウェルビーイング経営は従業員の幸福についてより広い視野で捉えており、健康経営からさらに一歩先を行った経営手法といえるでしょう。
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2. ウェルビーイング経営が求められる背景
近年、ウェルビーイング経営が注目されるようになった背景としては、以下の5つの企業課題や社会の変化が挙げられます。それぞれ詳しく解説します。
従業員のストレスやメンタルヘルスの問題
従業員のメンタルヘルスの不調は、企業にとって今や最も深刻な問題の1つです。
厚生労働省が公表した2022年の「労働安全衛生調査」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調によって1カ月以上休職、または退職した労働者がいた事業所の割合は、全体の13.3%にも上り、実に10社に1社以上の割合となっています[4]。
従業員のメンタルヘルス不調に何の対策も打たずにいると、集中力や判断力の低下、遅刻の増加、長期間の休業等が発生し、生産性が低下する恐れがあります。企業は従業員がストレスなく働ける環境を実現する必要があるのです。
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生産年齢人口の減少による採用難
少子高齢化により生産年齢人口(生産活動の中心となる15~64歳)が減少し、企業間の人材獲得競争も激しさを増しています。
特に高いスキルを持った人材は競争率が高く、より良い条件を提示できる企業が必要な人材を確保していく一方で、その他の企業は採用難の状態にあえいでいます。
一方で従業員側は、雇用の流動化により離職への抵抗が薄れ、チャンスを求めて転職を重ねるケースもあります。
このような背景から、優秀な人材から選ばれる企業になる施策の1つとしてウェルビーイング経営に取り組む企業が増えています。
低い労働生産性
公益財団法人日本生産性本部によると、2022年の日本の就業者1人あたりの労働生産性は85,329ドルと、OECD加盟国38カ国の中で31位という結果でした[5]。
これは1970年以降、最も低い順位となっています。この現状に直面し、国内企業は早急に抜本的な対策を取るよう迫られているのです。
働き方改革
社会全体で働き方改革が進んでいることも、ウェルビーイング経営普及の追い風となっています。
残業の規制やフレックスタイム制、有給休暇取得などによって労働環境を改善する法律、働き方改革関連法は、2019年4月から順次施行されています。国が方向性を示したことで、大手企業を筆頭に、各社が従業員にとってより働きやすい職場環境づくりに向けて一斉に動き出しました。
企業の社会的責任と持続可能性
ウェルビーイング経営は、SDGsの実現にもつながります。
2015年に国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」という国際社会全体の目標の中には、「すべての人に健康と福祉を」や「働きがいも経済成長も」という項目があります。これはまさに従業員が充足した状態にあることが、企業の発展につながるというウェルビーイング経営の考え方そのものです[6]。
企業はウェルビーイング経営を取り入れることで、今の時代に自社に課せられた社会的責任を果たすことができるといえるでしょう。
3. ウェルビーイング経営のメリットとは?
次にウェルビーイング経営の実践によるメリットを見ていきましょう。以下の6つについて具体的に解説していきます。
従業員のストレスの軽減
ウェルビーイング経営の具体的な施策である残業時間の削減、リフレッシュ休暇取得促進、職場のコミュニケーション円滑化などは、従業員のストレスを軽減させます。
ストレスが軽減すれば、メンタルヘルス不調による休職や退職のリスクも低くなるでしょう。また常に意欲的な状態で業務に取り組めることで、パフォーマンスの向上も期待できます。
人材の獲得と離職防止
ウェルビーイング経営は、求める人材の確保や従業員の離職防止にも効果があります。
ウェルビーイング経営を取り入れている企業は、求職者にとって魅力的な職場として映ります。従業員が心身共に健康で前向きに活躍できる環境づくりを重視しているので、従業員の満足度が高く、職場への不満を理由とした離職を防ぐことができるでしょう。
生産性の向上
ウェルビーイング経営は従業員一人一人の生産性向上を実現し、中長期的に企業の利益増加が見込めます。
従業員が心と身体、さらに社会的にも充足した状態で業務に臨めば、より良いパフォーマンスが期待できるでしょう。メンタルヘルス不調や病気による休職者は減り、従業員一人一人がより長く組織で活躍できるようになります。
エンゲージメントの向上
ウェルビーイング経営を実践すれば、従業員のエンゲージメント向上も期待できます。
エンゲージメントとは、従業員が組織に貢献したいと思う意欲のことです。ウェルビーイング経営を推進することで組織全体に「従業員の幸福を重視する文化」が広まっていき、従業員は組織から必要とされているという実感が強くなり、エンゲージメントが向上します。
エンゲージメントの向上は生産性アップ、離職率低下などの効果があります。
社会的責任の履行
SDGsの考え方にも表れているように、従業員の心身的及び社会的な幸福を追求すること、さらには顧客や社会全体の幸福を考えることは、今や企業が当然負うべき責任といえます。
現代の消費者・求職者・株主は、企業がこうした社会的責任を履行しているかどうかを厳しくチェックしています。ウェルビーイング経営を実践することで、企業としての社会的な信用が高まるでしょう。
医療費の削減
企業がウェルビーイング経営の一環として従業員の健康管理に力を入れれば、従業員が病院で支払う治療費や薬代の額は少なくなります。結果的に従業員の医療費を含めた企業負担の社会保障費を抑えることができ、コスト削減につながります。
4. ウェルビーイングの浸透でGDPからGDWへ
従来の「幸福」を測る指標といえば物質的な豊かさであり、GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)を伸ばすことこそが、社会全体の幸福につながると考えられていました。しかし経済の拡大だけを追求してきた結果として、経済格差による分断や過重労働による自殺者の増加など、およそ「幸福」とはかけ離れた問題が次々と浮上してきたのです。
この現状を鑑みて、今GDPではなくGDW(Gross Domestic Well-being:国内総充実)を重視する考え方が広まってきています。
4-1. GDPに替わるGDWとは
「GDW」は「国内総充実」を意味し、経済規模を示すGDPに替わる、新しい幸福の指標として注目されています。
GDWの大きな特徴は、一人一人の主観による幸福に重点を置くことです。例えば、ある人の給与や資産は、その額を見れば誰でも多い少ないが分かります。しかしその人の仕事や生活に対する満足度は、他人が客観的に判断できるものではありません。その主観的な満足度の高さこそが、真に幸福な状態を表しているといえます。
GDPと異なり、GDWは明確な方法で算出することは容易ではありません。しかし例えば、内閣府では、国内のウェルビーイングの動向を調査するためとして、2019年から毎年「満足度・生活の質に関する調査」の報告書を発表しています[7]。
この調査では、「仕事と生活」など13の分野別に国民の満足度を測る試みが続けられています。国内のGDWとして参考にすることができるでしょう。
4-2. GDWとウェルビーイングの関係性
GDWは、GDPでは捉えきれない社会の状態を把握するための尺度です。そしてGDPからは読み取ることができない価値こそ、一人一人のウェルビーイングに他なりません。
内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書」では、「健康状態の満足度」や「社会とのつながりの満足度」に加えて、「生活の楽しさ・面白さの満足度」などもウェルビーイングの指標として挙げられています。
さらに「仕事と生活(ワークライフバランス)の満足度」についての調査もあり、雇用形態や年収に関わらず、仕事へのやりがいを感じていて趣味や生きがいがある人ほど「雇用環境と賃金満足度」が高いということも分かりました[8]。
4-3. 大企業が進めるWell-being Initiative
ウェルビーイングの概念を広め、世界の発展のための新しい尺度として、その必要性を訴えようという動きが、大企業の間で生まれています。「Well-being Initiative」は、日本経済新聞社が、ウェルビーイング経営に賛同する複数の企業と有識者とで立ち上げた団体です[9]。
現在「Well-being Initiative」の活動には日清食品、JAL、住友生命、JT、三井不動産など国内の26の大企業が参加しています(2024年7月31日時点)。それぞれの業界を代表する企業がウェルビーイング経営を実践することで、他の多くの企業が、従業員をはじめとしたステークホルダー全体のウェルビーイングの重要性に気付きつつあります。
5. ウェルビーイング経営の取り入れ方
ここではウェルビーイング経営の取り入れ方について、具体的な施策を紹介しながら解説していきます。
5-1. メンタルヘルスケア
まずは従業員のメンタルヘルスの維持・向上に取り組みましょう。従業員のメンタルヘルスケアとして、企業が取り組むべきは以下の3つです。
従業員サーベイの実施
従業員サーベイは、従業員の状態を把握することを目的とした、アンケートなどによる調査です。
まずは定期的なアンケートによって、従業員のストレスや疲労の状態を確認しましょう。メンタルヘルスの不調が軽度の段階で早期発見できれば、うつ病など深刻な病気を発症するのを防ぐことができます。
コミュニケーションの活発化
従業員とのコミュニケーションもメンタルヘルスケアのための重要なポイントです。
上司との1on1を設定するなど、従業員がメンタルヘルスの不調を感じたときに相談できる場をつくっておくことが重要です。
また同僚との良好な関係も、ストレス軽減に効果的です。従業員同士の間で、活発なコミュニケーションが行われるよう、交流の機会を設けたり、コミュニケーションツールを導入したりするとよいでしょう。
職場環境の見直し
従業員のストレスを軽減するために、職場環境を見直す必要もあるでしょう。
まずはどの程度の業務負担があるのかを確認し、必要に応じて効率化の施策などを講じます。負担が少なくなれば長時間労働や休日出勤を減らすことができるでしょう。
また子育てや介護と仕事を両立させることに負担を感じている従業員のためには、在宅ワークやフレックスタイム制の拡充といった柔軟な働き方が効果的です。
5-2. フィジカルヘルスケア
メンタル面だけでなく、従業員が身体的にも健康な状態であることが重要です。従業員のフィジカルヘルスを維持・向上させる取り組みとしては、以下の2つのような施策が挙げられます。
勤務間インターバルの導入
従業員の休息の時間を確実に設けるために実施されるのが、勤務間インターバルです。
仮にインターバルを12時間と設定すれば、終業時刻が午後10時になった場合は、翌日の始業時刻は12時間後の午前10時になります。残業が発生しても休む時間がしっかり確保されていることで、身体への負担を軽くします。
健康に関する福利厚生の充実
企業によって、従業員の健康維持・向上のためのさまざまな福利厚生制度があります。
企業の義務とされている年1回の健康診断(労働安全衛生規則第44条)に加え、例えばオフィス内にあって自由に利用できるスポーツジム、栄養バランスの取れたメニューを提供する社員食堂、リフレッシュ休暇の取得制度などです。他にも外部のスポーツジムなど健康に関する施設の利用に際して補助制度のある企業もあります。
5-3. 社会とつながる活動の推進
ウェルビーイングの実現には社会的な充足感も必要です。そのために以下の2つの取り組みの実践をお勧めします。
ボランティア活動の推進
ボランティア活動に参加することは、社会的充足感を向上させる上で非常に効果的です。
ボランティア活動はコミュニケーションの機会が増えるだけでなく、「社会に貢献している」という満足感も得ることができます。自身の存在意義が強く感じられることで、幸福度が向上します。
内閣府が2019年に公表した「満足度・生活の質に関する調査」では、ボランティア活動に毎週積極的に参加している人の方が、全く参加していない人や年に1回程度の参加率の人よりも生活全体の満足度が高いという結果になりました[10]。
従業員の社会的な満足度を向上させるためには、企業もボランティア休暇を設けるなど、積極的に働きかける必要があるでしょう。
サードプレイスを持たせる
職場と家庭以外に、第3の居場所(サードプレイス)を持っていることも社会的な充足感につながります。
多くの人が仕事や家族に対して責任を持ち、与えられた役割を果たさなくてはならないというプレッシャーを負っています。そうしたプレッシャーから解放されて、純粋にポジティブなコミュニケーションを楽しめる人間関係を持つことは大切です。
従業員がリフレッシュする時間を確保できるよう、サークル活動への参加などサードプレイスを持つことを奨励するとよいでしょう。
6. ウェルビーイング経営の注意点
ウェルビーイング経営において、企業が注意すべき4つのポイントについても確認しておきましょう。
経営層の強い意志
ウェルビーイング経営を実践するには、経営層に「成果が出るまで必ずやり抜く」という強い意志が必要です。
なぜならウェルビーイング経営の施策は、従業員をはじめとするステークホルダーの満足度向上を目的としており、短期的に見ればコストだけがかかって利益には直結しないものだからです。
しかし、長期的には従業員の生産性向上、離職率低下、企業としての社会的信頼が高まるなどの成果が生まれます。そこに至るまでは株主等の反発も予想されますが、利益追求とのバランスを取りつつウェルビーイングの取り組みを継続していく強い意志が求められます。
多様なケースに対応する
従業員のウェルビーイングのための制度を設計するとき、多様性への理解も必要です。
例えば家庭の事情一つとっても、置かれている状況は人によってさまざまです。子どもの送り迎えの時間に合わせて出勤したい従業員もいれば、リフレッシュ休暇でプライベートを充実させたい従業員もいるでしょう。
そもそもウェルビーイングというのは主観的な価値です。重要なのは、企業側がウェルビーイングの在り方を限定するのではなく、人によってさまざまな幸福の形があると理解して柔軟に対応することでしょう。
従業員のプライバシー情報の管理
従業員のプライバシーに関する情報は、取り扱いにも最大限の注意を払わなくてはなりません。
従業員のウェルビーイングを実現する過程で、それぞれの健康状態や家庭の事情を把握する必要が出てきます。それらの情報にはデリケートなものも含まれるため、情報を取得した後に誰がどのように管理していくのか、セキュリティ対策も含めてしっかりとシステムを構築しておきましょう。
取り組みの継続・改善
ウェルビーイング経営を実践するには、中長期的な計画を立て継続的に取り組む必要があります。
すぐに求める成果が挙がらなくても中だるみしないよう、KPI(中間目標)を設定して段階的に進捗を確認するとよいでしょう。その際、KPIの結果が思わしくなかった場合は、施策の内容に問題がないか見直し、必要に応じて改善を行います。
ウェルビーイングは従業員の主観に基づくものなので、定期的にアンケートを実施して満足度を確認することも大切です。
7. ウェルビーイング経営を実践している企業事例
最後に、実際にウェルビーイング経営を導入して成果を挙げている企業の事例を紹介します。
7-1. NECソリューションイノベータ株式会社
NECソリューションイノベータ株式会社のウェルビーイング経営の特徴は、高度なデジタル技術を活用した施策です。
同社の「健康ミッションアプリ」は、以前は別事業で使用されていたアプリを再開発したものです。アプリ内で発信された生活習慣改善のための取り組みをミッションとしてクリアするとコインが獲得でき、ゲーム感覚で楽しむことができます。
これは「健康のための取り組みをいかに習慣化するか」という課題にフォーカスして制作されたもので、2023年には社会全体の多様な幸福と健康に貢献した企業を表彰する「ウェルビーイングアワード」の「活動・アクション部門/ゴールド・アウトカム賞」を受賞しています。
またアプリ内で行われる生活習慣改善イベントの参加者アンケートによると、心身の何らかの不調を抱えていることによりパフォーマンスが低下している状態を指す同社の「プレゼンティーズム」の数値は、イベント実施後に平均して2pt改善したことが分かっています[11]。
7-2. 株式会社ポーラ
株式会社ポーラでは、慶應義塾大学の教授などの協力を得て「幸せ研究所」を立ち上げました。これは同社の企業理念の根本にある「永続的幸福」を実現するため、まず幸福とは何か、どうすれば幸福が実現するのかを研究する取り組みです。
具体的には従業員や消費者の幸福度に関する意識調査、同社における幸福の構成因子の特定といった研究を行い、そこで得た知見をワークショップやセミナーといった形で社会に還元しています。また商品やサービス、接客を介しても、研究所で開発されたウェルビーイング実現のためのソリューションを展開しています。
7-3. JAL(日本航空株式会社)グループ
JALグループでは「JAL Wellness」というプロジェクトの下、毎年従業員とその家族の健康推進活動に取り組んできました。「JAL Wellness 2025」では、これまでの三大目標であった「生活習慣病」「がん」「メンタルヘルス」に加えて、新たに「たばこ対策」「女性の健康」の2つの目標を打ち出しています。
「JAL Wellness」の大きな特徴の1つが、各現場に「Wellnessリーダー」と呼ばれるプロジェクトの責任者を置き、現場ごとの健康の課題はこのWellnessリーダーが中心となって解決に取り組んでいくというボトムアップ方式です。
Wellnessリーダーたちが現場目線で「どうすれば個々の意識改革と行動変容が実現するか」を考え、互いに情報共有をしながら協力してさまざまな活動を行っています。
こうした取り組みが評価され、JALグループは経済産業省と日本健康会議から、2019~2021年において「健康経営優良法人」の認定も受けています。
8. まとめ
ウェルビーイング経営とは、従業員・顧客・サプライヤー・株主・地域社会など、全てのステークホルダー(関係者)の幸福を追求する経営手法です。
ウェルビーイング経営に成功すれば、従業員の満足度向上によるパフォーマンスアップ、ひいては企業としての生産性がアップするという好循環が起きます。
ウェルビーイング経営は従業員の社会的な福祉も重視しているという点で、昨今注目されている健康経営より一歩先を行った経営手法といえるでしょう。
ウェルビーイング経営が注目されている背景としては以下の5つが挙げられます。
- 従業員のストレスやメンタルヘルスの問題
- 生産年齢人口の減少による採用難
- 低い労働生産性
- 働き方改革
- 企業の社会的責任と持続可能性
また、ウェルビーイング経営のメリットは以下の6つです。
- 従業員のストレスの軽減
- 人材の獲得と離職防止
- 生産性の向上
- エンゲージメントの向上
- 社会的責任の履行
- 医療費の削減
ウェルビーイングの概念が普及してきた現在、物質的な豊かさだけを指標としたGDPから、GDW(Gross Domestic Well-being:国内総充実)を重視しようという動きが一部の大企業の経営者を中心として広まりつつあります。
ウェルビーイング経営の具体的な取り組みの例としてはメンタルヘルスやフィジカルヘルスのケア、社会とのつながりの面から以下の7つがあります。
- 従業員サーベイの実施
- コミュニケーションの活発化
- 職場環境の見直し
- 勤務間インターバルの導入
- 健康に関する福利厚生の充実
- ボランティア活動の推進
- サードプレイスを持たせる
またウェルビーイングを実践する際は以下のポイントを意識しましょう。
- 経営層の強い意志
- 多様なケースに対応する
- 従業員のプライバシー情報の管理
- 取り組みの継続・改善
この記事ではウェルビーイング経営を実践して成果を挙げている企業として、以下の3社の事例を挙げました。
- NECソリューションイノベータ株式会社
- 株式会社ポーラ
- JAL(日本航空株式会社)グループ
ウェルビーイング経営には従業員の心身の健康を増進させてパフォーマンスを高めるだけでなく、離職率低下や企業としての社会的信用が増すといった効果があります。 現状の経営に行き詰まりを感じているという方は、新しい時代の経営スタイルであるウェルビーイング経営に取り組んでみてはいかがでしょうか?
[1] Business Roundtable「Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’」,(閲覧日:2024年6月18日)
[2] アステリア株式会社「企業のウェルビーイングへの取り組みと業績に関する実態調査を発表『取り組んでいる企業は約5割』『取り組む企業はより高い収益成長を記録』」, (閲覧日:2024年6月20日)
[3] 外務省「世界保健機関憲章」,P1,(閲覧日:2024年6月9日)
[4] 厚生労働省「令和4年『労働安全衛生調査(実態調査)』 結果の概要」,2023年8月4日公表,P1, (閲覧日:2024年6月13日)
[5] 公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023 概要」, 2023年12月22日公表,P4,(閲覧日:2024年6月13日)
[6] 国際連合広報センター「SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは? 17の目標ごとの説明、事実と数字」, (閲覧日:2024年6月9日)
[7] 内閣府「満足度・生活の質に関する調査」,(閲覧日:2024年6月18日)
[8] 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)「満足度・生活の質に関する調査報告書2023~我が国のWell-beingの動向~(概要)」,2023年7月公表,P9,(閲覧日:2024年6月18日)
[9] 株式会社日本経済新聞社「ABOUT」,『GDW』,(閲覧日:2024年6月18日)
[10] 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)「『満足度・生活の質に関する調査』に関する第1次報告書」,2019年5月24日,P10,(閲覧日:2024年6月13日)
[11] NECソリューションイノベータ株式会社「健康経営(Well-being経営)」,(閲覧日:2024年6月13日)
参考)
アイディール・リーダーズ株式会社「人、組織、そして社会を大事にする『ウェルビーイング経営』とは?」,https://ideal-leaders.co.jp/blog/wellbeingblog-keiei-01/(閲覧日:2024年6月13日)
株式会社ティファナ・ドットコム「従業員エンゲージメント向上の鍵! ウェルビーイング経営の効果とは?」,『AIさくらさん』,https://www.tifana.ai/article/mental-article-358(閲覧日:2024年6月13日)
株式会社東洋経済新報社「日本人が『幸せ』を外国人より感じない根本理由」,『東洋経済ONLINE』,https://toyokeizai.net/articles/-/337637?page=3(閲覧日:2024年6月13日)
マンパワーグループ株式会社「ウェルビーイング経営とは?実践に必要な5つの要素と事例を紹介」,『ManpowerClip』,https://www.manpowergroup.jp/client/manpowerclip/hrconsulting/right-well-being.html(閲覧日:2024年6月13日)
株式会社日本能率協会マネジメントセンター「ウェルビーイング経営とは?取り組む際の注意点、方法から企業事例まで詳しく解説」, https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0074-wellbeing_keiei.html(閲覧日:2024年6月20日)
パーソルキャリア株式会社「ウェルビーイング経営とは|健康経営との違いや取り組み例を解説」,『d’s JOURNAL』, https://www.dodadsj.com/content/230427_well-being/(閲覧日:2024年6月20日)
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株式会社ポーラ「幸せ研究ってどんな研究?! 幸福経営を目指すポーラ」,『POLAサステナビリティ公式note』, https://note.com/pola_inc/n/n892d386a80c3(閲覧日:2024年6月17日)
株式会社朝日新聞社「ウェルビーイングアワード 2023 受賞者決定!」, https://www.asahi.com/ads/wellbeing_awards/asset/pdf/wba_pr_20230317.pdf(閲覧日:2024年6月17日)