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〔ポジティブ心理学〕レジリエンスとは 折れない心を作る6つの要素

ある会社の管理職研修の際、役員の方に「御社の強みは何ですか?」と尋ねたところ、「打たれ強いところですかね」という答えが返ってきました。

「打たれ強い」というのは、つまり「レジリエンスが高い」ということだろうか。そう思いながら、200名近い方々に対する研修を実施して感じたのは、自分自身を肯定的に捉えていて、かつ物事に楽観的な方が非常に多い、という点でした。

「レジリエンス(Resilience)」の元々の意味は、「回復力、弾性」です。弾力のあるゴムタイヤを押しつぶしてもすぐに元の形に戻る、あるいは竹やぶが強風に煽られて大きくしなっても、折れることなくまたすっくと立ち直る、そんな回復力のことです。

レジリエンス研究の第一人者であるペンシルベニア大学ポジティブ心理学センターのカレン・ライビッチ博士は、レジリエンスとは「逆境から素早く立ち直り、成長する能力」と定義しています日本では、打たれ強いこと、折れない心、心のしなやかさ、といった表現が使われることもあります。

「ストレス社会」と言われて久しい今日、私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。その中で、生産性を上げて持続的成長を遂げるといった難題に取り組みつつ、心身ともに健康で幸せな人生を歩んでいくには、レジリエンスをいかに高めるかが社会人生命を左右する重要なテーマです。

ただし、レジリエンスと一口に言っても、魔法の杖をひと振りすれば叶うようなシンプルな秘策があるわけではありません。

レジリエンスとは、いくつかの能力が複合的に作用して成り立つものであり、冒頭の管理職の方々が備え持つ「自己効力感」や「楽観性」は、まさにそうした能力の一部であり、取りも直さず、これまでのポジティブ心理学シリーズでお伝えしてきたキーワードでもあります。

シリーズ第6弾の今回は、このレジリエンスの要素について取り上げます。

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1. レジリエンス能力を構成する要素

ライビッチ博士は、レジリエンスを構成する要素として、以下の8つを挙げています。

  1. 自己認識
  2. 自制心
  3. 精神的敏速性
  4. 楽観性
  5. 自己効力感
  6. つながり
  7. 生物学的要素(遺伝子)
  8. ポジティブな社会制度(家族、コミュニティー、組織など)

ここでは、これらのうち個人が後天的に育むことのできる心理的要素である1~6にフォーカスを当てたいと思います。

まず、6つの要素の意味を見ていきましょう。

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1-1. 自己認識(Self-Awareness)

自己認識(Self-Awareness)は、自分自身の感情や思考はもちろん、自分の強みや弱み、大切にしている価値観や人生の目標を正しく認識することです。

逆境に陥ったとき、自分が怒っているのか悲しいのかつらいのか、まず自分の感情を正しく認識することが、立ち直るための第一歩です。そもそもこうしたネガティブな感情自体に気づかぬまま走り続けていると、取り返しのつかないところまで心身が疲弊してしまいます。

一方で、逆境を上手に乗り越える際には、自分の強みを意識的に使うことが効果的です。シリーズ第4弾で取り上げたように、「強み」は私たちの生活の充実、幸せに直結します。

したがって、日頃から自分の強みを認識しておくことは、レジリエンスの観点でも非常に大切なのです。

1-2. 自制心(Self-Regulation)

自制心(Self-Regulation)は、その時々の状況に応じて自分の感情や思考、行動を律すること、適切に制御することです。

こちらもシリーズ第4弾でご紹介した24個の「キャラクターストレングス」のうちの1つでもあります。逆境時の感情や思考を自己認識したあとは、それを制御して、適切な行動に移ることがレジリエンスの基本です。

1-3. 精神的敏捷性(Mental Agility)

精神的敏捷性(Mental Agility)は、物事を多面的に捉え、大局的見地から対処することです。

何らかの逆境に直面したとき、むやみに慌てふためいたり感情的になったりせず、冷静に本質的な原因を究明し、適切な解決策を講じて、迅速に対処する。そうした現実的・客観的・実務的な対応ができるための精神性を養うことは、特にビジネスにおけるレジリエンスとして非常に重要です。

1-4. 楽観性(Optimism)

楽観性(Optimism)は、未来はより良いものになる、良くすることが自分にはできるという確信を持つことです。

もっと厳密に述べると

  • ストレスを脅威と思わず、自分がもう一回り成長するための挑戦と捉えること
  • ストレスの原因となる事象のうち、自分がコントロールできる部分とそうでない部分をきちんと峻別すること
  • 前者に対しては、しっかり対処する能力を自分は持っている、という自信を持つこと

を指します。ここで言う楽観性は、単なる「Don’t worry, be happy(心配するな、ハッピーでいよう)」的な、お気楽なスタンスとは一線を画していることをご理解ください。

1-5. 自己効力感(Self-Efficacy)

自己効力感(Self-Efficacy)は、問題を解決したり、外部の世界を自分でコントロールしたりできる、つまり「やればできる」という自信のことです。

自己効力感があれば、逆境に直面しても「ダメかもしれない」とひるむことなく、勇気を持って行動することができます。結果、逆境に打ち勝てれば、自信は補強され、また新たな行動を起こそうという行動力のエネルギー源になります。

自己効力感は、自分自身の直接経験だけでなく、うまくやっている人を見ること、つまり「代理的経験」によっても培われます。

また、「君ならできる」といった言葉による説得や、リラックスするなど生理的状態に訴えることによっても、自己効力感を向上させることができるとされています。

<自己効力感と他者の存在>

 

自己効力感について注目すべきは、①~④が主に自分個人で磨いていくしかない能力であるのに対して、代理的経験や言語的説得など他者の介入によって強化できる、という点です。

 

組織においては、難局を乗り越えて見事に成果を上げた部署や社員のやり方を真似て全体のパフォーマンスレベルを上げる「ベストプラクティス」が奨励されます。

 

これには、具体的な手法を社内に普及させるという実務的なメリットだけでなく、ベストプラクティスを実践している同僚を見ることによって、「自分にもできるかも」という自己効力感を醸成する、心理的なメリットもあるのです。

 

また、上司が部下に「君ならできる!」と発破をかける光景はしばしば見られます。ただし、こうした言語的説得のみによって高揚した自己効力感は、すぐに消失してしまいやすいという弱点があります。

 

組織の中でメンバーの自己効力感を向上させるには、その人を励ますだけでなく、その人が実際に行動して結果を出すところまでサポートすることが重要です。

 

「自分自身でやった」、という実体験を持つことで初めて、確固たる自己効力感が育まれるのです。

1-6. つながり(Connection)

つながり(Connection)は、「他者とのつながり」を指します。

逆境に見舞われたとき、誰かがそばにいてくれるだけで救われた経験を持つ人は、少なくないと思います。支えてくれる他者がいることは、①~④のような自分の内に持つ能力とは性質が異なりますが、その人が持つ貴重な資源、財産のひとつです。

日頃から信頼できる仲間を作っておくことは、レジリエンスを高める作用があります。

<スピリチュアリティーによる効果>

 

レジリエンスに資する「つながり」は、人間関係に限りません。もうひとつ、ライビッチ博士が挙げるのは、「スピリチュアリティー」です。というと、なんだか宗教臭く、あるいは超能力めいて聞こえるかもしれません。でも、こんな例を思い浮かべてみてください。

 

元日の早朝、初日の出を見に、寒い思いをして海辺や山の頂上に出掛けたことのある方は少なくないと思います。空をオレンジ色に染める曙光に、私たちは得も言われぬ有難さや敬虔な思いを抱きます。何を拝むのかわからぬまま、思わず両手を合わせてしまう、その合掌の先にあるものが「スピリチュアリティー」と呼べるのではないでしょうか。

 

あえて一般的な言葉で定義すると、「心の奥深くで感得する、(人間や大自然を含む)宇宙がここに在ることの意味、価値、有難さ」という感じでしょうか。

 

シリーズ第1弾で、幸せに必要な5要素の1つである「M=Meaning、意味、意義」について、「単に自分のためだけではなく、誰かほかの人のため、社会のため、世界のためなど自分よりも大きなものにつながるとき、そこから得られる幸せは最良のものとなる」とご説明しました。この「大きなもの」は、「スピリチュアリティー」とも言い換えることができます。

 

自分が「大きなもの」につながっていると信じるとき、目の前の逆境がちっぽけなものに思えて、乗り越える勇気がわきます。同じく「大きなもの」につながっている大切な人を思うとき、私たちは果敢に闘うことができます。

 

私たちが日々働いているのは、所属する組織の「目的」を実現させるためです。

 

それが「売上○億円」とか「シェア○%」といった物理的な目標ではなく、お客様や社会に対する価値提供や貢献といった、社会的意義のある目的であればこそ、私たちは高いエンゲージメントをもって仕事に臨むことができます(シリーズ第5弾の3-3をご参照ください)。

 

この「社会的意義のある目的」の先に「大きなもの」「スピリチュアリティー」を据えることができます。

 

日々の業務を遂行する中で生じるさまざまな逆境も、「目的」をしっかり見据えることによって、具体的にどのように解決すればいいのかを考え、行動できること、それがレジリエンスを発揮することになるのです。

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2. 6つの能力要素を使ったレジリエンスの発揮例

それでは、ひとつの事例(フィクションです)を使って、6つの要素が具体的な能力としてどう役立つのか見ていきましょう。

*****

ある会員制ネット通販会社で、お客様電話相談窓口業務を担当しているAさん。ほとんどの問題はサイト上の「よくある質問」コーナーで解決されるため、電話をしてくるのは、たいがい一筋縄ではいかない、いわゆる「モンスター顧客」です。

その日最初に取った電話は、会員登録の解約の仕方がわからない、という年配の男性からのクレームでした。

「大体、おたくの会社は会員数を減らしたくないから解約しにくい設定にしているんだろう。そういうケチな根性だと、あんた、嫁に行けないぜ」

セクハラまがいの罵詈雑言に、Aさんは思わず涙ぐみそうになりました。ちょうど前日、恋人とひどい喧嘩をしたばかりだったのです。

しかし、この厄介な顧客に対応せざるを得ないという逆境は、Aさんがレジリエンスを発揮するチャンスなのです。

まず、「自分は今『とても悲しい』と思っている」、という「自己認識」を持ちます。さらに、その感情の原因は、顧客の態度の悪さのせいではなく、顧客の言葉が図らずもプライベートの「傷口に塩」だったから、というところまで自己分析をします。

そこまで自覚することで、「自制心」を働かせてぐっと涙をこらえて感情を落ち着かせ、相手の言葉に過敏に反応する代わりに、落ち着いた声で「大変申し訳ございません」と謝る、という基本動作に移ります。

次に、「精神的敏捷性」をフル回転させ、何がこれほどに彼を激昂させているのか、その本質的な元凶を究明します。彼は今、解約の仕方がわかりにくいことに腹を立てているけれども、大局的に見れば、解約したいと思った理由に原因があるのでは、と推測します。

サイトの解約プロセスはすぐには修正できないけれども、相手の問題に寄り添う共感性を示すことはできる、という「楽観性」を持ち、さらに、以前同じような顧客対応をして成功したことや、隣の席でいつも落ち着いて対応する先輩社員の声を思い出して、「自己効力感」を鼓舞し、声のトーンをうまく調節しながら質問します。

「恐れ入りますが、お客様が解約なさりたいと思われたきっかけをご教示いただけますか?どんな点がご不満でしたでしょうか?」

厄介なお客とのやり取りらしいと感じたのか、隣の先輩が「大丈夫?」と顔をのぞき込んでくれます。向かい側に座っている後輩も「がんばれー」と無言のエール。

ここには、クレーム対応という気の滅入る業務に従事する同じ部署のメンバーとの「つながり」のありがたさがあります。指でOKサインを出しながら、ふと視線を上げると、壁には「私たちは、お客様に世界一の喜びと幸せを提供します」というわが社のビジョンポスター。そうだ、不満爆発のこのお客様も、本当はうちの商品を買って喜びたかったはず。

この会社で働いている意味を再確認したAさんの脳裏には、会社を中心に、自分や同僚、電話の向こうの男性も加えた「皆がつながっている大きな地球」が思い浮かびます。

すると、いまだ怒りを含んだ相手の声にも、なんとなく親近感がわいてきて、自然と穏やかな声が出てくるものです。そんなAさんの口調に、顧客の態度もだんだん軟化してきました。

「実は明後日の娘の誕生日に贈りたくて注文したのに、発送が1週間後だと表示されて、ムカついたから解約してやろうと思ったんだけど、よくわかんなくてなあ」
「その商品は、水色でしたら在庫があるのですぐに発送できますよ」
「そっか、色違いなら間に合うんだな」

確実に翌日配送されるよう、注文画面に記入すべき事項を丁寧に伝えたあと、Aさんは最後にこの言葉を忘れませんでした。

「お嬢様、お誕生日おめでとうございます。お父様からのプレゼント、きっと喜んでくださると思いますよ」

電話を切った瞬間に思わずとったガッツポーズの肩を、いつの間にか後ろに立っていた課長からポンと叩かれました。

「いい対応だったな。部署の『典型的なクレーム対応マニュアル』に採用しよう」

Aさんは、自分の仕事ぶりが認められたことはもちろん、前日のプライベートでの落ち込み気分を引きずることなく冷静に仕事に従事できたことに深い満足を覚えます。

「メンタルが強くなったかな。そうだ、やっぱり私から彼に謝ろう。今夜早速電話しなきゃ」

*****

レジリエンスとは、このように逆境に柔軟に対処し、素早く立ち直る精神面での強さなのです。


3. まとめ

レジリエンスとは「逆境から素早く立ち直り、成長する能力」のことです。

レジリエンスを構成する要素のうち、個人の心理に関わるものには、①自己認識、②自制心、③精神的敏速性、④楽観性、⑤自己効力感、⑥(人間関係、スピリチュアリティーとの)つながり、の6つがあります。

逆境に遭遇したとき、これらの要素をうまく組み合わせて、柔軟に対処し、素早く立ち直ることが、レジリエンスの基本です。

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参考)
・カレン・ライビッチ他(2015)「レジリエンスの教科書」草思社.
・Karen Reivich Ph.D.(2017)「Positive Psychology: Resilience Skill」 Non-credit online course authorized by University of Pennsylvania and offered through Coursera.
・Karen Reivich Ph.D.et.al(2011年1月)「Master resilience training in the U.S. Army」American Psychological Association.
http://psycnet.apa.org/record/2011-00087-005
・マーティン・セリグマン(2014)「ポジティブ心理学の挑戦」ディスカヴァー・トゥエンティワン.
・Ryan M. Niemiec(2017)「Character Strengths Interventions」 Hogrefe Publishing Group.
・Ryan M. Niemiec(2017年9月16日)「The What, Why, and How of Character Strengths: Lessons from a New Science」慶応大学特別講演.
・HBR’s10 MUST READS(2015)「On Emotional Intelligence」Harvard Business Review Press.
・日本ポジティブ心理学協会(2016)「ポジティブ心理学プラクティショナー養成・認定コース」.

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