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〔ポジティブ心理学〕あなたが気づかなかった「強み」を引き出す方法

「あなたの強みは何ですか?」

突然そう訊かれたら、あなたは何と答えますか?
コミュニケーション能力?
根性があること?
それとも、明るい笑顔?

ポジティブ心理学では、3年にわたる世界規模の調査研究結果をもとに、「キャラクターストレングス Character Strengths、以下CSと略します)」と呼ばれる24個の普遍的な「強み」を規定しています。


(図表)キャラクターストレングス
出典:Christopher Peterson(2006).A Primer in Positive Psychology, Oxford Press.

※キャラクターストレングスについて、合せて別記事「幸せを科学する!「ポジティブ心理学」で組織に意識改革を起こす方法」の「 2-1. 具体的な「強み」を発見する」をご参照ください。

もちろん、一般的な意味での「強み」は、24個のCSに収まることはありません。人によってさまざまな答え方があると思います。

あるワークショップで「強み」について質問をしたところ、「好奇心」や「前向きなところ」といった性格的な長所から、「金融の知識」という実務的なものまで、人それぞれでした。

ポジティブ心理学シリーズ第1弾でご紹介したように、個人の「強み」を仕事や日々の活動の中で発揮することが、充実した毎日、ひいては幸せにつながっていきます。

大切なのは、自分自身の「強み」とは一体どういうものなのかを理解し、その「強み」を仕事や日常生活の中で意識的に活かしていくことです。

さらに、仕事の場面では自分一人の強みのみならず、個々の「強み」を結集して「チームの強み」を発揮することで、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができます。

今回は、ポジティブ心理学における重要なコンセプトであるCSを中心に、個人として、組織としての「強み」について、考えていきましょう。 

「ポジティブ心理学」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
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 1. そもそも自分の持つ「強み」とは

就活や転職の面接で、「あなたの強みは?」と質問されることはよくあると思います。
そもそも、「強み」とは一体何なのでしょうか。
さまざまなビジネス書や研究者によって、いろいろな定義がなされていますが、ここでは CSの研究に基づいて、紐解いていきます。

1-1. 「3つのE」で示される「強み」の特徴

CSの普及促進を担う米国オハイオ州の非営利団体、VIA Institute on Characterのライアン・ニーミック博士は、「強み」の特徴をシンプルにわかりやすく、3つのEでまとめています。

1.  Essential(本質的):その「強み」を発揮しているとき、自分らしく感じ、本来の自分だと感じる。

少し前に大ヒットした映画『アナと雪の女王』のテーマソングにもあるように、「ありのまま」の自分でいるとき、何か行動していて「ああ、自分らしいな」と思えたなら、それが「強み」を発揮しているときです。

そう思えるときは、まさに私たちにとって「ポジティブで幸せな瞬間」と言えましょう。

2. Energized(エネルギーがわくこと):その「強み」を発揮しているとき、エネルギーが満ちる感じがする。

ある行動を延々と行っていても、疲れてすり減ってくるどころか、むしろ自分の内側からどんどんエネルギーがわいてくるように感じられることはありませんか? いわゆる「ゾーンに入る」とか「フロー」と呼ばれる状態と言ってもいいかもしれません。

やればやるほどやりたくなる、モチベーションがどんどん上がる、それがEnergizedな状態です。

3. Easy(簡単):その「強み」を発揮することは自分にとって容易であり、ほとんど無意識で行える。

自分にとって、その行動をすることがあまりに当たり前で、何の努力もせずほとんど意識せずに自然にできてしまう。利き手で自分の名前を書くようなものです。

努力不要ということは、最も効率がいい、つまり生産性が高いということ。「強み」 を発揮することは、実は一番生産性の高いやり方なのです。

これら3つのEがすべて当てはまる行為が、自分にとっての「強み」です。

Essential=自分らしさを発揮しているから、ポジティブな気持ちになれる。
Energized=やっているとエネルギーが満ちてくるから、モチベーションが上がる。
Easy=簡単に、ほとんど無意識で実践できるから、とても効率よく生産性が高い。

私たちが3Eを満たす「強み」を発揮している瞬間とは、組織にとってもまさに望ましい状態と言えます。

実際、日々自分の「強み」を発揮する機会を持つ社員は、そうでない社員に比べてエンゲージメントレベルが6倍も高く、組織としてのパフォーマンスも高い、という調査結果が出ています。

1-2. 「強み」が持つ5つのカテゴリー

「強み」にはいろいろなカテゴリーがありますが、ニーミック博士は、一般的な考え方としてざっくり5つに分類しています。

1つ目は、スキル的な「強み」です。

PCスキルやプレゼンテーションスキル、コミュニケーションスキルなどなど、「何ができるのか」という実務的な行動面に焦点を当てた「強み」とも言えるでしょう。

2つ目は、持って生まれた才能です。

音楽や芸術の天才や、生まれつき抜群の運動神経を具えた人など、普通の人がどんなに努力しても追いつけないその人だけの「天与の才能」というものは存在します。 

3つ目は、興味です。

小さい頃からTVゲームがとても好きで、着実に攻略したいがゆえに独学でプログラミングを勉強し、中学のときにはもうすでに立派なハッカーになり、今はITエンジニア、という人がいます。自分の興味を追究することで強みを身につけた典型例ですね。

4つ目は、価値観です。

ただし価値観は、それをただ持っているだけでは「強み」として機能しません。たとえば「達成」という価値観は、実際に目標に向かってコツコツと努力を積み重ねることで、「粘り強さ」という「強み」として顕在化します。また慈愛の精神は、他人に思いやり深く接することで「親切心」という「強み」になります。

5つ目は、外部のリソースです。

これは自分自身の中にあるものではありませんが、自分をサポートしてくれる家族や友人、あるいは所属する会社やコミュニティなど、自分の外にも「強み」となってくれるものはあるのです。

CSは、これら5つの強みカテゴリーとつながって、その「ドライビングフォース(原動力)」 として機能します。

どんなに野球の才能があっても、あるいは野球に興味があっても、CSのひとつである「忍耐力」を持って地道に努力を続けないと、イチローのような大リーグのスーパースターにはなれません。 

つまり、CSはさまざまなスキルや才能や興味を開花させる原動力になるわけで、より根源的な強みと言えます。

1-3. CSの最大の特徴は「道徳的」であること

シリーズ第1弾で述べたとおり、CSとは、ペンシルベニア大学でポジティブ心理学を創設したマーティン・セリグマン教授とミシガン大学のクリストファー・ピーターソン教授が中心となってまとめ上げたものです。

VIA Institute のサイトでは、24個のうち、どれが自分の「強み」なのかを簡単に調べられるサーベイを無料で受けることができます。最初に英語での登録が必要ですが、登録後は120個の日本語の設問に回答すれば日本語のレポートが表示されますので、ぜひ一度ご自分の強みを調べてみてください。

VIA Institute on Character
https://www.viacharacter.org/Survey/Account/Register 

このCSは、両教授を中心とする研究者たちが、心理学はもちろん精神医学や教育、宗教、哲学などに関する世界中の文献や、流行歌、標語、新聞紙面の広告など、数々の文化的産物から人間の好ましい特性(キャラクター)について抽出し、それらを、主に以下のような基準で選別しました。

  1. 普遍的:時代や文化を越えて、広く認められているもの。
  2. ポジティブ:単にネガティブでないというだけでなく、明確にポジティブなもの。
  3. 道徳的:道徳的に価値がある、何か別のことを実現するための手段ではなく、そのものとして大切なこと。
  4. 意思が関連する:天与の才能などと異なり、自分の意思で育むことができる。
  5. 正当的:それそのものとして正当であり、ほかの強みと重複しない。
  6. 測定可能:心理学という科学が扱うものとして客観的に測定ができる。

ほかの強みと比べた場合、CSの大きな特徴は、「道徳的」という点だと思います。
1-2.で述べた強みカテゴリーのうち、例えば「興味」は、特に道徳的かどうかは関係ありません。

CSは、もともと青少年の好ましい発達についての研究から始まったものです。社会的にも望ましい、充実した幸せな人生に資する特性について徹底研究するという性質上、「道徳的」というポイントは外せなかったのだと思います。

セリグマン教授は、幸せの5要素「PERMA」のM=Meaning(意味、意義)について、誰かほかの人のため、社会のため、世界のため、といった自分よりも大きなものにつながる「意味」を見出したときに最良な幸せが得られる、としています。この考え方と、道徳的なCSを発揮することが幸せにつながるという考え方は、いずれも「個人の本来の幸せは独りよがりなものではなく、社会にとってもよいもの」ということを示唆しています。

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2. 「強み」の正しい活かし方(個人編)

では、「強み」をどのように活かしていくことが、充実した人生の実現につながるのでしょうか。詳しく見て行きましょう。

2-1. CSのトップ5をフルに使う

上述のVIA Instituteのサーベイでは、自分の「強み」のレベルが高い順にトップ1から最下位まで、24個のCSがずらりと並んだリストを入手することができます。

ここで最も大切なのは、上から5つの強みに注目すること。そして、毎日これらをできるだけ使うよう心がけることです。

この5つを「シグネチャーストレングス(Signature Strength)」を呼びます。スターシェフのいるレストランなどで、「当店のシグネチャーメニュー(看板メニュー)は……」と説明されますが、それと同じ。シグネチャーストレングスとは、自分の強みの看板メニュー、という意味です。
やはり、看板メニューはできるだけたくさんのお客様に食べていただきたい、自分のシグネチャーストレングスはできるだけたくさん使いたい、ということですね。

もちろん、24の順番はあくまで相対的なものです。ボトム5だからといって、その「強み」をまったく持っていない、あるいは使うことができない、ということではありません。しかし、おそらく下より上のほうにある「強み」のほうが、先ほどの3Eの観点でよりしっくりくる、本来的な強みである可能性が高いと思われます。

米国のバージニア大学の心理学者であるジョナサン・ハイト教授は、 あるグループを2つに分け、一方にはトップ5の「強み」を、他方にはボトム5の「強み」を毎日使ってもらう実験を2週間後続けました。その結果、両方のグループとも被験者の幸せ度は向上しました。その時点では差がなかったのです。

ところがその後の追跡調査で、トップ5を使ったグループだけが、幸せ度を維持することができました。彼らは、「強み」を使うことが楽しかったために実験後も自発的に使い続け、幸せ度を保てたのです。一方、ボトム5のグループは、実験が終わってほっとして何もしなくなったのでした。

やはり、自分の得意な「強み」を使うほうが楽しくて長続きするし、幸せにつながるわけです。

2-2. 「弱み」は「強み」で克服する

それでは、シグネチャーストレングスばかりを使って、「弱み」のほうは放っておいてよいのでしょうか。いいえ、「弱み」を克服することももちろん大切です。
でもそのとき、ただ「弱み」を無理やり矯正しようとするのではなく、「強み」をうまく活用するのです。

例えば、「人の話を聞かない」のが自分の「弱み」だったとします。一方、「好奇心」が「強み」だとすれば、相手が何を考えているのか、どんな人なのか、好奇心を全開にして探求してみよう、というふうに、「強み」ベースの発想に切り替えるのです。

「人の話を聞こう」と無理やり思うのではなく、自分が得意な「好奇心を発揮しよう」と思うことで、自然と「人の話を聞く」姿勢を身に付けることができる、というわけです。

繰り返しになりますが、私たちは「強みを使っている」ときが一番幸せです。
「人の話を聞く」という不得意なことに取り組んでいる、と思うより、「好奇心を発揮する」という「強み」を使っていると思うことで、「弱み」克服タイムを一転、楽しい時間に早変わりさせることができます。

2-3. TPOと使い過ぎに注意

もう1つ注意 しなければならない点は、強みを使う時と場合をわきまえることと、使い過ぎないよう気をつけることです。

私自身のCSリストで、シグネチャーストレングス まではいきませんが、ユーモアの「強み」はいつも67番目に位置します。

ソニーでアメリカ企業との事業提携を担当していたとき、両社の技術をどこまで出し合うかという喧々囂々 の交渉テーブルで、ついジョークを飛ばしてしまったことがあります。しかし相手方のアメリカ人が笑ってくれたおかげで、結果的に場を和ませるのに成功しました。

ところが、同じようなことを別のアメリカ企業の日本側トップとの会議でやらかしてしまい、「八木さんは帰国子女ですか?」と冷ややかに言われてしまいました。
会議の場で冗談を言う習慣は、日本人にはあまり馴染がないように思われます。 笑いはポジティブ感情への近道とはいえ、ユーモアの「強み」はTPOを間違えないように気をつけないといけません。

一方、「強み」の使い過ぎにも要注意です。

私のシグネチャーストレングスの一つは「知的柔軟性」もしくは「批判的思考」です。安易に結論に飛びつかず、客観的事実に基づいた決断ができるのは、確かに「強み」ではあります。

けれども、創造性を「強み」に持つ同僚が新しいアイデアをポンポン思いつくたび、「それってどういう意味?」「証拠は?」「この観点から見るとこうなんじゃない?」と質問攻めにして、相手をしょげさせてしまった苦い経験が何度もあります。

「知的柔軟性の行き過ぎはシニシズム(冷笑主義) 」というふうに、CSの総まとめ役であったピーターソン教授は、24のCSそれぞれの行き過ぎ、欠如、反対についても規定しています。過ぎたるは及ばざるがごとし、ということもぜひ心がけましょう。


3. 「強み」の正しい活かし方(組織編)

組織のレベルで考えたとき、個々のメンバーの強みをどのように扱えば、全体のパフォーマンスが上がるのでしょうか。また、その際にはどんなことに留意すればよいのでしょうか。

3-1. チームメンバーの「強み」を知る

チームで仕事をする何よりの醍醐味は、1+1が2よりも大きくなることであり、自分一人だけではできないことでも、皆の力を合わせれば達成できることです。これはまさに、一人ひとりの「強み」を出し合い、「弱み」を補い合って連携させることにほかなりません。

そのためには、まずお互いの「強み」を知ることから始めましょう。

一番簡単なのは、チーム全員でVIA のサーベイを受け、結果をシェアすることです。
リストを見せ合ってみると、本人は「これが自分の強みかなぁ」と思っていても、周りの人から「その強み、絶対持ってますよ!」と言われたり、意外な人が意外な強みを持っていて皆でびっくりしたり、盛り上がること確実です。
たとえボトム5を見られて「やっぱりうちのボスは『謙虚さ』が足りないんだ」などと思われても、トップ5もしっかりあるわけですから、そちらに注目してもらえれば大丈夫です。

何よりも、24個のCSがチームメンバーの「共通言語」となると、その後の組織運営にポジティブな影響を与えます。この「共通言語」を使って、日常業務の中で上司が部下を褒める際、「『大局観』を持って判断したのは素晴らしかった」、うまくいかなかったときは「もう少し『熱意』のレベルを上げればよかったね」というように、「強み」(の不足)を指摘しやすくなり、お互いの理解を深めるのにも役立ちます。

ひいては、部署内のチームワーク強化や、新しいプロジェクトのチームメンバー選定の際に、各メンバーのCSリストを作って、不足しているCSを持っているメンバーを追加する、といった活用の仕方も考えられます。

3-2. メンバー同士で「強み・弱み」を補い合う

お互いの「強み」がわかったら、次はそれぞれが自分の「強み」を発揮しながら、補い合います。
このプロセスは、実際の具体的なプロジェクトや業務を推進する中で、自ずと実践されていくものです。

例えばイベント企画の業務では、創造性の「強み」を持つ人がプログラムのアイデアを出し、慎重な人が予算管理をし、熱意のある人がスポンサー募集に奔走し、チームワークに長けた人がポテンヒットがないよう目配りをする、というふうに。

ここで大切なのは、何か難題を乗り越えた直後など区切りのいいところで、チーム内で「振り返り」を行い、今回メンバー同士がお互いの「強み」をどのように発揮し、どのように補い合ったかを確認することです。

不測の事態が発生して夢中で対処している最中は、自分の「強み」など意識している余裕はありません。「強み」の特徴である3Eの、まさに自分にとって「Easy」な行動を、メンバーそれぞれが反射的に発揮して乗り切ることでしょうし、ぜひそうありたいです。

しかし「のど元過ぎれば熱さ忘れる」といいます。大問題を乗り越えた後、ほっとして忘れてしまっては最高の学びのチャンスをみすみす無駄にしてしまいます。忘れる前に、今回の対応の中で、どんな局面で誰がどんな「強み」をどう発揮していたか、お互いがどう「弱み」を補い合っていたか、振り返ってみるのです。

振り返りを行うことにより、各々の「強み」をあらためて認識するとともに、どのように役割分担をすればより高いパフォーマンスを上げることができるのかという、次のアクションへの学びになります。

3-3. リーダーが留意すべき3つのポイント

チームのリーダーは、メンバーの「強み」を連携させ、「弱み」を補い合わせる調整役として重要な役割を果たさなければなりません。ただその際、いくつか留意すべきことがあります。

1つ目は 、自分も「弱み」を補ってもらう一員であることを忘れない、ということです。
リーダーたる者、部下のお手本になるべく、何でもできなくてはならない、「弱み」を見せてはならない、という思い込みを持ってはいませんか?
また部下の側も、リーダーは万能であってほしい、という理想の裏返しで、「弱み」を見せるリーダーなんて頼りない、と思っていないでしょうか? 

ビジネスを取り巻く環境変化が緩やかな時代は、過去の経験の蓄積がそのまま仕事能力となり、年功が文字通りの意味で機能していました。しかし、変化のスピードが加速し、特にネットやデジタル、AI(人工知能)やIoTInternet of Things:モノのインターネット) といった新しい技術がビジネスモデルそのものを激変させてしまう現在、若い人のほうがリーダークラスより知識豊富であることも珍しくありません。

これからのリーダーは、年齢や入社年度にこだわらず、自分の「弱み」もメンバーに補ってもらうくらいの度量の広さを持ち、適材適所のリソース配分を行うことが、今まで以上に求められます。

ちなみに、米国陸軍では下士官向けの「マスター・レジリエンス・トレーニング」というプログラムを実施しており、その中でまさに「強み」に着目しています。
そこで教えられるスキルのひとつは、自分の非合理的な思い込みを打破すること。特に脱却すべきなのが「他人に助けを求めるのは弱虫の印」という思い込みです。

特に男性は(というのも思い込みかもしれませんが)、自分の弱みを他人に見せることをよしとしない孤高なタイプが多いと思います。しかし、それは兵士にとっては致命的なのです。助けを必要とするときにSOSが出せなければ、文字通り死ぬかもしれないのですから。

リーダーもメンバーも、自分の「強み」や「弱み」を客観的に認識し、自分にないものが必要な時には、躊躇なく他人に助けを求め、補い合い、連携し合うことが、強いチームを作る秘訣です。

2つ目にリーダーが心に留めておくべき点 は、人は得てして自分と同じ「強み」を持たない人に対して厳しい評価をしがちだということです。

私の「強み」のひとつは、自制心。自分の行動を律すること、規律を守ることが得意です。会社員の頃は、会議の議事録や四半期業績報告書など、きちんとしたフォーマットに基づいて作成し、期日に間に合わないことは、間違ってもありませんでした。

その「強み」のせいで、ちょっとルーズな部下のドラフトの「てにをは」や数字の間違いにいちいち目くじらを立て、逆に相手は私の細かさに辟易するという、険悪な状態に陥ってしまいました。その人は熱意や好奇心といった「強み」を持っていたのに、その部分を正当に評価する心の余裕を持っていなかったのです。そのことは、今でも申し訳なく思っています。

3つ目の留意点は、上述とは逆に、自分の持っていない「強み」を持つ人を見るとつい自分を卑下しがちになり、羨望が高じて嫉妬心を抱く危険性があるということです。
こちらはうまく行った例ですが、バイアウトファンドの管理部門長をしていたとき、私の下に叩き上げの証券マンが配属になりました。メーカーから金融業界に転職した私と違い、とても数字に強く、私には到底理解不能な難しいEXCELの計算シートをちゃちゃっと作ってしまいます。上司の私が全然かなわない……と卑下しそうなところ、「いやいやこれはもう、難しいところは彼に任せてしまおう」と開き直りました。
おかげで彼は自分の「強み」を遺憾なく発揮し、権限委譲されてモチベーションも上がり、責任感をもってその業務を担当してくれました。

上述の23番目は、リーダーに限らず、誰もが注意しないといけないことです。

しかし、チームのメンバーを選定し、動機づける役割を担うリーダーは、これらを部下以上に肝に銘じる必要があります。
でないと、自分と似たような強みを持つメンバーばかり集めてチームの多様性が損なわれたり、自分にない強みを持つ部下に嫉妬してデモチベートするような振る舞いをしたり、チームのパフォーマンスを阻害しかねません。

何より、リーダーのポジティビティーがチーム全体に与える影響が多大であることは、シリーズ第3弾でご紹介したとおりです。


4. 「強み」を見つける「最高だった瞬間」エクササイズ

強い組織を作るため、メンバー同士でお互いの「強み」を理解し合い、連携し合うのに最適な、とっておきのエクササイズをご紹介します。

<やり方>

  1. 個人個人で、これまでの仕事人生の中で「最高だった」、「自分が輝いていた」と思う瞬間を思い出し、①いつ頃、②どこ(どの部署)で、③どんな仕事に取り組んでいたのか、④何がどう最高だった(輝いていた) のか、⑤そこで自分はどんな「強み」を発揮していたと思うかを書き出す(10分間)。
  2. 3人1組になり発表の順番を決め、発表者は1.で書き出した内容を発表する。聞き手は、発表者の「強み」について、もっと具体的に知るために質問をして、発表者が挙げていなかった「強み」をできるだけたくさん発見し、付箋に書いて発表者にプレゼントする(1発表者につき5分ずつ)。
  3. 終ったら、全員で1・2のプロセスをやってみてどう感じたのかをシェアし合う。

全部のプロセスは30分程度ですので、部署で時間を取って全員でやってみることをお勧めします。 

<ヒント>
「最高だった瞬間」と言っても、大げさな話や大きな成果を上げた実績である必要はありません。

私自身がこのエクササイズを受けたとき、反射的に思い浮かんだのは、業務用機器の管理部門に所属していた20代の頃のことです。倉庫の片隅に積み上がった、クライアントに貸し出して戻ってきた中古製品を整理・分類して、使えそうな製品を品質管理部門で修理してもらってB級品セールを実施したことがありました。
ごちゃごちゃだった倉庫の一画をきちんと整理して、帳簿上のデータとつじつまを合わせられたことが、とても爽快でした。

ここで私が発揮していた「強み」は、整理整頓のスキル、几帳面な性格、自立心や根気です。

こうした「最高の瞬間」を文字にしてみると、そもそも自分がなぜこの会社で働いているのか、どんなことに喜びを見出すのかといった自分の原点を思い出すことができます。
そして、それを誰かと共有することで、自分の気持ちや「強み」を再確認することができるのです。

さらに、聞き手は必ず自分が気づかなかった「強み」を見つけてくれ、自分では思ってもいなかったような言葉で表現してくれます。
上述の3Eの「Easy」で言うように、「強み」は無意識で発揮していることが多いので、自覚することが難しいかもしれません。だからこそ、他者に指摘してもらうことが大切なのです。

お互いに強みを見つけ合うことで、メンバー間の理解はもちろん、感謝や信頼感が生まれ、部署全体の緊密度、チームワークが高まることは間違いありません。


5. まとめ

「強み」の特徴は、
①Essential=自分らしさを発揮していて、ポジティブな気持ちになれる。
②Energized=やっているとエネルギーが満ちてくるから、モチベーションが上がる。
③Easy=簡単に、ほとんど無意識で実践できるから、とても効率よく生産性が高い。
という3つのEで言い表せます。

具体的には、スキル、才能、興味、価値観、外部リソースなどがありますが、これらを開花させる、より根源的な「強み」として、心理学者たちがまとめあげた24個のキャラクターストレングス(CS)があります。

VIA Instituteのサイトにある無料サーベイを受けると、トップ1から最下位までのCSのリストを入手することができます。そのうちのトップ5はシグネチャーストレングスと呼ばれ 、これを毎日意識して使うことが、日々の幸せにつながります。

「強み」とともに「弱み」を克服することも大切ですが、その際にもCSをうまく活用して「弱み」を強化することにトライすると、物事をより前向きに楽しんで行うことができます。

また、「強み」を発揮する際にはTPOに留意すること、使い過ぎに注意することを忘れないようにしましょう。

組織としてのパフォーマンス向上のために「強み」を最大限に活かすには、お互いの「強み」を知り、それをチーム内の共通言語にして、具体的なプロジェクトや業務の中で、お互いの「強み・弱み」を補い合うことが大切です。

メンバーの「強み」の連携役であるリーダーは、自分自身の弱みを部下に補ってもらうことをためらわないこと、自分と同じ「強み」のメンバーばかりを重用しないでメンバーの多様性を追究すること、自分の持っていない強みを持つメンバーをうまく登用することなどに留意しましょう。

お互いの「強み」を知るために最適な「最高だった瞬間」エクササイズをご紹介しましたので、部署全員でぜひやってみてください。

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<参考>
・Ryan M. Niemiec(2017)「Character Strengths Interventions」 Hogrefe Publishing Group
・マーティン・セリグマン(2014)「ポジティブ心理学の挑戦“幸福“から“持続的幸福“へ」ディスカヴァー・トゥエンティワン.

・クリストファー・ピーターソン(2012)「ポジティブ心理学入門:『よい生き方』を科学的に考える方法」春秋社.
・Karen J. Reivich他(2011)「Master Resilience Training in the U.S. Army」
・https://www.sas.upenn.edu/psych/seligman/mrtinarmyjan2011.pdf

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