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インストラクショナルデザインをマスターして効果的な教育設計を実現

インストラクショナルデザインをマスターして効果的な教育設計を実現

「研修のオンライン化の流れを受けて、これまでの教育内容を見直す必要が出てきた。しかし、どこから手を付けていけばよいのかわからない」

新型コロナウイルスの影響で企業研修のオンライン化が急速に進む中、教育というものを改めてどう考え、作っていけばよいか、悩んでいる人材開発部門の担当者・教育管理者の方は多いのではないでしょうか。

eラーニングの活用方法、集合研修との使い分け、そして集合研修をオンライン化する方法など、課題は山積していることと思います。

これを機に、eラーニングの適用範囲を増やしたり、オンライン研修のパッケージサービスを活用したり、人材育成業務のBPOに乗り出す企業もあるでしょう。内製化を進める企業もあるかもしれません。

いずれにしても、「これまでのスタイルを踏襲する」ということができなくなる以上、企業の担当者はこれまで以上に「教育」というものについて考えなければならなくなります。内製にせよ、外部調達にせよ、研修や教材の構成を考えたり、品質をチェックしたりする視点を持たなければならなくなるということです。

そこで再評価したいのが、「インストラクショナルデザイン」です。企業の人材育成に日々頭を悩ませている方々にとっては、なじみのある言葉かもしれません。一方で、「なんとなくは理解できているものの、具体的なメリットや、活用の仕方がよくわからない」というものでもあるかもしれません。

直訳をすると「教育設計」という意味を表す、「インストラクショナルデザイン」。この手法が広まることで、教育へのアプローチ方法に大きな変化が訪れました。

本稿では、インストラクショナルデザインをより理解するために、概要と成り立ちから、伝統的な教育アプローチとインストラクショナルデザインを用いた教育アプローチの比較、インストラクショナルデザインの代表的な理論についてお伝えしていきます。

「インストラクショナルデザイン」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
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1. インストラクショナルデザインとは 教育の最適化を図る設計思想

インストラクショナルデザインとは、研修やeラーニングで使用する教材構成、学習計画を組み立てる際に、最適な効果を得るために用いられる方法論です。

「設計する」という言葉を聞くと、建物や、何かの機械、システムを作成する際行われるもの、というイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。

「インストラクショナルデザイン」は、「教育」という目には見えないものの一連の流れをシステムとして捉えています。そうすることで、「教育全体の計画の立て方」や、「研修や教材の組み立て方」「学習者への動機付けの仕方」など、より効果的な教育を実施するための様々な体系化された理論・モデルが生み出されました。

この章では、インストラクショナルデザインの定義や概要、歴史について確認していきます。

1-1. インストラクショナルデザインの定義と概要

インストラクショナルデザインについて、教育工学者である鈴木克明教授は以下のように定義しています。

教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して教材を作成したり、授業・研修を実施するプロセス[1]

つまり、インストラクショナルデザインを教育に活かすことで、今までよりも短期間、低コスト(効率)で、期待した結果を得る(効果)ことができ、かつ、学習者が能動的に学びたいと思える(魅力)教育の実現が期待できるのです。

社員教育の内容やその効果に悩みを抱えている企業や、人事担当者などにとって、その解決策となる手法といえるでしょう。

1-2. インストラクショナルデザインの歴史

インストラクショナルデザインの生い立ちを遡ると、第二次世界大戦の米軍にたどり着きます。

当時の米軍は、大量の兵士を短期間で育成することが急務でした。銃の取り扱い、爆弾の製造といった複雑な動作の多い兵士の訓練をするために開発されたことが始まりと言われています。

その後、その手法が子供の発達心理学などにも応用されながらさらに開発されていき、現在ではあらゆる教育に関わるシーンで応用されるようになったのです。

日本でインストラクショナルデザインという言葉が使われるようになったのはごく最近で、2000年代に入ってからでした。企業でのeラーニングの普及が、この言葉が使用されるきっかけとなったと言われています。

eラーニング普及前の企業教育は、基本的には集合研修や外部セミナーのように、講師と実際に対面しながら講義を行うOFF-JTがほとんどで、残りは現場のOJTで育てていく……というものでした。講師や上司は学習者の反応を確認しながら、リアルタイムで適切な教育を進めることが可能でした。

一方eラーニングは、講師や社員同士で顔を合わせて行うOFF-JT・OJTと違い、指導者が学習者の反応に合わせて進めるということは出来ません。そのため、指導者が不在でも、多くの学習者が効率的に一定水準の効果を得られる方法が必要とされました。

このような経緯で、学習コースや学習コンテンツの開発に、理論に基づいたインストラクショナルデザインを使用することが注目されていったのです。

インストラクショナルデザインが広まったのはeラーニングがきっかけではありましたが、近年は通常の企業教育においても注目されています。というのも、伝統的な日本の企業内の教育アプローチは、熟練の教育担当社員や、講師が自信の勘、経験を基に組み立てる…といったものが多いものでした。しかし、少子高齢化や景況感の悪化など、様々な環境変化により、企業内の教育は、伝統的なアプローチでは立ち行かなくなっていきました。

そのような環境変化を背景に、結果的には、対面式の講義をする教育にも、インストラクショナルデザインの手法は活用されていくようになったのです。

それでは、伝統的な勘と経験を基にした教育アプローチがどのようなものだったのか、次の章でもう少し詳しく確認していきましょう。

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2. インストラクショナルデザインが生まれた背景は「勘と経験」からの脱却

かつての日本企業は、仕事もプライベートも従業員が深くかかわりをもつ「村的」な環境でした[2]。教育する側は従業員の人柄や現状のスキルを十分把握していたため、勘と経験をもとに組み立てたOFF-JT教育を行っても、各現場のOJTで育てていける環境がありました。

しかし、この「村的」な環境に頼った伝統的な教育アプローチには、以下のような問題がありました。

講師の力量により教育の質がばらつく

伝統的な教育アプローチの教授方法は、体系的な裏付けがあるものではなく、各講師の力量によっていました。そのため、講師によって、学習者の教育内容の理解度にばらつきが出てしまうことがありました。

明確でない学習目標

教育内容は決まっていましたが、学習目標は曖昧になりがちでした。そのため、学習者は教育内容の理解はできても、何をどこまでできるようになればよいのか、実務との関係上求められているゴールはどこなのか、といったことは明確にされず、学んだ内容の活かし方は個人次第でした。

安定しない教育成果

以上からも分かるように、教育内容の成果は、すべて講師や学習者個人の能力にゆだねられ、結果的に教育の成果は不安定なものとなります。

このように、伝統的な教育アプローチを用いた場合、その効果は個人によってばらつきがあるものだったと言えます。しかし、それでもそこまで大きくずれのない教育をできていたのは、この章の冒頭でお伝えした「村的」な環境がかつての企業にはあったからでしょう。

しかし、環境の変化で企業に「村的」な環境がなくなるにつれて、多くの企業で伝統的な教育アプローチではうまく人を育てられないという問題が発生するようになります。

決して安くはない費用と、忙しい社員の貴重な時間を使って行う教育。どうしたらきちんと効果を上げられるのか?その悩みを解決する糸口になったのが、インストラクショナルデザインによる教育アプローチでした。


3. インストラクショナルデザインを基にした教育アプローチのメリット

伝統的な教育アプローチでは、効果や効率にそれぞればらつきがある、ということは2章でお伝えした通りです。

そのようなばらつきをなくすために、体系的に教育を捉えるということがインストラクショナルデザインを用いた教育アプローチです。

インストラクショナルデザインを用いた教育アプローチには、以下のようなメリットがあります。

体系化された教授方法により教育の質を保てる

インストラクショナルデザインには、「この順番で教えれば人は理解が早い」という流れで教える体系化された方法(第4章を参照)があります。そのため、教材作成者や、講師の力量による学習者の理解度のばらつきを減らすことができました。

明確な学習目標で学習者の意欲を高められる

学習目標は学習開始の際に共有され、明確です。また、その時の学習内容の理解だけを目標にするのではなく、理解し、具体的にどのような行動変容をめざすのか、までを明確にします。学習者はゴールを把握できるため、学習意欲も高まります。

安定する教育成果

体系化されたプロセスや教授方法に則って教育を進めていくことで、伝統的な教育アプローチと比較して、講師や学習者の個人の力だけに頼らず、一定的な教育成果を生み出しやすくなります。

以上のように、伝統的な教育アプローチと比較して、インストラクショナルデザインのアプローチは、一定の成果を生み出せるようになることがわかります。


4. 代表的なインストラクショナルデザインのモデルをご紹介

第1章で、インストラクショナルデザインによって「教育全体計画の立て方」や、「研修や教材の組み立て方」「学習者への動機付けの仕方」など、様々な体系化された理論・モデルが生み出された、とお伝えしました。

ここでは、簡単に代表的なモデルについて確認しておきましょう。

4-1. ADDIEモデル

「ADDIEモデル」は、教育のPDCAを回す際に、どのように行えば効果が高いかを具体化したプロセスモデルのことです。

ADDIEは、「Analysis:分析」、「Design:設計」、「Development:開発」、「Implementation:実施」、「Evaluation:評価」のそれぞれの頭文字をとったものです。

このプロセスモデルを基にすれば、教育全体の計画や、教材作成の見直しの際に、意識すべきポイントが明確になります。

「ADDIEモデル」についての具体的にご紹介した記事もありますので、ぜひそちらも参考にしてみて下さい。

4-2. ガニエの九教授事象

研修や教材を組み立てる時に、知っておくと役に立つ理論の一つに「ガニエの九教授事象」というものがあります。人に何かを教える際に、どのような働きかけを行えば、効果のある教材、研修となるのかを整理したものです。その項目は以下となります。
 
 1 学習者の注意を獲得する
 2 授業の目標を知らせる
 3 前提条件を思い出させる
 4 新しい事項を提示する
 5 学習指針を与える
 6 練習の機会をつくる
 7 フィードバックを与える
 8 学習の成果を評価する
 9 保持と転移を高める

教材や研修を作成している人にとっては、もしかしたら無意識に行っている内容がほとんどかもしれません。しかし、ガニエの理論のように体系化されていると、効率的に教材や研修の組み立てができるようになります。

4-3. ARCSモデル

完璧な教育計画、分かりやすい教材がそろっていても、肝心の学習者の学習意欲がなければ、教育はうまく進みません。学習者の個々のやる気に期待したいところですが、教育を行う側としても動機づけの工夫は求められます。そのような時は、「ARCSモデル」を活用するとよいでしょう。

「ARCSモデル」とは、学習意欲を次の4つの側面で考え、それぞれの面からアプローチすることで学習者のモチベーションの向上や維持を図ったものです。「Attention:注意」、「Relevance:関連性」「Confidence:自信」「Satisfaction:満足」の頭文字をとっています。「ARCSモデル」の詳細については、以下で詳しく説明していますので、ぜひご確認ください。


5. まとめ

インストラクショナルデザインとは、教育を一連のシステムとして捉え、最も効果的、効率的に研修や教材開発を行うための方法論です。

第二次世界大戦の米兵育成をきっかけとして生まれたこの方法論が、応用されながら開発され、eラーニングの普及によって、現在は多くの企業教育で活用されるようになってきています。

その背景には、伝統的な教育アプローチでは立ち行かなくなってきた現在の企業の実態が関連しています。伝統的な教育アプローチの問題点としては、主に以下3点があげられます。

・講師の力量により教育の質がばらつく
・明確でない学習目標
・安定しない教育成果

仕事もプライベートも従業員同士が深くかかわりをもつかつての日本企業では、このような問題点がありながらも、各現場でフォローすることができていました。しかし、環境変化によって従業員同士のかかわりが希薄になり、現場でのフォローが手厚くできなくなってくるにつれて、こういった問題点が目立つようになってきたのです。

このような問題を解決するために注目されるようになったのが、インストラクショナルデザインを基にした教育アプローチでした。

インストラクショナルデザインの教育アプローチを用いれば、主に以下3つのメリットがあります。

・体系化された教授方法により教育の質を保てる
・明確な学習目標で学習者の意欲を高められる
・安定する教育成果

このようなメリットを持つインストラクショナルデザインをもとに、様々な理論・モデルが生み出されました。

例としては、以下のようなものがあります。

・ADDIEモデル
・ガニエの九教授事象
・ARCSモデル

限られたリソースの中で、最大限の効果的を発揮する学習方法を実施するために、インストラクショナルデザインのアプローチは大変有効と言えます。もし今、自社の社員教育で悩みを抱えているのであれば、インストラクショナルデザインのアプローチを試してみてはいかがでしょうか。

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[1](出典)「インストラクショナルデザインー「学びの効果・効率・魅力の向上を目指した技法―」、通信ソサエティマガジン、電子情報通信学会、P110
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/13/2/13_110/_pdf

[2] 「人材育成「退国」から「大国」へ」『Works』 2010年6-7月㈱リクルートワークス研究所 p23
https://www.works-i.com/works/item/w_100.pdf

<参考図書>
中原淳(編)、荒木淳子、北村士朗、長岡健、橋本諭(2006)『企業内人材育成入門 人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ』ダイヤモンド社.
河村 一樹(2009)『e-learning入門』大学教育出版.

<参考情報>
・鈴木克明(2008)「インストラクショナルデザインの基礎とは何か:科学的な教え方へのお誘い」消防研修(特集:教育・研修技法)第84号、pp.37-53.
https://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/syobokensyu.pdf
・インストラクショナルデザインとは?学習効果を最大化するための設計を行うこと
https://education-career.jp/magazine/data-report/2019/about-instructional-design/
・「人材育成「退国」から「大国」へ」『Works』 2010年6-7月(株)リクルートワークス研究所
https://www.works-i.com/works/item/w_100.pdf
・インストラクショナルデザインとは?企業研修にいま何が求められるか
https://www.pro-seeds.com/blog/?p=2992
・Wikipedia インストラクショナルデザイン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3
・原ひろみ(2007)「日本企業の能力開発 70 年代前半~2000 年代前半の経験から」
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/06/pdf/084-100.pdf
・鈴木克明(2004)「e-Learning 実践のためのインストラクショナル・デザイン」日本教育工学会論文誌
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/ksuzuki/resume/journals/2005b.pdf
・インストラクショナルデザインの関連資料
https://www.umin.ac.jp/vod/files/20100618/file01.pdf
・富士通ラーニングメディア インストラクショナル・デザインの実践に向けて~プロセスモデルに基づいた開発体験を通して~
https://www.knowledgewing.com/kw/blog/2010/09/201009150900.html

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