障害者雇用とは、障害を持った人が、能力や適性を活かすことのできる雇用を得て、自立した生活を送れるように支援することにより、障害者の職業の安定を図るための制度です。
1960年の「身体障害者雇用促進法」に始まり、約60年の歴史をもつ制度で、改正を重ねながら現在に至っています。2018年4月からは、それまで制度の対象にはなかった「精神障害」が加えられました。制度の充実が図られると同時に、事業主に求められる基準も高くなっています。
本稿では、障害者雇用とは何か、現状や雇用を促進するための支援制度と合わせてご紹介します。
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目次
1. 障害者雇用とは
障害者雇用とは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に基づき、障害者の職業の安定を図るための制度です。
その根底には、「共生社会の実現」という理念があり、これを含めて障害者雇用により次の3つのことが期待されています。
障害に関係なく、意欲や能力に応じて誰もが職業を通して社会参加できる「共生社会」の実現につながる
・労働力の確保
障害者の「できること」に目を向け、活躍の場を提供することで企業にとっても貴重な労働力の確保につながる
・生産性の向上
障害者がその能力を発揮できるよう職場環境を改善することで他の従業員にとっても安全で働きやすい職場環境が整えられる
障害者雇用促進法では、「障害者の職業の安定を図る」という目的を達成するために企業や公的機関がとるべき措置について定めています。この措置の内容について次に詳しく見ていきましょう。
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2. 障害者雇用促進法で決められていること
障害者雇用促進法の第一条では、「障害者の職業の安定を図る」という目的のために次の措置を講じることを定めています。
・障害者と障害者でない者とで均等な機会や待遇が与えられるための措置
・障害者が能力を有効に発揮することができるようにするための措置
・職業リハビリテーションの措置
・障害者が職業生活において自立を促進するための措置
具体的な方策として次のような制度や禁止事項があります。
1.障害者雇用率制度
従業員が一定数以上の規模の事業主は、身体障害者、知的障害者、精神障害者を法定雇用率以上雇用する義務があります。
法定雇用率とは、労働者に占める障害者の割合が一定率以上になるように雇用者に義務づけている制度で、5年ごとに見直し、設定されています。
2018年4月から施行されている法定雇用率は、次の通りです。法定雇用率が上げられたのと同時に適用対象企業の規模が従業員数50人から45.5人となり、適用範囲が拡大されました。
・民間企業 2.2%
・国や地方公共団体、特殊法人 2.5%
・都道府県教育委員会 2.4%
例)
常時雇用している従業員労働者数が100人の民間企業の場合
100人×2.2%=2.2 → 2人
小数点以下は切り捨てのため、障害者2人を雇用する義務があります。
障害者数の算定方法は、労働時間と障害の種類によって若干異なります。
出典)厚生労働省 「障害者雇用のご案内~共に働くを当たり前に~」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000201963.pdf
重度の身体障害者と知的障害者については、同じ労働時間であっても2倍で算定します。
精神障害者の職場への定着を促進するため、精神障害者の短時間労働者については、新規雇い入れ、または精神障害者保健福祉手帳を取得してから3年以内、かつ、2033年3月31日までに雇い入れられて精神障害者手帳を取得した者は1人として算定できます。
2021年4月までに、雇用率はさらに0.1%引き上げられます。また、引き上げと同時に、対象となる事業主の範囲が従業員数43.5人以上となります。
2.障害者雇用納付金制度
法定雇用率を満たしていない事業主は障害者雇用納付金を納めることになります。一方、この納付金を元に、法定雇用率が達成されている事業主には調整金や報奨金、障害者を雇入れるために必要な費用に対する各種助成金が支給されます。
出典)厚生労働省 障害者雇用のご案内~共に働くを当たり前に~
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000201963.pdf
障害者雇用率の低い企業は、ハローワークより以下の手順で雇用率を達成するための指導を受けることになります。
参考)厚生労働省 「障害者雇用率達成指導の流れ」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000146198.pdf
6月1日時点で、次に該当する企業は、雇入れ計画作成命令を受けます。
・全国平均実雇用率未満 かつ 不足数5人以上である
・法定雇用数が3~4人であって、0人雇用である
・不足数10人以上である
雇入れ計画作成の命令を受けると2年間で法定雇用率を達成するための計画を立てなければいけません。だからといって達成ありきの採用、雇用計画になることは絶対に避けるべきです。雇用した障害者が職場に定着できるよう、企業の受け入れ体制が整っているか、障害者にとって働きやすい環境かを見直し、改善することが重要です。
3.差別の禁止
事業主は、募集、採用や賃金、配置、昇進などの待遇面において、障害者であることを理由に差別をすることが禁止されています。
一方、差別を是正するための措置として、障害者を有利に扱うことや、労働能力の適正評価の結果として障害者でない人と異なる取り扱いをすることは差別にはあたりません。
4.合理的配慮の提供義務
事業主は、障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保のための措置を講じなければなりません。障害者一人ひとりの状態や職場の状況によって、どのような措置を取るべきか異なるため、個別に決めていく必要があります。
5.職業生活相談員、障害者雇用推進者の選任
障害者を5人以上雇用している場合、事業主は障害者の職業生活全般における相談や指導をする職業生活相談員を選任しなければなりません。
また、障害者雇用推進者は国との連絡窓口として雇用管理や雇入れ計画作成、届け出などの手続きをする責任者で、常時雇用する従業員が50人以上の事業主は選任する努力義務があります。
3. 障害者雇用の現状と問題点
制度面では整備されてきましたが、実際の障害者の雇用状況はどうなっているのでしょうか。以下は、民間企業に雇用されている障害者の数と実雇用率の推移です。
雇用されている障害者の数は毎年増加していますが、2017年6月1日時点で約49.6万人、実雇用率は1.97%で法定雇用率2.0%には達していません。
障害者雇用率が達成されている企業の割合は50.0%。雇用義務のある企業の半数にとどまっています。対象企業9万1,024社の内、約29%にあたる2万6,692社が障害者雇用ゼロ企業となっています。雇用率が改善してきているとはいえ、改善の余地は大きくあります。
また、精神障害者の雇用率の低さが顕著であると言えるでしょう。今後、精神障害者の雇用が、大きく促進される必要があります。
次に企業規模別の実雇用率について見てみましょう。
出典)厚生労働省 「平成29年 障害者雇用状況の集計結果」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/0000187725.pdf
実雇用率は、従業員数の多い大企業で高く、従業員数の少ない企業では低いことが分かります。大企業が障害者雇用を牽引していることがうかがえます。
障害者雇用の賃金の現状は次の通りです。
賃金の平均値 | ||||
労働時間区分 | 全体平均 | 通常 | 20時間以上 | 20時間未満 |
身体障害者 | 223,000円 | 251,000円 | 107,000円 | 59,000円 |
知的障害者 | 108,000円 | 130,000円 | 87,000円 | 35,000円 |
精神障害者 | 159,000円 | 196,000円 | 83,000円 | 47,000円 |
参考)厚生労働省 「平成25年度障害者雇用実態調査結果」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/gaiyou.pdf
知的障害者、精神障害者において賃金が平均的に低いことが分かります。この点も改善されるべき点と言えるでしょう。
4. 雇用促進のための支援策
障害者雇用を促進するために、ハローワークや各自治体がさまざまな支援制度や助成制度を設けています。
1. トライアル雇用助成金
ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介を受け、障害者を一定期間試行雇用した場合に、助成を受けることができます。
身体障害者、知的障害者については最長3カ月間で1人当たり月額最大4万円が支給されます(35歳未満の対象者については最大5万円)。
精神障害者については、最長6カ月間で、初めの3カ月間は月額最大8万円、4カ月目以降は月額最大4万円が支給されます。
また、週20時間以上勤務することが難しい場合は、3~12カ月の期間をかけながら週20時間以上の勤務を目指す「障害者短時間トライアルコース」もあります。この場合、支給額は月額最大4万円です。
2.特定求職者雇用開発助成金
トライアル雇用した障害者を継続して雇用する場合に事業主に対して助成されるものです。
特定求職者雇用開発助成金 | ||||
対象労働者 | 支給額 | 助成期間 | ||
短時間労働者※以外 | 重度障害者を除く身体・知的障害者 | 大企業 | 50万円 | 1年 |
中小企業 | 120万円 | 2年 | ||
重度身体・知的障害者、45歳以上の身体・知的障害者、精神障害者 | 大企業 | 100万円 | 1年6カ月 | |
中小企業 | 240万円 | 3年 | ||
短時間労働者 | 身体・知的・精神障害者 | 大企業 | 30万円 | 1年 |
中小企業 | 80万円 | 2年 |
参考)厚生労働省 「特定求職者雇用開発助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_konnan.html
トライアル雇用の結果、正式雇用された場合は支給対象になります。
3.ジョブコーチ
専門的な研修を受けたジョブコーチが、障害者が雇用されている職場に出向いて、障害特性を踏まえて専門的な支援をします。
ジョブコーチには次の3種類があります。
地域障害者職業センターに所属するジョブコーチが事業所に出向いて支援をします。
・訪問型
就労支援をしている社会福祉法人などに所属するジョブコーチが事業所に出向いて支援をします。
・企業在籍型
自社の従業員がジョブコーチ養成研修を受けて自社で雇用する障害者の支援をします。
出典)厚生労働省 「障害者雇用のご案内~共に働くを当たり前に~」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000201963.pdf
障害者と事業主双方に対して、障害者が円滑に職場に適応できるように、特性に合った仕事や職場の改善・調整などの助言をします。知的障害者、精神障害者の雇用にあたって多く利用されています。企業在籍型ジョブコーチについては、助成金制度があります。
4.精神・発達障害者しごとサポーター養成講座
「精神・発達障害者しごとサポーター」とは、職場において、精神障害や発達障害のある従業員を暖かく見守る支援者のことです。労働局・ハローワークでは、一般の従業員を対象として、精神障害者や発達障害者について正しい知識と理解をもって障害者を支援する人(サポーター)を育成するための養成講座を開催しています。
出典)厚生労働省 「精神・発達障害者しごとサポーター」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shigotosupporter/index.html
精神・発達障害者が職場に定着するには、周囲の理解が重要です。このような講座をきっかけにして障害の有無にかかわらず働きやすい職場になることが望まれます。
5. まとめ
障害者雇用とは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に基づき、障害者の職業の安定を図るための制度です。
障害者雇用促進法は、事業主に次の義務を定めています。
①法定雇用率制度
従業員が一定数以上の規模の事業主は、身体障害者、知的障害者、精神障害者を法定雇用率以上雇用すること。
・民間企業 2.2%
・国や地方公共団体、特殊法人 2.5%
・都道府県教育委員会 2.4%
②障害者雇用納付金制度
法定雇用率を満たしていない事業主は障害者雇用納付金を納めること。
③差別の禁止
事業主が募集、採用や賃金、配置、昇進などの待遇面において、障害者であることを理由に差別してはいけないこと。
④合理的配慮の提供
事業主は、障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保のための措置を講じること。
⑤職業生活相談員、障害者雇用推進者の選任
障害者を5人以上雇用している場合、事業主は障害者の職業生活全般における相談や指導をする職業生活相談員を選任すること。
また、常時雇用する従業員が50人以上の事業主は、障害者雇用推進者は国との連絡窓口として雇用管理や雇入れ計画作成、届け出などの手続きをする責任者を選任するよう努めること。
以下は、障害者雇用への支援策です。これらの公的な支援策を活用して、障害者雇用の促進を図ることも可能です。
①トライアル雇用助成金
ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介を受け、障害者を一定期間試行雇用した場合に、助成を受けることができる。
②特定求職者雇用開発助成金
トライアル雇用した障害者を継続して雇用する場合に事業主に対して助成される。
③ジョブコーチ
専門的な研修を受けたジョブコーチが、障害者が雇用されている職場に出向いて、障害特性を踏まえて専門的な支援をする。
④精神・発達障害者しごとサポーター養成講座
一般の従業員を対象として、精神障害者や発達障害者について正しい知識と理解をもって障害者を支援する人(サポーター)を育成する。
障害者の雇用率は年々上昇していて、就業者数も増加してきています。一方で、法定雇用率は達成できておらず、雇用率ゼロ企業が全体の3割近くを占めているのが現状です。
2018年から、精神障害者が雇用義務の対象に加わりましたが、義務化されたとはいえ、雇用が強制されているわけではありません。精神障害者の雇用や職場の定着を進めるためには、障害特性を周囲の従業員が理解して、その人に合った仕事や職場環境を提供することが大切です。
障害者雇用に対する取り組みは、従業員の働き方や職場環境の改善にもつながることが期待できます。企業の社会的責任(CSR)の観点からも、積極的な障害者雇用が進むことが望まれます。
参考)
厚生労働省資料 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000192637.pdf
厚生労働省「障害者の雇用」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html
高齢・障害・求職者雇用支援機構「各種助成金のごあんない」
http://www.jeed.or.jp/disability/subsidy/various/om5ru8000000lhw3-att/q2k4vk000000zfrt.pdf
厚生労働省 「障害者雇用率制度」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaisha/04.html
厚生労働省 「障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192051.html
厚生労働省 「障害者雇用のご案内~共に働くを当たり前に~」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000201963.pdf