育児休業とは、労働者が子どもの養育のために取得できる休業で、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(育児・介護休業法)に定められています。
少子高齢化が進み、生産年齢人口も減少を続ける中、仕事と育児を両立できる社会の実現が求められています。そのためには、女性が出産後も働きやすい環境を整えるだけでなく、男性の育児参加を促進する体制作りが必要です。
政府は、育児・介護休業法の改正を重ね、法制面での環境整備を進めてきました。
本稿では、育児休業について解説し、併せて育児給付金制度、育児・介護休業法に定められている他の制度、事業主に対する助成金制度を紹介します。
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目次
1. 育児休業とは
育児休業とは、育児・介護休業法に定められた、原則として1歳未満の子どもを養育するために取得できる休業です。男女を問わず、また配偶者が専業主婦(夫)であっても取得できます。
◆対象となる労働者
日々雇用(日雇い)以外の労働者が対象です。ただし、契約社員などの有期雇用労働者は、子どもが1歳6カ月(2歳まで休業を取得する場合は2歳)になる日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかであれば対象になりません。
また、以下の要件を満たす労働者は、労使協定で対象外とされている場合があります。
・雇用期間が1年未満
・1年(1歳以降に休業を取得する場合は6カ月)以内に雇用関係が終了する
・所定労働日数が週2日以下
◆休業期間
原則として、子どもが出生した日から1歳になる日までの間で労働者が申し出た期間です。
ただし、期間内に保育園への入園を希望しながらも入れなかった場合などは、要件を満たして申し出ることで、子どもが1歳6カ月、または2歳になるまで休業を延長することができます。
なお、育児休業と似た言葉に「育児休暇」があります。2つの違いは、育児休業が育児・介護休業法で規定されているのに対し、育児休暇は各企業が独自に設けている点です。
育児休暇の対象者や期間などは企業によって異なりますが、育児休業を利用できない労働者も活用できたり、育児休業と併用できたりする場合があります。
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2. 育児・介護休業法で定められている制度
政府は男性の育児休業取得率の目標を引き上げ、2025年までに50%[1]としました。しかし、厚生労働省による2022年度の雇用均等基本調査[2]によれば、男性の育児休業取得率は17.13%と低調で、目標を大幅に下回っているのが現状です。
育児・介護休業法では、男性の育児参加を支援するため、以下のような制度が設けられています。
◆パパママ育休プラス制度
両親とも育児休業を取得する場合に、要件を満たすと適用されます。この制度を利用することで、育児休業の対象期間を子どもが1歳になるまでから1歳2カ月になるまでに延長できます。
◆産後パパ育休制度
原則として、子どもが出生した日から8週間までに4週間以内の休業が取得できます。休業を2回に分割して取得することも可能ですが、最初にまとめて申し出ておくことが必要です。
なお、産後パパ育休の範囲を超えて休業したい場合は、別途育児休業の取得を申し出ることができます。
◆育児目的休暇制度
小学校入学前の子どもを持つ労働者が、出産の立ち会い、入園式や運動会への参加など、育児に関する目的で利用できる休暇制度です。ただし、導入は事業主の努力義務であり、制度内容は企業によって異なります。
その他、仕事と家庭の両立支援を目的として、また子どもを養育する労働者が不利益を被らないために以下のようなことが規定されています。
◆短時間勤務などの措置
事業主は、3歳未満の子どもを養育する労働者が利用できる、1日の所定労働時間を原則6時間とする短時間勤務制度を設ける義務があります。
◆所定外労働・時間外労働・深夜業の制限
対象労働者から申し出があった場合、事業主は所定外労働・時間外労働・深夜業をそれぞれ以下のように制限し、その範囲を超えて働かせてはなりません。
・所定外労働:3歳未満の子どもを養育する労働者の申し出により免除
・時間外労働:小学校入学前の子どもを養育する労働者の申し出により1カ月24時間、1年150時間以内に制限
・深夜業(午後10 時~午前5時の労働):小学校入学前の子どもを養育する労働者の申し出により免除
◆子の看護休暇
病気・けがなどをしている子どもを看護する場合や、子どもに健診・予防接種を受けさせる場合などに取得できる休暇です。
対象者は小学校入学前の子どもがいる労働者で、子どもが6歳になる日の含まれる年度の3月末日まで利用できます。子どもが1人の場合は1年に5日まで、2人以上の場合は1年に10日まで、1日単位または時間単位で取得が可能です。
◆転勤についての配慮
事業主は労働者を転勤させる場合、該当労働者が転勤によって育児を行うことが困難にならないよう、育児の状況に配慮しなければなりません。
◆不利益取り扱いの禁止
育児休業や産後パパ育休などの申し出・取得を理由として事業主がその労働者を解雇したり、その他不当な取り扱いをしたりすることは認められません。
◆育児休業などに関するハラスメントの防止措置
事業主は、育児休業、その他子どもの養育に関する制度・措置の申し出や利用に際し、上司や同僚などからのハラスメント行為により該当労働者の就労環境が害されることがないよう、必要な措置を講じる義務があります。
3. 育児休業給付金制度
育児休業中の労働者に対して事業主が給与を支払う義務はないため、一般的に育児休業中は無給となります。そこで、育児休業中の経済的支援のために設けられたのが、雇用保険から給付金を受け取れる育児休業給付金制度です。
◆対象者
男女、雇用形態を問わず、以下の要件を満たす労働者が対象です。
・育児休業を取得した雇用保険加入者であること
・育児休業開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上の月、または就業時間数が80時間以上の月が12カ月以上あること
・1支給単位期間(育児休業を開始した日から起算した1カ月ごとの期間、1カ月内に育児休業終了日が含まれる場合は育児休業終了日までの期間)の就業日数が10日以下、または就業時間数が80時間以下であること
・有期雇用労働者の場合は、養育する子どもが1歳6カ月または2歳になる日までの間に労働契約期間が満了することが明らかでないこと
◆給付額
給付額の計算式は以下の通りです。
※育児休業開始から6カ月(180日)経過後は50%
育児休業給付金は非課税のため所得税がかからず、所得ではないので翌年度の住民税の算定にも含まれません。また、社会保険料も免除になります。事業主は雇用保険料の支払いが不要になります。
ただし、育児休業中でも有給であったり、働いた日があったりした場合は、金額や就業時間・日数に応じて所得税、社会保険料、雇用保険料が発生します。また、支払われた給与額によっては、育児休業給付金が減額したり、受け取れなくなったりするため注意が必要です。
4. 育児休業に関連する助成金制度
労働者の仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主に対して、政府は助成金制度を設けています。ここでは、「両立支援等助成金」の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」「育児休業等支援コース」を紹介します。
なお、両コースは主に中小企業を対象としており、その範囲は以下の通りです。
小売業(飲食業含む) | 資本金額または出資額が5千万円以下、あるいは常時雇用する労働者が50人以下 |
サービス業 | 資本金額または出資額が5千万円以下、あるいは常時雇用する労働者が100人以下 |
卸売業 | 資本金額または出資額が1億円以下、あるいは常時雇用する労働者が100人以下 |
その他 | 資本金額または出資額が3億円以下、あるいは常時雇用する労働者が300人以下 |
4-1. 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
このコースでは、以下の2つに場合に助成金の給付が受けられます。
(1)第1種:男性が育児休業を取得しやすいよう雇用環境や業務体制の整備に取り組み、子どもの出生後8週間以内に開始日がある連続5日以上の育児休業(4日以上の所定労働日を含む)を取得した男性労働者が出た場合
(2)第2種:第1種を受給した事業主において、3事業年度以内に男性労働者の育児休業取得率が30ポイント以上上昇した場合、または2年連続70%以上となった場合(一定の条件あり)
第1種・第2種とも対象は中小企業のみで、同一事業主に対してそれぞれ1回限り給付されます。
給付額 | |
第1種 | 20万円 |
代替要員加算:20万円 (3人以上の代替要員を確保した場合、45万円) | |
育児休業等に関する情報公表加算:2万円 | |
第2種 | ・1事業年度以内に、男性労働者の育児休業取得率が30ポイント以上上昇した場合:60万円 ・2事業年度以内に、男性労働者の育児休業取得率が30ポイント以上上昇した(または連続70%以上だった)場合:40万円 ・3事業年度以内に、男性労働者の育児休業取得率が30ポイント以上上昇した(または連続70%以上だった)場合:20万円 |
4-2. 育児休業等支援コース
このコースでは、以下の5つの場合に助成金の給付が受けられます。
(1)育児休業取得時:「育休復帰支援プラン」を策定し、それに基づいて育児休業を取得させた場合
(2)職場復帰時:(1)の対象労働者を育児休業後に職場復帰させた場合
(3)業務代替支援:育児休業取得者の業務を代わりに行う労働者を確保し、かつ育児休業取得者を取得前の原職などに復帰させた場合
(4)職場復帰後支援:法律を上回る子どもを対象とした看護休暇制度を導入し、育児休業復帰後の労働者に利用させた場合、またはベビーシッター費用補助などの保育サービス費用補助制度を導入し、育児休業復帰後の労働者に利用させた場合
(5)新型コロナウイルス感染症対応特例:小学校の臨時休校などにより子どもの世話をする労働者のために有給休暇制度および両立支援制度を整備し、利用させた場合
(1)~(4)は中小企業のみが対象ですが、(5)は中小企業以外も対象に含まれます。
給付額 | 給付人数/回数 | |||
(1)育児休業取得時 | 30万円 | 同一事業主につき2回まで (無期雇用労働者・有期雇用労働者 各1回) | ||
(2)職場復帰時 | 30万円 | 同一事業主につき2回まで (無期雇用労働者・有期雇用労働者 各1回) | ||
(3)業務代替支援 | A:新規雇用 | 50万円 | ・A・B合わせて1年度10人まで ・初めて給付を受けてから5年間申請可能 (くるみん認定を受けた事業主は、2027年度まで限度人数が50人まで拡大) | |
B:手当支給など | 10万円 | |||
有期雇用労働者加算 | 10万円 | |||
(4)職場復帰後支援 | 子の看護休暇制度 | 制度導入時※1 | 30万円 | 同一事業主につき1回 |
制度利用時※1 | 千円×時間 | 同一事業主につき5人まで ※2 (1年度200時間まで) | ||
保育サービス費用補助制度 | 制度導入時※1 | 30万円 | 同一事業主につき1回 | |
制度利用時※1 | 事業主負担額の3分の2 | 同一事業主につき5人まで ※2 (1年度20万円まで) | ||
(5)新型コロナウイルス感染症対応特例 | 10万円※3 | 同一事業主につき10人まで (上限100万円) | ||
育児休業等に関する情報公表加算※4 | 2万円※4 | 同一事業主につき1回、(1)〜(4)のいずれかに加算 |
※1「子の看護休暇制度」「保育サービス費用補助制度」のいずれか一方の制度のみ、「制度導入時」「制度利用時」とセットで申請
※2「制度利用時」の1人目に係る支給申請日から3年以内
※3対象労働者が学校休業などにより1日以上特別有給休暇を取得した場合、一律10万円給付(同一対象労働者が2023年4月以降に取得した休暇について1回限り)
※4(1)〜(4)のいずれかの助成金に1回限り加算(加算のみの受給は不可)
要件などの詳細は、厚生労働省のホームページをご確認ください。
参考) 厚生労働省「業主の方への給付金のご案内」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html |
5. まとめ
育児休業とは、原則として1歳未満の子どもの養育のために取得できる休業で、育児・介護休業法に定められています。
性別、配偶者が働いているかどうかにかかわらず取得できます。休業期間は、原則として子どもが1歳になるまでですが、保育園に入れないなどの理由があれば最長で子どもが2歳になるまで延長が認められます。
育児・介護休業法には、男性の育児参加を支援する制度が設けられています。
・パパママ育休プラス制度
・産後パパ育休制度
・育児目的休暇制度
その他、仕事と家庭の両立支援を目的として、また子どもを養育する労働者が不利益を被らないために以下のようなことも規定されています。
・短時間勤務などの措置
・所定外労働・時間外労働・深夜業の制限
・子の看護休暇
・転勤についての配慮
・不利益取り扱いの禁止
・育児休業などに関するハラスメントの防止措置
一般的に育児休業中は無給となるため、雇用保険から給付金を受け取れる育児休業給付金制度を活用します。
育児休業給付金は非課税のため所得税がかからず、翌年度の住民税の算定にも含まれません。また、社会保険料も免除になります。事業主は雇用保険料の支払いが不要になります。
労働者の仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主に対して、政府は助成金制度を設けています。本稿では、「両立支援等助成金」の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」「育児休業等支援コース」を紹介しました。
・出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境や業務体制を整備した上で、男性労働者が子どもの出生後8週間以内に開始日がある育児休業を取得した場合や、男性の育児休業取得率が一定以上上昇した場合に助成金が給付されます。
・育児休業等支援コース
「育休復帰支援プラン」を策定し、育児休業の円滑な取得・職場復帰の取り組みを行った場合、育児休業中の業務代替体制を整備した場合、職場復帰後の労働者への支援などの取り組みを行った場合などに助成金が給付されます。
少子高齢化による労働力不足が深刻化する現在、出産や育児を理由とする離職を防ぎ、仕事と育児を両立できる社会を実現するためには、政府による支援策を活用しながら、働きやすい環境を整えていくことが必要です。
[1] 厚生労働省「「こども未来戦略方針」~ 次元の異なる少子化対策の実現のための 「こども未来戦略」の策定に向けて ~」,2023年6月13日公表,P20,https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001112705.pdf
[2] 厚生労働省「「令和4年度雇用均等基本調査」結果を公表します~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~」,2023年7月31日公表,https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r04/06.pdf
参考)
厚生労働省 「育児休業の期間2」
http://ryouritsu.mhlw.go.jp/pdf/q0310.pdf
厚生労働省 「育児休業期間の延長」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000169736.pdf
参考)厚生労働省 「育児休業給付について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000341371.pdf
厚生労働省 「改正育児・介護休業法のポイント」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/291001_ikukaiho-kaisei-point.pdf
イクメンプロジェクト
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/employee/system/