「効率的かつ効果的なマタハラ対策を知りたい」
マタハラ対策って、何をすればよいのでしょうか。
その答えは、マタハラの特徴を押さえつつ、対策に力を入れている企業の事例から学ぶことで、見えてきます。一言で言うと、それは、妊娠・出産・育児が個人にも組織にも負担にならない職場環境をつくること、です。
さまざまに定義されているハラスメントの境界線を明確にするのは困難です。「マタハラ」と切り出して個別の対策を考えるよりも、ハラスメント問題が起きにくく、どのような人にとっても働きやすい環境を整備する方が、根本的で効果が高いといえるでしょう。
とはいえ、マタハラ特有の問題点について理解しておくことは大切です。
ワーキングマザーは増えつつありますが、2018年の内閣府の調査によると第1子出産を機に退職する女性の割合は46.9%と依然として高い傾向にあります。辞めた理由は「子育てをしながら仕事を続けるのは大変だったから」が52.3%[1]と最も高く、育児と仕事の両立に高いハードルがあるといえるでしょう。
ハードルの一つとして、職場におけるマタハラがあることも少なくありません。
2020年度に東京海上日動リスクコンサルティング株式会社が過去5年間に就業中に妊娠、出産した女性労働者1,000名を対象に行った調査によると、「妊娠・出産したこと」をきっかけに過去5年間にハラスメントを受けた人が57.0%いることが分かっています。
ハラスメントの内容は、「上司による制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」の割合が24.3%と最も高く、次いで「嫌がらせ的な言動、業務に従事させない」(24.0%)が続きます。
心身への影響としては、69.2%が「怒りや不満、不安などを感じた」、52.9%が「仕事に対する意欲が減退した」と回答[2]しており、マタハラ被害によって業務に影響が出ることが推測されます。
職場におけるマタハラを防止するためには、企業側が防止措置を取り、ライフステージに合わせた働き方を提案することが重要です。一人一人を尊重する社内風土が醸成されれば、今いる従業員の育成だけでなく、優秀な若手人材の獲得にもつながるでしょう。
そこで本稿では、マタハラとは?という基礎知識から企業側が取るべき措置や予防策、マタハラ対策事例などをご紹介します。
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1. マタハラとは?事例と企業が気を付けたいポイント
まずはマタハラ(マタニティハラスメント)についての定義、マタハラの主な2タイプ、事例についてご紹介します。
1-1. マタハラとは?まずは簡単に解説
マタハラとはマタニティハラスメントの略で、女性従業員が妊娠・出産・育児に関して職場の上司、同僚から嫌がらせや不当な扱いを受けることを指します。
2017年1月に男女雇用機会均等法、育児・介護休業法が改正され、従来から禁止されていた解雇や減給などの「不利益取り扱い」に加えて、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」に対しても防止措置を講じることが事業主に義務付けられました。
1-2. マタハラは大きく分けて2タイプ、事例を紹介
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは「制度等の利用への嫌がらせ型」「状態への嫌がらせ型」の2つに分けられます。
制度等の利用への嫌がらせ型
制度等の利用への嫌がらせ型とは、従業員が妊娠・出産・育児に関する制度を利用、または利用しようとした際に、上司や同僚から阻止されたり、嫌がらせを受けたりすることです。
・産前産後休業(産休)の取得を上司に相談したら、「休みを取るなら退職してほしい」と言われた。
・出産後に時間外労働の免除を上司に相談したところ、「次の査定では昇進しないと思ってくれ」と言われた。
状態への嫌がらせ型
状態への嫌がらせ型とは、従業員が妊娠・出産したことに関して、上司から不利益な扱いを示唆されたり、上司・同僚から嫌がらせをされたりすることを指します。
・妊娠を報告したら、上司・同僚から「こんな忙しい時期に妊娠するなんて無責任だ」と繰り返し言われた。
・上司・同僚から「妊婦はいつ休むか分からないから仕事を任せられない」と繰り返し言われ、仕事が回ってこないようになった。
ただし、「次の妊婦検診は業務上、この日を避けてほしいが調整できるか」「妊婦に長時間労働は負担だろうから、残業量を減らそうと思うがどうか」「つわりで体調が悪そうだから休んだ方がよいのではないか」といった言動は、業務上の必要性に基づくためマタハラには該当しません。
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1-3. マタハラ訴訟の事例を紹介
マタハラは労働基準法違反、男女雇用機会均等法違反、育児・介護休業法違反に該当するため、職場で解決できなかった場合は被害者が裁判を起こすケースがあります。
妊娠した客室乗務員(原告)が地上勤務への転換を希望したところJALが拒否し、無給休職となった。原告はこれをマタハラとしてJALを提訴、休職命令の無効確認、未払賃金の支払い、慰謝料を請求した。結果として東京地裁で和解が成立し、和解条項に「原則として希望者全員が産前地上勤務に就けること」が盛り込まれた。
本訴訟以降、JALは社内制度と運用を見直し、客室乗務員が妊娠と仕事を両立できるようになりました。
1-4. 女性従業員だけじゃない!パタハラ事例
パタハラとはパタニティハラスメントの略で、男性従業員が出産・育児に関して上司や同僚から阻害行為や嫌がらせを受けることを指します。
・育児休業(育休)の取得を上司に相談したところ、「男が育休なんて取るな」「他の従業員に迷惑がかかる」と言われ諦めざるを得なかった。
・育休の取得に関して、同僚から「自分は取得しなかったのでお前もそうするべきだ」「一人だけ休もうなんて自己中心的だ」と繰り返し言われ、申請を断念した。
マタハラ同様、パタハラも労働者に認められた権利を奪う行為のため、訴訟に発展するケースがあります。
3カ月の育休を取った男性看護師が、翌年度の昇給が行われなかったことから勤務先の医療法人を提訴、昇給した場合の給与額との差額などの支払いを求めた。医療法人では「3カ月以上の育休を取得した場合は翌年度の定期昇給時に職能給を昇給させない」と定めていたが、育児介護休業法10条の不利益取り扱いに該当するとして大阪高裁が給与の差額および慰謝料の請求を認めた。
マタハラやパタハラが原因で訴訟に発展すれば、社名が公開され企業イメージに影響を与えかねません。自社で同じ過ちを犯さないためにも、社内で妊娠・出産・育休に関する意識啓発を行い、ハラスメントが起こらない環境をつくることが重要です。
1-5. マタハラ予防策のポイント5つ
厚生労働省は、職場におけるマタハラ・パタハラを防ぐため、事業主に対して下記措置を義務付けています。
【雇用管理上事業主が講ずべき措置】
・相談に適切に対応するための体制の整備
・マタハラ、パタハラへの迅速かつ適切な対応
・マタハラ、パタハラの要因を解消するための措置
・併せて講ずべき措置
事業主の方針の明確化とその周知、啓発
まず「マタハラ、パタハラを許さない」という事業主の方針を明確化し、「ハラスメントに当たる言動」「発生の原因」「発生後の処分」「妊娠・出産・育児で利用できる社内制度」などを全従業員に周知しましょう。
全ての従業員が確認できるよう、就業規則や服務規律、社内ホームページ、パンフレットなどに記載するのが有効です。併せて全従業員にハラスメント研修を実施し、問題意識を高めることも求められます。
相談に適切に対応するための体制の整備
マタハラ、パタハラ被害者が被害を打ち明けられるよう、社内に相談窓口を設けましょう。ハラスメント対策に詳しい弁護士や社会保険労務士などと契約して、外部の相談窓口を用意するのも手です。
迅速に対応できるよう、相談内容に応じたマニュアルの作成や、関係者が連携できるフォロー体制の構築も求められます。
なお、妊娠・出産・育児に関するハラスメントは他のハラスメントと複合的に起こることも少なくありません。相談者が利用しやすいよう、あらゆるハラスメントの相談窓口を1カ所に集約し、面談・電話・メールで相談できるようにするとよいでしょう。
マタハラ、パタハラへの迅速かつ適切な対応
マタハラ、パタハラ事案が発生したら、相談者、行為者のそれぞれから事実関係を確認しましょう。当事者の言い分や希望を真剣に聞き、双方の主張に食い違いがある場合は、第三者から事実関係を確認してください。
事実関係の確認が困難な場合は、男女雇用機会均等法第18条、育児・介護休業法第52条の5に基づいて、調停の申請を行ったり、その他中立な第三者機関に紛争処理を委ねたりすることもできます。
事実関係が確認できたら、社内規定に基づき行為者に対して必要な処分を行ってください。併せて、相談者と行為者が関係を改善できるようサポートし、引き離すための配置転換や行為者の謝罪などの措置も検討しましょう。
マタハラ、パタハラの要因を解消するための措置
従業員が産休・育休を取得することにより他の従業員の業務量が増大すると、不安が募りマタハラやパタハラに発展しかねません。
業務を引き継ぐときは量を調整し、特定の従業員に負担が偏らないようにしましょう。これを機に業務配分を見直したり、一人の従業員が複数の業務を行えるよう教育したりすることも効果的です。
また、妊娠した従業員に対して利用できる制度を周知し、体調に合わせて業務を遂行するために周囲とコミュニケーションを取るよう推奨することも重要です。人事担当者が妊娠した従業員に説明する他、社内報やパンフレットなどに記載しておくのもよいでしょう。
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併せて講ずべき措置
従業員が安心して利用できるよう、相談窓口の担当者にプライバシー研修を実施し、社内報、パンフレット、ホームページなどで周知しましょう。
従業員の中には、「相談すると不当な扱いを受けるかもしれない」「事実関係の確認に協力するのが怖い」と考える人が少なくありません。「相談窓口を利用しても解雇などの不当な扱いを受けないこと」を明確化し、全従業員に周知することが重要です。
2. 企業のマタハラ対策・防止策4選
マタハラは妊娠・出産・育児に関する理解が浅い従業員が、否定的な言動を繰り返すことで発生する可能性が高いです。ここでは、全従業員がマタハラに対して問題意識を持てるよう、企業側ができることを解説します。
- 社内アンケートを実施し、マタハラ行為者・被害者がいない確認する
- マタハラに対する相談窓口の設置
- 立場別にハラスメント研修を実施、マタハラを許さない社内風土をつくる
- 全従業員にマタハラについて周知・啓発する。
2-1. マタハラセルフチェックシート
一見問題がないようでも、見えないところでマタハラが発生しているケースは少なくありません。まずは、マタハラ行為者・被害者がいないか社内アンケートなどで調査しましょう。調査結果を基に、どのような教育プログラムを導入するか検討すると効果的です。
本稿では、従業員のマタハラへの意識調査に使えるマタハラセルフチェックシートをご用意しています。自社に合わせて加工もできますので、マタハラ対策にぜひご活用ください。
2-2. マタハラに対する相談窓口の設置
前述の通り、マタハラ事案を吸い上げられるよう社内に相談窓口を設けましょう。ハラスメント事案は異性より同性の方が相談しやすいため、窓口業務は男女それぞれが担当するのがおすすめです。
また、職位が違うと相談しにくい人もいるので、管理職・管理職以外など、窓口担当者を選べるようにするとよいでしょう。
さらに、「窓口担当者と従業員が交流する機会を増やす」「窓口担当者にマタハラ防止への取り組みについて全従業員向けに発表してもらう」などして、従業員に親しみを持ってもらうことも大切です。
2-3. 社内研修
前述の通り、ハラスメント研修を実施して全従業員のリテラシーを高め、マタハラを許さない社内風土をつくりましょう。
ハラスメント研修は全従業員に向けた一般的な研修、管理者向けの研修など、立場別に実施するのが効果的です。いずれもマタハラの基礎知識や予防方法、自社のルールなどを学ぶのは同じですが、管理者の場合は職場の責任者として適切な対応策を学ぶ必要があります。
研修は事例を基に解説するケーススタディ形式にするのがおすすめです。動画を交えて解説すれば、どのような言動がマタハラに該当するか従業員の理解が深まりやすいでしょう。併せて、「理解度をテストする」「グループディスカッションを実施する」など、参加型の研修になるよう意識しましょう。
2-4. eラーニングの活用
全従業員にマタハラについて周知・啓発するためには、eラーニングも効果的です。eラーニングは各従業員が都合に合わせて視聴できるため、従業員にとって負担になりにくい方法です。
また、従業員がどのくらい学習しているのか各自の進行を確認できるため、人事担当者や管理者にとってはピンポイントに学習を促せるメリットもあります。
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3. 最新!企業が取り組むマタハラ対策事例を紹介
マタハラを防止するためには、独自の取り組みで各種制度の活用を推進したり、育児中の働き方を提案したりすることも効果的です。ここでは、妊娠・出産・育児と仕事を両立するために、企業が実際に取り組んでいる対策についてご紹介します。
3-1. サービス・インフラ:日本航空株式会社(JAL)
JALでは、育児などで時間的制約がある従業員もフェアに働けるよう、誰もが活躍できる企業を目指しています。前述の通り、妊娠した乗務員は希望すれば産前地上勤務を選べる他、出産後は「深夜業免除措置」を利用して子育てと仕事を両立することもできます。
社内では育児で使える制度やロールモデルなどをイントラネットや座談会などで紹介し、男女双方に制度の活用を促しています。育児休業者座談会(ママカフェ)や育児中の男性従業員に向けた座談会(パパカフェ)などを実施し、育児中の男女を支援するのも取り組みの一つです。
また、JALでは女性管理職の登用を増やすために、子育て中の仕事を免除する「ケア施策」から、子育て中にも能力を伸ばす機会が与えられる「フェア施策」に転換しました。長時間労働の是正や在宅勤務の導入などで生産性を上げていく他、女性選抜研修など女性に焦点を当てた施策も実施しています。
2015年には「子女のみ帯同の転勤支援」を開始し、子育てしながらキャリアを積みたい女性を後押ししています。JALでは今後もライフイベントに合わせた働き方を推奨し、それぞれが自信を持って働けるよう支援していくようです。
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3-2. サービス・インフラ:東京地下鉄株式会社(東京メトロ)
東京メトロでは、「業務の見直しによる仕事の効率化」「ノー残業デイで定時退社を促進」など、従業員がライフスタイルに合わせて生き生き活躍できる環境づくりを目指しています。
仕事と家庭の両立支援のため、出産・育児に関する制度の手続きや流れなどを紹介した「育児ハンドブック」を作成・配布し、各種制度の活用を促すとともに従業員への啓発を行っています。
従業員への周知・啓発が進んでいることで、実際に復職した女性従業員からは「周囲の温かい気配りによって、安心して子育てと仕事を両立できた」と前向きな感想が挙がっています。
また、東京メトロでは育児中の従業員がワークライフバランスを取って働けるよう、複数の働き方を用意しています。1日の労働時間を減らしたり、フルタイムで宿泊勤務や日勤勤務に就きながら1週間の労働日数を減らしたりできるので、状況に合わせて無理なく働くことができます。
男性従業員も気兼ねなく育休を取得できるため、男女問わず育児と仕事の両立を目指せるでしょう。
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3-3. メーカー:一正蒲鉾株式会社
従業員の7割が女性という一正蒲鉾株式会社では、安心して妊娠・出産できるよう社内体制を整えています。
妊娠中は申請すれば平日でも妊婦検診を受けられるほか、有給を使用することもできます。また、横になって休める和室の休憩室を完備したり、1時間の時短勤務を導入したりしたことも取り組みの一つです。なお、休憩した時間分や短縮した時間分が給与から差し引かれることはありません。
また、1990年には新潟県の製造業で初めて事業所内保育所を設置し、先進的な取り組みとして注目を浴びました。従業員は保育所を無料で利用できる他、お楽しみ会などのイベント時は仕事を1~2時間抜けて有給で参加することもできます。
さらに、男性従業員の育児参加を支援するため、人事担当者から直接各部署のトップに育休の取得を働きかけています。これにより「男性従業員も育休を取得できる」という意識が生まれ、3人の取得につながりました。
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3-4. メーカー:コンビ株式会社
ベビー用品メーカーであるコンビ株式会社では、「赤ちゃんを育てることが楽しく幸せだと思える社会をつくる」という理念の下、子育てと仕事を両立できる環境の整備に努めてきました。
まず「お祝い・サポート制度」として第1子を出産した正社員に30万円、契約社員に15万円、第2子を出産した正社員に40万円、契約社員に20万円、第3子を出産した正社員に200万円、契約社員に100万円を支給しています。
2020年からは、子どもの通院などに合わせて出勤時間を調整できるよう「時間休制度」を開始しました。従業員の子どもが入園する保育園には1カ所につき5万円分の商品を提供し、妊産婦だけでなく地域の子育て施設に対してもサポートをしています。
また、男性従業員向けの育休制度「HELLO BABY HOLIDAY」では5日間の連続休業の取得を義務化し、取得率100%を16年間維持しています。
新入社員研修では「妊婦体験」「おむつ交換・お着替え体験」「調乳」「赤ちゃん人形を使ってのベビーカー体験」などを実施しているため、当事者目線で理解が深まり、子育てしやすい職場環境につながっているといえるでしょう。
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3-5. サービス:株式会社リクルート
株式会社リクルートでは、個人の多様性を尊重し、一人一人に力を発揮してもらえるよう育児と仕事の両立を支援しています。
2018年には保活相談専用窓口「保活のミカタ」を設置し、自治体ごとの情報を集約した「保活のコツBook」と、自治体ごとに自分で調整指数を計算できるようにした「調整指数計算表」を作成しました。これらにより、各自が適切な保活戦略を立てられるようになりました。
解決できない悩みに関しては相談窓口の担当者が対応し、相談者の居住地や勤務地、復職希望時期などをヒアリングして具体的な提案を行っています。開始からこれまで、150人以上の従業員が男女を問わず利用しています。
実際に利用した女性従業員からは、「誰よりも親身になってくれて、客観的なアドバイスをもらえた。保活激戦区だったが、結果的に0歳児クラスに入園できた」という感謝の声が挙がっています。
また、2022年10月からは男性従業員に「子どもの出生後8週間以内に原則として5日以上(4週間以上推奨)の育休を取得すること」を推奨し、取り組みの一つとして「男性育休アンバサダー」を発足しました。
育休を取得した男性従業員が育児と仕事の両立についてのノウハウを発信することで、男性が育児参加しやすい社内風土の醸成を進めています。
取り組みの結果、男性従業員の育休取得率は2018年度の約7%から2021年度には約16%まで増加、取得者の97%が「取得して良かった」と回答しています。ワーキングマザー比率も2006年の約8%から2022年4月には約29%まで増加しており、育児と仕事を両立している従業員が増えていることが分かります。
株式会社リクルートでは、育児と仕事の両立を阻むハードルを乗り越え、今後も誰もが希望通りに働ける環境づくりを目指しています。
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4. まとめ
マタハラとは、女性従業員が妊娠・出産・育児に関して職場の上司や同僚から嫌がらせや不利益な扱いを受けることを指します。
よくあるマタハラ例としては「産休を取るなら会社を辞めてほしいと上司に言われた」「忙しい時期に妊娠するなんて非常識だと同僚から繰り返し言われた」などが挙げられます。
マタハラは労働基準法違反、男女雇用機会均等法違反、育児・介護休業法違反に該当するため、放置していると被害者が裁判所を起こすケースも少なくありません。
例えば、2017年には妊娠した客室乗務員が「地上勤務への転換を認められず無給休職扱いとなったのはマタハラ」として、JALを訴えています。結果として和解が成立し、和解条項に「原則として希望者全員が産前地上勤務に就けること」が盛り込まれ、客室乗務員が妊娠と仕事を両立できるようになりました。
マタハラだけでなく、パタハラ(男性従業員が出産・育児に関して上司や同僚から阻害行為や嫌がらせを受けること)が原因で訴訟に発展するケースもあります。
2014年には3カ月の育休を取得した男性看護師が、「翌年度の昇給が行われなかったのはパタハラ」として勤務先の医療法人を提訴、給与の差額および慰謝料の請求が認められました。
このような事態を防ぐためにも、厚生労働省では事業主に対してハラスメントの防止措置を義務付けています。
職場におけるマタハラ・パタハラを防ぐためには、「ハラスメントを許さない」という事業主の方針を明確化し、「ハラスメントに当たる言動」「発生の原因」「発生後の処分」「妊娠・出産・育児で利用できる社内制度」などを全従業員に周知・啓発することが大切です。
マタハラが発生したときにすぐに対応できるよう、相談窓口の設置も求められます。誰もが安心して利用できるよう、「相談しても解雇などの不当な取り扱いを受けないこと」を全従業員に周知しておくことが重要です。
相談内容に応じてマニュアルを作成し、相談者、行為者それぞれから事実関係を確認してください。
従業員が育休を取得する際は、特定の従業員の負担が増加しないよう「引き継ぐ仕事の量を調整する」「業務配分を見直す」ことも重要です。併せて、妊娠した従業員に対しては利用できる制度を周知し、体調に合わせて業務を遂行できるよう周囲と円滑なコミュニケーションを取ることを推奨しましょう。
企業ができるマタハラ防止策としては、「マタハラセルフチェックシートで社内調査する」「担当者の性別や職位が選べる相談窓口を設置する」「ハラスメント研修を行う」「eラーニングを活用する」なども効果的です。
企業によっては独自の取り組みで妊娠・出産・育児に関する従業員の理解を深め、各種制度の活用を推進しているところもあります。
例えば、前述のJALでは、「出産後の深夜業免除措置」「育児休業者座談会」「育児中の男性従業員に向けた座談会」などを実施し、育児中の男女を支援しています。
子育て中の女性のキャリアを後押しするためにも、仕事を免除する「ケア施策」から、能力を伸ばす機会が与えられる「フェア施策」に転換したのも取り組みの一つです。
次に東京メトロでは、それぞれの育児の状況に合わせて働けるよう「1日の労働時間を減らす」「フルタイムで1週間の労働日数を減らす」など複数の働き方を用意しています。「育児ハンドブック」を作成・配布し、妊娠・出産・育児に関する社内理解が深いことから、男性従業員も気兼ねなく育休を取得できる環境です。
従業員の7割が女性の一正蒲鉾株式会社では、1990年に新潟県の製造業で初めて事業所内保育所を設置し、女性従業員が安心して妊娠・出産できる職場環境を整えてきました。妊娠中も「申請すれば平日でも妊婦検診を受けられる」「1時間の時短勤務が可能」など、柔軟に働けるようサポートをしています。
ベビー用品メーカーのコンビ株式会社では、第1子を出産した正社員に30万円、契約社員に15万円支給といった「お祝い・サポート制度」を導入した他、都合に合わせて出勤時間を調整できる「時間休制度」も取り入れています。
男性従業員向けの育休制度「HELLO BABY HOLIDAY」では5日間の連続休業の取得を義務化し、取得率100%を16年間維持しています。
最後に、株式会社リクルートでは保活相談専用窓口「保活のミカタ」を設置し、データベースを基に各自が適切に保活戦略を立てられるよう情報を提供しています。解決できない悩みに関しては、相談窓口の担当者がヒアリングし、各自治体に合わせた具体的な提案をすることも可能です。
男性従業員向けには「男性育休アンバサダー」を発足し、育休取得者が育児と仕事の両立についてのノウハウを発信することで、男性従業員も育休制度を利用しやすい環境を醸成しています。
取り組みの内容は企業によってさまざまですが、いずれにせよライフイベントに合わせて柔軟に働けることが、従業員の離職を防ぎ、仕事へのモチベーションアップにつながるといえるでしょう。
妊娠・出産・育児と仕事を両立する従業員が長期的なキャリアプランを描けるよう、マタハラ・パタハラ防止に向けて今一度社内制度や運用方法を見直してみてはいかがでしょうか。
[1] 内閣府男女共同参画局「「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について」,2018年11月公表,p1,p9,https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_45/pdf/s1.pdf(閲覧日:2022年10月2日)
[2] 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告」,2021 年3月公表,p16-p17,https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/000775799.pdf(閲覧日:2022年10月11日)
参考)
厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシャルハラスメント対策は事業主の義務です!!」,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000137179.pdf(閲覧日:2022年9月29日)
東京法律事務所「JALマタハラ訴訟、勝利和解成立(今野久子弁護士、長谷川悠美弁護士)」,https://www.tokyolaw.gr.jp/news/2017/tp_195.html(閲覧日:2022年10月2日)
JAPAN AIRLINE「WELFARE/DIVERSITY」,https://www.job-jal.com/workstyle/welfare/(閲覧日:2022年10月2日)
広島県「【事件名】医療法人稲門会事件(大阪高裁平成 26.7.18 判決)~法人の育児休業関係規定に基づいて,3か月の育児休業をとった男性看護師の翌年度の昇給が行われなかったことが違法とされた事例~」,https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/348468.pdf(閲覧日:2022年10月2日)
徳永・松崎・斉藤法律事務所「男性看護師の育休取得を理由とする職能給不昇給等の適法性
(大阪高裁平成26年7月18日判決 医療法人稲門会(いわくら病院事件)」,2015年8月3日,http://tms-law.jp/report/labor/20150803-81.html(閲覧日:2022年10月2日)
ここから変える。「【社労士監修】ハラスメント相談窓口の設置【中小企業向けパワハラ防止法対策】」,2021年4月14日,https://www.aig.co.jp/kokokarakaeru/management/reparation-risk/harassment10(閲覧日:2022年9月29日)
咲良美登理事務所「【社労士が教える】ハラスメント相談窓口を社内に設置する際の3つのポイント」,2021年11月11日,https://sakura-midori.jp/blog/harassment/%E3%80%90%E7%A4%BE%E5%8A%B4%E5%A3%AB%E3%81%8C%E6%95%99%E3%81%88%E3%82%8B%E3%80%91%E3%83%8F%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E7%9B%B8%E8%AB%87%E7%AA%93%E5%8F%A3%E3%82%92%E7%A4%BE%E5%86%85(閲覧日:2022年10月2日)
ここから変える。「【社労士監修】ハラスメント研修を始めよう!中小企業向けパワハラ防止法対策」,2021年4月14日,https://www.aig.co.jp/kokokarakaeru/management/reparation-risk/harassment11(閲覧日:2022年10月2日)