「わが社のハラスメント対策を、LGBTQを含む皆が安心できるものにしたい」
日本では、2023年11月14日現在、300超の自治体でパートナーシップ制度(自治体が同性同士のカップルに対して婚姻に相当する関係を認める制度)が施行されています[1]。
2022年11月に東京都で運用が開始された[2]時点で、日本の全人口のうち6割が制度を利用できるようになりました[3]。
一部の企業においても、同性パートナーを持つ人にも慶弔休暇や育児休業、住宅手当等の福利厚生を適用する動きが見られます。
人々や企業が性の多様性への関心を高め、理解が進む一方で、問題になっているのがSOGIハラスメント(以下SOGIハラ)です。SOGIハラは、パワハラ防止法においてパワハラに該当するとされており、2022年4月からすべての企業に対策が義務付けられています。
SOGIとは「性的指向」と「性自認」を表す言葉で、LGBTQもストレート(異性愛者・シスジェンダー)も関係なく、すべての人に関わる概念です。SOGIハラはこれらに関連する嫌がらせのことで、職場のSOGIハラに悩む人も少なくありません。
2021年に全日本自治団体労働組合が実施した「働きやすさと職場の多様性に関するアンケート調査」[4]によると、仕事(飲み会を含む)でSOGIハラを受けたことがある人の割合は、LGBTQ+以外 で0.8%、LGBTQ+では 約10倍の7.9%という実態が明らかになりました。
ただし、SOGIハラを受けた実人数では非LGBTQ+がLGBTQ+を上回っていることから、性的マイノリティかどうかを問わず、SOGIハラ対策が必要であるとされています。
本稿ではSOGIとLGBTQの違い、職場におけるSOGIハラの具体例、SOGIハラ対策をしないデメリット、企業ができるSOGIハラ対策、企業事例について解説します。ぜひ貴社のSOGIハラ対策にお役立てください。
\後で読み返しできるハラスメントの解説資料はこちら(無料)/
目次
1.SOGIハラスメントの概要
SOGIハラスメントについて学ぶ前に、まずはSOGIやLGBTQとは何か、基本事項を整理しておきましょう。
1-1.そもそもSOGIとは?
SOGIとは、以下の2つの意味からなる言葉です。
【SO:Sexual Orientation(性的指向)】
性的指向とは、自身の恋愛や性愛がどの性別に向くかということです。その対象は異性であったり同性であったり、またいずれにも当てはまらなかったりと、個人によってさまざまです。
【GI:Gender Identity(性自認)】
性自認とは、自身の性別の認識のことです。自身が男性か女性か、はっきりと自覚できる人もいれば、身体的な性別と性自認が異なり違和感を持つ人、自身の性別をはっきりと決められない人もいます。
それぞれの頭文字を取ってSOGI(ソジ、あるいはソギ)と言い、同性愛者や異性愛者、どちらでもない人など、すべての人が持つセクシュアリティの属性を表します。
1-2. SOGIとLGBTQとの違い
SOGIと似た言葉にLGBTQがあります。
Qを含まない「LGBT」や、LGBTQ以外のさまざまなセクシュアリティも含む「LGBTQ+」という言い方もありますが、本稿では「LGBTQ」を使用します。
LGBTQとは、以下のそれぞれ言葉の頭文字からなります。
L:Lesbian (レズビアン):女性同性愛者
G:Gay(ゲイ):男性同性愛者
B:Bisexual(バイセクシュアル):両性愛者
T:Transgender(トランスジェンダー):性自認と生物学的性別が一致しない
Q:Queer/Questioning(クィア/クエスチョニング):性的指向や性自認を決めていない・わからないなど
LGBTQは、このような性的マイノリティを指す言葉です。該当しない人は「自分には関係ない」と感じる人も少なくありません。
一方でSOGIは、すべての人が持つセクシュアリティの属性を表します。例えば、自身が男性で女性を好きになる異性愛者も、自身が女性で女性を好きになるレズビアンも、さまざまなセクシュアリティのうちの一つであると考えます。
そのためSOGIに関する課題は、誰もが自分事として捉える必要があります。
健全なコミュニケーションのある職場環境づくりのためのeラーニング研修⇒詳しく見る
1-3. SOGIハラスメントとは?
SOGIハラスメント(SOGIハラ)とは、職場における性的指向および性自認に関わる差別や嫌がらせのことです。
例えば、ホモ・レズなどの差別的な呼称や嘲笑、望まない性別で働くことの強要、無視や暴力、アウティング(他人の性的指向や性自認に関する情報を許可なく第三者に暴露すること)がこれに当たります。
性的指向・性自認に関する差別や嫌がらせは、性的マイノリティでない多数派であっても被害者になることがあります。そのため、LGBTQハラスメントではなく、すべての人の性のあり方を表すSOGIを用いて、SOGI ハラスメントと呼ばれています。
「悪気はなかった」、「少しからかっただけ」でも被害者が傷ついたり、不快な思いをしたりすればハラスメントとなります。これはSOGIハラだけでなく、すべてのハラスメントに共通します。
性的指向や性自認に関する差別や嫌がらせは、厚生労働省のパワハラ防止指針[5]においてパワハラに該当するとされています。
2022年4月から、パワハラはすべての企業に対策が義務付けられているため、SOGIハラ対策も必ず行わなければなりません。
どのような行為がSOGIハラに該当するのか、具体例は3章で詳しく解説します。
SOGIハラスメントの対策についてのeラーニング研修⇒詳しく見る
人事に関する注目トピックを毎週お届け!⇒メルマガ登録する
2.SOGIハラスメントが注目される背景
SOGIという言葉は、全ての人が持つセクシュアリティの属性を表し「みんな違って当たり前」という意味合いを持ちます。
そのため、国際社会においては人権配慮の観点から、LGBTQではなくSOGIを使用することがスタンダードになりつつあります。
また、近年、メディアではSOGIハラやアウティング(他人の性的指向や性自認に関する情報を許可なく第三者に暴露すること)に関する訴訟が報道され、世間の関心を集めています。
報道の機会が増えた要因として、2020年6月から大企業、2022年4月からは全企業にパワハラ対策が義務付けられたことが挙げられます。
企業が行うべきパワハラ対策の具体的な内容が示されているパワハラ防止指針には、SOGIハラやアウティングに関する項目も明記されています。つまり、企業にとってSOGIハラ対策も義務とされました。
これまでも職場には性的指向や性自認に関する嫌がらせは存在していましたが、性の問題をタブー視する傾向から、なかなか表に出にくい面がありました。
しかしこのような社会の動向からSOGIやハラスメントへの意識が高まり、SOGIハラが注目されるようになったと考えられます。
3.職場におけるSOGIハラスメントの具体例
ここからは、SOGIハラについて更に詳しく見ていきましょう。
LGBT法連合会などが主催する「なくそう!SOGIハラ実行委員会」[6]は、次の5つがSOGIハラであるとしています。
3-1. 差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
「レズって普通じゃないよね」、「ゲイなんて気持ち悪い」、「オトコ女」など、差別的な言動や呼称、嘲笑で相手を傷つけるのはSOGIハラです。本人に直接言うのはもちろん、うわさ話や陰口も同様です。
侮辱する意図なしにホモ、レズ、ゲイなどの言葉を使用する人もいますが、これらは性的マイノリティの蔑称であり、使用するべきではありません。
3-2. いじめ・無視・暴力
性的指向や性自認を理由としたいじめ、無視、暴力はSOGIハラです。
具体的には「レズは仲間外れにしよう」、「自分もゲイだと思われたら嫌だから無視しよう」といった状況が考えられます。
3-3. 望まない性別での生活の強要
「女性だから制服はスカートが当たり前」、「生物学的に男性なのだから男子トイレの使用しか認めない」など、本人が望まない性別での就業はSOGIハラです。
2023年7月には、経済産業省で働くトランスジェンダーの職員が、女性用トイレの使用を制限されるのは不当だとして国を訴えた裁判で、この制限を認めた国の対応は違法だとする最高裁判所の判決が出されています[7]。
このように心と身体の性別が一致しないトランスジェンダーの従業員に対する配慮に欠ける場合、SOGIハラとなる可能性があります。
3-4. 不当な異動や解雇、不当な入学拒否や転校強制
「化粧をするような男は接客のない部署に異動だ」、「女なのに女子トイレを使用できないなら解雇だ」など不当な理由での異動や解雇はSOGIハラとなります。
例えば、性同一性障害の従業員に対する不当な懲戒解雇が無効となった、以下の事例[8]があります。
性同一性障害である従業員Aさんが、配置転換を受け入れる条件として、女性の服装での勤務や女性用トイレ・更衣室の使用を企業側に申し出ました。
しかし、企業側はその申し出を認めずに配置転換を命じました。その後、Aさんは女性の服装で、化粧をして配置転換先に出勤しましたが、企業側は女装や化粧を禁止する業務命令を出し、それに従わなかったこと等を理由にAさんを懲戒解雇しました。
Aさんはこれを不服として、懲戒解雇を無効とする仮処分を求めました。裁判所は、Aさんの女装によって企業秩序や業務遂行に著しい支障は認められず、懲戒解雇は権利の濫用に当たり、無効であると判断しました。
3-5. 誰かのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)
アウティングとは、「〇〇さんってレズだって知ってる?」などと、誰かの性的指向や性自認について、本人の許可なく第三者に知らせることです。
性的マイノリティの当事者が、自分の意思で性的指向や性自認を誰かに伝えること(カミングアウト)は、するのもしないのも当事者の自由です。
対してアウティングは、当事者の意に反して第三者に知られてしまうことが問題視されており、パワハラ防止法において企業に防止対策が義務付けられています。
アウティングによって従業員が心身に不調をきたすと、労災が認められるケースもあります。実際に、以下のような事例[9]がありました。
20代の同性愛者である男性従業員Bさんは、緊急連絡先の登録のため、必要のある正社員に限って知らせることなどを条件として、同居の同性パートナーがいることを企業側に伝えました。
しかし約1か月後、上司がパート従業員の一人にBさんの性的指向を伝えていた、つまりアウティングをしていたことが発覚しました。Bさんは精神疾患を発症し、退職を余儀なくされました。
Bさんは池袋労働基準監督署に労災を申請しました。同署は、Bさんの精神疾患はアウティングによるものと認め、アウティングはパワハラに該当するとして、労災と認定しました。
2023年7月に大きく報道されたこの事例は、アウティングによる初の労災認定と言われています。なお、労災認定される前の2020年に、企業側が男性に謝罪した上で解決金を支払い和解が成立しています[10]。
4.SOGIハラスメント対策をしないデメリット
ここからは、企業がSOGIハラ対策をしない事による主なデメリットを確認していきましょう。
4-1. 法律違反のリスクがある
SOGIハラ対策をしなければ、労働施策総合推進法[11](通称:パワハラ防止法 )違反となる可能性があります。
2022年4月1日から、パワハラ防止法によって、すべての企業にパワハラ対策が義務付けられました。パワハラ防止法では、アウティングを含むSOGIハラもパワハラに該当するとされているため、SOGIハラ対策も企業の義務なのです。
また、労働契約法には「安全配慮義務」が規定されています[12]。つまり、従業員が健康や安全を害されず安心して働けるよう、企業は必要な措置を取らなければならないということです。
健康・安全確保のために必要な措置を取らず、従業員がけがをしたり精神疾患を発症したりすれば企業が責任を問われる場合があります。
労働者の権利を守る「労働法」のeラーニング研修⇒詳しく見る
4-2. 従業員のパフォーマンスが低下する
ハラスメント対策が不十分な企業では、当事者のみならず周囲の従業員のパフォーマンスが低下する可能性があります。
実際に、パーソル総合研究所の調査[13]では、ハラスメント経験者の約7割が、被害当時、普段よりパフォーマンスが低かったと回答しています。普段よりパフォーマンスが低かったと回答した人はハラスメント経験者が一番多く、続いて目撃者、未経験者の順となっています。
4-3. 人材が流出する
SOGIハラ対応が不十分な場合、被害者や周囲の従業員が休職や退職に追い込まれたり、転職を考えたりする可能性があります。
3-5.でご紹介した事例では、実際に被害者は精神疾患を発症し、退職を余儀なくされています。
前出のパーソル総合研究所の調査でも、ハラスメント被害者の幸福度や継続就業意向は未経験者より低いという結果が出ています。エンゲージメントやモチベーション低下による離職の恐れが強いと言えるでしょう。
それを証するように、連合の調査[14]では、ハラスメントの被害者のうち22.5%が、「仕事をやめた・変えた」と回答しています。
4-4. 企業のイメージダウン
SOGIハラ対策が不十分だと、「会社はハラスメントを解決しようとしていない」と社内外に噂が広がったり、従業員が訴訟を起こす場合があったりするため、企業のイメージダウンは避けられません。
企業イメージの悪化は業績へ悪影響を与えるだけではありません。人的資本経営が注目される現在、人を大切にしない企業に対する投資家からの評価は厳しいものになるでしょう。
また、就活生や転職を考えている人が口コミサイトやSNSでSOGIハラ被害の情報を得ることも考えられます。ハラスメントが横行する企業の志望度が高まるとは考えにくく、採用活動も難しくなるでしょう。
4-5. 労災認定される場合がある
SOGIハラは、労災認定される場合があります。
3-5.でご紹介したアウティングの事例のほかにも、トランスジェンダーの従業員が上司に戸籍上の性別を追及されたり、性別に関する暴言を吐かれたりしてうつ病を発症し、休職へと追い込まれた事例が労災認定されています[15]。
労災が発生すると、企業イメージのダウンや、対応に要する人手・時間の損失等のデメリットを受けることになります。
5.企業ができるSOGIハラスメント対策
SOGIハラが発生すると、企業は大きなダメージを受けてしまいます。ここではSOGIハラを防ぐための主な対策を見ていきましょう。
5-1. ALLY(アライ:支援・理解)を示す
ALLY(アライ)とは支援や理解を示す言葉で、LGBTQの人たちに寄り添い支援する意思のある人を指します。
アライであることを表明するには、LGBTQの象徴であるレインボーカラーのバッジやシールを身に着ける方法がありますが、表立って行動しなくても構いません。
例えば、職場のデスクに虹色の小物を置くなど、さりげなくアライを示すこともできます。
また、自分がLGBTQである場合には、ストレート(異性愛者・シスジェンダー)の人たちを尊重する気持ちも大切です。
5-2. 企業研修を行う
SOGIハラは性的マイノリティだけでなく、すべての人の性的指向・性自認に関わるため、全従業員の研修受講が望ましいです。
研修の方法としては、専門講師を招く、当事者に講師をしてもらう、外部研修に参加するといったものがあります。
全従業員向け、人事担当者向け、部下からハラスメント相談を受ける管理職者向けなど階層に分けて研修を行うとより効果的です。
多忙な従業員が効率良くSOGIハラについて理解を深めるには、eラーニングも有効です。研修前の事前知識の習得、研修後の知識の定着、ブレンディッドラーニングなどで活用できます。
SOGIハラスメントの対策のeラーニング研修⇒詳しく見る
ダイバーシティ&インクルージョン対策のeラーニング研修⇒詳しく見る
関連記事:ブレンディッド・ラーニングとは 研修とeラーニングのうまい組合せ方
関連記事:ハラスメント研修をeラーニングで実施する場合の費用や学習内容などを解説!
5-3. 就業規則を整備する
SOGIハラに対応する就業規則の整備も効果が見込めます。
就業規則にSOGIハラの禁止を盛り込むことで、自社のSOGIハラ対策の姿勢や取り組みを従業員に示せます。
また、就業規則にSOGIハラ禁止の記載があれば、加害者を懲戒処分する際の根拠となります。むしろ記載がないと、SOGIハラが起きた場合に加害者の処遇などでトラブルになりかねません。
厚生労働省が公表しているモデル就業規則でもSOGIハラの禁止を定めているので、参考にするとよいでしょう。
(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第15条 第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
(引用:厚生労働省「モデル就業規則」, https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf(閲覧日:2023年10月28日))
厚生労働省はこの条文について、「性的指向や性自認への理解を深め、差別的な言動やハラスメントが起きないようにすることが重要」と解説しています。
5-4. SOGIハラスメント相談窓口を設置する
パワハラ防止法は、企業にパワハラ相談窓口の設置を義務付けています。同法ではSOGIハラもパワハラに含まれるとされているため、パワハラ相談窓口ではSOGIハラの相談にも対応できるようにする必要があります。
社内外で複数の相談窓口を設置すれば、SOGIハラの被害者や目撃者が気軽に相談できます。窓口が設置されているという事実だけでも、従業員に安心感を与えます。
また、SOGIハラに関する相談は、従業員の性にまつわる非常にデリケートな情報です。窓口担当者の選任や情報の取扱いは慎重に行いましょう。
5-5. 従業員とコミュニケーションを取る
従業員がSOGIに関するモヤモヤを気軽に相談できるようにするには、人事担当者や管理職、上司などから積極的にコミュニケーションを取り、信頼関係を構築することが重要です。
例えば、人事面談や1on1を定期的に行い、従業員が「業務や人間関係の悩みを上司に相談すれば一緒に解決してくれる」という経験を重ねていれば、いざという時にも相談しやすいものです。
従業員の様子からSOGIハラの兆候をつかみ、被害や加害を未然に防ぐこともできるでしょう。
6.SOGIハラスメント対策を実施している企業事例
最後に、SOGIハラ対策をしている企業を3つご紹介します。
6-1. 日本郵船株式会社
大手海運会社の日本郵船株式会社は、人権への取り組みの中でLGBT/SOGIの施策を推進しています。
新入社員向けのダイバーシティ&インクルージョン研修では、LGBT/SOGIの基礎知識の習得、当事者体験談やグループワークを通して互いの価値観を共有し、新たな気付きを得ています。多様性と受容の重要性を改めて認識するための貴重な機会です。
また、同社と国内グループ会社で働く従業員を対象にしたLGBT/SOGIに関する無記名の意識調査を行っています。調査項目は、LGBT/SOGIの理解度の確認、「就業環境での問題や懸念事項」、「具体的な研修実施や勉強の機会の要望」などです。
この他にも、以下のような施策が行われています。
- 外部講師による人事担当役員や人事関係者向けのLGBT研修
- グループ会社を含む全従業員へのeラーニングによる啓発活動
- LGBT相談窓口の設置
- LGBT有識者を招いての講演会
- (株)JobRainbow主催の「レインボーコミュニケーションバッジ(RCB)プロジェクト」に賛同
6-2. 三井化学グループ
三井化学グループでは、法令順守教育として、セクハラ、パワハラに加え、性的指向による差別や嫌がらせの禁止を盛り込んだ「ハラスメント」講座を毎年実施しており、全従業員がeラーニングで受講しています。
また、法令順守のさまざまなテーマについて職場で議論をする「職場ディスカッション」において、選択テーマの中にSOGIハラを盛り込んでいます。
新任のライン長向けのダイバーシティセミナーでは、グループワークを通して、SOGIハラや、部下から相談を受けた際の対処について学んでいます。
その他、LGBTQのアライ宣言を行い、LGBTQ専用相談窓口を設置しているほか、同性パートナーへも各種休暇や育児・介護休業、社宅貸与といった福利厚生を適用しています。
6-3. 日の丸交通株式会社
タクシー会社の日の丸交通株式会社が性的マイノリティに関する取り組みで一番重要視しているのは、カミングアウトのあった従業員の情報共有方法のルール化です。
新たに入社してきた当事者については、人事担当者や配属先の管理職、研修担当者が情報共有に関する定例会議を行っています。情報共有のルールは秘密保持の文書等として明文化はされていませんが、担当者間で共有されています。
ハラスメント対策として、採用時にはハラスメントをしないという誓約をしてもらっており、そのハラスメントの中に、性的指向・性自認に関するハラスメントも含まれることを明記しています。
就業規則には性的指向、性自認に関する差別禁止が明記されているほか、ハラスメント窓口とは別に、性的指向・性自認に関する相談窓口を新設しています。相談窓口の電話番号は担当者への直通番号で、女性に話を聞いてもらいたいという要望に備えて、男性と女性の3人体制で対応しています。
7.まとめ
SOGIとは、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の、それぞれの頭文字を取った言葉です。
SOGIと似た言葉でLGBTQがありますが、LGBTQは性的マイノリティを示します。
SOGIは同性愛者や異性愛者、どちらでもない人など、すべての人が持つセクシュアリティの属性を表すため、誰もが自分事として考える必要があるのです。
SOGIハラスメントとは、職場における性的指向および性自認に関わる嫌がらせを意味します。ホモ・レズといった差別的な呼称や、望まない性別で働くことの強要、無視や暴力、アウティングがこれに当たります。
近年、メディアではSOGIハラやアウティングについて報道されるようになり、世間の関心を集めています。その要因として、2020年6月から大企業、2022年4月からは全企業にパワハラ対策が義務付けられたことが挙げられます。
企業が行うべきパワハラ対策の具体的な内容が示されているパワハラ防止指針には、SOGIハラやアウティングに関する項目も明記されています。つまり、企業はSOGIハラ対策も行う義務があるのです。
このような社会の動向から、タブー視されがちだった職場の性の問題への意識が高まり、SOGIハラが注目されるようになったと考えられます。
LGBT法連合会などが主催する「なくそう!SOGIハラ実行委員会」 は、次の5つがSOGIハラであるとしています。
- 差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
- いじめ・無視・暴力
- 望まない性別での生活の強要
- 不当な異動や解雇、不当な入学拒否や転校強制
- 誰かのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)
SOGIハラスメント対策をしないデメリットとして、以下の5つが挙げられます。
- 法律違反のリスクがある
- 従業員のパフォーマンスが低下する
- 人材が流出する
- 企業のイメージダウン
- 労災認定される場合がある
SOGIハラスメント対策を実施している企業事例を3つご紹介しました。
- 日本郵船株式会社
- 三井化学グループ
- 日の丸交通株式会社
性的指向や性自認にかかわらず、すべての従業員に安心して働いてもらうため、改めてSOGIハラ対策について考えてみてはいかがでしょうか。
SOGI ハラとは何の略ですか?
SOGIとは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)からなる略語です。性的指向は自身の恋愛や性愛がどの性別に向くかを示し、性自認は自身の性別の認識を示します。これらに関わるハラスメント(嫌がらせ)をSOGIハラといいます。
SOGIとLGBTQの違いは何ですか?
LGBTQはレズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア・クエスチョニングなどの性的マイノリティを指す言葉です。一方でSOGIは性的マイノリティのみならず、全ての人の性的指向・性自認を意味します。
SOGIハラスメントは例えば何がありますか?
- 差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
- いじめ・無視・暴力
- 望まない性別での生活の強要
- 不当な異動や解雇、不当な入学拒否や転校強制
- 誰かのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)
[1]公益社団法人MarriageForAllJapan「日本のパートナーシップ制度」, https://www.marriageforall.jp/marriage-equality/japan/ (閲覧日:2023年11月14日)
[2] 東京都「東京都パートナーシップ宣誓制度」, https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/sesaku/sonchou/partnership.html (閲覧日:2023年11月14日)
[3] 松岡宗嗣「企業の「福利厚生制度」に影響か。東京都パートナーシップ制度の知られざる効果」,『Yahoo!ニュース』, https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0ffae36ed17febabbb9966b7dabe4fd713f59eac (閲覧日:2023年11月14日)
[4] 全日本自治団体労働組合「LGBTQ+/SOGIE自治体政策」,https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/sagyouiinnkai/38-lgbtq/LGBTQ-SOGIE_jichitaitaisaku-color2203.pdf(閲覧日:2023年10月30日)
[5] 厚生労働省「厚生労働省告示第五号」,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf(閲覧日:2023年11月18日)
[6] 「なくそう!SOGIハラ」実行委員会「なくそう!SOGIハラ LGBTをはじめとするセクシュアル・マイノリティの人たちが苦しんでいる『SOGIハラ』って何だろう?」,http://sogihara.com/(閲覧日:2023年10月15日)
[7] 裁判所「最高裁判所判例集 事件番号 令和3(行ヒ)285」, https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92191 (閲覧日:2023年11月24日)
[8] 全基連「全情報 性同一性障害者解雇事件」, https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07979.html (閲覧日:2023年11月24日)
[9] NHK「同意なき性的指向暴露“アウティング”巡り 労災認定 全国初か」, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230724/k10014140411000.html (閲覧日:2023年11月24日)
[10] 東京新聞「アウティング被害、異例の和解 企業側が謝罪、男性に解決金「なくすきっかけになれば」」, https://www.tokyo-np.co.jp/article/71269 (閲覧日:2023年11月24日)
[11]e-GOV「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」, https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=341AC0000000132(閲覧日:2023年11 月18日)
[12] e-GOV「労働契約法」, https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128_20200401_430AC0000000071 (閲覧日:2023年11月24日)
[13] パーソル総合研究所「職場のハラスメントについての定量調査」, https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/harassment.pdf (閲覧日:2023年10月11日)
[14] 連合「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」, https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20210625.pdf?24 (閲覧日:2023年10月11日)
[15] PRIDE JAPAN「上司からミスジェンダリングなどの侮辱を受けたトランス女性社員がうつ病を発症し、SOGIハラとして労災認定を受けました」, https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2022/11/8.html?searched (閲覧日:2023年11月24日)
参考)
全日本自治団体労働組合「LGBTQ+/SOGIE自治体政策」,https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/sagyouiinnkai/38-lgbtq/LGBTQ-SOGIE_jichitaitaisaku-color2203.pdf(閲覧日:2023年10月30日)
人権NOW「SOGIハラスメントを知っていますか?」,https://www.city.shiso.lg.jp/material/files/group/40/SOGI13-14.pdf(閲覧日:2023年10月30日)
東洋経済オンライン「職場での「SOGIハラ」「アウティング」に要注意 プライバシー権侵害で違法となる可能性もある」,https://toyokeizai.net/articles/-/635995(閲覧日:2023年10月30日)
帯刀康一「パワハラ防止法・パワハラ防止指針を踏まえた「職場の SOGI ハラ」「アウティング」防止に関する措置義務の留意点」,https://www.law-pro.jp/wp-content/uploads/2021/01/news20200901.pdf(閲覧日:2023年10月30日)
Humap「SOGIハラとは?読み方や職場での事例を解説」,https://humap.asmarq.co.jp/column/sogihara_workplace/(閲覧日:2023年10月30日)
jinjerBLOG「労働契約法5条による「労働者の安全への配慮」の意味や注意点」,https://hcm-jinjer.com/blog/jinji/labor-contract-law_article-5/(閲覧日:2023年10月30日)
NHK首都圏 NEWS WEB「トランスジェンダーの社員に上司が「SOGIハラ」で労災認定」,https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20221110/1000086645.html(閲覧日:2023年10月30日)
厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」, https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf(閲覧日:2023年10月30日)
日本郵船「人権への取り組み」https://www.nyk.com/esg/social/activities/,(閲覧日:2023年10月30日)
三井化学グループ「人材マネジメント」,https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/society/employee/diversity/index.htm(閲覧日:2023年10月30日)
厚生労働省「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」,https://www.mhlw.go.jp/content/000630004.pdf(閲覧日:2023年10月30日)
自分らしく生きる「LGBTQとは?Qの意味は?誰にでもわかりやすく1から簡単に解説。」,https://jibun-rashiku.jp/column/column-3215(閲覧日:2023年10月30日)
JobRainbowMAGAZINE「LGBTQ+のQとは?【実はよく知らないクエスチョニング・クィア】」,https://jobrainbow.jp/magazine/queerandquestioning(閲覧日:2023年10月30日)
時事通信ニュース「「アウティング」で労災認定=職場で性的指向暴露、精神疾患に―東京」,https://sp.m.jiji.com/article/show/3002549(閲覧日:2023年11月19日)
厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001019259.pdf(閲覧日:2023年11月19日)
JobRainbowMAGAZINE「SOGIハラ・SOGIとは?【読み方から事例、対策まで】」,https://jobrainbow.jp/magazine/sogiharassment(閲覧日:2023年11月19日)
Chatwork「【社労士監修】SOGIハラとは?事例付きで対策方法を解説」,https://go.chatwork.com/ja/column/efficient/efficient-564.html#efficient-564_3(閲覧日:2023年11月19日)