「5人に1人はリモハラを受けた経験がある。」
これは、東京大学医学系研究科がコロナ禍において在宅勤務を経験した441人を対象に、リモハラの経験を調査した結果[1]です。リモハラとは、リモートハラスメントの略で、リモートワーク中に起こるハラスメントのことです。
内容別に見ると、441人のうち、「業務時間外にメールや電話等への対応を要求された」のは21.1 %、「就業時間中に上司から過度な監視を受けた(常にパソコンの前にいるかチェックされる、頻回に進捗報告を求める等)」は13.8%でした。
現状、特に問題が顕在化していない企業もあるでしょう。しかし、テレワークの増加とともに、この数字は今後増えていく可能性があります。
かつては存在しなかったセクハラやパワハラという概念が社会に広く普及し、定着したように、リモハラも新しいハラスメントの概念として社会に広まれば、被害を自覚する人が増えるからです。当然、企業としては、対策が必須になります。
テレワークは、コロナ禍が収束した後も、ワークライフバランスや地方・海外人材の活用などの観点から、働き方の選択肢の一つとして継続されます。企業は、環境整備の一環として、また、ハラスメント対策の強化策として、リモハラ対策をしっかりしておくべきでしょう。
本稿では、リモハラとは何か、リモハラの事例、原因と対策、リモハラが起こってしまった場合の対応などを解説します。ぜひリモハラ対策の参考としてください。
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目次
1. リモハラとは?コロナ禍のテレワークで注目される問題
前述の通り、リモハラとは、リモートハラスメントの略で、リモートワーク中に起こるハラスメントのことです。テレワークハラスメント=テレハラともいわれています。リモハラは、コロナ禍でテレワークが急速に広まると同時に注目されるようになりました。
リモハラの内容は、おおよそセクハラとパワハラに分類されます。セクハラ・パワハラ対策については企業の義務とされており[2]、世間の関心も高くなっています。普段から加害者にならないよう気を付けている人も多いでしょう。
しかし、テレワークの場合、仕事場は他人の目があるオフィスから、自宅というプライベートな空間に変わります。すると、ハラスメントに対する意識が薄れたり、相手との距離感を見誤ったりして、普段はしないようなセクハラやパワハラ行為を無意識にしてしまうことがあります。
セクハラやパワハラと同様、自分にその気がなくとも相手がリモハラだと感じれば、事実関係の調査を経て、リモハラと認定される可能性があります。誰もがリモハラについてしっかりと理解し、加害者にならないよう気を付ける必要があります。
また、リモハラは比較的新しいハラスメントです。どこに相談したら良いか分からず一人で抱え込む被害者や、「リモハラ」というハラスメントがあることを知らず、単なる嫌がらせと捉えて我慢している被害者も存在すると考えられます。
加害者にならないように気を付けると同時に、被害を受けた場合の適切な対応も知っておくべきです。リモハラについて適切な対策・対処をするため、まずはどのような行為がリモハラとされるのか、次章で確認していきましょう。
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2. どのような行為がリモハラとされるのか?
前述のとおり、リモハラの内容は、おおよそセクハラとパワハラに分類されます。ここでは、それぞれにどのようなものがあるのか確認していきましょう。
2-1. セクハラに該当する可能性がある行為
以下のような行為は、セクハラに該当する可能性があります。
・部屋の様子を映すように要求する
・同居人について聞き出そうとする
・執ように1対1でのオンライン飲み会に誘う
・業務に無関係なメールやチャットを大量に送る
テレワーク中にWeb会議を行う際、画面に部屋の様子が映り込むことがあります。このとき、相手の服装や部屋の様子について指摘したり、同居人といったプライベートに関する情報を聞き出そうとしたりすることは、典型的なリモハラです。
「ちょっと太った?全身を映して見せて欲しい」、「今映ったのは同棲している人?」など、業務に無関係なことに言及し、相手を不快にさせたり、尊厳を傷付けたりするとセクハラに該当する可能性があります。
執ように1対1での飲み会に誘う行為は、セクハラの例として広く認識されています。これはオンライン上でも同じことです。また、業務に無関係なメールやチャットを大量に送付し、個人的な関係を求めることもセクハラに該当します。
対面で許されないセクハラ行為が、オンラインなら許されるということはありません。相手の気持ちを考え、プライベートに踏み込みすぎないように気を付けましょう。
2-2. パワハラに該当する可能性がある行為
以下のような行為は、パワハラに該当する可能性があります。
・業務の進捗を確認する回数が極端に多い
・少し連絡が遅れただけで「さぼっている」と指摘する
・緊急性がないのに業務時間外に電話やチャット、Web会議に出るように要求する
・業務上必要があるにもかかわらず、特定の人物をWeb会議に呼ばない、チャットグループに招待しない
・子供の話し声や泣き声について叱責する
これらの中には、厚生労働省が公表している「パワハラの6類型」[3]に該当するものもあります。
もちろん、パワハラの6類型は典型的な例であり、該当しないから問題がないということではありません。
業務の進捗が不安だからと部下にしつこく確認することは、常にプレッシャーを与えていると見なされ、パワハラとなるケースがあります。
業務時間外に電話やチャットをしたり、Web会議に出るように要求したりすることは、オフィスに出勤しているときと同様、業務上の指示です。そのため、対応させた時間は労働時間にカウントされます。緊急性がないにもかかわらず、終業後や休日に対応を強制すれば、パワハラとなり得ます。
また、Web会議の映像や電話に、子供の話し声や泣き声、家族の生活音などが入ってしまうことは仕方のないことです。これについて「緊張感がない」「大事な打ち合わせ中なのだから気を付けろ」と責めることは、パワハラやモラハラに該当する可能性があります。
セクハラについては、対面のときと同様の行為をしないように気を付ける面が強いですが、パワハラについては、テレワーク時に特有の行為にも注意が必要といえるでしょう。
2-3. 「逆パワハラ」に該当する可能性がある行為
前述の「パワハラの6類型」やパワハラに該当する可能性のある行為は、優越的な関係を背景として行われるとされていますが、逆もあり得ます。
例えば、部下にちょっとした注意をしただけで「パワハラで訴える」と言われたり、業務に必要な指示をしても「あなたの指示には従わない」と言われたりして悩む上司も多いようです。このような部下から上司へのパワハラは「逆パワハラ」と呼ばれています。
逆パワハラの中でも、特にリモートワークで問題になるのが「テクハラ」です。テクハラはテクノロジーハラスメント、あるいはテクニカルハラスメントの略で、PCやスマートフォンなど、IT機器の扱いが苦手な人に対する嫌がらせ行為を指します。
IT関連では、若手の方が管理職よりもスキルが高い場合が多くあります。例えば、ZoomといったWeb会議システムの扱いにつまずく上司に対して、部下が「こんな簡単な操作もできないのですか」「あなたのせいで会議が長引く」などと発言することは、テクハラに該当する可能性があります。
テクハラを防ぐためには、テレワークで使用するPCやWeb会議システムの使い方について、管理職を中心とした研修を行い、十分に学んでもらう必要があります。
また、IT機器の扱いが不得意な人に対する嫌がらせはパワハラに該当することを、従業員に周知することも必要です。
3. なぜリモハラが発生するのか
第2章でご紹介したようなリモハラが発生する原因としては、以下のようなことが考えられます。
・オンライン上でのコミュニケーションが難しい
・テレワークでのマネジメントが不安
仕事とプライベートの境界があいまい
「今は仕事中である」と意識していても、自宅というプライベート空間にいることで、オンとオフとの境界があいまいになりがちです。
テレワーク時には、オフィスにいるときよりもラフな服装をしている、家族や同居人が周囲にいるという人も多いでしょう。Web会議では、お互いの部屋や家族の様子が見えてしまうこともあります。すると、相手の私生活が垣間見えることで、親しくなったと誤解してしまうのです。
誤解したまま友人感覚で業務外のプライベートなことにまで言及してしまうと、ハラスメントと取られる可能性があります。
オンライン上でのコミュニケーションが難しい
オンライン上でのコミュニケーションは、対面とは異なる独特の難しさがあります。
オフィスでは、相手と直接対面し、表情や声、話し方、身振り手振り、雰囲気など多くの情報によって相手の状態を知ることができます。しかしオンライン上では、メールやチャットなど文字によるコミュニケーションが主となり、相手の気持ちが分かりにくくなってしまいます。
例えば、自分は軽く注意したつもりでも、相手には強い叱責と受け取られてしまったり、自分のちょっとした冗談が相手を深く傷付けていても、それに気付けなかったり、というようなことが起こりやすくなります。
テレワークでのマネジメントが不安
コロナ禍で初めてテレワークを経験する人も多い中、マネジメントを行う管理職も手探り状態であることが少なくないでしょう。
テレワークでは、部下がどのように仕事を進めているのかが見えにくくなります。進捗状況はどうか、何か悩んでいることはないか、心配なことは多いと思われます。しかし、必要以上にしつこく報告を求めるといった度が過ぎた介入をしていると、部下は常にプレッシャーを感じ、大きなストレスを抱えてしまいます。
このように、リモハラの発生には、テレワーク特有の働き方や事情が関わっています。企業も個人も、オフィスでのセクハラ・パワハラ対策とは別に、リモハラ対策を講じることが必要です。
4. リモハラ加害者と企業の責任
もしリモハラ加害者と認定された場合には、どのような責任を負うことになるのでしょうか。
比較的新しいハラスメントであるリモハラには、今のところ防止対策の義務や罰則などについて定める法令はありません(2022年2月24日現在)。そのため、従来のセクハラやパワハラと同様に考えればよいとされています[4]。
従って、リモハラ加害者に認定されると、セクハラやパワハラ加害者と同様に、民法等の違反として損害賠償を請求される可能性があります。リモハラの内容や程度によっては、刑事上の責任を負う可能性もあり、会社からも懲戒処分を受けることになります。
また、企業もさまざまな責任を問われる可能性があります。企業には従業員の健康や安全を保つ「安全配慮義務」(労働契約法第5条)があるため、リモハラは雇用管理上の問題であるといえます。従って、適切な処置を行わなければ「使用者責任」(民法第715条)や「債務不履行」(民法第415条)などに基づき、損害賠償を請求される可能性があります。
もし組織として適切な対処を行わなかった場合には、措置義務違反として行政指導や企業名公表などの対象となることもあります。
重大な事件に発展してしまうと、個人も企業も大きなダメージを負います。リモハラを軽く考えず、しっかりと対策を行いましょう。
5. 企業と個人がするべきリモハラ対策
リモハラの被害や加害を防止するためには、一人一人が気を付けるだけでなく、企業からの周知や教育が必要です。ここでは、企業と個人がどのような対策を求められるのか確認していきます。
5-1.リモハラ対策の必要性
ハラスメント対策は企業の義務であり、テレワーク下でも同様です。前述のとおり、リモハラの防止義務や罰則などについての法令はないため、従来のセクハラやパワハラと同様に考えればよいとされています[5]。
また、職場のセクハラやパワハラについては、企業が対策を講じることが法律や指針で義務付けられています[6]。
2020年6月1日には、女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律が施行され、パワハラ対策が事業主の義務となりました。セクハラについてはすでに義務化されており、改正で防止対策が強化されています。
厚生労働省が公表しているセクハラ指針[7]・パワハラ指針[8]において「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指すとされています。労働者が通常就業している場所以外の場所、つまりテレワークを行う自宅も「職場」に含まれると考えられます。
同じく厚生労働省が公表している「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」[9]では、企業はテレワークの際にも、オフィスに出勤する働き方の場合と同様に、関係法令・関係指針に基づき、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要があるとされています。
企業としての義務を果たし、また、テレワークでも従業員に安心して仕事に集中してもらうために、しっかりとリモハラ対策を行うことが大切です。
5-2. 企業としての対策
企業が取るべき対策としては、以下のようなものが挙げられます。
・テレワーク時の就業規則やルールの設定
・全従業員に対する社内教育の実施
・テレワーク時のマネジメントについての教育
リモハラ相談窓口の設置
多くの企業が、セクハラやパワハラの相談窓口を設置しています。リモハラについても同様に相談窓口を設置し周知することで、社内のリモハラの実態を把握しやすくなり、被害の発生から原因の特定、解決までを速やかに行うことができます。
従業員が相談しやすいよう、窓口の担当者は男女各1人以上を確保できるとよいでしょう。
テレワーク時の就業規則やルールの設定
就業規則にテレワーク時のハラスメント防止の規定を追加したり、ルールを設定・周知したりすることも効果的です。ルールの存在によって、どのような行為がリモハラに該当するかが明確になるため、被害の抑制に役立ちます。
具体的なルールとしては、例えば「相手の服装やメイクについて指摘することは禁止」、「緊急時以外、業務時間外のメール返信は不要とする」などが考えられます。
全従業員に対する社内教育の実施
リモハラ防止について、研修やeラーニング、ポスター掲示などによる全従業員に対する教育も重要です。
テレワーク時の就業規則やルール、リモハラ被害を受けた・してしまったかもしれない場合の対応、相談や情報提供による不利益はないことなどを全従業員に浸透させることが大切です。
テレワーク時のマネジメントについての教育
テレワーク時、マネジメントに不安を抱える管理職はかなり多いようです。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査では、部下が仕事をさぼっていないか、部下の心身の健康の悪化の兆候を見逃していないかなどについて、半数以上の管理職が不安に感じていると明らかになっています[10]。
業務の進捗を確認する適切な方法や頻度、オンライン上で部下と良好なコミュニケーションを取る方法などを理解してもらい、管理職の不安を取り除くことが、リモハラ防止につながります。
このように、社内のテレワークに関する枠組みを再確認し、従業員に必要な教育を行うことがリモハラ防止につながります。
5-3. 個人としての対策
企業が適切な教育を行った上で、さらに個人でも対策をすると、より安心してテレワークを行えます。
個人がリモハラの加害や被害を防ぐためには、以下のような対策が考えられます。
・就業規則やルール内で可能な対策を取る
・受けた指導や注意が正当な範囲内かよく考える
・業務中であることを意識し、適切なコミュニケーションを心掛ける
どのような行為がリモハラになるか理解する
どのような行為がリモハラになるのかを理解しておけば、自分が加害者になってしまうことを防げます。被害を受けてしまった際も、速やかに担当窓口などに相談し、早期に解決することができます。
また、自分や上司・同僚などがリモハラをしていた場合に、「今の発言は良くない」などと注意し合い、被害を最小限にとどめることもできます。
第2章のリモハラ事例の他、テレワーク時の就業規則やルールに、具体的なリモハラ行為が記載されている場合があるので、よく確認しておきましょう。
就業規則やルール内で可能な対策を取る
テレワーク時の就業規則やルールの範囲内で、できる対策はしておきましょう。
例えば、Web会議時にバーチャル背景を使用したり、オフィスで働くときと同じ服装にしたりすると、自宅の様子や普段着といった、プライベートな部分を上司や同僚に見せずに済みます。リモハラの原因を一つ取り除くことができるのです。
ただし、テレワーク時の就業規則やルールにおいて、バーチャル背景の使用や服装などについて規定がある場合は、従わなければいけません。特にルールがない場合は、上司や同僚に合わせておくのが無難でしょう。
指導や注意が正当な範囲内かよく考える
自分がする・受ける指導や注意について、正当な範囲内かどうか、よく考えることが大切です。
管理職や上司の立場では、部下を指導する際、自分は正しいと思い込まず「社会的に通用する行為なのか」「相手はどう感じるか」を考え、適切な指導を行うようにしましょう。
部下の立場では、上司や先輩の指導が適切かどうかよく考えてみましょう。指導や注意は、基本的には業務遂行のために行われるものです。リモハラを受けたと感じても、客観的に見れば正当な指導の範囲内である場合があります。
また、必要な報告を怠ったり、プライベートな用事で頻繫に離席したりするなど、自身の問題行動が上司を苛立たせ、リモハラにつながるケースもあります。自分自身に問題がなかったか、振り返ることも大切です。
業務中であることを意識し、適切なコミュニケーションを心掛ける
誰もがテレワークで気持ち良く働くためには、自宅であっても業務中であることを意識し、相手の立場を考えた適切なコミュニケーションを心掛けることが大切です。
また、コミュニケーションにすれ違いが起きないように気を付ける必要もあります。例えば、服装やメイクについて指摘されたり、1対1のオンライン飲み会に誘われたりした際、「嫌だ」と感じたら「NO」の意思を明確に伝えましょう。
「NO」を伝えないままでいると、相手に「問題ない」と誤解されてしまいます。直接伝えにくい場合は、相談窓口の担当者や信頼できる上司・同僚などに間に入ってもらうとよいでしょう。
このように、テレワークでは、オフィスで対面しているとき以上に相手の気持ちをよく考え、自分の言動に気を付けるようにしましょう。
6. リモハラ発生時に被害者・企業が取るべき対応
十分なリモハラ対策を講じていたにもかかわらず、リモハラが発生してしまった場合はどうしたらよいのでしょうか。ここでは、被害を受けた場合と、企業としての対応を確認します。
6-1. リモハラ被害を受けたら
リモハラの被害を受けたら、一人で抱え込まず、信頼できる上司や、会社のリモハラ相談窓口、ない場合はセクハラ・パワハラ相談窓口に相談しましょう。
また、証拠をそろえておくことも大切です。リモハラは、相手とのやり取りを録画・録音できるため、他のハラスメントに比べて被害の立証は難しくないといわれています。メールやチャットの画面、Web会議の動画や音声などを保存しておきましょう。
相談しても会社として適切に対応してくれない、改善が見込めない場合は、全国の労働局に相談し、解決のための援助を受けることができます[11]。
6-2. リモハラ被害を相談されたら
リモハラ被害を最小限に抑え、かつ再発防止できるかは、被害を相談された際の対応の仕方にかかっています。ここでは、管理職と会社の対応について確認します。
6-2-1. 管理職の一次対応のコツ
部下から相談をされたら、具体的な被害状況を確認し、相談者がどのような解決を望んでいるのか、意向を把握しましょう。相談者の気持ちに寄り添って話を聞くことが大切です。
ただし、リモハラは被害を訴えた側の言い分のみで認定されるものではありません。リモハラが起きたとされる経緯や状況、継続性、被害者と加害者の日頃の関係性など、さまざまな要素が総合的に考慮され判断されます。
話を聞く際は、相談者に寄り添いながらも、その場では相談者と相手、どちらに非があるかといったことは判断しないようにしましょう。
6-2-2. 会社側が行うべき対応のコツ
相談されたリモハラについて事実確認を行った結果、リモハラが生じた事実が確認でき、相手の加害行為が認定された場合には、速やかに被害者、加害者に対して適正な措置を講じましょう。当事者や周囲の関係者に研修やeラーニングなどを受けてもらい、再発防止を徹底することも大切です。
解決を図る過程で、被害者がセカンドハラスメント[12]を受けることのないように注意することも必要です。
7. まとめ
リモハラとは、リモートハラスメントの略で、リモートワーク中に起こるハラスメントのことです。テレワークハラスメント=テレハラともいわれています。
リモハラは、コロナ禍でテレワークが急速に広まると同時に注目されるようになりました。リモハラの内容は、おおよそセクハラとパワハラに分類されます。
セクハラやパワハラと同様、自分にその気がなくとも相手がリモハラだと感じれば、事実関係の調査などを経て、リモハラと認定される可能性があります。誰もがリモハラについてしっかりと理解し、加害者にならないようにする必要があります。
以下のような行為は、セクハラに該当する可能性があります。
・全身を映すよう要求したり、体型や服装・メイクなどについて言及したりする
・部屋の様子を映すように要求する
・同居人について聞き出そうとする
・執ように1対1でのオンライン飲み会に誘う
・業務に無関係なメールやチャットを大量に送る
以下のような行為は、パワハラに該当する可能性があります。
・Webカメラやマイクを常時ONにさせ、本人や部屋の様子を監視する
・業務の進捗を確認する回数が極端に多い
・少し連絡が遅れただけで「さぼっている」と指摘する
・緊急性がないのに業務時間外に電話やチャット、Web会議に出るように要求する
・業務上必要があるにもかかわらず、特定の人物をWeb会議に呼ばない、チャットグループに招待しない
・子供の話し声や泣き声について叱責する
この他にも、テレワーク時に起こりやすい「逆パワハラ」に該当する可能性がある行為として挙げられるのが、テクハラです。
テクハラはテクノロジーハラスメント、あるいはテクニカルハラスメントの略で、PCやスマートフォンなど、IT機器の扱いが苦手な人に対する嫌がらせ行為を指します。部下の方が管理職よりもITスキルが高い場合も多いため、逆パワハラが起こらないよう気を付ける必要があります。
リモハラが発生する原因としては、以下のようなことが考えられます。
・仕事とプライベートの境界があいまい
・オンライン上でのコミュニケーションが難しい
・テレワークでのマネジメントが不安
もしリモハラ加害者に認定されると、セクハラやパワハラ加害者と同様に、民法等の違反として損害賠償を請求されたり、刑事上の責任を負ったりする可能性があり、会社からも懲戒処分を受けることになります。
また、企業もさまざまな責任を問われる可能性があります。もし組織として適切な対処を行わなかった場合には、措置義務違反として行政指導や企業名公表などの対象となることもあります。
ハラスメント対策は企業の義務であり、テレワーク下でも同様です。
厚生労働省が公表している「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、企業は、テレワークの際にも、オフィスに出勤する働き方の場合と同様に、関係法令・関係指針に基づき、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要があるとされています。
企業が取るべき対策としては、以下のようなものが挙げられます。
・リモハラ相談窓口の設置
・テレワーク時の就業規則やルールの設定
・全従業員に対する社内教育の実施
・テレワーク時のマネジメントについての教育
個人がリモハラの加害や被害を防ぐためには、以下のような対策が考えられます。
・どのような行為がリモハラになるか理解する
・就業規則やルール内で可能な対策を取る
・受けた指導や注意が正当な範囲内かよく考える
・業務中であることを意識し、適切なコミュニケーションを心掛ける
リモハラの被害を受けたら、一人で抱え込まず、信頼できる上司や、会社のリモハラ相談窓口、ない場合はセクハラ・パワハラ相談窓口に相談しましょう。
また、証拠をそろえておくことも大切です。リモハラは、相手とのやり取りを録画・録音できるため、被害の立証は他のハラスメントに比べて難しくないとされています。メールやチャットの画面、Web会議の動画や音声などを保存しておきましょう。
部下からリモハラについて相談をされたら、相談者の気持ちに寄り添い、具体的な被害状況を確認します。相談者がどのような解決を望んでいるのか、意向を把握しましょう。
企業側は事実確認を行い、その結果リモハラが生じた事実が確認でき、相手の加害行為が認定された場合には、速やかに被害者、加害者に対して適正な措置を講じましょう。当事者や周囲に対して、再発防止を徹底することも大切です。
今後、従業員が安心してテレワークを行うためには、体制整備と併せてハラスメント対策を強化していくことが重要です。この機会に、リモハラ対策の再確認をしてみてはいかがでしょうか。
[1]東京大学医学系研究科 精神保健学/精神看護学分野「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」,2020年11月6日~12日実施,https://plaza.umin.ac.jp/heart/e-coco-j/04.shtml (閲覧日:2022年3月8日)
[2] 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html (閲覧日:2022年2月15日)
[3] 身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の6つ。あかるい職場応援団「ハラスメントの類型と種類」, https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/pawahara-six-types/ (閲覧日:2022年2月16日)
[4]成蹊大学法学部教授 原 昌登「職場のハラスメント対策シンポジウム 基調講演 明るい/働きやすい職場を作るために~ハラスメント対策のポイントと法改正の内容について~」,『厚生労働省 明るい職場応援団』,2020年12月9日,https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/siryo_kityokoen.pdf(閲覧日:2022年2月25日)
[5] 脚注3と同様
[6] 厚生労働省,「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html(閲覧日:2022年2月24日)
[7] 厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)【令和2年6月1日適用】」, https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf (閲覧日:2022年2月24日)
[8] 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】」,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf(閲覧日:2022年2月24日)
[9] 厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」,https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf(閲覧日:2022年2月24日)
[10] 組織行動研究所 主任研究員 藤澤 理恵「一般社員2040名、管理職618名に聞く テレワーク緊急実態調査【前編】 温かく明快なコミュニケーションで、誰も孤立させないテレワークを」,『株式会社リクルートマネジメントソリューションズ』,2020年4月27日, https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000846/?theme=workplace,productivity (閲覧日:2022年2月28日)
[11] 「紛争解決援助制度」。セクハラやパワハラ、働き方、待遇など個人と会社の間にトラブルが生じた場合に、都道府県労働局長や調停委員が公平な第三者として解決策を提示し、問題解決を図ることを目的とした制度。
[12] ハラスメントを受けた人が被害を周囲に告白したことで、責められたり嫌がらせを受けたりといった、さらなるハラスメントを受けること。
参考)
ライトワークスのeラーニング教材
リモートハラスメント対策の基礎知識
https://www.lightworks.co.jp/e-learning/12025
セクシュアルハラスメント対策の基礎知識
https://www.lightworks.co.jp/e-learning/9665
パワーハラスメントの基礎知識
https://www.lightworks.co.jp/e-learning/9668
Chatwork「リモハラとは?リモートハラスメントの可能性になる事例と防止策」, 2021年11月29日, https://go.chatwork.com/ja/column/telework/telework-075.html(閲覧日:2022年3月4日)
WELSA「リモハラ事例を解説!従業員を被害者・加害者にしないための企業の対策」, https://welsa.biz/media/%E3%83%AA%E3%83%A2%E3%83%8F%E3%83%A9%E4%BA%8B%E4%BE%8B%E3%82%92%E8%A7%A3%E8%AA%AC%EF%BC%81%E5%BE%93%E6%A5%AD%E5%93%A1%E3%82%92%E8%A2%AB%E5%AE%B3%E8%80%85%E3%83%BB%E5%8A%A0%E5%AE%B3%E8%80%85%E3%81%AB/(閲覧日:2022年3月4日)
en 人事のミカタ 人事労務Q&A「リモハラとは何ですか?」, https://partners.en-japan.com/qanda/desc_1155(閲覧日:2022年3月4日)
弁護士 織田 康嗣「リモートハラスメント(リモハラ)とは何か」,『弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所』,2021年8月, https://www.loi.gr.jp/law/law_qa-4089/ (閲覧日:2022年3月4日)
ハラスメント紛争対策サイト「テレワーク時の新型ハラスメント“リモハラ”とは?」,2020年6月3日,https://miya-law.jp/blog-20200603/(閲覧日:2022年3月3日)
WOMAN SMARTキャリア「深刻化する時間外メール「つながらない権利」に注目」,2021年10月25日, https://style.nikkei.com/article/DGXZQOFK138IA0T11C21A0000000?page=2(閲覧日:2022年3月3日)
ハラスメント対策専門家 倉本祐子「部下から「リモハラ」と指摘されないためには」,『Q&A経営相談』,2020年11月,https://qabacknumber.tkcnf.com/202011-02(閲覧日:2022年3月4日)
東京労働局「紛争解決援助制度」,https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/kinto2/trouble.html(閲覧日:2022年3月4日)