「賛否両論のワーケーション。うかつに導入すれば社内の批判は免れない。どのように進めるのがよいだろうか?」
昨今の新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの人の働き方に大きな変化をもたらしました。人との接触を避けるためのリモートワークやフレックスタイム制の導入など、それまで特別な場合や限られた対象者にとっての選択肢だった働き方が瞬く間に広がりました。
そして、新型コロナウイルスの収束が見込めず、また、気温も暖かくなってきたころに「ワーケーション」という言葉を耳にするようになりました。
世間に広まったきっかけが政府高官の発言だったこともあり、「横文字で聞こえは良いが体よく働かされるだけなのでは?」と言った批判的な意見が多く見られます。
しかし、withコロナのこれからの時代、企業は様々な働き方を模索する必要があります。会社と従業員がwin-winな形でワーケーションを活用する方法はないのでしょうか?
本稿ではこの「ワーケーション」という働き方について、その特徴やメリット・デメリット、導入事例などをご紹介します。導入の検討にお役立てください。
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目次
1. ワーケーションという働き方
まずはワーケーションとは何か、その言葉の由来やリモートワークとの違いについて解説します。
1-1. ワーケーションとは
ワーケーションとは、「WORK」と「VACATION」を組み合わせた造語です。2000年代に入ってからアメリカで使われ始めましたが、日本では「働く」と「休暇」を同時に取るという概念が浸透せず、リモートワークやテレワークという言葉の方がよく使われていました。
ワーケーションが一躍トレンドワードになったきっかけは、時の官房長官菅義偉氏が「ワーケーションを旅行や働き方の新しいスタイルとして普及したい」と発言したことでした。
1-2. ワーケーションとリモートワークの違い
では、リモートワークとの違いはどこにあるのでしょうか。リモートワークは働く場所を会社やオフィスに限定しない働き方を言います。多くのケースにおいて、自宅や会議室など会社が認める場所での勤務となります。
一方で、ワーケーションの場合、旅行先や帰省先など、働く場所は国内でも海外でもどこでも構いません。日本より一足先にワーケーションが普及した海外では、リゾートホテルのWi-Fi環境、SIMカード提供などは当たり前になりました。
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2. ワーケーションのメリットとデメリット
「株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社JTB、日本航空株式会社、慶應義塾大学(監修):『ワーケーション』の効果検証実験」[1]によると、「ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する」ということがわかりました。
「従業員の心身のストレス反応の低減」や「活動量の増加」など、数値的にも効果が実証され、また、「情動的な組織コミットメントを向上させる」など、企業側にとってもメリットが認められました。
ワーケーションの導入は経営サイドと従業員サイド双方にメリットがあり、積極的に検討を進めるべきと言えるでしょう。以降にそれぞれのメリット・デメリットをまとめます。
2-1. ワーケーションが経営サイドにもたらすメリットとデメリット
まずは経営サイドにとってのメリットとデメリットを見てみましょう。
2-1-1. 経営サイドにとってのメリット
ワーケーションを導入した場合、経営サイドには次のようなメリットが期待できます。
- 有給休暇の取得を促進できる
- 会社の魅力度が上がり優秀な人材確保・定着が期待できる
- 健康経営の維持。
有給休暇の取得を促進できる
ご存知のように、2019年の労働基準法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される従業員には、年に5日以上の有給休暇を取得させることが義務付けられました。ワーケーションを有給休暇と絡めて利用させることで、有給休暇の取得を促進する効果が期待されます。
会社の魅力度が上がり優秀な人材の確保・定着が期待できる
時代に合わせた施策を積極的に取り入れることで企業の魅力度は上がり、働きやすい職場として高評価されることにつながります。
健康経営の維持
ワーケーションに限りませんが、従業員がリフレッシュできることは、仕事に対するモチベーションや組織に対するエンゲージメントを高めることにつながります。彼らのワークライフバランスの充実は健康経営に直結すると言ってもよいでしょう。
このように、ワーケーションの導入により企業は従業員の働き方や余暇を尊重し、エンゲージメントを高めることができます。これは「SDGs」[2]にある「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の一つの形とも言えます。つまりこれを推進していくことが会社のブランディングにつながっていくのです。
2-1-2. 経営サイドにとってのデメリット
一方で、ワーケーションを導入する場合、経営サイドには以下のようなデメリットがあります。
- 導入・運用コストがかかる
- 勤怠管理が難しくなる
導入・運用コストがかかる
新しい仕組みを取り入れるのにはそれなりにコストがかかります。ネットワーク環境やコミュニケーションツールなど、必要なツールについては後ほどご説明します。
勤怠管理が難しくなる
仕事をしながら休暇を取るワーケーションでは従業員の勤怠管理が難しくなります。従業員との認識のすり合わせや新しい制度、管理ツールなどの導入が必要となるでしょう。
制度やツールについては次章でご紹介します。
2-2. 従業員サイドのメリットとデメリット
次に、従業員サイドにとってのメリットとデメリットを見てみましょう。
2-2-1. 従業員サイドにとってのメリット
ワーケーションを導入すると、従業員にとっては次のようなメリットが期待できます。
- リフレッシュ&集中できる
- 休暇を取りやすい
リフレッシュ&集中できる
従業員サイドの一番のメリットはリフレッシュできることでしょう。仕事をしながらでは休めないのでは?と思われがちですが、これまで休暇を取らなければ行けなかった場所に行けたり、家族と過ごす時間が増えたりすることで、理想のワークライフバランスに近い働き方ができるかもしれません。
また、オフィス以外の場所で開放的に仕事ができることで新しいアイデアが生まれたり、集中しやすい環境を選べることもメリットでしょう。
休暇を取りやすい
ワーケーションが制度化していれば、従業員はこれを利用して気兼ねなく休暇を取ることができます。また、休暇中にも仕事ができるので、重要な会議だけはオンラインで参加するなど、業務に穴を開けずに済む点も魅力です。
このように仕事と休暇をバランスよく、しかも自分の好きなように組み込めることがイノベーションの源泉になると言えそうです。
2-2-2. 従業員サイドにとってのデメリット
従業員とってのデメリットとしては、以下のようなものが考えられます。
- ONとOFFの切り替えが難しい
- コミュニケーションの温度差が生まれやすい
ONとOFFの切り替えが難しい
好きな場所や自分のタイミングで仕事をする分、オンとオフの切り替えは難しくなります。勤務時間と勤務時間外を決めておく、勤務時間外はメールを見ないなど、自分なりの工夫が必要になるでしょう。
コミュニケーションの温度差が生まれやすい
コミュニケーションツールはたくさんありますが、オフィス勤務と比較するとその質が落ちることは否めません。時にはコミュニケーションロスで業務が滞ったりということがあるかもしれません。
事前に上長やメンバーに業務内容や進捗、今後の予定などを共有しておくことも、ワーケーションを有意義に過ごすポイントです。
ONとOFFの切り替えや社内コミュニケーションに関する違和感は、慣れによって解消していくところもあるでしょう。一方で、コミュニケーションなどに用いるツールは業界や自社の風土に合うものをよく検討して選ぶ必要があります。
以下に詳しくご紹介します。
3. ワーケーションの導入に必要なツールは
次に、ワーケーションの導入に必要なツール、環境などについてご紹介します。会社の規模や事業内容によっても異なりますが、基本的にはセキュリティ対策をした上で、コミュニケーションツールと勤怠や進捗の管理ツールがあればよいでしょう。
3-1. セキュリティ対策
リモートワークや在宅勤務と違って、ワーケーションは国内外どこでも仕事ができます。そのため、PCなどのデバイスの管理やネットワークのセキュリティ面でのリスクはどうしても高くなります。セキュリティ対策、盗難防止対策などは会社として十分に行う必要があります。
そして言うまでもないことですが、パスワードを設定する、画面を見られないようにするなど、従業員への教育も大切です。
セキュリティ対策について知識を深めるには弊社の情報セキュリティ研修を成功させるには?eラーニングでの実施事例も紹介しますをご活用ください。
(1)セキュリティソフトの活用
不正アクセスやウイルス対策に必要なのがセキュリティソフトです。重要なデータを扱う場合には暗号化を忘れずに行いましょう。また、PCなど外部で使用するデバイスは盗難対策機能がついているものを選ぶとよいでしょう。
(2)安全なリモートアクセス環境を整備する
リモートアクセスを安全に行う技術に「VPN(Virtual Private Network)」があります。認証ユーザー以外が入ってこられない仮想ネットワークで、通信はすべて暗号化して行われます。また、SaaS(Software as a Service)やクラウドサービスの活用も有効です。
3-2. 会議やチャットなどコミュニケーションに必要なツール
ここではオンライン会議などコミュニケーションに必要なツールをご紹介します。
V-CUBE ミーティング
https://jp.vcube.com/
Web会議のクラウド市場でシェアNo.1[3]。ASP/SaaS情報開示制度に認定され高いセキュリティを誇る。
Zoomミーティング
https://zoom.us/jp-jp/meetings.html
最大1000人まで1つのWeb会議に参加できる。個人〜大企業まで広く利用されている。
Chatwork
https://go.chatwork.com/ja/
基本的な機能は無料で利用可能。1対1またはグループチャットに対応し、ファイル共有も可能。ビジネスユーズの有料プランでは情報漏洩などのリスクマネジメントを強化したり、組織やプロジェクトごとにグループを作成し、大人数チャットやタスク管理などが可能になります。
Slack
https://slack.com/intl/ja-jp/
基本的な機能は無料で利用可能。あらゆる形式のファイルを共有可能、手軽に利用できるビジネスチャットツール。有料プランでは、共有チャンネルやゲストアカウントを使用してパートナー企業と協業したり、画面共有機能付きのビデオチャットも可能です。
3-3. 勤怠管理、進捗管理などに必要なツール
ワーケーションにおいて勤怠や進捗の管理は必須です。
Backlog
https://backlog.com/ja/
ウェブ制作、ソフトウェア開発、大手広告代理店、全国版新聞社などさまざまな業種で使われているプロジェクト管理ツール。視覚的にプロジェクトの進捗が把握できる。
jinjer勤怠
https://hcm-jinjer.com/kintai/
人事データの一元管理や多彩な機能が支持され、契約継続率は99.4%を誇る。承認業務から有休や残業時間の管理まで、リアルタイムで一括管理が可能。
4. ワーケーションの導入に取り入れるべき制度
ワーケーションを取り入れるにあたって、制度設計は大きな課題になるでしょう。これまで時間管理だったとしたら、これからは成果管理などに変更する必要も出て来ます。従業員一人ひとりの成果を可視化することは時間もコストもかかりますが、時代に合わせて柔軟に設計していく覚悟が必要です。
例えば以下のようなルール設計が必要になるでしょう。
勤怠管理
従来型のタイムカードのシステムでは対応できない可能性が高いので、新たにリモートワークに対応したツールの導入を検討
労務管理マネジメントや規程
遠隔地への移動は労災保険法の対象とするのか、宿泊費の負担など
ワーケーションの対象者の設定
ワーケーションに適した部署、職種のみ対象とするなどの線引き
ワーケーションの時期や場所、連絡手段などの条件設定
長期休暇とつなげての利用を推奨するなど
評価制度の見直し
成果主義の人事評価の導入など
5. ワーケーションの導入事例
最後に、ワーケーションを導入している企業の事例と、ワーケーションを積極的に受け入れている自治体の事例をご紹介します。
5-1. ワーケーションを導入している企業例
まずは企業の例です。
日本航空株式会社
JALがワーケーションを導入したのは2017年夏でした。目的は社員の休暇取得促進でしたが、和歌山県白浜町や鹿児島県徳之島などでの地域創成と絡めたプログラムなどが話題となりました。
同社のワーケーションで特徴的なのは、チーム単位で取り組みチームビルディングに役立てたり、先述のように自治体を巻き込んだ取り組みなどです。社内においても、ワーケーションの浸透のための施策を積極的に推進しています。
具体的には社内報での周知やワークショップ、勤怠システムに項目を常設するなどが挙げられます。
株式会社JTB
2019年3月に自社のホノルル支店に専用のワーケーションスペースを設置。休暇でハワイを訪れた社員に対してワーケーションができるよう、まずは環境を整えました。このワーケーションスペースはJTBを利用した客にも開放、ワーケーションの浸透に貢献しています。その後、沖縄など国内にも展開中。
いずれの例も、基本的には従業員の休暇の取得を促すための施策として始まったことが分かります。一方で、新型コロナウイルス対策として提唱され一気にトレンドワード化したワーケーションは労働を促すこと(経済活動を停滞させないこと)を目的としています。
同じ施策に対してアプローチがこれまでとは真逆であり、議論を呼んで当然かもしれません。大切なのは、だからといってここで議論を止めるのではなく、withコロナという新たな局面を踏まえて新しい可能性を企業と労働者、双方で模索していくことにあると考えられます。
5-2. ワーケーションを受け入れている自治体例
JALの例から分かるように、企業のワーケーションを誘致することは自治体側のメリットにもなります。ワーケーションを受け入れている自治体で構成される「ワーケーション自治体協議会[4](WAJ)」には、2020年8月時点で103自治体(1道11県91市町村)が参加。2019年11月の発足以降拡大を続けています。
和歌山県白浜町
2015年に白浜町が総務省のテレワーク実証事業の委託先に採択されたことを機に、セールスフォース・ドットコム社のサテライトオフィスが同町に進出しました。
取引先企業もこれに続き、新しい働き方ができる街として話題になりました。現在、ワーケーションに適切な環境やアクティビティも整い、積極的に誘致を行っています。
県軽井沢町・茅野市・白馬村など
東京からのアクセスが良い軽井沢町・茅野市・白馬村などでは2018年ごろから「信州リゾートテレワーク」と銘打ち、ホテルやバケーションレンタル施設などでワーケーションを誘致しています。ワーキングスペースも拡充し、ワーケーションを取り入れたい企業や個人向けのイベントなども積極的に開催しています。
このように、ワーケーション需要は地方自治体の新たな収入源として注目されている側面もあります。一方で、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の観点からは課題もあり、一概にwithコロナ時代と絡めてとらえることはできません。このあたりについても、今後議論を深めていく必要があるでしょう。
6. まとめ
本稿ではワーケーションについて解説しました。
ワーケーションとは、「WORK」と「VACATION」を組み合わせた造語で、昨今の新型コロナウイルス禍で注目されるようになった、リモートワークに続く新しい働き方です。
働く場所を会社やオフィスに限定されるリモートワークと違い、旅行先や帰省先など働く場所は国内でも海外でもどこでも構いません。
導入を検討するにおいて、メリット・デメリットを理解しておきましょう。
経営者サイドのメリット・デメリットは以下のとおりです。
- メリット
・有給休暇の取得を促進できる
・会社の魅力度が上がり優秀な人材確保・定着が期待できる
・健康経営の維持 - デメリット
・導入・運用コストがかかる
・勤怠管理が難しくなる
従業員サイドのメリット・デメリットは以下のとおりです。
- メリット
・リフレッシュ&集中できる
・休暇を取りやすい - デメリット
・ONとOFFの切り替えが難しい
・コミュニケーションの温度差が生まれやすい
また、ワーケーションの導入に必要なツール、環境などについてもご紹介しました。ポイントはセキュリティ対策と円滑なコミュニケーション、そして勤怠や進捗の管理ができる以下のようなツールが導入しやすいでしょう。
・V-CUBE ミーティング(https://jp.vcube.com/)
・Zoomミーティング(https://zoom.us/jp-jp/meetings.html)
・Chatwork(https://go.chatwork.com/ja/)
・Slack(https://slack.com/intl/ja-jp/)
・Backlog(https://backlog.com/ja/)
・jinjer勤怠(https://hcm-jinjer.com/kintai/)
今回ご紹介した企業および自治体のワーケーション実践事例も参考に、導入の検討を進める一助にしてください。
[1] 株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社JTB、日本航空株式会社、慶應義塾大学(監修):「ワーケーション」の効果検証実験
https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/200727.html
[2] SDGs(持続可能な開発目標):2015年9月の国連サミットで採択された国際目標。働き方に関する目標は「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する(目標8)」にあたる。
[3] 株式会社シード・プランニング調べ:https://www.seedplanning.co.jp/press/2020/2020032301.html
[4] ワーケーション自治体協議会[1](WAJ):https://www.facebook.com/WorkationAllianceJapan/
参考)
JALのワーケーション実践例
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/furusato-telework/search-case/pdf/29-3.pdf
JTBのワーケーション「ワーケーション・ハワイ」
https://hotelbank.jp/jtb-workation-telework-hawaii/
和歌山県白浜町のワーケーション
http://www.town.shirahama.wakayama.jp/soshiki/somu/kikaku/gyomu/1577342565456.html
長野県軽井沢町・茅野市・白馬村など「信州リゾートテレワーク」
https://shinshu-resorttelework.com/