「感染症の関係で、当社でも急遽テレワークを導入しなければならなくなった。受け身がちな従業員が多い中で、生産性が下がらないだろうか。」
2020年3月以降、新型コロナの影響により、多くの企業がテレワークを導入することとなりました。従業員の仕事ぶりを把握しづらい環境で、マネジメントに悩みを抱えているという企業も多いのではないでしょうか。
東京都の緊急調査によると、2020年4月に都内でテレワークを導入している企業は62.7%に上り、3月の調査から比較して2倍以上になっていたことがわかりました[1]。緊急事態宣言が解除されてからは、通常勤務に戻す企業もあるようです。しかし、新型コロナの影響は長引くことが予想されるため、今後もテレワークを導入する企業は増えていくでしょう。
通勤時間がかからずに業務に集中できるテレワークは、従業員にとっては快適な一方で、職場のように周囲の目がないため、個人の仕事に対する意識が非常に重要となってくるといえるでしょう。
そういったときに、必要となる能力の1つとして、「オーナーシップ」があります。
本稿では、オーナーシップとは何か、オーナーシップよりも認知度の高い「リーダーシップ」とはどう違うのか、さらにはオーナーシップを持つ人の特徴と、メリット、その育み方について解説していきます。
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目次
1. オーナーシップとは
オーナーシップとは、任された仕事に対して責任をもって主体的に取り組む能力のことです。
近年になり、この「オーナーシップ」という言葉が注目されています。その大きな要因の一つとして、IT技術の発達があります。指示されたことを受動的にやるような仕事は、今後AIなどにとって代わられていくことが予想されています。
そのため、人間の能力をAIと差別化する材料として、自分から能動的に仕事に関わっていくオーナーシップが重要視されるようになってきたのです。
似たような言葉として、「リーダーシップ」があります。こちらのほうが聞きなじみがあるかもしれません。まずは、オーナーシップとリーダーシップの違いについて、説明していきます。
1-1. オーナーシップとリーダーシップの違いとは?
「リーダーシップ」とは、「他人や組織を導く能力」のことです。「目標に向かって他者を巻き込んでいく能力」といってもいいかもしれません。
企業で管理職になる前に研修等で学習するテーマとして、必ずといっていいほど含まれます。組織を目標に向かってけん引していくためには、部下に働きかけ、能力を引き出していくリーダーシップの発揮が期待されます。
さらには、管理職やリーダーという立場でなくとも、多くの関係者に対して影響を与えながら、目的を達成するために動いてもらうためにも必要な能力ともいえます。
つまり、リーダーシップは、他者に対して働きかけていくものです。
では、次にオーナーシップについて確認していきましょう。
オーナーシップは、任された仕事に対して当事者意識を持って取り組む能力のことをいいます。「責任感を持って仕事をする」という言葉に近いかもしれません。他者にベクトルが向いているリーダーシップと比較すると、オーナーシップは自分に対してベクトルが向いています。
また、オーナーシップは「指示されたことを約束通りにやる」だけではなく、指示された内容に対して自分から主体的に取り組んでいく姿勢も含まれます。
このように2つの能力を比較してみると、オーナーシップを発揮できれば、より効果的にリーダーシップを発揮できるといえるでしょう。この2つの能力は、共存することが可能なのです「任された仕事に対して当事者意識をもって取り組む」「指示された内容に主体的に取り組んでいく」という言葉では、少しイメージがわきづらいかもしれません。
オーナーシップを持っている人が具体的にどんな特徴を持っているのか、次で詳しく確認していきましょう。
1-2. オーナーシップを持つ人とは、自分で仕事をコントロールできる人
オーナーシップを持つ人は、与えられた仕事を自分事としてとらえ、主体的に取り組んでいけるため、自分で仕事をコントロールできます。具体例で考えてみましょう。
例)上司から、営業用の資料を作成することを命じられました。提出期限は3日後を指定されています。内容を確認すると、3日間は確実にかかりそうです。
しかし、現在明日までに締め切りの資料作成が佳境にあり、今日は着手できそうもありません。夜は上司も一緒に行く重要な接待が入っており、残業も難しそうです。そのため、3日間かかる資料作成を、実質2日間でやらなければなりません。
さて、このような状況で、オーナーシップを持つ人はどのような行動に出ると考えられるでしょうか。
オーナーシップのない指示待ちの人であれば、言われた通りにそれを受け、寝ずにやるか、期限に間に合わずあきらめるか……という結果になるかもしれません。しかし、オーナーシップを持つ人は、次のような行動をとれると予想されます。
(1) タイムマネジメントができる
現在の自分のスケジュールと照らし合わせ、期限の中でどこまで何ができるか計画を立てます。効率的に進めるためにどう動くべきかを考えるのです。
(2) 能動的に関係者に提案できる
スケジュール的に厳しい、ということがわかると、次にどうするべきかを考えます。「スケジュール的に厳しいです」というだけでは、オーナーシップを発揮しているとは言えません。
与えられた期限に間に合うために、どういった条件が必要かを考え、相手に自分から交渉を持ち掛けます。今回の例でいうと、「資料の中のグラフ作成箇所を事前にアシスタントに依頼できれば期限内に作成可能」「明日締め切りの資料の優先順位を下げてもらえれば可能」など、「どうしたらできるか」を積極的に考え、自分から提案を行います。
(3) 自分の役割を理解している
オーナーシップがある人は、自分が与えられた役割を理解して仕事に取り組むことができます。今回の例で考えると、上司が営業用の資料作成を依頼してきたのは、今後自分が主担当となる企業向けのものだったかもしれません。
その場合、自分がその資料作成においてどこに自分が力を入れ、納期に間に合わせるためにはどの箇所ならば他人に預けてもいいのかを判断することが必要となります。自分の役割を理解していると、優先順位をつけやすくなります。
以上のように、オーナーシップを持っている人の特徴を見ていくと、仕事に振り回されることなく、自分で仕事をコントロールできていることがわかります。
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2. オーナーシップのメリットを活用して効率・生産性を向上
従業員がオーナーシップを発揮することは、以下のように様々なメリットがあります。
(1) 業務の効率化
第1章で説明した通り、オーナーシップを発揮して仕事をする人は、仕事に振り回されることなく自分で効率的に仕事を行います。
(2) 社内コミュニケーションの活性化
主体的に仕事に関わるということは、自分から主体的に周囲と関わっていくことにもつながります。その結果、自然と周囲とのやり取りが増え、結果的には社内のコミュニケーションが活性化します。
(3) 従業員のモチベーション向上
オーナーシップを発揮せず、受け身な姿勢で仕事をしていると、自分以外にも代わりはいる、というような意識になってしまいがちです。
オーナーシップを発揮して仕事をすると、「仕事を動かしていけるのは自分である」という意識が芽生え、前向きに仕事に関わっていけるようになります。その結果、モチベーションの向上につながります。
以上のようなメリットは、従業員の仕事に対する意識を高め、問題意識の共有や工程改善を促進します。そしてこのことは、品質向上やコンプライアンスの強化に好影響を与えます。
つまり、社員がオーナーシップを発揮することは、問題の発見や未然防止につながるのです。また、問題が起こった場合でも、主体的に関わるメンバーなら早い段階での対応と解決が可能です。
オーナーシップは日々の業務においてこのような好循環を生み、「生産性の向上」や「顧客満足」の実現可能性を高めます。オーナーシップは個人に係る概念ですが、組織としての育て方次第で業績にもメリットをもたらすものと言えるでしょう。
3. オーナーシップを育てるポイントとは
オーナーシップを持つ従業員が増えることは、企業にとって様々なメリットがあることがわかりました。
それでは、どのようにオーナーシップを育てていけばいいのか、具体的なポイントを以下で確認していきましょう。
(1) 権限移譲をする
いつまでも上司が管理をしたら、部下のオーナーシップは育ちません。
裁量をもって仕事をできる状況を作り、「その仕事を遂行する担当者は自分である」という意識を持たせましょう。
(2) 円滑なコミュニケーション環境を整備する
ただ権限を委譲し、丸投げしておけばオーナーシップが育つわけではありません。権限を持たされた部下が相談しやすい環境を作りましょう。
1on1ミーティングを導入する、関連する担当者同士のミーティングの機会を作るなど、コミュニケーションを活性化する仕組みを作ってあげるとよいでしょう。組織全体に、お互い働きかけやすい風土ができてくると、オーナーシップが発揮しやすくなります。
(3) 失敗に前向きに対処する
任せた仕事が仮に失敗しても、責めるのではなく前向きに対処していきましょう。
「任せた仕事の失敗は許さない」となると、オーナーシップを発揮しづらくなります。仕事に責任を持って取り組むことは当然ではありつつも、うまくいかないときもあります。そのようなときもしっかりとフォローをし、失敗をしてもまた挑戦していける雰囲気を作りましょう。
(4) 自分で目標を設定させる
組織で決めた目標を与えるだけではなく、自分で目標設定をさせることも重要です。もちろん、その組織の目標を達成することは大前提ですが、それを与えるだけではただの押し付けられた目標になります。
組織目標以外にも本人が「やりたい」と思ったことを積極的に採用するという仕組みを作ってもいいかもしれません。
(5)オーナーシップを発揮する従業員を適切に評価する
どんなに従業員がオーナーシップを持つように工夫したとしても、結果的に評価をされないとなると、従業員からすると納得感がありません。
もし現在の評価方法が、指示された仕事をこなすことの方に重点が置かれており、オーナーシップについて考慮されていないのであれば、ぜひ重点を置く評価項目を再検討してみましょう。
4. まとめ
オーナーシップとは、仕事に対して当事者意識を持ち、主体的に取り組んでいく能力のことです。
IT技術の発達などから、今後「与えられた仕事を指示通りこなす」という仕事は、AIにとって代わられていくことが予想されます。そのため、今後企業ではオーナーシップを発揮できる人がますます求められるようになります。
オーナーシップと似たような言葉で、「リーダーシップ」があります。この2つを比較すると、次のような違いがあります。
リーダーシップ
目標を達成するために他者を巻き込んでいく力。意識のベクトルは他者に向いている。
オーナーシップ
仕事に対して当事者意識をもって取り組む力。意識のベクトルは自分に向いている。
この2つの能力は共存可能で、オーナーシップを持っていると、より効果的にリーダーシップを発揮することができます。
オーナーシップを持っている人には、以下のような特徴があります。
(1) タイムマネジメントができる
(2) 能動的に関係者に提案できる
(3) 自分の役割を理解している
このような特徴のオーナーシップを持っている人は、自ら前もって動いていくことができるため、仕事に振り回されることなく自分でコントロールすることができます。
従業員がオーナーシップを発揮できると、企業にとって次のようなメリットがあります。
(1) 業務の効率化
(2) 社内コミュニケーションの活性化
(3) 従業員のモチベーション向上
このようなメリットは、最終的には「生産性の向上」「顧客満足の向上」へとつながっていきます。
従業員にオーナーシップを持つように育成するには、以下のような方法が考えられます。
(1) 権限移譲をする
(2) 円滑なコミュニケーション環境を整備する
(3) 失敗に前向きに対処する
(4) 自分で目標を設定させる
(5) オーナーシップを発揮する従業員を適切に評価する
IT技術の発達や、テレワークの普及により、オーナーシップは、今後リーダーシップと並んで従業員に必要な能力の一つとしてますます注目される可能性があります。
この機会にぜひオーナーシップについて理解を深め、貴社では従業員がどれくらいオーナーシップを発揮できているのか、できていなければ、そのための仕組みづくりとして何ができるのかを、検討してみてもいいかもしれません。
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[1] 東京都「テレワーク『導入率』緊急調査結果」https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/05/12/documents/10.pdf
<参考>
・Works 3つのオーナーシップ
https://www.works-i.com/works/item/w_158.pdf
・あしたの人事 オーナーシップの意味とは?仕事での具体例や必要なマインドセット、オーナーシップの育て方
https://www.ashita-team.com/jinji-online/category1/9405
・JOBROUTING オーナーシップマインドとは?発揮するメリットやリーダーシップとの違いは?
https://jobrouting.jp/223/#i-7
・mitsucari オーナーシップとは?企業経営で重要視される理由や活用するメリット
https://mitsucari.com/blog/ownership/#i-4