MOOCとは、インターネット環境があれば世界中の誰もが無料で視聴できる、大規模オンライン講座のことです。
政府は、将来的な労働人口減少への対応や、デジタル技術の革新に対応できる人材の育成のため「働き方改革」において社会人の学び直し、いわゆるリカレント教育を推進しています。
企業にも従業員の学び直し支援が求められていますが、社会人が改めて大学や専門学校で学ぶには、多額の費用とまとまった時間が必要です。「従業員の学び直しを支援したいのはやまやまだが、すぐに支援体制を整えるのは難しい……」というのが多くの企業の実情ではないでしょうか。
そこでおすすめなのが、インターネット環境があれば好きな時間に好きな場所で、基本的には無料で学ぶことができるMOOCです。
本稿では、MOOCとは何か、代表的な配信プラットフォーム、MOOCのメリットと課題についてご紹介します。
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目次
1. MOOCとは
MOOC(ムーク)とは、インターネット環境があれば世界中の誰もが利用できる、大規模オンライン講座のことです。Massive Open Online Courseの略称で、複数形のsをつけてMOOCs(ムークス)と呼ばれることもあります。
簡単な登録をするだけで、基本的には無料で講座を受けることができます。修了要件を満たせば修了証が交付されたり、大学の学位を取得できたりするコースもあります。
MOOCは2012年、アメリカで相次いで3つのプラットフォームが設立され、その後、爆発的に普及しました。現在、世界のMOOC学習者人口は9,400万人以上といわれています。
ハーバード大学やスタンフォード大学、東京大学など、世界の有名大学がハイレベルな講座を提供しており、誰でも、世界中のどこにいても受講することができます。
つまり、MOOCの登場により、インターネット環境さえあれば世界中の誰もが大学レベルの学習ができる機会を得られるようになったのです。そのため、MOOCの登場は「教育の民主化革命」ともいわれます。
1-1. 日本におけるMOOCの現状
日本では、2014年4月から「JMOOC」(3章参照)が講座を提供していますが、受講者は100万人超(2019年5月末現在)[1]です。世界と比べると、日本におけるMOOCの認知度はかなり低いといえるでしょう。
一方、政府は、労働人口減少の対策やデジタル技術の革新に対応できる人材の育成のため、「働き方改革」において社会人の学び直し、いわゆるリカレント教育を推進しています。
しかし、社会人が大学や専門学校で学ぶには、多額の費用や時間確保の問題があり、実際に行動に移すのは難しいことが多いようです。加えて、多くのプログラムが大都市圏に偏っているという問題もあります。そこで文部科学省は、放送大学やMOOCなどによるオンライン講座の大幅な拡充を検討しています。
またJMOOCの調査では、学び直しをする理由について、業務上の必要性の他、キャリアアップや自己研さんのためと回答する層が増えています。人生100年時代、生涯現役がうたわれる中、これから日本でもMOOCの需要は高まっていくでしょう。
1-2. 受講システム
MOOCの講座は大半が動画で配信されており、講座を配信するためのwebサイトをプラットフォームといいます。多くの大学が大学独自のwebサイトではなく、プラットフォームから講座を配信しています。
プラットフォームに登録した後は、「オンラインで講座を視聴 → 最後にテストor課題を提出 → 修了要件を満たせば修了証の発行(有料の場合もあり)」という流れが一般的です。オプションで、大学などに集合して開催される対面学習を追加できる場合もあります。
また、オンラインの掲示板で自主的な勉強会を企画したり、質問や意見交換をしたりするなど、受講生同士が活発に交流できるシステムになっています。
MOOCのプラットフォームは世界中に数多く存在するため、どれを選べばよいか迷うかもしれません。以下で代表的なMOOCをご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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2. 代表的なプラットフォーム
世界的に有名なMOOCのプラットフォームを、5つご紹介します。
・ Coursera(https://www.coursera.org/)
2012年にスタンフォード大学の教授が設立したベンチャー企業で、世界最大のMOOCプラットフォームです。登録者は1億2,400万人以上で、デューク大学、プリンストン大学など275のパートナー大学・機関から5,400コース以上を提供しています(2023年時点)。東京大学が講座を配信しています。
・edX(https://www.edx.org/)
2012年にマサチューセッツ工科大学とハーバード大学の共同出資により設立された非営利プロジェクトです。250以上の大学・機関が講座を展開しています(2023年時点)。京都大学や東京大学などが講座を配信しています。
・Udacity(https://www.udacity.com/)
2012年にスタンフォード大学の教授が設立したベンチャー企業で、大学などの講座をMOOCsとして公開しています。大学単位でなく教員個人が開講していることが特徴で、19のNanodegreeプログラムや多数の個別コースを提供しています(2023年時点)。
・FutureLearn(https://www.futurelearn.com/)
2012年に英国のオープンユニバーシティにより設立された、MOOCsを展開するコンソーシアムです。231カ国から約800万人の学習者が登録・受講しています(2019年時点)。慶応義塾大学が講座を配信しています。
・Khan Academy(https://www.khanacademy.org/)
ビル・ゲイツ氏も支援する教育NPOで、2006年にルマン・カーン氏が数学や科学などの指導用ビデオを作成して開始しました。
いずれも受講については基本的に無料ですが、多くが修了証の発行や大学の学位取得を有料としています。
また、ほとんどの講座が英語で配信されています。日本語字幕を付けられる講座は少数のため語学面でハードルが高いと感じる方も多いでしょう。
そのような方には、日本版のMOOCであるJMOOCがおすすめです。JMOOCについて、以下で詳しく見ていきます。
3. 日本版MOOC「JMOOC」
JMOOC(一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会)は、MOOCの日本における普及・拡大を目指して2013年に設立され、2014年から講座を提供しています。2023年時点の累計講座数は610です。
3-1. 講座内容
講座は提供機関や内容によって以下の3つに分類されています。
カテゴリーⅠ : 大学が提供する大学通常講義相当の講義
カテゴリーⅡ : 専門学校・高等専門学校が提供する講座、公的研究機関推薦講座、学会推薦講座など
カテゴリーⅢ : 大学が提供する特別講義および公開講座相当の講座、企業などが提供する講座など
東京大学や早稲田大学など国内の有名大学や、官公庁、民間企業が講座を提供しています。講座内容は多岐にわたり、歴史、統計学、プログラミング、心理学など、幅広いジャンルが用意されています。簿記や宅建など資格に対応した講座もあり、スキルアップや新たなキャリアの構築に役立てることができます。
3-2. 費用
費用は一切かからず、受講からデジタル形式の修了証の取得まで、全て無料です。有料のオプションもありますが、オプションを選択しなくても修了証を得ることができます。
3-3. 受講の流れ
1週間が基本的な学習の単位です。1つの講座は10分程度の動画で、1週間に5~10本公開されます。最後に総合課題を提出し、毎週の課題と総合課題の全体評価が修了条件を満たしていると、修了証を得ることができます。
分からないことや議論したいことがあれば掲示板で問い合わせたり、意見を出し合ったりしながら学習することができます。また、他の受講生と対面で議論を深めたり、教え合ったりしたい場合は、掲示板でミートアップと呼ばれる自主勉強会を企画することも可能です。
3-4. 対面学習
一部の講座では、オプションとして、講座動画に登場する講師に直接教えてもらえる対面学習コースがあります。オンラインで基本的な内容を学んだ後、対面授業で講師や受講生同士の議論を通じてより理解を深め、応用力を養います。
3-5. 3つのプラットフォーム
JMOOCは複数の講座配信プラットフォームをまとめるポータルサイトの役割を果たしており、JMOOCのサイトから以下のプラットフォームが配信する講座を受講することができます。
・ gacco(http://gacco.org/)
株式会社ドコモgaccoが提供しています。個人向けの講座の他、法人向けに「gacco ASP」や「gacco Training」として、受講者を限定した法人オリジナル研修の配信サービスや研修コンテンツの提供もしています。
また、gaccoではオンライン講座と対面授業を組み合わせた「対面学習コース(有料)」を提供しています。
講座動画の視聴やクイズ・レポートなどで基本的な内容を学んだ後、対面授業において講師や受講者同士の議論を通じて発展的な内容を学びます。オンラインと対面型の学習をブレンドしていくことで、学習効率や学習効果を高めていくことが可能です。
・OpenLearning,Japan(https://open.netlearning.co.jp/)
株式会社ネットラーニングが提供しています。数万人が利用する大規模な受講環境でも高い運用安定性を持っています。また、日本人が使いやすい仕様となっており、スケジュール機能など、学習に役立つ多くの機能を活用できます。
一部の講座では、オンラインの学習に加えて、大学などに集合して担当講師による発展的な講座を受講する「反転学習」も提供しています。
自宅でインターネットなどを利用して個別にインプットする学習と、それを基にした教室での協働学習やディスカッションなどをすることで、より高度な学習が可能になり、理解度アップや学習意欲の向上など多くの効果が報告されています。
反転学習は、これをさらに拡張した概念で、学習者を主人公に、どこまでもオープンな学びを実現するものです。
・OUJMOOC(https://www.jmooc.jp/providers/ouj/)
放送大学が提供しています。コンピュータ関連などの講座を開講しています。
JMOOCは登録から受講まですべて日本語で可能なので、英語が苦手な方や、まずはMOOCがどのようなものか試してみたい方にもおすすめです。
4. MOOCのメリット
MOOCを利用するメリットとして、以下のようなことが考えられます。
◆学習者
・無料で大学レベル講座が受けられる
社会人が改めて大学や専門学校に通うには、多額の費用がかかります。一般的な資格の講座や通信教育でもそれなりの費用がかかり、場合によっては教材の質に疑問を感じることもあります。
その点、MOOCは一部の有料オプションを除けば基本的には無料で修了することができます。講座の質についても、大学と同様のハイレベルなものとなっています。
・時間や場所を選ばない
社会人が学習するには、勤務時間が長かったり、育児や介護と両立したりするための時間の問題、また、受けたい講座が遠方の大学にしかないなど場所の問題があります。
MOOCはインターネット環境があれば誰でも利用できます。最近は、自宅ではパソコンでじっくり受講し、移動中などにスマホやタブレットで学習を進めるスタイルが定着してきたようです。特にJMOOCの講座は1本10分程度のため、通勤中や昼休みなど、隙間時間でも学習を進めることができます。
なお、隙間時間を利用する学習方法としては、マイクロラーニングも有効です。スマホで簡単に利用できるため、通常のeラーニングよりも学習の継続性が期待できます。復習にかける時間も短時間で済むので、知識の定着も進みやすくなります。
◆企業
・変化に対応できる人材の育成に利用できる
さまざまな分野で技術が進歩していますが、特にAIやIoTなどデジタル技術の革新スピードが速くなっており、多くの業界に影響を及ぼしています。
従来、従業員の教育は、企業が講師や場所を確保し、決まった時間に従業員を集合させる研修によって行われてきました。しかし、従来の方法では、激変する社会に対応できる人材を育成することは難しくなっています。
MOOCを利用すれば、上記の通り費用や時間、場所の確保にかかる人手やコストが必要ない上、その時点で最新の情報や知識を得ることができます。
なお、人材の早期育成とそれによる即戦力化、学習内容の定着化および知識の蓄積の定着には、アダプティブラーニングも効果が期待されています。もともと学校教育現場での教育手法ですが、一人一人に合わせた学習の最適化は、企業における人材育成でもメリットが大きいといってよいでしょう。
2章でご紹介したCourseraやUdacityでは求職中の学習者と企業のマッチングサービスを行っています。これは、世界中からの膨大な学習履歴から得られる人材情報を企業に紹介するというものです。また、米国Yahoo!ではMOOCを企業内研修に使用しています。
アメリカのIT企業がUdacityと連携して、ITの若手人材を育成するMOOC開講に取り組む例もあります。企業はMOOCを利用するだけでなく、自社に必要な人材を採用・育成するコンテンツを作り、オンライン教育をすることもできるのです。
MOOCをうまく利用すれば、企業はフレキシブルな人材採用・教育が可能になり、従業員はそれぞれの都合の良い場所や時間で学習できるため、双方にメリットがあるといえます。
5. MOOCの課題
メリットしかないように感じられるMOOCですが、以下のような課題もあります。
修了率が低い
東京大学の調査では、MOOCの講座の修了率がわずか10%にも届かない大学が複数あることが報告されています。
MOOCは大学と異なり入学試験がなく、誰でも受講登録ができます。そのため、ハイレベルな講座の内容についていけず、あきらめてしまう学習者が多いと考えられます。また、仕事や育児・介護などが忙しくなり、学習する時間を確保できず修了しないまま放置してしまう場合もあります。
モチベーションの維持が難しい
MOOCは基本的に無料で受講できるため、「これだけ費用をかけたのだから頑張ろう」という気持ちは起こりません。途中で辞めてしまっても、誰かにとがめられることもなければペナルティもありません。簡単に辞められる要素がそろってしまっているといえます。
MOOCの学習者には、受講した講座を修了するという強い意志と、モチベーションを保つ工夫が必要になります。
例えば、講座を選ぶ際、最後に修了証を得られる講座を選択するのもよいでしょう。JMOOCの調査では、モチベーション維持や自己PRのため、75.7%の人が修了証の必要性を感じているという結果が出ています[2]。また、対面学習に参加することもモチベーションの維持につながっているようです。
企業が従業員にMOOCの利用を周知する際には、修了者にインセンティブを与えるなど、積極的に評価する姿勢を見せることも有効です。
6. まとめ
MOOCとは、インターネット環境があれば世界中の誰もが視聴できる、大規模オンライン講座のことです。
簡単な登録をするだけで、基本的には無料で講座を受けることができます。講座の修了要件を満たせば修了証が交付されたり、大学の学位を取得できたりするコースもあります。
MOOCは2012年、アメリカで相次いで3つのプラットフォームが設立されました。世界中の学習者数からみると日本での認知度は高くありませんが、「働き方改革」において学び直し、いわゆるリカレント教育が推進されており、今後、需要が高まっていくでしょう。
受講は一般的に、「オンラインで講座を視聴 → 最後にテストor課題を提出 → 修了要件を満たせば修了証の受領」という流れです。
世界的に有名なMOOCは、以下のようなものがあります。
・Coursera
・edX
・Udacity
・FutureLearn
・Khan Academy
日本にも日本版のMOOC、JMOOCがあり、国内の有名大学や官公庁、民間企業が講座を提供しています。
費用は一切かからず、受講からデジタル形式の修了証の取得まで、全て無料です。一部の講座では、オプションとして、講座動画に登場する講師に直接教えてもらえる対面学習コースがあります。
JMOOCは複数の講座配信プラットフォームをまとめるポータルサイトの役割を果たしており、JMOOCのサイトから以下のプラットフォームが配信する講座を受講することができます。
・gacco
・OpenLearning,Japan
・OUJMOOC
MOOCを利用するメリットとして、以下のようなことが考えられます。
・無料で大学レベルの講座が受けられる
・時間や場所を選ばない
・変化に対応できる人材の育成に利用できる
MOOCには、以下のような課題があります。
・修了率が低い
・モチベーションの維持が難しい
時間や場所を選ばず、費用もかからないMOOCは、仕事や育児・介護などで忙しい社会人の学びに最適といえます。自社の従業員の自己研さんやキャリア構築、また時代の変化に対応できる人材の育成のため、MOOCの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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[1] JMOOC 「大学のオープン化に関する調査結果報告(2019年)」https://www.jmooc.jp/research2019/
[2] JMOOC 「大学のオープン化に関する調査結果報告(2019年)」https://www.jmooc.jp/research2019/
<参考>
「ルポMOOC革命 無料オンライン授業の衝撃」、金成隆一著、岩波書店
JMOOC「大学のオープン化に関する調査結果報告(2018年)」
https://www.jmooc.jp/research2018/
総務省「平成26年版 情報通信白書のポイント 第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc113200.html
文部科学省「MOOC等を活用した教育改善に関する調査研究」
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1357548.htm
慶應義塾大学 デジタルメディア・コンテンツ統合研究センター「FutureLearn」
http://www.dmc.keio.ac.jp/projects/fl.html
東京大学大学院 情報学環・学際情報学府「MOOC実証実験の結果と分析 ―東京大学の2013年の取り組みから―」
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/manage/wp-content/uploads/2018/04/86_5.pdf
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「MOOCによって、「学ぶ」と「働く」が分けられなくなる時代がやって来ます」
https://www.recruit-ms.co.jp/research/2030/opinion/detail18.html
gacco「gaccoとは」
http://gacco.org/about.html
OpenLearning,Japan「よくあるご質問」
https://open.netlearning.co.jp/faq/index.aspx