コンピテンシーとは、仕事で大きな成果や業績を上げている人材に共通する行動特性のことで、人材の育成や採用・配置、評価などに活用されています。
年功序列から能力や成果に基づく人事制度に変更したものの、成果が見えず、従業員の行動にも大きな変化が見られない、と嘆いている経営者や人事担当の方もいるのではないでしょうか。
「能力や成果に注目した人事制度はどのように構築・運用すればよいのか」
本稿ではそのカギとなるコンピテンシーの概要、人事制度にコンピテンシーを活用する方法、そのメリットと注意点などを解説します。人事制度の構築・運用などの参考にしてみてください。
「コンピテンシー」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。
目次
1. コンピテンシーとは
コンピテンシーとは、企業において大きな成果や業績を上げる人材に共通する行動特性のことです。例えば、業績の良い営業担当者であれば、的確な顧客分析、説得力があり魅力的なプレゼンテーション、入念な資料の準備、効果的なアプローチと細やかなアフターフォローなどが挙げられます。
高い業績に結び付く行動特性を分析してコンピテンシーモデルを設定し、他の従業員に学習・実行させることで成果向上が期待できます。また、コンピテンシーモデルに沿った行動がどの程度取れているかで従業員を評価することも可能です。
さらに各職務でコンピテンシーモデルを設定すれば、人材の採用や配置などにも利用できます。
つまり、コンピテンシーを人事制度の構築・運用の核として利用し、それに基づいて人材育成、採用・配置、評価などが展開されるのです。
コンピテンシーを利用した人事制度は、1990年代ごろから日本の企業でも採用されるケースが増えています。年功序列から成果主義に基づく人事制度へ移行した企業の中には、十分な成果が得られずコンピテンシーを活用するケースも少なくありません。
成果主義では、能力が発揮されて実現した「成果」に重きが置かれ、どのような思考や行動などによって能力が発揮されたかは評価されません。その点をカバーし、成果を上げられる人材の育成につながる存在として期待されているのが、コンピテンシーに着目した人事制度なのです。
人事に関する注目トピックを毎週お届け!⇒メルマガ登録する
2. コンピテンシーを活用した人事制度を導入するには
一般的には、コンピテンシーの分析と候補の抽出→評価と修正→事前研修後、コンピテンシーを活用した人事制度の導入開始といった流れで行われます。
2-1. コンピテンシーの分析と抽出
まずは、企業における「ハイパフォーマー」の行動特性を分析します。例えば、各業務で優秀な成果を上げている従業員や、優れたマネージャー・チームリーダーなどです。
分析では、達成思考、秩序や正確性などへの関心、チームワーク、リーダーシップ、分析的思考など、具体的な要素を挙げていきます。結果、能力を発揮するために重要と考えられる要素がリストアップされるので、それを基にコンピテンシーモデルを設定します。
2-2. 評価と修正
コンピテンシーモデルが設定できたら、それが適切であるかどうか評価する必要があります。設定したコンピテンシーモデルを用いて、設定者自身や対象業務を担当する複数の従業員を実際に評価してみてください。
コンピテンシーモデルと照らし合わせ、成果を上げている優秀な従業員なのに合致する点が少なかったり、あまり成果を上げられていない従業員なのに合致する点が多かったりした場合は修正が必要です。
2-3. 事前研修と制度の導入開始
コンピテンシーを活用した人事制度を導入する前に、事前研修を行い、従業員に導入の説明をしましょう。
研修では従業員の理解を得られるよう、コンピテンシーについてや、それを活用した人事制度を導入する意義、運用ルール、評価方法などについて説明します。経営トップが制度の導入を宣言し、重要性をアピールするのもよいでしょう。
3. コンピテンシーを活用した人事制度導入のメリット
ここでは、コンピテンシーを人事制度に活用することで期待できるメリットを紹介します。
3-1. 行動指針や指導基準になる
どのような行動をしたら成果の向上につながるかが明確となるため、コンピテンシーは従業員の行動指針となります。また、管理職では部下を指導するための指導基準にもなり、部下への適切な指導や育成がしやすくなるでしょう。
3-2. 価値観やノウハウの共有化が進む
個人の経験やノウハウといった暗黙知がコンピテンシーモデルに反映されれば、短期間での共有化が実現できます。
関連記事:ナレッジマネジメントツール選びは目的次第 人材育成ならLMS利用も
3-3. 成果・業績向上につながる
コンピテンシーモデルは、成果を上げている人材の行動特性をモデル化したものです。そのため、全従業員が意識的にコンピテンシーモデルに沿った行動を取るようになれば、成果・業績の向上が期待できます。
3-4. 人事制度の中核機能として利用できる
コンピテンシーモデルを根拠とすることで、「成果を上げられる人材」への育成プログラムの策定がしやすくなります。また、人事評価の基準にもなり、公平な評価につながるため、従業員の評価に対する納得感も向上するでしょう。
人材の採用や配置・異動においても、コンピテンシーモデルによって必要な人材像が明確となるので、求める人材により効果的にアプローチできたり、適材適所を実現しやすくなったりすることが期待できます。
4. コンピテンシーを活用した人事制度を導入・運用する際の注意点
コンピテンシーを活用した人事制度にはさまざまなメリットが期待できますが、その導入・運用にはいくつかの注意点があります。
4-1. 導入後のチェックと修正
コンピテンシーを活用した人事制度の導入後は、従業員がモデルに沿った行動を取っているか、効果のチェックが必要です。制度を導入しても従業員の行動に結び付かなければ無意味なので、定期的なチェックが求められます。
また、コンピテンシーモデルに沿った行動が取れていても成果に結び付いていないなら、コンピテンシーモデル自体を修正しなければなりません。制度導入当初は適切に設定されていた場合でも、時間の経過ともにズレが生じる可能性もあります。
つまり、企業の状況に合わせてコンピテンシーモデルのアップデートが必要になるのです。
4-2. コンピテンシーモデルに沿った行動を促すための取り組みも重要
従業員の中には、従前のやり方を是として、新しいやり方を拒絶するタイプもいるでしょう。企業側は、そのような傾向がある従業員を含めた全ての従業員に対し、コンピテンシーモデルに沿った行動を促すための取り組みを実施する必要があります。
例えば、コンピテンシーを活用した人事制度の導入意義を丁寧に説明した上で、評価に応じた昇給や昇格などを明示する、コンピテンシーモデルに基づく適切な指導を受ける機会を提供し効果を体感してもらうなど、従業員のやる気を引き出す取り組みが考えられます。
5. まとめ
コンピテンシーとは、仕事で大きな成果や業績を上げている人材に共通する行動特性のことです。人材の育成や採用・配置、評価などに活用されています。
コンピテンシーを活用した人事制度を導入する流れは下記の通りです。
(1)コンピテンシーの分析と抽出
(2)評価と修正
(3)事前研修と制度の導入開始
コンピテンシーを人事制度に活用すると、下記のようなメリットが期待できます。
・行動指針や指導基準になる
・価値観やノウハウの共有化が進む
・成果・業績向上につながる
・人事制度の中核機能として利用できる
コンピテンシーを活用した人事制度を導入・運用する際は、下記の点に注意しましょう。
・導入後のチェックと修正
・コンピテンシーモデルに沿った行動を促す取り組みの実施
コンピテンシーとして抽出されるのは、成果に結び付く、顕在化された特性です。分析に当たっては、成果主義で重視される「結果」よりも、成果に結び付く「行動」自体や「プロセス」が対象となります。
その特徴からコンピテンシーに着目した人事制度は、成果主義の欠点をカバーし、成果を上げられる人材の育成につながるものとして期待されています。
コンピテンシーを人事制度に利用する動きは日本でも1990年代ごろから増加しています。現在の能力・成果主義の人事制度で上手くいかない場合や成果の向上に結び付く人事制度を構築したい場合は、コンピテンシーの活用を検討してみてはいかがでしょうか。