ジョブローテーションとは、人材育成を目的として配置転換・異動を定期的に行う仕組みを指します。
「個々の従業員が持つ能力や可能性を最大限に引き出し、組織としてのパフォーマンスを向上させたい」
これは企業の経営者の方、人事担当者の方の共通の願いだと思います。
仮に全ての従業員について、潜在的なものも含めて全ての能力や適性を把握することができれば、各種業務に対する人材のパイや選択肢を増やすことができるでしょう。その結果、現在よりも効果的で効率的な配置が可能となり、業績への好影響が期待できることは想像に難くありません。
しかし、個々の従業員の能力や適性を一つ一つ分析して育成計画を立てるのは容易ではありません。
そこで活用されてきたのがジョブローテーションです。多くの企業が個別具体的な教育施策と平行して、ジョブローテーションを行っています。本稿では、ジョブローテーションについて、メリットやデメリット、今後の展望などを解説します。ぜひ参考にしてください。
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目次
1. ジョブローテーションとは
ジョブローテーションとは、個々の従業員の能力開発を目的として、戦略的に配置転換や人事異動を行う仕組みです。
勤務開始から職種や職務内容、勤務地を固定化せず、定期的に異動を繰り返しながら能力や適性を見て配置を調整していく形が一般的で、日本の終身雇用制度を背景に発達した仕組みといわれています。
特になじみが深いのは、新人教育でしょう。入社後の教育施策の一環としてジョブローテーションを行う企業は多くあります。
また、新人だけでなく、リーダー育成や経営幹部候補の育成などにも活用されます。実務経験以外にも、例えば自社の事業内容や経営状況を俯瞰(ふかん)する視点を養ったり、マネジメントの経験を積んだりするといった活用の仕方もあるでしょう。
新人のうちは短期間で広い業務を経験させる形が一般的ですが、ポジションが高くなるにつれ専門性が高まり、目的も明確になっていくため、異動範囲が狭まり、在任期間も数年単位と長期化する傾向があります。
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2. ジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションは、従業員と企業、双方にメリットをもたらします。それぞれ主だったものを確認してみましょう。
2-1. 従業員にとってのメリット
- 自社の業務や組織に対する理解を深めることができる
- 自分自身の成長や気付きにつながる
- 社内ネットワークの構築
- 働きがいを見いだすきっかけとなる
自社の業務や組織に対する理解を深めることができる
ジョブローテーションを行うことで、自社の業務や各部署の働き、組織の全体像などについての理解を深めることができます。
自分自身の成長や気付きにつながる
さまざまな部署の仕事に挑戦し、覚えていくことで、多様なスキルを身に付けることができます。同時に、自分では認識していなかった適性に気付いたり、興味を引かれる業務が見つかったりするなど、その後のキャリアに新しい展開をもたらす「発見」があり得ます。
こうした出来事は、自分自身が持つ可能性に期待を膨らませ、新しいことにチャレンジしたり、キャリアを豊かにしてゆくきっかけとなったりするでしょう。
社内ネットワークの構築
さまざまな職場での出会いを通じ、人的ネットワークが広がります。同期の結び付きはもちろんですが、各職場における先輩や上司、実務を巡るさまざまなステークホルダーとの交流は、その後のビジネス人生の財産となり得るでしょう。
将来的に仕事を回す立場になったとき、関係他部署にネットワークがあることは実務面でも大いに役立ちますし、特にマネジメント層の場合、組織を動かしていくために必要な人脈を築くことは自身のパフォーマンスに直結します。
また、各分野のエキスパートや、さまざまな働き方をしている人々を見ることで、キャリア上の示唆や自身の働き方を考えるきっかけを得ることも大切です。理想のキャリア像、理想の働き方を自分自身で考え、実現していく力につながっていくでしょう。
働きがいを見いだすきっかけとなる
さまざまな仕事・人との出会いは、視野を広げ、多角的に考える力を養います。
例えば、自分自身が今担当している業務が次にどこの部署の誰の業務につながっていくのか、自社の事業にとってどのような意味を持つのか、社会にどのように貢献するのか、そういったことを考えることは、自分自身のやりがいにつながります。
また、定期的に担当業務が変わるため、常に新しい挑戦ができ、閉塞感やマンネリ感を持ちにくいという点もメリットです。
2-2. 企業にとってのメリット
企業にとってのメリットは、2-1で挙げた従業員にとってのメリットの延長線上にあります。リストを変換してみましょう。
自社の業務や組織に対する理解を深めることができる
→近年エンゲージメントという言葉が言われていますが、従業員が自社についての理解を深めることは、自社への愛着心を高めるための第一歩といえます。
もちろん教育も必要ですが、それとは別に、業務を通じて自分の肌で自社の風土を理解し、自分で見聞きして各部署の役割やミッションを把握していくことで、帰属意識の強化が期待できます。
自分自身の成長や気付きにつながる
→人材の成長は組織としての成長につながります。従業員が自分自身の成長に喜びを見いだし、学習する姿勢を身に付けることは、企業にとって大きなメリットです。多くの企業がジョブローテーションを教育制度として導入している理由はここにあります。
社内ネットワークの構築
→日本企業の組織構造は縦割りが基本です。部門をまたいで人材を移動させることで、社内の風通しを良くする効果が期待できるでしょう。
風土づくりはもちろんのこと、実務面でも、横のつながりが強化されることのメリットはたくさんあります。市場に関する情報交換や各種改善施策の共有、プロジェクトの相互支援など、自社のビジネスを加速させるさまざまな効果が期待できるでしょう。
働きがいを見いだすきっかけとなる
→従業員のモチベーションの維持・向上は企業にとって大きなテーマです。
モチベーション対策には企業理念の浸透、マネジメント手法の改善、育成制度の充実などさまざまな打ち手があり得ますが、ジョブローテーションを通して従業員が主体的に働く意義や楽しさを見いだしてくれれば、それは各施策にとって大きなサポートとなります。
また、従業員が視野を広げ、個々人の興味に沿って知見を増やすことは、イノベーションの可能性を広げます。イノベーションの源泉は多様性です。
このように、ジョブローテーションには人の成長を促すさまざまな効果が期待できます。いずれも恣意的に目指される効果ではなく、総合的かつ自然発生的にもたらされるところが共通点といえるでしょう。
また、企業が一つ一つの機会を「与える」のではなく、従業員が業務を通じて「自ら学び、成長する」点は教育制度として非常に効率的といえます。
3. ジョブローテーションのデメリット、導入時の注意点
良いこと尽くしに見えるジョブローテーションですが、注意しなければならない点もあります。主なものを確認しておきましょう。
- 一時的に業務効率が下がる
- 成長にバラツキが生じる
- モチベーションが下がる可能性もある
- スペシャリスト育成が遅れるリスクがある
一時的に業務効率が下がる
定期的に新しい業務を担当することになるため、従業員には新しい仕事を覚える負荷、現場には教育・指導の負荷がかかります。配属後、一時的に業務効率が下がるリスクを想定しておく必要があるでしょう。
成長にバラツキが生じる
ジョブローテーションを通じて「どれだけ成長できるか」はある意味従業員次第というところがあります。明確に課題を提示し、ゴールを目指す教育手法ではないため、気付きややりがいの見出し方には個人差が生じる可能性があります。
モチベーションが下がる可能性もある
そもそも定期的に仕事が変わることに不安や不満を覚えたり、働く環境が変わることに強いストレスを感じたりする従業員もいるでしょう。性質的な要因だけでなく、キャリア志向の従業員にとっては、ジョブローテーションは無用な遠回りに感じるかもしれません。
そういった従業員は、ジョブローテーションの機会をポジティブにとらえることができず、逆にモチベーションが下がってしまう可能性があります。
スペシャリスト育成が遅れるリスクがある
当然ながら、定期的に業務が変わると、特定の分野の専門性を追求することはできません。全ての従業員がオールラウンド人材になる素質を持っているわけではなく、またその必ずしもその必要がないことを考えると、ジョブローテーションはスペシャリスト向きの人材にとって機会損失になり得るといえます。
このように、ジョブローテーションは「総合的かつ自然発生的にもたらされる効果」に期待するところがあるだけに、個々の従業員に与える影響を想定しにくいというデメリットがあります。
もちろん、個々の従業員にこの施策がマッチするかどうか、またその従業員がスペシャリスト向きかどうか、といったことを新人の段階で判断するのは困難です。
それゆえに、ジョブローテーションを実施する際は、定期的に面談を行うなどして、早期に適性を見極めたり、ミスマッチ事案を検知したりするための工夫を行うことが大切です。
4. ジョブローテーションの今後
冒頭に述べた通り、ジョブローテーションは日本の終身雇用制度を前提とした仕組みです。しかし、終身雇用制度は崩壊しつつあり、代わって能力や成果に基づく人事制度が普及してきています。
また、2016年に政府が打ち出した「働き方改革」の進展に伴い、日本のビジネスパーソンの働き方は今後どんどん多様化していくでしょう。
一つの企業に長く所属し、企業が提供する教育制度の中で自身のキャリアを考えていくという習慣はなくなるかもしれません。教育制度の在り方や、時間軸の考え方そのものが見直されていく可能性もあります。従業員には、より自律的に自らのビジネスパーソンライフを設計・構築していく姿勢と努力が求められることになるでしょう。
従来のジョブローテーションは新人・若手教育という側面が強いこともあり、入社年度が同じまたは近しい集団に一律に適用するのが一般的でしたが、従業員の能力や働き方が多様化するにつれ、同様の制度運用は困難になっていきます。
そこで、「社内公募制度」や「社内FA制度」が注目を浴びつつあります。前者は「求人」、後者は「求職」を社内で行う仕組みであり、従業員の希望や主体性を尊重しながら多様な業務を経験してもらうことが可能です。
ジョブローテーションは今後上記のような新しい制度に取って代わるか、併用されていくことになるかもしれません。企業によって最適な形は異なるでしょう。変革の時代にどのような施策が有効か、個々の企業が考えていく必要があります。
5. まとめ
ジョブローテーションとは、個々の従業員の能力開発を目的として、戦略的に配置転換や人事異動を行う仕組みです。
新人育成だけでなく、リーダー育成や経営幹部候補の育成などにも活用されており、異動範囲や配属期間は階層や目的によってさまざまです。
ジョブローテーションの主なメリットには、以下のようなものが挙げられます。
■従業員にとってのメリット
・自社の業務や組織に対する理解を深めることができる
・自分自身の成長や気付きにつながる
・社内ネットワークの構築
・働きがいを見いだすきっかけとなる
■企業にとってのメリット
・従業員のエンゲージメントを高めることができる
・従業員の主体的な成長が期待できる
・部門横断的な情報交換や協力体制ができ、ビジネスが加速する
・モチベーション維持、イノベーションに役立つ
一方で、デメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
・一時的に業務効率が下がる
・成長にバラツキが生じる
・モチベーションが下がる可能性もある
・スペシャリスト育成が遅れるリスクがある
ジョブローテーションは日本の終身効用制度の中で発達した教育制度なので、終身雇用制度が崩壊し、働き方が多様化する今後、従来のようには機能しなくなる可能性があります。代わって注目を浴びているのは「社内公募制度」「社内FA制度」です。
経営環境の変化を見つつ、企業ごとに最適な形を考えていく必要があります。ジョブローテーションを既に行っている企業も、そうでない企業も、これを機に見直しや導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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