「人材採用がうまくいかない、手塩にかけた従業員の離職も止まらない。
採用コストは抑えつつ、企業にマッチした人材を獲得できないものか……」
人手不足が進行していく中で、採用に頭を悩ませている人事担当の方は多いのではないでしょうか。
人材紹介や求人広告など、従来の採用方法だけでは思うように採用活動が進まない場合は、欧米でも活用されている「リファラル採用」を活用してみるのはいかがでしょうか?
リファラル採用とは、企業が従業員などに人材を紹介してもらう採用方法です。企業から転職潜在層にアプローチできる新たな人材獲得手段の1つとして日本でも導入され始めており、中途採用において56.1%の企業が導入しているという調査結果[1]もあります。
この記事では、そもそもリファラル採用とはどのような採用方法なのか、そのメリット・デメリットをご紹介し、企業の成功事例を基に「失敗しないリファラル採用の運用方法」をお伝えします。
「リファラル採用」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。
目次
1. リファラル採用とは?概要や特徴、背景を解説
まずはリファラル採用の概要をご紹介しましょう。
1-1. リファラル採用の概要・特徴
リファラル採用とは、企業が現役の従業員、OBOGに自社の社風にマッチした人材を推薦してもらう採用方法です。「リファラルリクルーティング」とも呼ばれ、リファラル(referral)は英語で「紹介」「推薦」という意味を持っています。
企業をよく理解した従業員の紹介であるため、マッチング率・定着率が高いことが特徴です。
また、企業(または従業員)が直接応募者にコンタクトを取る「ダイレクトリクルーティング」と呼ばれる採用方法の1つなので、エージェントや求人広告を通さず、採用コストを低く抑えることができます。
1-2. リファラル採用が広まった背景
少子高齢化が進んだことによって、1995年を境に生産年齢人口は減少に転じ、日本は恒常的な人手不足に陥っています[2]。2022年6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.27倍[3]となり、売り手市場の指標となる1.0倍を大きく上回りました。
加えて、2019年の転職者は過去最多の351万人を記録し、転職理由が「会社都合」や「雇用契約の満了」ではなく「より良い条件の仕事を探すため」に転職した人も、127万人と2002年以降で過去最多となりました[4]。
出典:総務省「 統計トピックス No.123 増加傾向が続く転職者の状況」,2020年2月21日公表,P2,https://www.stat.go.jp/data/roudou/topics/pdf/topics123.pdf(閲覧日:2022年11月1日)
日本でも若年層の転職に関する意識がポジティブに変わってきており、雇用の流動性は今後ますます高まっていくでしょう[5]。
出典:パーソルキャリア株式会社「転職サービス「doda」、転職に関する意識調査」,https://www.persol-career.co.jp/pressroom/news/research/2021/20210706_02/(閲覧日:2022年11月1日)
雇用の流動性が拡大すると優秀層を獲得しやすい一方、手塩にかけた従業員が離職してしまう可能性も高まります。企業側としては、一定数の従業員の離職は止められないものとして、より企業にマッチした母集団形成が求められます。
こうした背景により、「コストをかけずに自社の採用力を強化したい」「従業員の離職を減らすため、これまで以上に社風にマッチした人材を採用したい」という理由でリファラル採用を導入する企業が増えてきました。
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2. リファラル採用のメリットとデメリット
リファラル採用には、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?それらをきちんと把握することで、リファラル採用の効果を最大化できます。
2-1. リファラル採用のメリットとは
リファラル採用には、以下のメリットがあります。
- 採用コスト削減
- ミスマッチの少ない採用
- 他の採用方法で出会えない転職潜在層に出会うことができる
採用コスト削減
リファラル採用にかかるトータルの採用コストは、他の採用手法に比べ非常に低くなることがほとんどです。
リファラル採用の場合は、従業員が人材を自社に紹介してくれるため、求人媒体や人材紹介サービスを利用する必要がなく、基本的に採用の広報活動における費用がかかりません。
必要となるコストは、例えば紹介報酬制度(インセンティブ)や紹介時の会食費用、専用ツールを使用する場合はその使用料などです。
ミスマッチの少ない採用
リファラル採用の一番のメリットは、企業にマッチした人材を集めやすい点です。自社が求めている人材像を理解した現場従業員の紹介であるため、マッチング率が非常に高く、それゆえ採用の決定率も高いとされています。
応募者にとっても、事前に企業の理念や社風、業務内容を伝えられているため、入社後のギャップが少なく、職場での定着率が高い傾向にあります。
他の採用方法で出会えない転職潜在層に出会うことができる
リファラル採用では「このチームのこのポジションには友人の〇〇さんが合うかもしれない」と、転職サービスに登録していない人材に声掛けができるため、効率良く転職潜在層にアプローチすることができます。
転職潜在層の場合、選考における競合がいない場合が多く、他社との競争をうまく回避しながら、ピンポイントに欲しい人材を獲得できることも魅力です。
リファラル採用では、コストを抑え、ミスマッチの少ない人材や転職潜在層へアプローチできるというメリットがあります。
2-2. リファラル採用のデメリットとは
リファラル採用には、以下のデメリットがあります。
- 不採用やトラブル時における人間関係の悪化
- 人材の同質化(多様性の妨げになる)リスク
- 紹介した従業員の退職による、応募者のモチベーションダウン
不採用やトラブル時における人間関係の悪化
リファラル採用は「従業員からの紹介」という性格上、紹介者、応募者の双方に対して配慮が必要です。
リファラル採用で想定される一番のデメリットとして、不採用になった場合の紹介者と応募者の関係悪化が考えられます。
人材の同質化(多様性の妨げになる)リスク
同じ大学の同じ研究室の〇〇さん、前職の同じ部署で同じ業務内容だった〇〇さん、といったように、紹介者と紹介された人の過去の経歴が似通うなど、リファラル採用によって人材が同質化しやすくなるリスクがあります。
紹介した従業員の退職による、応募者のモチベーションダウン
応募者は紹介者との信頼関係を基に入社しています。そのため、応募者は紹介者の評判を損なわないよう、パフォーマンスを発揮しようと努力しますが、紹介者が退職した場合、モチベーションや生産性が低下し、芋づる式に退職してしまう可能性があります。
リファラル採用では、紹介者と応募者の関係悪化、人材が同質化しやすくなる、紹介者の退職が応募者のモチベーションを下げてしまうデメリットがあります。
2-3. リファラル採用のデメリットへの対処方法
続いてはリファラル採用のデメリットへの対処方法と、実際に企業が取り組んでいる事例を紹介します。
- 不採用時の仕組みやフォロー体制を整備して人間関係の悪化を防ぐ
- 採用方法を多様化し、人材の同質化を防ぐ
- 従業員のエンゲージメントを高め、退職リスクを軽減する
不採用時の仕組みやフォロー体制を整備して人間関係の悪化を防ぐ
株式会社マネーフォワードでは、応募者は紹介を受けたときに「GOENカード」という紹介状のようなものをもらいます。企業の採用試験を受けたくなった場合、自分の好きなタイミングで応募、選考へ進むことができますが、その選考状況について紹介者に知らせるか否かは応募者が選択できるようにしています。
こういった制度があれば、万が一不採用になった場合でも、紹介者と応募者の関係性への影響を軽減させることができます。
採用方法を多様化し、人材の同質化を防ぐ
採用経路としてリファラル採用が最も多いアメリカでも、大半の企業において採用方法はリファラル採用一択ではなく、いくつかバリエーションを持たせています。
出典:杉田 万起,「米国の社員採用のしくみ」,『リクルートワークス研究所』,https://www.works-i.com/research/paper/works-review/item/120601_WR07_19.pdf(閲覧日:2022年11月1日)
リファラル採用だけでは人材の幅に限界があり、また採用の数も確実性がありません。リファラル採用はあくまでも採用方法の1つと捉え、採用方法にバリエーションを持たせることが重要です。
従業員のエンゲージメントを高め、退職リスクを軽減する
そもそもリファラル採用を実現するためには、従業員に「自社を紹介したい」と思ってもらわなければなりません。つまり、「従業員のエンゲージメント」を高めることがリファラル採用を成功させる条件であり、それを実現できれば、同時に従業員の退職リスクを減らすことができます。
エンゲージメントを高める方法などについては、以下の記事もご参照ください。
3. リファラル採用がうまく運用できない理由とは
リファラル採用には、 多くのメリットが期待できます。しかし、日本では比較的新しい採用方法のため、「リファラル採用を導入してみたものの、まだうまく活用できていない」という企業も多いのが現状です。
エン・ジャパン株式会社のアンケート[6]では、リファラル採用(社員紹介)制度を導入・推進している企業のうち、制度がうまく運用されていると回答した企業の割合は38%、うまく運用されていないと回答した企業の割合は31%でした。
「リファラル(社員紹介)採用制度は、上手く運用されていますか?」に対する回答
出典:エン・ジャパン株式会「第127回『リファラル(社員紹介)採用について』」,『en人事のミカタ』,https://partners.en-japan.com/enquetereport/old/127/(閲覧日:2022年11月1日)
同アンケートで集まった「上手く運用できていない理由」「よくあるトラブル」についてご紹介します。
「社内での認知が浸透しきれていない(プロセス、ポジションなど)」
リファラル採用制度はあるもののうまく運用できていない理由として、社内での認知が低く、1年で1~2件程度しか紹介が発生しないケースがあるようです。
「従業員のエンゲージメントが低く、紹介してくれる人が少ない」
先にも述べた通り、リファラル採用を実現するためには従業員に「紹介したい」と思ってもらわなければなりません。同アンケートでは、「社員は、良いところも見ているが、それ以上に厳しい会社の裏事情を見ているので、紹介してくれる人は稀である」という意見もありました。
4. 失敗しないリファラル採用の運用方法とは?企業の成功事例を紹介
それでは、リファラル採用をうまく運用するにはどうしたらよいのでしょうか?リファラル採用に成功している企業の事例から成功のポイントをご紹介します。
リファラル採用の社内告知を徹底し、従業員への周知を強化する
株式会社セールスフォース・ジャパンでは、年間採用人数の約半数がリファラル採用経由です。
「こういう枠(ポジション)が空いているので力を貸して欲しい」というメッセージを採用部門から社内コミュニケーションツールで積極的に配信するとともに、経営層からも社内に周知してもらうなど、多角的な周知に注力しました。
また、紹介した従業員に対して旅行券をプレゼントするなど、従業員が進んで紹介したくなるようなキャンペーンも実施することで、リファラル採用の定着化を図ったとのことです。
従業員のエンゲージメントを高め「自然に人に紹介したいと思える企業」となる
リファラル採用を成功させるポイントは、従業員のエンゲージメントを高めることです。そのためには、日々エンゲージメントを測り、課題を見つけ改善していくPDCAサイクルを回す必要があります。
株式会社メルカリでは3カ月ごとにエンゲージメントサーベイを実施し、「メルカリという企業を他の人に勧めたいと思うか?」という指標で定点観測しています。
また、採用を目的としたオウンドメディア「mercan(メルカン)」を運営しており、そこでは同社の「バリュー」「ミッション」を体現した魅力的な働く人々の様子が掲載されています。
自社で働く人を軸に、チームの紹介や社内での出来事を社内外に発信することで、採用活動だけでなく、社内でのさらなるバリュー・ミッションの浸透に生かされています。
「エンゲージメントが高い状態」=「高いレベルでバリューが実現・発現されている状態」と定義している同社では、オウンドメディアを利用し、従業員へのバリュー・ミッションの浸透を進めています。その結果、リファラル採用で入社した従業員が全体の5割となりました[7]。
企業のバリュー、ミッションを従業員に浸透させるには研修も有効です。例えば、企業の軸となるバリュー、ミッションへの理解を深められるeラーニング教材を作成すれば、中途採用者などに対しても、個別のタイミングに合わせた研修を実施できます。
>>ライトワークスのeラーニング教材制作サービスをご活用ください。
バリューやミッションは採用時だけではなく継続的に伝えることで、自社への理解が深まり、社風に対する共感につながります。それは、従業員が「この企業で活躍したい」「この組織に貢献したい」と思うきっかけとなるでしょう。結果、エンゲージメントの向上が期待できます。
5. まとめ
リファラル採用とは、従業員に企業に合う人材を紹介してもらう採用方法です。人材のミスマッチを防ぎ、採用のコストも抑えられるといった特徴があります。
恒常的な人手不足の中、転職にポジティブなイメージを持つ人が増加し、雇用の流動性が拡大してきたことを背景に、よりミスマッチのない採用を、コストを抑えて実施したい企業が増えてきました。
リファラル採用には、以下のメリット・デメリットがあります。
【メリット】
・従業員の紹介による採用のため、採用コストを削減することができる
・現役従業員の紹介のため、マッチング率や定着率が高い
・転職活動をしていない知り合いを紹介してもらえるので、転職潜在層へ効率良くアプローチできる
【デメリット】
・不採用やトラブル時における人間関係の悪化
・人材の同質化(多様性の妨げになる)リスク
・紹介した従業員の退職による、応募者のモチベーションダウン
リファラル採用を成功させるには、以下のようなポイントに注意し、しっかりと対策をして運用することが必要です。
・紹介者と応募者の間で応募・採用状況が見えないような仕組み作りをする
・リファラル採用に固執せず、採用方法にバリエーションを持たせる
・従業員のエンゲージメントを高めることで、組織で活躍したい、貢献したいと思ってもらう
リファラル採用の成功は、従業員の協力をなくしては実現できません。制度を作っただけでは不十分で、リファラル採用を継続するためには既存従業員だけでなく新たに仲間に加わってくれたメンバーにも「働く場所として紹介したくなる企業」と思ってもらうことが必要です。
まずは自社の従業員に働きがいを感じてもらい、従業員のエンゲージメントを高めていくことが重要です。従業員に自社の「ファン」になってもらい、自然と「紹介したくなる企業」となることが、失敗しないリファラル採用のポイントとなるでしょう。
[1] 株式会社マイナビ「「中途採用状況調査(2021年版)」を発表」,https://www.mynavi.jp/news/2021/03/post_30192.html(閲覧日:2022年11月1日)
[2] 総務省「情報通信白書令和4年版」,https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121110.html(閲覧日:2022年11月1日)
[3] 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和4年6月分)について」,https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26959.html(閲覧日:2022年11月1日)
[4] 総務省「統計トピックス No.123増加傾向が続く転職者の状況」,2020年2月21日公表,https://www.stat.go.jp/data/roudou/topics/pdf/topics123.pdf(閲覧日:2022年11月1日)
[5] パーソルキャリア株式会社「転職サービス『doda』、転職に関する意識調査」,https://www.persol-career.co.jp/pressroom/news/research/2021/20210706_02/(閲覧日:2022年11月1日)
[6] エン・ジャパン株式会「第127回『リファラル(社員紹介)採用について』」,『en人事のミカタ』,https://partners.en-japan.com/enquetereport/old/127/ (閲覧日:2022年11月1日)
[7] 濱崎陽平「優秀な「知り合い」を採用 メルカリ、富士通が頼る社員人脈」,『Wedge ONLINE PREMIUM』,https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17638
参考)
小川 昌之,「リファラル採用の体験について本気になって考えた。『GOENカード』が生まれるまでの話。」,『wantedly』,2022年1月18日, https://www.wantedly.com/companies/moneyforward/post_articles/173222(閲覧日:2022年11月1日)
Referral Recruiting AWARD 2018受賞企業インタビュー, 株式会社セールスフォース・ドットコム「グローバル全体で行う社員紹介制度。日本でも社員のエンゲージメントを強化し、自発的に仲間を募るカルチャーを創出。」,2019年4月8日, https://jp.refcome.com/events/award/interview2018/6LSOqSv39nImo7FBLcxdC6(閲覧日:2022年11月1日)
メルカリ「mercan」, https://mercan.mercari.com/(閲覧日:2022年11月1日)
株式会社メルカリ 木下 達夫,ミキワメラボ,「メルカリ流 エンゲージメントの高いチームの作り方」2022年9月30日,
https://www.recme.jp/lab/entry/hakurankai220726-01/(閲覧日:2022年11月1日)