もしも何らかの理由で現在の経営トップが突然会社を去ってしまったら―。
あなたの会社は大丈夫ですか?
サクセッションプランはそんなときのために企業が用意しておくべきものです。
さっそく、詳しく見ていきましょう。
■人材育成計画の方法から効果的な教育手法までこれ1冊で解説!
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目次
1. サクセッションプランとは
Successionは「後継」を意味します。サクセッションプランとは、特に経営に近いリーダー層の交代に備えるための「後継者育成制度」のことです。「後継者育成」と聞くと特定の人物を対象にしたリーダー教育のように思えますが、最近はリーダー候補の人材を一定数ストックし、不測の事態に備えるという側面が強くなっています。
空いたポストにその時点で候補となる人材を当てるのではなく、経営幹部候補群を事前にリスト化し、長期的なプランに基づいて育成を行っていく点が従来の継承プロセスと異なるところです。事業計画を見据えて育成を行うことになるので、より積極的かつ合理的な人事戦略といえるでしょう。
サクセッションプランでは、主要なポストが空いたら予定されていた人材をそこに当てることになります。また、ポストを特定せずに優秀な人材をプールしておくという施策を同時に行うことも多いようです。
こうした手法は、人事戦略に人材育成の視点を強く反映させたものといえるでしょう。
2. サクセッションプランの興り
サクセッションプランについて最初に詳しく述べたのはウォルター・ロバート・マーラーの「Executive Continuity」という書籍[1]だといわれています。
マーラーは1970年代にゼネラル・エレクトリック社の継承プロセスを構築し、同社のサクセッションプランはジャック・ウェルチの時代に企業における継承プロセスのゴールド・スタンダードとなりました。その特徴は、政治的な思惑を排除し、客観性を重視した選抜、育成、能力評価を採用したことにあります。この考え方が現在のサクセッションプランの下地になっているのです。
ちなみに、彼が1972年に設立したマーラー・カンパニー[2]は、現在もリーダー育成のコンサルティングを行っています。
3. サクセッションプランが注目される背景
昨今サクセッションプランが注目されている背景には、企業の後継者不足があります。
帝国データバンクの2017年度調査によると、国内企業の3分の2にあたる66.5%が後継者不在の状態で、この率は2016年2月の前回調査から0.4ポイント増えています[3]。
また、経済産業省の試算によると、2025年には6割以上の中小企業で経営者が70歳を超え、このうち現時点で後継者が決まっていない企業は127万社。廃業の増加により、25年までの累計で、約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性があるといいます[4]。
日本企業において中小企業の数が占める割合は実に99.7%。雇用者数でみると7割を占めています[5]。後継者問題はもはや日本経済の将来を左右する国家問題となっているのです。
これに対して国は、事業承継ガイドラインの改訂や、事業継承ネットワークの全国展開、税制の要件緩和などに乗り出しています[6]。
4. サクセッションプランの作り方
サクセッションプランに決まった形はありません。早い段階で優秀な従業員を選抜し、将来的に経営を任せられる人材に育て上げていくことを目的に、各社が独自の取り組みを行っているといえます。以下では骨子となる3ステップをご紹介します。
4-1. ステップ1:人材要件を定義する
将来経営幹部入りする人材についてまず重要視されるのは、自社のミッション、ビジョン、バリューなどの経営理念を理解していることです。また、経営戦略や企業風土に対する理解・認識も不可欠です。
裏を返せば、会社側は、自社の経営理念や長期的な経営戦略などを明文化しておく必要があるということです。求める人材の定義はサクセッションプラン策定の大前提となりますので、将来経営を担うために必要な知識、スキル、コンピテンシーやマインドなどをできるだけ具体的に洗い出しておくことが大切です。選抜においても育成においても、これが評価基準となってきます。
4-2. ステップ2:適した人材を選抜する
求める人材像が決まったら、それに見合う人材を候補として選抜します。選抜においては、特定のポストの後継者を選ぶのか、プール人材を選ぶのかで多少考え方が変わって来ます。
前者の場合、特定のポストが前提となる分、候補選びの対象範囲はプール人材の場合と比べて狭くなります。例えば営業部の長の後任に、技術部門の課長層を選ぶことはまずないといえるでしょう。実際の継承までの期間がどの程度かにもよりますが、重要なポストほど、候補者は現職者の専門性や組織に近いところから選抜されることになるでしょう。
プール人材の場合は、階層別研修や選抜研修などを通して優秀な人材を選抜する方法が一般的です。選抜研修では、ケーススタディや実際の経営課題に取り組むアクションラーニングを取り入れる企業も多いようです。選抜用のアセスメントやポテンシャル診断、360℃評価などを提供している専門業者も多いので、そういったサービスを利用する方法もあるかもしれません。
いずれにせよ、知識やスキルだけでなく、リーダーシップ性やコミュニケーション能力、総合的な人間力などを評価する必要があると言えるでしょう。
4-3. ステップ3:選抜した人材を育成する
育成の方法も各社様々といえますが、自社の経営に関する理解や経営学(MBA)の基礎学習、実践力を高めるためのアクションラーニングなどを組み合わせて取り入れている企業が多いようです。最近ではグローバルリーダーの育成プログラムとして、海外派遣型のアクションラーニングを行う企業もみられます。
また、配置や登用を通じて成長を促すことも大切です。特に若手の場合、早いうちから様々な職種や部署を経験することにより、実務能力や判断力が身に付きますし、自社の事業に対する理解や社内ネットワークの構築などに役立ちます。また、一つ上のポジションに配置して管理職の視点を養うといった工夫も考えられます。
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5. まとめ
サクセッションプランとは、経営に近いリーダー層の交代に備えるための「後継者育成制度」です。経営幹部候補となる人材をストックし、長期的なプランに基づいて育成を行っていく点が特徴的です。
サクセッションプランの概念は、1970-80年代に構築されたゼネラル・エレクトリック社の継承プロセスを元に形成されました。昨今日本で注目を集めている背景には、企業の後継者不足問題があります。
その策定ステップには、大きく以下の3つが挙げられるでしょう。
ステップ1:人材要件を定義する
ステップ2:適した人材を選抜する
ステップ3:選抜した人材を育成する
サクセッションプランには、将来の会社経営がかかっています。プランの策定にあたり、人事部には、自社の経営理念は中長期的な事業方針に照らし、5年後、10年後にどのようなリーダーが必要になるのかをしっかり見極め、最適な選抜・育成プランを作り上げていく視点が求められるでしょう。
<脚注情報>
[1] Walter Robert Mahler(1973), Executive continuity: how to build and retain an effective management team, Dow Jones-Irwin.
[2] Mahler Company:http://www.mahlerco.com/background.aspx
[3] 帝国データバンク(2017/1/28)「2017年 後継者問題に関する企業の実態調査」<https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p171108.html>
[4] 日本経済新聞(2017/10/20)「放置できない中小企業の後継者不足」<https://www.nikkei.com/article/DGXKZO2290616031102017EA1000/>
[5] 中小企業庁「2017年版中小企業白書 概要」<http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/h29_pdf_mokujityuuGaiyou.pdf>
[6] 経済産業省(2017.7)「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について(事業承継5ヶ年計画)」<http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170707shoukei1.pdf>