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MBAの不都合な真実 ビジネスパーソンの知的武装の方法

MBAの不都合な真実 ビジネスパーソンの知的武装の方法

「営業は泥臭くやれ」

これは筆者が駆け出しの営業マンだったときによく言われた台詞です。このありがたい教訓の真意を理解することができるでしょうか。ここにMBA(経営学修士)を考えるヒントがあります。

競争が激化する今日のグローバル経済において、ビジネスパーソンの知的武装が不要だと考える人はほとんどいないと思います。そこで検討されることになるのがMBAです。本家のアメリカではメジャーな存在となって久しいですが、日本においてもMBAは珍しいものではなくなりつつあります。

一方で、MBA取得には時間も費用もかかります。そのため、本当に役に立つのか、意味があるのかといった疑問も生じます。本稿では、MBAに対する批判的意見を踏まえたうえで、MBAの戦略的意義について説明をしたいと思います。

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1. MBAに対する批判的な意見

MBAについて批判的な意見の代表は、ミンツバーグの「MBAが会社を滅ぼす」(日経BP)でしょう。経営学界の大御所によるご宣託だけにインパクトは大きいと言えます。日本でもミンツバーグに便乗する形で早稲田大学ビジネススクールの名物教授だった遠藤功の「結論を言おう、日本人にMBAはいらない」(角川新書)という批判があります。

北米と日本の大物による批判ですから、それを無視するわけにはいきません。だからと言って、「大先生が言っているから」という理由で批判を鵜呑みにするようではプロのビジネスパーソンとして失格です。そこで、まずはMBA批判の内容を見てみましょう。

1-1. ミンツバーグによるMBA批判

ミンツバーグの批判を一言で言うと、ビジネススクールは間違った方法で教育をしているので、間違った人材(マネジャーとして不適格な勘違い野郎)を養成しているというものです。特にやり玉に挙げているのがMBAの王者であるハーバードのケーススタディです。ミンツバーグの指摘の概要は次のとおりです。

  • 複雑なビジネスの現実をわずか20ページ程度のケースにパッケージ化するという驚くべき単純化をしている。しかし、実際のビジネスの現場は歴史的経緯、文脈、暗黙知が複雑に絡み合っていて、ケースとはまったく違う。
  • そのようなリアリティのない限られた情報を分析してGM(General Manager:事業責任者)として意思決定をするための結論をビジネススクールでは導くが、そこで終わり。その結論は決して実行に移されることはない。しかし、実際のビジネスでは実行されるかどうかが本当の勝負になる。
  • 限られた情報を効率的に分析し、論理的な結論を導いて他人を説得するマネジャーを育てることになる。しかし、実際のビジネスはオフィスを飛び出して物事の渦中に首を突っ込み、他の人々を動かすことによって結果を生み出さなければならない。そのために不可欠になるのがヒトに関するスキルであるソフトスキル(フィードバック、チームビルディング、権限委譲、etc.)だが、ソフトスキルはビジネススクールでは無視されている。
  • マネジメントは、サイエンス(論理)、アート(創造性)、クラフト(経験)の3つの要素から成るが、ビジネススクールはサイエンスのみにフォーカスしている。数値化されにくい変数(ソフトデータ)は無視され、数値化しやすい変数(ハードデータ)だけに基づいて判断する計算型マネジャー(ビジネスの官僚)を養成している。
  • 戦略を創造するためには、創意工夫(アート)と未来を思い描ける実務的な思考(クラフト)が欠かせないが、計算に頼るマネジャーは流行の戦略をコピーするか既存の戦略を修正して流用するのが関の山。分析と計画はするが、戦略は立てない。

そして、イギリスの貴族制のくびきをかなぐり捨てたことを誇りにしてきたアメリカで、強欲を礼賛するMBAという貴族階級が台頭しつつあると皮肉っています。

1-2. 遠藤功によるMBA批判

ミンツバーグの主張の前提には、MBAを取った若手がいきなり会社の幹部になる(あるいは、なって当然と思っている)というアメリカのビジネス界におけるMBAの過大評価があります。そのため、MBAに対する舌鋒が鋭くなっているのですが、幸か不幸かこの前提は日本には当てはまりません。それを踏まえて、日本人にMBAはいらないと主張する遠藤は次の2点を挙げています。

(1) ほとんどの日本企業はMBAの価値を認めていない
(2) 日本のMBAの「質」が低すぎる

日本のビジネススクールが生み出すMBAの「質」があまりにも低いので、企業がMBAの価値を認めないというのが遠藤のロジックです。したがって、日本のビジネススクールで高いお金をかけて勉強することは経済的にペイしないということに遠藤の主張は集約されます。逆に、経済的にペイするので、海外の一流のビジネススクールのMBAの価値は認めています。この点はミンツバーグと意見が異なります。

要するに、ビジネススクールのレベルが問題なので、MBA批判というよりは日本のビジネススクール批判ということになります。

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2. MBA批判をどう受け止めるか?

ミンツバーグの指摘には共感できるところが多いと思います。ところが、アメリカのMBA教育を過激に批判する一方で、ミンツバーグは「ビジネス教育が最もうまくいっているのは、間違いなく日本だ」と主張しているのです。具体的には、日本企業でよく見られるOJT、メンタリング、定期人事異動がマネジャー育成に効果的だとしています。大御所に評価されて悪い気はしません。しかし、本当に日本のやり方が効果的だったら、なぜビジネスの世界で日本が地盤沈下をし続けているのでしょうか。この残念な現実を直視すると、ミンツバーグのMBA批判にどこまで説得力があるのか不安になります。

遠藤功の主張も現状に関してはその通りかもしれません。しかし、20年後、30年後にも日本に一流のビジネススクールがなくていいのかという疑問がわきます。戦前は粗悪品の代名詞だった「メイドインジャパン」を世界一の品質に育て上げた先人たちの営々たる努力を思うと、日本のビジネススクールは価値がないと切り捨てるのはいささか安直な気がします。

さて、分析偏重をMBA批判の中心に据えるミンツバーグですが、ビジネススクールで学ぶ学科の知識は勉強する必要があると言っています。この点は遠藤功も同意見です。具体的には、マーケティング、アカウンティング、ファイナンス、経済学を挙げています。これらはビジネスの言語として必要不可欠な知識なので、習得が必要だとしています。ミンツバーグ自身が既存のMBAプログラムに対抗してデザインしたマネジャー育成プログラムのIMPM(国際マネジメント実務修士)では、これらの科目を自習で学ぶことを義務付けています。

したがって、MBAという学位は別として、プロを目指すビジネスパーソンはビジネススクールで学ぶビジネスの理論を勉強する必要があるというのがMBA批判の急先鋒であるご両人の結論となります。


3. なぜビジネスの理論が必要なのか?

ビジネスの理論を学ぶ必要があるのは、それがビジネスの言語だからです。外国に行ったら外国語ができないと生きていけません。同様に、ビジネスの言語がわからないと本当の意味でビジネスの会話ができません。一番わかりやすい例は、テクニカルな色彩が強いアカウンティング(会計学)やファイナンスといった財務系の理論です。ビジネスの究極の目的は儲けることですが、儲けについて語るためにはアカウンティングやファイナンスの知識が不可欠となります。常識である程度対応できるマーケティングや経営戦略論も本質は同じなのです。

それでは、ビジネスの理論を知らないとどうなるか、知っていたらどうなるかということについて実例を交えて説明をしましょう。

3-1. 知らないとどうなるか?

「そんなことを知らなくても十分にやって行けている」と言う人も確かにいます。しかし、本当にそうでしょうか。剣道6段の元同僚に聞いた話ですが、竹刀を構えた瞬間に相手の力量はわかるそうです。ビジネスの理論についても同じで、ちょっと話をすれば相手がどのぐらいわかっているかプロにはすぐにわかります。そうすると、ビジネスの理論に暗い相手に対してプロは必ずそこを標的にして攻めてきます。なぜならば、相手の弱みを突くのがプロの勝負の鉄則だからです。「そんなことも知らないのか」と圧力をかけ続けられたら、勝負の行方は明らかでしょう。ビジネスのプロとして戦うためにビジネスの理論を知っていることは最低限の条件と言えます。

本当に恐ろしいのは、ビジネスの言語(=ビジネスの理論)を知らない人にはチャレンジングで魅力的なビジネスの機会が来なくなることです。これは当然の話で、自分の専門分野の案件を誰かと組んでやろうとしたら、話が通じる人にしか話を持ちかけないはずです。同様に、ビジネスのプロは話の通じる人にしか話を持ちかけません。そうすると、次のような「悪魔のサイクル」が生じることになります。

ビジネスの理論を知らない場合に陥るサイクル

チャレンジングな話が来ないから「ビジネスの理論を知らなくてもやっていける」ということになるのです。お目でたくもこの現実に気がついていないのは本人だけなのです。ビジネスの理論を軽視する人は、自分がプロからどう見られているかということを意識した方がよいと思います。

 

【コラム】
「そんなことも知らないのか」を封じる方法

「ROE(株主資本利益率)を考えると、もう少しレバレッジを上げた方がよくないか?」

ジョイントベンチャーの運営について、交渉相手からこのように言われたとしましょう。財務の理論を知っていればどうってことのない話ですが、理論を知らないとお手上げです。弱みを見せた瞬間から、相手は「そんなことも知らないのか」と言わんばかりに、財務に力点を置いたアプローチで攻めてきます。その結果、交渉の主導権は相手に握られることになります。

今から30年ほど前のことですが、同じようなことがアメリカ企業と筆者のいた日系企業の間でありました。新規事業のプロジェクトを検討していたときに、アメリカ側から「このプロジェクトのdiscount rate(割引率)をどう考えるか?」と言われたのです。ファイナンス理論に通じていなかった当時の日本チームは思わず「discount rateって何だよ???」と顔を見合わせました。われわれの動揺を見抜いたアメリカ側は一本取ったという表情を見せて、交渉の主導権を握ろうとしました。

ところが、財務にはからきし疎いけれども実戦で鍛えた勝負勘は鋭い我らのボスはまったく動じることなく次のように言い放ったのです。

「そんなことはどうでもいいから、歩留まりの向上について検討しよう」

こう言われたアメリカ側の反応が印象的でした。戸惑った表情を見せながらも、ボスの提案に従ったのです。ボスの勝利です。

なぜこのようになったかというと、Japan as #1と言われた当時は、製品の品質とコストに関して日本がアメリカよりも圧倒的に優位に立っていたからです。そのため、アメリカ人のエグゼクティブは、ボスの発言を「そんな財務的なことばかり言っているからアメリカはだめなんだ。優先順位は財務ではなくて現場だろ」というメッセージとして受け取ったのです。

この例が示すように「そんなことも知らないのか」に対抗できる方法は、相手を圧倒できるポジションを手に入れることです。もしもそれが叶わないのならば、ビジネスの理論を学んで防衛能力を高めるしかありません。

3-2. 知っているとどうなるか?

それではビジネスの現場で理論を知らない場合と知っている場合でどう違うのかということについて筆者の経験を使って説明しましょう。

「この案件は筋がいいな」

これは筆者が新人営業マンだったときに営業会議で幹部が言った台詞です。営業のイロハを習得中の筆者には、何か大人の会話のようで格好よく感じられたものです。早速兄貴分の先輩に「筋がいいっていうのはどうしたらわかるんですか」と聞いたところ、返ってきた答えは「お前も営業をやっていくうちにわかるようになるよ」というものでした。

これがビジネスの理論を知らない世界です。もちろんビジネスの理論を知らないからダメということではありません。筋の良し悪しについて幹部同士のコミュニケーションは健全に成立していました。また、筆者自身も営業経験を重ねるうちに、なんとなく筋の良し悪しについて感覚を持てるようになってきたからです。このようなビジネスの理論を知らない世界は、「体で覚えて感覚的に理解できるようになるアプローチ」と理解すればよいと思います。

ビジネスの理論を知らないと困るのは、自分が先輩となったときです。今度は自分が新人の営業担当者に対して指導する立場になったのです。そのときに「営業というのはやっていくうちに体で覚えるものだ」と言ってもよかったのですが、どうもしっくりきませんでした。「本当にそれで大丈夫なのか」という不安を払しょくすることができなかったからです。抜け目のないタイプの人間であればすぐに体で覚えられるかもしれませんが、みんながみんなそういうわけには行きません。

そのような問題意識をもったままビジネススクールに行くことになって、経営戦略論を勉強することになりました。そこで出てきたのが経営戦略論の基本中の基本となる3Cの考え方です。3Cとは、Customer(顧客)、Competitor(競合他社)、Company(自社)の略で、ビジネスを分析する際の基本となるフレームワークです。顧客のニーズを把握し、競合他社の動向を探り、当該ビジネスのKSF(Key Success Factors:成功の鍵)を特定し、自社がKSFを押さえているか(あるいは、どうやってKSFをモノにすればよいか)を分析するのです。

これを学んだ瞬間に「なんだ、筋が良いとか悪いとかはこのことじゃないか」と気づいたわけです。つまり、顧客と競合他社の分析ができていて、そこから導いたKSFを自社がモノにしているときに、幹部は「この案件は筋がいいな」と言っていたのです。顧客や競合他社の分析が不十分で、KSFが見えないときに「筋が悪い」と言っていたのです。「最初からそういって説明してくれたらもっと効果的に営業のスキルを身に付けることができたのに」と思わざるを得ませんでした。

ビジネスの理論を知らないと、ビジネスに対する理解は感覚的なものになりがちです。わかる人にはわかりますが、わからない人にはわかりません。一方、ビジネスの理論を活用するとビジネスを言語化したりモデル化したりすることが可能になります。それによって誰もが理解することができるようになるのです。営業の経験が未熟でも案件の筋の良し悪しについて議論することが可能になります。

ビジネスを感覚的に捉えることを否定する必要はありません。また、言語化、モデル化することが感覚的な理解を妨げるものでもありません。長年の経験に基づいて感覚的に捉えたビジネスを言語化、モデル化することで先輩の知恵を後輩に伝える。これがビジネスの理論を知っていることのアドバンテージと言えます。ただし、ビジネスの理論の有効性を支持する筆者も「営業は泥臭くやれ」についてはいまだその意味が理解できていません。


4. 経営的な観点から見たMBA

MBA(ビジネスの理論)は役に立つかという個人の観点から議論をしてきましたが、MBAは経営の観点からも考えることができます。それによってMBAの戦略的な意味がより明らかになると思います。論点は、人的資本論と組織行動論の2つです。

4-1. 人的資本論から見たMBA

人的資本論においてビジネスパーソンのスキルは2つに分類されます。「一般的なスキル」と「企業特殊的なスキル」です。

一般的スキルとは自社にとっても他社にとっても等しく価値があるスキルです。それによって自社でも他社でも生産性を高めることができます。典型的な一般的スキルは英語などの語学力です。経理のスキル、ITのスキルも一般的なスキルと呼んでよいでしょう。俗に言う「つぶしの効く」スキルを指します。

これに対して、自社にとって価値があるけれども、他社にとっては価値がないスキルを企業特殊的スキルと呼びます。今の職場では生産性を高めることができるけれども、他社ではまったく役に立たないような技です。純粋な企業特殊的スキルの例は難しいですが、自社でしか使えないように作られた特殊な機械の操作方法の知識などが考えられます。自社の非公式な人間関係を使って組織を動かすノウハウや、自社の独自の文化において組織の雰囲気を形成する力なども企業特殊的スキルと呼んでよいでしょう。

スキルの形成には費用がかかります。部下の育成のために上司が時間を割いて手ほどきをする必要があります。研修を受けさせればお金を支払う必要があります。経験を積ませるには時間がかかります。つまり、スキルの育成というのは企業にとって投資と同じことになります(これが人的資本論の基本的考え方です)。その投資のリターンを考えると、一般的スキルと企業特殊的スキルでは大きな違いがあることがわかります。

一般的スキルの場合、スキルが身に付くとその社員の価値(=生産性)は上がりますが、それは自社だけでなく他社にとっても同じです。そうすると、一般的スキルが向上した社員の市場価値が上がるので、それに応じた給料を払わないと退職のリスクが生じることになります。これは日本ではわかりにくいかもしれませんが、中国など海外ではよく見られる現象です。そのため、一般的スキルへの投資は会社がリターンを享受することが難しくなります。

一方、企業特殊的スキルの場合は違います。スキルが身に付いても、その価値は他社では評価されません。自社においてだけ生産性の向上に貢献できるのです。そのため、会社にとって投資のリターンを享受するチャンスは大きくなります。

ここから導かれる帰結は、企業の人材開発投資は企業特殊的スキルに対してのみ行うべしということになります。人材開発投資が一般的スキルの場合は、当該社員がその投資を100%負担して、そのメリットを本人が100%享受するのが合理的ということになります。そうすると、MBAのような一般的スキルの取得に対して会社が支援することに経済的な合理性はありません。ビジネス理論の習得に関して会社の支援は期待しない方がよいということになります。

プロを目指すビジネスパーソンは、会社を頼らずに、自分でビジネス理論の習得に励まなければなりません。これは同じ一般的スキルである外国語の習得についても言えます。逆に言うと、会社からの支援があったら「超ラッキー」ということです。

中国の日系企業は給与水準が欧米系企業より劣るため、社員教育に力を入れることで雇用を維持・促進しているケースが多いようです。教育の対象を一般的スキルにしている場合、理論的にはその教育予算を給料に回した方が合理的ということになります。

4-2. 組織行動論から見たMBA

限られた人的資源の中で組織が最大のパフォーマンスを実現するためには専門化が不可欠となります。

専門化を推進する理由は、経済学的には比較優位と交易の利益によって説明できます。人はすべての分野に精通することは不可能です。ある分野に集中して専門性を備えると、他の分野に特化した人とそのアウトプットを交換することが可能になります。お互いに専門化することでWin-Winの関係が構築できるのです。

例えば、Aさんは犬向けの仕事を1時間でこなし、猫向けの仕事も1時間でこなします。これに対して、Bさんは犬向けの仕事をこなすのに1.5時間かかり、猫向けの仕事は2時間かかります。この場合、Aさんの能力は絶対優位を持っていますが、Aさんが両方の仕事をすれば2時間かかります。一方、Aさんが猫の仕事をしてBさんが犬の仕事をすれば、1.5時間ですみます。さらにAさんを猫の専門家、Bさんを犬の専門家として育成すると、限定的な範囲の特定の仕事に集中できるので二人の生産性がさらに向上することが期待されます。

ビジネスの環境が複雑になればなるほど、会社が深く理解しなければならない分野が増えます。それに対応するためにも業務の専門化が必要になります。それは組織の細分化をもたらすことになります。なぜならば、専門家同士を集めて組織の単位とするからです。このような機能別組織において上司は部下と同様の能力を持っているのでコミュニケーションは容易になります。さらに部下の評価やキャリアデザインもやりやすくなります。

このようなメリットがある半面、自分たち以外の部門の視点を考慮しなくなるという問題が生じます。ビジネスの情報は部門内の上下を行き交うだけで、部門間を横断しなくなります。いわゆるサイロの問題です。これを経済学的に言うと、情報コストの発生ということになります。部門間の調整を行うためにいろいろと面倒なやり取りをしなければならなくなるということです。組織のパフォーマンスを向上させるためには専門化が必要ですが、専門化を進めれば進めるほど組織内の情報コストが増大するというトレードオフが存在するのです。

専門化の利点と情報コストのトレードオフを克服するためには、部門間の調整が鍵を握ることになります。そのためには、個別の業務機能について深い知識はないけれども各々の業務について最低限の知識があって、さまざまな部門をまたいだやり取りができるスキルが必要になります。組織全体で見ると、専門化による経済的な利点を享受するために、多くの社員は専門家である必要がありますが、同時に、浅い知識しか持たないけれども幅広い業務機能について理解できる調整役が必要になるということです。

このような調整役はMBAに期待される役割と言えます。なぜならば、MBAのプログラムはビジネスにおける個別分野について深い知識は提供しませんが、ビジネスの一般的な業務機能について広く浅い知識を提供するものだからです。組織が大きくなればなるほど組織内の調整が必要になります。また、ビジネスが複雑になればなるほど専門化が進んで、部門間の調整が必要になります。それに伴う情報コストをコントロールするためには、ゼネラリストの育成を目指すMBAの知識が役に立つのです。


5. まとめ

MBAについては、学位としてのMBAと知識としてのMBA(ビジネスの理論)を区別して考える必要があります。MBA批判の急先鋒もビジネスの理論を身に付ける必要性を説いています。

ビジネスの理論は、プロとしてビジネスの会話をするために不可欠と言えます。もちろん現場で仕事をすることでこそビジネスの力量が身に付くのは確かです。しかし、そのような力量も言語化しなければ部下には伝わりません。自分の経験を言語化してリーダーシップを発揮するためにビジネスの理論が役に立ちます。

理論的に考えると、ビジネスの理論は会社を頼りにしないで自分で学ばなければなりません。そして、その必要性は組織が大きくなったりビジネスが複雑になったりするほど高くなります。

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<参考文献>
H・ミンツバーグ(2006)「MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方」、日経BP社
遠藤功(2016)「結論を言おう、日本人にMBAはいらない」、角川新書
エドワード・P・ラジアー マイケル・ギブス(1998)「人事と組織の経済学」、日本経済新聞出版社

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