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ハーバード流 Win-Winを目指す交渉力とは【シナリオ資料付】

ビジネス交渉の本10選 交渉学のプロが選んだ理論5冊と実践5冊

「一所懸命交渉しているつもりなのに全然うまくいかない。そもそも手ごたえがない。一体どうすればいいんだ?」

こんな気持ちになったことはありませんか?
かつての私もそうでした。
それを、ある英国人と一冊の書籍が変えてくれたのです。

1980年代後半、私はヨーロッパ各国の企業と技術提携などの契約交渉を繰り返す日々を過ごしていました。10数カ国を回り、懸命に交渉したつもりでした。しかし1件も成約せず、交渉戦略の練り直しに迫られていました。

その時、幸いなことに、交渉の達人と呼ばれる英国人のアドバイスを受けることができました。
曰く、私たちの交渉は、「自社が魅力だと思う条件を相手に提示し、その上で、採用するか否かというYES/NOの判断を迫る「説得」になっている」と言うのです。

振り返ってみると、私たちは「自分たちがなぜヨーロッパに進出し、何を目指しているのか。その目的に対して、なぜこの交渉相手と、どのように提携したいのか」という交渉の前提条件をきちんと考え、説明していませんでした。

更に、私たちが提示した条件を相手が受け入れた場合の価値ばかりを主張し、リスクを含め、相手の立場の視点が全く抜け落ちていたのです。

相手の「YES」を引き出すことばかり考えていた私にとって、彼の指摘内容はまさに目からウロコでした。

驚く私に、彼は、その中から一冊の本を紹介します。それが、ハーバード大学で交渉学研究を創設したR.フィッシャー教授の『Getting to Yes』(初版)でした。

この本の内容は、まるで交渉相手から受けたアプローチを解説してくれるようでした。

今でこそ皆さんは「ハーバード流交渉」、「Win-Winアプローチ」という言葉を一度は聞いたことがあるかと思いますが、当時はまだそのような概念は日本のビジネスシーンに入ってきていなかったのです。

この本は、私たちの交渉戦略のどこに問題があり、どう考えるべきかを示してくれる良き指針になりました。

その後私たちは、新しく学んだ知識を基に交渉戦略を一から作り直し、再度各国を訪問しました。その結果、提携パートナーとして「どの企業と組めて、どの企業と組めないか」が明確になり、その後の提携戦略が大きく変わりました。

この出来事が交渉学に興味を持つきっかけとなりました。以来私は、交渉学を学び続け、大学院で研究すると共に、国内外のビジネス交渉で実際に活用し、その価値を実感し続けています。

その間に日本では、海外の翻訳本を含め、ビジネス交渉に関する多数の書籍が出版されました。

今回は私の経験と研究に基づき、その中からビジネス交渉に有益なナレッジを分かりやすく解説している書籍を10冊ご紹介したいと思います。

前半の5冊は理論、後半の5冊は実践の分野から選んでいます。いずれも、「ハーバード流交渉」、「Win-Winアプローチ」というキーワードの元になったハーバード大学の交渉学研究に基づいたものです。

目的別に並べていますので、ぜひ興味のある書籍から手にとってみてください。

※著者の所属や肩書は全て刊行当時のものです


1. ビジネス交渉の理論書5冊

まず、「交渉の基本をコンパクトに知りたい」という方のために、基礎知識や理論の分野から5冊をご紹介します。

1-1. 交渉の基本をコンパクトに学びたい


田村次朗『戦略的交渉入門(日経文庫)』,日本経済新聞出版社,2014.
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著者の田村教授(慶應義塾大学法学部、弁護士)は、ハーバード大学で交渉学を学びました。共著者の隅田教授(東京富士大学経営学部学部長)と一緒に、日本の大学や企業の教育に交渉学を導入されています。

交渉戦略は、交渉により何を実現するかというミッションの設定から始まります。しかし、ミッションの意義を理解し、具体的に設定することは、交渉学を学び始めた方が一番戸惑うところです。

本書では、ミッションの考え方と設定方法を6項目にまとめ、「ミッションを作るためのチェックリスト」として紹介しています。

(1) 自分たちの会社・組織の経営理念(ミッション・ステートメント)を確認する
(2) 自分たちの会社・組織の事業戦略を確認する(中期計画など) 
(3) 今回の交渉の契機となったものは何か、確認する(新技術、新製品登場、新規市場開拓など)
(4) この交渉に対する社内の期待や考え方を確認する
(5) この交渉が仮に合意した場合、将来、この交渉結果に期待されるもの{利益}は何か、考える(1年後、5年後など)
(6) この交渉に対する自分自身の期待や、この交渉に対する考え方を、確認する
(P117,図16 第4章「交渉戦略を立案するー事前準備の方法論」)

皆さんも、「こちらの話は全く聞かず強い表現で一方的に自己主張し、YESを迫る交渉者」に一度は出会ったことがあると思います。

このような交渉者は、「パワープレイヤー」「パワーネゴシエーター」と呼ばれており、傾向と対策が研究されています。

本書では、このような交渉者に対して、どのように対応すべきかについても、具体例を上げて解説しています。

戦略交渉の基本をコンパクトに学ぶことができる一冊です。

1-2. 腹落ちする交渉の理論を学びたい


M.H.ベイザーマンほか,長瀬勝彦訳『行動意思決定論―バイアスの罠』,白桃書房,2011.
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著者のベイザーマン教授(ハーバード大学)とムーア助教授(カーネギーメロン大学)は、意思決定研究の研究者です。

特に、アンカリング(anchoring:※)に代表される、経営の意思決定に影響する心理的なバイアス(bias:偏り)の研究が有名です。意思決定研究は、交渉学研究の骨格でもあります。

※ 相手が数字などの分かりやすい条件を提示してきた時、その提示条件を前提として考え、他の条件や自分の提案が考えにくくなる心理

本書では経営における意思決定の構造分析に始まり、意思決定に影響するバイアスを数多く紹介し、その概要と対策を解説しています。その中で興味深いのは、次のバイアスです。

(1) 想起の容易性(ease of recall)
人にとっては鮮明で新しい出来事ほど思い出しやすいので、それは思い出しにくい出来事よりも発生しやすいと判断してしまう。
(2) 検索容易性(retrievability)
人は出来事の発生頻度についてバイアスを帯びた見積もりをしてしまう。それは人の記憶構造が記憶の検索に影響を及ぼすためである。
参考)
P67,表2-2「第2章で取り上げた12のバイアスとその概要」

交渉中に、それ程厳しい条件や無理な主張をしたわけではないにもかかわらず、相手が強く拒否したり、極端な違和感を示すシーンに遭遇したことがあると思います。

その時相手は、こちらが出した条件に対して拒否反応しているだけではなく、最近発生した問題やよくある問題などの別のケースが今回の意思決定に影響している可能性があるということです。

私はこのバイアスの概要と対策を学んだことで、ビジネス交渉において相手が極端な拒否反応をした場合でも、冷静に対応し、質問によって理由を聞き出すようにしてきました。それによって問題を解決できたことが何度もあります。

本書に紹介されているような意思決定に影響する心理的なバイアスを理解しておくことは、交渉の成功確率を上げるためにも有効です。

交渉力の軸となる意思決定力の構造と、心理的なバイアスの概要、そして対策を学ぶことができる一冊です。

1-3. 相手をYESと言わせる説得術の防御法を知りたい


R.D.チャルディーニ,社会行動研究会訳『影響力の武器[第三版] ―なぜ、人は動かされるのか』,誠信書房,2014.
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著者のチャルディー二教授(アリゾナ州立大学)は社会心理学者で、本書はロングセラーとなっている「影響力の武器」シリーズのひとつです。興味深いのは、著者の研究動機です。著者は、本書で次のように説明しています。

この際、正直に打ち明けてしまうことにします。私はこれまで、じつにだまされやすい人間でした。物心ついた頃からずっと、販売員や募金活動員、その他様々な説得上手な人に丸め込まれてきました。(中略)承諾の研究に興味をもつようになったのは、おそらく、長いあいだ自分がカモの地位に甘んじていたためでしょう。どんな要因によって、人は要求を受け入れるのか。それらの要因を最も効果的に使って、相手から承諾を引出すテクニックには、どんなものがあるだそうか。何か頼み事をするのに、ちょっとしたやり方の違いで成功したり失敗したりするのはなぜだろうか。そんな疑問を持つようになったのです。
(v、「まえがき」)

著者はこの問題意識から社会心理学者となり、実際の交渉事例を分析し、承諾の心理について研究しています。

昔からよくあるギブ・アンド・テイクやコミットメントと一貫性の心理など、具体的な事例を用いて心理の構造を解説し、その防御法を紹介しています。

相手にYESと言わせようとする説得の心理構造と、その防御法を学ぶことができる一冊です。

1-4. 理系が交渉を学ぶ意義を知りたい


C.M.コーエンほか,浜口道成監訳ほか『ラボ・ダイナミクス―理系人間のためのコミュニケーションスキル』,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2007.
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交渉学の教育はハーバード大学のロースクールが始まりでしたが、その後ビジネススクールやメディカルスクールなど、欧米の大学では広く普及しました。

ハーバード大学の交渉学研究にも参加したMITは理系の大学院ですが、実は40年以上も前から交渉学を学べる講座があり、人気講座になっています。

本書は、私が東京大学大学院の理工系授業(技術経営戦略学専攻と航空宇宙工学専攻)で、交渉学を学ぶ機会を大学院生に提供するために、テキストである「理系のための交渉学入門」(一色正彦、田上正範、佐藤裕一著、東京大学出版会)を執筆する際に見つけた本です。

理工系の人材が交渉を学ぶ意義を見出し、実践している例を読むことができます。

コーエン博士は生物学の研究者であると同時に、経営者でもあります。共著者のコーエン夫人は、ハーバード大学メディカルスクールの講師(心理学)です。

コーエン博士は、科学者や技術専門職の心理特性に関する150以上の学術論文を調べ、理系研究者の性格の比較研究を抽出しています。

その上で性格的特徴から発生する問題を分析し、それを乗り越える方法として、グループダイナミックスや交渉学研究を用いたケーススタディやトレーニング方法を紹介しています。

その中で、理系研究者が交渉を学ぶ必要性について、次のように指摘しています。

自分のことだけでなく人の言動や反応にも目をとめ、気を配ることができる研究者は、複雑な科学者社会のなかを生き抜き、成功するための資質を備えていると言える。理系研究者の日常的なやりとりのなかで、交渉の意味合いをもつものは意外に多い。
(P47,CHAPTER 3「難問:快刀乱麻の交渉術」)

そして、交渉から学べることとして、次の4つを明示しています。

(1) 交渉上手な人は、人の要求や関心事や信念を察することができる
(2) 交渉上手な人は、さまざまな感情が交錯する緊迫した状況において自分の行動を監視し、調整することができる
(3) 交渉は、話すことよりも聞くことのほうが生産的であることを教えてくれる
(4) 交渉上手な人は、立場に固執することなく、双方が求めている利益を見きわめ、これを念頭に置いて交渉にあたる。よき管理者も同じである
(P49,CHAPERE 3「難問:快刀乱麻の交渉術」)

そして、理系研究者が研究活動で遭遇する様々な交渉シーンについて、何が問題の本質であり、どのように解決すべきであるかを、交渉学研究に基づき具体的に解説しています。

理系の技術者や研究者が交渉学を学ぶ意義と、研究成果を上げるために何をすべきかを学ぶことができる一冊です。

1-5. 理系が学んでいる交渉学を知りたい


L.サスキンド,有賀裕子訳『ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術―信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則』,ダイヤモンド社,2015.
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著者は、ハーバード大学ロースクールを拠点とする交渉学研究の大学間コンソーシアム、PON(Program on Negotiation)の共同創設者です。また、マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)で40年以上理系の大学院生に交渉学を教えています。

その他、企業への交渉のアドバイスの経験や、自身の交渉経験も豊富です。

著者は、交渉学研究から生み出されたWin-Winアプローチについて、次のように評価しています。

交渉についての考え方や手法は1980年代に大きく変化した。裁判、ビジネス、国際関係、公務など、あらゆる交渉の場面において、「どうすれば相手より優勢に立てるか」から「すべての当事者にとって望ましい結果を相手に受け入れてもらう方法を、どう見つけるか」へと焦点が移ったのだ。この変化の本質は、勝者と敗者が生まれる状況(ウィン・ルーズ)を避けて、双方が得をするウィン・ウィンを目指すようになったことだと理解されている。
(P8-9,「プロローグ」)

この変化は世界中で好意的に受け入れられたと評価する半面、Win-Winアプローチの理解に対する混乱や、過度に対立を回避するなどの誤解が生じていることも指摘しています。

そのため、原題である「Good for you, Great for me」に込めた“相手にとって悪くなく、自分にとっても願ってもないほどの交渉結果を引出す”というアプローチを推奨し、その実現のために次の6つの戦略を紹介しています。

(1) 交渉相手の要求内容や優先順位を変えさせる
(2) 相手にとって悪くなく、自分にとって願ってもないほどの提案をする
(3) 相手よりも多くを手に入れるために、条件付きの提案をする
(4) 交渉相手に手を貸して、こちらにとって最も望ましい条件を(相手の)身内に対して説得してもらう
(5) 予測できた危機への備えをする
(6) ウィン・ウィンを目指した交渉を簡単に制することができるよう、組織の交渉力を高める
(P13-16,「プロローグ」)

Win-Winアプローチの本質を理解しながら、問題を解決するための戦略を学ぶことができる一冊です。


2. ビジネス交渉の実務書5冊

ここからは、「プロネゴシエーターの交渉を知りたい」、「もめそうな商談の前に、注意事項を知っておきたい」という方のために、実践知識の分野から5冊をご紹介します。

2-1. プロネゴシエーターの交渉を知りたい


D.マルホトラほか,森下哲朗監訳ほか『交渉の達人』,日本経済新聞出版社,2010.
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著者は、ハーバード大学ビジネススクールで交渉学を研究しているベイザーマン教授とマルホトラ准教授です。

本書は、企業や政府で交渉の達人と呼ばれた上級の交渉者が、実際にどのような戦略で交渉したかを分析し、事例を交えて解説しています。

特に、弱い立場で行う交渉について、交渉学研究最大の発見と呼ばれており、相手と合意に達しなかった時の代替案であるBATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement:バトナ)を基準に、次のように指摘しています。

交渉における立場の弱さは、相手のBATNAが相対的に強く、自分のBATNAが相対的に貧弱なことの結果である
(P247,第11章「弱い立場からの交渉」)

その上で、交渉前にBATNAを持つ重要性と、BATNAが弱い場合も諦めず、どのように問題を解決していくべきかを考えるためのポイントを解説しています。

また、交渉の達人と呼ばれる交渉者の考え方として、失敗の原因を外部要因に求めず、違う方法をとっていればもっと良い結果になったはずと考えて、交渉結果をレビューしていると指摘しています。

そして、交渉の達人になるために、次のようにアドバイスしています。

交渉の達人になるために必要な素質は、ほぼすべての人々が持っている。交渉の達人とは、人間関係の達人であり、そうなるのに必要な素質は、自分の考え方や想定、視点を変える能力だけである。
(P314、第Ⅲ部「実社会での交渉」)

この指摘から、交渉力は、持って生まれた天賦の才能ではなく、学習により習得できる能力であることが分かります。交渉が苦手だと思っている方には、勇気づけられるメッセージだと思います。

難易度の高い交渉事例を分析し、事例を交えて交渉の達人になるための交渉戦略を学ぶことができる一冊です。

2-2. 契約交渉の前に、注意事項を知っておきたい


一色正彦ほか『法務・知財パーソンのための 契約交渉のセオリー 交渉準備から契約終了後までのナレッジ(改訂版民法改正対応)』,第一法規,2020.
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本書では、契約交渉に対して法律、交渉、リスクマネジメントの3つの視点からアプローチする戦略を紹介しています。

秘密保持契約から代理店契約まで、9種類の契約について、具体的な契約条文のサンプルと3つの視点からのアプローチ方法と注意点を解説しています。

共著者の竹下洋史氏は、弁護士資格を取得後に実務を経験してから、大学院で交渉学を学び活躍している弁護士・弁理士です。竹下氏は、交渉学について実務家の立場から次のように述べています。

交渉学のフレームないしステップを意識して依頼者との打合せや案件の進捗過程での方針検討等を行ってみると、法律的な視点から望ましいと考えられる選択肢と、依頼者にとってより望ましいや選択肢等を確認して協議し、依頼者の納得に貢献する感触を得ることがあるのは収穫であった。
(P344,「おわりに」)

また、第5部の「ストーリーで学ぶ逆引き理論解説」では、契約条文や交渉シナリオのマップも紹介しています。

大企業とベンチャー企業の実際の交渉事例に基づく次の3つの演習を通じて、交渉の具体的なプロセスを学ぶことができます。

演習1:秘密保持から始める提携交渉
演習2:共同開発の価値とリスク
演習3:第三者からのクレーム交渉
(P248,第5部「スト―リーで学ぶ逆引き理論解説」)

提携、クレーム、国際交渉などのタイプ別の方法論なども紹介しています。改訂版では、2020年4月に施行された民法改正に対応するとともに、法務部門の役割と契約交渉に関する記述を追加しています。

契約交渉をする前に何をすべきかをチェックするために、有効な情報を得ることができる一冊です。

2-3. 国際交渉戦略の具体例を学びたい


ジェームズ・K・セベニウスほか,田村次朗解説,野中香方子訳『キッシンジャー超交渉術』,日経BP社,2019.
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本書は、米国の調査において世界で最も優れた交渉者に選ばれた米国の外交官・政治学者ヘンリー・A・キッシンジャーの交渉戦略について、ハーバード大学の3名の教授(ビジネススクール、ケネディースクール、ロースクール(兼)交渉学研究所長)が、本人から直接ヒヤリングし、国際交渉の実例に対して交渉学研究に基づき、分析した本です。

国際交渉のみならず、ビジネス交渉、外交、裁判にも活用できる交渉戦略の実例を学ぶことができる実務書です。

ヘンリー・A・キッシンジャーは序文の中で、交渉戦略について次のように述べています。

私が愕然とさせられるのは、経験豊かなはずの公人や経験者が、きわめて重要な交渉で、得てして場当たり的なアプローチをとりがちなことだ。たとえば裁判で、自らの本来の利益や目的とはかけ離れた戦略や戦術で法定に臨み。敗訴する人がいる。別のよくある誤解は、面と向かって交渉すれば取引は成立すると楽観して、相手を交渉の席に着かせることに多大なエネルギーを注ぐことだ。実際は、交渉の前に、自分にとって有利になるように状況を固めておくことのほうがよほど重要である。合意・不合意に応じてアメとムチを用意しておくこともできるだろうし、注意深く援軍を集める一方、」妨害しそうな敵を未然に無力化することも可能だ。
(P5-6、「ヘンリー・A・キッシンジャーによる序文」)

手強い顧客や外国人との交渉など、難易度の高い交渉について、交渉戦略の具体例と注意事項を学ぶことができる一冊です。

2-4. 苦手なコミュニケーションを良くする方法を知りたい


D.ストーンほか,松本剛史訳『話す技術・聞く技術―交渉で最高の成果を引き出す「3つの会話」』,日本経済新聞出版社,2012.
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本書は、ハーバード・ネゴシエーション・プロジェクトで交渉学を研究している教授陣が分析した数多くの交渉事例から、難しい会話とはどのようなシーンか、なぜそのような状況になり、それをどのように乗り越えるべきかについて、表現サンプルと共に解説しています。

難しい会話となる状況とその課題は、以下の3つに分類されています。

(1) 何があったかをめぐる会話
  課題:状況はどちらの側から見るよりも複雑である。
(2) 感情をめぐる会話
  課題:状況が感情的に緊迫している
(3) アイデンティティをめぐる会話
  課題:状況がわたしたちのアイディアを脅かしている。
(P60-61,第1章「三つの会話」)

その上で、「メッセージのぶつけあい」「学ぼうとする会話」2つの視点から論点を整理し、何をすべきで何をすべきでないかについて、具体的な表現サンプルを用いて解説しています。

類似した書籍にDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部による「ハーバード・ビジネススキル講座 対話力(原題:Face-to-Face Communications for Clarity and Impact)」がありますが、本書の解説はより詳しく、表現サンプルを加えた内容になっています。

例えば、何があったかをめぐる会話において、責任問題に言及することのリスクについては、次のように解説しています。

「責め」に焦点を当てることがまずいのは、わたしたちが問題のほんどうの原因になっているものが何かを知り、それを修正するための行動を起こすことのさまたげになるからである。「責め」は往々にして的はずれで、アンフェアなものだからだ。だれかに責めを負わせたいという衝動はまさしく、自分と相手とのあいだに争点をひきおこした誤解と、自分が責められることへの恐れに基づいている。また、人はしばしば、自分の傷ついた感情を直接口にするかわりに相手を責めるが、これもよいことではない。
(P115-116,第4章「責めを負わせるのはやめよう」)

交渉は、対立や衝突という問題を解決するプロセスです。そのため、時には相手との対立を避けて協調性を促す会話(Conversation)も必要ですが、対立を前提として相手に自分の考えを主張する対話(Dialogue)が基本です。

タイトルでは会話と表現されていますが、内容は交渉における対話の分析と有益なコミュニケーション方法の解説です。

交渉中はどうしても緊張します。そのため思い通りに話せなかったり、思わぬことを言ってしまったりするものです。どのようなシーンで問題が発生しやすいか、どう表現すると良いかのパターンを事前に知っておくことは非常に有効です。

交渉中に有効なコミュニケーションの方法と表現パターンを学ぶことができる一冊です。

2-5. 交渉相手の気持ちを読む方法を知りたい


P.エクマンほか,工藤力訳『表情分析入門―表情に隠された意味をさぐる』,誠信書房,1987.
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著者のエクマン教授(カリフォルニア大学 医学博士、心理学)は、世界中の人間の表情を分析し、6つの感情(幸福、悲しみ、驚き、恐怖、怒り、嫌悪)は、民族、年齢、性別に関係なく万国共通の特徴があることを発見しました。

この発見は大変話題となり、学術研究分野のみならず、FBI等の犯人逮捕時にも活用されました。そして、米国では、エクマン教授をモデルとしたTVドラマ(Lie to me嘘の時間)が制作され、人気番組となりました。

感情をあらわす万国共通の顔の表情があるかという疑問について、著者は次のようにコメントしています。

顔の表情は生物学的に決定され、人間の進化の産物であるというのである。ダーウィンの時代以降、この考えに多くの著者たちが強く反対してきた。しかし、つい最近になって、この問題は、科学的研究によって決定的な解決をみた。少なくともある種の顔つきは、本書でも扱われているが、確かに万国共通であることが明らかにされたのである。ただしかし、こうした表情がどんなときに示されるかということでは、文化の違いがみられるのである。
(P33,「3.感情をあらわす万国共通の表情はあるのだろうか」)

本書は、表情から隠された相手の心理を見出す方法を、数多くのサンプル写真を用いて、分かりやすく解説しています。

背景の理論をより詳しく知りたい場合は、『顔は口ほどに嘘をつく(原題:EMOTIONS REVEALED : Understanding Faces and Feelings)」(P.エクマン著、菅靖彦訳、河出書房新社)をご参照ください。

この方法論は、交渉相手が「提示した条件をどのように評価しているか」を知るための有効な方法論です。万国共通の表情を理解しておくことは、国籍や民族が異なる相手と交渉する国際交渉において特に有効です。

交渉相手の背景にある事情や心理状態を表情から分析する方法論を学ぶことができる一冊です。

「ネゴシエーション」をeラーニングで社員教育

eラーニング教材:ネゴシエーションのエッセンス

交渉力を向上させるには経験を積むしかない?それは誤解です

ネゴシエーション(交渉)は修得可能な技術です。論理的な分析、プレゼンテーション能力などを鍛えるトレーニングを積むことで、相手と対等に渡り合えるようになります。この記事でご紹介した本で知識をつけた後は、eラーニングでより理解を深めてみませんか。
本教材では、ネゴシエーションとは何かを理解し、交渉前・交渉中・交渉後の各プロセスで必要とされる知識・スキルを身につけることができます。

本教材をeラーニングとして配信することで、効率的に「ネゴシエーション」の社員教育をすることが可能です。


3. まとめ

戦略交渉の基本や理論を学べる本から、明日の商談に役立つ実践的な本まで、10冊を目的別にご紹介しました。

ビジネス交渉に正解や不正解という単純な解はありません。しかし、実際の事例を分析し、成功確率を上げる方法論を見出した研究はあります。

その内容を知り、実際のビジネス交渉に活用することは大変有効であり、私自身も実感しています。

それぞれの目的に合わせて、興味のある本を読み、実際のビジネス交渉の場面で、ぜひ活用ください。

また、以下の記事では、実際のビジネス交渉を「交渉学」の観点から解説するとともに、Win-Winアプローチの交渉を進めるシナリオ構築方法やトレーニング方法を紹介しています。

ぜひ併せてご参照ください。

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