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リーダーになるすべての人に知ってほしい チームビルディングの極意

「チームとしての一体感が感じられない」

「ワイワイガヤガヤ、みんなで力を合わせて仕事を進めていきたいのだけど・・・」

「お互いに切磋琢磨して、もっと強いチームにするためにはどうしたらいいのだろうか」

このような悩みを抱えているチームのリーダーの方は多いのではないでしょうか。

チームの運営に関する心労は尽きませんが、いいチームを作りたいという願いはリーダーだけのものではありません。メンバーだっていいチームにしたいと思っているのです。

全員が同じ想いを共有しているのに、いいチームを作るのが難しいというのは皮肉なことです。それだけチーム作りが難しいということでしょう。

本稿は、そもそもチームとは何かという基本的なところから議論を始め、チームを作るための具体的なアクション、さらにチームを率いるリーダーが毎日行うべき仕事について分かりやすく説明します。

チームが行き詰まる原因や対策、優れたチーム作りのケースから得られる学びも含め、チームの成功の鍵について解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。

「チーム作り」以外にも、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」をご利用ください。
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1. 優れた成果を創造するチームを明らかにする

スター選手を集めたドリームチームが一番強いかというと、必ずしもそうではありません。ここにチームについての問題の本質があります。

成果を上げているチームと上げていないチームは何が違うのでしょうか。まずは優れたチームについて見ていきましょう。

1-1. 「チーム」とは何か? 「チームでない」とは何か?

チーム作りを考えるうえで難しいのは、「チームとは何か?」という問いに対する決まった答えがない点です。正解がない課題について、いきなりあるべき論を展開しても説得力がありません。

そこで、まず「チームではない姿」を取り上げます。そこから我々が目指すチームの姿を浮き彫りにしたいと思います。

チームは人間の集団で構成されますが、人が集まればチームになるわけではありません。例えば、会社には部、課、グループなどと呼ばれている人間の集団が存在します。オフィシャルな存在なので人間の集団としては維持されますが、チームになっているとは限りません。

このような伝統的なピラミッド組織の構成要素であるを「チーム」と区別して「伝統的なグループ」と呼ぶことにします。

伝統的なグループは次のような特徴を持ちます。

・工業化時代のビジネス環境を背景にして設計されている。
・詳細な計画、明確な役割分担、厳格な予算管理主義、社内規則の順守に基づいて管理されている。
・職位の最も高い人間がリーダーとして指揮命令をする。リーダーは経験豊富なので何でも知っていると見なされている。
・メンバーはそれぞれ担当業務を与えられ、その達成度合いで評価をされる。

伝統的なグループは、課題が明確で、それを達成するためにどうすればよいかが明らかな場合に効率的に結果を出すことができます。なぜならば、それを目的として作られているからです。

しかし、今日の不確実な環境では課題そのものが流動的になるので、取り組むプロセスそのものを変化・適応させていく必要があります。

そのため、がっちりと決まったプロセスに従って効率的に結果を出そうとする伝統的モデルは機能しにくいことになります。

安定した環境に対応した人間の集団が「伝統的なグループ」だとすると、不確実な環境に対応できる人間の集団が我々の考える「チーム」となります。そのため、チームは試行錯誤を通して学習する組織でなければなりません。

学習を通して価値を創造し、メンバー一人一人が成長するメカニズムを持つ人間の集団がチームです。そうすると、チームの目的は、組織としてのパフォーマンスの向上個人の成長ということになります。チーム作りはこの目的を果たすための手段ということです。

逆に言うと、団結心、風通しのよい雰囲気、良好なコミュニケーションなどは好ましいことですが、それらがチーム作りの目的にはならないということです。

1-2. 優れたチームに見られる5つの特徴

不確実性が支配する環境に適応して、価値を創造する人間の集団がチームです。それは、オフィシャルな既存の組織であるか、それとも、プロジェクトのために編成された組織であるかは問いません。人間の集団が「チーム」として機能するかどうかということに焦点を当てます。

多くの研究者が成果を上げた「チーム」と成果を上げていない人間の集団を比較検討することで、チームを構成する基本的な要素を挙げています。代表的なものを挙げると次のようになります。

ⅰ. チームの目的とそれに対するコミットメント
ⅱ. チームの目的と連動した具体的なアウトプット
ⅲ. 助け合いの精神と共同責任
ⅳ. 共有化された仕事の進め方
ⅴ. 多様性があって補完的なスキルセット

それぞれの要素について見ていきましょう。

i. チームの目的とそれに対するコミットメント

チームにとって最大の鍵を握るものは目的です。目的の重要性を理解するためには、P・ドラッカーも好んで引用した有名な小話を見ればよいでしょう。

2人の石切り工がいた。通りかかった人が2人に対して「大変な仕事ですね。なぜ石を切っているのですか」と尋ねた。一人は「食っていくためには仕方がない」とつらそうに答えた。もう一人は目を輝かせてこう言った。「大聖堂を作っているんですよ」

大聖堂を建設するという偉大な目的があるからこそ、辛い石切り作業も喜び勇んでやれるわけです。したがって、メンバーを動機付けることができる偉大な目的がチームには不可欠となります。それが仕事に対する意欲や情熱をメンバーに与えることになります。

偉大なる目的がメンバーに共有されて、全員が同じゴールを追求することで、個人の集団を超えたチームとしてのアイデンティティが形成されます。

目的がチームを結束させ、メンバーにプライドを形成します。その結果、メンバーの間に「自分はこのチームの一員だ」というポジティブな感情が生まれます。

人間の集団では意見の対立など内部で衝突が発生することは避けられません。メンバー同士の衝突は価値の創造という薬にも、チームの崩壊という毒にもなります。

チーム内の衝突を建設的に乗り越えるためには、チームの目的がどれだけ共有されているか、どれだけコミットされているかが勝負となります。

なぜなら、偉大なる目的の下ではメンバーはあまねく平等になって、個人のエゴが解消されるからです。目的はチームにとって最も重要な要素なので、優れたチームは目的の探索、形成、合意に多大な時間と労力を投じていることが観察されます。

ii. チームの目的と連動した具体的なアウトプット

ある目的はそれよりも上位の目的の手段となります。したがって、チームが目指す具体的なアプトプット(成果)はチームの目的を達成するための手段ということになります。

必然的にチームの目指すアウトプットは挑戦的なものになります。挑戦的でなければチームの目的が偉大なものとして成立しなくなるからです。

石切り工のケースで言うと、大聖堂の建設という具体的なアウトプットは究極の目的である神への賛美を実現するための手段ということになります。目的が偉大だからこそ、アウトプットも挑戦的になるわけです。

チームの具体的なアウトプットは大聖堂の建設のような華々しいものである必要はありません。ビジネスの現場では売上・利益などの財務数値、新製品・サービスの開発、コストダウン、品質改善などが考えられます。いずれもビジネスの成功という偉大な目的のための手段となり得るからです。

ただし、アウトプットはあくまでもチームが主体となって実現するものなので、会社や上位組織から押し付けられたノルマやリーダーの個人的野望であってはなりません。

アウトプットの達成目標は、達成状況が客観的に判定できるものでなければなりません。数字のような具体的なアウトプットを設定する理由は次の通りです。

・分かりやすく明快なので、達成すべき結果にフォーカスしやすい。
・具体的なアウトプットの前では肩書は関係なくなるので、チームプレイヤーとしての行動が促される。
・チーム内のコミュニケーションと建設的な対話を促進しやすい。
・具体的なアウトプットの目標は時間軸に沿って小さく分解することができる。それによって、小さな勝利を積み上げることが可能になる。勝利はチームを力づける最大の良薬となる。
・目標達成が健全なプレッシャーとなって、チーム内に規律が保たれる。

日産をV字回復に導いたときに、カルロス・ゴーンは次のように言っています。

ビジョンを社員に浸透させるのに重要なのは共通の言語だ。私はそれが数字だと思っている。(中略)両者(日仏)の違いを埋め、力を最大限引き出すには、双方で共有できる分かりやすい目標が必要だ。それが数字である。
(私の履歴書 日経新聞 2017年1月)

ただし、チームの目的と遊離した数値目標はメンバーを動機付けることができないので注意が必要です。

偉大な目的との連動性が明らかになることで数値目標に魂が入り、メンバー全員のコミットメントを引き出すことが可能になるのです。

iii. 助け合いの精神と共同責任

伝統的なグループは、メンバー一人一人が自分の業務目標を達成すればグループの目標を達成できるという考え方で成り立っています。

これに対して、チームは挑戦的な目標をチームとして達成しようとするので、一人一人が自分の担当業務をこなすだけでは目標を達成できません。

そこで、メンバー同士が協働し、助け合う必要性が生じるようになります。チャレンジングな目標がチームに助け合いを促すことになるのです。

協働しようとすると、どうやって協働すればよいかというチームワークについて話し合われるようになります。それによってメンバー同士の間に相互依存の関係が生まれ、お互いに相手をリスペクトし、目的や仕事の進め方を共有するといったチームならではの活動が強化されます。

チームのアプトプットに対してお互いに責任を持つようになると、全員がチームのあらゆる活動に対して自分の意見を表明するようになります。同時に、公正で建設的なフィードバックをお互いに実施するようになります。切磋琢磨という言葉はこのような状態を指します。

チームとしてお互いに責任を持つことで、「個人の失敗はない。チームとしての失敗だけがある」というリスク志向のメンタリティが形成されるようになります。

iv. 共有化された仕事の進め方

チームとしての具体的なアウトプットを目指すので、仕事の進め方を共有化する必要性が生じます。一人一人が勝手に独自の仕事の進め方をすると、アウトプットがばらばらになって具合が悪いからです。

共有化された仕事の進め方の最も簡単な例として、マニュアルや作業手順書を挙げることができます。マニュアルという言葉にはクリエイティブなイメージがないように思うかもしれません。また、不確実な環境におけるビジネスをすべてマニュアルで対応することは不可能です。

しかし、マニュアルがあるからこそ、マニュアルで対応できない事象を課題として特定することが可能になります。そして、それをチームで克服することでマニュアル(=仕事の進め方)を進化させることが可能になります。

例として1980年代に日本の製造現場が世界に先駆けて行った改善活動を挙げることができます。

TQCTotal Quality Control)の考え方に基づいて開発されたTQC7つ道具を駆使して改善を進めるという方法が現場で働く人々に共有されていたのです。

その結果、高品質・低価格の製品を実現し、ジャパン・アズ・ナンバーワンという一時代を築かれることになりました。


(図表)改善活動

会社によっても、課題によっても仕事の進め方は違うように見えるかもしれません。しかし、抽象的な次元では同じと言えます。それは仮説と検証のサイクルを回すということです。

チームとして仮説を立て、実践して、仮説を検証し、仮説が棄却されたら仮説をバージョンアップして、また実践する。これがチームの根底にある共有化された仕事の進め方と言えます。

v. 多様で補完的なスキルセット

「多様なスキルや経験を持った人間の集団の方が、優秀だけど同質的な人間の集団よりも価値を創造することができる」というのがダイバーシティのメカニズムです(このメカニズムについては次節で説明します)。そのため、チームは多様な人材で構成される必要があります。

多様で補完的なスキルセットに関して認識すべきことは、最初からそのようなスキルセットを持ったチームは存在しないということです。そもそも不確実性が支配する環境のもとで課題に取り組むわけなので、予めどのようなスキルがどれぐらい必要になるかということは分からないのです。

優れたチームから観察されることは、チームの活動とともに必要なスキルがチーム内で形成されるという学習のメカニズムが働いているということです。

チーム作りにおいては、メンバーの選定よりも、i から  iv を通してメンバーのスキルを発展させることが勝負となります。

「うちには人材がいない」と言うチームリーダーは「私はチーム作りを怠っています」と宣言しているようなものなのです。

1-3. チームが価値を創造するメカニズム

チームには、一人の人間が単独で創造する価値の総和よりも大きな価値を創造するメカニズムがあります。

5人のチームが生み出すアウトプットは1人の人間が生み出すアウトプットの5倍以上になるということです。チームによる価値の創造は、

(1) より次元の高い自己実現の達成
(2) 多様なメンバーの相互依存

という2つのルートで行われます。

(1) より次元の高い自己実現の達成

マズローによると人間の行動は欲求を満たしたいという願望から動機付けられていて、その最高段階が自己実現の欲求となっています。

自己実現の欲求とは、目的を成し遂げたり、困難なことを実現したり、新しいことができるようになるなど、チャレンジして成功したり、創造的なことができたときに感じる達成感を指します。

このような達成感を感じることで、人は自分の価値と貢献度を感じることができるようになります。この観点から見ると、チームは自己実現の欲求に応える場としては最適となります。なぜなら、取り組む対象の難易度が高いほど自己実現の達成感も大きくなるからです。

個人の目標やアウトプットよりもチームの目標やアウトプットの方がはるかにスケールが大きく、難易度も高いものになります。目的の意義もより次元の高いものになります。このため、働き甲斐や仕事に対する誇りもより充実したものになります。

また、偉大な目的を達成することで得られる自信も大きなものになります。チームでは個人の次元を超えたレベルで仕事をすることが可能になるので、個人のエンゲージメントが強化され、それが価値を創造するパワーの源泉となります。

(2) 多様なメンバーの相互依存

多様なメンバーの特徴を理解するために、同質的な人材で構成されているチームを考えてみましょう。それは人数が違うだけで本質的に一人の人間と変わらないことになります。

全員が同じようなものの見方と同じような問題解決の方法を持っているので、最初の人が解を見つけたら、他の誰もがそれを改善することはできません。安定した確実な環境で正解が1つと決まっているのであれば、それでも問題はないでしょう。

しかし、今日の不確実な環境においては、何がベストな解であるかは必ずしも明らかではありません。そのような状況において、たとえ人材が優秀であっても、同質的なチームが見つける解は一つしかありません。

それはベストな解かもしれませんが、まあまあの解かもしれません。変化し続ける不確実な環境においては、後になってみないと正解は分からないものです。たまたまベストな解を見つけられればラッキーですが、まあまあの解の場合はそこで留まることになります。

例えて言うと、全員が金槌を持っているようなものです。課題が大量に釘を打つという確実な仕事であれば問題はありません。しかし、気まぐれな施主のわがままに付き合って家を建てるというような複雑な課題になったらお手上げです。

これに対して、多様な人材で構成されたチームは、最初の人が解を見つけたら、2番目の人は最初の人とは異なるものの見方と問題解決の方法で課題に取り組みます。

2番目の人の解は最初の解より劣っているかもしれませんが、優れているかもしれません。次に、3番目の人が同じように対応し、4番目の人も・・・、とこのプロセスが続きます。

このように多様な人材で構成されるチームには多様な仮説が生まれます。そこから仮説と検証のサイクルを回すことで解の品質を向上させるメカニズムを働かせることができます。

答えが決まっていない不確実な環境では、試行錯誤を通して学習ができる組織能力こそが勝負の鍵を握ります。

多様なメンバーで構成されるチームには多様なものの見方、多様な問題解決のアプローチが存在するので、試行錯誤をしながら学習することで価値を創造することが可能になるのです。


(図表)チームと伝統的なグループのスキルセットの概念図

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2. チーム作りの方法

優れたチームを作るためにはどうしたらよいでしょうか。チーム作りが実際にどのように行われるのかを見てみましょう。

2-1. チーム作りのプロセス

チームの誕生を観察すると、プロジェクトチームのように明確な目的をもって編成される場合もありますが、それよりも伝統的なグループがチームへと変容を遂げる方が一般的と言えます。

そこで、伝統的なグループとして活動していた人間の集団がチームに変容するプロセスを見てみましょう。

チーム作りのプロセスは次のようにモデル化することができます。


(図表)チーム作りのプロセス

1. きっかけ

変化をするには何らかのきっかけが必要です。伝統的なグループがチームになるためにもきっかけが必要になります。

きっかけと言うと自分ではコントロールできない他律的、偶然的なもののように思われますが、チーム作りにおけるきっかけは必ずしもそれだけではありません。リーダーがコントロールできるものもあります。

最も分かりやすいきっかけは、危機です。人間には安全の欲求があるので、危機に直面すると安全を求める動機が生じます。伝統的なグループのままでは激化する競争に勝てないという危機感が、チームを形成する動機となります。

不確実な環境で危機が増大しているにもかかわらず、伝統的なグループから脱却するきっかけをつかんでいない人間の集団も多いと言えます。いわゆる茹でガエルというやつです。

このような状況でもチーム作りのきっかけになり得る力として期待できるのは「いい仕事をしたい」という人間の根源的な欲求です。それは表面化していないことが多いのですが、誰もが自己実現につながる「いい仕事をしたい」という欲求を抱いているはずです。

「いい仕事をしたい」という欲求に正直であれば、伝統的なグループで受動的に仕事をするよりも、チームで積極的に仕事をすることが選択されるはずです。

そのようなチームメンバーの気持ちを汲み取ってチーム作りのきっかけにすることがチームリーダーには期待されます。

2. 必要性の認識

危機であれ、いい仕事をしたいという欲求であれ、なんらかのきっかけを契機としてチームの必要性が認識されます。

「生き残るために今のままではだめだ」、「もっといい仕事をするために新しいアプローチで仕事をしたい」というような認識です。もっと素朴な次元では「今の仕事はおもしろくない」という不満もチームの必要性の認識を生み出す源泉になります。

 3. コミュニケーション

チームの必要性が認識されると、必然的にコミュニケーションが発生することになります。

チャレンジングな環境に対してどう対応すればよいかを話し合う、自分にない知見を持っている相手にアドバイスを求める、役に立つ情報を共有する、ということが自然に行われるようになります。

 4. 仕事の進め方の調整

メンバー同士のコミュニケーションを通してチームの課題の優先順位役割分担が決まっていきます。

不確実な環境において課題は変化するので、仕事の進め方の調整は常に必要となります。

5. 相互依存の行動

挑戦的な課題は協力し合わないと克服することは難しいので、お互いに協力し合う相互依存の行動が取られるようになります。

それによって助け合いの精神が育まれるようになると、メンバーの間にリスペクトが生まれるようになります。

6. フィードバック

足の引っ張り合いをするようでは挑戦的な課題を克服できません。力を合わせて課題を克服するために、行動した結果に対してよかった点、改善を要する点についての建設的なフィードバックが行われるようになります。

お互いのフィードバックは仕事の進め方を進化させるとともに、個人の成長を促すことになります。

フィードバックをするということはメンバー同士のコミュニケーションが行われるということなので、ゴールに向かって再び『3. コミュニケーション』からサイクルが回ることになります。

2-2. チームのリーダーシップ

チーム作りを成功させるためのスキルの中で鍵を握るのがチームのリーダーシップです。

リーダーのリーダーシップ、マネジャーのリーダーシップではなくて、チームのリーダーシップというのがポイントです。それは伝統的なグループにおけるリーダーシップとは異なるものなのです。

一般的に認識されているリーダーシップは、伝統的な組織を前提としていることが多いと言えます。

経験豊富なリーダーは答えを持っているか、最も答えに近い存在と見なされ、部下に命令を下してグループ全体の行動を統制し、すべてのタフな意思決定を一人で行うというのがそのイメージです。

ところが、チームというのは不確実な環境で試行錯誤を繰り返しながら答えを見つけていく組織です。そこにおいて伝統的なリーダーシップはうまく機能することができません。

チームにおけるリーダー像は次のようになります。

リーダーは自分がすべての答えを持っていないことを認識しています。すべてのメンバーの協力がないとチームが成功しないことを確信しています。そのため、チームのリーダーは自分に限界があることを隠さず、何事も率直に話し、メンバーの声をよく聞き、アイデアを共有することを推進します。

このようなやり方によってリーダーシップを発揮します。そうすると、リーダーだけでなく、メンバー全員がチームにおけるリーダーシップを発揮するようになります。

このようなリーダーシップの形態は「シェアードリーダーシップshared leadership:共有化されるリーダーシップ)」と呼ばれています。

史記で例えれば、伝統的なグループのリーダー像が項羽で、チームのリーダー像が劉邦ということになるでしょうか。

チームのリーダーとしてリーダーシップを発揮するには6つのポイントがあります。

  1. チームの目的、具体的アウトプット、仕事の進め方、これらがすべて関連していて、意義があることをメンバーに意識させる。
    • 意識させるのであって、指示するのではないということに注意します。リーダーが前面に出るとコンプライアンスは実現しますが、コミットメントが失われることになります。
  2. メンバーにコミットメントと自信を形成させる
    • そのためにメンバーに対してポジティブフィードバックを積極的に行う必要があります。
  3. スキルの多様性とレベルを強化する。
    • メンバーが多様なスキルをお互いに磨いて成長することを鼓舞します。
  4. チーム外の人との関係性を構築し、チームを取り巻く障害を除去する。
    • チームの活動をサポートしてくれる人のネットワークを構築します。また、チームの活動を邪魔する人に対して効果的なコミュニケーションを実施します。
  5. メンバーにチャンスを与える。
    • リーダーが手柄を独り占めにするとチームが成り立ちません。メンバーが成功するように努めます。
  6. 手足を動かして汗をかく。
    • リーダーもチームの一員としてメンバーと同じように手足を動かします。人の上に立つというのは担がれた神輿の上に乗ることではありません。

2-3. チームが行き詰まる原因と対策

チームはチャレンジングで難易度の高い課題を追いかけているので、活動が行き詰まるのは避けられません。行き詰まったチームでは次のような現象が起こります。

・エネルギーや熱意の喪失
・無力感
・目的意識やチームのアイデンティティの喪失
・無関心
・一方的な議論
・個人攻撃や犯人捜し
・皮肉と不信

リーダーとしてはこのような現象が明らかになる前にその兆候を見抜いて手を打つ必要があります。兆候として最も分かりやすいものは、職場や会議でのメンバーの沈黙です。

沈黙は個人ができる最も手軽な不安からの逃避行動です。沈黙が気になりだしたらチームは行き詰まりつつあると言えるでしょう。

チームの行き詰まりの兆候として最も警戒すべきことは原因他人論です。原因他人論とは、チームがうまく行かない原因を、外部環境の悪化、トップのサポート不足、他部門の非協力、チーム内での犯人捜し、など自分以外の要因のせいにすることです。

外部要因が原因になることを否定はしませんが、行き詰まりの原因を外部要因のせいにしても何の改善にもつながりません。原因他人論は行き詰まりを加速することになるだけです。

チーム作りのためには、自分の行動が行き詰まりを生み出しているという原因自分論へと意識を転換することが求められます。

行き詰まりから脱却するためには次のような対応が考えられます。

  1. マインドセットの切り替え
    • 「行き詰まりの原因は他人ではなく自分たち自身にある」というマインドセットに切り替えます。他人(外部要因)を変えることはできませんが、自分(内部要因)は変えることができます。
  2. 原点に戻る
    • 行き詰まりの中で明らかになった意見の相違や隠れていた前提などを引き出して、チームとしての目的と達成方法について再検討を加えます。
  3. 小さな勝利を目指す
    • 最終的なゴールであるチームの具体的アウトプットをテーマ別および時間軸で分解して、いくつかの達成可能なゴールを設定します。小さな勝利を積み重ねることでチームの士気を上げていきます。
  4. 外部の力を利用する
    • 自力で行き詰まりを打破できなければ外部の力を利用することを考えます。顧客へのインタビューやベンチマークしている競合の情報など外部の力を活用することで行き詰まりを突破するアイデアを模索します。「この外部情報はチームの目的と挑戦課題に対してどのような意味を持っているのか、どのように活用すると行き詰まりの突破につながるのか」とチームとして自問自答を重ねます。

2-4. なぜチーム作りは難しいか?

「三人寄れば文殊の知恵」という諺はチーム作りの美徳を語っています。一方で、「一人のフランス人は聡明、二人のフランス人は議論好き、三人のフランス人はカオス(混沌)」という西欧のジョークもあります。チーム作りは一筋縄では行かないものです。

多くの研究者が優れたチームは意外に少ないと結論付けています。それは難易度の高いチャレンジングな課題を追いかけているためではなくて、チーム作りそのものが難しいためです。

チーム作りが難しい背景を認識することで、チーム作りにおいて留意すべき点が見えてきます。

チーム作りが難しい背景として次の3つを挙げることができます。

・自己責任の文化
・伝統的なグループの影響
・業績達成に対する意識の低さ

自己責任の文化

今日の社会では自分で責任を取ることがよしとされています。自己責任を重視する文化で育つと、個人で始末をつけるのが当然だと思うようになります。チームという人間の集団をベースにする考え方にはどうしても違和感を覚えます。

チーム作りのためには個人の責任からチームにおける相互責任へとマインドを変える必要がありますが、それが心理的なチャレンジになります。

伝統的なグループの影響

工業化時代に適応した伝統的なグループでは、何でも知っている力量のあるリーダーが部下一人一人に指示命令をして仕事を進めるというスタイルを採っていました。そこにおいてメンバーは与えられたタスクをどれだけ達成したかによって評価されていました。メンバー同士は協力者というよりもライバルという位置づけです。

このようなスタイルに慣れ親しんでいると、お互いに信頼して協力するという相互依存の関係を構築することがチャレンジになります。

 業績達成に対する意識の低さ

かつての終身雇用の時代は、目標とする業績を達成できなくても職を失う心配はありませんでした。

何としてでも挑戦的な課題を達成しないといけないというプレッシャーが価値を創造するチーム作りを促しますが、伝統的な組織ではそのような力が働きにくかったと言えます。チームではなくて仲良しクラブになる誘因があったというわけです。

このような背景もあって、そもそもチーム作りを練習する機会が少なかったと言うことができるでしょう。何事も練習をしないでスキルを向上させることはできません。練習をする機会を増やすことでチーム作りのスキルを磨くことができるはずです。

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3. チームリーダーに期待される3つの仕事

チームという人間の集団の基本的特徴を考えると、チームリーダーに求められる戦略的な役割は次の3つとなります。

1. 目的のフレーミング
2. 心理的安全性の確保
3. 失敗のフレーミング

3-1. 目的のフレーミング

フレーミングというのは、ある対象や状況をどのように認識するかという枠組みを指します。

目的のフレーミングというのは、目的をどのように捉えるか、そこにどのような意味を見いだすか、ということです。石を切りだすという過酷な労働に対して大聖堂を作っているのだという認識が目的のフレーミングです。

設定された目的そのものに良し悪しはないはずです。大事なことは、そこからどのような積極的な意味を引き出すかということです。

同じ石を切りだすという労働を生活の糧と捉えるか、大聖堂の建設と捉えるかということです。目的に積極的な意味を与えるのがリーダーの大事な役割です。

ある日系の大企業で聞いた話ですが、この会社では発展途上国の人々の健康問題を劇的に改善するという立派な取り組みをしています。それも単なる社会貢献ではなくて、事業として成功しているので、世界的に評価されています。

これにあこがれて多数の学生が入社を希望するようになったのですが、会社に入ってみると配属は社会貢献とは関係のない工業製品の部署がほとんどでした。さまざまな事業を手掛けている大企業なので当然のことと言えますが、その結果、「話が違う」という不平・不満が生じたとのことです。

これは目的のフレーミングを考えるうえで参考になります。なぜならば、発展途上国の福祉という目的と工業製品を売るという目的に偉大さの差などあるはずがないからです。

発展途上国の福祉に貢献することはもちろん立派な目的ですが、それを実現するためには多数の工業製品の支えが不可欠です。原材料がしっかりしていなければ何もできません。

経済というのは相互依存関係にあるものです。表面的に立派に見えるものだけが偉大なのではなく、人知れず縁の下の力持ちを担うのも偉大なのです。

ビジネスの経験の乏しい若手が「話が違う」と言うのは理解できます。そのような若手にビジネスの意味について語るのがリーダーの大事な仕事なのです。

意味のある目的はメンバーにプライドを与えます。そして、プライドを持ったメンバーはチームの活動にコミットするようになります。

逆に、意味を引き出せない目的、あるいは、意味を引き出す力の弱い目的は改める必要があります。チームの目的そのものを見直すのもリーダーの役割です。

チームの目的が意味を持ち、メンバーのコミットメントを引き出すのは、それがいい仕事をしたい、自己実現をしたいという人間の根源的な欲求に応えることになるからです。リーダーは目的のフレーミングを通してメンバーの成長をサポートすることになります。

3-2. 心理的安全性の確保

チームが機能して価値を創造するためには、チーム内で自由で創造的な意見交換が行われることが絶対的な条件となります。チームメンバーが持つ多様なものの見方と問題解決の方法をフル活用する必要があるからです。

そのためにはチーム内に心理的安全性が確保されることが不可欠となります。それを実現するのがリーダーの役割です。

心理的安全性とは、意見、アイデア、感情などをお互いに気兼ねなく発言できる雰囲気を指します。「アホなことを言ってもOK」という雰囲気と言ってもよいでしょう。心理的安全性があれば発言が容易になるだけでなく、お互いに質問することも抵抗がなくなります。

他人に意見を求めたり、自分のミスを認めたり、変なアイデア(イノベーションとはそういうものです)を提案したりしやすくなります。また、厳しいフィードバックを与えたり、真実から目をそらさずにタフな話し合いができるようにもなります。

ハーバード大学のエドモンソン教授が看護師による投薬ミス(潜在的ミスを含む)とチームの雰囲気の関係を調査したところ興味深い結果が得られました[1]。それによると、チームの雰囲気がオープンでミスの報告を督励したチームのミス率は、高圧的でミスは許さないという雰囲気のチームに比べて10倍高かったということです。

両チームの業務上の成績にさほどの差はないので、ミスが許されない(=心理的安全性が確保されていない)チームはミスを隠していると考えられます。

その時点で両者の成績に差がなくても、中長期的には潜在的な問題点をどれだけ発見できるかが改善を成功させるための鍵となります。心理的安全性を確保された看護師チームの方が改善を重ねてよいチームになることは間違いありません。

チームが結束していることはよいことですが、チームの結束を優先して、チーム内で異論を唱えることが憚られる場合があります。それが集団思考の悲劇を招くことになります。

集団思考とは集団が合議によって意思決定を行うときに、集団の強い結束がマイナス方向に作用して、個人で意思決定をする場合よりも愚かで不合理な決定を行ってしまう傾向を指します。米政府のベトナム戦争の泥沼化などが集団思考の典型的事例として挙げられます。

心理的安全性は反対意見を歓迎する雰囲気を形成するので、集団思考に陥るリスクを下げることになります。

心理的安全性が求められる背景にあるのが人間の根源的な欲求である安全の欲求や人に認められたいという承認の欲求です。チーム内では相互依存の関係が形成されるので、安全を脅かす対人リスクが生じることは避けられません。

対人リスクとしては次のようなものが考えられます。

・無知だと思われる不安 「そんなことも知らないのか」
・無能だと思われる不安 「そんな簡単なこともできないのか」
・ネガティブだと思われる不安 「われわれに協力しないつもりか」
・エゴを通す人だと思われる不安 「あいつは自分の思い通りにやりたがる」
・邪魔をする人だと思われる不安 「われわれの意見を認めないつもりか」

さらに、承認の欲求がある人間は、他人から馬鹿にされたくないので、ダメージを最小限に食い止めようとします。そのために、次のような対応を取りがちです。

・正しいと確信が持てない限り自分の意見を言わない。
・間違いを認めない。
・(鋭い質問ができなければ)質問をしない。
・思いついただけのアイデアは口にしない

自分の身を守るための最も手軽で有効な対応は沈黙です。それは個人のエゴには役に立つかもしれませんが、チームに対しては間違いなく損失になります。それによってチーム内のアイデアの多様性が失われるからです。

心理的安全性の基盤となるのはチーム内の信頼とリスペクトです。そのために、リーダーには次のような行動を積極的に取ることが期待されます。

①自らの弱さを見せる
②ポジティブフィードバックをする

 

①自らの弱さを見せる

リーダーはメンバーよりも優秀でなければならないという既成観念があります。そのため、ついつい「できる」リーダー像を演じてしまいがちです。

しかし、リーダーの見かけが優秀であるほど、メンバーは意見が言いにくいという心理的状況に追い込まれます。自分の意見よりもリーダーの意見の方が正しいと思ってしまうからです。

これはチームの価値創造という観点からは具合が悪いことになります。そのため、このような既成観念を打破する必要があります。自らの弱さを見せるというのは、「バカになる」、「バカを演じる」と言ってもよいでしょう。

リーダーには次のようなアクションを取ることが望まれます。

・自分が答えを持っていないことをメンバーに表明する。
・答えを得るためにメンバーの協力が必要であることを表明する。
・積極的にメンバーに教えを乞う。
・自分もよく間違うことを示す。

マネジャーになった方は、担当者のときに優秀だったからマネジャーに昇格したのですが、マネジャーになったら担当者時代の優秀さの根拠だったものを捨てなければなりません。

これはなかなか大変なことですが、人の上に立つというのはそういうことだと肝に銘じておく必要があります。

②ポジティブフィードバックをする

メンバーに対するリスペクトを具体的な行動にしたものがポジティブフィードバックです。ポジティブフィードバックによって、メンバーに対してどのような行動が望ましいか、というメッセージを発信することになります。

心理的安全性の確保のためには、次のようなメンバーのアクションに対して、ポジティブフィードバックをするとよいでしょう。

・重苦しい雰囲気の中で何か発言した。
・ささいなことでも勇気をもって発言した。
・分からないことを物おじせずに質問した。
・失敗であっても何かにトライした。
・表に出ていない失敗を認めた。
・いい意味でアホなことを言った。
・場を盛り上げようとした。

チームとしての成果を期待したかったら、小さな結果を出した人よりも、これからの大きな成果のための種をまいた上記のような人に積極的にポジティブフィードバックをすることが大事でしょう。

3-3. 失敗のフレーミング

チームは難易度の高い課題に取り組んでいるのが普通です。また、チーム作りも簡単ではありません。

そのため、チームにとって失敗は避けられないことになります。失敗はチーム作りの危機につながるので、失敗をどのように乗り越えるかがリーダーに問われることになります。

失敗に対してリーダーに期待される役割は、失敗をラーニングの機会、つまり、肥やしに変えていくというフレーミングです。効率を追求することで成果を上げようとする伝統的なグループにおいては、失敗は避けるべきものとされています。

しかし、試行錯誤を通して学習しながら成果を追求するチームにとって失敗は必ずしもネガティブなものではありません。失敗をしていないのはチャレンジをしていないことになるからです。

失敗に対するフレーミングとしては、失敗を仮説と検証のサイクルで捉えることが有効です。つまり、失敗をネガティブなミスではなくて、仮説の検証結果と捉えるということです。「実行したが失敗した」ではなくて、「仮説を立てて、実行して、仮説を検証した」と捉えるのです。

「失敗したのでダメだった」ではなくて、「仮説が反証されたので、仮説を棄却する。それを踏まえて仮説をバージョンアップする」と捉えます。成功するためには、この仮説と検証のサイクルを回し続けて行けばよいのです。


(図表)仮説と検証のサイクル

チームにおける仕事の進め方を抽象化すると、仮説と検証のサイクルを回すことになります。答えの決まっていない不確実な環境では、最初から完璧な仮説を立てることは不可能です。

誰よりも早く仮説を立てて、実行して、結果を検証し、うまく行かなかったら仮説をバージョンアップして、再度チャレンジする。この仮説と検証のサイクルをどれだけ早く回せるかが不確実な環境におけるビジネスの成功の鍵となります。

世界のイノベーションを牽引するシリコンバレーでは「Fail Fast」というフレーズが合言葉になっています。直訳すると「早く失敗しろ」となります。

その意味するところは、「失敗は仮説と検証のサイクルを回すための原動力だから、早く仮説を立てて早く検証しろ」、「仮説と検証のサイクルを早く回せ」ということです。

失敗を「ミス」とフレーミングして罰を与えると、メンバーには失敗を隠そうとする動機が生じます。失敗を隠すことが重なって組織全体が致命傷を負った実例をわれわれは何度も目にしています。

失敗を失敗ではなく仮説の検証として捉えることが心理的安全性の確保につながります。


4. チーム作りのお手本のケーススタディ

チーム作りの話は分かったが、「本当にそれでうまく行くのか」という疑念を持たれる読者もいると思います。そこで、実際のチームを通して、リーダーの役割について見てみたいと思います。

ケースとして取り上げるのは、世界の最先端を行くシリコンバレーの先進企業が最もベンチマークをしたがっているチームです。

もちろんシリコンバレーの企業に直接確認したわけではありませんが、筆者の付き合いのあるシリコンバレーの複数のコンサルタントから問い合わせを受けて、彼らが強い関心を持っていることを知ったのです。

それは日本の会社のチームです。TESSEIという会社なのですが、新幹線(JR東日本)の掃除を担当している会社と言うとわかると思います。新幹線を利用した際にお掃除チームを見たら、誰しもその見事な仕事ぶりに感動を覚えるはずです。

一般的に言って、清掃という3Kの仕事は人気があるとは言えません。しかも、メンバーは正社員ではなくて、経験が1年未満のパートが主力という状況からスタートしているのです。シリコンバレーがTESSEIに驚嘆する理由はよく分かります。

シリコンバレーは、最先端の技術で未来を創造するという壮大な夢と、株式をテコにした強力なお金のインセンティブという非常に分かりやすい方法で社員を動機付けしています。

ところがそんなものに頼らなくても世界一の仕事をしているTESSEIを見て「参りました」となったわけです。

それでは、どのようにしてTESSEIのお掃除チームが誕生したのか、そのチーム作りのポイントを見てみましょう。

きっかけ

TESSEIでチームが誕生したきっかけは、「困っているお客さんがたくさんいるのでなんとかしてあげたい」という掃除スタッフの何気ない一言でした。

乗り換えが分からない人、待ち合わせ場所が分からない人、子供のおむつを変えたいお母さん、など駅には困っている人がたくさんいます。

社内規則の観点からは、決められた掃除だけをしていればいいはずです。しかし、現場でお客さんに日々直面していると、人のためになるいい仕事をしたいという欲求が芽生えるのが人間の美しい本性と言えます。

目的のフレーミング

その言葉を拾ってリーダーシップを発揮したのが2005年にJR東日本から取締役として赴任したばかりの矢部部長でした。

担当業務を超えた問題意識を持つ掃除スタッフに感心した矢部部長は、「さわやか、あんしん、あったか」という目的を設定して、そこに

「掃除スタッフは掃除をする人ではない。お客様に気持ちよく新幹線を利用してもらって、かけがえのない旅の思い出を作っていただくためのおもてなしを提供する人なのだ」
「新幹線は世界最高の技術だ。しかし、みなさんがしっかりしていなければそれも台無しだ。だから、みなさんもエンジニアなのだ」

という意味を与えたのです。

それが掃除スタッフにプライドを持たせることになったのです。まさに大聖堂の建設につながったというわけです。

心理的安全性の確保

心理的安全性は、目的の一つである「あったか」を実践することで確保されるようになりました。

「あったか」というのは、人間は「こんなことで褒められた」というようなちょっとしたことで喜びや幸せを感じたり、自信をつけることができるという矢部部長の認識を反映したものです。

それを実現するためには、仲間を認め合う力をつけることが大事だと矢部部長は考えました。「仲間を認め合おう」と号令をかけるのではなくて、仲間を認めあう力、つまり、スキルと捉えて、それをトレーニングしようとした着眼点が実に鋭いと思います。

仲間を認め合う力をつけるために2つのアクションが取られました。一つは、現場で地道に頑張っている人達を上司や仲間が褒めるエンジェル・リポートという仕組みです。

30名のエンジェル・リポーターを指名して、地道に頑張る人をどんどんリポートしていくという制度です。リポートされた人々を可能な限り表彰し、さらによく褒めてくれた人も表彰するという仕組みになっています。

「会社が日頃から当たり前のことをコツコツと実行しろと言っているのだから、当たり前のことをやっている人を褒めるのは当然だ」というフレーミングをしたわけです。

もう一つは、「ノリ語集」の作成と実践です。これも実に巧みな戦略で、褒める文化がない日本人に「褒めろ」と言っても褒めないので、日常的に褒めたり認めたりしやすくなるような、ノリのよくなる一言を五十音順に集めてみんなに配布したのです。

例えばこんな感じです。

・「ありがとう」感謝されれば、ノリはよくなる。
・「いいね」ほめられれば、ノリはよくなる。
・「うまくいくよ」励まされれば、ノリはよくなる。
・「笑顔でおはよう」にこやかにあいさつされれば、ノリはよくなる。
・「おもしろいね」ユニークさを認められれば、ノリはよくなる。

さらにおもしろいのは、ノリ語集に加えて、「ノリません語集~デビルノート」というものも作成されました。否定的なニュアンスが強い表現を「ノリません語」として、できるだけ職場で使わないようにしようという運動を起こしたのです。

例えばこんな感じです。

・「うざい」人格を否定されれば、ノリは悪くなる、となります。

こうして承認の欲求を満たされ、心理的な安全を確保されたスタッフからはさまざまなアイデアが続々と出るようになりました。

新幹線が入線するとチーム全員が整列して一礼をし、夏はアロハ、冬はサンタクロースといった季節の装いを身にまとい、笑顔で乗客を見送る、これらすべてが現場からの提案で実現したものなのです。

こうして、典型的な3Kの職場が新幹線劇場と呼ばれる世界が驚嘆する職場に生まれ変わったのです。TESSEIを見ると、チーム作りの基本が極めて忠実に実行されていることが分かります。


5. まとめ

人が集まれば自動的にチームになるわけではありません。チームが機能するためのメカニズムが働かなければ、決して優れたチームにはなりません。

そのためには、マネジャーのリーダーシップが不可欠となります。しかし、そのリーダーシップは伝統的な「タフガイが先頭に立ってメンバーを引っ張る」というようなものではありません。みんなで力を合わせてチームを作るというソフトなリーダーシップが求められるのです。

「業績がよかったときよりも、いいチームで働いていたときの方が幸せだった」というのが長年ビジネスを経験してきた人間の実感ではないでしょうか。

業績の記憶は消えていきますが、上司や同僚に恵まれたときの記憶はいつまでも思い出の中に残ります。チーム作りというのはそれほどの大事業なのです。

それは極めて難易度の高いチャレンジになりますが、世界最強のチームであるTESSEIにおいて本稿で述べたことが忠実に実行されていることは、励みになると思います。

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[1] Learning From Mistakes Is Easier Said Than Done: Group and Organizational Influences on the Detection and Correction of Human Error, Journal of Applied Behavioral Science, March 1996

<参考文献>
・あなたのチームは機能していますか パトリック・レンシオーニ 翔泳社 2003年
・チームが機能するとはどういうことか エイミー・エドモンドソン 英治出版 2014年
・最強組織の法則 ピーター・センゲ 徳間書店 1995年
・The Wisdom of Teams Jon Katzenbach & Douglas Smith Harper Business 1994
・奇跡の職場 矢部輝夫 あさ出版 2013年

・なぜ人と組織は変われないのか ロバート・キーガン、リサ・レイヒー 英治出版 2013年

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