加齢臭や口臭をはじめとした「ニオイ」は自覚しづらく、かつ他人が指摘しづらいものでもあります。このような自分のニオイについて意識的に気を配ることを「スメルマネジメント」と言い、今や世界的な常識となりつつあります。
例えば欧米では、なんと小学生のうちからすでに学校でスメルマネジメントについて学ぶところもあるといいます。また、スーパーやドラッグストア、ディスカウントストアなど至るところで、一面デオドラント商品を陳列している棚を見つけることができ、社会人として、スメルマネジメントはもはや当たり前のことと認識されているのです。
日本でも最近急速にスメルマネジメントが浸透し始めているのは、こうした背景があるのです。
日本より欧米のほうがニオイに対する意識が高い理由として、一般的に欧米人の体臭が強いことが挙げられます。
例えばワキガ体質の人の割合は、日本では10%程度であるのに対し、欧米の場合は約80%といわれています。また体質だけでなく、体臭をきつくさせやすい動物性たんぱく質を多く摂るなど、食生活に起因しているとも考えられます。
こうしたことから、欧米ではスメルマネジメントの概念が一般的なマナーとして根付いているのです。
日本でもニオイが社会問題として認識されるようになってきた今、私たち自身がニオイについて何を知り、何をしたらよいのか、ニオイをマネジメントするために知っておくべきことを紹介しましょう。
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目次
1. 職場でのスメハラの原因の1位は「体臭」
集団生活を求められる職場において、スメハラの原因はひとつではありません。
日本では、「におい」という言葉は、人の受け取り方によって、文字自体が異なります。ある人にとって好ましい香水の「匂い」も、ほかの人にとっては不快な「臭い」ととらえられることがあります。食欲をそそるニンニクの「匂い」も、食事の場以外では強烈な「臭い」となりかねません。
それでは、「職場の身だしなみで『どうにかしてほしい』と思うこと」の第1位は、何だと思いますか? 取引先や社内との打ち合わせなど、具体的な場面で思い当たる方もいるかもしれません。
調査によると、男女ともに、第1位は「体臭(口臭を含まない)」、そして第2位は「口臭」でした。
また、別の項目「職場の身だしなみで指摘しにくいこと」でも男女ともに第1位、第2位ともに同じ結果だったのです[1]。
職場において、周囲を不快にさせる可能性が高く、同時に周囲から指摘しにくい問題、そのトップが「体臭」なのです。
体臭にはさまざまな原因があり、原因によって適切な対策も異なります。ある体臭には効果的な方法でも、別の体臭には効果がないこともあります。
周りに不快な思いをさせているのではと不安にならず、体臭に対して適切な対策をし、自信をもって過ごすために、まずは体臭の種類とそれぞれの原因について知っておきましょう。
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2. 体臭の種類は2つに大別できる
2-1.体臭とはそもそも何?
体臭とは、体から発するニオイのうち、汗、皮脂などの分泌物や、尿・糞といった排泄物を元として体から発生するニオイのことです。
体臭は11種類に分類することができ、さらに「汗や皮脂が原因で発生するニオイ」と、「他の原因で発生するニオイ」に分けられます。
種類 | 原因による分類 |
①ワキガ | 汗や皮脂が原因で発生するニオイ |
②ミドル脂臭 | |
③足臭 | |
④加齢臭 | 他の原因で発生するニオイ |
⑤口臭 | |
⑥疲労臭 | |
⑦ストレス汗臭 | |
⑧ダイエット臭 | |
⑨便秘臭 | |
⑩その他の生活習慣が引き起こす体臭 | |
⑪病気を原因とする体臭 |
(図表1)体臭の分類
個別の体臭の原因については3章以降で解説します。まずは、なぜ汗や皮脂から体臭が発生するのか?そのメカニズムを確認しましょう。
2-2. 本当は臭くない汗や皮脂から体臭が発生するメカニズム
汗は汗腺から、皮脂は皮脂腺からそれぞれ分泌されます。
汗は体温を調節する役割があり、緊張やストレスを感じたとき、辛いものを食べたときなどにも分泌されます。また、皮脂は皮膚に潤いを与え保護する役割があります。
分泌されてすぐの汗や皮脂は、実はほぼ無臭です。では、どうやって汗や皮脂が臭うようになるのでしょうか?
これには、「皮膚常在菌」といわれる、皮膚の表面に存在するさまざまな種類の細菌が深く関係しています。
皮膚常在菌は私たちの皮膚を外的刺激から保護する役割があるのですが、垢(あか)などをエサとしつつ、汗や皮脂の成分を分解・酸化させることで、不快なニオイのするガスを発生させます。これが体臭なのです。いわゆるワキガや足のニオイもこのタイプの体臭です。
(図表2) 「汗または皮脂 + 皮膚常在菌 ⇒ 分解・酸化 ⇒ニオイ」
出典)第一三共ヘルスケア「体臭の原因」
<https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/24_taisyuu/index1.html>
汗や皮脂から発生する体臭には以下のような特徴があります。
特徴a. 発生する仕組みやニオイは異なる
特徴b. 性差や個人差がある
それでは詳しく見ていきましょう。
特徴a. 発生する仕組みやニオイは異なる
体臭の成分は、これまでに数百種類以上も確認されていますが、これらは発生する仕組みや発生する場所、そしてニオイ自体も異なります。
汗腺とは、簡単にいうと汗を分泌する管であり、「アポクリン腺」と「エクリン腺」という2種類があります。
アポクリン腺はわきの下や性器周辺に多く、そこから分泌される汗のニオイは異性を惹きつけるフェロモンの役割を果たしていたといわれます。思春期に活動が盛んになり、独特のニオイを放ちます。
特にわきの下のニオイが強い体質のことを「ワキガ」または腋臭症(えきしゅうしょう)といい、これらは疾患として扱われることもあります。
一方、エクリン腺は全身に存在しますが、中でも手のひらや足の裏に多く分布します。汗を蒸発させることで体温を下げる、体温調節の役割を果たします。足の裏のニオイが代表的な例です。
また頭皮では、皮脂とフケ、細菌が合わさることでニオイが発生し、それを毛髪が吸着・凝縮します。そのため頭皮と頭髪のそれぞれのニオイが混ざって独特なニオイを放ちます。
まとめると以下のようになります。
発生する部位(ニオイの名称) | 関係する汗腺や皮脂腺 | 常在菌のエサ | 主なニオイの成分 |
わき(ワキガ) | アポクリン腺 | 汗に含まれる成分 | 3-メチル-2ヘキセン酸(わき独特のニオイ) |
足の裏 | エクリン腺 | 垢(あか)、ホコリ、皮脂など | イソ吉草(きっそう) 酸(足の裏独特のニオイ) |
頭皮 | 皮脂腺 | 皮脂、フケなど | アルデヒト類、脂肪酸など(頭皮臭と頭髪臭が入り混じったニオイ) |
頭頂部、後頭部 | エクリン腺 | 汗に含まれる乳酸 | ジアセチル(ミドル脂臭) |
(図表3)汗や皮脂から発生する主な体臭の特徴
特徴b. 性差や個人差がある
冒頭で、体臭は欧米人のほうが強いと申し上げましましたが、性別や個人によっても異なります。
女性ホルモンは汗の分泌を抑える働きがあるため、汗が原因の体臭は、女性のほうが弱い傾向にあります。それは同時に、閉経などで女性ホルモンの分泌量が減った女性は、汗をかきやすくなり、男性と同レベルで体臭が発生する可能性があることも意味します。
一方、男性は皮脂の分泌が多いため、皮脂が原因の体臭は男性のほうが強くなるといわれています。
汗を原因とする体臭:女性ホルモンは汗の分泌を抑える
→男性や、加齢女性が臭う
皮脂を原因とする体臭:男性が分泌多い
→男性の方が臭う
体臭には個人差もあります。
原因となる皮膚常在細菌の種類や数は人によって異なりますし、皮脂や汗の出方にも違いがあります。
汗腺の数が多いほど、そして汗腺から分泌される水分量が多いほど、強い臭いがするといわれます。
続いて、個別の体臭の原因について見ていきましょう。
3. 汗や皮脂から発生する体臭
① ワキガ
ワキガは、アポクリン汗腺から分泌された汗を常在細菌が分解することで発生し、自然界ではフェロモンとしての役割があると述べましたが、現代人にとっては悪臭です。
アポクリン腺が多い人や、アポクリン腺からの汗の分泌が多い人は大変です。
ただし、ワキガの原因としては汗以外にも、遺伝や食生活、ストレスなども考えられます。中でも遺伝的要因は大きいといわれています。
② ミドル脂臭
「ミドル脂臭」はマンダム社が命名した言葉で、基本の発汗メカニズムに加齢の要素が重なって発生します。
a. 原因
加齢により汗腺の機能が衰えると、汗の中に含まれる乳酸が増加します。それを頭皮にある常在細菌のブドウ球菌が分解し、ニオイの成分「ジアセチル」が発生します。さらに、ジアセチルに酸化した皮脂が混ざり、よりつよいニオイとなります。
b. ミドル脂臭と加齢臭の違い
ミドル脂臭は、35から45歳 ごろがピークといわれ、後述する ④加齢臭 とは発生する年代も、原因も異なりますが、実際には混同されることも多いようです。
| 原因物質 | メカニズム | ピーク | 発生しやすい部位 |
ミドル脂臭 | ジアセチル | 乳酸をブドウ球菌が分解すると発生する | 35-45歳 | 頭頂部や後頭部 |
加齢臭 | ノネナール | 皮脂を過酸化物質が分解すると発生する | 50歳以降 | 耳の後ろ、頭、首筋(うなじ)、顔 |
(図表4)ミドル臭と加齢臭
ちなみにミドル脂臭の元であるジアセチルは、加齢臭の元であるノネナールの約100倍もニオイが広がりやすいといわれています。
③ 足臭
足には、体の中でもエクリン腺がより多く分布しているため、汗をかきやすく、その量は1日にコップ1杯分ともいわれます。汗に加え、垢(あか)、ホコリ、皮脂などを足の裏の常在細菌が分解することで、イソ吉草(きっそう)酸ができ、嫌なニオイが発生します。
また、靴の中の蒸れやすい環境は、常在細菌以外の菌も繁殖しやすいため、それらも汗を分解することでさらにニオイが強くなります。
足の裏のニオイは、エサが垢(あか)や皮脂などの固形物なので、分解・酸化するのにアポクリン腺と比べて時間がかかるとされています。
一般的に男性は女性より所有する靴の数が少ないので、同じ靴を履き続けた結果、汗を染み込んだ靴自体に足臭が移っていることもあります。
4. その他の要因で発生する体臭
次に、汗や皮脂以外を原因とする体臭以外の、その他の原因により発生する体臭について説明します。
④ 加齢臭
その名のとおり、加齢に伴い発生するニオイです。40歳以上から男女ともに発生し、特に50歳以降がピークとされ、別名「オヤジ臭」と呼ばれます。
汗や皮脂から発生する体臭が、「汗臭い」と言われるニオイなのに対し、加齢臭を表現するときは、「ブルーチーズのニオイ」「古ダンスや古本のニオイ」「ロウソクのニオイ」などに例えられます。ニオイの感じ方には個人差が大きく、人によってはそれほど不快でない場合もあります。
汗や皮脂から発生するその他の体臭と同時に発生することもあり、一般的にタバコを吸う人やお酒を飲む人は強くなる傾向があります。
a. 加齢臭の原因は「体の中の酸化」
下の図は、加齢臭が発生するメカニズムを表しています。
(図表5)加齢臭が発生するメカニズム
出典)加齢臭スッキリ本舗「加齢臭の原因」
<http://www.mushuu.jp/%E5%8A%A0%E9%BD%A2%E8%87%AD%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/14.html>
肪酸(9-ヘキサデセン酸)が過酸化脂質により分解され、「ノネナール」というニオイ成分を発生することで起こります。
不飽和脂肪酸、過酸化脂質ともに、加齢やストレス、疲労などによって分泌が増加しますが、どれが原因でも、加齢臭の発生には体の酸化反応が大きく影響しています。
b. 女性なのに「オヤジ臭」?
加齢臭はオヤジ臭といわれるように、男性に多く発生しますが、女性にも発生します。
しかし、加齢臭の元となる皮脂の分泌は男性のほうが多いため、「男性のニオイ」というイメージが強くもたれているようです。
女性ホルモンであるエストロゲンの抗酸化作用は、汗腺や皮脂腺の働きをコントロールします。しかし、更年期以降の女性は、女性ホルモンが減少するため、皮脂の分泌が増え、男性と同様に加齢臭を発するようになります。
また、生理前に増加する「プロゲステロン」という女性ホルモンは、皮脂の分泌を促す働きがあります。そのため、生理前の女性も加齢臭を発しやすいということができます。
このように、脂肪酸の酸化によりニオイが発生するのは、男女ともに共通です。つまり、「女性は男性と比べると、加齢臭が発生する確率は低いものの、女性も十分に注意する必要がある」のです。
c. 発生場所
加齢臭はどの部位で発生しやすいのでしょうか。
皮脂腺は、頭、おでこ、鼻、首回り、耳の後ろ、胸、わき、背中など、上半身に集中しています。中でも耳の後ろは一番臭いやすく、耳の後ろをこすって初めて加齢臭を自覚する人も多いようです。耳の後ろを意識して洗っている人は少ないため、皮脂がたまりやすいからと考えられます。
次に加齢臭が発生しやすいのは頭です。
頭は皮脂腺が体の中でもっとも多いうえに、髪の毛があるので蒸れやすい場所です。加えて通常の皮脂から発生する体臭も発生しやすい部位なので、いろいろなニオイが合わさり、強く臭う傾向があります。「加齢臭=枕が臭う」というイメージが定着しているのもうなずけますね。
続いて多いのは、首筋(うなじ)や顔ですが、これらは露出している分、臭いやすいのです。
加齢臭が発生しやすい部位はあるとはいえ、皮脂腺が多く分布する部位には個人差がありますので、加齢臭が発生する具体的な場所は、人によって異なります。
⑤ 口臭
口臭の原因物質のうち、強くて不快なものは20種類ほどあるといわれていますが、中でも特徴的なのは、口の中の細菌がタンパク質を分解する際に発生する「揮発性硫黄化合物(VSC)」です。
これは、卵の腐敗臭に似た硫化水素、生臭いメチルメルカプタン、生ごみのようなニオイのジメルサルファイドの3種類のガスの混合臭です。
口臭の原因は大きく次の4つに分けることができます。
- 生理的口臭
- 飲食物やアルコール、タバコによる口臭
- 病気が原因の口臭
- 生活習慣の乱れやストレスによる口臭
それぞれ詳しく見てみましょう。
1.生理的口臭
生理的口臭は誰にでもあります。起きた直後や空腹時、緊張したときなど、口の中が渇くことで細菌が繁殖しやすくなり、VSCが増殖します。
しかし、これらは歯磨きや食事、会話など、唾液量が増えると弱まりますので、治療は特に要りません。
2. 飲食物やアルコール・タバコによる口臭
ニオイの強い食べ物を食べたり、アルコールやタバコなどの刺激物を摂ったりすると口臭が発生します。しかし、これらも一時的なものですから、治療は不要です。
口臭を発生しやすい食べ物としてはニンニク、ニラ、ラッキョウなどが挙げられます。
特にニンニクは成分が腸から吸収されて血液中に溶け、体内を循環して肺に入ってから息として吐き出されるため、翌日になってもニオイが残ることがあります。
また、アルコールの利尿作用は体の水分を減らします。すると唾液の分泌量も減るので、結果、口の中が渇き、VSCが発生しやすい環境を生みます。
タバコはニコチンや一酸化炭素により、唾液の分泌量が減り、VSCを発生しやくするほか、タールのニオイも加わり、口臭を発生させます。
3.病気が原因の口臭
口臭の原因となる病気の9割は、歯周病や虫歯、歯垢や舌苔(ぜったい)など、口腔内の疾患が原因です。
残りの1割は、副鼻腔炎など鼻や喉の疾患や、呼吸器系・消化器系の疾患、糖尿病などが主な原因といわれています。この残りの1割については、後述します(⑪病気を原因とする体臭)が、ここでは口臭の原因となる疾患のうち、代表的な虫歯と歯周病について説明することにします。
a. 虫歯が原因の口臭
食べ物のカスが分解されてできる歯垢や、歯垢が歯にこびりついた歯石は、細菌によって分解されます。分解される際、発生する酸で歯が溶けることによって虫歯になります。
この酸のニオイと、食べカスの分解臭が混ざったものが、虫歯による口臭です。
b. 歯周病が原因の口臭
歯周病とは、歯の周辺の疾患の総称ですが、歯周病菌により歯茎が腫れ、出血したり、歯槽骨が溶けたりします。
この歯周病菌が、悪臭の強い「メチルメルカプタン」を大量に発生するため、強い口臭を生むのです。
4.生活習慣の乱れやストレスによる口臭
生活習慣とは、食生活や喫煙・飲酒、運動の習慣などをさします。生活習慣の乱れやストレスによる口臭は、生理的口臭と病気からくる口臭の混合です。
一時的なストレスなどで口が渇き、細菌が繁殖している生理的口臭であれば、唾液を分泌させることで足ります。しかし、生活習慣の乱れやストレスから免疫力が低下し、病気になっているのであれば、治療が必要な病気からくる口臭といえます。
口臭の影響はニオイだけにとどまりません。例えば生理的口臭の主な原因である硫化水素は、虫歯や歯周病の原因となるだけでなく、狭い空間で長時間吸うと、めまいや頭痛などを起こす可能性もあります。
過度に気にするのもよくありませんが、口臭は周囲に少なくないストレスを与えるものである以上、何らかの対策をとったほうがよいでしょう。
⑥ 疲労臭
疲労すると体内に乳酸が溜まります。乳酸は血中のアンモニア濃度を上げますが、肝臓で処理しきれなくなったアンモニアは、血液に入り、汗にも分泌されるようになります。
結果、ツンとしたアンモニア臭を発することになります。これが疲労臭です。疲労がたまると口臭も強くなります。
⑦ ストレス汗臭
ストレスにより、べったりとした渇きにくい汗をかいたことはありませんか。
過度のストレスは、自律神経のバランスを崩し、体を覚醒させる交感神経が優位の状態が続くようになります。交感神経は「アポクリン腺」を刺激するので、強いストレスがかかると汗の分泌が増えます。
また、強いストレスは、男性ホルモン、副腎皮質ホルモン、アドレナリンといったホルモンを放出し、それらは皮脂腺からの皮脂の分泌を活発にします。
このようにストレスにより汗や皮脂の分泌が増えると、ストレス汗臭が発生します。
⑧ ダイエット臭
昼食を抜くなど、空腹時に口の中に湧き上がる酸っぱいニオイがダイエット臭です。独特のツーンとしたニオイを発します。
その発生メカニズムはこうです。ダイエットのために、炭水化物を抜いたり、糖質制限を行ったりすると、脳が「自分はいま飢餓状態である」と判断します。
すると、体は通常と異なる方法でエネルギーを作り、「ケトン体」という物質と乳酸を発生させます。ケトン体は汗や尿、口などから甘酸っぱい果実のようなケトン臭を発生させます。
また、乳酸により血中のアンモニア濃度も高まり、アンモニア臭を発します。これがダイエット臭となります。
(図表6)ダイエット臭が発生するメカニズム
⑨ 便秘臭
腸内環境が悪化すると、全身から便臭が出てしまうこともあります。
腸内の善玉菌・悪玉菌のバランスが乱れると便秘になり、腸から排出されない便や老廃物の発酵ガスが体中を巡り、汗や皮脂とともにニオイとなって出てくるのです。
⑩ その他の生活習慣が引き起こす体臭
食生活や飲酒・喫煙、運動習慣などの生活習慣は、前述した⑤口臭 だけでなく、ほかの体臭にも大きく影響します。
a.食生活
まず、肉や乳製品に含まれる「動物性脂肪」は、皮脂の分泌を多くするため、ニオイを発生させる可能性が高くなります。また、「動物性たんぱく質」も消化されにくく、腸内で発酵することでニオイを強くするといわれています。
「唐辛子」などの刺激物は、交感神経を刺激して汗の分泌を増やすだけでなく、汗腺の中でもアポクリン腺を刺激するので、ニオイの強い汗が出やすくなります。
さらに「揚げ物」も、古い油や使いまわしの油で揚げていたり、調理してから時間が経過しているものは酸化が進んでいますので、体内で活性酸素を発生し、加齢臭をより強くするおそれがあります。
b.飲酒・喫煙
「飲酒」により体内に取り込んだアルコールは、代謝時に刺激臭を発し、体臭の原因となります。
また「喫煙」は、体臭に直接、影響します。ヤニのニオイが皮膚、髪の毛、口内につくだけでなく、タバコに含まれるニコチンも汗の量を増やし、体内のビタミンC を壊して活性酸素を発生しやすくします。これらはすべて体臭を発生させる原因となります。
c.運動不足
c-1. 汗腺の機能が低下する
運動をしていないと、汗をかく機会が減り、汗腺の機能が低下していきます。機能が低下した汗腺から汗が分泌されると、身体に必要なミネラルも一緒に排出されてしまいます。
ミネラルを含んだ汗は粘りがあり、雑菌も繁殖しやすいので、体臭を発するようになるのです。
c-2. 血行不良により乳酸がたまり、アンモニアが増える
運動が足りないと血行不良になります。基礎代謝も低下し、乳酸という疲労物質が体内にたまります。この乳酸が、汗腺に増えると、血中のアンモニア濃度が上がり、ツンとしたアンモニア臭が起こるのです。
⑪ 病気を原因とする体臭
最後に、⑤口臭 でも少し触れましたが、何らかの病気が原因で体臭を発生することがあります。ここまで述べてきた体臭の原因に心当たりがない場合、何らかの病気にかかっている可能性があります。まずは受診し、医師の判断を仰ぎましょう。
体や口のニオイで病気を診断する方法を「嗅診(きゅうしん)」といいます。病気で異常化した細胞が発する特定のガスは、血液を通して肺、つまり口から排出されます。体臭、中でも口臭(吐く息)を調べることで、体の状態を診断することができるのです。
嗅診は、紀元前4~5世紀の古代ギリシャにルーツがあり、日本でも20世紀初頭の明治・大正期までは、内科医の標準的な診断法だったそうです。血液検査やレントゲン検査などの客観的な検査法がなかった時代、簡単かつ安全な方法だったのです。
古代ギリシャのヒポクラテスや、江戸末期に小石川養生所で赤ひげ先生(新出去定)のモデルとなった町医者も行っていた(山本周五郎『赤ひげ診療譚』)といわれています。
ニオイの特徴別の主な疾患をまとめると以下のようになりますが、あくまでも表は参考までにとどめ、現代の医療技術と医師の診断に頼り、正確に病気を特定することが大切です。
よく例えられる臭い | 可能性が高い疾患 |
脂っぽい皮脂臭 | 脂漏性皮膚炎 |
尿や口臭の甘酸っぱい果実臭(ケトン臭)、アセトン臭 | 糖尿病 |
卵の腐乱臭 | 胃腸の疾患 |
カビた魚臭、ネズミ臭 | 肝臓の疾患 |
汗のアンモニア臭 | 腎臓病、肝性脳症、感染症、全身疲労など |
皮脂腺が活発になり独特の体臭 | 甲状腺機能亢進症、パーキンソン症 |
魚臭い体臭 | 魚臭症(酵素欠損による代謝異常) |
腐った肉 | 口腔(歯周病など)、鼻(蓄膿症など)、喉の疾患 |
(図表7)ニオイの特徴別の主な疾患
5.まとめ
「スメルハラスメント」という言葉に代表されるように、近年、日本ではニオイのケアについて関心が高まっています。そして「体臭」は、職場の身だしなみにおいて、もっとも周囲を不快にさせる問題であると同時に、周囲から指摘しにくい問題でもあります。
体臭は原因別に大きく2つに分けることができました。汗や皮脂から発生するものと、それ以外の要因で発生するものです。
汗や皮脂から発生するもの体臭は、汗または皮脂が、皮膚常在菌により分解され、酸化することで発生します。ここでは代表的な3種類の体臭を紹介しました。
①ワキガ…アポクリン腺からの汗が原因
②ミドル脂臭…エクリン腺からの汗が原因
③足臭…エクリン腺からの汗が原因
一方、汗や皮脂以外の要因で発生する体臭には、加齢に伴う身体の中の酸化、飲食物、生活習慣の乱れ、疲労やストレスなど、その他さまざまな原因がありましたが、以下の④~⑪の8種類に分けられます。
④加齢臭…加齢に伴う身体の中の酸化が原因
⑤口臭…さまざまな原因が考えられる
⑥疲労臭…乳酸がたまることで増加したアンモニアが原因
⑦ストレス汗臭…自律神経の乱れから増加するアポクリン腺からの汗が原因
⑧ダイエット臭…炭水化物や糖質不足から発生するケトン体や乳酸が原因
⑨便秘臭…腸にたまった便や老廃物が原因
⑩その他の生活習慣による体臭…食生活や飲酒・喫煙などの影響
⑪病気を原因とする体臭…異常化した細胞が発するガスが原因
このように、ニオイの原因にはさまざまであり、ゆえに原因ごとの有効な対策もまた異なります。つまり、体臭を改善するには、ニオイの原因をつきとめることが求められます。
また、体臭の原因を把握し、対策することは、単にニオイを防ぐだけでなく、より健康的な体とより健全な生活にもつながります。体臭の原因が生活習慣など、病気以外の場合も含め、健康・健全な生活のバロメーターとして、体臭ケアを行うことをお勧めします。
また、他人のニオイについてどのように指摘、改善するか、組織ぐるみでの対策については、下記の記事を併せてぜひご覧ください。
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[1] オフィスでの身だしなみとニオイに関する意識調査(2014年)マンダム社調べ http://www.mandom.co.jp/release/2014/src/2014060301.pdf