「留学ならぬ、留職。企業として推進するメリットはあるのだろうか?」
留職という言葉を耳にしたことはありますか?
聞いたことはあっても、実際に参加している人や企業が留職を制度として取り入れている事例についてはあまり知られていないかもしれません。
留職とは、企業に勤める会社員が期間限定で主に新興国に赴き、赴任先のスタッフとして働くことです。
近年では新興国への赴任だけでなく、大手企業から国内ベンチャー企業への留職という事例も見られるようになりました。本稿では、社員を留職させる目的やメリット、デメリットなどついて、企業側の視点と、留職する個人の視点から詳しく解説します。
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目次
1. 留職とは何か
留職とは、企業に勤める会社員が主に新興国に派遣されて働くことを言います。限られた期間で自分の知識や経験を生かして勤務にあたります。受け入れ先となる組織は公的機関や現地のNPO団体である場合が多く、そこでの業務はその国の社会的課題解決に直結します。
また、近年では新興国に限らず、社内のベンチャー企業へ留職し、自社のノウハウを存分に注入し、その成長を後押しするといったパターンも見られます。
これまで、新興国や発展途上国のために働きたいと思ったとき、現地でリーダーシップを発揮できるようなプロフェッショナル人材であればあるほど、現職を考えると実現に向けたハードルは高いものでした。
しかし留職という形を取れば、企業から正式に派遣されるので参加しやすく、また受け入れる新興国にとっても高いレベルの経験やノウハウが得られるようになります。
また、ベンチャー企業への留職に関しては、これまでも出向という形で赴くことはありました。しかしその場合は資本関係があるなどあくまで関連企業が多く、その決定も会社の命令によるもの。留職ならば、優秀な人材の受け入れを希望する様々な企業が対象となり、参加も社員本人の希望や申請に基づくという点で大きく異なります。
このように、留職の仕組みを使えば、会社の垣根を超えノウハウとスキルの往来が自由に行われるため、社会全体にとっても大きな意義があります。
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2. 留職の目的とは
留職という制度は、何のためにあり、どんな風に社会に役立つのでしょうか。ここでは留職の目的について、社員を派遣する企業側と、派遣される個人側それぞれについてまとめます。
2-1. 企業が留職を取り入れる目的
留職を企業戦略として取り入れる目的は、新興国の社会課題の解決と市場開拓の一端を担うことです。
この活動を通じ、企業は自社のイメージを向上させ、ブランド力を強化し、さらにグローバル企業としての実績と成果を得ることができます。また、現地の第一線に活躍の場を設けることで、グローバル人材の育成、次世代リーダーの育成が可能になります。
2-2. 個人が留職する目的
留職を利用すれば、リアルなグローバル感覚、ベンチャースピリットを身に付けることができます。自身の活動の成果が「直接その国に暮らす人々を豊かにする」という経験は、会社の中ではなかなか肌感覚として得難いものです。次世代を担うリーダーの素養として貴重な経験となることは間違いないでしょう。
3. 留職が広まった背景
留職は、「留職プログラム」を国内で初めて立ち上げたNPO法人クロスフィールズ[1]が提唱し、現在では大手企業を中心に多くの企業で導入され始めています。
留職が広まった背景には、日本企業の海外進出の推進、グローバル化の推進があります。特に、海外進出先として、これからの世界経済に大きなインパクトを与えるであろう新興国に注目が集まりました。
同様の発想で、国内のベンチャー企業に大手企業の人材を送り込むのがベンチャー留職です。大手企業の長年培われたノウハウでベンチャー企業の成長を後押ししながら、派遣された社員はリアルなベンチャースピリットを学び、自社に還元します。
ベンチャー留職は、新たなイノベーションを生む活動として、大手IT企業を中心にその輪が広がっています。
4. 留職のメリット
留職の目的を踏まえると、企業側および留職に参加する従業員には以下のようなメリットが考えられます。それぞれ解説していきます。
4-1. 企業側のメリット
企業側のメリットをまとめると以下のとおりです。
- 人材育成
- 新興国での市場進出
- 企業ブランド向上
- ベンチャー企業とのノウハウ共有
人材育成
留職によって、グローバル人材の育成、次世代リーダーの育成が可能になります。新興国の第一線で十分にスキルを発揮し、会社の海外進出の先頭に立ってもらうことで、次世代リーダーとしての素養が備わり、やがて会社を引っ張っていく人材にまで成長することが期待できるでしょう。
新興国での市場進出
新興国の社会課題を解決し、市場を拡大することで、グローバル企業としての実績を積み上げることができます。
企業ブランド向上
新興国の社会課題を解決する取り組みを行っていること、ノウハウとスキルを惜しみなく提供する姿勢は企業ブランドの向上につながります。
ベンチャー企業とのノウハウ共有
国内ベンチャー企業への留職の場合、両者のスキルとノウハウとの掛け合わせでさらなるイノベーションが生まれることが期待されます。その企業の将来性に投資する意味合いも大きいでしょう。
4-2. 従業員が留職に参加するメリット
次に、留職に参加する従業員側のメリットをまとめてみましょう。
- 生きたグローバル感覚、ベンチャースピリットが身に付く
- 次世代リーダーとしての資質が備わる
- 社会貢献を実感しやすく仕事のやりがいにつながる
生きたグローバル感覚、ベンチャースピリットが身に付く
留職では現地社会に入り込み、取り巻く環境や社会課題に正面から向き合いながら働くことになります。言葉や文化の壁もある中で、いかに自発的に行動し、経験を生かせるかが問われます。ゼロから周りを巻き込んで行動する経験は、グローバル感覚を培います。
次世代リーダーとしての素養が備わる
周囲を巻き込みながら共に課題解決を目指していく過程で、コミュニケーション能力や交渉力など、次世代リーダーとして必要なスキルが培われていきます。また、全体を見渡して判断を重ねていく経験は、経営視点でビジネスを捉えていくための布石になるでしょう。
社会貢献を実感しやすく仕事のやりがいにつながる
新興国の社会課題の解決に直結する仕事は大きなやりがいの創出につながります。自らの仕事が目の前の人々の幸せにつながることを実感できることは、留職に参加する最大のメリットと言えるでしょう。
5. 留職のデメリット・注意点
メリットがある一方で、デメリットや注意点もあります。企業側と従業員側のデメリットと注意点についてそれぞれ解説していきます。
5-1. 企業が留職を導入するデメリット・注意点
企業側のデメリットと注意点をまとめると以下のとおりです。
- 社内で人材が減る
- 導入、制度化にコストがかかる
- 目的と評価基準を明確にしておく必要がある
社内で人材が減る
当然ながら、社外へ人材を送り出すことで、一定期間社内の優秀な人材は減ります。制度として取り入れるならば、参加できる条件を綿密に設定したり、組織運営などの見直しが必要かもしれません。
導入、制度化にコストがかかる
留職を導入するとなると、どの国に行くのか、受け入れ先はどうするかなどのプログラム設計に時間とコストがかかります。適した人材を選定するのも簡単なことではありません。
また、現地の課題を完全に解決できるかどうかが未知数のため、評価基準が定めにくいという課題もあります。
目的と評価基準を明確にしておく必要がある
赴任先で完璧な受け入れ体制がないことも考えられます。現地に行ってみたら、自分のポジションが思っていたのと違った、周囲の協力が得られない、ビジネスを進めるための最低限の環境が整っていない、といった事態もあり得るでしょう。
人材を送り出す際には、様々な状況を想定しながら、目的を可視化し、評価基準をできるだけ明確にしておくことが大切です。現地でシーダーシップを発揮し活躍してもらうために、赴任先への十分な事前説明も、心掛けましょう。
5-2. 従業員が留職に参加するデメリット・注意点
従業員が留職に参加する場合のデメリットと注意点には以下のようなことが挙げられます。
- 経験とスキルが100%生かされるかどうかが未知数
- 企業からのフォローが十分ではない可能性も
経験とスキルが100%生かされるかどうかが未知数
現地で実力を十分に発揮できるかどうかは、正直なところ未知数です。現地の組織がそもそも円滑に運営されているかどうかなどの外的要因も留職の質を分けます。
赴任前に懸念事項を洗い出し、会社、派遣先、本人とで共通認識として持っておくことといった対策が必要でしょう。
企業からのフォローが十分ではない可能性も
現地では会社からのきめ細やかなフォローは期待できない場合もあります。自主性と行動力、コミュニケーション能力が問われるでしょう。
NPO法人クロスフィールズの「留職プログラム」はこれらのデメリットをカバーできる仕組みが備わっており、多くの企業から支持されているのが頷けます。
6. 事例から学ぶ留職の極意
留職とは実際どのように行われているのか、「留職プログラム」を広く手がけるNPO法人クロスフィールズの事例からいくつかご紹介します。
NPO法人クロスフィールズのサイト[2]によると、「留職プログラム」を導入している企業は、パナソニックや日立、NECなど大手企業を中心におよそ40社、累計で142人の社員が派遣されました(2011年〜2017年)。
同期間で派遣された人の職種はエンジニアが最も多く、全体の37%を占めます。現地での業務内容は、「オペーレーション改善(31%)」「システム開発・導入(27%)」、派遣国は「インドネシア(29%)」「インド(27%)」が多いようです。
「留職プログラム」導入企業事例から、2013年より本プログラムを導入している日立製作所の事例をご紹介します。
【事例1】
留職プログラムに参加した人:Oさん(ソフトウェアエンジニア)
留職期間:1.5ヵ月
ソフトウェアエンジニアのOさんが派遣されたのは、ベトナムのハノイに本部を持つ有機農業を推進するフェアトレード企業。ヨーロッパ展開を控え、全国の生産加工拠点とのコミュニケーションプラットフォームを早急に改善する必要がありました。
情報の管理がバラバラでコミュニケーションはメールと電話だけだった現状に対し、データの一元管理、業務フローの改善を提案、ERPの導入に向けたサポートやトレーニングを実施しました。
参考)https://crossfields.jp/project/report_005
【事例2】
留職プログラムに参加した人:Tさん(ITエンジニア)
留職期間:1.5ヵ月
ITエンジニアのTさんが派遣されたのは、インドのジャイプールに本部をもつ教育NGO。7つのコミュニティスクールの運営を円滑に行うためのデータ活用や分析ツールの開発・導入を担当しました。
現場のヒアリングを徹底的に行い、複数の関係者にとって運用しやすいMIS[3]を提案。データ収集フローが簡易化され、各学校が抱える問題点の発見や、それに応じた改善策の効果検証ができるようになりました。
参考)https://crossfields.jp/project/report_007
本プログラムの導入事例には留職参加者の声も紹介されています。留職を通じて何が学べるのか、具体的なエピソードを知ることができます。ぜひ参考にしてみてください。
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7. まとめ
本稿では留職について解説しました。
留職とは、企業に勤める会社員が期間限定で主に新興国に赴き、赴任先のスタッフとして働くこと。近年では新興国への赴任だけでなく、大手企業から国内ベンチャー企業への留職という事例も見られるようになりました。
留職の目的は、導入する企業にとってはグローバル人材の育成、次世代リーダーの育成、参加する個人にとってはリアルなグローバル感覚、ベンチャースピリットを身に付けることができるなどが挙げられます。
留職が広まった背景には、日本企業の海外進出・グローバル化の推進があります。これからの世界経済に大きなインパクトを与えるであろう新興国に、留職という形で人材とノウハウを投資することは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上につながっていくと考えられます。
留職のメリットを企業側、個人側のそれぞれでまとめました。
企業が留職を導入するメリットは以下の4つを取り上げました。
・人材育成
・新興国での市場進出
・企業ブランド向上
・ベンチャー企業とのノウハウ共有
そして、留職に参加する従業員側のメリットとしては以下の3つを取り上げました。
・生きたグローバル感覚、ベンチャースピリットが身に付く
・次世代リーダーとしての素養が備わる
・社会貢献を実感しやすく仕事のやりがいにつながる
一方で、企業側、個人側それぞれデメリット・注意点もあります。
企業が留職を導入するデメリット・注意点としては以下の3点を挙げました。
・社内で一時的に人材が減る
・導入、制度化にコストがかかる
・目的と評価基準を明確にしておく必要がある
そして、留職参加者のデメリット・注意点として以下2つを取り上げました。
・経験とスキルが100%生かされるかどうかが未知数
・企業からのフォローが十分ではない可能性も
また、留職とは実際どのようなものか、NPO法人クロスフィールズが提供する「留職プログラム」の導入事例をご紹介しました。
同法人のサイトによると、「留職プログラム」を導入している企業は、パナソニックや日立、NECなど大手企業を中心におよそ40社、累計で142人の社員が派遣されました。派遣された人の職種はエンジニアが最も多く、全体の37%を占めます。
現地での業務内容は、「オペーレーション改善(31%)」「システム開発・導入(27%)」、派遣国は「インドネシア(29%)」「インド(27%)」が多いようです(2011年〜2017年)。
さらに、「留職プログラム」を導入した株式会社日立製作所の事例から、実際に参加した人の働き方などご紹介しました。
スイスのビジネススクールIMDが発表した「2020年版世界競争力ランキング」[4]では、日本の順位は過去最低となる34位でした。留職は日本企業のグローバル競争力を高めるために取り組むべき戦略の一つと言えるでしょう。
[1] 新興国「留職」プログラムのNPO法人クロスフィールズ http://crossfields.jp/
[2] 導入実績と留職経験者の活躍(NPO法人クロスフィールズ)よりhttps://crossfields.jp/service/cvp/projects/#result
[3]MIS(Management Information System):経営情報システム。組織内で使われるコンピュータベースの情報システムのこと。
[4] 参考)IMD「世界競争力年鑑2020」からみる日本の競争力
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20201008.html