ケースメソッドとは、実際に起きた特定の事例を教材として、あらゆる事態に適した最善策を討議し、学習者が答えを導き出す教育手法です。
「あなたが社長であるとして、目の前に山積する経営課題をどう解決すればよいか」
このような問いに対して、知識習得を目的とする「インプット型」の学習方法は役に立ちません。常に、自分だったらどうするかという姿勢で知識や持っている情報を「使いこなす」訓練、それがケースメソッドです。
本稿では、ケースメソッドについて、どのような教育手法なのかを効果、課題とともに解説します。
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1. ケースメソッドとは
ケースメソッドとは、実際に起きた経営上の事例を教材として、その問題を分析し、討議しながら解決策を導いていくことを通じて、実践的な問題解決・意思決定能力を高めていく教育手法です。
1920年代にアメリカのハーバード大学のビジネススクールで開発されました。実践力を養成する=経営スキルを身に付けるための教育手法ともいえるため、世界各国のビジネススクールで実施されています。
日本においても、次世代リーダーの能力開発に有効であるとしてケースメソッドでの教育手法を研修に取り入れる企業が増加しています。
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2. ケースメソッドでの学習の流れ
ケースメソッドでは、次のように学習を進めていきます。
(1)ケースの理解
文章化されたケース(事例)を読んで理解します。ケースは、登場人物が発した言葉まで具体的に書いてある場合もあります。ケースの中に入り込み自分が経営者だったらどう考えるか、思考を巡らせましょう。
(2)自分の判断のまとめ
最終的な自分の考えをまとめ、記録しておきます。
(3) 小グループで討議
小グループに分かれ、グループごとに立候補でリーダーを決めます。リーダーの司会・進行で討議を行い、(2)でまとめた意見を発表していきます。
(4)持論の修正
小グループでの討議でメンバーのさまざまな意見を聞くことで、自分とは違った判断基準や価値観があることを学び、それらを参考に持論を修正、強化します。まとめた意見は記録しておきましょう。
(5)大グループ(全体)で討議
(4)でまとめた意見を発表します。大勢の前で発表することも訓練であり、人に伝わる表現方法を学びます。全体での討議により、自分の意見をさらに深め、より多くの考え方、価値観を知ることができます。
(6)ケースの解決策の検証
問題に対する解決策を導き出し、検証してまとめます。ケースを分析することに意味があり、解決策が正解か不正解かは重要ではありません。
事前に個人学習→小人数でのグループ討議→全体でのグループ討議と進める中で思考力を養い、最善の解決策を導き出すことがケースメソッドの狙いです。
3. ケースメソッドの意義・効果
ケースメソッドは実際に起きた問題などを題材にし、結論を導き出すまでに何段階ものプロセスを要します。また正解を求めるものではありません。そこにどのような意義や効果があるのでしょうか。
意義や効果としては、以下の3点が挙げられます。
問題解決・意思決定能力の育成
知識をインプットするだけの学習ではなく、「あなたならどうするか」を問われるアウトプット学習のため、主体的な問題解決能力、意思決定能力を養うことができます。
実践力の向上
実例を題材にしたケースを分析し、それをグループで討議、解決策を導き出すという過程の中で経営実務を疑似体験できるため、実践力を鍛えることができます。
企業事例や業界情報の知識の習得
ケースの読解、分析を多数繰り返していく中で、題材となった企業事例やその業界情報を知識としてインプットすることになります。
ケースメソッドは主体的に問題を解決していくアウトプットの教育でありながら、同時にケースの読解を通じて知識のインプットも行える教育手法といえます。
4. ケースメソッドの課題
ケースメソッドは思考力や実践力を養うのに優れた方法ですが、万能ではありません。次のような課題もあります。
・学習効果が教える側の能力に左右される
・討議の末の明確な正解が存在するわけではないので、結局どの選択をしても同じだから考えても意味がないという印象を持ってしまう場合がある
・現実よりも単純で限定されたケースを扱うことが多いため、実際の経営の解決法として扱うと危険が生じる(問題解決のための思考力の訓練であることを忘れてはいけない)。
・ケースメソッドを数多く経験したからといって、実際の経営で生じる問題に対して正しく解決できるとは限らない(大きな失敗も現実にある)。
ケースメソッドは正解を見つけることが目的ではありません。思考力や問題解決力を訓練する教育手法であることを、しっかりと理解しておくことが重要です。
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5. まとめ
ケースメソッドとは、過去の実例を教材としてあらゆる事態に適した最善策を討議し、学習者が答えを導き出す教育手法です。
ケースメソッドの意義・効果は以下の通りです。
・問題解決・意思決定能力の育成
・実践力の向上
・企業事例や業界情報の知識の習得
一方で、次のような課題もあります。
・学習効果が教える側の能力に左右される
・討議の末の明確な正解が存在するわけではないので、結局どの選択をしても同じだから考えても意味がないという印象を持ってしまう場合がある
・現実よりも単純で限定されたケースを扱うことが多いため、実際の経営の解決法として扱うと危険が生じる
・ケースメソッドを数多く経験したからといって、実際の経営で生じる問題に対して正しく解決できるとは限らない
数多くのケースを経験することで、さまざまな状況での解決策の考え方、意見の伝え方、価値観、判断の多様性が理解できるようになります。
ただし、実践的な部分があるとはいえ、現実よりも単純で限定されたケースを扱っているため、そのまま実際の問題に当てはめることは危険です。この点を踏まえて取り組めば、ケースメソッドは有効といえるでしょう。
この機会に、ケースメソッドを企業研修に取り入れてみてはいかがでしょうか。
参考)仙台白百合女子大学 牛渡淳「『校長の専門職基準』準拠 ケースメソッド事例集」
http://www.education.kyushu-u.ac.jp/~motokane/assets/files/report/case_0423a.pdf