「もっと主体的に研修のワークに取り組んでもらえる良い方法はないだろうか」
学習者のモチベーション維持は、人材育成に携わる方に共通する課題です。新人研修や社員教育を直接的に担当する方であればなおさら、このような悩みをお持ちではないでしょうか。
最近は、ソーシャルラーニングやアクティブラーニングなどの新しい学習スタイルが注目されており、学校教育の分野から徐々に企業教育に広がっています。
この流れの中で、ピアラーニングというのも注目を集めつつあります。ピアラーニングとは、学習者が互いに協力して学び、学びの過程を共有する学習方法のことです。
企業教育ではまだあまり知られていないようですが、学校教育の現場ではコミュニケーション能力の向上や学習モチベーションアップの分野で効果が認められています。うまく活用すれば、組織に「学ぶ風土」を醸成する一助となるでしょう。
本稿では、ピアラーニングとは何か、企業が導入するメリットとデメリット、実際の導入方法をご紹介します。
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目次
1. ピアラーニングとは?
ピア・ラーニング(Peer Learning)とは、仲間(peer)と学習(learn)が組み合わさった言葉で、学習者が互いに協力して学ぶ、学習手法のことです。
「教育」といえば、講師が一方的に教える受動型の学習をイメージしがちですが、ピアラーニングでは、学習者同士が対話しながら学びます。
講師が学習者を評価することはなく、学習者同士で興味深い点や理解しにくい点等を話し合うことで独創的なアイデアや問題の解決方法を見付けます。
ピアラーニングは大学などの教育機関で効果性が実証されている学習方法ですが、近年、社員研修などの企業教育の分野でも効果が期待されています。
ピアラーニングは基本的に、教室内でホワイトボードや机を使って行いますが、オンライン上でも実施できます。
最近では、TwitterやFacebookを使ったソーシャルラーニングが注目されていますが、ピアラーニングもソーシャルラーニングの一種です。
ピアラーニングとソーシャルラーニングの違い
ピアラーニングとソーシャルラーニングの違いを端的に説明するなら、「仲間」と学習するか否か、という点です。
ソーシャルラーニングの場合、SNS等でつながれば仲間でなくても学習できます。知らない人や環境が異なる人とオンラインで学習するのがソーシャルラーニングの特徴です。
一方、ピアラーニングは「仲間」と学習することがメインなので、クラスの友達や職場の同僚と学習します。
ソーシャルラーニングよりも、対等な立場・同じ環境にいる仲間と学習するピアラーニングの方が意見交換をしやすいという人もいるでしょう。
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2. 企業がピアラーニングを導入するメリット
ピアラーニングは企業学習においても効果が期待できます。ここでは具体的に想定できるメリットを見ていきましょう。
・学習者のモチベーションをアップできる
・口頭表現力を伸ばせる
・マルチな視点を持つ人材を育成できる
「経験」から学ぶ機会を作れる
米国で人事コンサルタントを行っているロミンガー社によると、キャリア形成に役立つ教育には「7・2・1の法則」があるといわれています。
これは、学びの70%は経験から、20%は助言や先輩の真似をすることから、10%が研修や読書から学ぶというものです。つまり「経験」から学ぶことが従業員にとって効果的な教育になるということです。
ピアラーニング学習では講師が答えを提供することはありません。学習者同士で試行錯誤しながら、経験によって問題の解決方法などの答えを導き出します。
「7・2・1の法則」に則れば、学習内容を講師から聞くよりも、同僚と一緒に「やる」「議論する」「考える」といった経験を通じて学ぶ方が、効果が高いと言えます。
通常はガイダンスで説明を受けるだけの「学習目標」についても、「なぜ今この研修が必要なのか」「なぜそのスキルが必要なのか」「どうすれば身に付くのか」といったことを学習者同士で話し合う時間を設けると、モチベーションのアップや能動的な参加につながるでしょう。
こうした経験の繰り返しは、自分で考え、発言することの訓練になります。指示を待つのではなく、目の前に課題にオーナーシップを持って取り組む人材の育成に役立つでしょう。
学習者のモチベーションをアップできる
心理学にはモデリング理論というものがあります。他の人を観察して、真似ることで人は学習するというものです。
例えば、楽しく数学を学習している様子をモニターに映し出すと、学習者のモチベーションがアップして、意欲的に学びに向き合うようになるようです。
ピアラーニングもモデリング効果を応用したものとなり、仲間が意欲的に学習に取り組む姿を見ることで、たとえ苦手な分野であったとしても学習者のモチベーションアップが期待できます。
口頭表現力を伸ばせる
口頭表現力とは、自分の考えを相手に分かりやすく伝える能力のことです。声のトーンやリズム、話のスピードや語彙の選択などが重要です。
ピアラーニングによって口頭表現力が向上できることは論文でも証明されています。実験によると、自分の頭の中にある情報を相手が分かるように説明しようとする時、また、相手の考えを汲み取ろうと努める時に、コミュニケーション能力が向上します。[1]
言うまでもなく、コミュニケーション能力は社会人に必要な要素です。特に、リーダー層やマネジャー層には、自分の頭の中で理解するだけでなく、それを他の人に説明するスキルが求められます。
昨今、SNSの普及によって、文字で情報をシェアすることには慣れているが、言葉で伝えるのは苦手、という人が増えているようです。また、社会人のアウトプット力の弱さも問題視されています。
ピアラーニングは考えを言語化して人に伝える能力を伸ばしてくれるので、他者と意思を通わせながらプロジェクトを推進できる人材の育成に有効です。
マルチな視点を持つ人材を育成できる
従来の教育スタイルでは、「正しい解」が一つ用意されており、講師が講義を通じてそこに学習者を誘導していく、という形が一般的でした。
しかし、ピアラーニングでは講師が学習者を評価するのではなく、個々の学習者が教師となって互いに教えます。
そのため、思考が柔軟になり、固定概念に捉われない新しい発想が生まれやすくなります。加えて、仲間と意見交換することで、自分の短所に気付き、思考を修正する能力を培うこともできます。
IT化・グローバル化が進むビジネスシーンでは、多面的に物事を捉えて処理できる人材が必要とされています。ピアラーニングという学習プログラムによって、既存の手法やプロセスに捉われない、マルチな思考を持つ人材を育成が期待できます。
3. ピアラーニングのデメリット、注意点
ピアラーニングは効果性の高い学習方法とされていますが、注意点・デメリットも存在します。詳しく見ていきましょう。
・話が脱線する
・ディスカッションスタイルになじめない人もいる
メンバー構成によって学習効果が左右される
ピアラーニングはメンバー同士で学習するものです。裏を返せば、メンバーの進め方が悪ければ学習効も低くなるということです。
実験結果によると「自己主張の強い人がずっと自分の持論を展開する」とか、「みんな無口で論議が展開しない」などの事例が挙げられています。[2]
また、仲の悪い人同士が組むと、議論を通り越して口論になってしまい、学習どころではなくなる場合もあります。
ピアラーニングの開催者は授業を成り行きに任せるのではなく、ある程度の秩序と構成を事前に検討する必要があります。
話が脱線する
ピアラーニングでは講師が「教える」ことはしないので、自由に会話ができるメリットがありますが、その分、論議の的がずれてしまう可能性があります。
一時間かけたのに、結果はただの雑談で終わってしまった…なんていうこともあり得ます。また、表面的な意見交換だけで奥深い部分の議論に発展しないこともあります。
仲間同士で話せば自動的に学習効果が生まれるというわけではないのです。参加者一人ひとりがピアラーニングに対する正しい見方を持っておくことが重要です。
ディスカッションスタイルになじめない人もいる
欧米ではピアラーニングのようなディスカッションスタイルは一般的ですが、日本では馴染みが薄いのが実情です。
そのため、「さあ、自由に論議してください!」と言われても何から始めたらいいのかわからない人も多いようです。そのような人にとってピアラーニングは楽しい学習の場、というより戸惑いや恥ずかしさの方が先に来るかもしれません。
ピアラーニングの開催者は日本の文化的な背景を念頭に置いて、ディスカッションが苦手な人にどのようなフォローをするかを考えておきましょう。
4. ピアラーニングを効果的に行うためのステップ
ここまで、ピアラーニングの重要性やメリット・注意点を説明しました。ここからは、実際に導入する際のポイントを解説します。
4-1. ピアラーニングの事前準備
ピアラーニングの実施にあたっては、以下の準備が必要です。
・メモ用紙と発表用のホワイトボード
対面式の椅子と机を準備する
ピアラーニングでは、学習者がスムーズに意見を交換できる環境が必要です。従来の教室型のように一方向に向かっている机ではなく、対面式の机と椅子が理想的です。
机は一人用ではなく、みんなで取り囲める大きなものがいいでしょう。可動式の椅子と机があれば、学習者が自由に動ける空間を作れます。
オンライン研修の場合は、Zoomを使うとグループワークができます。詳細は以下の記事をご参照ください。
メモ用紙と発表用のホワイトボード
効果的に論議するには、メモを取ったり要件をまとめる必要があります。メモ用紙とペン、各テーブルごとに情報をまとめることができるホワイトボードがあればいいでしょう。
4-2. ピアラーニングを開始する時の準備
ピアラーニングを開始する時、以下の点を行いましょう。
・学習目標を設定する
・ルールを決める
ピアラーニングについて説明する
参加者の中にはピアラーニングが初めての人もいるでしょう。知らない人とグループが同じになることもあります。
緊張を和らげて、意欲的に学習に取り組めるようにピアラーニングについて説明してあげましょう。何を目的としているのか、どのくらいの時間を行うのかなどです。
また、過去の授業のデータを紹介することで、ピアラーニングのメリットを理解でき、学習意欲の高まりが期待できます。可能であれば、ピアラーニング経験者をゲストとして招き、その時の実感や感想などを語ってもらうのもよいでしょう。
一方的に説明するだけでなく、質疑応答の時間も取ります。その後の学習がスムーズになるように、和やかな雰囲気を作っておきましょう。
学習目標を設定する
ピアラーニングを成功させるため、学習目標の設定は非常に重要です。
学習を開始する前に話し合いのテーマを決めます。テーマ自体が漠然としている場合は分かりやすい言葉でより明確に表現します。
テーマの設定だけでなく、何を目指して話し合うのかも決めます。例えば、問題の原因を突き止めるのと、問題の解決策を見付けるのとでは、論議の方向性が異なります。
曖昧な指示ではピアラーニングの効果を十分に引き出すことはできない、ということを覚えておきましょう。
ルールを決める
ピアラーニングでは相手の意見に異議を唱えることはOKですが、人格の否定はNGです。相手の性質や履歴、出自などのバックグラウンドを論議に含めないよう、ルールを決めます。
また、自己主張の強い人が場を独占しないように、各自に与えられた持ち時間を守って発言するように定めます。
発言するだけでなく相手の話をしっかりと聞くこともピアラーニングの一環であることを参加者に伝えましょう。
4-3. ピアラーニング終了後に行うこと
ピアラーニングを行った後に行うことは以下の通りです。
・メンバーを入れ替えて、学習したことを共有させる
・レポートを作成して交換
人前での報告の機会を与える
学習時間が終わったら、発表の機会を与えます。これは人前で話す能力や大衆に伝わるコミュニケーションの教育の場となります。
グループ内から数名を選んで発表させることもできますし、全員に数分の持ち時間を与えて学習の結果を公表してもらってもいいでしょう。
メンバーを入れ替えて、学習したことを共有させる
最初の学習グループを入れ替えて、各グループ内でどのような議論が展開されたのかを共有させます。
そうすることで自分たちのグループでは発見できなかった問題点や解決策を知ることができ、より多面的に状況を見ることができます。
レポートを作成して交換
最後にレポートを作成して、各グループ間で読み合わせを行います。文字に落とし込むことでより論理的に情報をまとめることができます。
どうしても人前での発表が苦手という人の場合、レポート交換のみを行ってもらうという方法もあります。
5. まとめ
本稿では、ピアラーニングについて解説しました。
ピアラーニングとは、学習者が協力して学ぶ、学習方法のことです。講師が一方的に教えるのではなく、「仲間」の対話を通して学習の過程を共有しながら学ぶのが特徴です。
ピアラーニングによって、友好的な人間関係の構築や多面的な視点で物事を考える力が身につきます。
ピアラーニングを企業に導入するメリットは以下の通りです。
・「経験」から学ぶ機会を作れる
・学習者のモチベーションをアップできる
・口頭表現力を伸ばせる
・マルチな視点を持つ人材を育成できる
経験から学ばせたり、コミュニケーション能力を伸ばすことは、これからの日本経済を支える人材を育成する際の重要なポイントと考えられます。
能動的な学習効果が高いとされるピアラーニングですが、デメリットもあります。
・メンバーによって学習効果が左右される
・話が脱線する
・デスカッションスタイルになじめない人もいる
ピアラーニングを導入する時には、これらの注意点を明記しておきましょう。
また、ピアラーニングを導入する時のステップもご紹介しました。事前準備として以下のものを用意しましょう。
・対面式の椅子と机
・メモ用紙と発表用のホワイトボード
議論中にスムーズに意見を交換し、情報を記録できる環境を作ってあげることが重要です。
実際にピアラーニングを開始する時のポイントは以下の通りです。
・ピアラーニングについて説明する
・学習目標を設定する
・ルールを決める
ピアラーニングが終了したら、以下の点を実践してみましょう。
・人前での報告の機会を与える
・メンバーを入れ替えて、学習したことを共有させる
・レポートを作成して交換する
ピアラーニングは学校教育では効果があると証明されている学習方法です。企業内での導入事例はまだ多くないものの、新人研修や社員教育においても効果が期待できます。
多面的で柔軟な思考と高いコミュニケーション能力を持つ人材を育成するため、ピアラーニングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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[1] ピア・ラーニングを取り入れて口頭表現力を伸ばす方法を探る
https://www.nkg.or.jp/event/.assets/event_2007_10.pdf
[2] ピア・ラーニングの改善点を探る
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jlem/24/2/24_12/_pdf/-char/en
参考)
授業にピア活動を取り入れる
http://www.kagoshima-u.ac.jp/education/FDGUIDEvol1.pdf
学習者同士が協力しながら学び合う学習手法「ピア・ラーニング」とは
https://news.yahoo.co.jp/articles/431cd802c019b8656de19d62dcfebfce1a53f09e
ピアラーニングの改善点を探る
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jlem/24/2/24_12/_pdf/-char/en
日本語教育通信 日本語・日本語教育を研究する 第33回
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/tsushin/reserch/033.html#:~:text=%EF%BC%91%EF%BC%8E
ピア・ラーニングを取り入れて口頭表現力を伸ばす方法を探る
http://www.nkg.or.jp/pdf/jissenhokoku/kuno.pdf