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法務におけるコンプライアンス推進 弁護士と連携するメリットとコツ

「専門家の力をもっと上手に活用して、わが社のコンプライアンスを向上できないだろうか」

企業のコンプライアンスを実現させるためには、キープレーヤーである「法務部」と「弁護士」がそれぞれの役割を果たしつつ、連携をうまくすることが大切です。

多くの企業でコンプライアンスを担当しているのは、法務部です。

企業の法務部員は増加傾向にあり、2018年時点での従業員2500人以上の日本企業の法務部員は平均18.9名です。そのうち、弁護士資格者(外国の弁護士資格を含む)は、17.4%です。

また、コンプライアンス経営の実現には、法律の専門家である弁護士との連携が欠かせません。

経済産業省や日本弁護士連合会が発表した資料によると、2000年以降、社内弁護士は30倍以上に増加しています。

しかし、弁護士資格者全体(40,066名/2018年)から見れば、5.4%(2,161名/2018年)。日本企業で、10名以上の社内弁護士(日本の弁護士資格者)を持つ企業は26社であり、主に、ITサービス、総合商社、メーカーなどの大企業です。

このようにコンプライアンスを担当する企業の法務部員は増加傾向にあり、それに伴い、社内弁護士も増えています。

それでは、法務部にはどのような機能があり、コンプライアンスに対してどのような役割を担っているのでしょうか。

また、弁護士資格者はどのよう役割を担っており、コンプライアンス経営を実現するために、社内弁護士と社外弁護士とはどのように連携すればよいでしょうか。

そもそも法務部自体がどのような仕事を行っているのか、ご存知のない方も多いかもしれません。

今回は、コンプライアンスの実現に必要な企業の法務部の機能と弁護士との連携について、具体的な方法と連携事例をご紹介します。


1. 法務部の機能とコンプライアンス

法務部は、そもそもどのような機能を持っており、コンプライアンスにおいてはどのような役割が期待されているのでしょうか。

1-1. 法務部の機能

法務部としての機能には、守りの機能(ガーディアン機能)攻めの機能(パートナー機能)があります。

ガーディアン機能とパートナー機能についての説明を、経済産業省が2018年に発表した「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」から引用してみましょう[1]

・ガーディアンとしての機能
 法的リスク管理の観点から、経営や他部門の意思決定に関与して、事業や業務執行の内容に変更を加え、場合によっては、意思決定を中止・延期させるなどによって、会社の権利や財産、評判などを守る機能。

・パートナーとしての機能
 経営や他部門に法的支援を提供することによって、会社の事業や業務執行を適正、円滑、戦略的かつ効率的に実施できるようにする機能。

法務部門を「業務」の切り口から見ると、法務関連業務は、<図1>の通り、従来の法務業務(ex.契約審査、法律相談、訴訟対応)から、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、個人情報 保護へと拡大している。

<図1>法務関連業務とはどのような仕事か

このように、法務部にとってコンプライアンスは法務部員の専門性を活かせる業務であり、経営に貢献するコンプライアンス業務の重要性は拡大しています。

1-2. 法務部が期待されるコンプライアンスに対しての役割

法務部の2つの機能について、それぞれに期待されるコンプライアンスに対しての役割を説明します。

・守りの機能(ガーディアン機能)に期待されるコンプライアンスに対しての役割
・攻めの機能(パートナー機能)に期待されるコンプライアンスに対しての役割

・守りの機能(ガーディアン機能)に期待されるコンプライアンスに対しての役割
まずは、守りの機能(ガーディアン機能)について、整理してみましょう。

法務部の守りの機能には、次の4つがあります[2]

  1.  「最後の砦」として企業の良心となること
  2. コンプライアンス・ルールの策定と業務プロセスの構築及び徹底
  3. 契約による自社のリスクコントロール
  4. 自社の損害を最小限に抑えるための行動

コンプライアンスの実現には、法令遵守に加えて、CSR(企業の社会的責任、corporate social responsibility)、リスクマネジメントの視点も必要になります。

そのため、2の「コンプライアンス・ルール策定」はもちろんですが、1の「最後の砦となる」、3の「契約によるリスクコントロール」、4の「自社の損害を最低限に抑える」の業務も、全てコンプライアンス経営を実現するために必要であり、コンプライアンスの関連業務と言えます。

・攻めの機能(パートナー機能)に期待されるコンプライアンスに対しての役割
また、法務部の攻めの機能(パートナー機能)には、次の3つがあります[3]

  1. ビジネスの視点に基づいたアドバイスと提案
  2. ファシリテーターとしての行動
  3. ビジョンとロジックを携えた行動

コンプライアンスは、法務部の守りの機能のみが対象であると思われる傾向がありますが、これらの攻めの機能とも密接な関連性があります。

例えば、提携先の企業との契約や取引において、コンプライアンス上疑義のある条件がある場合は、法務部としてリスク分析と対策が必要です。

また、ITサービスやFinTech(フィンテック:Financial Technology)など、新しい事業分野では、法律がまだ未整備であったり、ビジネスの実態と合っていなかったりする場合も多くあります。

そのような新規事業を直接担当する部門は、コンプライアンスの視点からもどのように取り組むべきかを考えて判断する必要があり、法務部の専門的な見地からのアドバイスと提案が重要な役割を果たすことになります。

[1] 経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」,平成30年4月,http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf(閲覧日:2021年6月18日)
[2] 経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」,平成30年4月,http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf(閲覧日:2021年6月18日)
[3] 経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」,平成30年4月,http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf(閲覧日:2021年6月21日)


2. 弁護士との連携

次に、コンプライアンス業務において、どのような場合に弁護士に相談するかを見てみましょう。

2-1. 弁護士に期待する役割

滝川英雄氏(株式会社ミスミグループ本社法務・コンプラインス総括執行役員)は、著書の中で、法務部が弁護士に相談する場合として、次の7つの例を挙げています[4]

  1. 紛争の代理を依頼する
  2. 複雑で重要な手のかかる案件を依頼する
  3. 法的な意見書を求める
  4. 専門分野での回答を求める
  5. 客観的な立場からの意見を求める
  6. 調べたけれどわからない、自信がないところがある
  7. 他社の対応事例を知りたい

通常、一口にコンプライアンスと呼んでいますが、取り組み方においては以下の3段階に分類することができます。

案件法務
コンプライアンス問題が発生した後、迅速に問題を解決することで、企業が受ける損害を最小限にしようとするアプローチ

予防法務
コンプライアンス問題の潜在的なリスクを分析し、そのリスクに対して適切に対応できる仕組みや仕掛けを準備しておくことによって、組織的にコンプラインス問題の発生を予防するアプローチ

戦略法務
企業の経営判断に対して、コンプライアンスの視点から、行うべきか否かを判断する

戦略法務は視点が異なりますので、前述の滝川氏による7つの例を、案件法務と予防法務の視点から整理すると、次のようになります。

案件法務予防法務
1. 紛争代理1. 複雑な案件
2. 複雑な案件2. 法的な意見書
3. 法的な意見書3. 専門的な回答
4. 専門的な回答4. 客観的な意見
5. 客観的な意見5. 調査
 6. 他社事例

項目によって重複があるのは、具体的な内容次第でどちらにも該当する可能性があるからです。

案件法務も予防法務も、対策としては弁護士への相談がもっとも有効な手段です。

例えば、自社のトラブル事例を使って予防法務を目指した具体的な研修を社内で行う場合、事例の論点の整理や他社の事例なども併せて弁護士に相談し、自社の状況に則した研修プログラムや教材を作ることができます。

最新の法令解説や専門的な講義が必要な場合は、社外弁護士に講義を依頼したり、法務部員が行う社内研修において、コメンテーターとして社外弁護士に参加してもらう方法があります。

また、予防法務の一貫として、社内だけでなく代理店や取引先に対してもコンプライアンス研修を行うことにより、コンプライアンスについて共通の認識を持ち、他社を含めた全方位的な予防法務に取り組む方法があります。

他にも、法律の解説を社外弁護士に依頼し、コンプライアンスの取り組みについて法務部員とともに説明するなど、社外弁護士と協力して研修を行う方法も可能です。

筆者がコンプライアンス担当だった際、実際に代理店や主要取引先に対するコンプライアンス研修を実施したことがありますが、非常に有益な内容となりました。

この経験を踏まえると、社外弁護士と連携する研修は、より高い効果が期待できることは確かです。

2-2. 社内弁護士と社外弁護士

最近、日本企業でも、法務部に社内弁護士が採用される事例が増えていることをご紹介しました。

社内弁護士と社外弁護士の違いについて、芦原一郎氏(アフラック総括法律顧問代行:・弁護士[日本/米国ニューヨーク])は、著書の中で次のように述べています[5]

社内弁護士は会社との運命共同体です。予見可能性と回避可能性のいずれもが社外弁護士とは比較にならないほど高いため、会社や株主に損害を与えた場合には責任を負わされる可能性が高いのです。場合によっては弁護士資格にまで影響があるかも知れません。ですから社内弁護士の場合、担当部門が反対の結論を出した場合であっても「はい、そうですか」と簡単に引き下がるのではなく、法的に安全で好ましい状態が実現するように努力し、適切なリスクコントロールをしなければならないのです。

その上で、法的検証に際して社内弁護士が全てを処理することは不可能であるとして、社外弁護士の活用例も紹介しています。

つまり、社内弁護士は、弁護士資格を持ち、法律の専門性の高い法務部員であると言えます。

一方で社外弁護士は、社内弁護士のみでは限界のある法律業務、例えば、紛争の代理、専門分野での回答、他社の対応事例などで連携する法律の専門家です。

そのため、コンプライアンスの実現には、それぞれの専門性を理解した上で連携することが重要です。

[4] 滝川英雄『スキルアップのための企業法務のセオリー』,第一法規,2018,P138-140.
[5] 芦原一郎『社内弁護士という選択』,商事法務,2008,P9.


3. 社外弁護士との連携事例

筆者がかつて法務部門のマネジャーだったとき、コンプライアンスの案件法務から予防法務への取り組みと部下の育成などを目的として、顧問である社外弁護士との連携プログラムを企画し、実現したことがあります。

その内容と目的についてご紹介しましょう。

3-1. 社外弁護士との連携プログラムの内容

社外弁護士との連携プログラムでは、以下の3つの内容を行いました。

(1) 定期的な課題検討会
(2) ルールを決めた運営と記録
(3) 検討会後のフォローアップ

(1) 定期的な課題検討会
法務部員(マネージャーと若手社員数名)と顧問弁護士が、定期的(1~2カ月に1回、2時間程度)にテーマを決めて課題検討会を行います。

課題検討会のテーマはあらかじめ決めておき、関連する資料を整理し、検討会の前に参加者に送付します。

例えば、秘密保持契約をテーマとした課題検討会の場合は、次のような資料を準備します。

・顧客とよく議論になる論点を含む秘密保持契約の複数のサンプル
・顧客の詳細と論点を整理し、検討したい課題を3つ抽出(例:論点となった問題について、他の解決方法があるか、もし国際取引でニューヨーク州法が適用されることになった場合、日本の法律との類似点と相違点は何か、など)

(2) ルールを決めた運営と記録
最初に、法務部員が事前送付資料の概要と議論したい論点を説明します。その上で、弁護士の見解を聞きながら課題について議論します。

そして最後に、案件法務の観点から“今後、問題が発生した場合、損害を極小化する方法はあるか”という点と、予防法法務の観点から“今後、問題が発生するのを予防するために何ができるか”という点について議論します。

議論の内容と判例などの参考資料は、議事録として記録します。

(3) 検討会後のフォローアップ
課題検討会後、議事録に基づき、参加した法務部員が参加していない法務部員と論点を共有した上で、今後のコンプライアンスの体制作りや予防法務のための研修に、どのように活用するかを議論し、実行計画を作成します。

このように、課題の検討から弁護士を巻き込んでプログラムを実行し、次の研修への活用へとつなげました。

3-2. 社外弁護士との連携プログラムの狙い

そもそも、この連携プログラムには、次の3つの狙いがありました。

(1) 若手社員の育成
(2) 予防法務の取り組み
(3) 研修素材の発掘

(1) 若手社員の育成
当時、担当していた法務部には、法学部を卒業後すぐに配属された複数の若手社員が所属していました。

若手社員にとって、顧問弁護士と具体的な事例に基づき法律的な見解を議論することは、有効な人材育成の機会になりました。

その後、若手社員が顧問弁護士と相談しやすい関係を構築する効果もありました。

(2) 予防法務の取り組み
社外弁護士とは、問題が発生してから相談する案件法務型のアプローチを取ることが通常です。

しかし、実際に問題が発生している最中は、時間の制約もあり、幅広い可能性を議論するのが難しく、その時点で可能性の高い選択肢を取って問題を解決することになります。

しかし、この連携プログラムは予防法務だったため、過去の事例の問題点を分析し、どのような解決方法があるかについて、余裕を持って議論できます。

また、顧問弁護士とっても、日常的に組織がどのような課題認識を持っているかを共有してもらう機会になります。

そのため、将来実際に問題が発生した際に、迅速かつ幅広い選択肢で対応し、問題解決の成功確率を上げることができます。

(3) 研修素材の発掘
自社事例に加え、類似の事例について、顧問弁護士から最近の判例や他社事例の情報を得ることができます。

そのためこの連携プログラムには、予防法務を目指したコンプライアンス研修のための素材の発掘効果もあります。

この連携プログラムは、迅速な案件法務の推進に加え、予防法務の施策作りや、効果的な研修教材の作成や人材育成において、大変有益なものとなりましたので、このやり方をぜひともお勧めします。

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4. まとめ

企業のコンプライアンスは、多くの企業で法務部が担当しています。法務部には、守りの機能(ガーディアン機能)と攻めの機能(パートナー機能)があり、いずれの機能も、コンプライアンスの実現には必要な機能です。

コンプライアンス経営の実現には、法律の専門家である弁護士との連携が欠かせません。

2000年以降、社内弁護士が増える傾向にありますが、多くの企業で社外弁護士に相談しています。

社内弁護士は、弁護士資格を持ち、法律の専門性の高い法務部員であり、社外弁護士は、社内弁護士のみでは限界のある法律業務を相談する法律の専門家です。

どちらか一方に任せきりではなく、それぞれの専門性を理解した上での連携が重要です。

そのことを証明するために、筆者がかつて実施した顧問法律事務所の弁護士との連携プログラムの事例をご紹介しました。

このプログラムでは、(1)定期的な課題検討会、(2)ルールを決めた運営と記録、(3)検討後のフォローアップを行っています。その狙いは、(1)若手社員の育成、(2)予防法務の取り組み、(3)研修素材の発掘、でした。

今回ご紹介した法務部の役割と弁護士との連携方法を参考に、自社の適切なコンプライアンス体制構築に取り組んでください。

参考)
経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」,平成30年4月,http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf(閲覧日:2021年6月18日)
日本弁護士連合会「第1章弁護士人口」,2018年版,https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2018/1-1-1_tokei_2018.pdf(閲覧日:2021年6月18日)
日本組織内弁護士協会「弁護士会別企業内弁護士数の推移」,https://jila.jp/wp/wp-content/themes/jila/pdf/transition.pdf(閲覧日:2021年6月18日)
弁護士ドットコム株式会社「300人体制を築くメガ法務の役目 – パナソニック」,『BUSINESS LAWYERS』,2017年03月14日,https://business.bengo4.com/articles/152(閲覧日:2021年6月21日)
一色正彦,竹下洋史著『法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー』,第一法規,2018.
野村慧著『弁護士・法務人材 就職・転職のすべて』,第一法規,2018.
一色正彦,松下電器産業㈱ インダストリー営業本部 法務部法務課長『研究業書 No.111 法務リスクの増大と電子化に対応した戦略法務機能の強化と業務効率化』,社団法人企業研究会,2000.

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