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コンプライアンスに事例学習が効く!意識を底上げする取り組みを解説

コンプライアンス研修 イメージしやすく学習効果を上げる事例活用法

「コンプライアンス問題の事例を集めたものの、どう活用すればよいのだろう」
そのように悩むコンプライアンス担当の方は多いのではないでしょうか。

別の記事で、コンプライアンス問題の予防には、実際に発生したコンプライアンス問題の事例を素材とし、トラブルの発生原因と教訓を見出す方法が有効であることをご紹介しました。

さらに、事例を用いた学習方法には、他にも以下の2つの方法があることもご説明しました。
(1)ケーススタディ:具体的な事例から理解すべき事項を特定して学ぶ方法
(2)ケースメソッド:特定の学習目標を達成するために意図的に編集された教材から議論を通して学ぶ方法

それでは、どうすればコンプライアンス教育事例を有効活用できるのでしょうか。

本稿では、事例学習の方法について具体的に見ていきます。事例を活用することにはどのような価値があるのか、事例を活用する際に注意すべきポイント、そして有効な事例活用の方法についてご紹介します。


1. コンプライアンス問題を身近にする、事例活用の3つの価値

まず、事例を活用する価値について考えてみましょう。前出の別の記事でも触れましたが、コンプライアンス問題法令の問題であることが基本です。

法令は専門用語で書かれているため、具体的なビジネスシーンをイメージするのは難しいものです。

しかし、実際に発生したトラブルならイメージしやすく、より身近に感じるはずです。こうした点から、事例活用には、次の3つの価値が考えられます。

1-1. 学習意欲を刺激できる

教育学者のジョン・M・ケラー教授は、学習意欲に関する研究を行ない、「ARCS(アークス)モデル」を提唱しています。これは、学習意欲を高める要素を次の4つの概念に分類し、実践しやすい形にまとめたものです[1]

(1)注意(Attention)
 学習者の関心を獲得する。学ぶ好奇心を刺激する。
(2)関連性(Relevance)
 学習者の肯定的な態度に採用する個人的にニーズやゴールを満たす。
(3)自信(Confidence)
 学習者が成功できること、また、成功は自分たちの工夫次第であることを確信・実感するための助けとする。
(4)満足感(Satisfaction)
 (内的と外的)報奨によって達成を強化する。

学習意欲を高めるには、学習者の意欲を引き出すことが大切です。この点において、事例から学ぶ学習方法は、「ARCSモデル」に則っており、学習意欲を向上させる効果が期待できます。

まず、トラブル事例はビジネスシーンをイメージしやすいので、学習者の関心を惹き、好奇心を刺激します(=(1)注意)。特に、コンプライアンス問題において話題となった事例自社と同じ事業を行う企業に発生した事例は、学習者が自社の事業や自分の仕事との関連性を意識しやすくなります(=(2)関連性)。

また、トラブルの発生原因を知り、そのトラブルから得られる教訓を見出すことにより、コンプライアンス問題は予防できることを知り(=(3)自信)、学んで良かった(=(4)満足感)と感じることができます。

1-2. 学習効果が高い

教育学者のエドガー・デール教授は、学習方法と学習効果について、次のように提唱しています。

 (1)言葉による受信や視覚による受信のような能動的な学習方法の場合、2週間後、長期記憶に残っているのは10~20%である。
 (2)ディスカッションに参加する、スピーチをする、実際に自分で体験するなど、能動的な学習方法のアクティブ・ラーニングの場合は、70~90%に向上する。

参考)
Edgar Dale. Audio-visual Methods in Teaching (3rd Edition). Holt, Rinehart, and Winston . 1969.

1-1でご紹介したように、実際に発生した事例学習は、ケーススタディやケースメソッドの有効な素材です。

さらに議論したり、事例を疑似体験する学習方法を用いたりすることにより、アクティブ・ラーニングとして高い学習効果が期待できます。

1-3. 実務に応用しやすい

組織行動学者のデービッド・コルブ教授は、「学習とは、知識を能動的に覚えることではなく、『自らの経験から独自に知見(マイセオリー)を紡ぎだすこと』である」という学習観に基づき、次の4つのステージからなる「経験学習モデル(Experienced Learning Model)」を提唱しています[2]

(1)実践のステージ(Active Experimentation)
 学習者は、現場において様々な状況に直面する。そして、即興的な対策を用いながら、それらを乗り越えていく。
(2)経験のステージ(Concrete Experimentation)
 実践体験のなかで、学習者はその後の活動に役立つようなエピソード的経験(成功体験・失敗体験)を積んでいく。
(3)省察のステージ(Reflective Observation)
 ただし、学習者は「自分にとって何が役に立つ経験か」を抽出できない。現場の状況に埋め込まれているからだ。そこで、実践体験を振り返り、その後の活動に役立つと思われるエピソードを抽出することが必要となる。
(4)概念化のステージ(Abstract Conceptualization)
 抽出したエピソードについて検討を進め、学習者はその後の活動に役立つ独自の知見(マイセオリー)を紡ぎだす。ただし、これらは普遍的な理論である必要はない。重要なのは、マイセオリーを学習者が自ら構築することにある。

「経験学習モデル」に当てはめると、トラブル事例からトラブルの原因を分析することは、実践・経験のステージを模擬体験することになります。

また、その中から、コンプライアンス問題を予防するために必要な教訓を見出すことは、省察のステージであり、そして、具体的な行動に繋げる概念化のステージを経て、予防行動の実践が期待できます。

従って、事例学習は、これらのプロセスを通して学習した内容を実務に応用しやすいといえます。

[1] J.M.ケラー著 鈴木克明訳『学習意欲をデザインする ARCSモデルによるインストラクショナルデザイン』,北大路書房,2010,p47表3.1
[2] 中原淳著『企業内人材育成入門 人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ』,ダイヤモンド社,2006,p83-84


2. 事例を選び、活用するための3つの注意点

事例から学ぶことは良いことばかりのように見えますが、具体的な事例が素材であるからこそ、注意すべき点もあります。そのポイントを具体的に紹介しましょう。

2-1. 事例に再発性があるか

以前、コンプライアンスの実現には、リスクマネジメントの視点も必要であること、そして「リスクの頻度」と「リスクの大きさ」という2つの軸を基準に、重要度を考えなければならないとご紹介しました。

リスクマネジメントの視点から見ると、トラブル事例は、リスクの頻度と大きさから考慮して、再発性の高いものを選ばなければなりません。

たとえば、5年に1度は発生する可能性のあるトラブルと、10年に1度発生するものでは、頻度に違いがあります。

また、企業の事業規模にもよりますが、発生したトラブルが、1億円程度の損害を与える可能性があるものと、100億円を超える損害になるかでは、リスクの大きさに違いがあります。

2-2. 「対岸の火事」の意識

トラブル事例は、自社の事例である場合と他社の事例である場合があります。他社の事例の場合、学習者にとって、自分の担当や業務とは関係ないと考えてしまう可能性があります。また、自社の事例であっても、他業務であれば同様の可能性があります。

自社、他社のどちらであるかに関わらず、トラブル事例は実際に発生した事例であり、細かい設定や状況に関する情報があります。そのためリアリティがあるのですが、学習者の担当や業務と違うと、自分には起こりえない事例であると認識してしまうリスクもあります。

また、中堅クラスの企業のコンプライアンス教育で、大企業のトラブル事例を素材にした場合、事業規模が異なり、自社では起こり得ないと感じてしまう可能性があります。

つまり、学習者が学習するトラブル事例を「対岸の火事」であると認識してしまうと、自分のコンプライアンス行動につながり難くなってしまうのです。

そうなると、1-1でご紹介した学習意欲の刺激、高い学習効果、実務への応用という「事例活用の価値」を活かせなくなります。

従って、学習の対象となるトラブル事例は、学習者の担当や業務に関連付け、コンプライアンス問題の予防となる教訓を見出せる事例を選ぶ必要があります。

2-3. 予防効果の限界

以前、コンプライアンス違反の原因には「過失(無知・無理)」「故意(無視)」があり、「過失(無知・無理)」には教育が効果的であることをご紹介しました。

コンプライアンス違反には、業務のためやむなく違反する場合と、個人の利益のために故意に違反する場合があります。故意に違反するタイプの社員は、法令の抜け穴を探していることも考えられます。よって、残念ながらこのようなタイプの社員に対しては事例学習の効果は限定的です。

コンプライアンスを実現するために、教育は有効な方法ですが、コンプライアンス違反の原因や違反の対象者によっては、予防効果に限界があることを知っておく必要があります。


3. 有効な事例活用方法

それでは、事例学習の価値を存分に活かすために、コンプライアンス担当者が行う3つの事例活用ポイントについてご紹介します。

3-1. 素材選び

まず、素材選びからスタートします。

事例学習の素材には、以下の4つの事実関係の情報が必要です。

(1)誰が
(2)いつ
(3)どのような場面で
(4)どのような問題が発生したか

また、事例からコンプライアンス問題を予防する教訓を得るためには、事例の背景にある情報も必要です。

論理学の分野に「コンテキスト」という用語があります。「コンテキスト」は、状況、背景、前後関係など、隠された事実や意図のことで、トラブル事例の背景には、コンテキストがあります。

たとえば、「事業成績が悪く、経営幹部から、短期で成績を向上させるようにプレッシャーをかけられたため、通常は参加しない価格カルテルに参加し、独占禁止法違反を起してしまった」というような事情が、コンテキストに当たります。

自社であれば、コンテキストに関する情報が収集しやすいでしょう。また他社の事例を使う場合も、その事例に関連する公開情報や業界に詳しい専門家の情報など、コンテキストを集められる素材を選んでください。

参考)
杉野幹人、内藤純著『コンテキスト思考 論理を超える問題解決の技術』,東洋経済新報社,2009.

3-2. 論点の整理

次は、論点の整理です。

トラブル事例にはたくさんのコンテキスト情報があり、「コンプライアンス問題の再発防止」という視点に絞ったとしても、多くの論点が出てくる可能性があります。

学習として活用し、予防行動につなげるには、基準を決めて論点を整理し、絞る必要があります。

その基準には、学習者の階層や学習目標が関わってきます。

コンプライアンスの学習には、何がコンプライアンス問題であるかを発見する「問題発見力」と発見した問題を具体的に解決する「問題解決力」の2つの能力開発が必要です。

さらに、学習対象者と学習目標の組合せにより、教育プログラムは異なります。例えば、一般社員が問題発見力を学ぶ場合と、経営幹部や部長、課長のような幹部職が問題解決力を学ぶ場合では、論点が異なるのです。

まず、「一般社員がコンプライアンスの基本をトラブル事例から学ぶ」と設定し、論点の絞り方を考えてみましょう。

整理のカギは「3」です。

「Rule of Three(3の法則)」、「Magic No.3」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。話がそれますが、プレゼンの評価が高いスティーブ・ジョブス氏は、この法則を自分のプレゼンに活用していたと言われています。

ポイントを3つに絞る方法は、学習者にとってわかりやすく基本学習に有効です。トラブル事例から教訓を見いだし、その教訓から学ぶべき論点を3つに絞ります。

仮に3つ以上の論点が出ても、まずは最も重要な3つの論点に絞り、その上で各論点を細分化したり、次に重要な3つの論点を整理するようにします。

一方、経営幹部や幹部社員向けに、一歩進んだ応用問題を学習するプログラムを行う場合は、見いだした論点を3つ以上提示し、議論しながら3つに絞った後に、各論点を細分化したり、次の重要な3つに整理する方法が有効です。

参考)
末岡洋子「スティーブ・ジョブス氏から学ぶ、数字の「3」の法則」,『TECH+』,2015年3月1日,https://news.mynavi.jp/article/20150301-sj/(閲覧日:2021年4月29日)

3-3. 教訓の抽出

上記の手順を経て、最後に教訓を抽出します。

ここでは、筆者がコンプライアンス担当として、実際に自社のトラブル事例から教訓を抽出したプログラムをご紹介します。

このプログラムは、法務やコンプライアンス担当が、教育プログラムや教材をつくるために行います。4~5名のグループで行えば議論を進めやすいでしょう。

Step1:事例の共有
収集したトラブル事例から当日議論するテーマを決めます。例えば、「著作権違反の問題の事例」というように。

 

さらに、(1)誰が、(2)いつ、(3)どのような場面で、(4)どのような問題が発生したかという基本情報に加えて、可能な限りコンテキスト情報を収集し、グループメンバーで共有します。

事例ごとに担当を決めておくと良いでしょう。

 

Step2:論点のレビュー
このプロセスでは、問題の発生要因を探ります。つまり、コンテキスト情報が重要です。なぜこの問題が発生したのか、例えば、組織のプレッシャー、業界の慣習、基礎知識の欠如などがあったのか、などをグループメンバーで議論します。

 

議論には、ブレインストーミングが有効です。効果的なブレインストーミングを行うために、以下の過程を意識して進めます。
(1)グループメンバーが議論の目的を共有する
(2)論点の批評や評価を行わず選択肢を広げる
(3)意味ある論点か否かなどの評価を行なう

 

Step3:教訓の抽出
対象の事例について、以下の2点についてグループメンバーで議論します。
(1)コンプライアンスの再発防止の視点から学ぶ点
(2)リスクの頻度と大きさを考え併せ、再発性があるか

 

この段階では、議論した内容に対し、例えばAランク(教訓があり、再発性が高い)、Bランク(教訓があるが、再発性は中程度)、Cランク(教訓はあるが、再発性が低い)というように評価します。

 

議論の過程で必要となる、法令の知識や企業のコンプライアンス方針は、教訓の背景として整理し、学習できるように準備しておきます。

以上のプロセスに沿ってコンプライアンス教育に活用できる事例を集めて分析しておくことにより、効果の高い教育プログラムを作ることができます。

また、事例から教訓を抽出することは、コンプライアンス教育のプログラムや教材を作るためだけでなく、法務やコンプライアンス担当の人材育成にも有効な方法です。

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4. まとめ

コンプライアンス問題を学習する場合、事例を素材にトラブルの発生原因と教訓を学ぶ方法が有効です。

事例を活用することで、(1)学習意欲を刺激できる、(2)学習効果が高い実務、(3)実務に応用しやすいという3つの価値を得られます。

ただし、その価値を活かすには事例選びが重要です。事例を選ぶ場合は、(1)再発性の可否、(2)学習者が身近に感じられるか、(3)違反の原因によっては予防効果に限界がある、という3点に留意しましょう。

さらに、(1)誰が、(2)いつ、(3)どのような場面で、(4)どのような問題が発生したかに加え、トラブル事例の背景となるコンテキスト情報を集める必要があります。その上で、予防行動につながる論点を3つに絞った上で、得られる教訓を抽出していきます。

教訓の抽出は、3-3でご紹介したように、少人数のメンバーで議論しながら、(1)事例の共有、(2)論点のレビュー、(3)教訓の抽出というプロセスを踏みます。

こうして事例を分析しておくことで、コンプライアンス教育に有効なプログラムや教材をつくることができます。またこのプロセスは、コンプライアンス担当の人材育成にも活用できます。

今回ご紹介した事例活用のポイントを参考に、自社に適したコンプライアンス教育に取り組んでください。

参考)
J.M.ケラー著 鈴木克明訳『学習意欲をデザインする ARCSモデルによるインストラクショナルデ
ザイン』,北大路書房,2010,p47.
中原淳著『企業内人材育成入門 人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ』,ダイヤモンド社,20
06,p83-84.
杉野幹人、内藤純著『コンテキスト思考 論理を超える問題解決の技術』,東洋経済新報社,2009.
慶応義塾大学大学院経営管理研究科「慶應型ケースメソッド」,『KBSについて』,http://www.kbs.keio.ac.jp/about/casemethod.html(閲覧日:2021年4月29日)
名古屋商科大学ビジネススクール「ケーススタディとケースメソッドの違い」『NUCB Business School』,http://mba.nucba.ac.jp/about-mba/mba-9889.html(閲覧日:2021年4月29日)
Edgar Dale. Audio-visual Methods in Teaching (3rd Edition). Holt, Rinehart, and Winston. 1969.
末岡洋子「スティーブ・ジョブス氏から学ぶ、数字の「3」の法則」,『TECH+』,2015年3月1日,https://news.mynavi.jp/article/20150301-sj/(閲覧日:2021年4月29日)

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