個人請負労働者とは、企業と雇用関係を持たない個人請負の契約労働者のことです。
10年以上前から増加し続けている個人請負労働者。企業と雇用関係を持たず個人事業主として業務を請け負うという働き方は、多様化する就業形態のひとつとして働き手には選択肢が増えたとも言えます。
しかし、個人請負労働者として契約しながら、実態は雇用者と変わらない働き方をしている場合もあり、「偽装請負」とも言われる悪質な事件も起こっています。
本稿では、個人請負労働者とは何か、個人請負労働者・企業それぞれのメリット・デメリットを含めてご紹介します。
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目次
1. 個人請負労働者とは
個人請負労働者とは企業と雇用関係を持たない個人請負の契約労働者のことです。
このような働き方は以前からプロスポーツ選手や俳優、フリーライターなど多くの職種でありました。IT技術の急速な発展により、専門的な知識を必要とする業務が増え、フリーのITエンジニアなど新しい職種が生まれています。
本来は、企業と対等な立場で契約し、指揮命令を受けずに業務をするのが個人請負労働者ですが、一社と専属的に契約を結び、企業に常駐して働く場合もあり、雇用者や派遣労働者との区別が曖昧になっています。
| 雇用 | 派遣労働 | 個人請負労働 |
契約 | 企業と雇用契約 | 派遣元企業と雇用契約 | 企業と請負契約 |
立場 | 労働者 | 労働者 | 個人事業主 |
期間の定め | なし | あり (条件により無期転換可) | あり |
労働法の適用 | あり | あり | なし |
福利厚生 | あり | あり | なし |
指揮命令 | あり | あり(派遣先企業) | なし |
勤務時間・場所 | 就業規則 | 就業規則 | 自分で決定可 |
個人請負労働は非正規労働の一つですが、近年増加している背景には、バブル崩壊以降、人件費削減の名目で、企業が正規雇用を減らし非正規雇用や業務のアウトソーシングを積極的に進めてきたことがあります。
参考)
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「企業別データを用いた個人請負労働者の活用動機の分析」https://www.jil.go.jp/institute/discussion/documents/dps_05_003.pdf
厚生労働省・都道府県労働局 「労働者派遣・請負を行う事業主の皆様へ 労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000078287.pdf
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2. 企業のメリット・デメリット
個人請負労働者が増加しているのは、企業にとっては雇用するよりもメリットがあるからです。具体的に見ていきましょう。
2-1. 企業のメリット
① コストが削減できる
個人請負労働者と企業は雇用関係にないため、企業側が雇用保険料や健康保険料などの保険料の支払いや福利厚生の提供をする必要がありません。
また、初めから専門性の高い人材を募集するため、育成や教育の費用もかかりません。
② 業務量の変動に対応しやすい
業務の繁閑や緊急性に応じて労働時間の調整や期間の取り決めができます。企業としては、正規雇用の従業員を最小限にし、必要に応じて個人請負労働者を活用することで余剰人員をもつリスクを減らせます。
③ 専門的な業務に対応できる
自社にはない技術やノウハウを個人請負労働者から得られます。
需要はあるが稼働頻度の少ない専門業務を個人請負労働者に対応させることで企業は業務の効率化が図れます。
このようなメリットの一方で、次のようなデメリットもあります。
2-2. 企業のデメリット
① 有能な人材の継続的な囲い込みが難しい
有能な人材を継続的、独占的に契約したいと企業が望んでも個人請負労働者側が望まず契約を断られる可能性があります。
② 業務の質を確保することが難しい
企業理念や社風を理解していないために、また本人の能力や技術、知識が企業側の期待したものに満たないために、業務の質の確保が難しくなることもあります。
企業としては、報酬を上げる、雇用をするといった対応によって特定の人材を確保することもあるでしょう。また、業務の質の向上のため、定期的に教育研修を受けさせるなどの対策を講じる場合もあります。どちらも「コスト削減」のメリットは薄くなります。
参考)厚生労働省政策統括官(労働担当)「個人請負型就業者に関する研究会 報告書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000005yde-img/2r98520000005ygi.pdf
3. 個人請負労働者のメリット・デメリット
一方、個人請負労働者という働き方にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
3-1. 個人請負労働者のメリット
① 自分のペースで業務ができる
業務の時間や場所を自分で決めて、自分のペースで働けます。
複数の企業の業務を掛け持ちしたり、空き時間に業務をしたりなど、自分の生活スタイルに合わせて選択することができます。
② 実力を最大限に発揮できる
能力があれば業務量を増やしたり、より高いレベルの業務を選んだりできるため正規雇用のときより高い収入を得られる可能性があります。
3-2. 個人請負労働者のデメリット
① 社会保険や福利厚生が適用されない
個人請負労働者は雇用されていないため、労働保険の給付や福利厚生の提供を受けることができません。
② 身分が不安定
雇用者は無期限契約で、問題がない限り一方的に解雇されることはありませんが、個人請負労働者は契約期間が定められていて、その後の収入が保証されません。
また、契約期間中であっても企業にとって不要と判断されれば契約は打ち切られ、職を失うこともあり得ます。雇用保険に入っていないので失業保険の給付も受けられません。
③報酬への不満
個人請負労働者が皆、高収入を得られているわけではなく、その半数以上は報酬に対して不満を抱いていることが厚生労働省の調査で明らかになっています。
専門技術や知識を生かし、高収入を得られる可能性がある一方、労働法の適用外で身分の保証がないという点で厳しさもあります。
雇用されるのがよいのか、個人請負労働者として働くのがよいかは十分検討した上で判断する必要があります。
参考)THE LANCER「アルバイト契約と業務委託契約、異なる3つのポイント」
https://www.lancers.jp/magazine/21914
厚生労働省「個人請負型就業者に関する研究会 報告書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000005yde-img/2r98520000005ygi.pdf
4. トラブル
個人請負労働の浸透に伴い、個人請負労働者と企業との間のトラブルも増えています。
4-1. 労働者性を巡るトラブル
個人請負労働契約を結びながら、実態は雇用されているのと変わらない働き方をしている場合です。表向きはアルバイトで「雇用」していると装いながら、実際は業務委託契約だったため、働き手には労働法が一切適用されていなかったという悪質な事件もありました。
雇用者か個人請負労働者かは、契約の名称に関わらず実態に即して判断され、雇用と認められれば労働法の適用を受けます。
しかしこの労働者性の判断基準が分かりづらく、労働基準監督署などに相談をするまで自分が雇用者であることが分からなかったというケースもあります。
4-2. 求人に関するトラブル
求人ではアルバイトや正社員など「雇用」での募集に応募しても、その後、企業側の要望で請負契約させられてしまったケースや、募集時には雇用と請負とが併記されていたが実際には請負しか選べなかったケースなどがあります。
4-3. 契約履行上のトラブル
大まかに分類すると以下のようなトラブルです。
・人間関係のトラブル
・仕事の評価についてのトラブル
・報酬の切り下げを巡ったトラブル
・解約を巡ってのトラブル
厚生労働省の調査では、トラブルになった場合に、どこに相談したらよいかわからない個人請負労働者がいたと報告されています。個人請負労働について、企業と個人が十分認識し、違法な契約にならないよう周知や啓発が重要です。
参考)東洋経済ONLINE「個人請負という名の過酷な”偽装雇用”」
https://toyokeizai.net/articles/-/51
5. まとめ
個人請負労働者とは、企業と雇用関係を持たない個人請負の契約労働者のことです。
このような働き方は前からありましたが、不況とIT技術の急速な進歩により新たな職種の個人請負労働者が増加し、就業形態として無視できない存在になっています。
企業が個人請負労働者を活用するメリットは次の点です。
・コストが削減できる
・業務量の変動に対応しやすい
・専門的な業務に対応できる
一方、デメリットとして以下が挙げられます。
・有能な人材の継続的な囲い込みが難しい
・業務の質を確保することが難しい
個人請負労働者にもメリットとデメリットはあります。
メリット
・自分のペースで業務ができる
・実力を最大限に発揮できる
デメリット
・社会保険や福利厚生が適用されない
・身分が不安定
・報酬への不満
コスト削減という大きなメリットを求めて積極的に受け入れている企業も増えていますが、それ故、不当な契約や事実上の労使関係となり、過酷な労働を強いるなど問題も発生しています。
個人請負労働者と企業との間のトラブルには次のようなことがあります。
・労働者性を巡るトラブル
・求人に関するトラブル
・契約履行上のトラブル
労働者性については、実態に合わせて判断され、雇用と認められれば労働法の適用を受けます。
「偽装請負」のような企業側に都合のよい働き方として悪用されることを防ぐために、契約を明確化し、トラブルが生じた場合には働き手が正当に声を上げられるようなルールづくりが望まれます。
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