「なでしこ銘柄」とは、経済産業省と東京証券取引所(東証)が共同して女性活躍推進に優れた企業を選定、投資家に紹介する取り組み、および選定企業の呼称です。
「女性活躍推進への取り組みの効果は、企業イメージを向上させるだけじゃないの?」
そうお考えの方も多いと思います。しかし、実は業績という目に見えるかたちでも大きな効果を出しています。女性活躍推進への取り組みが経営にどのような効果を与えるのか、資本市場で評価しようというのが「なでしこ銘柄」です。
本稿では、「なでしこ銘柄」について選定基準や方法、効果をご紹介します。
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1. 「なでしこ銘柄」とは
「なでしこ銘柄」とは、経済産業省と東京証券取引所(東証)が共同して、業種ごとに「女性活躍推進」に優れた企業を選定し、投資家に紹介する取り組み、および選ばれた企業を指す呼称です。女性活躍を推進している企業を「中長期の成長力」のある優良銘柄として投資家に紹介することを通じて企業への投資を促進し、各社の女性活躍促進への取り組みを加速化するねらいがあります。
2012年度の創設当初は東証一部上場企業に限定されていましたが、2015年度より東証二部、マザーズ、ジャスダックに対象が拡大されました。
2012年度17社、2013年度26社、2014年度40社、2015年度45社、2016年度47社、2017年度48社と選定される企業は年々増加しています。
以下は「なでしこ銘柄」のロゴマークです。
出典)経済産業省「女性活躍に優れた上場企業を選定「なでしこ銘柄」」
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/nadeshiko.html
一つひとつの丸を人材に見立て、多様な人材の活用によって、右肩上がりに成長していくイメージで、吹き出しにより新たなオピニオンが生まれてくることを表わしています。
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2. 「なでしこ銘柄」の背景には労働人口減少
経済産業省は企業のダイバーシティ経営の推進を提唱、2012年に「なでしこ銘柄」及び「ダイバーシティ経営企業・100選」事業をスタートしました。この背景には何があるのでしょうか。
現在、少子高齢化の進行に伴い、労働人口が減少しています。次の資料をご覧ください。2060年までの生産年齢人口の推測値がわかります。2060年には高齢化率39.9%に上昇、生産年齢人口割合は50.9%、人口を維持するために2.07以上必要と言われる合計特殊出生率 は1.35%にまで減少する見込みです。
出典)経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ 平成29年6月」
この課題に対処すべく、政府は、「なでしこ銘柄」及び「ダイバーシティ経営企業・100選」といった選定事業及び表彰事業を通じて、企業が多様な人材の活用を推進するよう後押ししています。
3. 「なでしこ銘柄」の選定方法
なでしこ銘柄は、以下の選定基準に基づき、有識者で構成する「なでしこ銘柄」選定基準検討委員会が業種ごとに選定します。
東証上場企業を対象に
(1)行動動計画を策定していること、厚生労働省の「女性活躍推進企業データベース」に女性の管理職比率を開示していること(スクリーニングの要件)
(2)①女性のキャリア支援、②仕事と家庭の両立サポートという二つの側面からスコアリングし、業種内で上位にランクインしていること
(3)3年間の平均ROE(Return On Equity 自己資本利益率)が0未満でないこと(0未満は活躍推進企業データベース選定対象外)を加点する
各業種に選定枠(各業種1~2+α)が設けられているので、基準をクリアしたすべての企業が選ばれるわけではありません。
2017年度の「なでしこ銘柄」選定の流れについてご紹介します。
参考)経済産業省、東京証券取引所「平成29年度 なでしこ銘柄」
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/pdf/H29fy_nadeshiko.pdf
スコアリングは「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」に定義されている、実践のための7つのアクションに基づいて行います。赤字に示す項目を高配点とします。
「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」実践のための7つのアクション | |
①経営戦略への組み込み | ・ダイバーシティ・ポリシーの明確化 ・KPI・ロードマップの策定 ・経営トップによるコミットメントなど |
②推進体制の構築 | ・経営レベルの推進体制の構築 ・事業部門との連携 ・経営幹部への評価 など |
③ガバナンス | ・取締役会の監督機能の向上 ・取締役会におけるダイバーシティの取組の監督と推進 など |
④全社的な環境・ルールの整備 | ・人事制度(女性役員・管理職実績及び比率、平均勤続年数の男女差、新卒女性採用比率、成果主義報酬) ・働き方改革(柔軟な働き方、継続就労のしやすさ、男性の育児休業取得率、平均残業時間)など |
⑤管理職の行動・意識改革 | ・管理職に対するトレーニングの実施 ・管理職のマネジメントを促進する仕組みの整備など |
⑥従業員の行動・意識改革 | ・多彩なキャリアパスの構築 ・キャリアオーナーシップの育成など |
⑦労働市場・資本市場への情報開示と対話 |
選定は毎年されており、東京急行電鉄とKDDIの2社のみが2012年度から2017年度まで6年連続で入選しています。
次に、選定されている企業の具体的な取り組みを例に挙げてみます。
取り組みの具体例 | |
・在宅勤務制度 ・裁量労働制 ・年功序列的な賃金体系の見直し ・成果に対する評価の導入 ・モバイルワーク勤務 ・フレックスタイム制度 ・ショートターム勤務制度 | ・キャリアチャレンジ制度(海外武者修行) ・年次有給休暇取得促進 ・社内フリーエージェント制度 ・自己都合退職での再雇用制度 ・社員本人が勤務地を選択できる制度 ・ライセンス認定制度
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参考)経済産業省、東京証券取引所「平成29年度 なでしこ銘柄」
「なでしこ銘柄」選定の基準となる、「ダイバーシティ2. 0行動ガイドライン」実践のための7つのアクションには、制度や環境整備だけでなく、全社的な行動・意識改革が規定されています。また、選定企業の具体的な取り組みとして、柔軟な働き方ができる制度を採用されており、全従業員にとって働きやすい企業だと言えるでしょう。
4. 「なでしこ銘柄」の効果
さて、この「なでしこ銘柄」には会社経営上どのような効果があるのでしょうか? TOPIX(東証株価指数)と売上高営業利益率で比較してみましょう。
◆TOPIX(東証株価指数)
出典)経済産業省、東京証券取引所「平成29年度 なでしこ銘柄」
◆2017年度選定「なでしこ銘柄」の売上高営業利益率(2017年3月末時点)
出典)経済産業省、東京証券取引所「平成29年度 なでしこ銘柄」
なでしこ銘柄はTOPIX(東証株価指数)、売上高営業利益率のどちらにおいても他の銘柄と比較して高い数値を示していて、優良銘柄と言えます。
5. まとめ
「なでしこ銘柄」は、女性の活躍を推進している優れた上場企業に対して、経済産業省と東証が共同して「中長期の成長力」のある優良銘柄として選定・発表するものです。
東証上場企業を対象に、以下の基準を満たす企業のうち、各業種の選定枠(各業種1~2+α)に入るものが「なでしこ銘柄」に選ばれます。
・行動動計画を策定し、厚生労働省の「女性活躍推進企業データベース」に女性の管理職比率を開示している(スクリーニング要件)
・①女性のキャリア支援、②仕事と家庭の両立サポートという二つの側面でスコアリングし、業種内で上位にランクインしていること
・3年間の平均ROE(Return On Equity 自己資本利益率)が0未満でない
経済産業省と東証が行った調査では、「なでしこ銘柄」選定企業の方が、年次有給休暇の取得率や男性の育児休暇取得率が高く、女性だけでなく男性にとっても働きやすい環境や制度が整っていると言えます。
このような取り組みは経営にも効果的で、選定企業はTOPIX(東証株価指数)、売上高営業利益率のどちらにおいても他の企業と比較して高い数値を示しています。
女性活躍を推進することは、全社的に働きやすい環境を作ることであり、企業イメージを向上させるだけでなく、結果として業績向上にもつながるのです。