「毎年定型的にやってきた階層別研修の内容を見直す必要があるが、何から手を付ければよいかわからない」

新型コロナウイルスは、企業研修に甚大な影響を与えました。当社が2020年4月に行った独自の調査によると、研修が中止されたという人は半数を超えており、そのほかの対応としても延期、人数の変更、eラーニングなどへの置き換えなど、企業が研修を実施するに当たり、見直しを余儀なくされたことが分かります。

図)新型コロナウイルスの企業研修への影響(当社調べ)

新型コロナウイルスの企業研修への影響(当社調べ)

※「第1回研修に関する意識調査」
・調査対象:従業員500人以上の企業の従業員
・有効回答数:134
・調査期間:2020年4月2日
・調査方法:WEBアンケート

緊急事態宣言が発令された4月は、新入社員の受け入れのタイミングでもありました。調査結果でも示される通り、対応に頭を悩ませた企業は多かったのではないでしょうか。新入社員研修は、新人を受け入れている企業の実に95%が行っている[1]、階層別研修の一つです。

一部をオンライン化するなどの工夫をしたという企業もあったようです。当社の調査からも、今後「研修がeラーニングに置き換えられていくと考えられる」という回答が全体の約75%を占めています。今後も例年行っている集合型研修については、感染症対策として一部をeラーニングに変更する、オンライン化するなど見直しをしていくという傾向は、増えていくことが想定されます。

集合型研修で実施されることが多い階層別研修は、その階層に必要な知識やスキルを身に付けるだけではなく、横のつながり、その階層になるための意識付けなど、複数の目的を持っています。今後は感染症対策を考慮しながらも、求める目的をクリアできるような実施内容にすることが必要です。

本稿では、階層別研修について、目的や効果、今後見直しをする際のポイントなどについて詳細をお伝えします。現状の研修に不満がある、感染症対策で見直しを余儀なくされているということであればぜひ参考の一つとしてお役立てください。

[1] https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/kyoiku/kyoikukenshu/pr_1910.html

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階層別研修とは?

階層別研修とは、勤続年数や役職などの従業員を階層に分類し、同じ階層を対象に実施する研修のことを指します。一般的に集合研修の形式で行われる場合が多くなっています。

それぞれの立場に即したスキル習得や能力向上を目指します。

「新入社員研修」「管理職研修」などが一般的ですが、その他にも複数の階層に分かれます。

一定年数を経た若手、中堅社員など、各階層、職位になったときの節目として実施し、その階層となった人はすべて受講対象です。その階層に必要とされる知識やヒューマンスキルなどを網羅的に学習します。

階層ごとに一括して研修を行うことで、社員の能力をボトムアップする効果が期待できます。

階層別研修と選抜型研修の違い

階層別研修選抜型研修
目的従業員全体の能力の底上げ優秀な人材を戦略的に育成
対象者同じ階層の全社員選抜された社員
実施方法集合研修が多い集合研修のほか、社外での教育研修を利用することも多い
メリット・従業員同士の横のつながりができる・各階層への意識づけができる・効率的な教育資本投資ができる・優秀な人材のモチベーション向上
デメリット研修が形骸的なものになりやすい・対象外となった社員のモチベーション低下

選抜型研修とは、会社側が何かしらの基準を設け、その基準に達した従業員の中から選ばれた人を対象に実施する研修です。

一般的には次期リーダーや次期管理職、次期幹部職など、現在の役職よりもひとつ上の役職を想定した場合に、候補となるポテンシャルの高い従業員が選ばれます。

対象となる階層の従業員全員が対象となる階層別研修と比較すると、限られた人が対象となる点が大きく異なります。

選抜型研修の目的

選抜型研修の一番大きな目的は、「企業の将来を担う優秀な人材を戦略的に育成すること」です。優秀な人材を、早期段階で引き上げるために選抜を行います。

選抜型研修の実施方法

実施方法としては、社内に講師を呼んで集合研修を行う場合もありますが、外部の教育研修への派遣や国内外の大学進学など、「自社以外での経験」をさせる、ということが多いようです。

選抜型研修のメリット・デメリット

そのメリットとしては、まず「選抜」ということ自体が優秀な従業員のモチベーション向上やリテンション施策につながることが挙げられます。また、企業としては選抜の過程で自社が求める理想人材モデルを定義し、その可能性のある人材に投資を集中できるので効率的と言えます。

外部の研修であれば、その体験と学びは広い視野の獲得に役立ち、自社を客観的に見、改革を推進していく力を養うことができるでしょう。

一方、デメリットとしては選抜にされなかった従業員のモチベーションが下がる可能性というのが挙げられます。このため、選抜の方法を明確にし、「なぜその人が選ばれるのか」を会社としてきちんと説明できることが重要となります。

階層別研修とテーマ別研修の違い

階層別研修テーマ別研修
目的従業員全体の能力の底上げ階層や職種を問わず必要な知識を身につける
対象者同じ階層の全社員全階層もしくは必要な社員
実施方法集合研修が多いeラーニング、オンライン研修を活用する場合も多い
メリット・従業員同士の横のつながりができる・各階層への意識づけができる身につけさせたいスキルを柔軟に学ばせることができる
デメリット研修が形骸的なものになりやすい身につけさせたいスキルが多い場合、複数回の研修実施が必要になる

テーマ別研修は、階層に関係なく企業側が必要と判断した際に実施します。企業によっては全階層に行う場合と、必要となる階層を指定し、それ以外は手上げ式で受講希望者に受講させる、という仕組みをとることが一般的です。

テーマ別研修の目的

テーマ別研修の大きな目的は、「階層、職種に関わらず学習してほしいこと」を学ぶ機会を設けるということです。

例えば、日常業務の中に潜む情報漏洩や下請法違反、著作権侵害等のリスクについて意識強化を図るためにコンプライアンス研修を実施する、従業員のメンタルをサポートするためにメンタルヘルス研修を実施する、会社全体をまとめていくためにチームビルディング研修を実施する、といったテーマが考えられます。

対象範囲が広いため、内容によってはeラーニングやオンラインでの研修を利用し、大人数で受講できる仕組みを作る企業もあります。

テーマ別研修のメリットとしては、身に着けたい内容を柔軟に実施できる、という点があります。

さらに詳しく:eラーニングとは?

階層別研修と職種別研修の違い

階層別研修職種別研修
目的従業員全体の能力の底上げ各職種で求められる専門知識の習得
対象者同じ階層の全社員部署ごとの社員
実施方法集合研修が多い集合研修、グループワークなど体感型が多い
メリット・従業員同士の横のつながりができる・各階層への意識づけができる実務にすぐ活かせるスキルを身につけられる
デメリット研修が形骸的なものになりやすい職種によっては必要な内容のみ学習させることが難しい

職種別研修は、各職種で必要とされる専門知識をテーマにして実施します。部署ごとに行うことが一般的です。大企業などで人数が多い場合は、さらに階層に分けて実施します。

営業や接客担当者は、集合研修や外部セミナーでグループワークなどを行いながら行う体感型が主流です。一方で、ITエンジニア、法務や経理など、知識習得が多い場合は通信教育やeラーニングを利用するというところも多いようです。

職種別研修の目的

職種別研修の目的は、特定職種のスキルや知識を習得し、職務遂行能力を向上させることです。具体的な業務要件や役割に焦点を当てて専門性を高めます。

職種別研修のメリット

職種別研修のメリットは、営業やエンジニア、総務や法務、経理など、各職種に必要な専門知識を深め、実務面のスキルをブラッシュアップさせることができる点です。

対象職種に人数が少なく、社内での集合型研修の実施が難しい場合には、外部セミナーなどを利用する場合もあります。この場合は、同じ職種でも業種によって必要な知識やスキルが微妙に異なるため、本当に必要な内容だけを学習させることが難しい、という点に注意が必要です。

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階層別研修の目的

階層別研修の目的として、主に以下の2点が挙げられます。

従業員全体の能力を底上げする

「各層に期待する能力を習得するための教育を実施し、従業員全体の底上げを図る」ことです。

階層別研修を行うことで、新入社員・若手社員・管理職などの階層ごとに求められるスキルを各層の従業員全員に習得させることができます。選ばれた一部の社員だけでなく、全体での研修を実施することで組織としての生産性を一気に高める効果が期待できます。

企業が従業員に期待する能力を周知する

階層別研修で実施するカリキュラムは、すなわちその階層の従業員に対して企業が期待する能力であるといえます。

従業員に「自身がどんなスキルを身につけるべきか」「どんな役割を果たすべきか」を理解してもらうということも、階層別研修の目的の一つです。

企業側が各階層の従業員に期待する能力を明確化できるという点で見ると、階層別研修というのは大変重要な「戦略人事」の一環であるといえるでしょう。

階層別研修を実施するメリット

階層別研修の実施により期待できる大きなメリットとして、ここでは次の3つをご紹介します。

  1. 従業員同士の横のつながりができる
  2. 各階層への意識付けとなる
  3. 受講生に企業側のメッセージが伝わる

従業員同士の横のつながりができる

階層別研修は通常部門をまたいで行われます。そのため、通常は業務でかかわりのない相手でも、研修を通して交流する機会を得られます。従業員同士のつながりができると、その交流をきっかけにお互いの悩みを共有でき退職へのリテンションになる、新しいプロジェクトに発展するなど、想定外のイノベーションが起こることも期待できます。

各階層への意識付けとなる

新入社員や管理職など、大きな節目の際は、「今から立場が変わる」といった階層に対する認識が芽生えやすいものです。しかし、それ以外の階層の場合、入社してからの時間を、階層に対して意識せずに過ごしていくことがほとんどです。

階層別研修を行うことで、従業員に対して今どのような立場にいて、どのような能力を身に着ける必要があるのかなど、今いる立ち位置を改めて意識付けることができます。その結果、従業員の業務への取り組み方が変わるといった変化が起こるようになります。

受講生に企業側のメッセージが伝わる

この項目の最初にもお伝えしましたが、階層別研修は「戦略人事の一環」といえます。企業として、その階層にどのような能力を求め、どのような人材を期待しているのか、階層別研修を通して間接的に受講生に伝えることができます。

階層別研修のデメリット

階層別研修は実施されやすい教育施策である一方、以下のようなデメリットもあります。

  1. 研修の実施が目的となり、形骸化しやすい
  2. 管理職や役職者の研修出席率が低下しやすい

階層別研修を効果的に実施するためにはデメリットを意識し、そういった状況に陥らないような企画が必要になります。

研修の実施が目的となり、形骸化しやすい

階層別研修には、各階層ごとに適切なスキルや知識を習得させるという明確な目的があります。

しかし、何年も継続的に実施していく中で研修が形式的な行事となり、本来の目的を失うことがあります。

研修が単なる「やらされるもの」となってしまうと、従業員たちは研修への意欲や興味を失い、積極的に学ぶ姿勢が鈍化する可能性があります。

その結果、研修の効果が薄れるばかりでなく、組織の成長や人材育成にも影響が出てしまうでしょう。

研修の目的を見失わず、形骸化を防ぐためには、研修内容や方法の工夫、階層間のコミュニケーション促進、全体のビジョン共有など、積極的な取り組みが求められます。

管理職や役職者の研修出席率が低下しやすい

階層別研修では、一般的に役職が上がるほど出席率が低くなる傾向があります。

上位の役職者は多忙な日程や業務上の責任により、研修への参加が難しくなることがあります。そのため、上位階層のリーダーシップや知識の共有が不足し、組織全体の成長には繋がりづらくなる懸念があります。

階層別研修の効果を企業の成長に繋がるためには。上位の役職者にも学びやすい形で研修を実施することが必要になります。同じ階層の社員を集めるのが難しい場合は、都合の良い時間に学べるeラーニング形式の研修や、個別コーチングを行うなどの工夫が求められるでしょう。

階層別研修の種類と学ぶべきカリキュラム

階層別研修の種類とカリキュラム例

階層の種別は企業によっても異なるかもしれません。ここでは一般的に実施される頻度が高い階層別研修の種類を確認していきます。

各階層で、どのようなカリキュラムを実施するのかについては、ロバートカッツの「カッツ理論」をもとに、「テクニカルスキル、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル」3つのスキルに分けて例をお伝えします。なお、学習内容例は、企業の基準によっても前後してくるため、あくまで参考としてご覧ください。

新入社員研修

新入社員研修は、95%以上の企業が行っている階層別研修です。入社間もない社員は知識習得することも多いため、集合研修だけでなく、eラーニングなどと組み合わせて行うというところも多いようです。新入社員研修は、ほとんどの企業が入社時、基本的には正式配属前の4月に行います。半年、もしくは1年後にフォロー研修を行うこともあります。

また、入社前から内定者研修を実施する場合も少なくありません。基礎的なビジネスマナーやパソコンスキルの学習や社会人としてのマインドセット醸成を行います。

内定者研修は、内定式が実施される入社前年の10月頃から実施されるケースが多いようです。

新入社員研修の主なカリキュラム

テクニカルスキル就業規則、社内のマニュアル、自社サービス、各配属予定部署の業務内容、パソコンスキル、ビジネスメールや社内ドキュメントの書き方、PDCAの回し方 など
コンセプチュアルスキルロジカルシンキング など
ヒューマンスキル社会人としてのコミュニケーションチームビルディング など

新入社員向け・内定者向けの研修は、この3つのスキル以外に、社会人としての大前提となるビジネスマナー、学生から社会人への意識変革といったカリキュラムを盛り込んで行われます。

■新入社員研修・内定者研修向け eラーニングコースラインナップを見る

若手社員研修

入社後3年目ぐらいをめどに実施されます。退職を考え始める従業員も多いため、リテンションという位置づけにもあたります。また、若手の中途社員などがいる場合も、一緒に受講させるということもあります。

若手社員研修の主なカリキュラム

テクニカルスキルタイムマネジメント、業界の市場理解、分析的視点を持った自社サービスの商品知識、など
コンセプチュアルスキルラテラルシンキング、課題発見力、企画力 など
ヒューマンスキルプレゼンテーションアサーティブコミュニケーション、ヒアリング力、フォロワーシップ など

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中堅社員研修

入社後10年目程度、管理職手前の従業員を対象に実施します。企業によっては、係長などの役職を設けているところもあるかもしれません。そのため、チームや部署を動かすスキルを身につけられるようなカリキュラムが求められます。

後輩や部下などができ、決定権などを持つ人もいるため、リーダーシップ発揮することが期待されます。企業規模にもよりますが、受講対象範囲が一番広い階層といえます。

中堅社員研修の主なカリキュラム

テクニカルスキルプロジェクトマネジメント、業界の市場分析と市場予測、業務改善 など
コンセプチュアルスキルクリティカルシンキング、クリエイティブシンキング、企画提案、問題発見 など
ヒューマンスキルリーダーシップネゴシエーション、ティーチング など

管理職研修

企業の基準によりますが、管理職に登用される年齢の方が対象です。早ければ30代後半、一般的には40代以上が対象となります。一般社員とは異なった視点などが必要となっていくため、学習カリキュラムは新入社員研修と同じくらい多いといえます。

管理職研修の主なカリキュラム

テクニカルスキル労務、決算書などの数字の見方、生産性向上、人事考課 など
コンセプチュアルスキル問題解決、マーケティング、戦術立案 など
ヒューマンスキルコーチング、ファシリテーション、傾聴、チームマネジメント など

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役員研修

役員登用時に実施されます。企業の基準によりますが、早ければ40代以上、一般的には50代以上が対象となります。法務や財務といった知識と合わせて、そういった知識を実務に生かしていくための戦略的な考え方を学習します。

さらに、戦略という攻めの考え方と合わせて、守りのためのリスクマネジメントも必要なカリキュラムとなります。

大企業の場合は対象人数が多いため、集合研修で実施されることがありますが、対象人数が多くない中小企業の場合は外部セミナーを利用することが多いかもしれません。

役員研修の主な学習内容例

テクニカルスキル事業計画策定、リスクマネジメント、財務分析 など
コンセプチュアルスキル経営戦略、意志決定、組織運営、など
ヒューマンスキル高度なネゴシエーション、高度なプレゼンテーション など

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階層別研修の体系図を作って必要な教育カリキュラムを整理

階層別研修としてどんな教育カリキュラムを実施すべきかを考える時、教育の体系図を作成して俯瞰的に検討すると実施すべき施策が見えやすくなります。

例えば新卒で入社した社員を対象とした研修では、入社時に必要な知識を一斉に学ぶ新入社員研修のほか、業務で求められるMicrosoft Officeのスキルを身につける研修も必要になるでしょう。

階層別で学ぶべきこと以外にも全社で身につけるべき知識として、コンプライアンス研修やダイバーシティ研修も求められます。

こういった様々な研修をどの階層で行っていくかを整理できるのが研修の体系図です。

階層別研修体系図の作成例

参考までに階層別研修体系図の一例を紹介します。

管理職から店舗スタッフまでの階層に分けて考える場合、以下のような体系図が考えられます。

階層別研修体系図

それぞれの階層ごとの研修があり、「新任管理者研修」は若手社員と中堅社員にまたがって実施されるなど複雑な実施形態も体系図にすれば一目で確認が可能です。

もちろん業種や職種など、企業によって体系図は異なります。

求められるスキルを図表に落とし込み、実際にどんな研修を開催すべきかを考えると良いでしょう。

形骸化しやすい階層別研修を効果的に実施するための見直しのポイント

ここでは、階層別研修をより効果的な内容にするために意識すべきポイントを4つご紹介します。

  1. 従業員の現状分析を行う
  2. 内容によってはオンライン研修やeラーニングに移行する
  3. すべての階層に対し、会社から一貫したメッセージを伝える
  4. 効果、実施内容について定期的に見直しを行う

従業員の現状分析を行う

記事の冒頭でもお伝えしましたが、新型コロナの影響により、前年通りの集合研修の実施が不可能となり、やむを得ず実施方法について見直しを図ることになった企業は少なくないでしょう。実施方法を見直すにあたり、何年も同じ内容で実施していた、という中身についても、改めて見直す機会にもなったのではないでしょうか。

業種や企業の規模、事業戦略等によって、必要な人材の要件は異なります。研修の実施方法や内容を見直す際には、まず現在自社がどのような状態にあり、どういった人材が必要なのかを考えることに、できる限り時間を割きましょう。

このパートの具体的な進め方としては、以下のようになります。

  1. 従業員の階層の定義を再検討する
  2. 各階層のあるべき姿を考える
  3. 現在の各階層の従業員と、あるべき姿の間にあるギャップを分析する
  4. ギャップを埋めるために必要な教育内容が何かを考える

1~2を実施することで、自社にとって今何が足りないのかが明確になります。この分析が、効果的な研修を実施できるかどうかの要となってきます。研修を絵に描いた餅にしないためにも、丁寧に時間をかけて行うことを推奨します。

なお、3では、個人の感覚だけでなく各部署へのヒアリング、時にはアセスメントツールや外部のコンサルタントの力を借りるなどし、丁寧に行いましょう。

内容によってはオンライン研修やeラーニングに移行する

最近はリモートワークの浸透や感染症対策の関係もあり、行っているテーマが本当に集合研修で行うべき内容なのかを再検討するという企業も増えてきています。

昨今は特にオンラインで集合研修を行う技術も急成長しています。eラーニングなどと組みあわせ、ブレンディッドラーニングで行う方がより効果的という場合もあります。すこし俯瞰的な観点で、研修のそもそもの仕組みを見直してみるのもよいでしょう。

すべての階層に対し、会社から一貫したメッセージを伝える

階層別研修の実施において「受講生に企業側のメッセージが伝わる」効果があるということをお伝えしました。階層別研修は、各段階における従業員への意識付けや、会社が将来的に描くビジョン、風土の伝達等に活用できるということです。

伝えるメッセージには、会社としての一貫性が必要です。担当者や講師が場当たり的にバラバラのことを話すと、学習者から「いいかげんに行っている」と捉えられてしまう可能性があります。このことは、学習者の取り組み姿勢にも影響を及ぼします。

研修の実施にあたっては、開講時に経営層や人事からのメッセージを伝える、などの工夫をするとよいでしょう。

効果、実施内容について定期的に見直しを行う

階層別研修は定期的に行うため、講師やカリキュラム内容が膠着化しやすい傾向があります。内容を頻繁に変える必要性はありませんが、自社の従業員規模や予算、経営目標やアンケート結果等に応じて、定期的に内容を見直しましょう。

定期的にスキルアセスメントを実施し、弱点分野を洗い出して強化を図っていくのも一手です。

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まとめ

階層別研修とは、従業員を一定の階層に分け、各階層に必要とされる能力を身に付けるために実施する研修のことです。

階層別研修には、その階層に期待される能力を身に付け、従業員全体の底上げを図るという目的があります。企業側が各階層の従業員に期待する能力を明確化できるという意味では、戦略人事の一環ともいうことができます。

階層別研修を行うことで主に期待できる効果は以下のとおりです。

  1. 従業員同士の横のつながりができる
  2. 各階層への意識付けとなる
  3. 受講生に企業側のメッセージが伝わる

企業によっても若干の違いはありますが、一般的な階層別研修の種類とテーマ例には次のような内容のものがあります。なお、テーマ事例は、「カッツ・モデル」を参考に、「テクニカルスキル」、「コンセプチュアルスキル」、「ヒューマンスキル」に分けています。

一般的な階層別研修の種類とテーマ例一覧

テクニカルスキルコンセプチュアルスキルヒューマンスキル
新入社員就業規則、社内のマニュアル、自社サービス、各配属予定部署の業務内容、パソコンスキル、ビジネスメールや社内ドキュメントの書き方、PDCA などロジカルシンキング など社会人としてのコミュニケーション、チームビルディング など
若手社員タイムマネジメント、業界の市場理解、分析的視点を持った自社サービスの商品知識、などラテラルシンキング、課題発見力、企画力 などプレゼンテーション、アサーティブコミュニケーション、ヒアリング力、フォロワーシップ など
中堅社員プロジェクトマネジメント、業界の市場分析と市場予測、業務改善 などクリティカルシンキング、クリエイティブシンキング、企画提案、問題発見 などリーダーシップ、ネゴシエーション、ティーチング など
管理職労務、決算書などの数字の見方、生産性向上、人事考課 など問題解決、マーケティング、戦術立案 などコーチング、ファシリテーション、傾聴、チームマネジメント など
役員事業計画策定、リスクマネジメント、財務分析 など経営戦略、意志決定、組織運営、など高度なネゴシエーション、高度なプレゼンテーション など

階層別研修以外も、企業研修にはいろいろな種類があり、目的に応じて階層別研修と組み合わせて実施します。具体例と目的は以下の通りです。

(1) 選抜型研修
 目的: 企業の将来を担う優秀な人材を戦略的に育成すること
(2)テーマ別研修
目的:「階層、職種に関わらず学習してほしいこと」を学ぶ機会を設ける
(3) 職種別研修
 目的:各職種によって専門知識を身に着ける

新型コロナウイルスなどの感染症の関係で、集合研修の見直しを余儀なくされている企業が増えています。階層別研修を見直すにあたり、効果的な内容へとブラッシュアップしていくために意識すべきポイントとして以下の4点が挙がられます。

  1. 従業員の現状分析を行う
  2. 内容によってオンラインに移行する
  3. すべての階層に対し、会社から一貫したメッセージを伝える
  4. 効果、実施内容について定期的に見直しを行う

階層別研修は、その階層へと昇格するタイミングに実施する儀式的な意味合いも大きくあります。しかし、それだけではなく、会社からのメッセージを伝える、従業員のスキルをさらに伸ばしていくなど、実施の仕方によっては様々な効果が期待できます。

いまや研修のスタイルは、集合型だけではありません。eラーニングや、オンライン授業などを組み合わせ、さらに工夫を凝らすことができるようにもなってきています。自社にとってどのようなスタイルで、どのような内容で実施するのがベストなのか、このタイミングで改めて検討してみるのも良いでしょう。本稿がその一助となれば幸いです。

参考)
新型コロナウイルス影響下での、2020年4月入社者に対する 新入社員教育等の状況調査
https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/kyoiku/covid-19/pr2005-2.html
2019年度 教育研修費用の実態調査
https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/kyoiku/kyoikukenshu/pr_1910.html
カッツ理論とは? テクニカルスキル/ヒューマンスキル/コンセプチュアルスキル
https://career-cc.net/katz-theory/#Technical_Skills
階層別研修とは?その種類やメリットを解説
https://schoo.jp/biz/column/270
有意義な階層別研修とは?階層別研修の基礎や実施の際のポイントを解
https://qeee.jp/magazine/articles/5311#topic_2.1
底上げ教育と選抜教育
https://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=55020
次世代経営幹部はどのように選ばれ、育成されているのか
https://www.e-sanro.net/E1000/pdf/201203.pdf
人事・教育担当者948人にアンケート テレワーク導入1~2ヵ月で見えた課題/1位コミュニケーション不足、2位職種による不平等の発生|新着情報|人材育成・教育研修
https://www.learningagency.co.jp/topics/20200527