ページが見つかりませんでした https://research.lightworks.co.jp 少子化や団塊世代の退職による労働力確保の問題、転職の一般化や雇用形態の多様化など、 これまで以上に効率的な組織運営と、そのための人材育成が求められていませんか? ここでは、人と組織の成長に必要な情報を具体的な事例や方法を交えて公開しています。 Fri, 29 Mar 2024 09:59:47 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.7.10 https://research.lightworks.co.jp/wp-content/uploads/2017/02/cropped-favicon-8-32x32.png ページが見つかりませんでした https://research.lightworks.co.jp 32 32 【入門編】ワールドカフェとは?すぐに実践できる基本ルールとポイントを解説 https://research.lightworks.co.jp/world-cafe Fri, 29 Mar 2024 07:02:49 +0000 https://research.lightworks.co.jp/?p=24838 「会議で同じ人ばかり発言している。多様な意見を引き出す良い方法はないだろうか?」

会議についての悩みは、多くの管理職やファシリテーターが抱えているのではないでしょうか。

株式会社識学の調査によると、会議について何かしらの悩みを抱えている一般従業員・管理職は84.7%に上りました。悩みのトップ2は、「発言する人がいつも同じ」42.0%)と「議論が進まない」36.7%)です[1]

「声の大きい人に遠慮してしまう」「自分の意見に自信を持てない」などの理由から、発言を控えている従業員が少なくないと考えられます。

このような状況の改善に役立つのが「ワールドカフェ」方式の話し合いです。

ワールドカフェは話し合いのスタイルの一つです。フォーマルな会議とは異なり、結論や解決策を求める必要はありません。自由に知識や意見を共有し、新しい視点を得たり、アイデアを生み出したりすることが目的です。

飲み物やお菓子を用意して、カフェのようなリラックスした雰囲気の中、45人のグループで話し合いを行います。少人数かつメンバー全員が発言する機会を持つ工夫がされているため、多様な意見が集まりやすく、参加者同士の信頼関係も深まります。

本稿では、初めてワールドカフェを実施する人にもわかりやすいよう、事前準備と実践の方法メリットと注意点問題と対策企業事例などを丁寧に解説します。ぜひ参考にしてください。

「ワールドカフェ」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。

1. ワールドカフェとは?基本概念から理解する

最初に、ワールドカフェとは何か、基本的な内容を確認しましょう。

1-1. ワールドカフェの概要と由来

ワールドカフェとは、参加者が対話を通じてアイデアを共有し、新たな知見を得ることを目的とした話し合いのスタイルの一つです。米国で企業等の戦略的ダイアログの推進やコミュニティーの構築の支援を行うアニータ・ブラウンとデイビッド・アイザックスによって1995年に提唱されました[2]

フォーマルな会議とは異なり、ドリンクやお菓子を用意して、リラックスした雰囲気で自由に意見を交換する様子がカフェをイメージさせることから「ワールドカフェ」と呼ばれています。

大まかなルールはありますが、実施方法や規模について特に決まりはありません10人程度の少人数から100人以上の大人数まで様々な場面で活用できます。

1-2. ワールドカフェの目的と意義

ワールドカフェの目的は、参加者全員が深い対話を通じて知識や意見を共有し、新たな視点を得たり、アイデアを生み出したりすることです。通常の会議やミーティングとは異なり、結論や解決策は求めません

ワールドカフェを行う具体的な意義として、以下の3点が挙げられます。

  • 知識の共有
  • 多様な意見
  • 新たなアイデアの創出

知識の共有

一つのテーマについて多様な視点から話し合うことで、参加者それぞれが持つ知識を共有します。

多様な意見

異なるバックグラウンドを持つ参加者が集まることで多種多様な意見が交わされ、参加者同士の相互理解と信頼関係の構築を促します。

新たなアイデアの創出

自由な雰囲気の中での対話を通じて、新たなアイデアや解決策が創出されます。

これらの要素が組織内のコミュニケーションの質を向上させ、問題解決や創造的なアイデア生成に寄与します。

1-3. ワールドカフェとワークショップの違い

ワールドカフェとワークショップはどちらもグループで議論する手法ですが、その運用方法や目的には大きな違いがあります。以下にそれぞれの特徴を整理してみました。

【ワールドカフェ】

目的:自由な雰囲気の中で参加者全員がアイデアを出し、相互理解を深める

運用方法:会話が主体で、結論を急がずゆったりと意見を出し合う

【ワークショップ】

目的:具体的な課題解決やアイデア創出を目指す

運用方法:議事進行役(ファシリテーター)が場をけん引し、具体的なアウトプットを目指す

つまり、ワールドカフェは対話と共有を重視し、ワークショップは具体的な結果を求めます。適切な手法を選ぶことで、より効果的な議論が可能となります。

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2. ワールドカフェの特徴

ここからはワールドカフェの特徴をより詳しく見ていきましょう。

2-1. ワールドカフェの特徴は「カフェ的会話」

ワールドカフェの主な特徴として、「カフェ的会話」があります。カフェ的会話とは、形式ばった会議やディスカッションとは異なり、リラックスした雰囲気の中で自由に意見を交換し、対話を深めるスタイルを指します。

カフェ的会話のポイントは、以下のような要素です。

  • 会話の進め方
  • 場の設定
  • 参加の姿勢

会話の進め方

カジュアルな雰囲気の中で、自然な会話の流れを大切にします。参加者全員が話しやすい環境を作ることが求められます。

場の設定

実際のカフェのような空間を作り出します。ソファやテーブルを配置し、参加者がリラックスしやすい環境を整えます。

参加の姿勢

議論を強制するのではなく、自由に意見を述べ、他の参加者の意見を尊重する姿勢が求められます。

このようなカフェ的会話が、ワールドカフェの活動を通じて新たなアイデアや視点を生み出し、深い相互理解を促進する重要な要素となります。

2-2. ワールドカフェは対話を通した相互理解を目指す

ワールドカフェの魅力の一つは、「対話」にあります。一見、ただの会話のように思えますが、それぞれが自由に意見を述べ、共有することで、新しい視点や知識を得られます。その過程で相互理解を深め、共通認識を持つに至るのがワールドカフェの特徴です。

ワールドカフェでは全体で共通のテーマを設定し、45人のグループに分かれてそのテーマについて自由に話し合います。そして、決められた時間が経つと参加者は他のテーブルに移動し、新たなメンバーと対話を繰り返します。この「席替え」が重要で、新たな視点を吸収しながら、自分の意見も広く共有できる機会となります。

このような対話のプロセスを通じて、参加者は他者の考えを理解し、自身の視野を拡大するという「相互理解」を目指します。

3. ワールドカフェの進め方:初心者でも始められるステップ・バイ・ステップガイド

ワールドカフェを実践するにはどのようなステップを踏めばよいのでしょうか。初めての方にもわかりやすく、注意点と併せて解説します。

3-1. 準備のポイント

まずはワールドカフェの準備を行います。ポイントは以下の三つです。

  • 目的の確認
  • テーマの設定
  • テーブルの工夫

目的の確認

最初の重要なポイントは、目的の確認です。集まった皆が「何のためにここにいるのか」という目的を共有することで一体感を生み出すことができます。

企業が従業員向けに行うのであれば、例えば、「他部署との交流促進」「新しいアイデアをたくさん出す」などが考えられます。

テーマの設定

テーマは対話を生み出すキーとなりますので、参加者が興味を持ちやすいもの、また深堀りしたいと思うものを選びましょう。具体的でありつつも広範であることが理想的です。

例えば、「今期の振り返り」「商品(またはサービス)の改良について」などが考えられます。

テーブルの工夫

最後に、テーブルの工夫です。飲み物やお菓子を用意したり、花を飾ったりするなど、ゆっくりと話ができるカフェのような雰囲気づくりが大切です。テーブルには模造紙や色鉛筆を用意し、アイデアを自由に書き出せる環境をつくりましょう。

また、参加者が自由に意見を出すための工夫も忘れてはいけません。以下のようなルールをあらかじめ周知しておきましょう。

  • 対話を楽しむ
  • 一人が話し、他のメンバーは話を聞く
  • メンバーの意見を否定せず受け入れる
  • 積極的に質問をする

3-2. ルールと進行の手順

準備ができたらいよいよ実践です。ワールドカフェには一定のルールと次のような進行手順があります。

Step.1テーブルでの話し合い(1回目)
Step.2席替え(1回目)→テーブルでの話し合い(2回目)
Step.3席替え(2回目)→テーブルでの話し合い(3回目)
Step.4総括

Step.1 テーブルでの話し合い(1回目)

まず、参加者は45人で一つのテーブルを囲み、設定されたテーマについて自由に話し合います。この時、発言する人はトーキングオブジェクトを持つようにします。

トーキングオブジェクトとは、発言する人が持つアイテムのことです。石や小さなボール、ぬいぐるみなどを使用します。トーキングオブジェクトを持っている人が話し、持っていない人は話を聞くという役割を明確にするものです。

トーキングオブジェクトをテーブルの中央に置き、発言したい人がそれを取り、話し終わったら元の位置に戻す、というように運用します。

Step.2 席替え(1回目)→テーブルでの話し合い(2回目)

20~30分ほどの決められた時間が経過したら、席替えの時間です。その際、各テーブルにはホストと呼ばれる一人が残り、新たに来た参加者にこれまでの話し合いの要約を伝える役割を担います。

Step.3 席替え(2回目)→テーブルでの話し合い(3回目)

20~30分ほどの決められた時間が経過したら、2回目の席替えです。1回目の席替えと同じく、ホストは移動しません。ホスト以外の参加者は、「話し合い(1回目)」のテーブルに戻ります。

これまでの席替えで他の参加者と対話したことにより、自分の意見が変わったり、新たなアイデアを思いついたりするでしょう。改めて自分の考えや、他のテーブルで得た知識やアイデアを「話し合い(1回目)」のテーブルで共有します。

なお、テーマの数、席替え・話し合いの回数(ラウンド)や時間についてのルールはなく、自由に設定できます。その場の雰囲気で変更しても構いません。

席替えと話し合いを繰り返すと、多角的な視点からテーマについて深く考えることができるようになります。まるで参加者全員と話し合いをしたかのような効果を得られるのです。

Step.4 総括

最後に、参加者全員で情報を共有します。模造紙やホワイトボードに書き出しても良いでしょう。各テーブルから得られた洞察やアイデアを共有することで、新たな視点や解決策を発見できます。

4. ワールドカフェのメリットと注意点

ワールドカフェには、大きなメリットの一方で注意しなければならない点もあります。詳しく見ていきましょう。

4-1. ワールドカフェのメリット

ワールドカフェには以下のようなメリットがあります。

  • 参加者全員が意見を出しやすい
  • 多様な意見に触れられる
  • 信頼関係が深まる

参加者全員が意見を出しやすい

カフェのようなくつろぎの空間で対話をするため、自由で開かれた意見交換が行われます。会議やミーティングでは緊張してうまく話せないという人でも、リラックスして参加できます。

また、参加者が多数であっても、45人のグループに分かれて話し合いをするため、人前で話すのが苦手という人でも話しやすいでしょう。

多様な意見に触れられる

席替えによって一定時間ごとに参加するテーブルを変えるため、常に新しい視点や意見に触れることができます。

さらに、自分の意見に加え、前に参加したテーブルの意見を次のテーブルで共有するため、直接話す人数が少なくても大勢の意見に触れることができ、より深い議論や発想を引き出せます。

信頼関係が深まる

共に語り合うことで、参加者同士の相互理解を促し、信頼関係が深まります。一つのテーブルは45人の少人数であるため、普段オープンにしない話やプライベートな内容も気軽に話しやすく、共感を得たり親しみを感じたりといった雰囲気づくりが可能です。

組織内の異なる部署やチームでワールドカフェを行えばコミュニケーションが活性化し、風通しの良い組織づくりにも役立つでしょう。

4-2. ワールドカフェの注意点

ワールドカフェの注意点として、以下の三つが挙げられます。

  • 結論を急がない
  • 話し合いの流れの可視化
  • 発言量をコントロールする

結論を急がない

ワールドカフェでは、結論を急いではならず、参加者全員の意見を尊重することが大切です。それぞれのテーブルで自由な意見交換を行うことに意義があるので、無理に結論を出そうとしたり、優劣をつけたりするのは良くありません。

話し合いの流れの可視化

自由な雰囲気で話し合いをするワールドカフェは、新しい意見やアイデアの創出を促します。一方で、次々と出される意見やアイデアをしっかり把握し整理するには、話し合いの流れを可視化する工夫をしなければなりません。

これには、模造紙をうまく活用すると良いでしょう。各テーブルに用意して参加者の意見や考えを書き出し、共有することで新たな視点やアイデアが見つかることがあります。模造紙の活用により話し合いの流れを視覚化し、より深い理解を促進します。

発言量をコントロールする

ワールドカフェの話し合いは45人の少人数グループで行われます。時間内にメンバー全員が発言の機会を持てるよう、発言量のコントロールが必要です。

そのために活用したいのが、トーキングオブジェクトです。これは話す権利を示すアイテムで、持っている人だけが発言できるというルールが一般的です。

限られた時間の中で、一人が長時間話すことを防いだり、発言の少ない人にトーキングオブジェクトを渡し、発言の機会を増やしたりといったことが可能です。

5. ワールドカフェのお題・テーマの作り方:効果的な問いの設定方法

ワールドカフェをより実りあるものにするためには、参加者が積極的に対話したくなるような、魅力的なお題・テーマの設定が重要です。ここではそのポイントを三つご紹介します。

5-1. 力強い問い(テーマ)の設定

力強い問い(テーマ)は、話し合いに焦点と一貫性を与えます。参加者が話を組み立てやすくなってより活発に意見交換が行われ、相互理解も深まるでしょう。

「力強い問い」とは、以下のような条件を満たすものをいいます。

  • シンプルで明確
  • 発想を促す
  • エネルギーが湧いてくる
  • テーマに集中して探索することを促す
  • 思い込みを気付かせる
  • 理想の状態や新しい世界可能性に目を向けるを開く
  • 内省を促す
  • 自分事として考えられる

例えば、「あなたがこのプロジェクトのリーダーだったらどうしますか?」や、「この事態を改善するために必要なものは何だと思いますか?」など、個々の視点や経験を引き出すような問いは当事者意識を持ちやすく、理想の状態をつくるための発想を促しており、効果的と言えます。

5-2. オープンな問いの設定

ワールドカフェでは、参加者が自由に意見を共有・発展させるために、オープンな問いが重要です。

オープンな問いとは、イエス・ノーで答えられるような単純な質問ではなく、多角的な視点や意見、感想を引き出す開放的な質問のことです。

オープンな問いを設定することで、参加者自身の視点や感じ方、考え方をより深く掘り下げ、本質的な議論を引き出すことが可能になります。

例えば、以下のような問いは、具体的で深掘りする問い方に変更しましょう。

  • 「それは重要だ(重要でない)と思いますか?」 → 「なぜそれが重要だ(重要でない)と思いますか?」
  • 「それはあなたに影響を与えますか?」 → 「それがもたらす影響についてどう思いますか?」

5-3. ポジティブな問いの設定

ワールドカフェでは、議論を生産的かつ建設的に進めるために、ポジティブな問いが重要となります。ポジティブな問いとは、参加者の意見や経験を前向きに引き出す質問のことです。

問い設定の際は、ポジティブな言葉を用い、解決策や新規アイデアを引き出すような形にしましょう。ネガティブな表現はマイナスの感情を生み出し、自由な発想を妨げかねないからです。

例えば、「問題点は何ですか?」という問いは、「どのように改善できますか?」という形に改めると、より未来志向で積極的な議論を促すことができます。

また、過去の成功体験を引き出す問いも効果的です。「これまでの取り組みで成功した事例は何ですか?」と問うことで、参加者は自身の経験や知識を再確認し、新たな視点を提供することが可能となります。

ポジティブな問いの設定は、議論の質を高めるだけでなく、参加者全員が主体的に取り組むことを促進します。

6. ワールドカフェの問題点と対策

ワールドカフェは対話を通じた新たなアイデアや知識の創出を目指す方法ですが、一方で課題も存在します。二つの問題点と対策を確認しておきましょう。

  • 話が脱線しやすい
  • 発言機会や意見が偏ってしまう

話が脱線しやすい

一つ目は、話が脱線しやすい点です。ワールドカフェは自由な雰囲気で意見を出していく形式なので、単なる雑談になってしまったり、脱線した後の軌道修正がうまくいかなかったりすることがあります。

対策として、各テーブルのホスト役が対話の流れを管理し、テーマから外れないようにするのがよいでしょう。

発言機会や意見が偏ってしまう 

二つ目は、発言する人と聞く人のバランスが崩れやすい点です。一部の人が主導して話が進んでしまい、他の人の発言機会が減少することがあります。

対策として、発言の少ない人にトーキングオブジェクトを渡すなどして、決められた時間内にメンバー全員が発言できるようにしましょう。

また、参加者の属性によっては意見が偏ってしまう場合があります。これを防ぐには、多様な属性の参加者をテーブルごとにバランス良く配置することが有効です。十分なバラエティを確保するため、参加者の背景や専門性を考慮し、できるだけ異なる属性の人が混ざるよう工夫します。

例えば、4人グループを作る場合、営業部門3人と事務部門1人ではなく、営業部門と事務部門2人ずつ、もしくは4人全員異なる部門の従業員で構成するといった形です。

7. 各種企業でのワールドカフェ導入事例

最後に、ワールドカフェを実践している企業の事例をご紹介します。ぜひ参考にしてください。

7-1. 社会医療法人友愛会 友愛医療センター

沖縄県の友愛医療センターでは、入職1年目の全職員を対象に、入職してからの1年間を振り返る研修としてワールドカフェを実施しました。

1年間の振り返りと先輩になるための準備」をテーマとして、ドリンクやお菓子を用意してグループで話し合いが行われました。参加者は職種や所属事業所が多岐にわたり、入職以来の再会となる同期もいましたが、次第に打ち解け、和気あいあいとした雰囲気で進行しました。

前半には「成長した私」、「2年目への課題」について、後半には「先輩として準備すること」について話し合いました。

参加者からは、「普段なかなか関われない同期とも色々な話ができて、自分も頑張ろうと思った」「他の事業所や職種の実情が知れて、他職種への理解が深まった」[3]という感想が挙がったということです。

7-2. 株式会社日立システムズ

日立グループのSIerである日立システムズは、サステナビリティ経営の一環として従業員を対象とした「日立システムズWayワールド・カフェ」を開催しています。これまでに3,300が参加しているということです(2024116日現在)。

普段なかなか考える機会のない「仕事をする意義」「仕事と社会とのつながり」といったテーマについて話し合い、会社や仕事に対する自分の思いを確認しています。

ワールドカフェへの参加によって、自分の仕事を通じた社会貢献を考える機会を作り、サステナビリティ意識の醸成を図っています。

7-3. 株式会社富士通ゼネラル

富士通グループの電機メーカー、富士通ゼネラルでは、2017年から健康経営の推進活動に取り組んでいます。健康経営とは、従業員の健康維持・増進が将来的に収益性を高める投資と考え、経営的視点から従業員の心身の健康管理に取り組むことです。

その取り組みの一つが健康いきいきワールドカフェです。「職場の強み」「社会問題(防災、健康格差、メンタルヘルスなど)を解決するには」などをテーマとして取り上げ、従業員間のコミュニケーションやイノベーションを促進しています。

同社が取り入れた職場改善のプログラムにおいて、この取り組みは本来、従業員のストレスチェックの結果が良くなかった職場だけで実施するものです。しかし同社では、職場環境が良好な部署の取り組みを、課題のある部署に波及させることを狙いとして全ての職場で実施しています。

8. まとめ

ワールドカフェとは、参加者が対話を通じてアイデアを共有し、新たな知見を得るための方法の一つです。

会議室で行うフォーマルな会議やミーティングとは異なり、ドリンクやお菓子を用意して、リラックスした雰囲気で自由に意見を交換する様子がカフェをイメージさせることから「ワールドカフェ」と呼ばれています。

ワールドカフェを行う意義として、以下の3点が挙げられます。

  • 知識の共有
  • 多様な意見
  • 新たなアイデアの創出

ワールドカフェとワークショップの違いは以下のとおりです。

【ワールドカフェ】

目的:参加者全員が自由な雰囲気の中でアイデアを出し、相互理解を深める
運用方法:会話が主体で、結論を急がずゆったりと意見を出し合う

【ワークショップ】

目的:具体的な課題解決やアイデア創出を目指す
運用方法:議事進行役が場をけん引し、具体的なアウトプットを目指す

ワールドカフェの特徴である「カフェ的会話」のポイントは以下のとおりです。

  • 会話の進め行
  • 場の設定
  • 参加の姿勢

また、ワールドカフェの魅力の一つは、「対話」にあります。自由に意見を述べ、共有することで新しい視点や知識を得られます。その過程で相互理解を深め、共通認識を持つに至るのがワールドカフェの特徴です。

ワールドカフェの準備のポイントは以下のとおりです。

  • 目的の確認
  • テーマの設定
  • テーブルの工夫

ワールドカフェの基本的な進行手順は以下のとおりです。

Step.1テーブルでの話し合い(1回目)
Step.2席替え(1回目)→テーブルでの話し合い(2回目)
Step.3席替え(2回目)→テーブルでの話し合い(3回目)
Step.4総括

ワールドカフェには以下のようなメリットがあります。

  • 参加者全員が意見を出しやすい
  • 多様な意見に触れられる
  • 信頼関係が深まる

ワールドカフェの注意点として、以下の三つが挙げられます。

  • 結論を急がない
  • 話し合いの流れの可視化
  • 発言量をコントロールする

ワールドカフェのお題・テーマの設定のポイントは以下のとおりです。

  • 力強い問い(テーマ)の設定
  • オープンな問いの設定
  • ポジティブな問いの設定

ワールドカフェの問題点は以下のとおりです。

  • 話が脱線しやすい
  • 発言機会や意見が偏ってしまう

最後に、ワールドカフェを実践している企業の事例をご紹介しました。

  • 社会医療法人友愛会友愛医療センター
  • 株式会社日立システムズ
  • 株式会社富士通ゼネラル

ワールドカフェは、通常の会議とは異なり、カジュアルな雰囲気で自由に意見を共有する場です。いつもの会議の活性化や雰囲気づくりにお悩みの場合は、ワールドカフェを試してみてはいかがでしょうか?

ワールドカフェの目的は何ですか?

参加者が知識や意見を共有しながら相互理解を深め、新たな視点を得たり、アイデアを生み出したりすることです。通常の会議とは異なり、結論や解決策は求めません。

ワールドカフェとワークショップの違いは何ですか?

以下のような違いがあります。

【ワールドカフェ】

目的:自由な雰囲気の中でアイデアを出す

運用方法:結論を急がずゆったりと意見を出し合う

【ワークショップ】

目的:具体的な課題解決やアイデア創出を目指す

運用方法:議事進行役が場をけん引し、具体的なアウトプットを目指す

ワールドカフェ方式のメリットは?

以下のようなメリットがあります。

・参加者全員が意見を出しやすい

・多様な意見に触れられる

・信頼関係が深まる

[1] 株式会社識学「会議に関する調査」, 2022年8月23日, https://ferret-one.akamaized.net/files/63046033db38df05e54e55be/%E3%80%90%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%80%91%E4%BC%9A%E8%AD%B0%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB%EF%BC%88%E8%AD%98%E5%AD%A6%EF%BC%89.pdf?utime=1661231155(閲覧日:2024年1月18日)
[2] 四国地区大学教職員能力開発ネットワーク(SPOD)「ワールド・カフェの手引き」, SPODフォーラム2012資料, https://www.spod.ehime-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2012/11/%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%92%E3%80%90%EF%BC%B0%EF%BC%A4%EF%BC%A6%E3%80%91.pdf(閲覧日:2024年1月12日)
[3] 社会医療法人友愛会 友愛医療センター「入職1年目の振り返り研修『ワールドカフェ」を実施しました」, https://ymc.yuuai.or.jp/news/20230307-18149/(閲覧日:2024年1月16日)

参考)
畑中謙吾, 森田康夫「PIにおける『ワールド・カフェ」方式の適用可能性に関する考察」, 『土木計画学研究・講演集』, 第43回, 2011
ワールド・カフェ・ネット「ワールド・カフェとは?」, https://world-cafe.net/about/about-01/(閲覧日:2024年1月16日)
PHP人材開発「ワールドカフェとは? 目的や効果、進め方のポイントを解説」, https://hrd.php.co.jp/hr-strategy/od/post-1335.php(閲覧日:2024年1月16日)
株式会社日立システムズ「サステナビリティ経営の実現に向けて」, https://www.hitachi-systems.com/sustainability/management/topics/(閲覧日:2024年1月16日)
ニュースイッチ「健康経営のアレンジで職場は魅力的になる? 富士通ゼネラルが職場環境を整備」, https://newswitch.jp/p/18463 (閲覧日:2024年2月21日)
富士通ゼネラルグループ 健康白書「6. 従業員・家族への支援 e. 職場の活性化」, https://www.fujitsu-general.com/jp/health-productivity/support.html (閲覧日:2024年2月21日)

 

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開催概要

開催日時 2024年4月25日(木) 11:00-12:15
費用 無料
形式 ウェビナー(Zoom)
スピーカー
  • 株式会社アジャイルHR 代表取締役社長 松丘 啓司 氏
  • 株式会社アジャイルHR ファシリテーター 夛田 素子 氏
  • 株式会社ライトワークス HCMサービス本部 ビジネスデザイン部 事業企画チーム セクションマネージャー CAREERSHIPエバンジェリスト 柴山 雄太
トピック
  • プレゼンテーション(35分)
    ‐「A&Iエンゲージメント標準調査」の特徴
    ‐2024年版1万人従業員エンゲージメント調査の結果(全般/業種別/属性別)
    ‐2023年との変化・差異
    ‐従業員エンゲージメント向上のための施策例
  • ライトワークスからの情報提供(20分)
    ‐エンゲージメントにつながる「まなび」とは
  • Q&A(15分)
こんな方におススメ
  • 従業員のエンゲージメントにご関心をお持ちの方
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  • 企業価値の向上に関心がある人事ご担当者・経営者さま
注意
  • 弊社と同業と判断される企業様からのお申し込みはご遠慮いただいております。予めご了承ください。
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お申し込み期限 2024年4月25日(木) 10:00

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2024年2月9日、政府は「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」を開催し、技能実習制度の廃止と新制度「育成就労」の方針を決定しました。法案が成立すると、外国人の受け入れ対象分野や転職についてなど、企業における外国人雇用の状況も大きく変化します。

今回のウェビナーでは、外国人雇用における法務・労務の第一人者である弁護士の杉田 昌平 氏が、3月15日に閣議決定された技能実習法等改正法案(育成就労法法案)について、徹底解説します。2月9日に閣議決定された政府方針に対して、法案はどう変わったのか。

外国人受け入れを実施している企業や、今後の受け入れを検討している企業さま必見のウェビナーです。この機会にぜひご参加ください。

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開催概要

開催日時 2024年4月9日(火) 11:00-12:15
費用 無料
形式 ウェビナー(Zoom)(事前収録配信)
スピーカー 弁護士法人Global HR Strategy 代表社員弁護士  杉田 昌平 氏
トピック
  • プレゼンテーション(60分)
    ‐制度見直しの進行状況、今後の予測
    ‐育成就労法法案の概要
    ‐職種・作業と産業分野・業務区分の考え方
    ‐転籍の際のメカニズム(監理型育成就労)
    ‐「技能実習」と「育成就労」の制度比較
  • ライトワークスからの情報提供(15分)
こんな方におススメ
  • 外国人を雇用する人事担当者、管理者の方
  • 監理団体の役職員の方、登録支援機関の役職員の方
  • 実習実施者・特定技能所属機関の役職員の方
  • 外国人に関する労働者派遣・職業紹介事業を行う会社の役職員の方
  • その他、外国人を支援する方々
注意
  • 弊社と同業と判断される企業様からのお申し込みはご遠慮いただいております。予めご了承ください。
  • 視聴用URLは複数人で共有できません。ご参加の方それぞれでお申し込みください。
お申し込み期限 2024年4月9日(火)  10:00

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【本件に関するお問い合わせ先】
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【14職種の例文】人事評価コメントの書き方 自己評価のポイントも解説 https://research.lightworks.co.jp/personnel-evaluation-writing Tue, 12 Mar 2024 06:01:36 +0000 https://research.lightworks.co.jp/?p=24584 「部下のやる気をアップさせる人事評価コメントとは、どういうものだろう?」

「自己評価って、何を書けばいいの?」

人事評価コメントの書き方に迷ったことはありませんか?特に上司は、自身のコメントによって部下のモチベーションを下げないよう気を遣うことも多いのではないでしょうか。

Job総研が公表した「2023年 人事評価の実態調査」[1]では、人事評価でモチベーションが下がった経験がある人の割合は、2050代の男女758人のうち78.7となっています。

従業員のモチベーションが下がれば、その後のパフォーマンスに多少なりとも影響するでしょう。最悪の場合、離職につながってしまう可能性もあります。

そのため上司は、部下が納得し、モチベーションを向上させる評価コメントの書き方や表現のコツを知っておく必要があるのです。

また、被評価者が自己評価を行う場合には、自身の成果や課題を正しく評価者に伝え、好印象を与えられるかが重要です。

本稿では、上司・部下(自己評価)、双方の人事評価コメントの書き方のポイントや注意点などを解説します。また、職種別のコメント例企業事例も紹介します。

この記事がより良い人事評価コメントを作成する参考になれば幸いです。

「人事評価コメント」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。

1. 人事評価制度の概要

初めに、人事評価制度の概要を確認しましょう。

1-1. 人事評価制度とは

人事評価制度とは、従業員の成果や取り組みを、企業が設定した基準で評価するものです。評価内容は給与や昇進といった待遇に反映されるだけでなく、最適な人材配置の検討や、人材育成にも活用されます。

人事評価制度は評価制度・等級制度・報酬制度3つの制度から成り、それぞれが連動して機能しています。

さらに、人事評価制度には能力評価・業績評価・情意評価という3つの基準があります。

能力評価は、従業員の持つ知識やスキルを評価するものです。企画力や実行力、判断力、指導力などを評価します。

業績評価は、一定期間における従業員の成果を評価するものです。売り上げや成約率、KPI(目標の達成度合いを観測するための定量的な指標)の達成率などを評価します。

情意評価は、従業員の業務への姿勢を評価するものです。意欲や責任感などが評価対象です。

人事評価制度の詳しい内容は、以下の記事で解説しています。

1-2. 人事評価・人事考課・人事査定の違いは?

企業によっては、人事評価を「人事考課」や「人事査定」と呼ぶ場合もありますが、3つの言葉に明確な違いはなく、ほぼ同義と捉えるケースが多く見られます。なお、使い分ける場合は、それぞれ以下のような意味合いで用いられる傾向にあります。

人事評価

従業員の育成や能力開発などの判断基準にするため、成果やスキルなどを評価するものです。人事評価には、人事考課・人事査定も含まれ、より広い意味で使用されます。

人事考課

給与や役職を決める根拠とするために従業員の勤務態度や業務実績、スキルなどを評価するものです。評価基準は企業が定め、評価によって昇給・昇進の可否などを判断します。

人事査定

従業員の勤務態度や業務実績、スキルなどを数値化したり、ランク付けしたりしたものです。多くの場合、その数値やランクを給与などの待遇に反映することを含みます。

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2. 人事評価シートには何を書く?

人事評価を行う際、評価内容を記録する人事評価シートは欠かせません。具体的にどういった内容を記入するのか見てみましょう。

2-1. 人事評価シートとは

人事評価シートとは、従業員の目標や実績、能力、業務への姿勢など、評価に必要な情報を記入するための書類です。「人事考課表」と呼ばれることもあります。

人事評価シートには、能力評価・業績評価・情意評価や、企業が定めたその他の評価の基準・項目が記載されます。それに沿って評価を行うことで、客観的かつ公平な評価が可能になります。

人事評価シート作成時のポイントは、以下の3点です。

  • 職種や業務内容に最適な評価項目か
  • 公平性が保たれているか
  • フィードバックを行いやすいか

一般的に、人事評価シートには評価基準・項目に加え、「人事評価コメント」を記入する欄が設けられます。人事評価コメントは、上司などの評価者が記入する他、被評価者自身が自己評価をして記入するケースもあります。

なお、人事評価のために得た情報は、従業員の待遇や人材配置の検討などにも活用可能です。

2-2. 人事評価コメントとは

評価者または被評価者が人事評価シートの所見欄に記入する、評価内容に基づいた意見や考えを人事評価コメントといいます。

一般的には上司が評価者となり、部下の成果や課題などについてコメントを記入します。自己評価の場合は、自分自身の努力や成果、課題などについて振り返り、評価するコメントを記入します。

人事評価コメントは、被評価者が評価内容に納得し、また自身の課題を理解し、改善に向けて前向きに取り組めることを目的に記載します。従業員が次の目標に向けてモチベーションアップできるかは、人事評価コメントの内容次第といえるでしょう。

3. 人事評価コメントの書き方のポイント

人事評価コメントは、モチベーションや、上司と部下との信頼関係などに影響する重要なものです。書き方のポイントを押さえ、モチベーションアップや成長につながるコメントを作成しましょう。

3-1. 上司(評価者)の場合

上司が部下に対する人事評価コメントを記入する場合は、以下の4点を意識しましょう。

  • 客観性、具体性を持ってコメントする
  • 良い点、改善点の両方を記載する
  • 主観が入らないよう注意する
  • 新入社員は、当たり前のことができているかを中心に評価する

客観性、具体性を持ってコメントする

客観的かつ具体的な内容を記載しましょう。売上額や商談数といった部下の定量的な実績を示す際は、具体的な数値を用いて根拠を明確にします。

一方、事務職のように実績の数値化が難しい職種では、日々の業務への姿勢や、業務改善への取り組みなど、具体的な行動について評価するとよいでしょう。

良い点、改善点の両方を記載する

部下の業務への姿勢や目標達成度によっては、評価が厳しくなってしまうこともあります。しかし、コメントがネガティブな要素ばかりになってしまうと、モチベーションやエンゲージメントの低下につながりかねません。そのため、改善点だけでなく、良い点を見つけて記入することが大切です。

反対に、高評価で良い点ばかりになりそうなときは、状況をより良くするための改善策を示します。いずれにしても、部下のモチベーションや今後の成長を考慮し、偏りのないコメントを心掛けましょう。

主観が入らないよう注意する

主観的なコメントは避けましょう。評価者の一方的な思い込みを反映させると、公平性に欠けた評価になってしまいます。そのような評価は、部下との信頼関係に悪影響を及ぼすでしょう。それだけでなく、部下が企業に不満や不信感を持つ可能性もあります。

特に、意欲や業務への姿勢、勤務態度などを見る情意評価は、評価者の主観が入りやすいので注意したい項目です。

新入社員は、当たり前のことができているかを中心に評価する

入社間もない新入社員は、評価の対象となる具体的な成果が出せない場合もあります。そのため、「当たり前のことができているか」を中心にコメントをしましょう。

例えば、以下のような項目です。

  • 社会人のマナーやルールが守れているか
  • 業務への姿勢は誠実か
  • 協調性を持って取り組もうとしているか

組織の一員としてふさわしい振る舞いができているかに注目しましょう。

管理職の知識・スキルをアップデートするには弊社の管理職研修をご活用ください。 

3-2. 部下(自己評価)の場合

人事評価シートは、被評価者が自己評価をしてコメントを記入する場合もあります。その際、書き方で押さえておきたいポイントは以下の通りです。

  • ポジティブな表現を意識する
  • 失敗や問題点を分析する
  • 客観的に成果を評価する
  • 簡潔に分かりやすく書く

ポジティブな表現を意識する

コメントがネガティブな内容ばかりだと、評価者は良い評価を付けようという気持ちになりにくいでしょう。評価者に自分の成果を正しく理解してもらえるよう、できるだけポジティブな表現で伝えましょう。

例えば、突発的な業務が多いときに、通常業務に手が回らず後回しになってしまったことがある場合、状況をそのまま伝えてしまうとマイナス評価につながりかねません。

そこで、「優先度の高い業務から順に進めました。通常業務までこなすことはできませんでしたが、優先した業務が評価され、売り上げアップに貢献しました」のようにコメントします。

すると、「通常業務がこなせなかった」というネガティブな面よりも、「業務の優先度を見極め、さらに成果につながった」というポジティブな面が注目されやすくなります。

失敗や問題点を分析する

ポジティブな印象を与えるコメントを意識することは大切ですが、評価が下がるのを懸念し、良いことばかり書くことは避けましょう。良い点と併せて、自身の失敗や取り組みの中での問題点も記載すると、「自己分析ができている」と評価されやすくなります。

「問題点は何か」という現状の分析に加え、「改善するために今後どのような取り組みをするとよいか」など、成長につながる内容も記入すると、自身のステップアップに役立つのはもちろん、評価者にポジティブな印象を与えられるでしょう。

客観的に成果を評価する

自己評価でも、客観的な視点や具体的な数値は重要な評価ポイントとなります。独りよがりの自己評価を避け、スキルや実績、課題などを客観的に分析するとコメントに説得力が生まれ、評価者が正しい評価を行いやすくなります。

さらに、売上やミス発生率などを具体的な数値で示せば、日々の取り組みと自己評価の整合性を証明でき、説得力が増すでしょう。

簡潔に分かりやすく書く

コメントが分かりにくいと、評価されるべきスキルや実績があっても評価者に伝わらず、適正な評価を受けられない場合があります。人事評価コメントは「簡潔さ」や「分かりやすさ」を重視し、自分にとっても評価者にとっても使いやすい資料に仕上がるよう意識しましょう。

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3-3. 同僚を評価する場合

360度評価など、同僚を評価するケースもあります。年齢や勤続年数の近い同僚には、好き嫌いなど主観の入った評価をしがちです。そのため客観的な評価を意識し、同僚だからこそ書ける、業務への姿勢を中心にコメントするとよいでしょう。

例えば、以下のようなコメントが考えられます。

  • 社内イベントに積極的に参加し、従業員同士のコミュニケーション活性化に貢献している。
  • チームメンバーの特性をよく理解してサポートし、スムーズな業務遂行の力になっている。
  • 不測の事態に1人で慌てて対応しようとするので、早めに周囲に相談し、落ち着いて対応するとよいと思う。

4. 職種別、人事評価コメントの書き方例

人事評価コメントは、書き方のポイントを意識するだけで読み手に伝わる内容に仕上げやすくなります。

ここでは、職種別に、人事評価コメントのポイント、上司(評価者)のコメント例、部下(自己評価)のコメント例をご紹介します。

4-1. 事務職

事務職は成果を数値で表しにくい職種です。そのため、評価項目は「どれだけ作業のスピードアップができたか」や「メールや電話、来客などの対応を効率良くこなせたか」などの定量的なものにすると分かりやすくなります。

また、業務の完成度を上げるためのプロセスにも注目し、細かな評価ポイントも把握した上で、モチベーションアップにつながるコメントをすることが大切です。

上司(評価者)のコメント例

  • 新システムのマニュアル作成により、チーム全体の業務効率化に貢献した。
  • 経費削減に率先して取り組み、部署だけでなく企業全体の利益に向けた問題解決意識の高さが感じられる。

部下(自己評価)のコメント例

  • 前年度と比べて書類不備が20%減少した。目標達成のために書類のダブルチェックを欠かさず行った。
  • 新規採用に向けて業務マニュアルを作成し、引き継ぎ業務の効率化に貢献した。

4-2. 営業職

成果を数値化しやすい営業職は、売上額や商談数、目標達成率などを具体的な数値で表します。加えて、その成果を出す過程でどのような取り組みを実施したかにも触れると、納得できる評価につながりやすくなります。

上司(評価者)のコメント例

  • 前期よりも新規顧客獲得数が10%増加した。来期は既存顧客の解約率減少に向けた取り組みにも期待したい。
  • 目標である契約数200件を達成し、チームのモチベーションアップに貢献してくれた。

部下(自己評価)のコメント例

  • ・地道なアポ取りが功を奏し、成約率が前期と比較して10%増加した。
  • 新規契約数は目標に届かなかったが、アフターサポートに注力してきた結果、既存顧客の解約率を15%削減できた。

4-3. サービス職

販売・接客など、実績を数値化しやすい場合は、営業職と同様に具体的な数値を用いてコメントしましょう。数値化しにくい場合は、顧客にどのようなサービスを提供できたか、施設をより良くするために行った工夫など、業務の質向上において心掛けたことを中心にコメントします。

上司(評価者)のコメント例

  • 既存の顧客対応マニュアルの見直しや新人研修などを積極的に実施し、顧客からのクチコミ評価が1.5ポイント向上した。
  • これまでの経験で培ったノウハウを生かし、自身の業務改善はもちろん後輩の育成にも貢献してくれた。

部下(自己評価)のコメント例

  • セール商品のポップを店舗オリジナルで作成し、販売数10%アップに貢献した。
  • リピーター獲得のための企画を本部に提案・採用され、リピート率が全店舗中10位だった前期に対し、今期は1位を達成した。

4-4. 企画・マーケティング職

企画・マーケティング職の業務内容には、数値化できるものとできないものがあります。具体性を持たせることが難しい場合は、チームやプロジェクトにおける役割を果たしたか、成果にどう貢献したかなど、業務への姿勢を分かりやすくコメントしましょう。

上司(評価者)のコメント例

  • 新プロジェクトのサブリーダーとして、リーダーが円滑に進行できるようメンバーの能力分析や精神的なケアを積極的に行った。
  • データ収集・分析のスキルを活用してプロジェクト難航時に打開策を提示、業務を遂行する上で重要な役割を果たした。

部下(自己評価)のコメント例

  • スケジュールの遅れを取り戻すために業務効率化の方法を提案し、期間内の完了をサポートした。
  • 商品プロモーションとして、新たにSNS運用を実施。併せてキャンペーンを企画し、フォロワー10万人超えのSNSからの流入で、売り上げ目標の達成に貢献した。

4-5. コンサルタント職

顧客のさまざまな悩みを解決するコンサルタント職では、「顧客にどのような提案をできたか」や「顧客に提示されたノルマなどに対する成果はどうだったか」などについてコメントします。

日々の顧客対応や業務への姿勢などで良くできた部分があれば、具体的な行動を挙げて成果や成長を評価することも大切です。

上司(評価者)のコメント例

  • 顧客の要望に応えるため、自発的に学ぶことはもちろん、先輩にアドバイスを求めるなど真剣に案件と向き合っていた。
  • リサーチや分析を入念に行い、複数の提案を用意する姿勢は顧客からの評価が高く、プロジェクト成功、ノルマ達成など、成果にもつながっている。

部下(自己評価)のコメント例

  • 今期は顧客の要望をくみ取れず、指摘を受けてしまうシーンがあったが、指摘を踏まえて改めてリサーチを重ねたところ、新たな提案とその成果に満足いただけた。
  • 以前の取り組みを評価していただいた顧客から、「今回もぜひ〇〇さんで」とお声掛けいただき、新規の提案にも感謝の言葉をいただけた。

4-6. 技術職

建築業や製造業などにおける技術職は、業務効率化やコストダウンなど、企業の課題解決や目標達成に貢献した具体的な実績を中心にコメントします。

具体的な数値で評価しにくい場合は、作業スピードやミスの少なさ、協調性、責任感など、能力評価情意評価を中心にコメントを考えるとよいでしょう。

上司(評価者)のコメント例

  • テスト時の不要な工程の指摘と新たなテスト項目・手法の提案により、テストにかかるコスト削減に大きく貢献した。
  • 営業担当と共に顧客へヒアリングし、直に要望を聞いて顧客満足度向上に向けて積極的に取り組む姿勢は評価に値する。

部下(自己評価)のコメント例

  • 納期遅れ防止のため進捗管理方法を見直し、ミーティングも定期的に実施した。結果、今期は全ての案件において、納期遅れが生じなかった。
  • 目標のコスト10%削減に向けて見直しや提案を行ったが、結果は5%削減にとどまった。来期はさらに細かな分析や見直しを実施し、目標達成に努めたい。

4-7. ITエンジニア職

ITエンジニア職は、ITに関する知識や技術、そして顧客に交渉や提案を行ったり、チームワークを高めたりするためのコミュニケーション能力が求められます。

システムのユーザー数増加や顧客の売上アップといった具体的な数値を用いて評価するのが難しい場合は、業務を通した企業への貢献についてコメントするのがよいでしょう。

上司(評価者)のコメント例

  • 次のプロジェクトまでの空いた時間を活用して専用ツールを作成し、5部署の作業効率20%アップを実現した。
  • オンライン会議ツールを活用し、社内外問わず密にコミュニケーションを図り、スムーズな業務遂行を心掛ける姿勢が見られる。

部下(自己評価)のコメント例

  • 開発したシステムのユーザーが100万人を突破した。今後もチームメンバーと協力し、より使いやすいシステムに進化させていきたい。
  • 新システムのリリース後に顧客から不具合の指摘があったため、開発中のコミュニケーションを大切にし、高品質のシステムの納品を心掛けたい。

4-8. クリエイティブ職 

デザインや編集などのクリエイティブ職は、顧客のニーズに応えた作品を納品できたか、納期は厳守できたかなどが評価ポイントとなります。また、チームへの貢献度や、顧客との円滑なコミュニケーションスキルアップのための取り組みなども、評価の対象です。

上司(評価者)のコメント例

  • トレンド分析などを行う勉強会を自発的に実施するといった積極的な自己研さんが、人気ゲームのキャラクターデザイナーに抜擢されるなどの成果として現れている。
  • 制作中にも必要に応じてクライアントへのヒアリングを実施し、修正の依頼が前期より25%減少した。

部下(自己評価)のコメント例

  • 納期管理のために活用しているツールを他の従業員とも共有し、納期遅れを前期よりも15%減少させた。
  • クライアントの要望を適切にくみ取れるよう尽力するだけでなく、自らのアイデアの提案も行った結果、自身の案を採用してもらうことができた。

4-9. 管理職

管理職の場合、主な評価対象は担当するチームや店舗の実績です。コメント内容は具体的な成果やチーム目標の達成度が中心になります。その他、個々の業務への取り組みやマネジメント能力、部下の育成なども評価のポイントです。

上司(評価者)のコメント例

  • 部下の営業成績アップのため月に1度は商談に同行し、営業ノウハウの指導を行いながらサポートに尽力したところ、部下は目標数を超える契約を取ることができた。
  • 毎週1回のランチミーティングで、業務進捗状況の共有とともにコミュニケーション促進を図った結果、メンバー間の助け合いが増え、目標売り上げを達成した。

部下(自己評価)のコメント例

  • 以前より問題視されていたチーム全体の残業時間改善のため、マニュアル整備を実施。月平均30時間だった残業時間を20時間に削減することに貢献した。
  • 今期目標の定期的な面談による個々のサポート・ケアを十分に実施できなかったため、来期は面談の回数や内容を見直し、個々に合わせた適切なサポート・ケアを行いたい。

4-10. 看護師

医療機関で患者やその家族をサポートする看護師は、成果を数値化するのが難しい職種です。患者に対してどのような配慮や対応を行ったか、スキルアップのために何を実践したか、医師や他の看護師・スタッフとの連携などを中心にコメントを作成しましょう。

上司(評価者)のコメント例

  • 安全対策マニュアル基づき、院内の環境整備に尽力した。自身が手本となり実践することで、部下、後輩の安全への意識が高まっている様子が見て取れる。
  • 担当患者とその家族に寄り添い、積極的に声掛けをするなど精神的なケアにも努めている。

部下(自己評価)のコメント例

  • 気になる患者には個々に声掛け、ヒアリングを行い、情報を医師や他の看護師と共有するよう心掛けたことで、患者の症状進行を防ぐことができた。
  • 有志の勉強会にも積極的に参加し、常に知識やスキルの向上に努めている。

4-11. 介護職

介護職も看護師と同様、具体的な数値での評価がしにくいため、施設利用者のための環境整備への取り組みや介護スキルの高さ、他スタッフとの連携などを中心に評価します。資格取得や社内検定合格など、具体的な成果がある場合は積極的にコメントに反映させましょう。

上司(評価者)のコメント例

  • 日々の業務に真剣に取り組みながら、リスクマネジメントに関する研修にも自主的に参加し、利用者の安全確保と快適な施設利用の両立に貢献している。
  • トイレのコールの適切な使用法について、利用者が楽しく理解できるレクリエーションを提案・実施。環境整備や紙パンツの消費量削減を実現するだけでなく、利用者からも高評価を得た。

部下(自己評価)のコメント例

  • より良いサービス提供のため、社外の介護研修に月1回以上参加し、得た知識を生かした介助やサービスの提案を行っている。
  • 今後は利用者の総合的なサポートも視野に入れ、幅広い研修や勉強会に参加し、介護福祉士の資格取得に向けてますます努力したい。

4-12. 保育士

保育士も数値による成果の評価がしにくいため、現場での安全確保、子どもたちが快適に過ごせる環境づくりへの貢献度についてコメントします。事故防止に努め、子どもが楽しみながら成長できる遊びや行事を工夫する姿勢はもちろん、課題解決のための提案も評価ポイントです。

上司(評価者)のコメント例

  • 日々、担当する子どもたちの生活の様子に目を配り、一人一人に合った接し方を心掛けている。その姿勢は保護者にも評価されており、厚い信頼を得ていることが伝わる。
  • 目の前の業務を着実にこなすことはもちろん、年間行事の準備も率先して取り組んでいる。子どもたちの成長目安に合わせて作成した指導要領は、ぜひ他の保育士にも共有してほしい。

部下(自己評価)のコメント例

  • 子どもの変化にすぐ気が付けるよう、個々の様子をメモできるノートを作成した。その結果、子どもたちの好きなものなどもよく分かるようになり、お迎えの際の保護者とのコミュニケーションも円滑に行えた。
  • 運動会など園全体での行事についてはまだ先輩に指示を仰いでいる状態だが、来年度に生きるよう準備から当日の流れまでをまとめたマニュアルを作成している。

4-13. 教員

日々の授業はもちろん、行事への取り組み、クラブ活動や委員会の顧問など、教員が担う業務は幅広く、かつ具体的な数値で成果を表すことが困難です。さまざまな業務における目標の達成度、授業や行事などへの姿勢などを詳しく把握し、コメントに生かしましょう。

上司(評価者)のコメント例

  • 昨年度より導入したタブレットをさまざまな授業で活用し、生徒たちの興味・関心を深めた。一方でデジタル機器の扱いに関しても正しく指導を行い、現代の子どもが抱えるゲームやスマホへの依存、視力低下などの深刻さを子どもたちに伝えている。
  • サッカークラブの顧問に立候補し、自身の経験を生かした指導でチーム全体のレベルアップに貢献した。県大会では3回戦出場と、本校初の快挙を成し遂げた。

部下(自己評価)のコメント例

  • 登校が難しい生徒に向けて、授業を録画・共有したり、タブレット端末を利用したオンライン学習をサポートしたりした。クラスの様子が分かる動画やメッセージも届けたところ、徐々に登校する日が増えてきた。
  • 全国テストの成績を踏まえ、学力向上が学校全体の課題となっていた。授業や宿題の内容やボリュームを見直すなど、子どもたちが積極的に学ぶ姿勢づくりに尽力し、2学期は1学期よりも平均点が5点上がった。

4-14. 公務員

役所の窓口などの行政系から警察官や消防士などの公安系まで、公務員の仕事は多岐にわたります。公務員の仕事は非営利のため、業務効率化コスト削減は注目すべき観点です。数値で成果を表すのが難しい業務の場合は、ミス削減などの具体的な成果、市民対応におけるコミュニケーション能力部下の育成といったスキルを中心に評価するとよいでしょう。

上司(評価者)のコメント例

  • 担当業務に関するマニュアルを一新し、窓口に訪れる人の待ち時間削減に貢献した。また、新たなマニュアルにより部署内でも業務効率化が実現できている。
  • 新部署での業務に慣れない部分も多い印象だったが、地道な努力で日常業務を1人で難なくこなせるまでに成長した。来期は新入社員の指導にも尽力してほしい。

部下(自己評価)のコメント例

  • 今期は後輩、部下への指導ができる人材を目標として、業務内外で積極的にコミュニケーションを取った。部下が抱える仕事の悩みや改善点を共に分析したり、一人一人に合った業務を分配したりしながら、部署全体のモチベーションアップに努めた。
  • 書類ミスが起こらないよう作成したチェックリストが部署内で活用され、ミスの軽減に貢献した。効率的なチェック方法の実践は、作業時間短縮にもつながっているように感じる。

5. 人事評価コメントの書き方の注意点

人事評価コメントの書き方の注意点として、以下の5つが挙げられます。

5-1. ポイントを絞って書く

人事評価コメントは、「あれも書きたい」「この内容も入れておきたい」とボリュームが多くなりがちですが、相手への伝わりやすさを意識し、ポイントを絞って簡潔にまとめることが重要です。

上司(評価者)であれば、部下の成果や今後の課題が明確になっているか、自己評価であれば、成果をしっかりアピールできているかを考慮しながら、コメントを作成しましょう。

5-2. 結論→理由の順番で書く

結論がコメントの途中や最後にあると、読み手が情報を把握するのに時間がかかる可能性があります。人事評価コメントはまず結論を記載し、補足的な説明や理由は後から書くことがポイントです。

結論が最初にあると、自分が最も伝えたいことを読み手に印象付けられます。結論が後になると、伝えたい内容が埋もれてしまい、特に自己評価の場合は期待する評価を得られない可能性もあるので注意が必要です。

5-3. 今後の目標は具体的かつ実現可能なものにする

人事評価コメントでは、課題解決に向けた取り組みや次に達成すべき目標についても言及しましょう。

目標設定のポイントは「高過ぎず低過ぎない」ことです。低過ぎる目標は、達成できてもモチベーションアップしにくいでしょう。反対に高過ぎる目標は達成が難しく、モチベーションを下げてしまう可能性があります。さらに、達成度でも良い評価を得にくいため、「実現可能」という点が重要です。

例えば事務職の場合、「ダブルチェックを取り入れてミスを減少させ、今月20時間だった残業時間を15時間にする」というように、具体的かつ、少し頑張れば実現できる内容を意識すると、最適な目標が立てられます。

なお、一定の目標や基準をクリアした従業員を対象とする社内表彰制度を導入している企業もあります。社内表彰によって得られる称賛は、従業員のモチベーションアップに有効です。

5-4. AIチャットツールを使用しない

昨今はAIチャットツールが急速に発展しています。「人事評価コメントの作成が大変だ」と感じた場合、AIチャットツールによるコメント作成を検討するケースもあるでしょう。

しかし、無償で公開され、自由に利用できるAIチャットツールは、第三者が入力した情報を学習データとして利用するケースもあるため、情報漏洩のリスクがあります。

人事評価コメントには企業名や個人名、売り上げ・ノルマといった具体的な数値など、重要な情報が含まれているため、AIチャットツールの利用はしないようにしましょう。

5-5. 不適切なコメントは避ける

人事評価コメントには、避けた方がよい内容や表現もあります。特に上司(評価者)は次のようなコメントをしないよう注意しましょう。

  • 他者と比較するコメント
  • 人格否定や性格・身体的特徴に言及するコメント

他者と比較するコメント

「○○さんをお手本に」「○○さんにアドバイスをもらうとよい」など、部下の成長につながるコメントは問題ありません。

しかし、「同期の○○さんよりもスキル不足である」といった、優秀な他の従業員と比較した評価やコメントは避けましょう。部下のモチベーション低下自信喪失につながりかねません。

なお、評価の低い従業員と比較して高評価コメントをすることも不適切です。誰とも比較せず、個人の成果や改善点に着目してコメントしましょう。

人格否定や性格・身体的特徴に言及するコメント

人事評価は、従業員の「業務」に対する姿勢や成果を評価するものです。個人的な感情から被評価者の人格を否定したり、被評価者の性格身体的特徴など、評価対象外の内容に言及したりするコメントは避けましょう。

業務への姿勢など、数値化しにくい要素を対象とする情意評価は、主観が入りやすいため特に注意が必要です。勤務態度が思わしくない場合も、「頭が悪い」「役立たず」など人格否定につながるような表現を使用しないよう意識してください。人格否定は、パワハラに該当する場合もあります。

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6. 人事評価制度・評価コメントの事例【企業・行政機関】

最後に、企業と行政機関における人事評価コメントの事例をご紹介します。ぜひ参考にしてください。

6-1. GMOアドマーケティング株式会社(現:GMO NIKKO株式会社)

アドテクノロジー事業などを展開するGMOアドマーケティング株式会社の開発本部では、半期ごとにエンジニアの360度評価を実施しています。

もともと同社全体で、行動規範にのっとり、匿名・点数のみ・コメントなしの形式で360度評価を実施していました。しかし、より納得感が高く、行動の振り返りにもつながる評価にしたいという思いから、エンジニアに特化した360度評価の設計・導入が決定しました。

新たな360度評価では、点数だけでなく、実名でのコメントも付きます。従業員は半年間の取り組みを振り返り、自己アピールポイントGoogleフォームから提出します。提出したシートは誰でも閲覧でき、実名でコメントの記載が可能です。

例えば、「コミュニケーションしよう―どれくらいできていると思いますか?」という項目に対し、「Slackの反応が良い」(マネージャー)、「Slackなどで話しかけてくれたり、気にかけていただいた」(後輩)など、実名で具体的なコメントをもらえます[2]

このような360度評価を設計・導入し、フィードバックしやすい雰囲気づくりや、従業員のモチベーションや成長につながる運用を行いながら、自律的な組織づくりを進めています。

6-2. 内閣人事局・人事院

内閣人事局・人事院では、人事評価の概要やポイントをまとめた「人事評価マニュアル」を公開しており、評価者向けに「秀でている点(強み)・改善点(弱み)の記載例」を紹介しています。以下は記載例の一部です。

  • 秀でている点(強み)の記載例
    【確実な業務遂行】
    事務処理を効率的に遂行することができる。○○手続の申請に対する処理において、事前に審査のプロセスや確認事項を整理することで、速やかな処理を行うことができた。今後は、より迅速な審査に向けて、プロセスの効率化への貢献を期待する。
  • 改善点(弱み)の記載例
    【スケジュール管理】
    業務のスケジュール管理に改善を要する。○○事業について、事前に立てていたスケジュール通りに進めるための準備が不足している場面があった。それぞれの業務に必要な時間や作業を事前に把握し、余裕を持って遂行できるようになることを期待する。

引用:内閣人事局・人事院「人事評価マニュアル」, https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/r0309_hyouka_manual.pdf(閲覧日:2024312日)

情報収集力や企画力、業務遂行力などの評価について、民間企業の人事評価コメントにも活用できる記載例となっています。

また、人事評価における面談の会話例も掲載されています。被評価者に伝える内容や、評価者の話し方・表現のポイントなどを知りたい場合に活用可能です。

7. まとめ

人事評価制度は、従業員の業務への取り組みや成果を、企業の設定した基準で適正に評価するものです。評価内容は給与や昇進などの待遇、適切な人材配置に活用される他、従業員の成長やモチベーション向上にも役立ちます。

人事評価制度は以下の3つの制度で構成され、それぞれ連動して機能しています。

  • 評価制度
  • 等級制度
  • 報酬制度

さらに、人事評価制度には以下の3つの基準があります。

  • 能力評価
  • 業績評価
  • 情意評価

また、人事評価は人事考課人事査定と呼ばれる場合もありますが、いずれも明確な違いはなく、ほぼ同義と捉えるケースが多く見られます。

人事評価には、従業員の目標や実績、能力、業務への姿勢など、評価に必要な情報を記入する人事評価シートを使用します。その作成ポイントは以下の3つです。

  • 職種や業務内容に最適な評価項目か
  • 公平性が保たれているか
  • フィードバックを行いやすいか

人事評価シートに、上司(評価者)がコメントを書く際に意識したいポイントは、以下の4つです。

  • 客観性、具体性を持ってコメントする
  • 良い点、改善点の両方を記載する
  • 主観が入らないよう注意する
  • 新入社員は、当たり前のことができているかを中心に評価する

自己評価コメントの書き方のポイントは、以下の通りです。

  • ポジティブな表現を意識する
  • 失敗や問題点を分析する
  • 客観的に成果を評価する
  • 簡潔に分かりやすく書く

また、360度評価などで同僚を評価する場合は、好き嫌いなどを抜きにした客観的な評価を意識し、業務への姿勢を中心にコメントするとよいでしょう。

人事評価シートの内容は職種によって異なり、コメントも職種の特徴に合わせて書き方を工夫する必要があります。本稿では、以下の職種のコメント例をご紹介しました。

  • 事務職
  • 営業職
  • サービス職
  • 企画・マーケティング職
  • コンサルタント職
  •  技術職
  •  ITエンジニア職
  • クリエイティブ職
  • 管理職
  • 看護師
  • 介護士
  • 保育士
  • 教員
  • 公務員

人事評価コメントの書き方で注意したいポイントは以下の通りです。

  • ポイントを絞って書く
  • 結論理由の順番で書く
  • 今後の目標は具体的かつ実現可能なものにする
  • AIチャットツールを使用しない
  • 他者との比較や人格否定といった不適切なコメントは避ける

最後に、人事評価制度・評価コメントの工夫や書き方例として、2つの事例をご紹介しました。

  • GMOアドマーケティング株式会社(現:GMO NIKKO株式会社)
  • 内閣人事局・人事院

人事評価コメントは、評価内容を正しく反映し、公平性と透明性の高い人事評価を行うために欠かせない要素の1です。上司が評価する場合も、部下が自己評価をする場合も、次の目標に向かって成長できるコメントを心掛けましょう。

貴社の人事評価制度のブラッシュアップに、この記事がお役に立てば幸いです。

人事評価で書くことは?

 上司が部下の成果や課題などについてコメントを記入します。自己評価の場合は、自分自身の努力や成果、課題などについて振り返り、評価するコメントを記入します。

同僚を評価するときの例文は?

同僚を評価するときの例文は以下の通りです。

  • 社内イベントなどに積極的に参加し、従業員同士のコミュニケーション活性化に貢献している。
  • チームメンバーの特性をよく理解し、スムーズな業務遂行の力になっている。
  • 不測の事態に1人で慌てて対応しようとするので、早めに周囲に相談し、落ち着いて対応するとよいと思う。

評価と査定と考課の違いは?

それぞれに明確な違いはなく、ほぼ同義と捉えられます。使い分ける場合、人事評価は「従業員の育成や能力開発などの判断基準」、人事考課は「給与や昇進の根拠となる、従業員の実績やスキルの評価」、人事査定は「従業員の実績やスキルのランク付け・数値化」を指します。

[1] 株式会社ライボ「Job総研「2023年 人事評価の実態調査」」,『JobQ Town』,https://job-q.me/articles/15313(閲覧日:2024年1月27日)
[2] GMOアドパートナーズ株式会社「自律組織へ、エンジニア360度評価の紹介」,『GOM AD Partners TECH BLOG byGMO』,https://techblog.gmo-ap.jp/2021/12/01/360-degree-feedback/(閲覧日:2024年2月16日)

参考)
寺崎 芳紀「人事考課とは?人事評価との違い、目的、導入方法をわかりやすく解説」,『リクルートエージェント』,https://www.r-agent.com/business/knowhow/article/8978/(閲覧日:2024年1月27日)
SmartHR Mag. 編集部「人事考課表の書き方、例文まとめ。評価業務の負担を減らす業種・職種別実例紹介」,『SmartHR Mag.』,https://mag.smarthr.jp/hr-management/evaluation/jinjikouka_kakikata/(閲覧日:2024年1月27日)
ITトレンド編集部「人事評価シートの書き方は?例文や自己評価の重要性も解説」,『ITトレンド』,https://it-trend.jp/merit_rating/article/sheet(閲覧日:2024年1月27日)
maneoマーケット株式会社「【2024年最新】人事評価の書き方を徹底的に説明!目的や例文、注意点についてもご紹介」,『ビジトラ』,media https://www.maneo.jp/saas/pe-personnel-evaluation-how-to-write/(閲覧日:2024年1月27日)
株式会社シーベース「人事考課表の適切な書き方とは?人事考課の書き方・例文について職種ごとに徹底解説!」,『CBASE』,https://www.cbase.co.jp/column/article182/(閲覧日:2024年1月27日)
ITトレンド編集部「人事考課コメント例文(本人・上司)と書き方を徹底解説!」,『ITトレンド』,https://it-trend.jp/merit_rating/article/evaluation_comment(閲覧日:2024年1月27日)
GMOアドパートナーズ株式会社「自律組織へ、エンジニア360度評価の紹介」,『GOM AD Partners TECH BLOG byGMO』,https://techblog.gmo-ap.jp/2021/12/01/360-degree-feedback/(閲覧日:2024年1月28日)
内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」, https://www.jinji.go.jp/jinjihyouka/img/r0406_hyoukasya_tyouseisya_tetsudeki.pdf(閲覧日:2024年1月28日)

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コンフリクト マネジメントとは?メリット、注意点、手順を解説 https://research.lightworks.co.jp/conflict-management Mon, 19 Feb 2024 04:54:42 +0000 https://research.lightworks.co.jp/?p=24455 「××部はいつも自分たちの都合を押し付けてくる。調整が負担になっている」

こんな不満を社内で耳にすることはありませんか?

もしかすると、企業内の「対立」が大きくなっているのかもしれません。

対立と聞くと「できれば避けて済ませたい」「人間関係悪影響が出る」といったネガティブイメージを抱きがちです。

しかし企業内の対立は、うまく活用することで組織成長させることにつながります。対立している双方が冷静に話し合い、お互いに納得できる解決策を妥協せずに探る手法が「コンフリクト マネジメント」です。

この記事では、コンフリクト マネジメントの概要やコンフリクト マネジメントを行うメリット注意点、コンフリクト マネジメントの進め方、導入で求められるスキルを詳しく解説します。また企業の取り組み事例を紹介します。

ぜひ、組織内の対立を調整する際の参考にしてください。

 

「コンフリクト マネジメント」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。

1. コンフリクト マネジメントとは?

コンフリクト マネジメントとは、企業内の対立をうまく活用し、組織の成長につなげる手法のことです。本章では、そもそもコンフリクトとは何か、コンフリクトが生じる要因は何か、コンフリクトに対する人の対応にはどのようなものがあるのかも併せ、コンフリクト マネジメントの概要を詳しく解説していきます。

1-1. コンフリクトとは

コンフリクトconflict)は、主張考えの「対立衝突」という意味の言葉です。

ビジネスシーンでは、何かを議論したり変化に向き合ったりする場面などでコンフリクトが発生しやすくなります。

例えば、製品の製造体制を見直す検討において、「生産性を重視したい」経営チームと「品質にこだわりたい」製造チームの間で生じる考え方の対立が挙げられます。

このように、コンフリクト特別なことではなく組織があるところには必ず発生するものといえるでしょう。

1-2. コンフリクト マネジメントとは

コンフリクト マネジメントとは、組織間、従業員間のコンフリクトを「企業の活性化の機会」とポジティブに捉え、対立している当事者同士傾聴し合い、双方が納得できるような着地点を見出していく手法です。

対立と聞くと、「職場内の人間関係損ねてしまう」「業務が滞ってしまう」などネガティブな印象を抱きがちです。

しかし、コンフリクトを活用してうまくマネジメントすれば、プラスの結果を得ることができます。意見交換活発に行うことで新しいアイデアが生まれたり、人間関係が強固になったりする可能性があります。その結果、対立した両者の利益になる解決策が見つかるだけでなく、組織全体の成長にも役立つでしょう。

1-3. コンフリクトを生み出す三つの要素

コンフリクト マネジメントを行うためには、コンフリクトがどのような背景で起きるのかを知る必要があります。コンフリクトを生み出す要素は以下の三つだといわれています。

  • 条件の対立
  • 認知の対立
  • 感情の対立

条件の対立

立場役割の違いによって起こる目的や条件の対立のことです。例えば「経営側コスト重視VS製造側品質重視」のような対立は、それぞれの部門の役割などの条件の違いが要因であることが多くあります。

認知の対立

思考価値観の違いによる対立のことです。同じ事象であっても、人の考え方さまざまなため、その違いから対立が生じます。認知の対立の例としては、技術や品質を追求したいエンジニアチームとコストや納期を重視する営業チームにおける「理想追求VS現実路線」の対立などがあります。

感情の対立

双方が抱く感情の違いによって生じます。この対立は人間の心情が根底にあるため解決が難しい傾向にあります。例えば「希望VS不安」「優越感VS劣等感」といった反対の感情を持っている場合に対立が発生します。

コンフリクト マネジメントでは、このうちのどの要素で対立が生じたかを分析し、解決策を考えていく必要があります。

1-4. コンフリクトに対する五つの対応パターン

コンフリクトが生じると、人は通常どのような対応をとるのでしょうか。コンフリクト研究における「二重関心モデル」では、コンフリクトに対して五つの対応パターンがあるといわれています[1]

  • 強制
  • 受容(服従)
  • 回避
  • 妥協
  • 協力(協調)

強制

相手を説得したり強制的に従わせたりして、相手の犠牲の下、自分のニーズのみを満たそうとする対応です。従った側には不満や不信など、否定的な感情が生まれやすくなります。

受容(服従)

自分の意見を抑え、相手の意見を受け入れる対応のことです。相手の利益・要求を優先させるため、受け入れつつも自分の要求は満たされず、不満や無力感が残りやすくなります。

回避

対立している問題に対して、双方が意見交渉避ける対応のことです。問題が解決しないまま先送りになり、業務が滞りやすくなります。

妥協

お互いに条件を譲り合うことで妥協点を探そうとする解決法です。双方ともに十分に満足できる着地点ではなく早期に解決を図ろうとするケースに多い対応です。

協力(協調)

話し合いにより、お互いの意見否定せずそれぞれのニーズを理解し合った上で、双方が納得できる解決方法を見つけ出そうとする対応です。

以上がコンフリクトに対する五つの対応です。コンフリクト マネジメントでは、五つ目の「協力(協調)」目指します

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2. コンフリクト マネジメントを行うメリットと注意点

対立する相手の意見を受け入れ、双方が納得できる着地点を模索するというコンフリクト マネジメントを行う場合、どのようなメリット注意点があるのかを理解しておきましょう。

2-1. コンフリクト マネジメントのメリット

コンフリクト マネジメントを導入することで、以下の四つのようなメリットがあります。

  • 建設的な問題解決ができる
  • 組織が活性化する
  • より良い関係性を築ける
  • 従業員のモチベーションを上げることができる

建設的な問題解決ができる

コンフリクト マネジメントでは、双方が対立の要因やお互いの要求冷静深堀りした上で、お互いにメリットがある解決策模索していくため、双方にとっても組織にとっても建設的な問題解決ができます。

組織が活性化する

双方が意見を発言し合うことで新たな気付きアイデアが生まれ、組織が活性化します。

より良い関係性を築ける

話し合いの過程お互いについて理解できるため、対立する前よりも人間関係が円滑になったり、より深い信頼関係を築けたりする可能性があります。

従業員のモチベーションを上げることができる

「対立していた相手と深く話し合えた」「自分(達)の意見取り入れてもらえた」という満足感を得ることができるため、従業員組織モチベーションの向上につながります。

以上がコンフリクト マネジメントの主なメリットです。

2-2. コンフリクト マネジメントでの注意点

コンフリクト マネジメントを成功させるには注意点もあります。主な四つを以下に解説します。

  • マネジメントのメリットを全員で共有する必要がある
  • 相手の意見を否定しない
  • 問題の本質的な部分に焦点を当てる
  • 十分な話し合いの上でWin-Winな解決策を目指す

 マネジメントのメリットを全員で共有する必要がある

コンフリクト マネジメントを行う際は、当事者全員マネジメントのメリットや意義を理解し、前向きな解決を目指していく必要があります。「対立は決してネガティブなことではない」「うまく活用すれば双方かつ組織にとってプラスになる」といったポジティブな認識全員で共有した上で取り組むことが重要です。

相手の意見を否定しない

コンフリクト マネジメントを成功させるためには、相手の意見を尊重し、受け入れようとする「協調」の姿勢が重要です。正論で「強制的」に論破したり、十分に話し合わずに「妥協」したりするなどは避けるようにしましょう。

問題の本質的な部分に焦点を当てる

コンフリクトが発生した際には、「誰の意見が正しいのか」ではなく、双方にとって「何が最適か」を見出すようにしましょう。

十分な話し合いの上でWin-Winな解決策を目指す

コンフリクト マネジメントでは、双方が意見を出し切った上で、どのようにすればお互いが納得のいく解決策になるのかを、根気よく探っていくことが重要です。

以上がコンフリクト マネジメントを行う際の注意点です。

3. コンフリクト マネジメントの進め方―五つのステップ

コンフリクトの解決を成功に導くためには、段階を踏んで進めていくことが大切です。以下に、五つのステップを紹介します。

ステップ1. 話し合いで「一致点」「相違点」「対立の原因」を明確にする
ステップ2. 問題を捉え直し目標を再設定する
ステップ3. 考え得る全ての解決案から着地点を選ぶ
ステップ4. メリットを双方で共有し、協力して取り組む
ステップ5. 解決後のフォローアップを行う

ステップ1. 話し合いで「一致点」「相違点」「対立の原因」を明確にする

前章の注意点で述べた、「コンフリクト マネジメントのメリット認識共有」ができたら、いよいよ実際に話し合いをします。場合によっては仲介者が介入したり、対立している当事者の心理的安全を担保したりした上でコミュニケーションを取ります。

 

話し合いでは、双方の不満や懸念、要望にフォーカスして傾聴を行い、その中で考え方意見相違点一致点を探し整理していきます。

相違点や一致点を明らかにした後は、コンフリクトが発生している原因は何か、1章で紹介したコンフリクトを生み出す三つの要素のうち、どれに当てはまるのかを探っていきながら明確にしていきます。

これらの作業を通じて、対立を解決するための方向性をつかんでいきます。

ステップ2. 問題を捉え直し目標を再設定する

次に、双方のニーズに焦点を当て、双方の要望や懸案解決がかなうような視点問題を捉え直します。さらにその問題に対し、改めて課題あるいは目標を設定します。

双方が課題目標共有できれば、その後のマネジメントはスムーズに進む可能性が高まります。

 ステップ3. 考え得る全ての解決案から着地点を選ぶ

再設定した目標に対し、双方が納得できる具体的な解決策を考え合います。この時、双方ができるだけ多くの案を出していきます。

お互いが案を出し切ったら、考え出された策の中から実現可能性の高いものを選んだり、似た案を集約したりします。

そして最終的に、お互いにメリットがあり合意できる着地点一つ選びます

ステップ4. メリットを双方で共有し、協力して取り組む

着地点が導き出せたら、決定した解決策やお互いのメリットを共有します。そして解決策に協力して取り組み始めます。

ステップ5. 解決後のフォローアップを行う

コンフリクトの解決後フォローアップは重要です。取り組み状況両者の関係性把握改善を行うことで、コンフリクトの再発を予防し、より良い協力関係を継続させることができます。

以上が、コンフリクト マネジメントの五つのステップです。

4. コンフリクト マネジメントに必要なスキルとは

コンフリクト マネジメントでは、前章で述べた通り、双方の意見意向を深く読み取り、背景の問題点を明確化させ、お互いが納得のいく着地点根気強く考えていくことが必要になります。

したがって、コンフリクト マネジメントを遂行させる上では、特に以下のような二つのスキルが求められます。

  • 傾聴力
  • ファシリテーション力

傾聴力

相手の意見要望、時にはネガティブな感情でも、冷静に聞き取ることが必要です。傾聴の態度を持ち対話を進めることで、各当事者の意図要求背後にある問題の本質が明確になり、より適切な解決策を見つけることができます。

 

ファシリテーション力

対立を解決するための話し合いで仲介を行うには、第三者的な立場で当事者間の相互理解を促し、建設的な解決策を導かなければなりません。そのため、進行役としての高いファシリテーション力が求められます。

以上がコンフリクト マネジメントに必要な主なスキルです。

「対立」という人事課題を、当事者だけでなく企業にとってもメリットがあるように解決していく策として、ぜひ参考にしてみてください。

次章は、企業が実際に行っているコンフリクト マネジメントへの取り組み事例を取り上げます。

5. コンフリクト マネジメントに関する企業事例

最後に、コンフリクト マネジメントを行っている企業の取り組み事例を見てみましょう。以下に二つ紹介します。

5-1. 一般社団法人 大阪ファルマプラン

大阪ファルマプランは、薬局チェーンや介護保険事業を展開している団体です。医療関連の現場では、医療従事者と患者、その家族など、さまざまな立場の人が関与するため、考えや価値観の相違によるコンフリクトが多く起こります。

そのため医療分野では、対話により患者や家族の主張や不安を聞きつつ、現実を正しく理解してもらい支援するというコンフリクト マネジメントが広く行われています。

大阪ファルマプランでは、医療コンフリクト マネジメントの知識技術を習得するために、社内でコンフリクト マネジメントについての講義を行いました。また、実際の症例を基に事例検討グループディスカッションを行いました。ディスカッションでは、事例ごとに何が原因だったのか、患者と従業員間のコミュニケーションはどうだったのか、業務改善にどうつなげていくのかを話し合いました。

こうした取り組みにより、認識のズレコミュニケーションを見直し、サービスの改善に努めています。

5-2. 株式会社ZOZOテクノロジーズ(現:株式会社ZOZO NEXT

ZOZOテクノロジーズ(現:株式会社ZOZO NEXT)は、ファッション通販サイトを運営する株式会社ZOZOグループ内の7社が合併してできた会社です。このため、さまざまな文化が混ざり合った環境が特徴です。一方で、それぞれの会社で大切にしていた価値観が時にぶつかり合うことや、企業の文化が新しく生まれる変化の速さに追い付けない従業員が出てきたといいます。

そこで、組織内で共通の価値観を醸成するとともに、同じ目標に向かっていけるよう目標管理制度を導入しました。また、個別の組織課題についても組織開発チームとして支援をする体制を整えました。こうした取り組みによりコンフリクトへの対策を行い、組織の活性化につなげています。

これら事例には、企業におけるコンフリクト マネジメント必要性可能性が示されているといえるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。

6. まとめ

コンフリクトconflict)は、主張考えの「対立衝突」という意味の言葉です。

コンフリクト マネジメントとは、組織間、従業員間で生じるコンフリクトを「企業の活性化の機会」とポジティブに捉え双方納得できるような着地点見出していく手法です。

コンフリクト マネジメントでは、対立している当事者同士がお互いに傾聴し合うことでWinWin解決策を導き出し、最終的に組織の成長につながるように解決を図ります。

コンフリクト マネジメントでは、対立が以下の三つのうちどの要素で生じたかを分析し、解決策を考えていくことが不可欠です。

  • 立場や役割の違いによって生じる目的や「条件」の対立
  • 思考や価値観など「認知」の違いによって生じる対立
  • 双方が抱く「感情」の違いによって生じる対立

コンフリクト マネジメントでは、コンフリクトに対して人が取る五つの対応パターン強制」「受容(服従)」「回避」「妥協」「協力(協調)」のうち、「協力(協調)」を目指します。

「協力(協調)」は、話し合いにより、お互いの意見を否定せずそれぞれのニーズを理解し合った上で、双方が納得できる解決策見つけ出そうとする対応です。

コンフリクト マネジメントを導入することで、以下の四つのようなメリットがあります。

  • 建設的問題解決ができる
  • 組織活性化する
  • より良い関係性を築ける
  • 従業員モチベーションを上げることができる

コンフリクト マネジメントを成功させるには、以下の四つのような注意点があります。

  • マネジメントメリット意義全員共有する必要がある
  • 相手意見否定しない
  • 問題の本質的な部分に焦点を当てる
  • 十分な話し合いの上でWin-Win解決策を目指す

コンフリクトの解決を成功に導くためには、以下のようなステップを踏んで進めていくことが大切です。

ステップ1. 話し合いで「一致点」「相違点」「対立の原因」を明確化する
ステップ2. 問題捉え直し目標再設定する
ステップ3. 考え得る全ての解決案から着地点を選ぶ
ステップ4. メリット双方で共有し、協力して取り組む
ステップ5. 解決後のフォローアップを行う

コンフリクト マネジメントを遂行するためには、以下のようなスキルが求められます。

  • 傾聴力
  • ファシリテーション力

最後に、コンフリクト マネジメントを行っている企業の取り組み事例を二つ紹介しました。

  • 一般社団法人 大阪ファルマプラン
  • 株式会社ZOZOテクノロジーズ(現:株式会社ZOZO NEXT

コンフリクト マネジメントを導入する際に、ぜひ参考にしてください。

 

コンフリクト マネジメントとは?

コンフリクト マネジメントとは、組織間、従業員間の対立=コンフリクトを「企業の活性化の機会」とポジティブに捉え、双方が納得できるような着地点を見出していく手法です。当事者同士が傾聴し合い、最終的に組織の成長につながるように解決を図ります。

コンフリクト マネジメントのメリットは?

コンフリクト マネジメントの導入により、以下のようなメリットを得られる可能性があります。

  • 建設的な問題解決ができる
  • 組織が活性化する
  • より良い関係性を築ける
  • 従業員のモチベーションを上げることができる

コンフリクト マネジメントの方法は?

コンフリクト マネジメントは、以下のような方法で進めていきます。

話し合いによる「一致点」「相違点」「対立の原因」の明確化→目標の再設定→考え得る解決案を創出し一つを選出→お互いのメリットを共有し新たな解決案に向け取り組み開始→解決後のフォローアップ

[1] コンフリクト研究を行った心理学者ケネス・W・トーマスとラルフ・H・キルマンが、コンフリクト対応として選択される解決行動を整理したモデル。 

参考)
経済産業省,中小企業庁,「ふるさとデザインアカデミーichi基礎研究III デザインプロデュース実践のための基礎スキル」, P26, https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200420004/20200420004-4.pdf(閲覧日:2023年12月13日)
丸山大輝,岩村光貴,石田秀一郎,大槻亮輔,三好きよみ,「多様性の高いメンバーによるプロジェクトにおけるコンフリクトの特徴分析―オープンイノベーションの遂行のためのコンフリクトマネジメント手法の提案に向けて―」, 『経営情報学会 全国研究発表大会要旨集』,2022年全国研究発表大会,P29-32.
各務晶久,『職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント』,朝日新聞出版,2019.
一般社団法人 大阪ファルマプラン,「【学習会】CS委員会 事例検討会を開催しました」,http://www.faruma.co.jp/blog/dekigoto/3264.html(閲覧日:2023年12月13日)
ZOZO TECH BLOG,「『挑戦させすぎ?」マネジメント勉強会で分かった組織課題とその解決策」,https://techblog.zozo.com/entry/organization-management-solution(閲覧日:2023年12月13日)
ZOZO,「ZOZOとZOZOテクノロジーズ 10月1日付けで組織再編」,https://corp.zozo.com/news/20210813-15063/(閲覧日:2024年1月4日)
ZOZO,「ZOZO グループ会社一覧」https://corp.zozo.com/about/group/(閲覧日:2024年1月4日)

 

 

 

 

 

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【事例あり】人事評価制度とは?評価基準や方法、導入ステップを解説 https://research.lightworks.co.jp/personnel-evaluation-system Mon, 29 Jan 2024 05:38:32 +0000 https://research.lightworks.co.jp/?p=24328 「人事評価に不満がある人は多いらしい。うちは大丈夫だろうか?」

実際に、人事評価に不満がある人は多いようです。

Job総研が公表した「2023年 人事評価の実態調査」[1]では、企業の評価に不満を感じたことがある人の割合は、2050代の男女758人のうち75.2%となっています。

さらに、評価によって転職を考えたことがある人の割合は71.8%、実際に転職したという人も48.9%となり、人事評価は従業員エンゲージメントを大きく左右することが分かりました。

従業員が評価に納得し、次の目標に向かって意欲的に業務に取り組むには、透明性が高く、公平・公正で、かつ、モチベーションが向上するような人事評価制度が必要です。

本稿では、人事評価制度の概要やメリット・デメリット、制度導入までの流れ、制度導入時のポイントなどを解説します。また、優れた人事評価制度を導入している企業の事例も紹介します。

人事評価制度について理解を深め、貴社の人事評価を見直すヒントになれば幸いです。

「人事評価制度」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。

1. 人事評価制度の概要

初めに、人事評価制度の目的や評価の基準などを確認しましょう。

1-1. 人事評価制度とは?

人事評価制度とは、従業員の仕事における取り組みや成果を、企業が設定した基準に沿って適正に評価し、給与や昇進・昇級に反映する仕組みのことです。

人事評価制度は、以下の3つの制度で構成され、連動して機能しています。

・評価制度
企業が設定した指標を基に、従業員の能力や貢献度を評価するものです。等級や給与といった企業内での待遇に反映されます。

・等級制度
役割や能力、職務などにより従業員をランク付けするものです。業務の難易度や権限・責任によって等級が決まり、評価基準の内容や給与などの待遇に反映されます。

・報酬制度
評価や等級を根拠として給与や賞与、退職金などを決定します。金銭以外にもセミナー参加など学習機会の提供や、功績に対する社内表彰などもあり、従業員のモチベーションアップに大きく貢献します。

3つの制度の関係図】

3つの制度の関係図

なお、人事評価は人事考課と呼ばれることもあります。使い分けるケースもありますが、両者に明確な違いはなく、多くの場合ほぼ同義と捉えられています。

1-2. 人事評価制度が導入される背景

長年、日本では年功序列終身雇用を前提に、年齢や勤続年数に応じて給与や役職が上がっていくスタイルを取っていました。

しかしその後、雇用情勢の変化や不景気、グローバル化などを経て、多くの人の「働き方」に対する考え方に変化が生じます。年功序列、終身雇用という日本企業の慣行は徐々に衰退していきました。

代わりに主流となったのが、年齢や勤続年数ではなく企業への貢献度や業績、能力などの評価により給与や役職を決める、現在の人事評価制度です。

人事評価制度は、従業員一人一人の成果を正しく理解し待遇の根拠とすることや、モチベーションアップために欠かせないものとなっています。

1-3. 人事評価制度の目的

人事評価制度を導入する目的として、以下の4つが挙げられます。

  • 企業理念やビジョンの浸透
  • 適切な待遇の決定
  • 最適な人材配置
  • 人材育成の促進

企業理念やビジョンの浸透

評価項目を企業理念やビジョンとリンクした内容にすると、従業員が個々の目標を設定し達成する過程で、企業理念やビジョンが自然に浸透していきます。従業員のエンゲージメントやパフォーマンスが向上し、企業と従業員が共に成長できるでしょう。

適切な待遇の決定

給与や役職の設定には、客観的かつ正しい評価が必要です。勤続年数や現状の地位にかかわらず、従業員の努力や成果に見合った待遇を決定します。

最適な人材配置

従業員に能力を最大限に発揮してもらうには、その人の得意・不得意や希望するキャリアなども勘案し、ベストな業務やポジションを与える必要があります。

人事評価の結果を基に担当業務や人事配置を見直し、より良い成果を得ることが可能です。

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人材育成の促進

評価基準が明確で透明性がある人事評価制度は従業員の納得を得やすく、エンゲージメントが高まります。また、成果が待遇に反映されることが分かれば、従業員は目標達成のために努力し成長しようとするため、人材育成が促進されます。

1-4. 人事評価制度の3つの基準

人事評価制度の評価基準は大きく以下の3つに分かれます。

  • 能力評価
  • 業績評価
  • 情意評価

能力評価 

能力評価は、業務をこなす上で必要な知識やスキルによって従業員を評価するものです。業種・職種や業務内容によって求められる能力は異なるため、各社共通の評価基準はなく、企業が独自に定めます。

例えば、問題解決のための解決策を提案する「企画力」や、業務を遂行する「実行力」、状況を理解して適切に対応する「判断力」などが評価対象となります。管理職やリーダーの場合、後輩や部下に正しく指導を行う「指導力」も重要です。

業績評価

業績評価は、一定の期間において従業員の能力や成果を評価するものです。目標をどの程度達成できたか、どういった成果を上げられたかを数値化します。

例えば、営業部門の場合は売り上げや成約率、企画部門の場合はKPI[2]の達成率といった具体的な数値で評価します。

事務部門のように数値化が難しい業務の場合、従業員の上司や部下、同僚などからヒアリングを行い、成果を数値化するケースもあります。

情意評価

情意評価は、従業員の勤務態度や業務への姿勢を評価するものです。例えば、以下のような点が評価対象となります。

  • 業務に対して意欲的に取り組んでいるか
  • 積極的に学ぼうとしているか
  • 与えられた役割を責任を持って全うしているか
  • チームの一員として協力的な行動を取っているか
  • 部下や後輩、同僚のフォローをしているか

情意評価は定量的な評価ができないため、評価者の主観に左右されないよう注意が必要です。

なお、日本経済団体連合会の「人材育成に関するアンケート調査結果」[3]によると、従業員の「学ぶ姿勢」と「部下・後輩の育成」の双方を同様に評価し、処遇に反映する仕組みがあると回答した企業は全体の56.3、今後、「学ぶ姿勢」と「部下・後輩の育成」ともに処遇への反映を強めていきたいと回答した企業は49.0でした。

能力レベルや目に見える成果だけでなく、意欲的な姿勢周囲との連携も重視する企業は少なくないことが分かります。

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2. 人事評価制度における評価方法の種類

人事評価を行うにはさまざまな方法がありますが、ここではメジャーな評価方法である以下の5つをご紹介します。

  • 目標管理制度(MBO
  • コンピテンシー評価
  • 360度評価(多面評価)
  • OKRObjectives and Key Results
  • バリュー評価

目標管理制度(MBO) 

目標管理制度(MBO)は、従業員が自分で目標を設定し、上司とコミュニケーションを取りながら達成までの過程を管理する制度です。目標の達成度を評価に反映します。

MBOのポイントとして、高過ぎず低過ぎないレベルの目標設定具体的な数値や期限の設定企業と個人の目標が同じ方向性であることなどが挙げられます。

コンピテンシー評価

コンピテンシー」は「高い成果を上げている従業員に共通する行動特性」を指す言葉です。これを分析、モデル化して評価基準とします。

従業員が持つ知識やスキルそのものではなく、成果を挙げた過程や、なぜそのような行動を取ったかという部分に注目して評価を行います。実際に活躍している従業員の行動を分析することで目標達成に必要な要素が明らかになるため、人材育成にも有効です。

360度評価(多面評価)

人事評価は一般的に上司が行いますが、360度評価では上司だけでなく部下や同僚、他部署の従業員など複数人が1人の従業員の評価を行います。評価内容の客観性が高く、評価を受ける側も納得しやすいのがメリットです。

また、上司が把握していなかった被評価者の長所・短所なども分かるため、人材育成にも有効です。

OKRObjectives and Key Results

目標と成果指標」を意味するOKRでは、13カ月程度の短い期間に1つ、目標管理制度(MBO)より高い、簡単には達成できない目標を設定します。企業全体の目標を基に従業員が個々の目標1つ決め、それに対し複数の成果指標を設定します。

OKRの目的の1つは、高い目標を達成しようとする従業員の努力・成長を促すことであるため、生産性向上人材育成にも役立ちます。

バリュー評価

仕事で成果を得るまでの過程、日常業務における、企業のバリュー(企業の価値観を反映した行動規範)への理解や実践度を評価します。

先行き不透明なビジネス環境で、バリューを体現する自律型人材の育成が急務とされる中、人事評価の有効な方法の1つです。

関連記事:自律型人材とは?企業の事例や育成のための4つのポイントも解説

3. 「ノーレイティング」を採用する企業も

日本では年功序列制度に代わり人事評価制度が主流となっていますが、近年、従来型の人事評価制度を廃止し「ノーレイティング」を採用する企業が現れています。

ノーレイティングとは、従業員をランク付けせず、上司との1on1 ミーティング(部下のモチベーション向上や育成のために、上司と実施する個人面談)で目標設定成果のフィードバックなどを行いながら評価する、新しい評価方法です。

ノーレイティングが注目される社会的な背景として、モノやサービスの消費スピードが速まり、ビジネスサイクルが短期化したことがあります。企業ではより多くの意見や発想が必要になり、さまざまなコラボレーションが求められるようになりました。

このような時代の変化に対応するべく、柔軟かつタイムリーな評価が可能なノーレイティングが徐々に浸透しているのです。

ノーレイティングを導入した企業として、Google LLCGAP Inc.アクセンチュア PLCMicrosoft Corporationなどがあります。国内企業では、カルビー株式会社などが導入しています。

4. 人事評価制度のメリットとデメリット

人事評価制度の導入・運用前に、評価者(上司や企業側)と被評価者(部下)、双方のメリット・デメリットを理解しておきましょう。

4-1. 評価者(上司や企業側)のメリット・デメリット

評価者のメリットとして、人事評価制度を通して以下のような施策を推進できる点が挙げられます(1-3.参照)。

  • 企業理念やビジョンの浸透
  • 適切な待遇の決定
  • 最適な人材配置
  • 人材育成の促進

その他にも、以下のようなメリットが考えられます。

  • モチベーションアップや生産性向上による競争力強化
  • スキルの把握・管理

モチベーションや生産性の向上による競争力強化

公平で透明性が高い評価制度は従業員の納得感を高めます。さらに、評価者から直接フィードバックをもらうことで、自信を付けたり、改善に取り組んだりできます。その結果、モチベーションアップ生産性向上が期待でき、企業の競争力強化につながるでしょう。

スキルの把握・管理

評価者は、評価の材料として従業員のスキルや成果に関するデータを収集する必要があります。集まったデータは、人材育成人材配置の検討など、幅広く活用できます。

以上のようなメリットを得られる人事評価制度ですが、評価者は以下のデメリットに注意する必要があります。

  • 評価外の業務がおろそかになりがち
  • 人事評価担当者の負担が増える
  • 評価のスキルが求められる
  • 評価によっては従業員のモチベーションが低下する

評価外の業務がおろそかになりがち

従業員が、人事評価に影響しない業務をおろそかにしてしまう可能性があります。

能力を発揮しても評価項目に含まれない分野であるため評価されない、ということがないよう、定期的に評価方法を見直す社内表彰やレコグニションを活用するなどの対策をしましょう。

 

人事評価担当者の負担が増える

人事評価制度は、制度設計、社内への周知、導入・運用といった多くのプロセスをこなすことになり、担当者の大きな負担となるケースがあります。

人事評価システムLMS(学習管理システム)を導入し、従業員の研修・学習履歴やスキルを管理するなど、担当者の負担を軽減する仕組みが必要です。

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評価のスキルが求められる

評価者には、主観を反映しない、公平・公正な評価をすることが求められます。さらに、従業員との面談では傾聴力やコミュニケーション力、従業員の目標達成に向けて適切なサポートをするマネジメントスキルも欠かせません。

評価に必要なスキルは、研修eラーニングなどで習得する必要があります。人事評価制度導入前には、評価者研修を必ず行いましょう。

評価によっては従業員のモチベーションが低下する

従業員が評価に納得しない場合、モチベーションやエンゲージメントが低下する可能性があります。フィードバックを丁寧にするなど、従業員の納得感を高める工夫が必要です。

また、人事評価制度の基準や指標が不透明・不公平な場合も、従業員の不満が大きくなってしまいます。制度の改善仕組みをオープンにするといった対策を行い、制度の透明性・公平性を保ちましょう。

4-2. 被評価者(部下)のメリット・デメリット

評価される従業員にとってのメリットとして、自身の貢献度や日々の努力、実績を適切に評価されるため業務へのモチベーションアップにつながることがあります。

さらに、自身のスキルや適性が明確になり、実力を最大限に発揮できる部署や業務にチャレンジできる機会も得られます。

一方、デメリットとして、評価が良くなかった場合に企業に不満を抱いたり、落ち込んだりするかもしれないことが挙げられます。そのようなときは、信頼できる上司に相談する、スキルアップを目指しセミナーに参加するなど、モチベーションを落とさないように意識しましょう。

 

5. 人事評価制度導入の手順と人事評価シートの作り方

ここでは、人事評価制度をスムーズに導入するための8つのプロセスと、人事評価制度に欠かせない人事評価シートの作成ポイントを確認しましょう。

5-1. 人事評価制度導入までの流れ

人事評価制度導入には、以下の8つのプロセスが必要です。

  1. 現状の分析
  2. 評価目的・基準の設定
  3. 評価項目作成
  4. 評価方法の決定
  5. 導入・運用スケジュール作成
  6. 評価シミュレーション
  7. 人事評価制度の運用開始
  8. 評価内容のフィードバック

1.現状の分析

自社の現状を分析して理想の状態とのギャップを把握し、課題を明確にします。まず企業が抱える大まかな課題を挙げてから、解決のために何が必要か細かな分析を行いましょう。

例えば、「業績が思わしくない」という課題に対しては、自社と同業他社の売り上げなどの数値を比較する定量分析を行えば、自社の状況を客観的に見ることができます。

「従業員に意欲的な姿勢が見られない」のであれば、現場の従業員の様子を観察したりアンケートを取ったりして定性分析を行うとよいでしょう。数値に表れない現状を把握できます。

2.評価目的・基準の設定

分析により明確になった課題を解決するため、従業員にどうなってほしいのか考え、人事評価をする目的を設定します。

例えば、「業績アップのための全体的なスキルの底上げ」、「従業員のモチベーションアップ」といった形です。

同時に評価基準も設定します。知識やスキル、学習意欲などの評価基準は役職だけでなく、職種や部署によっても異なります。それぞれの立場や役割に合わせた基準を設定しましょう。

3.評価項目作成

評価の目的や基準を決めたら、具体的な評価項目を作成していきます。

評価項目は、前述の能力評価、業績評価、情意評価の3つに基づく以下のような項目に、職種や部署に合わせた項目を加えるのが一般的です。

【具体的な評価項目の例】

具体的な評価項目の例 

4.評価方法の決定

決定した項目についてどのように評価するのかを決めます。

一般的なのは5段階評価ですが、3段階、7段階で評価するケースもあるようです。しかし、奇数では「どちらともいえない」という中間の評価ができてしまうため、4段階、6段階での評価を採用する動きもあります。

同時に、評価を給与や昇進などにどのように反映するのかも決めておきましょう。

5.導入・運用スケジュール作成

人事評価制度の基礎が固まったら、導入・運用スケジュールを作成します。

従業員の納得の上で人事評価制度をスタートできるよう、余裕を持って計画的に、制度の周知評価者研修を行うようにしましょう。

6.評価シミュレーション

実際に人事評価制度を導入する前に評価シミュレーションを実施しておくと、運用がよりスムーズになります。

例えば、評価のために必要なミーティングや人事評価の結果に基づいた給与・役職の決定などをシミュレーションすると、評価項目の妥当性評価方法の公正性を判断できます。

必要に応じて内容を変更し、実装に向けた改善が可能です。

7.人事評価制度の運用開始

準備が全て整ったら、人事評価制度の運用を開始します。

8.評価内容のフィードバック

評価をしたら終わりではなく、従業員に結果をフィードバックすることも運用プロセスの一環です。評価が良かった従業員にはその根拠に加え、さらに成長するための課題を伝えると本人のモチベーションアップにつながります。

評価が振るわなかった従業員には、なぜそのような評価になったのかという理由を分かりやすく説明するとともに、アフターフォローも実施します。

低評価が従業員のモチベーションダウンや企業側への不満につながらないよう、上司は一緒に次の目標達成に向けた行動を検討しましょう。

5-2. 人事評価シート作成時のポイント

公平・公正な人事評価の実施には、従業員の目標や成果など評価に必要な情報を管理する人事評価シートの活用が有効です。

人事評価シートの作成時に気を付けたいポイントには、以下のようなものがあります。

  • 職種、業務内容によって最適な評価項目になっているか
  • 公平性が保たれているか
  • フィードバックを行いやすい内容になっているか

職種、業務内容によって最適な評価項目になっているか

評価項目で重視されるものは、職種や業務内容によって異なります。例えば、営業部門は売り上げや成約率など数値目標が多いため、業績評価が重視されるでしょう。一方、事務部門のように数値で評価しにくい職種の場合は、能力評価情意評価のウエートが大きくなる傾向があります。

公平性が保たれているか

公平・公正な評価を行うには、明確な評価項目・基準の他、評価者の主観が入り込まないことが重要です。曖昧さや不公平な要素は従業員の不満のもととなり、モチベーションやエンゲージメント低下を招きます。

公平・公正な評価ができるシートになっているか、よく確認しましょう。

フィードバックを行いやすい内容になっているか

評価を従業員の成長につなげるには、丁寧なフィードバックが重要です。人事評価シートには、評価者がフィードバックしやすいよう、具体的な成果はもちろん、評価の理由や良かった点、改善点などを盛り込みましょう。

以上、人事評価シートの作成ポイントを紹介しました。

なお、厚生労働省では「職業能力評価シート」を公表しています。このシートは、さまざまな職種の各レベルに求められる職務遂行のための基準を整理したものです。

職業能力評価シートを活用することで、従業員の現在のレベルや、従業員が次のレベルに上がるには何が足りないのかをチェックできます。以下のリンクから無料でダウンロードできますので、参考にしてみるとよいでしょう。

厚生労働省「職業能力評価シートについて」, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08021.html (閲覧日:20231212日)

6. より良い人事評価制度導入のためのポイントと注意点

従業員が納得できる人事評価制度を導入するための、ポイントと注意点を確認しましょう。

6-1. 人事評価制度の円滑な導入のためのポイント

人事評価制度をスムーズに運用するためのポイントには、以下のようなものがあります。

  • 評価基準や給与との関連性を明確にする
  • 絶対評価の採用を検討する
  • フィードバックをしっかり行う
  • 従業員と企業の成長を意識する

評価基準や給与との関連性を明確にする

人事評価は給与や昇進に関わるため、従業員にとっては非常に重要なものです。成果に見合った待遇が与えられなかったために、モチベーションが下がったという従業員も少なくありません。

そのため、あらかじめ評価基準と給与や昇進などの関連性を明確にしておくことが大切です。

例えば給与であれば、同じ職種、同じ等級でも評価によって増減するということを人事評価制度の導入前に周知しておけば、従業員が不満や疑問を持つ可能性は低くなるでしょう。

絶対評価の採用を検討する

評価の方式は大きく分けて2種類あります。「全体の中での順位」を見る相対評価と、「個人の能力そのもの」を見る絶対評価です。

どちらにもメリット・デメリットがありますが、近年の人事評価制度は絶対評価が主流といわれています。

絶対評価は相対評価と異なり、同程度の評価の人が何人いても、無理に順位を付ける必要がありません。一定の基準や目標をクリアしているかどうかで評価するため、透明性が高い点が特徴です。

フィードバックをしっかり行う

自分がされた評価の理由が気になる従業員は多いため、フィードバックを丁寧に行うことが重要です。

従業員に評価の根拠を丁寧に説明し、クリアすべき課題の解決や、今後の目標設定についてサポートしましょう。

従業員と企業の成長を意識する

人事評価制度は、従業員の成果や、そこから見える適性などに対してベストな待遇や配置を決定するものですが、人材育成にも役立ちます。

人事評価制度を設計する際は、現状を把握し「どのような人材を育成したいか」「どのような企業文化を醸成したいか」など、企業の理想を明確にすることが重要です。ビジョンを意識した人事評価制度の活用は、従業員と企業、双方の成長につながるでしょう。

6-2. 円滑な運用のための注意点

人事評価制度の運用では、以下の3点に注意する必要があります。

  • 人事評価エラーに気を付ける
  • 評価者の負担とならない制度設計をする
  • 定期的に見直しを行う

人事評価エラーに気を付ける

人事評価エラーとは、評価者の主観や感情が影響し、正しい評価ができないことです。人事評価エラーは作為的に行われるケースもありますが、無意識で発生する方が多く、評価者がエラーに気付かないケースも少なくありません。

以下のようなよくあるエラーは、事前に評価者に共有しておきましょう。

【よくある人事評価エラー7つ】

  よくある人事評価エラー7つ

評価者の負担とならない制度設計をする

評価内容や項目が細か過ぎたり多過ぎたりすると、評価者の負担が大きくなり過ぎてしまいます。

人事評価制度の運用に手間や時間がかかり過ぎる場合は、評価方法の見直しも検討しましょう。導入後にこうしたトラブルが発生しないようにするためにも、シミュレーションは欠かせません。

定期的に見直しを行う

人事評価制度は一度策定した内容で運用を続けるのではなく、定期的に内容の見直しを行うことが重要です。評価者だけでなく評価を受ける従業員にもアンケート調査などを行い、より良い評価方法を検討しましょう。

7. 人事評価制度の企業事例

最後に、3つの企業の人事評価制度を紹介します。ぜひ自社の制度を検討する際の参考にしてください。

7-1. ライフネット生命保険株式会社

ライフネット生命保険株式会社の人事評価は、「業績貢献度」「成長度」2点を軸に実施されます。同社の特長である「成長度評価」では、従業員は年度初めに目標を自身で設定、年度末に達成度や目標に向けてどの程度成長できたかを上司も交えて自己評価し、成績に反映させています。

これは自己成長と挑戦を促す取り組みですが、自律的に動かなければいけないため、ある意味厳しい制度でもあります。この制度の導入によって、従業員は仕事に当事者意識を持って取り組むようになったということです。

また、同社に定年はなく、自分で進退を判断します。人事評価も年齢に関係なく役職に応じた基準を適用するなど、従業員の成長やモチベーションアップを図る制度が充実しています。

7-2. TIS株式会社

ITサービス事業を展開するTIS株式会社では、基本給の最大17%アップを含む報酬・評価・等級などの新人事評価制度を、20234月から導入しました。

改定された人事評価制度では、個人業績評価と、グループ基本理念OUR PHILOSOPHYOP)」に基づく従業員に期待する行動を評価項目に設定したOPコンピテンシー評価」2つが軸となっています。

個人業績評価では、Must(期待役割)/Will(キャリア志向)/Can(強み・課題)を半期ごとに上長と擦り合わせて目標設定を実施し、達成度を評価します。また、評価項目をプロセスと成果で分けて設定し、成功せずとも挑戦の過程を評価して挑戦を後押しします。

OPコンピテンシー評価では、従業員のグレードごとに期待する行動をOPコンピテンシー評価項目」として設定し、行動を評価します。

なお、一人一人のパフォーマンスに応える評価と処遇を実現するため、全て絶対評価で行われています。

7-3. ケイアイスター不動産株式会社

ケイアイスター不動産株式会社は20229月、クラフトマン(建築現場に従事する社員職人)の早期育成や、多様な人材が正当な評価を受け活躍することを目的として、「マイスター制度」という人事評価制度を策定しました。

同社は、国籍や性別にかかわらず正当な評価を受けられる環境づくりに取り組んできました。以前から試験的に運用していた技術テストなどの評価制度によって技術力は向上し、20228月末時点でクラフトマン全体の約 41%が役職に就くという成果を上げています。

同社では、一定の技術を認められたクラフトマンは技能試験に挑戦でき、合格すると「技術主任」に昇格します。

技術主任は、これまで構築した評価基準を基に策定したマイスター制度へのチャレンジが可能です。個々の技術や管理能力に応じて「マイスター」「マイスターS」「マイスターGに昇格できます。

8. まとめ

人事評価制度とは、従業員の仕事における取り組みや成果を、企業が設定した評価基準に沿って適正に評価し、給与や昇進・昇級に反映する仕組みのことです。年功序列・終身雇用といった慣行が衰退したことで主流となりました。

人事評価制度は、以下の3つの制度で構成され、連動して機能しています。

  • 評価制度
  • 等級制度
  • 報酬制度

人事評価制度を導入する目的として、以下の4つが挙げられます。

  • 企業理念やビジョンの浸透
  • 適切な待遇の決定
  • 最適な人材配置
  • 人材育成の促進

人事評価制度における評価基準は、大きく以下の3つに分かれます。

  • 能力評価
  • 業績評価
  • 情意評価

人事評価制度におけるメジャーな評価方法として、以下の5つが挙げられます。

  • 目標管理制度(MBO
  • コンピテンシー評価
  • 360度評価(多面評価)
  • OKRObjectives and Key Results
  • バリュー評価

なお、近年、従来型の人事評価制度を廃止し、従業員をランク付けせず上司と部下が1on1 MTGを行いながら評価を決定するノーレイティングを採用する企業もあります。

人事評価制度の導入によって、評価者(上司や企業側)には以下のようなメリット・デメリットがあります。

メリット

  • 人事評価制度を通して企業理念の浸透、人材育成の促進などさまざまな施策を推進できる
  • モチベーションアップや生産性向上による競争力強化
  • スキルの把握・管理

デメリット

  • 評価外の業務がおろそかになりがち
  • 人事評価担当者の負担が増える
  • 評価のスキルが求められる
  • 評価によっては従業員のモチベーションが低下する

被評価者(部下)のメリット・デメリットは以下の通りです。

メリット

  • 自身の成果が適切に評価されるためモチベーションアップにつながる
  • 自身のスキルや適性が明確になり、それを生かすチャレンジの機会が生まれる

デメリット

  • 評価が良くなかった場合に企業に不満を抱いたり、落ち込んだりする可能性がある

人事評価制度導入のプロセスは以下の通りです。

  1. 現状の分析
  2. 評価目的・基準の設定
  3. 評価項目作成
  4. 評価方法の決定
  5. 導入・運用スケジュール作成
  6. 評価シミュレーション
  7. 人事評価制度の運用開始
  8. 評価内容のフィードバック

人事評価シートの作成時に気を付けたいポイントとして、以下のようなものがあります。

  • 職種、業務内容によって最適な評価項目になっているか
  • 公平性が保たれているか
  • フィードバックを行いやすい内容になっているか

人事評価制度をスムーズに運用するためのポイントとして、以下のようなものがあります。

  • 評価基準や給与との関連性を明確にする
  • 絶対評価の採用を検討する
  • フィードバックをしっかり行う
  • 従業員と企業の成長を意識する

人事評価制度の運用では、以下の3点に注意する必要があります。

  • 人事評価エラーに気を付ける
  • 評価者の負担とならない制度設計をする
  • 定期的に見直しを行う

最後に、企業の事例を3つご紹介しました。

  • ライフネット生命保険株式会社
  • TIS株式会社
  • ケイアイスター不動産株式会社

公平で透明性の高い人事評価制度はモチベーションやエンゲージメント向上につながり、企業と従業員を成長させます。貴社の人事評価制度の運用において、この記事を役立てていただければ幸いです。

 

人事評価制度の欠点は何ですか?

制度運用に関する負担が増える他、従業員が評価外の業務をおろそかにしてしまう可能性があります。また、従業員が悪い評価を受け取った場合、企業に不満を抱いたり、モチベーションが下がったりする場合があります。

人事評価 誰がやる?

人事評価は一般的に上司が行いますが、部下が自己評価を行う場合もあります。360度評価(多面評価)では、同僚や部下、他部署の従業員なども評価を行います。

人事評価 何を評価するのか?

能力評価、業績評価、情意評価の3つの観点から、総合的な評価を行います。能力評価は企画力や実行力など、業績評価は売上高や商談数など、情意評価は責任感や協調性、積極性などを評価します。

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[1] 株式会社ライボ「Job総研「2023年 人事評価の実態調査」」,『JobQ Town』,https://job-q.me/articles/15313(閲覧日:2023年12月15日)
[2] 「Key Performance Indicator」の略語。日本語では「重要達成度指標」「重要業績評価指標」と呼ばれる。目標を達成するまでの各過程において、達成度合いを観測するための定量的な指標。

参考)
一般社団法人 日本経済団体連合会「人材育成に関するアンケート調査結果」,2020年121日公表,https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/008.pdf(閲覧日:2023123日)
厚生労働省「職業能力評価シートについて」,https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08021.html(閲覧日:2023年12月3日)
厚生労働省「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/0000093584.html(閲覧日:2023年12月3日)
厚生労働省「ライフネット生命保険株式会社」,『働き方改革特設サイト CASE STUDY 中小企業の取り組み事例』,https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/casestudy/file049/(閲覧日:2023年12月4日)
池田正史「成長を生んだ、起業家精神の復活『個と徹底的に向き合った』理由」,『Forbes JAPAN』,https://forbesjapan.com/articles/detail/42354/page2(閲覧日:2023年12月4日)
TIS株式会社「エンゲージメント戦略」,https://www.tis.co.jp/group/sustainability/social/rewarding/(閲覧日:2023124日)
株式会社PR TIMESTIS、新人事制度を20234月より導入」,PR TIMES,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001285.000011650.html(閲覧日:2023124日)
ケイアイスター不動産株式会社「ケイアイスター不動産グループ、社員職人の早期育成を目指し新たな評価制度「マイスター制度」を策定」,https://ki-group.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/2022.09.12_meister-system.pdf(閲覧日:2023年12月4日)

]]>
キャリアデザインとは?重要性や設計方法、企業による支援を事例付きで解説 https://research.lightworks.co.jp/my-career-design Thu, 21 Dec 2023 04:37:18 +0000 https://research.lightworks.co.jp/?p=24017 「従業員が主体的にキャリアを設計するには、どう支援すればよいだろうか?」

終身雇用に代表される企業頼みのキャリア形成が難しくなり、キャリア自律の必要性が叫ばれています。企業にとっても、従業員のキャリア自律を支援する取り組みは必須と言ってもよいでしょう。

個人の将来像や理想の働き方を考え、達成に向けて計画・実行していくことを「キャリアデザイン」といいます。自身と向き合い、設定した目標を目指して主体的に行動することで、キャリア自律を促します

しかし、一人一人が能動的に理想のキャリアを描き、実行するのは簡単なことではありません。漠然としたイメージで止まってしまう、企業主導のキャリア施策に「やらされている感」をぬぐえないといったケースも少なくないのではないでしょうか。

本稿では、キャリアデザインの背景企業にとってのメリット、またキャリアデザインの設計方法企業ができるサポートについて解説します。併せてキャリアデザイン支援に取り組む企業事例を紹介します。従業員のキャリア自律に向けて、主体的にキャリアと向き合う仕組みを検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。

\後で読み返しできるキャリア開発の解説資料はこちら(無料)/

1.キャリアデザインとは

キャリアデザインとは、自分のなりたい姿や理想の働き方について、主体的に設計し行動に移していくことです。

厚生労働省委託事業「キャリア形成・学び直し支援センター」において下記のように記載があります。

平成2841日に施行された改正「職業能力開発促進法」では、労働者は自ら職業生活設計(キャリアデザイン)を行い、これに即して自発的に職業能力開発に努める立場にあることが規定されました。[1]

ここでは「キャリアデザイン」が「職業生活設計」を言い換える用語として記載され、労働者が自発的に取り組むべきものであることが示されています。

1-1.キャリアデザインは人生を設計すること

キャリアデザインは、自身の関心や強みを把握し、目標に向かって計画を立てる取り組みです。一般的にキャリアデザインが対象とする「キャリア」は、職歴を表す「ワークキャリア」に留まらず、プライベートも含む「ライフキャリア」を想定します。

このため、キャリアデザイン=人生設計と捉えてもよいでしょう。理想の将来像を実現するためのガイドと言ってもよいかもしれません。

1-2.キャリアデザインの目的

キャリアデザインの目的は、キャリア自律の実現です。

社会人となってから、誰もが初めに思い描いた人生設計の通りにキャリアを辿るとは考えにくいものです。現実には、キャリアの見直しを要する変化が多くの人に訪れます。例えば、妊娠・出産に代表されるライフステージの変化や、別の仕事へ興味が移り変わるなど、個人の変化は少なからずあるでしょう。

加えて企業の側も、事業の統廃合やMAといった組織の変動、コロナ禍で起きたようなさまざまな社会的な転換もまた、個人のキャリアに影響を与えます。

そうした予想外の出来事や変化を乗り越えるには、その都度、キャリアの再設計が必要になります。状況に対処しながら自らのキャリアを自身でマネジメントしていくキャリア自律の実現に、キャリアデザインは大きな役割を果たすでしょう。

 

2.キャリアデザインの重要性

次に、キャリアデザインが重要とされる背景や、企業にとっての意味を考えてみましょう。

2-1.働き方をめぐる社会的変動

終身雇用や年功序列といった旧来のシステムが崩れ、今や従業員のキャリア形成を企業が保証することはできない時代です。グローバル化や急速なテクノロジーの発展などにより、企業が置かれる環境も一層変動的になってきました。VUCAVolatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代、従業員はキャリアを自分で舵取りする必要に迫られていると言えるでしょう。

同時に、ワークライフバランスの考え方が普及し、雇用形態やワークスタイルなど、一人一人の働き方の選択肢が多様化しています。厚生労働省「令和4年労働経済の分析」では、転職者は転職先を選ぶにあたり、ワークライフバランスに関する条件を重視するという傾向が示されました。[2]

同調査ではまた、「キャリアの見通し」ができていることや「自己啓発」によるスキル向上が、仕事の満足度や賃金増加につながることが示唆されています。従業員にとって、働く上で主体的なキャリアデザインが重要であることがうかがえる結果と言えるでしょう。

2-2.キャリア教育の広がり

キャリアデザインに関する取り組みは教育現場でも広がっています。厚生労働省の資料によると、2013年度の調査でキャリア教育を実施していると答えた大学は99.1に上りました。[3]同資料には、キャリア教育推進のポイントが下記のように述べられており、キャリアデザインの意識啓発が企図されていることがうかがえます。

単に卒業時点の就職を目指すものではなく、生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指し、豊かな人間形成と人生設計に資することを目的として行われるものである
産業構造などの変化に対応できる柔軟な専門性と創造性の高い人材を育成することが強く要請されている[4]

このようなキャリア教育に触れてきた若年層は、新卒入社の時点で自らキャリアデザインに取り組む姿勢になじみがあると考えられます。終身雇用制度のもと、キャリア形成を企業任せにする慣習が長かった中高年世代とは認識のギャップがあることに注意したいところです。

2-3.企業がキャリアデザインを支援するメリット

キャリアデザインは各々が主体的に取り組むべきものですが、従業員任せにするのではなく、企業としても適切な支援が求められます。

従業員の理想のキャリアを後押しすることで、自社からの離職を誘発する懸念もあるかもしれません。しかし企業が従業員のキャリアデザインを支援することは、従業員のエンゲージメントを向上し企業の魅力を高めます。つまり、多様で優秀な人材の定着に寄与する可能性があるのです。

 

それだけでなく、キャリアデザイン支援は強い組織作りにつながります。キャリア自律の意識を持つ従業員は、自身の目標やキャリアのステップを見据えて業務に取り組むため、高い生産性が期待できるからです。

また自律的に多方面から学ぶ人材は、自社や業界を超えた知見や発想を得る機会に恵まれます。新規事業など、イノベーションの創出にも力を発揮するでしょう。

3.キャリアデザインの設計方法と必要な要素

キャリアデザインを設計するにはさまざまなフレームワークが考えられますが、共通する要素として、以下の三つの視点が挙げられます。

  • Can:現状のスキルや経験
  • Will:将来ありたい姿・やりたいこと
  • Must:やるべきこと

これらを整理することがキャリアデザインの基本と言えるでしょう。一般的には、「キャリアデザインシート」などのツールを用意して可視化していきます。ここでは具体例として、キャリアデザインに活用できるツールを三点紹介します。

3-1. キャリアデザインに活用できるツール1:ジョブ・カード

厚生労働省が様式を定めるジョブ・カードは、「『生涯を通じたキャリア・プランニング』及び『職業能力証明』の機能を担うツール」[5]です。キャリアコンサルティングなど相談支援や個人の求職活動の他、企業に向けてキャリア研修やキャリア面談への活用が想定されています。

ジョブ・カードは大きく分けて三つの様式で構成されます。

  • キャリア・プランシート(+キャリア・プラン作成補助シート)
  • 職務経歴シート
  • 職業能力証明シート

このうちキャリア・プランシートには主に以下の項目があり、シートを埋めることで、キャリアデザインに必要なCan・Will・Mustを整理できます。

  • 価値観・興味・関心事項等
  • 強み等
  • 将来取り組みたい仕事や働き方等
  • これから取り組むこと等

参考:厚生労働省 ジョブ・カード活用ガイド(企業関係者向け)

3-2. キャリアデザインに活用できるツール2:キャリアマップ・職業能力評価シート

厚生労働省は、さまざまな業種・職種について職務の遂行能力を整理した「職業能力評価基準」を策定し、活用のためのツールをいくつか公開しています。なかでも、キャリアの道筋や職務経験を整理する二つのツールは、キャリアデザインの可視化に役立つでしょう。

  • キャリアマップ
  • 職業能力評価シート

キャリアマップ

職業能力評価基準で設定されたレベルをもとに、キャリアの道筋と、習熟の目安となる年数必要な経験や実績・資格などをまとめたものです。キャリアの目標意識を高め、具体的な行動に落とし込むのに役立ちます。

 参考厚生労働省|キャリアマップについて

 職業能力評価シート

各レベルに求められる職務遂行のための基準を把握し、習熟度を確認するチェック形式の評価シートです。現在のレベルがどの程度なのか、次のレベルに上がるには何が不足しているかを客観的に把握できます。

 参考厚生労働省|職業能力評価シートについて

ライトワークスが提供するLMS「CAREERSHIP」は、スキル管理機能を備えており、厚生労働省の職業評価基準を基にしたスキルテンプレートを提供しています⇒詳しく見る

3-3. キャリアデザインに活用できるツール3:ライフキャリアレインボー

ライフキャリアレインボーは、仕事以外も包括したライフキャリアの視点でキャリアデザインを描く方法です。アメリカの研究者DE・スーパーが提唱したキャリア理論で、行政や教育機関などでキャリア教育に取り入れられてきました。

人は人生の各場面(ライフステージ)において、「学習する者」「労働者」「親」など、さまざまな役割(ライフロール)を担います。その役割が、生活に占めるバランスを変えながら、生涯を通じて重なっていく様子を虹になぞらえて表現するものです。

ライフキャリアレインボーを描く際は、現在・過去・将来に分けて、各ライフロールが生活全体に占める配分を考えます。理想のライフロールバランスやその達成時期キャリアに影響するライフイベントなどを想定することで、変化に備えながらキャリアの道筋を計画できる手法です。

 

4.企業によるキャリアデザイン支援の方法

企業側は、従業員のキャリアデザインをどのようにサポートすればよいでしょうか。設計段階と実現段階のそれぞれにおいて、いくつか施策が考えられます。

4-1. キャリアデザイン設計の支援

従業員のキャリアデザイン設計を支援するには、以下のような方法が挙げられます。

  • キャリアデザイン研修
  • キャリア面談・キャリアコンサルティング
  • 従業員同士のキャリアビジョンの公開/共有
  • タレントマネジメントシステム

キャリアデザイン研修

キャリアデザインは従業員が主体となるべきものですが、必ずしも全ての従業員が自律的に取り組めるとは限らないのが実情です。そのような場合、まずは従業員がキャリア自律の意識を持ち積極的にキャリアデザインを描けるようなサポートが欠かせません。

キャリアデザインの重要性や設計方法などについての研修を実施することで、従業員の意識醸成を図ることができます。

キャリア面談・キャリアコンサルティング

上司や人事部門との面談、専門家のキャリアコンサルティングなど、キャリアについて個別に相談できる場を定期的に設けましょう。従業員は、自身の強みやキャリアの見通しについて、客観的な意見を聞きながら整理し、課題や不安を解消できます。

継続的なフォローにより、目標達成のステップを見据えて業務にモチベーション高く取り組むことで、生産性向上も期待できるでしょう。企業側が従業員のキャリアデザインを把握し、組織の戦略と連動しながら人事施策に反映していくためにも、定期的な面談とフィードバックは必須です。

■部下のキャリアデザインをサポートするための実践的な知識が身につくeラーニング研修
 部下を育てる!「キャリアデザイン」推進コース⇒詳しく見る

従業員同士のキャリアビジョンの公開/共有

社内に向けて従業員にキャリアビジョンを公開してもらうことも、キャリアデザイン設計に役立つ施策です。第三者に向けて宣言することは、自身のキャリアと真剣に向き合う機会になります。また若手など他の従業員に対しては、身近なロールモデルとして参考になるでしょう。

社内FAや社内公募といった人材マッチングにおいて、部門と従業員の相互のアプローチにも活用できます。

タレントマネジメントシステム

従業員のタレント(才能)や業務経験・スキルなどを一元管理するタレントマネジメントシステムは、人事施策だけでなく、各々のキャリアデザインにも有用です。自身の目標に必要な経験やスキルを可視化でき、キャリアパスを見通す材料になるでしょう。

またタレントマネジメントによる適材適所の人材配置や適正な評価は、従業員のエンゲージメントを向上します。

4-2. キャリアデザイン実現の支援

キャリアデザインは本人が描いて終わりではありません。キャリアデザインの実現をサポート従業員のキャリア自律を後押しするキャリア開発が企業には求められます。

理想は、評価や人事制度に一人一人のキャリアデザインが反映されることです。例えば、社内公募制など本人のキャリアの希望に基づく人材配置や、目標管理制度で目標設定や評価項目にキャリアデザインの内容を取り入れるといった方法が考えられます。

また、画一的なキャリアパスではなく、個々のキャリアデザインに応える多様な選択肢があることが望ましいでしょう。

加えて、従業員が自身のキャリアを見据えて学べる環境を提供することも重要です。社内研修を手挙げ制にする、社外研修や自己啓発の費用補助など、従業員が自分に必要な内容を選んで学べる仕組みを設ける企業も多く見られます。

ライトワークスが提供するeラーニング受け放題サービス「まなびプレミアム」は、従業員の自律的な学びを後押しします⇒詳しく見る

5.キャリアデザイン支援の企業事例

最後に、キャリアデザイン支援に取り組む企業事例を紹介します。

5-1. 雪印メグミルク株式会社

雪印メグミルク株式会社は、全世代、非正規社員を含む全社員を対象としたキャリア形成支援に取り組んでいます。女性管理職の比率や男性従業員の育児休業取得率が向上、直近3年間で49人の非正規社員が正社員に転換するなど、成果を上げてきました。[6]

同社ではキャリアデザイン冊子の配布をはじめ、従業員一人一人がキャリアデザインに向き合う施策を行っています。

年齢別のワークショップは、キャリアの振り返り、今後のキャリアビジョンとアクションプラン、実現に向けた⾏動習慣などが主な内容です。導入済みの30歳、38歳、45歳、50歳に加え、定年退職後のセカンドキャリアに向け57歳向けも企画されています。

上司とのキャリア面談社内キャリアコンサルタントによるカウンセリングは、新たな気づきや視野の拡大につながります。また女性活躍推進を中核とし、主体的な行動の意識付けを目的とした女性社員研修、アンコンシャスバイアスに関するオンラインセミナーなどを実施しています。

さまざまな取り組みの結果、従業員へのアンケートでは、従業員の6割が「会社はキャリアについて考える機会を提供している」に対し肯定的に捉えています。また7割が⾃らのキャリアの将来像を描いているという結果でした。[7]企業の支援のもとキャリアデザインに主体的に取り組む風土が、着実に醸成されていると言えるでしょう。

5-2. 三井化学株式会社

三井化学株式会社は、2022年度から「自律的キャリア開発促進」を開始しました。希望参加型の社内研修や、公募制副業など従来からの施策に加えて、自分らしいキャリア形成など「内的キャリア」に重点をおいた施策を進めています。

同社ではキャリア開発のツールとして、「Will Can Needシート」を全社員に展開しています。「自分がなにをしたいか(=Will)、自分ができることはなにか(=Can)、求められていることはなにか(=Need」を書き込むものです。

加えて、キャリアについての潜在的な思いを言語化するユニークなツールが、単語帳型カード「キャリアのトリセツ グッドキャリア教授の赤ペン講座」です。株式会社カヤックと共同開発したもので、ゆるいイラストで「Will Can Need」の書き方のコツを学び、目標や夢が詰まった自分だけの単語帳を作っていきます。楽しく気軽に内的キャリアに向き合うツールです。

また同社では、社会人経験年数別のキャリアワークショップ、匿名で傍聴だけできる「耳だけ参加キャリアセミナー」など、目的や階層に応じたキャリア研修が充実しています。従業員一人一人が自分らしいキャリアを実現できるよう、さまざまな仕掛けでキャリア自律を支援しています。

5-3. 富士通株式会社

富士通株式会社は、従業員と企業が「自律と信頼」の関係のもと、ともに成長しながらパーパスの実現を目指せるように、キャリアオーナーシップを支援しています。

従業員は3年後のありたい姿を描き、どのようにチャレンジしたいかという成長ビジョンを設定します。一人一人のキャリアの目標を組織のビジョンと連動しながら実現するため、以下のようなさまざまな施策が行われています。

  • キャリアオーナーシップ診断や年代別ワークショップ
  • キャリアカウンセラーや上司との1on1
  • 社内外の多様な学習コンテンツをいつでもどこでも受講できるプラットフォーム
  • グローバルでの社内ポスティング制度

同社のキャリアオーナーシップ支援プログラム「FUJITSU Career Ownership Program」は、厚生労働省「グッドキャリア企業アワード2022」でイノベーション賞を受賞しました。一気通貫のキャリア支援で、従業員がキャリアオーナーシップを発揮し、目標に向けてチャレンジしながら成長できる体制がうかがえます。

6.まとめ

キャリアデザインは、なりたい姿や理想の働き方について主体的に考え行動に移していく、いわば人生設計です。厚生労働省によれば、キャリアデザインとは「職業生活設計」であり、労働者が自発的に取り組むべきものとされます。

キャリアデザインは理想の将来像を実現するためのガイドであり、状況に応じてキャリアを再設計しながらマネジメントしていくツールとも言えるでしょう。キャリアデザインを通じて自らキャリアの舵取りをしていくことで、キャリア自律の実現につながります。

キャリアデザインが重要とされる背景には、VUCAの時代に自分のキャリアは自分で作る必要があること、ワークライフバランスの浸透で働き方が多様化していることなどが挙げられます。大学などの教育現場でもキャリアデザインについて学ぶ機会が広がっており、若い世代にはキャリアデザインの意識醸成が進んでいると考えられます。

また、キャリアデザインに取り組むことは従業員のキャリア自律を促し、エンゲージメントや生産性の向上イノベーションの創出といったメリットを企業にもたらします。

キャリアデザインを設計するには、以下の三つの要素を整理することが基本となるでしょう。

  • Can:現状のスキルや経験
  • Will:将来ありたい姿・やりたいこと
  • Must:やるべきこと

併せて、キャリアデザインに活用できるツールの具体例として以下を紹介しました。

  • 厚生労働省「ジョブ・カード」
  • 厚生労働省「キャリアマップ」「職業能力評価シート」
  • ライフキャリアレインボー

企業には従業員のキャリアデザインの実現に向けた支援が求められます。例えば以下のような方法で、キャリアデザインの設計や実現をサポートしましょう。

  • キャリアデザイン研修
  • キャリア面談・キャリアコンサルティング
  • 従業員同士のキャリアビジョンの公開/共有
  • タレントマネジメントシステム
  • 評価や人事制度にキャリアデザインを反映
  • 主体的な学びの機会提供

最後に、キャリアデザイン支援に取り組む企業事例として以下の三社を紹介しました。

  • 雪印メグミルク株式会社
  • 三井化学株式会社
  • 富士通株式会社

キャリアデザインは一人一人が主体的に自分のキャリアに向き合う取り組みです。従業員のキャリア自律推進の第一歩に、本稿が役立つと幸いです。

 

キャリアデザインとはどのような内容ですか?

キャリアデザインとは、なりたい姿や理想の働き方について主体的に設計・実行することです。自身の関心や強みを把握し、目標に向けた計画をキャリアデザインシートなどのツールで可視化します。

 

キャリアデザインの3つの要素は?

Can:現状のスキルや経験、Will:将来ありたい姿・やりたいこと、Must:やるべきこと」の3つの要素を整理することが、キャリアデザインの基本となるでしょう。

 

キャリアデザインと仕事の関係は?

厚生労働省の調査では、キャリアの見通しができていることや自己啓発によるスキル向上が、仕事の満足度や賃金の増加につながることが示唆されており、仕事におけるキャリアデザインの重要性がうかがえます。

[1] キャリア形成・学び直し支援センター(厚生労働省委託事業)「企業・団体、在職者、学校のためのジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングについて」, https://carigaku.mhlw.go.jp/juc/ (閲覧日:2023年11月28日)
[2] 厚生労働省「令和4年版労働経済の分析-労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進に向けた課題-第3章 主体的な転職やキャリアチェンジの促進において重要な要因」,2022年9月16日公表, https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/21/2-3.html (閲覧日:2023年11月28日)
[3] 厚生労働省「大学等におけるキャリア教育テキスト」,p40,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000148395.pdf (閲覧日:2023年11月28日)
[4] 同上,p47(閲覧日:2023年11月28日)
[5] 厚生労働省「ジョブ・カードを知る」,『マイジョブ・カード』,https://www.job-card.mhlw.go.jp/guidance/know(閲覧日:2023年11月28日)
[6] 厚生労働省「グッドキャリア企業アワード2022大賞[厚生労働大臣表彰]雪印メグミルク株式会社」,p23,https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001052177.pdf (閲覧日:2023年11月28日)
[7] 同上(閲覧日:2023年11月28日)

参考)
厚生労働省「ジョブ・カード活用ガイド(企業関係者向け)」, https://www.mhlw.go.jp/content/001003193.pdf (閲覧日:2023年11月28日)
厚生労働省「職業能力評価基準」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/index.html(閲覧日:2023年11月28日)
厚生労働省「キャリアマップについて」, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07792.html(閲覧日:2023年11月28日)
厚生労働省「職業能力評価シートについて」, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08021.html(閲覧日:2023年11月28日)
厚生労働省「グッドキャリア企業アワード2022大賞[厚生労働大臣表彰]雪印メグミルク株式会社」,https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001052177.pdf (閲覧日:2023年11月28日)
厚生労働省「実践事例 変化する時代のキャリア開発の取組み(内部労働市場を活用した人材育成の変化と今後の在り方に関する調査研究事業報告書 (令和4年度厚生労働省委託事業))」, https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001085730.pdf(閲覧日:2023年11月28日)
三井化学株式会社「人材マネジメント」,『Mitsui Chemicals』, https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/society/employee/development/index.htm(閲覧日:2023年11月28日)
PR TIMES「【人事制度を面白く】三井化学とカヤックが共同企画!全社員に配布する“自分らしいキャリアの作り方”を学べる単語帳型カードを制作」, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000633.000014685.html(閲覧日:2023年11月28日)
富士通株式会社「Career & Growth Well-being」,『FUJITSU』, https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/education/(閲覧日:2023年11月28日)
厚生労働省「グッドキャリア企業アワード2022イノベーション賞[厚生労働省人材開発統括官表彰]富士通株式会社」, https://www.mhlw.go.jp/career-award/pdf/2022/fujitsu.pdf (閲覧日:2023年11月28日)
富士通株式会社「富士通の「キャリアオーナーシップ支援施策」が、「グッドキャリア企業アワード2022」イノベーション賞を受賞」, 『FUJITSU』, https://pr.fujitsu.com/jp/news/updatesfj/2023/01/10.html(閲覧日:2023年11月28日)

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